中心静脈穿刺手技と中心静脈(CV)ポート留置の実際
鶴 﨑 正 勝
近畿大学医学部放射線医学教室(放射線診断学部門)
Clinical Practice of Central Venous puncture and Central Venous Port Placement
Mas
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aki
,M.
D.
,Ph.D.
Department of Radiology,Kindai University Faculty of Medicine
抄
録
鎖骨下静脈穿刺は歴 的には安易にベッドサイドでランドマークテクニックにて行われてきた.いわゆる盲目的 穿刺である.その結果,患者を死に至らしめる重篤な合併症を引き起こし事故報告や医療訴 が相次いでおり,ほ とんどの事例において病院側が敗訴するとさえ言われている.こういった社会的事情を踏まえた配慮として,施設 内の安全管理規定を取り決める施設が増加している.精度の高いカテーテル技術を提供できる IVRistに依頼され ることも多くなってきた.本論文では,我々IVRistがおこなっているエコーガイド下中心静脈穿刺法の方法,コツ やピットフォールについて述べる. Key words:中心静脈,穿刺,中心静脈ポート,合併症 は じ め に 中心静脈穿刺は,1952年 Aubaniacによって報告 されて以来웋,経口摂取および経腸栄養が不能な病態 における高カロリー輸液,重症患者における中心静 脈圧測定・血管作動薬投与,悪性疾患患者における 抗悪性腫瘍薬の投与など,さまざまな臨床状況にお いて 用される医療技術のひとつである.その一方 で,カテーテル挿入時や留置期間中における合併症 も少なからず報告されており,医療事故や訴 に至 るケースもしばしば見られる.従来,中心静脈穿刺 は体表の解剖学的指標に基づいた盲目 的 穿 刺 法 (Landmark technique)が標準的な穿刺方法であっ たが,最近では安全性や確実性の点からエコーガイ ド下および静脈造影下での,いわゆる画像誘導下穿 刺法が標準とされている. 中心静脈ポート(以下,CVポート)は,血管内に 留置したカテーテルの近位端をポートに接続してシ ステム全体を皮下に埋没することにより体外に開放 される部位をなくし,感染リスクの低減や患者 QOL の低下を防ぎ,安全な外来化学療法や在宅での中心 静脈栄養管理を可能とするものである.さらに近年, 進行再発大腸癌症例に対する 5-FUの46時間投与を 必要とする FOLFOX,FOLFIRI療法が標準的治療 として導入され,外来化学療法を行うために中心静 脈ポートの必要性は増しており,他の癌種の化学療 法を含めてその普及には著しいものがある.本論文 では基本的な中心静脈穿刺法,CVポートの留置方 法を述べる. 中心静脈穿刺の歴 的背景 中心静脈穿刺法は,先に述べたとおり Landmark techniqueが基本であった.その方法は,解剖学的 察に基づく完成された手技であるものの워,成功率は 約90%と完全ではなく,10∼20%の合併症が存在す るとも言われる웍.その原因としては,血管の解剖学 的変異が約5%存在すること,栄養摂取不良や脱水 による血管虚脱が挙げられ,Landmark technique では手技に限界があると言わざるを得ない.一方, エコーガイド下穿刺法は1984年 Leglerらがドップ ラーエコーを用いた穿刺法を報告して以来웎,その有 用性は数多くの論文において報告され,そのエビデンスについては,FDAの下部機関である AHRQ (Agency for Health Research and Quality)や
