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佐藤友彦師所蔵 九冊本間狂言「詠之類」

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全文

(1)

椙山女学園大学

佐藤友彦師所蔵 九冊本間狂言「詠之類」

著者

飯塚 恵理人

雑誌名

椙山女学園大学研究論集 人文科学篇

48

ページ

1-14

発行年

2017-03-01

URL

http://id.nii.ac.jp/1454/00002344/

(2)

一   要  旨   この九冊本からなる間狂言本は、現在和泉流狂言方佐藤友彦師が 所蔵されているもので 『 国書総目録 』 第六巻 「 能の本 」 の間狂言 の ︶1 ︵ 本に山脇元康氏所蔵として載るものであり、以前に故表章氏が御 覧になった際 、「 内容的には大蔵流のもので 、貞享松井本 、筑波大 学本と並び 、大蔵流の間狂言本として最古に属する内容ではない か。 」 と筆者に言われたことがある 。この間狂言本についてはすで に第五 ︶2 ︵ 冊まで翻刻しており 、今回第六冊目の翻刻を掲載させて頂 く。内容に関する吟味は後日とし、とりあえず本文を翻刻・紹介さ せて頂きたい。   ︵凡例︶   底本に忠実に翻刻することを心がけたが、読解の便宜を考え、以 下の点について改めた。 1 、旧字体は原則として新字体に改めた。 2 、私に句読点を施した。 3 、能の曲名は︽ ︾で囲んだ。 4 、底本の書き入れは ︵ ︶で囲み 、その書き入れの該当部分に示 した。 5 、底本の墨消チとなっている部分は︻ ︼で囲んだ。    「 詠之類 」 ︵目次︶ ︵目録︶ ︵ 126︶︽殺生石︾ ︵ 127︶︽世界︾ ︵ 128︶︽車僧︾ ︵ 129︶︽大佛供 養︾ ︵ 130︶︽現在鵺︾ ︵ 131︶︽羅生門︾ ︵ 132︶︽土蛛︾ ︵ 133︶ ︽ 長 郎 ︾ ︵ 134︶︽二人王︾ ︵ 135︶︽守久︾ ︵ 136︶︽橋弁慶︾ ︵ 137︶︽大原御幸︾ ︵ 138︶︽鉢木︾ ︵ 139︶︽摂待︾ ︵ 140︶︽鶴亀︾ ︵ 141︶︽皇帝︾ ︵筆者注 ︽皇帝︾は本文にあるが目録にはない 。注記として載せる︶ ︵ 142 ︽鞍馬天狗︾ ︵ 143︶︽夜討曽我︾ ︵ 144︶︽大会︾ ︵ 145︶︽舎利︾同 ︵本文︶ ︵ 126︶︽殺生石︾   御いそぎ候程に 、是ハはやなす野の原に御付にて候 。ありや 〳〵〳〵。あの大せきのほとりゑ鳥がふら〳〵とおちて候が、きど く成事にてハなく候か。いや何事やらむ申候。扨も〳〵只今の女ハ

佐藤友彦師所蔵

 

九冊本間狂言

詠之類

飯  

塚  

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飯 塚 恵理人 二 物すごいことかな。いかに申候。只今の女ハ色〳〵の事ども申て候 が何とやらん物すさまじきていにてハ候ハぬか。是ハきどく成事を 御尋被成候。左様の御事ハさだめて御存 㿆 じにて、御 㿆 ざあらうすれど も御なぐさミと思召、御尋なさるゝと存候間、かたはし聞及たると おり物語申さうするにて候。いにしゑ鳥羽の院の上わらハに、玉も の前と申女の御さ候つるが、何ゆゑかの女を玉もの前とわ名付給ふ ぞと申に、何 㿆 方より見申せどもいつくしき女なり。惣而玉ハうらお もてなき物なれハそれによそゑて玉もの前とハなづけられたると 申。其子細ハ一とし御門に御哥合有てのちくわんげんすぎにわかに あめふりらいでんしてゑいそのごとく成風ふき殿 㿆 中にとぼしび一と うもなし。其時玉もの前が身よりひかりを出し禁中をてらしけれハ 玉もの前ハ人間にあらすとてけしやうの前とハつけられたり。御門 其ひかりをゑいらん有てより御のふしきりに有しかハ貴僧高僧をし やうじしゆ〳〵さま〳〵の御祈禱どもにて候へども其しるしさらに なし。あべのやすなりをめし、うらなわせられけれハ。やすなりう らかたに引合申候ハ。是ハ只玉もの前のしよぎやうなり。御 㿆 きたう なくてハかなわじとてだんに五色のへいをたてやくしのはうをおこ ないけれハかなはじとや思ひけん下野の国なす野の原におちてゆ く。こくないつうの者なれハおよそにしてハかなはじとて三うらの すけかづさのすけりやうすけにおほせつけらるゝ。りやうすけおほ せうけ給ハつてなす野のはらに下 㿆 ちやくして犬ハきつねのさうなれ ハ犬にてけいこ有べしとて百日犬とぞさだめける。百日にまんする 日大き成きつねやさきにあたつてしすれハ御門の御のふもなをらせ 給ふ。猶をも其しうしん大石と成て此程辺におゐて殺生をいたすと 申が扨ハあの石ハうたがひもなき殺生石にて御 㿆 ざあらうするか 。 たゝし何と思召候ぞ。扨ハ左様の子細により御尋にて候か。かやう の事もじゃうぶついたし度存すがたをあらハしたると存る間、かの 石をかつして御とおりあれかしと存候。さあらハ此ほつすを参らせ うにするにて候。 ︵ 127︶︽世界︾   か様に候者ハひゑい山いむろの僧正のばうに仕ゑ申能力にて候。 去程に只今此くわんじゆをもつて都ゑいそぐ。其子細をいかにと申 に大事の事にて候ぞ。たいたうの天ぐのしゆりやう世界坊と申者、 日本ゑわたり申て候。其ゆゑハ日本わ小国とハ申せども神国にて佛 㿆 法はんじやうしてわういめでたき国と聞て、さあらハ世界坊が日本 ゑわたつてさまたげ申さうとするとてはや此どにきたり先あたご山 ゑ参太郎坊に案内申されたれハ太郎坊出合給ひ候ところにかの世界 坊先あたごの山のけしきを見て誠に山のやうだいちかごろ見事にて 候。我等ごときの者のすまふする所にハ是にうゑこして有間敷とざ つとおほめ申されて、扨日本ゑ参る事よのぎにてもなし。我たいた うにおゐていわう山 㿆 ・しやうりうじ・はんにやたいにいたるまで我 まゝにはからひ申に、太郎坊ハ日の本にありながら何とて我まゝに はからい申されぬぞ。さりながら小国とハ申せども神国にて佛 㿆 法は んじやうと聞てあれども神国なりとも何のきどくの有べからす。我 〳〵わたつてたいたうのごとく我 㿆 たうに引入申さんと存、是まで参 て候。同しくハ御心を一つにしてちからをそへて給り候へと申され けれハ太郎坊の返事に我らもさやうに存候へども小国といゝながら 神国にてあれハさやうのぎいかゞな。さりながら是まで御出にて候 間同心申さうする。先あれに見ゑたるハひゑい山と申てわうじやう のきぐわんじよなり。まづ〳〵都へ御出有てそれよりひゑい山ゑ御 出被成、心のまゝにうかゞひて御 㿆 らん候へとてさつとたいさん申さ れた程にそれより世界坊都にて我 㿆 まゝに色〳〵のさまたげをなし申

