長野大学紀要 第13巻第 4号 287-302頁 1992
貨幣供給量 と経済変数の変動 (
2)
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― V a r i a t i o n o f M a r s h a l l i a n K a n d N a t i o n a l P r o d u c t s ―山 崎
匡 毅
Masaki Yamazaki
〔前稿 目次) は じめに1
. 理論的基礎 となる方程式 (1) フィッシャーの方程式 と所得形式の再検討 (2) 方程式の微分形への変換 とその意義 2.貨幣数量 と物価水準 (1)理論的接近方法の妥当性- 日本 とアメ リ カについて (2)社会主義の状況について (3)マネタ リス トの見解 3.マネタ リズムの問題点 とインフレー シ ョンの メカニズム (1) 所得速度の変動の軽視 (2)貨幣の範囲 と自明の理 としての貨幣数量説 (3)マネーサプライと経済変数の因果関係 (4)一様 でないインフレー ションのメカニズム 次の課題一一一結びに代 えて 〔本稿 目次〕 は じめに 1) 問題の所在 2) 若干の予備的知識1
. 長期 的所得速度の一般的形状 (1) U字形パ ターン- Bordoらの分析 (2)若干の主要国について2.
近年の状況- 日本 とアメ リカを中心 として (1)マー シャルのkと貯蓄性向について (2)マー シャルのkの変動 と過剰流動性 の問題3.
マネーサプ ライと国民生産物の変動 (1)マネタ リス トの見解 (2)供給弾力性の変動 と貯蓄 ・投資 (3) 日米の経済体質の相違- 若々 しい 日本の 経済体質 結び は じめ に 1)問題の所在 前稿 において, まず経済変数に与 えるマネーサ プライの影響 をフィッシャーの数量方程式及びケ ンブ リッジの形式 を起点 として一般的に論述 した. その中で,貨幣数量の増加が3つの因子 実質 国民生産物の増加,物価水準の上昇,マー シャル のk (逆数 としての所得速度)の変動- に分解 され ることを示 し, 日本 とアメリカにつ いて定量 的分析 を行 い,筆者の理論的展開の妥当性 を吟味 した (注 1). 次に,それ らの分析 を基礎 として, 日本 とアメ リカで経済体質の相違 を明確に し,1
9
7
0
年代 にア メ リカでマネタ リズムが指頭 した経済的背景 を論 じた.政策的観点か らみれば,マネタ リズムはむ しろ特殊な経済状況 に対応す る思想 として出現 し, 日本の ような経済体質の国には,必ず しも妥当す るものでないことを強調 した. また,前稿では とくにマネーサプ ライ をインフ レー ション との関連 で焦点 を当て, それ は 自明の 理 として貨幣的現象であるが, インフレー シ ョン の生起がその時点の経済条件に大 き く依 存す るこ とを示 した.つ まり,現実には様々な形 態- デ ィマ ン ド・プル ・インフレー ション, コス ト・プ ッシュ ・インフレー ション,- イパー ・インフレ ー ション,輸入 インフレー ション- がマネーサ プ ライの増加 と結 びつ いて生ずることを明 らかに した. - 63-288 長 野大学 紀要 第13巻 第4号 1992 しか しなが ら,マネーサプ ライの増加が実質国 民生産物の増加やマー シャルのkの変動に与 える 影響につ いては,紙幅の都合 もあ り,吹-の課題 とされた. そこで,本稿 では, この課題に取 り組 むわけであるが,その影響 を一般的に考案す るこ とは,現実の経済では分析上むづか しい面がある. とい うのは,実質国民生産物やマー シャルのkの 変動は多分 にその国の固有な経済特性一一一経済発 展段階,産業構造,投資や貯蓄行動,人々の教育 水準や勤労意欲,社会的風土な ど- に依存 して お り,理論的に明快 な分析がむづか しいか らであ る. したが って,マネーサプライの増加に関連 した 本稿におけ る国民生産物やマー シャルのkの変動 の分析は,必ず しも十分 とはいえない. ある意味 では,本稿の分析が これか らの研究の第一歩 とし て位置づ け られ る性格 をもっているといえよう. 2)若干の予備 的知識 本稿 を著すに当た り,前稿の続 きの関係で数式 や記号に関 して若干の補足 を行 う. 筆者が起点 としている基本方程式は, ケンブ リ ッジ型の数量方程式 (所得形式)であ り,それは, 貰 - 去 TY-kTY (k-iI) である
.
