Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
№3:ラット三叉神経節ニューロンにおけるB1受容体を
介したCa2+動態の評価
Author(s)
重藤, 玲子; 川口, 綾; 佐藤, 正樹; 木村, 麻紀; 澁川,
義幸; 田﨑, 雅和; 一戸, 達也
Journal
歯科学報, 115(5): 472-472
URL
http://hdl.handle.net/10130/3831
Right
目的:三叉神経支配領域における疼痛発生にブラジ キニン(BK)受容体が関与することが知られてい る。BK 受容体は B1受容体と B2受容体の二種類の サブタイプが存在する。B2受容体は恒常的に発現し ており,急性痛に関与するとされ,また B1受容体 は炎症や組織障害時に誘導的に発現することから, 慢性痛に関与するとされる。最近の研究で,新生仔 ラット三叉神経節ニューロンにおける B2受容体の 組織学的,機能的発現が明らかとなった。その一方 で,B1受容体の組織学的発現は明らかになったもの の,その機能性に関しては未だ知見が少ない。本研 究は新生仔ラット三叉神経節ニューロンにおける B1受容体刺激による Ca2+動態を観察することで, その機能的探索を行うことを目的とした。 方法:新生仔 Wister/ST ラット(7日齢)より三 叉神経節を急性単離し48時間初代培養を行った。こ の培養細胞に B1受容体の ア ゴ ニ ス ト で あ る Lys-[Des-Arg9 ]BK を 作 用 さ せ,Ca2+ 蛍 光 色 素 で あ る fura-2を用いた細胞内遊離 Ca2+ 濃度([Ca2+ ]i)の 変化を記録した。培養細胞からのニューロンの選別 には50mM KCl 溶液を用い,全ての実験の最後に 50mM KCl 溶液を作用させた際,応答を示した細 胞のみをニューロンとして扱い解析を行った。 結果および考察:初代培養新生仔ラット三叉神経節 ニ ュ ー ロ ン に お い て,細 胞 外 Ca2+ 存 在 下 に Lys-[Des-Arg9 ]BK を投与すると[Ca2+ ]iは一過性に 増 加した。この増加は細胞外 Ca2+非存在下において も確認された。この結果から B1受容体の活性化に よって増加する[Ca2+ ]iは,細胞内 Ca2+ストア由来 であることが示唆された。 今 後 は B1受 容 体 活 性 化 か ら Ca2+ス ト ア 依 存 性 Ca2+ 放出までの細胞内カスケードを明らかにする必 要があり,より詳細な B1受容体の機能検索を行う ことで,三叉神経支配領域における慢性痛の細胞分 子学的メカニズムを解明していきたいと考える。 目的:低ホスファターゼ症(HPP)は組織非特異 的アルカリホスファターゼ(TNALP)遺伝子の変 異により生じる先天性疾患で,骨形成不全や乳歯の 早期脱落などを主徴とする。病型は様々で致死性の ものから軽症の歯限局型のものまで幅広くみられ る。HPP には有効な 治 療 法 が な い と さ れ て き た が,酵素補充療法の有効性が認められ,2015年,本 邦にて HPP 治療薬が承認された。しかし,酵素補 充療法で治療効果を得るためには長期間反復投与が 必要となる。さらに,従来の報告では延命効果に関 しては確認されているが,顎骨や歯牙の治療効果に 関しては不明な点が多かった。そこで本研究では, HPP モデルマウスに単回投与で長期に安定した酵 素補充を可能とする8型アデノ随伴ウイルス(AA-V)ベクターによる酵素補充を行った場合の顎骨お よび歯牙の治療効果を評価した。 方法:出生直後の TNALP 欠損モデルマウスに骨 親和型 TNALP 発現 AAV ベクター2.5×1012 vec-tor genome/body を筋肉注射(TNALP-D10群)し, 90日 後 に 下 顎 骨 の 形 態 学 的 解 析 を 行 っ た(n= 3)。形態計測のためには動物実験用マイクロ CT (R-mCT,リガク社製)を用いて画像撮影を行い, 下顎骨全長,歯槽骨長径,下顎第一臼歯の全長と歯 根長を計測した。また,組織学的検索のためには4 %パラホルムアルデヒド溶液にて固定,10%EDTA にて脱灰後,パラフィン切片を作製し,HE 染色像 を観察した。コントロールとして,同日齢の C57 BL6野生型マウス(WT 群)を用いた(n=3)。 結果および考察:下顎骨のマイクロ CT 解析より, TNALP-D10群において切歯の石灰化不全と臼歯の 歯根露出と歯槽骨形成不全が認められた。WT 群と 比較して下顎骨全長は1.1mm(P<0.05),歯 槽 骨長は0.49mm(P<0.05),第一臼歯全長は0.38 mm(P<0.01)と,有意に低値を示した。また, 組織学的には歯槽骨頂の低下や歯頸部付近での無細 胞セメント質の欠如が認められた。以上の結果か ら,TNALP-D10群においては延命効果や行動量の 改善が得られるものの,顎骨と歯牙の形成不全の完 治には不十分である可能性が示唆された。今後,硬 組織を治療するために必要となる酵素量,ベクター 投与方法の検討および安全性の確認を行う予定であ る。 (研究共著者:日本医科大学・分子遺伝学 笠原優子,島田 隆)