第 659 回健康教育講座
「鼻・のどの癌の初期症状と治療」
開催日 平成19年3月12日(月) 講 師 藤田保健衛生大学耳鼻咽喉科教授 櫻 井 一 生 1.はじめに 耳鼻咽喉科領域に発生する悪性腫瘍は頭頸部癌と呼ばれています。頭頸部癌には上顎癌、咽 頭癌、舌癌、喉頭癌などがありますが、発生頻度はそれほど多くはなく人の全悪性腫瘍の約 5% といわれています。頭頸部癌の中では喉頭癌が約 40%と最も多く発生し、ついで舌癌を含む口 腔癌、下咽頭癌、中咽頭癌が多く発生します。今回は、鼻・のどの癌(上顎癌、中・下咽頭癌、 喉頭癌)の初期症状と治療についてお話しいたします。 2.上顎癌について A.上顎癌の特徴・症状 上顎癌は副鼻腔の1つである上顎洞から発生する鼻の癌の代表的な疾患で、50∼70 歳代 に多く、男女比は 3 対 2 で男性に多く発生します。頭頸部癌のなかでも発生頻度は高くな く、患者数は減少してきています。症状は鼻づまり、鼻水、鼻出血などの鼻の症状以外に 歯の痛みや歯のういた感じ、頬部の疼痛や腫脹、目の奥の痛みやものが二重に見えるなど の様々な症状があります。 B.上顎癌の治療・予後 上顎癌の治療は抗癌剤による化学療法、放射線治療、手術療法を組み合わせて行われま す。動脈から抗癌剤を投与する動注療法の効果が高く、放射線治療との併用療法により拡 大手術を回避し機能と形態を温存できることが期待されています。5 年生存率は 50∼60% です。 3.中・下咽頭癌について A.中・下咽頭癌の特徴・誘因・症状 中咽頭癌、下咽頭癌は 50∼70 歳代の男性に多く発生します。飲酒や喫煙などの慢性刺激 が主な誘因であり、長期の喫煙歴、飲酒歴のある人は注意が必要です。初期症状にはノド の異物感やつかえ感、嚥下時のしみる感じなどがあります。進行すると嚥下困難や咽頭痛、 嚥下痛、頸部リンパ節の腫脹などの症状が出現します。 B.中・下咽頭癌の治療・予後 中咽頭癌、下咽頭癌の治療は早期癌の場合は抗癌剤による化学療法と放射線治療が行わ れます。進行癌では手術療法が中心となります。特に下咽頭癌の場合は進行癌が多く、手 術により喉頭の摘出も余儀なくされることも少なくありません。 5 年生存率は、中咽頭癌では早期癌で 70∼80%、進行癌で 50∼60%であり、下咽頭癌で は早期癌 70∼80%、進行癌で 40∼50%です。C.中・下咽頭癌の予防と早期発見 中咽頭癌、下咽頭癌の予防には禁煙や節酒が必要です。特に長期間あるいは大量の飲酒、 アルコール度の高い酒を飲むことは控えることです。早期発見には 50 歳以上の男性で喫煙 者、飲酒者で、ノドの異物感やつかえ感、咽頭痛や嚥下痛が 2 週間以上持続する場合はす ぐに耳鼻咽喉科医の診察を受けるようにして下さい。 4.喉頭癌について A.喉頭癌の特徴・誘因・症状 喉頭癌は 50 歳代から 70 歳代の男性に多く発生します。男女比は約 10:1 で圧倒的に男 性に多い癌です。喉頭癌患者の 90%以上が喫煙者で喫煙が喉頭癌の発生に強く関与してい ます。他には飲酒や声の酷使が喉頭癌の誘因と考えられています。喉頭癌の初期症状とし ては、嗄声(声がれ)は最も重要な症状です。その他にはノドの異物感や違和感がありま すが、癌が進行すると出血や血痰、ノドの痛み、呼吸困難などの様々な症状が出現します。 B.喉頭癌の治療・予後 喉頭癌の治療は、早期癌では放射線治療が有効です。放射線治療は治療後にのどの乾燥 感が残ることもありますが、他には重篤な合併症や後遺症はなく喉頭を残したまま癌を治 すことができる大変良い治療法です。しかし、早期癌でも放射線治療が無効な場合や治療 後に再発をきたすことが 10∼30%に認められます。このような場合は手術が必要になりま すが、進行した状態でなければレーザー手術や喉頭部分切除術(喉頭の一部だけを切除す る手術)により喉頭を残すことも可能です。進行癌では喉頭全摘術を行わざるを得ない場 合が多く、この場合は声を失います。社会復帰には人工喉頭の使用や食道発声(食道に空 気を飲み込み発声する方法)で音声の再獲得が必要です。しかし、最近では進行癌の一部 で抗癌剤の治療と放射線治療を併用して治療する試みが行われておりその成果が期待され ています。 喉頭癌の 5 年生存率は早期癌で 70∼90%で、そのうち喉頭が残ったまま治る確率は 50 ∼80%、進行癌ではそれぞれ 50∼70%、10∼30%といわれており比較的予後の良い(治り やすい)癌の1つです。 C.喉頭癌の予防と早期発見 喉頭癌の予防にはまず禁煙することです。次にお酒を飲み過ぎないことと声を使いすぎ ないことです。早期発見には 50 歳以上の男性で喫煙者、嗄声やのどの違和感、異物感が 2 週間以上持続する場合はすぐに耳鼻咽喉科医の診察を受けるようにして下さい。 愛知県医師会 〒460-0008 名古屋市中区栄 4-14-28 TEL 052-241-4143