<論説>損害防止費用負担義務形成史序説--わが国学説にみる海上保険成立過程と法形成史のなかで
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(2) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 1号. はこれを任意規定と解し,保険者によって作成された損害防止費用負担に 2 ) 。保険者 関する知何なる約款についてもそのすべてに効力を認めている (. が損害防止費用を全く負担しない旨約定した損害防止費用全額不担保約款 をはじめ,他の填補額と合算して保険金額を限度として負担する同費用一 部不担保約款,応急の措置による費用,保険者の指図によって支出した費 用,消化剤の補充費用を他の填補額と合算して保険金額を超える場合でも 全額負担する旨定めた約款にいたる,すべてが有効となる O そのため,保 険者の大部分が,損害防止費用不担保約款を設け,右費用の負担を免れる という状況をもたらしている (30 損害保険法制研究会により作成, 1 9 9 5年に公表された損害保険契約法改. ( 1 ) フランス保険契約法 4 2条や台湾保険法 3 3条のように損害防止費用負担義務の. み規定する立法もあるが,ほとんどの制定法が損害防止義務と損害防止費用負 担義務の両義務をあわせて規定している。. 9 9 5年に公表された損害保険契約法改正試案を作成する際にも,損 わが国が 1 害防止義務と損害防止費用負担義務に関する規定を設けるスイス保険契約法, ドイツ保険契約法,イギリス海上保険法,イタリア民法典,スウェーデン保険 契約法,デンマーク保険契約法,ノルウェ一保険契約法という多数の立法例が 参照された(損害保険法制研究会編『損害保険契約法改正試案 傷害保険契約. 9 9 5年確定版I J6 5, . . ,6 8頁(財団法人 損害保険事業総 法(新設)試案理由書 1 9 9 5年)。 合研究所, 1 ( 2 ) 青山衆司『保険契約論上巻(第三版)J12 6 9頁(巌松堂書店, 1 9 2 0年),加藤 J7 9頁(巌松堂書庖, 1 9 3 7年),小町谷操三『海上保険法穂論 由作『海上損害論I 二 海 商 法 要 義 下 巻 五I J5 5 6頁(岩波書庖, 1 9 5 4 年),今村有『海上損害論」 2 3 2頁(巌松堂書庖, 1 9 6 3年),野津務『新保険契約法論(保険法論集第二巻)J1 2 5 9 " " " ' 2 6 0頁(野津務保険法論集刊行会, 1 9 6 5年),葛城照三『海上保険入門J11 6 3 頁(海文堂, 1 9 6 7年),古瀬村邦夫「損害防止義務一ーその立法上の問題点一一」 2 1頁(損害保 損害保険事業研究所編『創立四 O周年記念 損害保険論集』所収 2 9 7 4年),田辺康平『新版現代保険法I J8 4頁(文員堂, 1 9 9 5 険事業研究所, 1 年),西島梅治『保険法〔第三版J J I2 1 2 " " " ' 2 1 3頁(悠々社, 1 9 9 8年 ) 。 ( 3 ) 古瀬村・前掲注( 2 ) 2 2 1頁,木村栄一「損害防止義務に関する商法六六O条の規 定について」吉永築助編『田中誠二先生古希記念現代商法学の諸問題』所収. 2 1 6頁(千倉書房, 1 9 6 7年)。 - 2 6(173)一.
(3) 損害防止費用負担義務形成史序説 正試案(以下,. r 改正試案」という)においても,その 6 6 0条 2項に,損害. 防止費用については,損害填補額との合計が保険金額を超えるときでも, 保険者の負担とする旨規定されている ( 4 ) 。その内容は,商法 6 6 0条 l項但書 と何ら異なるところはな L、。そのうえで,同改正試案では,. 6 6 3条の 3を. (。 もって,右規定を任意規定と明示している θ. このような法規定と保険約款との講離は,従来から指摘されてきたとこ ろである O 法規定を解釈するにあたって,保険約款の存在は無視できな L、。むしろ,法規定の解釈知何によっては,保険契約は法ではなく,保険. 約款によって規整されることになる。わが商法 6 6 0条 l項但書は,その典 型といえる。それゆえ,実際には保険者による損害防止費用負担の行われ. 6 0条 l項但書と異なる保険約款の有効性 ていないわが国にあって,商法 6 。 、 については異論もあり,右但書の強行性如何を含め,議論が尽きな L このような問題は,保険制度全体の形成過程や,制度内在的な要因のみ ならず,これを取り巻く社会的な文脈のなかに位置づけたうえで,考察さ れるべきものであり,単なる解釈論の当否に尽きるものではない。とりわ け,損害防止義務と損害防止費用負担義務についての商法上の条文と,保 険約款により実現される具体的な保険契約の実態に,既述のような帯離状 況が生じているわが国において,当該問題について考察をするためには, このようなマクロな視点からの再検討が必要となろう ( 6 ) 。. 位) 損害保険法制研究会編・前掲注(1)6 5頁 。. ( 5 ) 古瀬村・前掲注( 2 ) 2 2 1頁,西島・前掲注( 2 ) 2 1 3頁は,これを支持する。これに. 対し,山下友信教授は, r 損害防止費用をそもそもてん補しないものとする約款 を用いる保険種類もあるが,損害てん補義務をどこまで認めるかは契約自由の 問題であり不当視すべきではない」としながらも, r もっとも,損害防止費用の てん補をする場合としない場合とでは損害防止義務の内容に自ずから差異が生 じるのではないかと思われる」と述べる(山下友信『保険法J4 1 5頁(有斐閣, 2 0 0 5年 ) ) 。. -2 7(172)-.