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三 さるゝ間ちよくしたつていそぎ僧正 㿆 に御出被成御 㿆 祈禱あれとの御事 にて候間僧正 㿆 も御車をはやめ給ふ。されどもまづ〳〵少もはやく此 くわん じ ゆをもち て 参 さ ゝ げ 申 せ と の御 事に より 是   㿆 出て 候 。 い そ いでもちて参らばやと存る。惣而か様の事を何とて我らの存る事に てなけれどもちよくしたつハ此子細にて有程にいそき参れとの御事 にて候。なる程いそがばやと存る。誠に神国なれハこゞ百さいより 此方佛法はんしやうにて何事も目出度御国にて有に世界坊 㿆 のぶんと して日本のさまたげうと有事ハはらすかしな事にて候。ことに太郎 坊 㿆 など の日 本 の 事 を よくしられ て 今   㿆 何事 も れ う じ 成事 を な さ れ ぬ に世界坊申さるれハとて同心申さうすると有事ハ只太郎坊 㿆 の是ハふ んべつちがひかと存るよ。いや今つち風が吹てとおつたれハ身のけ もよだつておそろしうなつたぞ。是もまのわざにてあらうする程に くるしかるまひ。いや〳〵よく〳〵見るにことのほかの大風にてゆ くさきがくらうなつた。是ハたゞ事ならぬけしきにて有よ。それが しがぶんとして世界坊とねじやう事ハなるまい。命をうしなふてハ いらざる事たゞもどれ 。さりながらもしお尋あらハ御 㿆 存じのかた 〳〵 ハ 此 所   㿆 参 つ たれどもゆ くさきがくらや ミ に 成て ミえ ぬ と 申て もどつたといふて給り候へ。其ぶん心得候へ。〳〵。 ︵ 128︶︽車僧︾   か様に候者ハあたご山のかたわらに住居するみぞこゑ天ぐにて 候、それがしもいにしゑらくちうに住居仕候しが有時下京 㿆 より上京 㿆 ゑ参るとて大き成みぞの有をとんでとびすまして候程に我ながらや うとんだと存てじまんして候へハ、太郎坊 㿆 のまんするところがにく いとおほせられて其まゝあたごゑつれて御 㿆 ざ有。それよりみぞこゑ 天ぐとよはれ候 。さる程に爰に車僧と申てたつといそうの御 㿆 ざ有 が、我程たつとい者わ有まいとじまんをいたされ候を太郎坊御 㿆 存じ 有てたつとくハたつといまゝでいられいでまんするところがにくい と有 て ま だ う へ 引 お と さ う す る と思召 、 折ふ し さ が野   㿆 参ら る ゝ 程 に太郎坊きやくそうになつてさがゑ御出有。いかに車僧 㿆 と先 㿆 ことば をかけられた。車僧ハねそ〳〵と何事ぞとこたへられたところで、 浮世をハ何とめぐるそ車僧まだわの内にありとこそミれとおほせら れた。其時車僧 㿆 の返事 㿆 にうきよをハめくらぬものを車僧のりもうる べきわがあらハこそ。わもなし。我もないとこたへられた。其時太 郎坊の其きならハ左様にいふ者ハたそと。是が又たそのわといふ物 にて有げに候。たそととふにたらてとことをる。たそのわハうさき のみヽか。とびの尺八。是ハひでんだうに入たるほうもんにて候處 に車僧 㿆 くうだう風すゞしいと申たれた。時におふ。我名のミたかを の山にいふたつる人ハあたごのミねにすむか車ハなんぞくわたくの しゆつしやひくかめぐるかさわ候まい 。承るまひ 。なんどゝさま 〳〵もんだわれ候が太郎坊のちとうちだちになられて、我先我ハあ たごゑ帰る。あれゑ御出あれ。今一度ほうもん申さうするとて御帰 り被成た。我等がやうなるミぞこえ天ぐにもさがゑ参車僧をなぶり 候へとおほせつけられた程に是ゑ出た。車僧ハどこもとにいらるゝ ぞしらぬよ。いや是にいらるゝ。扨もねそいかほかな。太郎坊 㿆 のに くまるゝが道 㿆 理じや。それがしもことばをかけて見う。いかに車僧 㿆 〳〵。是へいかな事、しゝのつのをはちがさいた程にもおもわぬ物 じや。たゞしみゝがとおいか。いや〳〵それがしがぶんでことばづ めにハ成まひ。きやつをなぶつてまだうゑおとさう。惣而こそぐる ほとめいわくな物ハない程にこそぐらう。こそ〳〵やこそ〳〵おか しいや車僧 㿆 。はなのさきをねすミがこをおふてちよろ 〳 〵ぢよろ 〳〵やちやう〳〵中〳〵それがしがぶんでハ成まひ程に太郎坊 㿆 をよ びいださうと存る。 ︵ふし︶いかにやいかに太郎坊 㿆 〳〵。