BMJ(British Medical Journal)が Meta-Analysis によって明らかにしている웏.その内容は,リアルタ イムエコーガイド下穿刺では Landmark technique と比較して,①穿刺成功までの回数が少なく1回目 の穿刺で成功する確率が高い,②穿刺に伴う機械的 合併症の発生が低い,③ Landmark techniqueの経 験が少ない(50回未満)初心者において有効性が顕 著である,と高い有効性を示すものであった.これ ら の 報 告 以 前 に は エ コ ー ガ イ ド 下 穿 刺 と Land-mark techniqueによる大規模 RCT試験の報告も 存在し원,エコーガイド下穿刺における有用性は見ら れなかったとされているが,この論文で言われてい るエコーガイド下とは,事前エコー走査により血管 走行を体表よりマーキングすることを示しており, リアルタイムエコーガイド下とは異なることを付け 加えておく.また,これらの報告では内頸静脈を対 象としているものが多く,鎖骨下静脈に対するエコ ーガイド下穿刺に関するエビデンスは十 とは言い 切れない.静脈造影下穿刺法に関しては,1983年に 案され古い歴 を有しているものの웑,これまでに 高いエビデンスレベルを示す報告はなされていな い. 中心静脈穿刺,CVポート留置の手技の実際 1.穿刺部位 中心静脈穿刺部位としては,主に鎖骨下静脈,内 頚静脈,大 静脈が用いられる.それぞれの穿刺部 位では,①穿刺の容易さ,②穿刺に伴う機械的合併 症,③カテーテル留置に伴う合併症,など特徴が異 なっており,個々の症例に応じて最も適切な穿刺部 位を選択する必要がある(表1).具体的には,手術 室や ICU・救急現場においては穿刺の容易さ,機械 表쏯 挿入ルート別の長所,短所 ルート 特徴 鎖骨下静脈 大 静脈 内頸静脈 前腕静脈 上腕静脈 合併症全般 留置時の合併症が重 篤化する場合がある 死亡例も報告されて いる 留置時の合併症は ほとんどない 報告例が少なく不明 留置時の合併症は ほとんどない 報告例が少なく不 明 気 胸 可能性あり 可能性なし 可能性あり 可能性なし 可能性なし 動脈穿刺 血胸をきたす可能性 あり 局所の血腫形成 血胸をきたす可能性 あり 局所の血腫形成 局所の血腫形成 止 血 困難 簡単 簡単 簡単 簡単 リンパ管穿刺 左側穿刺の場合可能 性あり 可能性なし 可能性なし 可能性なし 可能性なし 留置時 血管穿刺 熟練を要す 超音波の 用が推奨 される 比較的簡単 熟練を要す 超音波の 用が推奨 される 直視下では容易 透視下では熟練を 要す 透視下穿刺が必要 大関節 大関節をまたがない Pinch-offの 可 能 性 あり 股関節をまたぐ 大関節をまたがない 肘関節,肩関節を またぐ 肘部でカテーテル 破損の危険性あり 肩関節をまたぐ 深部静脈炎 おこさない おこさない おこさない 頻度が高い 可能性あり 鎖骨下 静脈内血栓 可能性あり 症状が出にくい おこさない 可能性あり 症状が出にくい 可能性あり 症状が出やすい 可能性あり 症状が出やすい ポート留置部 乳房の大きい肥満女 性は立位でポートの 位置移動の可能性あ り 肥満例では,脂肪 の多い場所に留置 すると穿刺が困難 留置部位決定が困難 半袖の着衣で葉留 置部位が目立つ 留置部位決定が困 難 ポートの穿刺 簡単 肥満例では穿刺が やや困難 簡単 簡単 左側留置では剤で の穿刺がやや困難 穿刺時の 恐怖感 強い 羞 恥 心 の 方 が 強 い? やや強い なし なし