M
は貨幣のス トック量,T
,は実質国民 生産物,P,はその価格水準,Ⅴ,は通貨の所得速 皮 , kはマー シャルのkである. この形式 を1
年間 とい うような時系列の変化分 として, ・(ドッ ト) を付けて単純化す ると,M-k+PY+Tyニ ーVY十PY+TY
とい う微分形で表わされ る.いま,
E
k-辛
,E
p-一
旦
と,E,
--
1 M MM
とすれば,Ek
+Ep
+E
Y-1
となる. ここで,現実の経済では近似値 として,E
Yはマネーサプ ライの増加 に対す る実質GNP
の弾性値,E
pはGNP
テフ レー タ-の弾性値, Ekはマー シャルのkの弾性値 を示す. なお,前稿で も論述 したように,実際の分析 に おいては,貨幣の範時が問題になる.本稿 では, 通常用い られるMlとM2の両方 を採用す る.その 場合, kl, k2,Vl,V2について kl- 辛 , k2- 辛,vl
-
古
V2
-
忘
として区別す る.ここでY
は名
目
G
N Pの値であ る. 1. 長期 的所得 速度 の一般 的形状 (1)
U字形パ ター ン- Bordoらの分析 (注2) 各国の所得速度が系統的に どの ような形状 にな るかについては,BordoとJonungの詳細 な研究 がある.彼 らは100年間に及ぶ所得速度について, 世界の80カ国の国々 を対象に分析 した結果,長期 的所得速度 は一般にU字形パ ター ンを有す る傾 向 があることを兄い出 した.本節では,Bordoら分 析に治って,その形状について述べ てみ よう. Bordoらは,1983年の時点で世界の80カ国を一 人当た りの所得別に4
つの グルー7㌔一一一富裕 な先 進市場経済国, 中の上位の所得経済国,中の下位 の所得経済国,下位の所得経済国- に分 け (表 1),その所得速度の推移 を長期的時系列において 分析 した.その結果,通貨の所得速度VlとV2の形 状 には共通 した傾 向があることを兄い出し, それ を「
U字形パ ター ン」 と名づ けた. その形状 を経 済の発展段階に合 わせてモデル的に示す と,図1
の ようになる. 図において, フェイズ(Phase)1は,所得速度 Ⅴ.とV2の両方が下落す る発展段階が低 い時期 である. フェイズ2はVlは上昇 に転ず るが,V2 は依然低下す る段階であ る.フェイズ3はVlと V2の両方が上昇す る段階である. もちろん,所得速度のU字形パ ター ンは-つの 傾 向法則であ り,すべての国に一様に当てはまる 法則ではない.例 えば, 日本,西 ドイツ, イタ リ アは第1
グループの先進市場経済国に属す るが, 後にみ られ るように,所得速度がU字形になって お らず, その意味で3回は どちらか といえば例外 に属す る.この理由 としてBordoらは3回 とも第2
次世界大戦の敗戦国であるこ とをあげ, そのこ とによって経済が破壊 され,金融制度が後 もど り し,所得速度の時系列的傾 向が変調 をきた してい - 64-山崎 匡毅 貨幣供給量 と経済変数 の変動 (2) 表 1 経済発展 レベルによる国のグループ分 け グ ル ー プ 国 名 上位の先進市場経済国 スイス, スウェーデン, ノルウェー,西 ドイツ,デンマ- ク, (1人当た り
1
1
,
1
2
0
ド ア メ リカ, フランス,ベルギー, オランダ, カナ ダ, オース ト ル) ラ リア, 日本, フィンラン ド,オース トリア, イギ リス, イタ リア,スペ イン,アイルラン ド,ニユ- ジー ラン ド 中の上位 の所得経済国 サ ウジアラビア, リビア, シンガポール, イスラエル, ジ リシ (1人 当 た り2,
4
9
0
ド ヤ,ベネズエ ラ, ポル トガル,南アフ リカ,ユー ゴスラビア, ル) ウルグアイ,アルゼ ンチン,チ リ, メキシコ,7●ラジル,アル ジュ リア, イラク,マレー シア, イラン,韓国 中の下位 の所得経済国 パ ラグアイ, ヨルダン, シ リア, トル コ, コスタ リカ,チユニ (1人当た り8
5
0
ドル) ジア, コロンビア, ドミニカ,pコー トジボアール, ジャマイカ, エ クア ドル,ペルー, グアテマラ,ナイジェ リア,ニカラグア, モロッコ, フイ リツピン,台湾,エルサルバ ドル,エ ジプ ト, ザ ンビア, ホンジュラス,ボ リビア, イン ドネシア, イエメン, セネガル,ケニア 下位の所得経済国 (1
中国, トー ゴ, スー ダン,パキスタン,マダガスカル, シエラ 人当た り2
7
0
ドル) レオネ, ス リランカ,- イチ, タンザニア, イン ド, オー トポ ルタ,ブルンジ, ウガンダ,ザイール,マラウイ, ビルマ,ネ(出所)WorldDevelopmentReport1983,Washington,D.C.1983. 図1 通貨の所得速度の3段 階 経済の発展段階
2
8
9
るの では ないか と説 明 して い る. さ らに,Bo
r
do
らは1
9
5
0
年代 か ら8
0
年 代 に至 る 30年 間 にわた ってⅤ-a+bt (a
とb
は定数, t
は期 間) とい う形式 に沿 って 回帰分析 を行 い, 各 国 のパ タ ー ン を詳細 に分析 した. その結果 を表2に示 すが, ここで も日本, 西 ドイ ツ, イタ リア は例 外 として 扱 われ てい る. (2)若干 の主要 国つ いてBor
do
らは, 多数 の 国 の所得 速 度V
2の 形状 を 示 して い るが, 本節 では その 中で興 味深 い国 を取 りあげ,若 干考 察 してみ よ う. まず,U字 形パ ター ンの典 型例 は ス ウ ェー デ ン - 65-290 長野大学紀要 第13巻第4号 1992 表2 グループに対する所得速度の回帰分析 グ ル ー プ 期 間 b 回帰方程式 (R 2 係数) DW 所得速度の上昇率(%) 先進市場経済国 Vl:1952-82 0.067 0.940 0.871 1.4 V2 :1952-82 -0.009 0.853 1.305 -0.5 中の上位の経済国 Vl:1953-82 0.068 0.575 0.487 0.8 V2 :1953-82 -0.068 0.900 0.894 -2.6 中の下位の経済国 Vl:1952-82 -0.034 0.462 0.863 0.0 V2 :1952-82 -0.118 0.957 1.270 -2.2 下位の経済国 Vl:1962-82 -0.125 0.840 1.091 -1.6 V2 :1962-82 -0.176 0.960 1.178 -3ー3 西 ドイツ, 日本, イ Vl:1952-82 -0.031 0.797 1ー100 -0.6 (注) グループは表1に対応す る. であ る(図2
-(
∋). スウェー デ ンでは1870年か ら 調 とな り今 日に至 ってい る. ア メ リカ もほぼ同様 V2は低下 し1920年 頃最小 にな り,その後 は上昇基 な形状 をしてお り,1880年か ら1940年 頃の経済発 図2-@ スウェーデンにおけるV2の長期的推移 05