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飯 塚 恵理人 四 ︵ 129︶︽大佛供養︾   是ハ南都東大寺 㿆 しゆんしやう上人に仕へ申能力にて候。去程にそ れがし只今罷出る事よのぎにてもなし。当寺大佛 㿆㿆㿆 でんじやうじゆ仕 候ゑハ今日一だんの吉日にて有により御供養なさるべきとの御事な り。惣而大佛 㿆㿆 でんと申ハ忝も仁王四十五代しやうむ天わうのきさき 光明くわうぐう去子細にて御 㿆 きたうのためいせ大神宮 㿆㿆㿆 へ一どのちよ くしたち二どめにぎやうぎほさつ御出有て色〳〵のきづい有て大佛 㿆㿆 でんをたて給ひて候がか程の大 㿆 がらんハ三国一の寺にてあらうする との御事なるを平家の大将清盛の御子三位のちうじやうしげひらの きよう其がらんを治承四年十二月廿八日にやきはらい給ふ。しかる 所に源の頼朝大 㿆 がらんをめつしたる事あわれと思召しゆんしやう上 人おほせをうけて日本の事ハ申に及すたうど   㿆 もくわんじんを被成 大佛 㿆㿆 でんこんりう有。誠に御本 㿆㿆 尊の事ハ申   㿆 もなし。四天二天   㿆 も こと〴〵くじやうじゆ仕候御事一入めでたき事成ハ、今日吉日にて 御供養の御 㿆 ざ候間則頼朝の御 㿆 ざ有べきとの御事なり。それに付しさ い有間敷候へどももし〳〵平家のうちもらされどもこうげにかゞみ いて頼朝をねらい申事有べく候間、だますに手なしと申事の候間ば んをかたく仕れとのおほせ付られでハ候へども寺中にも其方いたし 用心仕れとの御事成間其かくご仕よく〳〵心がけてばんをいたされ 候へ。ゆだんをしてふかくをとり候なとの御事なり。かまいて其分 㿆 心得候へ。〳〵。 ︵ 130︶︽現在鵺︾   か様に候者ハ源の頼正の御内に仕へ申者にて候。只今此所へ出る 事よのぎにあらす。たのミ奉りたる頼正の御身の上に大事 㿆㿆 の事がい できて候。其子細ハたう三条 㿆 のもりの方よりも夜半ばかりとおぼし き時 㿆 分くろ雲が禁中へおほい候て御門おびゑ給ひ御のふしきりに有 し程に貴僧高僧をめされしゆ〴〵さま〴〵の御 㿆 祈禱どもにて御 㿆 ざ候 へどもさらに其しるしなく候間くぎやうせんぎ有てうらなわせて御 㿆 らん有べしとてはかせをめしてうらなわせられ候へハ。はかせ参う らかたに引合申やう、是ハけしやうの者のわざにて候程にふげにお ほせつけられいさせられたらハしかるべしと申上る間、さあらハい させて御 㿆 らん有べしとてたれか此けしやうのものをいつべき者や有 とせんぎ有ていや〳〵たれ〳〵と申ともけしやうのものを仕らうす る者へハ頼正ならでハ有間敷と有て頼正のしたくゑちよくしたつて たう三条 㿆 のもりのかたより夜半ばかりにきたるけしやうをいそいで 仕れとの御事なり。頼正ハせんじかしこまつて候。さりながらてう てきなどの事こそ候へ。めにも見ゑがたきけしやうのものを仕れと の御事ハめいわくなれどもちよくしの事にて候間ぜひにおよはずか しこまつたと御うけを申されて夜に入しこう有てかのけしやうのも のをいて御 㿆 らん有べしとの御事なり。たのミたる御方は大事 㿆㿆 にかけ られ此けしやうをいておとさずハ二度人におもてむけまいとの御 㿆 な いぞんにて候間か様の一大事 㿆㿆 ハ有間敷との申事なり。又我等の存る ハ頼正の御てがらの程ハ存て有程にうさんにも御 㿆 ざない。射おとし 申されうするはうたがひもなけれども心のたけきまゝにいそんじさ せられたらハ御じがいをもなされうすると思召と見えた。只今申ご とくうさんにハなけれともしぜん御 㿆 うんもきわまりたらハやつぼが ちがわうかと存て我等ごときの者   㿆 もせんひをくうことにて候。我 等も御やくにハたゝすとも此度の御供にはづれたらハくちをきこう やうが御 㿆 ざ有まひ程に御供に参らうすると存是   㿆 出た 。やい何と 申ぞ。頼正ハ御供にハいのはやた只一人めしつれられ、へちの御供 は無用じやとおほせらるゝと申か。是ハいかな事。扨ハぜひもない 事じや。こゝろがけハ此とおりさながら御奉公に参らうすると存是

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五 まで罷出て候間、御存 㿆㿆 のかた〳〵ハのちにたのふだ人の御前にてそ れがしも御供に参らうすると申て罷出たれどもたれもめしつれられ ぬと聞て罷帰りたると御申有て給り候へ。其分 㿆 心得候へ。〳〵。 ︵ 131︶︽羅生門︾   か様に候者ハわたなべのつなの御内に仕へ申者にて候。只今是ゑ 出る事よのぎにてなし 。其子細わ源の来光雨中にてごとぜんさの まゝいつものくつきやうの兵をあつめ御 㿆 しゆゑんの被成ておほせ出 され候ハ、都におゐて何かめづらしき事や有と仰出され候へば、保 生の申さるゝ事ハ京わらんべのとりさたいたすをきけハ羅生門に鬼 神すんで日がくるれハ上下の者をとおさぬ由を申されけれハ、たの ミたる人申さるゝ事わ、御前にてごんごだうだんれうじ成事をおし やる物かな。たとへハ鬼神すめバとてかた〳〵我らのやうなる者が 是に有て住せておくべきか。日の本の内にさゑ中〳〵左様の者ハす ませておくましきと存るにことさら都の内なとに思ひもよらぬ。れ うじ成事を仰らるゝ物かなと申されたれば、保生扨ハそれがし御前 にてなき事を申上たと思召ハ、今夜にてもあれ羅生門ゑ御出有ふし んをおはりやれとしが〳〵しく申されけれハ、たのふだ人、扨ハゑ 参るまい者と御 㿆 らんじさだめられて左様に承候か。いまさら保生に たいしいこんハなけれども、たとひ鬼神すめハとて住せておけば一 つハ君の御ためなり。ことにそれがしゑ参るまい者と御 㿆 らんじかけ られてかやうに仰らるゝと存候間、さあらハあれへ参りてやうすを 見申さうする。しるしをたへとあつた處でまんざのしうも、是ハ無 用と申されたれども来光つなの心中尤とおぼしめされやがてしるし の御礼をいたされけれハ頼たる人うけ取て今夜羅生門ゑゆかるゝが なんぼうあらけなきそうろんにて御 㿆 ざ候。かやうの奉公がかんにや うじや。我等が様成者も此度のふんべつがかんにようじや。そなた がどゞめくハ何事ぞや〳〵。はや頼たる者ハ出らるゝと申か。よく 〳〵しあんいたすにぜひとも御供に参らいでハかなわぬ事じや。さ りながら聞ハ一人もつれまいと仰らるゝと聞いた。是ハ我らがため にハ満足のいたりじや。かやうのあらそひの所ゑゆけハきもをつぶ す事が有と聞た。されどもまづ〳〵頼だる人の御尋候ハヽこなたへ しらせて給り候へ。其分 㿆 心得へ。〳〵。 ︵ 132︶︽土蛛︾   是ハ源の来光の御内に仕へ御申有ひとり武者の御内の者にて候。 天下おさまり国とミ民もゆたかにめでたきおりからなれハ民百姓に いたるまで此御代をありがたく存候。しかる所に爰にすこしきづか いをいたす事の候。其子細わ此程来光の御煩にて御 㿆 ざ候によつてお の〳〵いかゝ有べきとの御きづかいを被成候處にさきのよふしぎ成 事の御 㿆 ざ有たると申。其やうだいハ来光のぎよしんなりたる御 㿆 ざの まゑいづくのたれともしらぬそうぎやうの一人きたり来光の御こゝ ちわ何と御 㿆 ざ有ぞととう程に、いかやうなる者ぞと思召、御 㿆 らん候 へば、何とやらん其さますさまじきかたちなり。是を御 㿆 らんじて御 みのけよだつて御こゝちあしく成候程に、いかやうなる者なれハわ がそばへちかづくぞとおほせらるゝ其内に、ひたと御そばへよりす てに来光をとり奉んとするけしきさながらちゝうのごとく、はやい とをくりかくるやうに候程に、やがて御まくらもとにたておかれた るひざまると申御釼をぬきひらいてちやうどきらるゝところをおつ はづいてにぐるをおつつめてつゞけさまに二太刀三太刀きらせられ たるほどに、いかやう成けしやうの者もたまらすにげうせて見ゑす 候處にたのふだる人ぬからぬ御方なれハつねにこゝろのかけられた るやらん、其まゝ来光の御前に参り只今御こゑのきこゑ候程に参て 候と申されしかハかくのごとくの子細にてありたると御物語被成候