的合併症頻度の少なさから内頚静脈を選択するが, CVポートのように全身状態が安定しており長期留 置が必要となる患者においては感染や血栓など留置 に伴う合併症の少ない鎖骨下静脈や上腕静脈を選択 する.大 静脈穿刺は心肺蘇生中や上記部位からの カテーテル挿入が困難な場合に行われることが多 い. 2.必要器具 ほとんどの CVカテーテル,CVポートがキット 化されている.本邦で 用可能な代表的な CVポー トキットとしてアンスロン CVキット(東レ),デュ ークスポートキット(テルモ),オルフィスネオ CV キット(住友ベークライト),パワーポート MRIキ ット(メディコン)などがある.逆流防止機能のな いオープンエンドのデバイスは前2者である.後2 者は特殊な逆流防止システムを採用しているが,陰 圧をかけることによって逆血確認は可能である.米 国輸液看護協会(Infusion Nurses Society)から発 行されている Policies And Procedures for Inf u-sion Nursing웒には,Implanted Portの取り扱い項 目の中に,「10.Aspirate for brisk blood return to confirm patency(著者訳;血液を吸引し,スムース に逆流してくることで開存性を確認する)」と明記さ れている.よって逆血確認のため,オープンエンド のデバイスが推奨されるが,施設により主治医と施 行医の協議で判断すればよいと思われる(図1).要 は,術者や病棟外来での管理者の管理しやすいもの を選ぶべきであり,デバイスの取り扱いや管理方法 に習熟することが重要である.また,器具の事前の 準備も重要である.患者心理として,治療が短時間 で終ってほしいのは当然であり,途中で手技がもた つくと,不快感や苦痛が加速する.挙句,術者への 不信感も募る.したがって局所麻酔前にできる限り の準備を行っておく.筆者が行っている準備内容は, ポートやカテーテル類のプライミング,ダイレータ ー曲げ,手早く 換できるようにカテーテルを30 cm 程度に切っておく,逆血確認には必ず 3mlシリ ンジを用い穿刺針に接続しておく,持針器に糸針を セットしておく,IVR器具・切開縫合セット・薬品 類の確認,X線透視位置の設定である. 3.必要器材 超音波診断装置には,表在用の 5∼7.5MHzを 用する.ニードルガイドは必須ではないが,初心者 で針の視認が困難な場合は 用した方が安全な場合 がある(これについては後述する). 4.感染対策・消毒 消毒薬による手指消毒の後,マキシマル・バリア プリコーション(帽子,マスク,滅菌グローブ,滅 菌ガウン,滅菌ドレープを 用)に準拠して感染対 策を行う.皮膚面の消毒は,ポピドンヨードもしく はグルコン酸クロルヘキシジンによって穿刺部周囲 (頚部下部∼前胸部)を十 な範囲で行う. 5.エコーガイド下穿刺の方法 一言でエコーガイド下穿刺と言っても,プローブ 走査や穿刺にもさまざまな方法があり,穿刺部位や 施設によってもその方法は異なり,推奨はないが, 長軸走査のエコー像をもとにフリーハンドにて穿刺 が望ましい(図2). 1)短軸走査か長軸走査か: エコーガイド下穿刺では,2次元画像を見ながら 手技を行うため,血管の長軸(縦切り)像もしくは 短軸(輪切り)像のいずれかを描出して穿刺を行う こととなる.それぞれの方法には長所と短所があり, 短軸走査ではプローブ走査が容易で動静脈の位置関 係が把握しやすい反面,ニードルガイドを 用しな ければ針の位置確認が難しい.一方,長軸走査では 針の位置を常に確認しながら穿刺を行うことが可能 な反面,狭いビーム幅の中に穿刺針を通すのに慣れ が必要で,動静脈の位置関係が把握しづらいことも ある.長軸走査の方が穿刺針と静脈をエコーの1断 面像で常に確認することが可能なため,リアルタイ ムエコーガイド下穿刺としては理想的な方法であ る. 2)ニードルガイドかフリーハンドか: エコーガイド下穿刺を行う際,プローブに専用の アタッチメントを装着して穿刺を行う(ニードルガ イド)方法と,アタッチメントを装着せずに行う(フ リーハンド)方法がある.ニードルガイド法では, 標的穿刺が容易となるものの,穿刺角度や方向など の微調整ができないなどの難点がある.一方,フリ ーハンド法では穿刺針をエコーのビーム幅内で描出 しながら穿刺するのに若干の熟練を要するものの, 穿刺角度や方向の微調整を行うことができるため, 応用性が高い(図2). 図쏯 CVポートの製品特徴
