Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,
Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
期待されること
Author(s)
石田, 瞭
Journal
歯科学報, 116(4): 4i-4i
URL
http://hdl.handle.net/10130/4068
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期待されること
石 田
瞭
千葉病院の机上に1枚のメモがあった。「○○さんのご子息が亡くなったそうです。」
目を疑った。ご子息?? ○○さんは85歳の女性で,認知症を患っており会話はできない。3.11の頃,
肺炎により入院し,胃瘻を造設した。自宅へ退院の後,再び口から食べるため我々とリハビリを始め
た。残念ながら症状は改善せず,寝たきりの度合いは徐々に進行した。しかし,○○さんを自宅に戻
してから,一度もショートステイを利用することなく,一日も休まず介護を続けてきたのがご子息
だった。つい先日,お会いしたばかりであったが,彼の本心は今や推し図るしかない。
享年63歳のご子息は実に謙虚,清明,有徳の人で,お母さん第一だった。居室や○○さんの身体は
いつも清潔で,ご子息が大切にケアなさっていることが良く分かった。なぜか他の家人と会うことが
なかったが,ケアマネジャーの話から推察すると,○○さんの在宅介護には家人は消極的であったよ
うだ。
臨床研修医を連れてゆくと,本来,我々が教えるべき在宅における歯科の重要性を,とくとくとお
話しいただき,患者家族の立場ながら将来ある歯科医師の臨床講師にもなってくださったご子息様。
ご冥福をお祈りいたします。
親の介護により子が命を落とすなど,本来あってはならない。介護離職という難題,また介護の限
界による痛ましい事件も後をたたない。このような,ひと昔前には互助により露呈することのなかっ
た(と思われる)お年寄りに関わる課題は,昨今のニュースなどをみると既に山積みの感がある。本学
の病院でも,診療中でなく,診療室に入る前あるいは診療後に急変する高齢者の重大アクシデント
ケースが増えている。元気高齢者の方々には大変失礼であるが,高齢患者は皆,有病者という意識の
もと,全身状態のアセスメント,モニタリングが欠かせない時代となった。
さて,現状を少し肯定的にとらえてみたい。国が推進する地域包括ケアシステムの確立は,万人共
通の願いであろう「住み慣れた地域で,その人らしく最後まで生きる」こと,つまりエイジング・イ
ン・プレイスを後ろ盾するものである。ただ,当然ながら関係する職種や家族が動かなければ何も始
まらない。地域連携パスでもいわれた職種間の「顔の見える関係」が必須となる。
地域包括ケアシステムの概念図に歯科医療従事者が描かれるのであれば,私は「食べることの支
援」が期待されるのではないかと考えている。とはいえ,摂食嚥下リハビリテーションの専門的知識
だけが求められているわけではない。一般歯科診療に従事しながらも,ムセを訴える患者には,簡単
な嚥下体操をフレイルの予防指導として適用するノウハウがあれば,意義深いことであろう。また,
日常の診療形態が外来主体だとしても,長年通院してこられた患者が通えなくなった際,訪問診療に
応じて最後までサポートする機会があれば,恐らく老いの豊かさを身に染みる良い機会となるだろ
う。
摂食嚥下障害をみることは,単なる機能障害に対応することではなく,患者や家族の心に触れるこ
とだとつくづく思う。歯科の一分野としてやりがいのある仕事である。
(東京歯科大学口腔健康科学講座 摂食嚥下リハビリテーション研究室 教授)
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