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飯 塚 恵理人 六 間たのふたる人もきもをつぶし、ごんごだうだんのしさいにて候。 其けしやうの者のにげたるあとをとぢめてのりを御らんすれハ大和 国城山ゑのりを引たるとあつておの〳〵城山ゑ御出有かの者を たいらげ申へきとてひとりむしや大将にて御出あらうするとてこと のほかもやう被成る程に我等がやうなる者とももにあいにこしらへ をいたし城山ゑ御とも申さうすると存是出て候。ミな〳〵いさ しますか。 ︵二三四人も出る。シカ〳〵。 ︶いやきどくにさう〳〵い てられた。扨よびいたす事へちのしたいにてもない。あぶない事が あつたがおぬしたちハしらぬか。来光の御わづらいをしらうぞ。シ カ〳〵。それに付てきどく成事があつたハ。シカ〳〵。此程来光の 御 㿆 ざのまゑふしぎ成者が参りて御こゝちをとい申程に何者ぞと御尋 なさるれハ、我せこがくべきよいなりさゝがにのくものふるまいか ねてしるしもといゝ、なやミ給ふもわがわざのやうに返事を申たる 間、はやけしやうと見給ふうちに御そばへひたとちかづき御ミをく るしめ申候間、御まくらもとにたておかれたる御剱をぬいてきらせ られたる程にたまらすにけたるところゑたのふだる人御こゑをきゝ つけて御出有たれハ委御物語被成た程に其のちをとぢめて御 㿆 らんし けれバ、城山ゑひきたる間、おの〳〵かの者をたいらげに城山 ゑ御出有と申がみな〳〵も御ともに参てよからうと扨よびいだして 候よ。ようこそいわしまつたれ。此度其やう成所ゑ参らいてハくち が聞れうか。御とものよういさしめ。さりながらけしやうの者ハ 城山がすみかじや程に我い所 㿆 へおつかけたらハいか程有とも物のか すにもすまひ程に爰がしあんどころで有。先それがしハ用の事が有 程にめこともにあふてから又爰ゑこうぞ。先まて。やい〳〵めこど もにあふたらハゑこまいぞ 。はやもどつたハ 。ごんごだうだんの 事。とかくいたすうちにはや御出と申か、よく〳〵しあんをいたす に。れき〳〵の中へ我等がやうなる者が参てもみかたのよわりにな らう程にたゝ参るまい。引でハない。帰るぞ〳〵。 ︵ 133︶︽長郎︾   か様に候者ハかんの国の長郎と申御方の御内に仕へ申者にて候。 去程に只今是ゑ出る事よのきにあらす。頼奉りたる長郎此程ふしぎ 成事の候。其子細をいかにと尋るにほくやのかたわらにかむのとけ うと申てつち橋の有。其橋に長郎あそびて御入候へハゆめのごゝろ のやうにらうわう一人こまにのつてゆきあいばしやうよりくつをお としいかに是成じゆしあのくつとつてはかせよという。長郎何者な れハ、我にむかい、かくいうぞとおぼしめし、かの者をうたんとし 給ふが、おひたるをうやまふハぶものごとしというごを思ひ出し、 すなわちとつてはかせ御申有たれハ 、又おといてとつてくれよと 申。それをもとつてはかせ御申有。かの者をいかやう成者ぞとおぼ しめすにどけうのかミにこくじやうさんという山有。其山にすむ光 石公と申者にて候が、長郎よにこゑきようだい一ひとにすぐれたる 御方成ハ一まきあたへ申べき。其こゝろざしを見んためと聞ゑ候。 其一まきと申はひやうはうのだい一とやらん申候が、それをさづか り給ハヽやがてていわうのしとなるべしとなり、其時かのらうわう 申され候ハけふより五日にあたる日此所ゑきたり給ふべし。一大事 をおしゑ申さうするとかたくやくそくをめされ候程にたのふだる人 ハまことしからぬと思召せどもゆめうつゝにてもあらハあれ、らう わうとやくそくしていてぬハいかゞ成と有てそれより五日にあたる 日どけうへ御出候へばかのらうわうハはらをたて我ハとくきたつて 有におそくも来るものかな。なんじまことの心ざしあらハ又けふよ り五日にあたる日来るべしと、やくそくしてかきけすやうにうせ申 され候間、長郎も今度ハけいめいに御出有て大事をさづかり給わふ

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七 するとの御事なり。是をさづかり給ハヽまつせ   㿆 も名をかうたいに のこしおかるべき御事たいせつなる事なれハ此事じやうじゆいたす やうにとのきねんをもいたしかひのいじやう   㿆 ハ御供申さすともほ くやのかたわら   㿆 わ参るやうにとの心かけをミな〳〵仕候へ。惣而 人と成者もやすからぬことなり。かやうにきどくじんべんなる事に あひ給ふ事も御心しやうじきにしてじひをもつはらとと ︵ヱン︶ し給ふゆゑ なれハかゝるめで度事ハためしすくなきことなれば此度がせんにて 有間、御ともの用意を仕り候へ。かまいて其分心得候へ。〳〵。 ︵ 134︶︽二人王︾   御前に候。かしこまつて候。やれ〳〵只今の佛御前 㿆㿆 と申ハかゝの 国佛の原と申所よりいでられたる白拍 㿆 子なるが、年ハ十六七なれど もむかしよりいまにいたる   㿆 おほくのあそび物の有つれどもやうが んびれいなる女のこゑよくていまやうをうたひまひの上手 㿆㿆 是程の女 ハきやういなかにも有まいとらくちうの人〳〵上下 㿆㿆 こぞりて是をも てなし申程に、佛思ひけるハ、たうじ時めき給ふ清盛こうに参らざ る事こそほいなけれ。あそび物のすいさんハ何かくるしかるべきと て当所西八篠 㿆 に参しに入道殿のおほせにハさやうのあそびものハ人 のめしによつてこそ参候へ。かれめさぬに参るすいさんハしかるべ からす。神にても佛にてもあれかし。王かくて有うゑハかなふま じいとておい出させ給ふ。佛ハすげなきおほせをかうむり罷出ける を、只今王くハしく申され候によりめし出れしが、清盛公佛に御 心うつりたるとミゑて候により 、王の御うらみかと見ゑて御 㿆 ざ 有。惣而白拍子と申者のはしまりハ鳥羽の院の御時、嶋の千歳、和 哥のまひ二人の女すいかんにせいがうの大口をき、ゑぼしきて刀を さして舞けれハ、おとこまひと名付られたり。中比、刀ゑぼしをの けられて白きすいかんに大口ばかりにて舞けれハ白拍子と名付けら れたると申。去程に王ハかくれもなき見めかたち人にこゑ、心ば ゑよけれハ、清盛公御ちやうあひ被成候によつて京中の白拍 㿆 子聞う らやむ程にとりいられておかれたりけるが、いまのやうだいを見る に入道殿ハ佛に御心うつりたると見ゑて候間、大かた王ハすてら るべきかと存候。いやしやうぞくめされ候へと申さうするにて候。 いかに王・仏もしやうぞくめされ候ハヽいそいで御出あれとの御 事にて候。其分心得候へ。〳〵。 ︵ 135︶︽守久︾   扨もきどく成事かな。只今の守久の御事ハ中〳〵きもつぶしたる やうだいかな。只かりそめに御 㿆 らんぜられたる御方ハ太刀どりのお ちどにてもあらうすると思召れうするが、さやうにも御 㿆 ざらぬ。其 わけハあれもすどの事をせられたるおほゑの人にてわたり候によ り、守久ハ大事のめしうとにて有と申され、念を入ていまの御方に 申付られて候間、是もつて太刀どりのふかくにても御 㿆 ざない御事な り。何としたる事そ。我等がやうなる者のふんべつにハあたわぬ事 じや。あゝげにも〳〵いま思ひ出したる事の候。守久ハ清水の観音 をごしんがう被成、つねにあゆミをはこばれたると申が、今にいた る   㿆 、毎日観音経 㿆 をよませらるゝと申程に、たゞ清水   㿆 の観音の御は からいらて御 㿆 ざあらうする。つねの事にてハあるまじい。太刀をと りおとされたるばかりにてもなふて二つばかりにおれたると見ゑて 候。かやうのためしすくなき事ハ有まじいかと存る。いかに申。扨 も〳〵只今のやうだいハきどく成事にてハ御 㿆 ざなく候か。我等もか 様にふしぎ成事ハ今   㿆 聞も及す候により只今も我等のひとりこと に申にハかりそめに御 㿆 らんじたる御方ハ太刀どりのふかくのやうに 思召れうするが、大 㿆 事のめしうとなれハ、念を入させられ、よき人 におほせつけられたる程に、太刀どりのとがにても有まいとの申事