6.エコーガイド下穿刺の実際 1)血管走行の確認: 穿刺を行う前に,静脈走行を確認して確実にエコ ー画像に描出する.鎖骨下静脈の場合,鎖骨下部に プローブを横向きに当て,やや正中側および頭側に 見上げるようにして走査する.鎖骨下動脈と静脈は 伴走しており,通常動脈は静脈のやや尾側の深部に 位置している.また,動脈は壁が厚く拍動している こと,静脈は壁が薄く呼吸性に径が変動し体表から の圧迫で径がつぶれることで区別可能である.患者 に息こらえをしてもらうと,静脈が膨張することが 多い(Valsalva法)が,特に鎖骨下静脈では Val -salva法の際,静脈径の変化に個人差があるために 注意が必要である.この時点で,静脈閉塞や血栓形 成が確認された場合には,穿刺経路の変 を 慮す る. 2)局所麻酔から穿刺: あてているプローブの外側より局所麻酔針を刺入 し,皮内から皮下にかけて 5ml程度の局所麻酔を行 う.この際,エコー画像で針の刺入角度を確認しな がら注入を行う.針の穿刺方向をプローブの軸と一 致させると,針全長をエコー画像内に描出すること が可能となる.次に穿刺部の皮膚に 3mm 程度の横 皮切を加え,静脈をエコーで視認しながら本穿刺を 行う.穿刺針が静脈を貫く際,エコー画像上で静脈 前壁が穿刺針に押されてへこみ,内腔に刺さった直 後に元に戻るのが見える.その後,シリンジで静脈 血が吸引されるのを確認する. 3)ガイドワイヤー挿入: 穿刺に成功したら,シリンジを外してガイドワイ ヤーを挿入する.この際,穿刺針から空気が流入す ることを防ぐために,患者に息こらえをしてもらう とよい.一連の操作はX線透視装置で位置を確認し ながら行い,抵抗を感じた時はガイドワイヤーが血 管外に逸脱している可能性があるため,無理にガイ ドワイヤーを進めることはしない.ガイドワイヤー が内頸静脈に先進する場合には,患者の顔を穿刺側 に向け頸を前屈させた状態でガイドワイヤーを挿入 しなおす.ガイドワイヤーが上大静脈にまで進んだ ら穿刺針を抜く.下大静脈にまでガイドワイヤーが 進めば,その後の処置の際に誤ってガイドワイヤー が抜けてしまう危険性が少なくなるため推奨される ものの,先端が右心室に接触すると不整脈を誘発す ることがあるため,無理に進める必要はない. 4)シース挿入からカテーテル留置: ガイドワイヤーに わせてダイレータを挿入し, 穿刺経路から静脈前壁を拡張する.抵抗があるのに 無理にダイレータを進めるとガイドワイヤーが折れ てしまい,トラブルの原因となるために注意する. CVポートキット付属のピールアウェイシースは逆 流防止機能を持たないものが多い.ダイレーター先 端を前もって曲げておくと,挿入後の経路を調節し やすい.挿入にあたり,シース外套が皮膚に引っか かってささくれ立たないよう,皮切を大きく開ける. 必ずX線透視下に挿入し,ガイドワイヤーが折れな いように注意する.ガイドワイヤーの過信は時とし て重大な有害事象(縦隔,血管損傷)の誘因となる からである.CVカテーテルの場合は,ダイレータを 挿入した後に,ガイドワイヤーに わせてカテーテ ルを挿入・留置し,静脈血の逆血を確認した後に生 理食塩水もしくはヘパリン加生食でカテーテル内を 図쏰 フリーハンドによる長軸穿刺 穿刺経路上に不 一な組織構造(□)が存在 する場合,針はいつも直進するとは限らない. このような事例には,針先の微調節(矢印) が必要であり,フリーハンド法⒜のほうがニ ードルガイド法⒝より重宝する.