0 5 0 5 0 5 76
6 5 5 4 4 3Ⅵ
の
値 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 1870 1880 1890 1900 1910 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 西暦年 :山崎匡毅 貨幣供給量 と経済変数の変動 (2) 図
2
-(ら アメ リカにおけるV
2の長期的推移 291 v25・5 品 5・0 4.5 4.0 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 1870 1880 1890 1900 1910 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 西暦年 展期 や 経 済成 長期 にはV
2は低下傾 向 を示 した (図2I(り).最 も国際的経済地位が高か った1940 年代 を最低点にその後は上昇傾 向にあるが,最近 ではほぼ一定値 を保つ ようになって きた. もちろ ん,細か くみれば,短期的にはかな りの変動があ り, その時期 に何 らかの激変があったこ とをうか がわせ る.例 えば, 1930年代の世界恐慌 時や1940 年代の第2
次世界大戦時には,所得速度の大 きな 落 ち込みが存在す る. 次に, 日本 をみ ると, 1890年か ら1940年の経済 発 展期 に お いてV2は下 落 傾 向 に あ る (図2 -(ら).しか し,第2次世界大戦の敗戦でそれは断絶 して しまう.戦後は, その混乱期 を除いて一貫 し て下落傾向にあ り,後に詳 しくみ るように今 日ま 図2
-伝) 日本におけるV
2の長期的推移 1880 1890 1900 1910 1920 1930 1940 1950 1960 19701
980 西暦年 -67-292 v2 4・5 の 値 4.0 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 長野大学紀要 第13巻 第4号 1992
回 2
-④ 西 ドイツにおけるV
2の長期的推移 1870 1880 1890 1900 1910 1920 で続いている. 西 ドイツをみ ると, この国は第1次世 界大戦, 第2次世 界大戦の敗戦 で,経済的つなが りは断絶 して しまい,所得 速度 は不連 続 とな る (図2 -④ ).1870年か ら1910年代 までは所得速度が下落傾 向にあ り,その後の2度の断絶後において も,所 得速度は低下傾 向にあ る. このようにみて くる と,各国の所得速度は, そ の発展段階や経済状況 に応 じてかな り異なった形 状 を有 している. また,所得速度の絶対値の相違 も大 きい. すでに触れたように,経済発展段階の若い国ほ ど所得速度が低下す る傾 向が強い とすれば, わが 国や西 ドイツは,マネーサプ ライに関 し,発展途 上国に似 た体質 をもっているといえる. ある意味 では,わが国や西 ドイツは経済水準の高い先進工 業国であ りなが ら, い まだに成熟 していないこと であ り,後に述べ るよ うに,若々 しい成長体質 を 有 しているともいえ るのである. 2.近 年 の状 況 - 日本 とアメ リカ を中心 と して-(1)マー シャルのkと貯蓄性向 前節では,100年間に及ぶ長期的視点か ら所得速 度の推移 を考察 したが,本節ではここ20年間のマ 1930 1940 1950 1960 1970 1980 西暦年 - シャルのk(所得速度の逆数) を調べ, 日本 と ア メ リカを中心に分析す ると共に, それ らの経済 体質の相違 を若干検討 してみ よう. 近年におけるマー シャルのkの推移 を日本 とア メ リカについてみ ると, それぞれ図3-
@ と図3
-(9となる. この図 を比較すれば次のことがわか る. 第1に, 日本 のk2は最近 において も非常 なス ピー ドで急上昇 して くる. これは,後にみ るよう に,わが国が高貯蓄率 を背景 に金融大国になって い く過程 に対応す る. しか し, klにつ いてみ る と,む しろ低下傾 向にある. したがって,わが国 は先 に述べ たp
ha
s
e2
の段 階 に入 ってい る とも 考 えられ るが, 80年代になるとほぼ一定に とどま っていることか ら単に一時的現象か もしれない. 第2に,アメ リカであるが,既述 したように, 所得速度は長期的に上昇 (マー シャルのkは低下) 傾 向にあるが,最近の20年間は上昇 ・下落の小変 動 に とどまっている.つ まり,長期的に大 きく変 動 していないわけであ り, このこ とがマネタ リス トの始頭の理由- 所得速度はそれほど変化 しな い仮定- の根拠に もなっていると考 えられる. 第3に, 日本 とア メリカのマー シャルのkの絶 対値の相違 である.k2を例に とれば,日本はアメ リカの倍の2倍以上 となってお り, それだけ最近山崎 匡毅 貨幣供 給量 と経 済変数 の変動 (2) 図31(彰 日本 におけるマーシャルのkの推移 マ
ーシャルの
.id∼
'70 75 '80 -85 (注) 「匡l際比較統計」(日本銀行調査統計局 )より作成 図3-(申 アメ リカにおけるマーシャルのkの推移 [? :B '90 西暦年 '75 '80 '85 (注) 「国際比較統計」(日本銀行調査統計局)よ り作成 '90 西暦年 偶 2 マ ー シ ャ ル の k1 % 詣 36 割 3 マーシャルのk
293 のわが国は,名 目GNP
に対 して金融資産が大 き 大国 となっている. くなってい ることに対応す る. さらに,わが国で さて,なぜ わが国ではk2が急上昇 し,アメ リカ はM2に算入 されない郵便預金 もあ り,円高 とい ではほぼ一定に とどまっているか を説 明するため う通貨価値の上昇 ともあいまって,世界一の金融 に,貯蓄率 と名 目GNP
の増加率のギャ ップ を調 - 69-294・ 長野大学紀要 第13巻第4号 1992 図4-@ 日本の名目GNPの伸び率と平均貯蓄性向 70 75 '80 (注) 「国際比較統計」(El本銀行調査統計局 )よ り作成 ベてみ よう. とい うのは,マー シャルのkが上昇 す るのは,名 目
GNP
の上昇以上 に貯蓄が増加す ることを意味す るか らである. そこで, 日本 とアメ リカの名 目GNP
の伸び と 平均貯蓄性向の関係 を図示 してみ ると, それぞれ 図41㊥ と図4-(砂となる. ここでわか るように, 日本においては,1973年の第1次石油危機時 を除 いては,すべ ての期間において名 目GNP
の伸 び を貯蓄性向が上 回っている.つ ま り,名 目GNP
に対 して相対的にM2な どの金融資産 が大 き くな っている. しか も, そのギャップは1975年以降年 々10%に及ぶ大 きな ものであ り, この ことはわが 国経済が完全 に低成長期に移行 した8