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飯 塚 恵理人 八 にて候。ことさら取おとしたる御太刀か二つか三つかにおれたる程 につねの事にてハ御 㿆 ざ有まひ。たゞ佛神 㿆㿆 の御はからいにてあらうす るかとの申事にて候がたゞし何と思召候ぞ。かしこまつて候。扨も 〳〵目出度御事かな。いのちをたすけさせらるゝさゑあらうするに 御前ゑめしいださるゝとの御事ハ、とかく守久という御方はいのち づよいくわほうなる御方にて候。急で参、御前へ御出有やうに申さ ばやと存る。いかに守久へ申候。ゑぼしひたゝれをめし急で御前へ 御参あれとの御事にて候。やがて御参候へや。 ︵ 136︶︽橋弁慶︾   あゝかなしやたすけい〳〵。あゝなふ〳〵。〳〵。やいおぬしハ 何 と し た ぞ 。 〳〵 や い 。 い や そ な た ハ 何 と し て 是   㿆 出た ぞ 。 そ れ が しハ清水へ用の事か有てゆくがわごりよが取ミだしたなりを見ては しりついたが何事にあふたぞ。扨〳〵こわい事にあふた。物もいわ れぬ。かまいて五条の橋をとをらしますな。子細が有ぞ。それハ何 とした事ぞ。それがしハ用の事が有て五条の橋をとおつてあれば年 のころ十四五かとも見ゆるわかしうか女かそれ   㿆 しかとハ見ゑなん だがいづくからでたやらきぬをかづいてひらりとする其ひやうしに こうりのやうなる太刀をするりとぬきそれがしをめがけてかゝる程 にきもたましいもなふても、きらるゝか〳〵と思ふてにげのびてき たが、扨も〳〵あ ︵ママ︶ まのいのちをひらうた。あれにたつハ五条の橋で 人をきるという事は聞もおよばなんたか 、おそろしい事にあふた ハ。いや内々のとりさたにハ五条の橋て千人ぎりをするととりさた したれどもまことでハ有まいと思ふたが、扨ハさやうの事があつた よな。それがしも凡聞てハあれどもいまのよにさやうの事をする者 ハ有まいと思ふてうつかとしてとをつたれハすでにきられうとした がそれがしがあしがはやうてにげのびてきた程にもはやみどもが命 は五百八十年ハおんでもなふいきやうと存るよ。あふおぬしがいう ごとくにも、はやわごりよの命ハながからうぞ。扨あのやうな者を たれなりとも五人か三人かあとゝさきにわかつてうちころいて、ゆ きとをりのとがもない者をゆるりととをさいでな。それもしれまい ぞ。又けな〳〵者もよにハおほい程に、どこぞでハそれもうちころ されうぞ 。心やすうおもハしめ 。なふこうハいうが何とやらせな かゞうづくかと思ふか 、見てくれさしめ 。なむさんほう 、おもふ まゝきられて有ハ。あゝかなしやなふ。やい〳〵いまのハざれこと じやぞ。ちつともきづハないぞ。わこりよはよいきもをつぶさした なふ。いや〳〵とかくしあんをするに、こゝにいる所でハない。そ れがしハ先のくぞ。やれまづまてやい〳〵。なむさんほう。はやか ゑつたよ。いや〳〵それがし一人爰にいらハ、あとをしたうてくる 事があらう。もしさやうの事があつてきられてハいぬじにじや。な がいしてひきめをおふ事が有物じや 。とかくやすらう事ハ大事 㿆㿆 じ や。それがしハ急でしたくへ帰らばやと存る。たゝのけ〳〵。 ︵ 137︶︽大原御幸︾   御前に候。かしこまつて候。皆々承り候へ。大原へ御幸なさるべ きとの御事にて有ぞ。皆々罷出て道をつくり其きよめをも仕れとの 御事にて候ぞ。其分心ゑ候へ。〳〵。 ︵ 138︶︽鉢木︾   御前に候。かしこまつて候。扨も〳〵きやうがつた事をおほせつ けられた 。されども御 㿆 ぢやうにて候程に見申さばやと存る 。扨も 〳〵見事 㿆 な事かな。馬・物のぐにいたる   㿆 、いづれをいづれと申さ うやうもないけつかうな事じや。此なかに一人もぶきれいなむしや ハ見ゑぬ。やれ〳〵さもふしや。是ハいかな事。是程見事なむしや のなかへあのやうなるぶきれいななりで出られた事じや。是程さも