充塡して針糸で固定する.最後に胸部単純写真を撮 影して,カテーテルの位置確認および気胸などの合 併症の有無を評価する.なお,ダイレータおよびカ テーテルを挿入する際には,遠位端よりガイドワイ ヤーの端を出し,ガイドワイヤーを把持しながら行 うようにする.ガイドワイヤーを把持しないで挿入 を行うと,ガイドワイヤーの血管内への迷入,先進 による血管・心損傷および不整脈誘発の危険性があ る. 5)ポート留置方法: 中心静脈穿刺の方法に関しては,上述のとおりで ある.中心静脈ポート用の留置カテーテルは柔らか いため,キットに付属のピールアウェイシースを挿 入した後にカテーテルを静脈内に挿入していく.次 にカテーテル刺入部より数 cm 下方の前胸部に約 3 cm 程度の横皮切を加え真皮まで切開剥離した後, さらに下方に向かってポートが入る程度の剥離を行 い,皮下ポケットを作成する.この際,モスキート やペアンなどの機械鉗子での剥離の後に,手指を用 いて鈍的に剥離を行うと出血が少なくなる.ポケッ トが完成したらガーゼを挿入して圧迫止血をしてお く( 用可能であれば電気メスで止血してもよい). 挿入してあるカテーテルエンドを切断し,皮下ポケ ット上端よりカテーテル刺入 まで皮下トンネルを 作成し,カテーテルを皮下トンネルまで導出する. この際,皮下トンネル部でカテーテルが折れて内腔 がつぶれないよう注意する.カテーテルの長さを調 節し,カテーテルとポートを接続した後にポートを 皮下で縫合固定し,皮下ポケット部を閉 する.最 後にポートを穿刺してシステム内をヘパリン加生食 で充塡し,X線透視でシステム全体の確認ならびに 合併症の有無を評価する. 7.エコーガイド下穿刺の Pitfall 1)プローブの操作: エコー画像で静脈が描出された状態で,プローブ を持つ手の尺側と第4・5指を患者の体に密着させ, 手技中にエコー画像が動かないようプローブを固定 するとよい.この際,プローブを強く押し付けすぎ ると圧迫により静脈内腔がつぶされてしまうため, プローブ自体は患者の体表に軽くあてる程度とす る. 2)穿刺時のエコー画像: 局所麻酔薬注入の際に,組織が膨張することによ り静脈が虚脱することがある.特に筋肉内に多量の 薬剤を注入すると,静脈圧迫をきたしやすいため注 意が必要である.また,局所麻酔針での試験穿刺は, 出血により周囲組織のエコー輝度が変化し,穿刺針 が視認しにくくなる可能性があるためにエコーガイ ド下穿刺では行わない.低栄養患者などでは,皮下 脂肪のエコー輝度が高くなっているために穿刺針が エコー画像で直接視認できないときもある.そのよ うな場合にも,針を細かく前後させることによって 周囲の組織が振動し,間接的に針の位置を確認する ことができる(キツツキ運動).エコー画像で穿刺針 の位置を把握せず,見えているふりをしながら穿刺 を行うことは非常に危険であり,厳に慎むべきであ る(筆者らはこれをエコーガイド下盲目的穿刺と呼 んでいる). 3)静脈穿刺: 静脈前壁の近くまで穿刺針が進んだら,エコー画 像で静脈を正面に捕らえていることを最終確認す る.その後,スナップを効かせてワン・ストローク で静脈前壁を貫くようにする.この際,ストローク を大きくしすぎると,動脈穿刺や肺損傷をきたす危 険性があり注意する.また,太い穿刺針になればな るほど静脈壁を貫くのが容易ではなく,特に脱水患 者では,ゆっくりと針を刺入しても血管壁がへこむ だけ,という状況があることを認識しておくべきで ある(図3). 4)ガイドワイヤー挿入: ガイドワイヤーが挿入困難な時は,①針先が血管 後壁や静脈弁に当たっている,②静脈外への迷入, ③静脈狭窄や血栓閉塞の存在,などが理由として えられる.①の場合,針先の位置を微調整すればワ 図쏱 (上)管腔内膜を完全に貫く:血管を穿刺す る際には,すばやく針を進め,管腔内膜を一 気にスパッと完全に貫く.エコー画像上で内 腔に入っているように見えても,内膜を穿刺 しきれずヒットしていない場合がある. (下)細い場合,虚脱している場合:血管が細 い症例や,血管内脱水により虚脱している場 合には,肋骨が当たるところまで針を刺入し, 後壁まで穿刺して,針を引き抜きながら内腔 をとらえる.