0
年代以降 も 変わっていない. この事実 は, ある意味で驚 くべ きことであ り,後に述べ るよ うに,わが国の経済 体質 を特徴づ け ると共に, 日米経済摩擦のような '85 '90 深刻 な問題が生ず る伏線 となっている. 一方, アメ リカをみると, 日本 に比較 して貯蓄 性向の絶対値が非常に小 さ く, わが国の半分以下 の水準である.名 目GNP
の伸 び と平均貯蓄性向 とのギャップはそれほど恒常的でな く,プラス ・ マイナス交互に現われる.つ ま り,マー シャルの kは,平均的にならせば比較的安定的 となるはず であ り,前節の分析 と一致 してい る. このような 日本 とアメ リカの相違は,所得水準 の相違 とい うよ り経済体質の相違 としかいいよう がない. この点については,経済成長に関連 して 後に述べ る. (2)マー シャルのkの変動 と過剰 流動性の問題 マー シャルのkの変動 に関 し, その急激な変化 が 「過剰流動性」 をもたらし,投機現象の原因 と- 7
0-山崎匡毅 貨幣供給量 と鐘 済変数 の変動 (2) 図41㊥ アメリカの名目GNPの伸び率と平均貯蓄性向 '70 '75 '80 ■85 (注) 「国際比較統計」(日本銀行調査統計局)より作成 なることがある.過剰流動性 とは,金融の緩和時 に流動性の高い貨幣量が増加 し,地価や株価 を押 し上 げ, その後の一般的物価の上昇に結 びつ き易 いこ とであ り, その発生時点ではマー シャルのk の上昇 を伴 う. しか し,マー シャルの
k
が上昇す るだけで,過 剰流動性が生ず るわけではない.マネーサプライ の増加やマー シャルのk
が上昇 して も,金利水準 が高 くそれが流動化 しに くいならば,過剰流動性 とはいわない. また,低金利でマネーサプ ライが 増加 して も, それが一般的物価 を押 し上げ るなら ば, インフレー ションとはい うが,過剰流動性 と はいわない. 要す るに,マー シャルのkの上昇は過剰流動性 の必要条件であるが,十分条件 ではない.過剰流 動性 はマネーサプライだけでな く,金利の状態, 経済成長, インフレー ションなどと密接 に関連 し てい る. 295 過剰流動性が一般物価の上昇 を伴わない潜在的 貨幣数量の増加 であることに注意すれば, その尺 度 として名 目GNP
の伸び とマー シャルのk
の変 化率 の差 をとり,その経時的変化 をみ ることが重 要である.1
9
6
0
年代後半か ら最近 までのマネーサ プライの増加率 と,名 目GNP
伸 び率 -マー シャ ルのk
の変化率 を図5
に示す. 図5
か らわか るように,名 目GNP
の伸 び率 -マー シャルのk
の変化率がマイナスになった時期 は,1
9
71年 (昭和4
6
年) と1
9
8
6
-8
7
年 (昭和6
1
-6
2
年)である.周知の ように, この2
つ の時期 は 金融緩和時で もあ り, 日本に大 きな過剰 流動性が 生 じた といわれ る.1
9
7
1
-
72年時の過剰流動性は,国際基軸通貨 ド ルの金本位制の柾脱 と円切 り上げのシ ョック (ニ クソンシ ョック)による混乱の中で,不 況対策 と して金利 を低めに誘導 し,マネーサプ ライを急増 させ たことに起 因す る. この過剰流動性 は,73年-7
1-296 長野大学紀要 第13巻 第4号 1992 図5 名 目GNPの伸びとマーシャルのk2のギャップの推移 ,0--.01 ′ l 名 目GNPの伸
び-R2
の変化 ′ l ′ l′
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、
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ヽ
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、、、 ′′,oy M2+CDy d,,OJ t、
、D 、\
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0
,
′ cL、- -- ′ \ '66 '70 '74 '78 の石油危機の発生 とあいまって,
「狂乱物価」とい われ るインフレー シ ョンをひ きおこした.1
9
7
1-7
4
年の経験か ら,過剰流動性はやがて一 般物価の上昇につなが り, インフレー ションとな ってい くとい う考 え方 (マネタリス ト的考 え方) が強 くなってい くが, それは必ず しも不変的に妥 当す るものではない.この ことは,次に述べ る1
9
8
6
-8
7
年の過剰流動性の観察か ら芙証 され る.8
6
年か らの過剰流動性は,8
5
年秋の先進5
カ国 蔵相会議 (G 5)による円高誘導か ら始 まった. 年間1
0
0
0
億 ドルに及ぶ膨大 な 日本の貿易黒字 を減 らすために円高政策が とられ,G5
当時1
ドル-2
4
0
円前後の為替 レー トが, 1
年後 には1
ドル-1
6
0
円に, さらに2
年後には1
3
0
円以下になって し まったのである. また,円高による不況 を回避す るために,政策 当局 は金利 を極度に低 め誘導 し,金融 を緩和 した. この時期,円高による物価下落圧力によって物価 上昇 は全 くとよいほ ど生 じなかったが,名 目GN
P
の伸び も低下 し,大 きな過剰流動性が生 じた. 前回の過剰流動性 とと相違 は,GNP
やマネーサ プライがそれほ ど増加 しない状況で生 じたこ とで '82 '86 '90 西暦年 ある. 過剰流動性の矛先は,不動産や株式市場 に向っ た.いわゆる土地や株式への投機現象の出現であ る.過剰流動性 は,土地の場合東京の土地に向か い, その地価 を以前の2倍以上に押 し上げ,それ は1- 2年の時間差 をもって大阪や名古屋 などの 大都市, さらには地方の小都市へ と波及 していっ た(注3).株価 もこの時期急上昇 し, 多 くの国民 の間に財 テクブームをひ きお こした.その他,絵 画な どへの投機 も行 われた. もっ とも,その反動 で1
9
9
0
年の初頭か ら株価 は急落 し,土地 も下落傾 向 を強めた. いわゆる 「バブルの崩壊」であ り, それはやがて設備投資の減退 な ど,実体経済に も 影響 を及ぼ して くる (注 4).1
9
7
1-7
3
年 と8
5-8
8
年の過剰流動性の最 も大 き な相違点は,その後の物価情勢である.既述 した ように,71-
73年の過剰流動性では石油危機 を契 機に大 きなインフレー ションが生 じた. しか し,8
5-8
8
年の場合には, その後一般物価-の高騰に はつ なが らなかった.つ ま り,過剰物流性は必ず しも一般物価の上昇にはつ なが らないのである.- 7
2-山崎匡毅 貨幣供給量 と経済変数の変動 (2) 3. マ ネーサ プライ と国民生産 物 の変 動
(
1
)
マネタ リス トの見解M.