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九 しいていハもはやべちにミゑぬ。うたがひもない。此人であらう。 いかに申。御前 㿆㿆 へ御参されとの御事にて候ぞ。しかとかた〳〵の事 にて候べし 。ちぎれたるはらまきをき 、さびたる長太刀をよこた へ、やせたる馬をぢしんひかへたるむしや一つき有べし。それをめ して参れとの御事にて候。則にかいだうの承にて候間、とう〳〵御 前へ御参候へ 。︵はしめ︶なふいそがしや 、只今此所ゑ出る事よの きにてなく候。すなわち西明寺殿ハ天下のよしあしを御 㿆 ぞんじなさ れんがためしよこくをしゆぎやう被成たると申がはや此四五日いぜ んに御かゑり有て、何としたる御事やらんくわんとう八しうの大名 小名こと〴〵くものゝぐしてかまくらゑ御参あれ。おほせつけらる べき事の有とふれさせられ候。則にかいだう承りにて候があまり諸 軍ぜいおそく候程に何とておそなわり給ふぞ。いそき御参あれとの 御事にて、はやいづ・さがミへハ人をつかわされたる間、のこり六 ケ国の我等に仰付られはやく参候やうにとの御事なり。急で参らば やと存る。何と申そ。是へ御参有がむさしの御人数 㿆 と申か。先ハは やい事。急で御参候へ。一だんときれい成御事にて候。あれへ見ゑ たるが下総の御人数じや。やれ〳〵きれい成事かな。おそいとの御 事にて御 㿆 ざ有ぞ。御急ぎ候へや。是へ見ゑたるが常陸の国の御人数 か。扨〳〵見事な事。や、中にも是ハ一たんときれいに候よ。急で 御参あらうするにて候。又是なるか下野の御人数じや。是も見事成 事かな。きれいさ申もおろかな事じや。是ゑも参に及ぬ。あしがた すかつた。やあ是か上総の御人数 㿆 じやと申か。やれ〳〵見事やな。 是ハ又一入きれいに見ゑて候よ。いまた上野の御 㿆 人数 㿆 が見ゑぬ。急 で上野ゑ参う。何と是ゑ御出有が上野の御人数 㿆 か。やれ〳〵うれし や。はや参るに及ぬ。是も今のにおとらぬ見事成事じや。いづれ もいづれと申さうするやうもない。たゝ帰りてハせんもない。もは やこと〳〵く我等の承りたる六ケ国のふんハ御参候間、御 㿆 人数 㿆 より さきゑ参申さうする。ミな〳〵御聞候へ。はやくわんとう八しうの 諸軍ぜい是ゑ御付被成候ぞ。其分心得候へ。〳〵。 ︵ 139︶︽栬狩︾   ︵女︶やれ 〳 〵見事な栬にておりやらします 。此所ハ一入面白き 所成ハひやうぶをたてまくなどをうちまわいてミな〳〵くこんをこ しめせや。たれにておりやらしますぞ。あれにたゝせられたるハ何 と申御方にておりやらしますぞ。そなたハあれもちにてもこれもち にてもおりやらしませ 。こなたハたゝ去御方とばかりお申しやれ や。是ハやわた八幡宮に仕ゑ申たけうぢと申末社の神にて候。只今 是ゑ出る事よのぎにあらす。よごの将軍たいらのこれもち、信濃の 国とがくし山ゑわけいられ候により 、我等もとがくし山ゑ参んと 存、出て候。其子細ハとがくし山に鬼神すみて国土 㿆 の民をなやまし 候間、これもちの方ゑ勅使をたてられ鬼神をたいらけよとの御事に て候間、かしこまつたと御うけを申され、とかくし山ゑわけいられ 候が、大かうの人成ハ鬼神をたいじすべき事ハ心にかけもせで、先 道すがら山〳〵の栬を見て、しかなどをかり、ゆふ〳〵なるていに て下られ候處に、鬼神此よしを聞、かのこれもちをたぶらかいて命 をとらうするとて、と有所のいわをのすぐれて面白き所にびようぶ をたて、ならびにまくなとをうちまわひてしゆゑんをいたし、これ もちをまちかけ候處に、これもちたぶらかすとハゆめにもしらす、 かのていを見ていかやうなる御方ぞとてつかひをたてられけれハ、 たゞさる御方の栬がりとばかり返事を申。是持きいて、よし〳〵い かやう成人なりとも上らうの 、道のほとりの絶がりならハ 、かた 〳〵のりうちかなふましいとて、馬よりおりてひそかにとをられけ るを、かの女出て、一つきこしめせとて袖をひかゑ候。見れハうつ

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飯 塚 恵理人 一〇 くしき女なり。たぶらかすとハゆめにもしらす、其まゝとめられさ けをのむ程に〳〵、しやうたいもなくたべよいせんごもしらすふし 申さるゝ。じこくうつらハかの鬼神ともとらんとするを八幡大 㿆 ぼさ つ御存 㿆㿆 し有て、さすがのこれもち程の人を鬼神にやミ〳〵ととらせ てハいかゞと思召、急たけうぢにたちこゑ此由をつげしらせよとの しんちよくをうけて、じんづうをゑ、せつなが間に是参て候。か のこれもちハいづくにいらるゝぞ。さればこそ是にいられ候。あら 心やすや、今ハつゝがもないよ。急で神ちよくのとおり申さはや と存る。いかにたいらの是持たしかにきゝ給ゑ。さきにうつくしき 上 㿆 らうの御ミをとめさけをしいたるハ人間にてわなし。此山の鬼神 とも御身をすすめ、よいふしたるところをかの鬼神どもとらんとす るをやわた八幡大 㿆 ぼさつ御存 㿆㿆 じ有ていそぎたけうぢにたちこゑ此由 をつげしらせ候てかの鬼神をたいらけさせて上落させよとの神勅を うけ 、たけうぢ是   㿆 参たり 。則八幡宮より此御はかせを下さるゝ 間、是にてやす〳〵と鬼神をたいらげいそぎ上落有べし。あらしや うだいもなのていや。とう〳〵めをさまされ候へ。〳〵。 ︵ 140︶︽鶴亀︾   是ハもろこしげんそう皇帝に仕ゑ申くわん人にて候。まことに此 君けんわうにてましませハ、ふく風ゑたをならさす。たミとざしを さゝす。めでたき御代にて候。去程に此君四きのせちゑのまつりご とおこたらずおびたゝしき御事なり。則当春もぶがくをそうして、 たんしやうの千年の鶴、万歳のりよもふの亀 㿆   㿆 もまいあそび申めて たきまつりにて候。おなじく今日も月宮殿ゑ参内申され候へ。其分 心得候へ。〳〵。 ︵ 141︶︽皇帝︾   かやうに候者ハもろこしたうのげんそう皇帝に仕申くわんにんに て候 。この君けんわうにてましますにより 、ふく風 㿆 ゑだをならさ す。民とざしせす。まことにめでたき御代なり。去程に此君の御ち やうあいのきさき三千人御 㿆 ざ候。中にも楊貴妃と申す御方ハならび なき御 㿆 ちやうあひなるが此程御 㿆 のふにてましますによりいかゞ有べ きとの御きづかいにて今日ハ此でんゑぎやうがうなり楊貴妃の御き しよくをゑいらん有べきとの御事なり。ミな〳〵此でんゑ参内申さ れ候へ。其分心得候へ。〳〵。 ︵ 142︶︽鞍馬天狗︾   か様に候者ハ、此鞍馬寺西だに僧正 㿆 に仕へ申のふりきにて候。当 寺におゐて毎年花のころハ西だに東だにばんにいたいて花をいたさ れ候。当年ハ西だにのばんにて候間、東だにのしうおの〳〵に御出 有て花を御 㿆 覧あれとの御使に参る。はや是ゑ御出にて候。西だによ り御使に参りて候。則是にお文の候。御 㿆 らん候へ。御前に候。かし こまつて候。いかに申候。あれにきやくそうの御入候が、当山 㿆 にお ゐてたさんのともがらさんくわいハきんぜいにて候程に、いそぎお つたて申さうするか 。いゝやあれさへたゝハくるしう御 㿆 ざない物 を。扨も〳〵もはらのたつ事。や、是程しうだおざしきをさますハ あのきやくそうゆゑじや 。おれがまゝならハ是をいたゞかせう物 を。是ハ鞍馬のおくそうじやうがたに大天狗にて候。只今此所ゑ出 る事よのきにあらす。其やうだいハ当山におゐて西だに東だにと申 て寺の候が、毎年春にもなれハ、ばんにして花見をいたされ候とこ ろに、当年ハ西たにのばんにて候が、此ころさかりなると有て東だ にのしうミな〳〵申入、しゆゑんをなし申され候を我等か頼奉り候 大天ぐ面白く思召て、さらハそとのぞかうするとて、きやくそうに 成て見物被成候ところに、のふりきか見付、当山におゐてたさんの ともがらさんくわいきんぜいにて有に、是成きやくそう思ひもよら