イヤー挿入が可能なことがあるが,②や③の場合に は再穿刺や穿刺部位の変 をしなければならないこ ともある.上記の状況がありえることを念頭に置き, 必要に応じて造影剤を 用し狭窄や閉塞の有無を確 認する. 5)空気塞栓の危険: 内筒を抜去した瞬間,外気が血管内に吸い込まれ ることがある.脱水例や咳嗽時に起こりやすい.稀 だが留置すべき有害事象である(<5%).突然の呼 吸困難,血圧低下,不整脈,意識障害によって発症 し,空気塞栓症と呼ばれる.殆どは酸素投与により 短時間で軽快するが,大量吸気時や右左シャントを 有する場合には,脳・心筋梗塞を来しうる.したが って内筒を抜去してからカテーテルをシースに挿入 する時まで油断禁物である.同様の危険な場面とし て,ガイドワイヤーやサーフロー内筒を抜去した時 が想定されよう.予防策としては,鉗子によるシー スクランプ,濡れガーゼによる外気との遮断,ハイ リスク例に対するヘモスタット・シースの 用など が挙げられる. 6)カテーテルの位置: カテーテル先端は上大静脈に位置するようにX線 透視下で調整する.右心房内留置では,心穿孔や心 タンポナーデが起こりうる.また,上大静脈の下半 部(気管 岐部より尾側のレベル)も心膜内に位置 しているため,このレベルの静脈損傷においても心 タンポナーデをきたす可能性がある.しかしながら, 右側からと左側からの留置においては推奨されるカ テーテル先端位置は若干異なる.右側からの留置で は,ZoneBが推奨され,左側からの留置では ZoneB にカテーテル先端があると上大静脈穿孔の危険性が 高いため,ZoneAもしくは ZoneCが推奨されるが, ZoneCでは血栓形成の危険性が高くなることを認 識しておく必要がある웓욹웋웋(図4). 合 併 症 CVポート留置に伴う中心静脈穿刺の手技に伴い さまざまな合併症が生ずる可能性があり,時として 致死的となることもある.エコーガイド下穿刺では, 従来の Landmark techniqueと比較して穿刺時の 機械的合併症は軽減すると言われているものの,こ れを完全に回避することは不可能である.穿刺経路 によって引き起こされる合併症の頻度も異なる(表 2).また,感染や血栓形成などの長期留置に伴う合 併症も発生するため,適切な対処が必要となる웋워욹웋원 (表3). 1.機械的合併症 1)動脈穿刺: 鎖骨下静脈,内頚静脈,大 静脈穿刺のいずれに おいても起こりうる合併症である.シリンジ内への 逆血が赤く拍動していることや,シリンジを外した 際に拍動性の血液噴出で確認できる.動脈穿刺をき たした際には,ただちに穿刺針を抜去して5 程度 の圧迫止血を行う.抗血小板薬内服や抗凝固療法中 の患者では,特に十 な止血を行う.部位としては, 穿刺部およびその中枢側の動脈を圧迫するのが一般 的であるが,鎖骨下動脈の場合には,圧迫止血が難 しいことがあり注意を要する(穿刺部レベルの鎖骨 をはさみこむようにして圧迫するとよい). 頸動脈 (内頚静脈穿刺)では気道圧迫による気道閉塞を,鎖 骨下動脈では血胸や縦隔血腫を,大 動脈では後腹 膜血腫をきたす危険性があり,止血に外科的処置や IVR(動脈塞栓術)を要することもある. 2)気胸:
Landmark techniqueで は,鎖 骨 下 静 脈 で 0.4∼3.1%,内頚静脈で0∼1.3%の確率で起こりう るとされる.シリンジ内に空気を吸引することや, 呼吸苦の出現が気胸を疑う所見となる.処置直後の 胸部単純写真にて明らかなこともあるが,少量の気 胸は仰臥位での単純写真では確認できないことがあ り,また遅発性に気胸が顕在化することもある.こ のため,気胸が疑われる場合には立位での胸部単純 写真にてフォローアップすることが重要である.無 症状で少量の気胸の場合,60%が自然治癒すると言 われているが,有症状である場合や,改善傾向が見 られない場合には胸腔ドレナージの適応となる.ま 図쏲 カテーテルの先端位置웋웑 表쏰 CVCルートによる合併症の確率웋웎웦웋웏 物理的合併症 内頸静脈 鎖骨下静脈 大 静脈 動脈穿刺 6.3∼9.4% 3.1∼4.9% 9.0∼15% 血腫形成 0.1∼2.2% 1.2∼2.1% 3.8∼4.4% 血胸 0.4∼0.6% 気胸 0.1∼0.2% 1.5∼3.1% 感染 4.5% 19.8% 敗血症 1.5% 4.4% 血栓形成 1.9% 21.5%
た,少量であっても人工呼吸管理中の患者や全身麻 酔による手術前の患者の場合には,陽圧換気により 気胸が増悪する可能性が高いため,胸腔ドレナージ が必要となることが多い. 3)空気塞栓: 吸気時に胸腔内圧が陰圧になり,大気が静脈内に 吸い込まれることによって起こる稀な合併症であ る.脱水により静脈圧が低い場合や,咳嗽時,呼吸 不全のために努力様呼吸をしている患者に起こりや すい.少量の空気塞栓では症状がでることは少ない が,多量になると呼吸苦が出現することがあり,右 左シャントがある場合には少量であっても動脈塞栓 (脳梗塞や心筋梗塞)を発症することもあるため注意 が必要である.予防法としては,手技中には穿刺し た静脈がなるべく大気中に開放される時間を短くす る,呼気時にガイドワイヤー挿入などの処置を行う ことである.合併症発現時には酸素投与や,頭低位・ 左側臥位にして右心室への空気流入を防ぐなどの処 置を行う.また,カテーテル抜去時に留置されてい た穿刺孔より空気塞栓をきたしたという報告があ り,透析用・Swan-Ganzなどの大口径カテーテルの 際に危険性が高くなる.できればカテーテル抜去は 吸気時には行わず,呼気時に軽い息止めをした状態 で行うとよい.抜去後には数 間は用手圧迫止血を 行い,しっかりとテープで被覆しておく. 4)その他: まれな合併症として,胸肩峰動脈 枝動脈損傷(図 5)や左内頚静脈や左鎖骨下静脈穿刺に伴う胸管損 傷・乳糜胸,内頚静脈穿刺に伴う腕神経損傷,胸腔 表쏱 鎖骨下静脈穿刺法の合併症웋웍웦웋원 誘導画像 静脈造影 リアルタイムエコー 実施施設 愛知県がんセンター 国立がんセンター 症例数 232件/5年(1998∼2005) 505件/1年(2006∼2007) 治療目的 大腸癌化学療法 がん化学療法,がん緩和 気胸 0.4% 0.4% 動脈穿刺 ― 0.4% 術 中 術 後 呼吸困難 ― 0.4% 穿刺不成功 ― 1.6% カテ先の位置異常 ― 0.2%(内胸静脈) 有 害 事 象 感染 0.8% 1.0% 血腫 1.2% 0.8% カテーテル損傷 2.0% 0.8% フ ォ ロ ー ア ッ プ フィブリンシース 0.8% 0.4% ポート反転 1.2% 0.2% カテーテル逸脱 1.2% 0.6% 図쏳 胸肩峰動脈損傷の解剖学的機序 胸肩峰動脈胸筋枝(ATA)は胸筋に って鎖 骨下静脈の表層を走行している.USでその 存在は確認することができる場合があり,穿 刺を避ける必要がある. 矢印は穿刺方向 ATA:胸肩峰動脈