フ リー ドマ ンらは,1
8
6
0
-1
9
7
0
年の1
0
0
年間 に も及ぶアメ リカの貨幣供給量 と物価や国民所得 の関係 を分析 し,その間に強い相関があることを 兄い出 した く注5).貨幣供給量 と物価 (インフレ ー シ ョン) との関係につ いては前稿 で詳述 したの で, ここでは貨幣供給量 と国民所得 (国民総生産) やEYとの関係 を中心に考察す る. 注意 しなければならないことは,市場経済が貨 幣 を血液 として機能する経済体制であるか ら,貨 幣数量 と国民所得の変動 に強い相関があることは, む しろ自明の理である.問題 なのは,経済の状況 に応 じて貨幣供給量の増加が, どの ように して, どの くらい国民所得 に影響 を与 えるか を解明す る ことである. かつてケインズは,不完全雇用状態の下 では経 済資源 (労働や資本)が遊休化 しているのである か ら,マネーサプライの増加 は遊休資源の活用へ 向い,生産力の増大-つ なが ると考 えた.つ まり 不完全雇用状態である限 り,第1次近似 としてマ ネーサプ ライに関する国民生産の弾性値 は 1であ り, その価格弾性値は 0であるとした.本稿の記 号でいえば,EY- 1,Ep-0と近似 され る.しか し,完全雇用に達す る否やEy-0,Ep-1とな り,マネーサプ ライの増加は単 にインフレー ショ ンへ とつ ながってい く. この考 え方の背景には, 市場機構が弾力的に作用す る前提があ り,ケイン ズ当時の経済状況の下ではかな り妥当 した とはい え,今 日では市場は大 きく変質 して しまった. こ こに近年マネ タ リズムが登場す る土壌がある. マネタ リス トの代表的考 え方によれば,貨幣供 給量 と国民総生産 とに次の ような関係があるとし ている (注6). (a) 価格調整機能が十分機能 していれば,短期 的には貨幣の伸 び率の変化が国民総生産の水準に 影響 を与える.特に伸び率の変化が一般に予想 さ れていない場合 は, とくにそ うである. (b) 長期的にみ ると,国民総生産の成長率 は貨 幣 ス トノクの水準や伸び率 とは全 く, あるいはほ とん ど無関係 である. この考 え方か らわか るように,マネタ リス トは マネーサプライの増加は短期的には国民総生産の2
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7
増大 に寄与す るが,長期的にはそれほど関係 な く, それは単なるインフレー ションとして消失 しまう ことになる. また,マネタ リス トは,所得速度の 変動 を無視す るが, それは一般には無視で きるほ ど小 さ くない.前節で も述べ たように,所得速度 (マー シャルの k)の変動が,経済に大 きな影響 を与 えることがある. マネタ リス トの考 え方 をさらに押 し進め, もし マネーサプライの増加 によるすべての影響が各経 済主体 によって正確 に予測 されているとすれば, それは短期的に も何 ら実質的効果 を及ぼ さないこ とになる (合理的期待形成仮説). このような考 え方は,アメ リカを中心 に1
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年 代 に登場 したものであるが, それはアメ リカの経 済体質の変化の中で生 じた. ある意味で特殊 なケ ースであ り,一般的な ものではない.ア メ リカに おいては 日本 と異な り,1
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7
0
年代になると貨幣が 空回 りしは じめ,その増加が実質国民生産の増加 に結 びつかな くなって しまった (注7
)
.
つ ま り, 貨幣供給に対 して,実質国民生産の弾性値Eyの値 が小 さ くなって しまった.問題はそれが なぜか と い うことを投資 ・貯蓄や産業構造の変化 の中で考 察す ることである. (2)供給弾力性の変動 と貯蓄 ・投資 周知のように,一国の経済成長力は投資水準に 依存 している.一般的に言えば,投資が大 きけれ ば,実質GNPの伸びが高 く,高い経済成長体質 にな るが, ここでは,マネーサプライに関 して次 の ような点が注 目され る. 前稿のアメ リカと日本の比較において,以下の 点 を指摘 した. まず,アメ リカであるが,1
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6
0
年 代か ら7
0
年代の初め までは実質GNPの伸 びが平 均4-5%
であ り,Eyの倍が平均0.
5-0.
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であ った.7
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年代の第1
次石油危機以降になると,実 質GNPの伸 びは低下 し,同時にEyの値 もか な り小 さ くなった.つ ま り,石油危機以降のアメ リ カ経済では,マネーサプ ライの増加が実質GNP の増大に寄与せず,む しろEpの値が大 きくなる, とい うインフレー ションにつながって しまったの であ る. 次 に, 日本 をみ ると1
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年代か ら7
0
年代の初め までは,実質GNPの伸びは1
0
%
近 くにのぼ り, - 73-298 長野大学紀要 第13巻 第4号 1992 Eyの値 は71年 と72年 を除けば,平均0.6-0.7とい う大 きな値 である.つ ま り,高いマネーサプライ の供給増加の大半が実質
GNP
の増大につなが る とい う好循環が生 じた. しか し,石油危機以後は 低成長 を余儀 な くされ,実質GNP
の伸びは 3-5%となった.Eyの倍 も石油危機 直後 は0.1-0.