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一一 ぬ事なり。おつたてうか、引たてうかなんどゝ申ところに、いんじ ゆのぼう申さるゝハ、当山にて山伏わ子細有程にしよせんおくの花 を御 㿆 らん候へとて、おの〳〵おくゑ御出有た。其あとにしやなわう 殿 㿆 たゞ一人しよぼ〳〵としてのこられた處に、大天ぐおほせられこ とにハ、何として御身一人是にのこり給ふぞとおほせられたれハ、 しやなわう殿のおいたハしや 、さん候只今の少人たちハ平家の一 門、中にもあきのかミ清盛の子どもなるによつて一寺のしやうくわ んたさんのおぼゑよく候が、みづからわ同参にハ候へどもよろづめ んぼくもなきことともにて月にも花にもすてられて、めいわく御す いりやうあれとおほせられ候へハ、大天狗あらいたハしや御身と申 ハ源家のとうりやうにてましますぞや。先こなたへ御出候へとて、 御とも有。其まゝひたとうちこまれて、花を御 㿆 らん有度ハ見せ申さ んとて、それよりあたご山、高尾、吉野、初瀬、こゝかしこの花を 見せ申されぜひとも兵法をつたへ平家をうたせ申べしとておしへ給 ふ程に、きようにハ有、はやかうがいがくれのこのはがくれ、のき りのゐ ん の な ど ゝ 申 大 事   㿆 御つ た へ 被 成 た 。 し か る 所 に 今 日 ハ我 等 が様成このは天ぐにも罷出てしやなわう殿の打太刀を仕れとの御事 にて候間、先いそいで出て候が、我等こときの者ハ見ゑぬか。爰な わごりよハ何とておそく出たぞ。それがしハとういでたにぬかつた 事じやな。扨しやなわう殿の打太刀がならうか。いや〳〵やうたい を聞にしやなわう殿のあいてにならうやうな事でハないが、おぬし ハまだゑしらぬ物じや。まことにおぬしがてがらをいふが、それ見 よ其様にぬかつて打太刀かならうか。たのふだ人のかうがいがくれ のこのはがくれのなどゝ申大事 㿆㿆 をつたへさせられたるが、しやなわ う殿のあいてになつてしたゝかうたれう   㿆 。やつとまいつたやつと とな。いや〳〵其ぶんにてハ中〳〵なるまひ。それならハいなふ。 さたのかぎりをいわします 。先ま て〳〵。 や い〳〵、 はやかゑつ た。あれなりともだまいておこう物。それがし一人してハ何ともな るまい。しが〳〵しい事をいたいた。いや出て打太刀をいたせとお ほせ付られたるに出ぬもいかゞにて候が、されども此分にて帰れハ 出たも出ぬもしれまい 。とかくそれがしハ打太刀に参る事なるま い。出たるしるしにしやなわう殿をよびいだし申さう。いかにしや なわうどの〳〵。 ︵ 143︶︽夜打曽我︾   あゝかなしや。やれ〳〵やれたすけいたすけい。なふおたすきや れ〳〵。なふあゝかなしや。たすけい〳〵。あゝ。たれぞ。おぬし か。やい、何事ぞ。たれもあとにハ見ゑぬ程に、もはや大事ハ有ま いぞ。なふ物がいわれぬ。まづいきをつがせてくれさしめ。何事じ ややい。あゝ扨もあふない事にあふた。何事にあふたぞ。かまいて 用心をさしめ。人のとぎをするともしあんして、めをあいてせう事 じやぞ。先子細ハ、さためておぬしたちもきゝおよぼうぞ。曽我兄 弟の事よ。其おこりハ、かわづ殿ハ赤沢山のかりくらにてむなしく ならせられたるを助経こそおやのかたきなりとてとしごろねらい申 さるれども、今   㿆 うつ事もならなんだ。助経かれらにうたれてハふ かくなりと思ひ、かたのごとく用心してそれがしがやうなる者もそ ばにおゐてたのもしい人じや。かんじんのやくにたつてくれう者じ やとて、へんしもそばをはなさすとぎにおかれた程に、それがしが いふ事わ、人おほくとも我等一人ときをしているならハ、百き二百 きにわまさうする。さりながら曽我兄弟がふんとしてかた〳〵をね らう事、何程の事あらうするぞ。中〳〵におよびもない事じや。し かれともかれら兄弟ハ身をすつる者にてすきまをねらうとミゑた程 に、ゆだんハ被成そ。しぜんよそにての事ハいさしらす。かた〳〵

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飯 塚 恵理人 一二 の手にかくる   㿆 も有まいというたれハ、助経もよろこふで、そなた ハたのもしい事をいう人しやと申されたるが、ことさら此ころハち うや用心してねまをもかゆる程にして、それがしをもそばおはなさ すおかれたところに、難方大事のことじや。かの兄弟が何としてか しのび入て、さすがの者どもじや。ねたるところをきるまひと思ハ れたるか、ことはをかけて、我等をかたきにもちながらゆだんして さやうにねる物か。おきあがれというたところで、助経も心得たる とて、刀をおつとつておきあがりさまにはやきりつけた程に、それ がしも刀をおつとつて大藤内是に有やといわうとするところを、二 人ながらきつてかゝる程につねのくわごんも、やくにたゝいで、や う〳〵はいもつて是   㿆 にげのびたるが、扨〳〵あぶない事でハなか つたか。あしがひりめいていたいが、にげしりがきられてハないか 見てくれさしめ。南無さんぼう。いかひ事きられて有ハ。あゝかな しや。しなふかな。いや心やすく思へ。きられハせぬぞ。まことに 大事ないか。中〳〵。こゝな人ハまたきもをつぶさせた。是をかた るハおぬしたちもようきいておいて、いらいに人のとぎをさしめと いう事よ。おぬしハおびさへせぬか。其事よ。おびをするひまがあ らうとおもハしますか。おぬしがもつたハ何じや。いやまことにお れハ刀をとつてきたと思ふたれはよいにふいたしやくはちじや。お ぬしも此やうな事ハほめさしめ。さのミうろたゑなんだ。おびまで 取て出た程に、先人めがはつかしい。おびをしてくれさしめ。ひと りさしめ 。いや手がふるうて中 〳 〵ならぬ 。さらハおびしてやる ぞ 。あゝくわぶんな 。此おんハわすれまいぞ 。又おとこという者 ︵ハ︶心中が大事じや 。それがしもかんしんのことばをつかふた ぞ。にけさまに今夜のようちハ曽我兄弟なり。かまいてごにちにあ らそひ給ふな。其せうこ人ハ大藤内にて有ぞというたハやい。いや 大藤内 、曽我兄弟が是ゑきつてくるという程にそれがしハのぐぞ 〳〵。それわまことか。はや是ゑおつかけてきたハ。やれたすけい 〳〵。こしがぬけたハ。なふきるハ。なふあゝかなしや〳〵。 ︵ 144︶︽大会︾   か様に候者ハ、あたこ山大天狗に仕へ申このは天ぐにて候。只今 是ゑ出る事よのぎにあらす。いや爰なおぬしたちハ子細をしつて出 たか。子細もしらいで出たか。子細ハしらねども、先罷出よとおほ せつけられたるによつて出て有よ。それハちかごろの心がけじや。 何時もおほせつけられたる事があらハとう出たがよい。子細をしら すハ語てきかせう。まつたのふたる人の、さまをかへてゆさんをめ されうするとて、とびになつてとびまわり給ふところに、都東比院 のあたりにて山ぐものいゑにかゝつておちられたを、京わらんべど もがとらゑて、ねぢころさうと申者も有。いやたゞいきながらはね をむしれという者も有。たのふだ御方もなんぎせんばんに及給ふと ころに、ひゑい山の僧正の御とをり有てそれを御らんじ、いかにな んぢらそれをはなせと仰られた。おさない者どもハ我等がつかまへ た物じや程にはなすまひというたを。さらハ此あふきをとらせう程 にはなせとおほせられた。いや〳〵其ぶんにてハはなすまいと申程 にそれならハ此しゆすをとらせう程にはなせと仰られたところで、 そこでかしこまつたというてはないた。たのふだ御方ハよろこふで あたごゑ御帰り被成 、やがてきやくそうに成 、僧正 㿆 ゑ礼に御出有 て。われすでにみまかるべきところに、御たすけ忝存候。此へんれ いに、何にても御のぞミの事候ハヽかなへて参せうと御申候へハ、 僧正御存 㿆 じなき由仰られた程に、都東比院のあたりの事にて候。さ だめて思召あわせらるゝ事のあらうすると仰られけれハ、僧正 㿆 やが てすいりやう有て此よののぞミさらになし。天ぢくりやうじゆせん