内誤留置,大 静脈穿刺に伴う大 神経損傷などが 挙げられる. 2.長期留置に伴う合併症 1)感染: 穿刺部位の常在菌からの汚染やカテーテル接続 部・輸液の汚染のほか,血行性感染などが原因とな り,鎖骨下静脈<内頚静脈≦大 静脈の順にリスク が高くなる.非特異的な感染徴候(発熱,白血球増 多,CRP上昇)があり,他に感染原が特定できない 際に疑われるが,挿入部の発赤や排膿,点滴時に悪 化する感染症状を有する場合は,カテーテル感染を 強く示唆する所見である.カテーテル感染が疑われ た場合には,直ちにカテーテルを抜去し経験的抗生 剤の投与を行う.カテーテル抜去の際にはカテーテ ル先端を培養に提出し,原因菌の特定を行った後に 至適抗生剤の投与を 慮する.なお,中心静脈カテ ーテル留置の際の予防的抗生剤投与の有効性は示さ れておらず,感染予防のための皮下トンネル作成は 内頸静脈留置でのみ有効性が示されている. 2)血栓形成: 血管内への異物留置により必然的に血栓形成は起 こりうる.鎖骨下静脈<内頚静脈<大 静脈の順に リスクが高くなるとされ,鎖骨下静脈と比較して内 頚静脈は4倍,大 静脈は10倍のリスクがあるとも 言われる.血栓形成が臨床症状を呈することは少な いものの,カテーテル感染と強い相関関係があり, 静脈炎・静脈閉塞,肺塞栓を引き起こすことも知ら れているため,血栓形成が確認された場合には留置 カテーテルを抜去し,必要に応じて抗凝固療法や血 栓溶解療法を行う. 2)その他: まれな合併症として,カテーテル位置異常(奇静 脈や上行腰静脈への迷入),フィブリンシース形成 (カテーテル周囲にフィブリン膜が覆い,注入薬剤の 停滞や皮下漏出をきたす),鎖骨下静脈留置に伴うピ ンチオフ(鎖骨と第1肋骨にはさまれたカテーテル が機械的な磨耗により断裂をきたす)などが起こり うる. 静脈造影下穿刺について 静脈造影下に鎖骨下静脈をX線透視下で穿刺し, カテーテル留置を行う方法である.著者は,放射線 被曝や医療経済上の観点よりエコーガイド下穿刺を 第一選択とし,これが困難であった場合に静脈造影 下穿刺を行うこととしている.まず,穿刺側の静脈 確保(尺側皮静脈がよい)を行い,ヨード造影剤を 注入し腋窩∼鎖骨下静脈をX線透視にて描出・確認 しながら穿刺を行う.第1肋骨に当てるようにして 穿刺すれば,肺への誤穿刺を防ぐことができる.ま た,穿刺針が静脈に近づくと静脈壁の圧排により造 影剤の挙動が変化するため,穿刺針位置の指標とな る.静脈血の逆血を確認した後は,エコーガイド下 のカテーテル留置と同様の方法で留置を行う.橈側 皮静脈から静脈確保を行い,造影をしても腋窩∼鎖 骨下静脈の描出が乏しい場合には,上腕を軽く駆血 することで表在静脈からの還流が減少し描出がよく なることが多い. ま と め 鎖骨下静脈経由 CVポート留置術の実際を述べ た.中心静脈(CV)ポート留置法において,鎖骨下 静脈経由は最もよく行われている血管アクセス法の 一つであり,内頚静脈経由とともに CVポート留置 以外でも種々の IVRに用いられる基本的手技であ る.成功の秘訣は,リアルタイムエコー,透視ガイ ドを基本とし,設備のある場所で行うこと,解剖学 的事項,手技や合併症に熟知することである.その 他にも,術前に十 な説明を行い,同意書を取得す る.入室から退室まで患者の接遇に気を付ける,な ど注意点は多い.また,今回は紙面の都合上割愛し たが,留置手技とともに管理が重要であることは言 うまでもない. 参 文 献
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