3
まで低下 し,その代 わ りにE
pの値が大 きくな った. この時期 にはア メ リカ同様 インフレ体質 と なったのである. ところが, わが国の場合はア メリカ と異な り, E,の値 は平均0.5ぐらいまで回復 し,Epの値 は 大幅に下落 した.つ ま り,経済が低成長期になっ たに もかかわ らず, インフレ体質は進行せず,実 質GNP
に対す るマ ネーサプライの寄与は大 きく 維持 されているのであ る. さて,実質GNP
の増加 を決定す る因子は,上 述 したように,一国の投 資水準であ り, それ を可 能にす る貯蓄である. 日本 とアメ リカを比較すれ ば, 日本 はGNP
に 占め る民間投資- とくに設 備投資- の比率が非常 に高い し,家計の貯蓄率 も大 きい. したがって, 日本の方が高い経済成長 志向 をもっているこ とは明らかである. 問題は, なぜ 日本にお いて投資水準が高いのか とい うこ とである. この間の全体 に解答す るのは 年利(%) むづか しい し,紙幅の都合 もあるので, ここでは 金利面か らだけに注 目すれば, 日本の低金利政策 がある. もちろん,一国の金利水準が どの ように 定 まるかは,極めて重要であるに もかかわらず, それほ ど明快 な理論があるわけではない.マネー サプライと金利の関係において も,マネーサプ ラ イが増加すれば金利が上が るか下 が るか, とい う ような単純 な質問に対 して も,明確 な答が用意 さ れているわけではない. 先進主要国の比較でいえることは, 日本や (旧) 西 ドイツにおいては,ア メ リカ, イギ リス, フラ ンスなどに比較 して,金利が低めに誘導 されてい ることである(図6).周知の ように, 日本 と西 ド イツは主要国では経済の優等生 といわれる. この 事実は,低金利が政策的な ものであるにせ よ,市 場的な ものであるにせ よ,投資環境 をよ くし,経 済成長率 を引 きあげ るばか りでな く,E,の値 も 大 きくす るであろう (注8). さらに,マネーサプライにおけ るEyの大小 を決 定す るのは どのような因子か, とい う問題がある が, これに解答 を与えるのは容易 ではない. とい うのは次節で述べ るように, それは単にマネーサ プライの絶対値に依存す るだけでな く, その国固 有の体質一一「産業構造など- に依存す るか らで 図 6 主要先進国の公定歩合の推移 1981 82 83 84 85 86 87 88 899
0
西暦年
(出所 ) 「国際 比較統計1990」 (日本銀行調査統計局 )- 7
4-山崎匡毅 貨幣供給量 と経済変数 の変動 (2) ある. (3) 日米の経済体質の相違一一一・・一若 々 しい 日本の 体質 既 にみたように
,E
yの値 は経済発展段階や そ の時の経済的状況 を反映 して経時的に変化す るが, 各国の経済体質 に も大 きく依存す る. 日本 とア メ リカで比較 でいえば,EYの値 は 日本 の方が大 き い.つ ま り, 日本の方がマネーサプライの増加に よる実質GNPの増加への寄与度が大 きいか らで あるが,問題 は, なぜ そ うなのか, とい う点にあ る. そのような問題 を考 えるうえで,マネーサプラ イは どのようになされ るのか,について若干述べ る必要がある.マネーサプ ライは,周知のように 各国の中央銀行 によ り行 われ るが,一般論 をいえ ば, それ経済活動の原因であ り結果で もある.つ ま り,一国経済活動が活発になると貨幣需要が生 じ, それに応 じてある条件下 (金利 などの条件) で供給 され る一方,不況期などには政策当局が金 融緩和 を行 い,貨幣供給 を促進 させ ることもある. 貨幣需要の要 因をあげれば,第1に商品 (サー ビスを含む)の需要取引の増大に伴 う場合,第2
に商 品の供給力増大に伴 う貨幣の需要,第3に貯 蓄や投機的需要の増大に伴 う場合に大別 され る. 第1
の場合, もし供給能力が限定 されてい るな らば,需要取引増加 に伴 うマネーサプライの増加 は,価格上昇の原因 とな り,E
pの値が大 きくなる 一方,E,の値 は小 さ くなる.供給能力が一定の中 での財政赤字 もこの範噂に属 し, それは往々に し て- イパーインフレー ションとなる. この種 のイ ンフレー シ ョンは,前稿で も示 したように,資本 主義国に限 らず社会主義国で も同様にみ られ る. 第2の場合,マネーサプライの増加 を通 じて商 品の供給能力 を増大 させ,実質GNPの増加 に寄 与す る. その典型例が企業の設備投資 (とくに生 産能力の拡大投資)のための資本需要の増加 であ る. この場合,他 に隠路がなければ,物価の上昇 を伴 うことな く,実質GNPの増大 につ なが るか ら,EYの値 は大 きく,Epの値は小 さ くなる. 第3の場合 であるが,貨幣が経済規模の相対的 拡大 に此 して多 く退蔵 され るとすれば,E
yもE
p も大 きくな らず,単にEkの上昇になる.先に述べ 299 たように,低金利下で過剰流動性が生 じた場合, 投機が発生 しやす くな り,一般物価は上昇 しない が地価や株価の上昇がみ られ る. この ように,貨幣需要の増大要 因はさまざまで あるが,E,の値の上昇に寄与す るのは,企業の設 備投資にみ られ るような,第2の場合の商品の供 給能力の増大が主 となる. ところで,商品の供給能力 を高め る産業は, ど の ような産業が効果的であろうか.明 らかにサー ビス業 のような ものではない.サー ビス業は労働 力の直接商品化であ り,供給能力 を高め る (生産 性の向上)投資 とい うのは本質的にあ りえない. 例 えば,理髪店で設備 を更新 して も, ロボッ トに 理髪 させ るような革命がない限 り,生産性が向上 す るこ とはない. もちろん 一国においてサー ビ ス業人 口が増加すれば,生産性の向上な くとも総 体 としては実質GNPは増加す る. 金融業や商業 なども同様 な性格 をもっているが, サー ビス業 よりは生産性の向上の余地がある.0
A