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一三 にて釈のせつほう被成たる所をもくぜんにまなふて御見せ候へと 仰らるゝ。たのふだ御方も一大事の事にて候へどもさらハまなびて 見せ申さうすると御申有て、其まゝ御帰り有。御 㿆 せつほうの時ハ佛 たちがおほく入程に、このは天狗どもも罷出、佛になれと仰られた る程に罷出たるがミな〳〵も其ぶんか。中〳〵其とおりじや。いざ おつつけだんかういたさう。何に成てよからうぞ。身どもハにわう にならうかとおもふ 。それハわるからう程にあまのじやこになら う 。いや 〳 〵あまのじやこにも佛にふまへられてめいわくにあら う。さらハ此やうすをうたひにうたふていなふか。よからう。うた わしめ。おかしき天狗わよりあひて。〳〵。何佛にならうやれと、 だんかうするこそおかしけれ。あたこのぢざうにゑなるまい。大ミ ねかづらぎハほうきぼさつ。是また大事のぼさつなり。よく〳〵物 をあんするに。だうのすミなるひむずるにならんとミなかミきぬを こしらへて、みなかミきぬをきつれ〳〵て、こそり〳〵とはいりけ り。 ︵ 145︶︽舎利︾   安内とハいかやうなる人にて候ぞ。それかしお合利をもち申者に て候が、れうじにハおがませ申さす候へどもお僧の事にて候間、そ れがしの心得をもつておがませ申さう。かう〳〵御とおり候へ。是 こそかくれもなきお舎利にて候。心しづかに御おがミ候へや。扨も いまのハ何事であつたぞ。たゝことならぬなりやうであつた。まづ お舎利ゑ参り、むねのだくめきをなをさう。是ハいかな事。お舎利 の御見ゑない。何者が取てうせたぞ。いや思ひ出した。さいぜんし らぬそうがお舎利をおがませてくれよというた程に 、おがませた が、きやつがとつた物てあらう。扨〳〵にくひ事かな。いづくゑに げたぞ。しらぬ。いや爰にいるぞ。なふ〳〵お僧、お舎利ハ何とめ されたぞ。何ともしらぬとおしやるか。いやそなたのしらぬとおし やらうとまゝよ。さいぜんよりれうじにおがませねども、お僧の事 しや程にそなたにハおがませうというてよの者にハおがませ申さぬ 程にかた〳〵のおしりなふてたれがしらうぞ。此うゑハしらぬとお しやらうとまゝよ。しらせ申さう。中〳〵おしりやらいでかなふま い。急でおしやれ。それハまことか。扨ハ只今したゝかになつたわ あそこをやぶる時になつた物であらう。か様の事ハ存ぜす、とがも なきお僧をうたがふてめんぼくも御 㿆 ざない 。只今おほせらるゝに 付、思ひ出した。むかしもか様の事の候。先当寺のお舎利ハ忝もし やくそん御にうめつの御時、そくしつきというおにがむかふばを取 てこくうにうせ申ところに 、佛弟子たちいかゞあらうすると仰ら るゝ處に、いだてんと申てはやき佛の候が、かのおにをおつつめと りかへし有て、色〳〵の子細有て当寺へわたりたうど天ぢくわがて う三国にかくれなき佛舎利の事にて候 。それがしのすいりやうに ハ、又いにしへのそくしつきがしうしん人間にばけて佛前 㿆㿆 にちかつ き 、お舎利を取てうせたると存候 。扨是ハ何としてよからうする ぞ。御僧もそと御 㿆 しあん有て給り候へ。それハでんにて候。むかし わ左様の事もまのあたりに御 㿆 ざあらうするが、今はぢよくせなれハ 左様のきどくもあるまじきと存 㿆 るが、たゞし何と思召候ぞ。けに是 ハもつともにて候。いにしへもいまも佛力のかわる事あるまじく候 間、おつつけいだてんにきねんをいたし二度お舎利をとりかへし申 さうする間、お僧も力をそへて給り候へ。けに今とても佛力神力の かわる事ゆめ〳〵あるべからす。一心負乱万徳円満釈如来依心舎 利を韋駄天取返シ給ひ二度当寺のたからとなし給へ 。南無韋駄天 〳〵。そうじて当寺のお舎利の有がたき子細をいかにと尋るに、忝 も釈尊御 㿆 にうめつのきざミきんくわんいまだひらかざる時、そくし

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飯 塚 恵理人 一四 つきといふ鬼神ひそかにそうりんのしたにちかづいて御はを一つひ つかいて取。佛弟 㿆㿆 子おどろき、とゞめんとし給ひけるにかた時が間 に四まんゆじゆんをとびこゑてしゆミのなかばしわうでんゑにげの ほる。いだてんおつつめうばいとり、其後かんどのだうせんりつし にあたゑられしより此かた 、さうじやうして我がてうにわたせし に、さがの天王の御 㿆 宇にはじめて此寺にあんじし給ひ、たいせいせ そんめつごより今にいたるまでぶつにくなをとどまつてひろく天下 にるふする事あまねし。さあるによつて今のよにハ、当寺こそぶつ ざいせにて有と申すハ此子細にて御 㿆 ざ候が、それがしのすいりやう にハ、又いにしへのしつきがしうしん人間にばけ佛前 㿆㿆 にちかつきお 舎利を取てうせたると存候 。扨是ハ何としてよう御 㿆 ざあらうする ぞ。我等がふんべつにハあたわす候間、お僧もちと御 㿆 しあん有て給 り候へかし。 ︵せりふ右のごとく也。 ︶ 注 ︵ 1 ︶ 『 国書総目録 』 第六巻   岩波書店   昭和四四年四月発行   四六一 頁 ︵ 2 ︶ 拙稿 『 椙山女学園大学研究論集 』 第四七号   人文科学   平成二 八年三月発行   一 −一九頁 補記   貴重な間狂言本の閲覧・翻刻を許可下さった和泉流狂言方佐藤友彦師 に心より感謝いたします 。本稿は平成 28年度科学研究費助成基盤研究 ︵C︶ 「 東海地域近世 ・近代能楽資料の収集 ・整理とデータベース化 」 ︵研究代表者飯塚恵理人 、課題番号 23520256 ︶による成果の一部と なります。 *  文化情報学部   文化情報学科

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