機器 などの設備投資によって銀行 などの生産性 の向上がなされているし,流通業などもそのため の投資が行 われている. 最近成長 しているコンピュー ターのソフ トウェ ア産業 は,商品の供給能力を高め る観点か ら考 え ると, いささか厄介である. ソフ トウェア産業は, それ をOA機器や ロボッ トなどに使用す ることに よって, 多 くの産業の生産性向上に大 き く寄与す る. ただ, ソフ トウェア産業その ものは,人間に 帰属す る 「知的労働」産業であ り,それ 自体の生 産性は現在 ではそれほど上がっていない. この ように考 えて くると,マネーサプ ライの増 加 に関係 して商品の供給力を高め,実質GNPの 増大の立役者は 「モノ」 をつ くる産業が 中心であ り,それがEyの値の上昇に寄与す る主因子 と考 え られ る.第1
次産業 (農業など) もモノをつ くる 産業であるが,現在の先進国では農業の 国民総生 産 に占め る割合 は非常に小 さ く,全産業 の2-5
%にす ぎない. したがって, これによる生産性の 向上は,全体 とすれば大 きく寄与す るこ とはない. 生産性向上によって商品の供給能力の 向上につ なが る代表業種が,製造業である.製造 業 は生産 設備の新鋭化によって生産性 を大 きく高 め ること が可能 であ る. この連鎖 によって,マネーサプ ラ - 75-3
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長野大学紀要 第13巻第4号 1992 図7 製造業のGDPの成長率 と労働生産性の向 上 との関係 製 造 業 の G D P の 成長率 (% ) 10 労働生産性の向上 (% )(注)OECDt'NationalAccountYearBook"お よび t'LabourForceStatistics"より作成。 イを通 じてEYを高め, ひいては実質GNPの成 長 を高めてい く(図 7). もちろん, この背景には 絶えまない技術革新の進行があ る (注9). 前稿で も強調 したように
,1
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年代以前におい ては,アメ リカにおいて も日本 同様E
yの値 は比 較的大 きか ったが,1
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年代以降になるとその値 は大 きく低下 しその代 わ りにE
pの値が上昇 した. その大 きな理由 として,経済のサー ビス化 ・ソフ ト化 ・金融化が急速に進み,そのことによ りマネ ーサプライの増加が実質GNPの増加 に寄与 しな いような体質になって しまった と考 えられ る. このような視点に立 って,国民所得 に占め る製 造業の比率 を日本,ア メ リカ, イギ リスについて みると図8
となる.3
国 ともその比率 は1
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年代 に入 ると低下傾 向にあ り,経済のサー ビス化 ・ソ フ ト化が進行 したこ とを物語っている. とくに, アメ リカ とイギ リスの落 ち込みは急速である. 日 本は8
0
年代になるとほぼ一定の水準 を保 っている. 既に述べ た 日本の高い貯蓄率や投資比率, さらに はマー シャルのk
の長期的上昇 な どを総合的に考 えると, 日本では 「モノづ くり」が健全に保 たれ た,著 しい成長力 を有す る国であ るということが で きる (注10). 図 8 日本 ・アメリカ ・イギリスの製造業の所得比率の推移 '68 72 76 '80 '84- 7
6-'88 西暦年山崎匡毅 貨幣供給量 と経済変数の変動 (2) もちろん, わが国のその ような経済体質の背景 には,それ を支 える諸因子がある.それ を若干あ げれば,急速 な技術革新の進行 とそれ を支 える教 育制度,企業の活力 を保持す る組織形態や金融支 援体制,勤勉 な国民性 ・高い労働 モラール,比較 的小 さい政府 と福祉 な どがあ り,それ らは経済成 長 を高め るのに都合のよい仕組 み となって存在 し ている.反面, そのこ とが先進国であ るに もかか わ らず
,
「真に豊か さを実感で きない国」といわれ る原因になってお り, そこにわが国の後進国的な 体質 を見出す ことがで きる. 結 び 前稿 と本稿 において,一国のマネーサプライの 影響 を実質国民生産,物価水準,マー シャルのk (流通速度の逆数)の3つの経済要素に分析 し, それぞれの弾性値Ey,Ep,Ekを算出 して,日本 とアメ リカについて分析 した. さらに,政策的視 点か ら,ケインズ的考 え方やマネタ リズムの妥当 性の検討 を交 えて, 日米の経済体質の特性 を考察 した. それ らを結論的にまとめ ると, まず前稿に おいては次の ようになる. ① 貨幣数量方程式の所得形式 を微分形に変換す ることにより,マネーサプ ライ増加の影響は,形 式的には実質 国民所得の増大,物価水準の上昇, マー シャルのkの変動の3つの近似値に分解 され る. ② ノそ の影響 の度合 は,それ ぞれの弾性値Ey,Ep
:E
kとい う比率 で表わされ,それ らの値は各国 の経済体質や経済状況によって異なる. ③ 日米の比較 において特徴的なことは,相対的 に 日本ではEY,Ekが大 き くEpが小 さいのに対 し て, アメ リカではEpが大 き くEy,Ekが小 さい. とくに,第1
次石油危機以降において, アメ リカ ではE
pの値が上昇 している.つ まり,マネーサプ ライに対 してインフレ的体質へ と変化 したわけで あ り, この事実がマネタ リズムの指頭 と深 く関連 していると考 えられ る. ① したがって,マネタ リス トの主張は,一般的 分析 とい うよ りむ しろ,アメ リカの経済体質 を中 心 とした特殊的分析 となっている.要す るに,マ ネタ リズムは, 日本 を含めたすべてのEl々に通用 す る一般的学説 とは思われない. 301 ⑤ マネタ リス トが主張す るように,インフレー ションは貨幣的現象である (自明の理). しか し, インフレー ションが生ず るメカニズムは一様では な く,種 々の因子や過程に依存す る. 次に,本稿 においては,マネーサプライにおけ るマー シャルのk(または, その逆数 としての所 得速度) と国民生産物の変動 を考察 し,次の点が 強調 された. ⑥ 所得速度 を長期的にみれば,経済の発展段階 に対応 して多 くの国に共通形状がみ られ る. Bordoらは, それを所得速度の「
U字形パター ン」 と呼んでいる. ⑦ 日本 は (旧)西 ドイツや イタ リア と共に先進 国 としては「
U字形パ ター ン」が妥当しない, ど ちらか といえば例外的国である. この理由 として, 3国 とも第 2次世界大戦の敗戦国であ り,敗戦に おいて金融制度等が崩壊 し, そのためにある種の 後進性- ある面では成長志向の強い体質- を 残 していると考 えられ る. ⑧ 低金利化の金融緩和時において,名 目GNP の伸 び率 に対 してマー シャルのkが相対的に上昇 す る際には,
「過剰流動性」 と呼ばれ る状 態が生 じ,土地 ・株式に投機現象が現われる土壌が形成 され る. ⑨ マネーサプライに伴 う国民生産物の変動につ いて,実質GNPの伸びは,主 として一国の設備 投資 などを中心 とす る投資の比率に依存す る. そ れは,同時に家計の貯蓄率 の大小に関係す る. ⑲ マネーサプライに対す る実質GNPの弾性値 E,の大 きさを規定す る因子は,主 としてその国の 産業構造や技術革新に依存す る.わが国のように 製造業の比率が高 く, また技術革新の速 い国では, 投資によるモノの供給能力や生産性の向上が著 し く,E,の値 は大 き くなる.一方,アメ リカのよう に,サー ビス化 ・ソフ ト化 ・金融化が進行 してい る経済にあっては,マネーサプライの増加はモノ の供給能力の増大に向わずに,む しろ物価上昇へ と向ってい く. 前稿 と本稿の分析 を通 じて以上の点が明 らかに なったが, さらに解決 しなければならない課題 も 多 く残 されている.主要 な ものを摘記すれば,吹 のようになる. 一つ 員として,通貨の所得速度はなぜ長期的に - 77-302 長野大学紀要 第13巻第4号 1992 はU字形 に な るのか. また, 日本 ではそれが なぜ 低下 しつづ け るのか, とい うよ うな問題 であ る. もし日本が成熟化すれば, それは将来本 当に上昇 す るのであ ろ うか.逆 に,上昇す るこ とが社会 の 成熟化 の条件 なのであろ うか. 二つ 目 として,マ ネーサプ ライに関連 して経済 成長力の源泉 とな る投資誘 因は何 か, とい う問題 であ る.例 えば 日卒の高 い投 資比率 が低金利政策 に よる もの なのか, いわゆ る 日本 型資本主 義や金 融制度 に よる ものか,速 い技術革新 に よる ものな のか, あ るいは もっ と他 の因 丁 勤倹 ・貯蓄 的 風 土- に よる ものか を明 らか に しなければ な ら ない. 三つ 目として
,
E
Yの値 の大 きさを決 め る主 因 を 製造業 の強弱や生産性 の大小 に帰着 させ たが, 多 分 に推論 的 であ る. この点に関 しては, マ ネーサ プ ライにお いて非製造業 の生産性 を考 慮 した, ち っ と広範囲 な分析 が必要 であ る.本稿 ではその段 階 には至 っていないが,E
,の値 を決定 す る因子 を 定量的 に把握 で きれば,金融 ・財政政策 において 極 めて有効 な手段 を得 るこ とが で きる. この点 も 残 され た大 きな課題 といえ る. (や まざき まさ き 教授) (1991.12.20受理) 〔注 および参照文献) (1)拙稿 「貨幣供給量 と経済変数の変動 (1)
」
(
r
長野大学紀要」第12巻第 2号,1991年).(2) M.D.BordoandL.Jonung,Thelong-nLnbeha v-iorof theveloci& of circukltion:Theinte ma-tionalevidence,CombridgeUniversity Press, 1987. (3)バブルの発生に伴い,土地-の投機が東京か ら地 方に波及 した事実は,興味深いことである.これに ついては 「平成 2年版国民生活白書1など参照のこ と. (4) このバブル崩壊がなぜ生 じたか,については今後 の研究が期待 される.株価の下落によって主要企業 の時価発行増資,転換社債 ・ワラン ト債の発行は困 稚 とな り,そのために設備投資の縮小が生 じ,実物 経済に悪影響 を与えるようになっている.
(5) M.Friedman and A.J,Shwartz,Moneta131 TrendsinikeUnitedStatesand Um'tedKl'ng・ dom ITheirRelation toIncome,Price,and ZnterestRates,1867-1975,TheUniversity of ChicagoPress,1982.
(6) W.Poole,MonebTy and ikeEconomy IA Monetan'stl々ew,Addison・WesteyPublishingC0.,
1987(佐藤隆三監訳 Fマネタ リズム入門j 日本経済 新聞社).
(7) 1970年代以降のアメ リカにおけ る貨幣 をめ ぐる 状況は,大 きく変化 したが,その変化の一端 を示す 代 表的 な もの と して,A.Smith,PaperMoney,
DeborahRogersLtd.,London,1981.,が興味深い. (8) 日本 の低金利要因には,政策面 と市場面 とがあ る.市場面か ら注 目すべ きことは,わが国特有 な高 株価形成 と株式の法人持 ち合 いである.そのため に,主要企業は,極端に低いコス トの資金 を手にい れることが可能にな り,企業の国際競争力が強化 さ れた反面,国際貿易摩擦の原因に もなっている. (9) 技術開発 を経済成長や経済の対応力については, F平成 2年版経済白書』第 2章において,かな り詳 しく分析 されている. (10)最近のバブルの崩壊に伴って 「モノづ くり」の大 切 さが再評価 されている.た とえば,解説書である が,牧野昇 F製造業は永遠ですj (東洋経済新報社, 1990年)が代表的なものである.