(4) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 l号 保険制度の存在を前提として,右制度に加入することを目的に締結され るのが,保険契約である。保険契約は,保険という経済制度を形成するた めの手段であり,保険制度を権利・義務のシステムとして再構築するため の法律形式である ( 7 ) 。保険契約の締結によって,法律上,契約約款上発生 する損害防止義務および損害防止費用負担義務もまた,保険制度と密接に 関連していることは否定できない。それゆえ,保険制度の形成ないし当該 過程において誕生してきた,さまざまな法や約款のなかで,損害防止義務 および損害防止費用負担義務がどのように規定されてきたのかについて考 察することは,保険制度における損害防止義務の必要性,また法が損害防 止義務および損害防止費用負担義務を規定する意味を理解するうえで重要 な論点であることは間違いな L 。 、. ( 6 ) このような見地から,筆者は,これまで商法6 6 0条 1項に規定する損害防止義. 務および損害防止費用負担義務について,特に損害防止費用不担保約款の有効 性に主眼を置きつつ,二つの側面から考察を行ってきた。第一に,損害防止費 用負担義務を,新たに保険市場との関係から再検討することにより,当該規定 が保険制度におけるモラル・ハザード防止策であるとする経済学的検証を得た 6 0条」産 (この点については,拙稿「モラル・ハザード防止規定としての商法6. 2巻 1号3 9頁以下(19 9 8年)および同「保険契約におけるリスク対応原 大法学 3 理一一逆選択およびモラル・ハザード防止という側面から一一」日本リスク研 3巻 1号6 5頁以下 ( 2 0 0 1年)参照)。第二に,第一の観点を踏まえた, 究学会誌 1 わが国通説による解釈と,各国制定法における規定およびその解釈との比較考 察である(この点については,拙稿「イタリア法における損害防止義務」保険 6 7号 1 7頁以下(19 9 9年),同「中国保険法4 1条に関する一考察一一損害 学雑誌 5 3 6号 2 5頁以下 ( 2 0 0 1年),同 防止義務の解釈をめぐって一一」生命保険論集 1 「損害防止義務に関する台湾保険法の規定と約款規制一一法改正による損害防 6巻 4号 1頁以下 ( 2 0 0 3 止費用不担保約款禁止にいたるまで一一」産大法学 3 年),および同「ドイツ保険契約法6 3条と普通取引約款規制法一一損害防止費用 1巻 3・4号4 7頁以下 ( 2 0 0 4 不担保約款の有効性をめぐって一一」近畿大学法学 5 年)参照。なお,これらを総合的に考察したものとして,拙稿「保険契約にお ける損害防止義務一一保険市場に内在するモラル・ハザード防止機能という観. 8 5頁 ( 2 0 0 5年))。 点から一一 J私法的号 1 ( 7 ) 西島・前掲注( 2 )4頁 。 - 2 8(171)一.
(5) 損害防止費用負担義務形成史序説. しかしながら,このような研究を行うためには,各国の保険契約にかか る法制度を対象として,判例をはじめとする膨大な一次資料を渉猟するこ とに加え,個々の保険約款およびその運用を含めた保険実務の歴史的変容 について検討することが必要となる。 それというのも,保険法制自体は,保険制度との関係でアプリオリに存 在するものではなく,歴史的かつ具体的に形成されてきた現実の保険制度 を法的に規整するために創設されたものであると考えられる O そうである ならば,保険立法やそれを具体化する約款等についての解釈学説を展開す るに際しては, これら法制度上の基礎となっている保険制度そのものにつ いて,一定の理解を前提とする必要があろう O そこで本稿では,かかる検討の予備的作業として,わが国において展開 されてきた海上保険制度発祥とそれに伴う法・約款形成史と,そのなかで 考察されてきた損害防止義務および損害防止費用負担義務をめぐる学説の 整理に焦点を当てる O その理由は,次の通りである O なぜなら,保険制度 の起源が海上保険に存することについては一般に異論がない以上(8) 損害 防止義務および損害防止費用負担義務が海上保険制度上,いかにして成立 し,またどのような位置づけを与えられていたのかについて整理しておく ことには,少なからぬ意義が存するはずだからである。 以上のように,本稿での対象となる検討範囲および考察の素材自体は, 必ずしも十分なものとはいい切れな L、。だが予備的作業とはいえ,わが国. ( 8 ) 小島目太郎『現代経済学全集第 1 9巻 保 険 学 要 論J2 1 4頁(日本評論社, 1 9 2 9. 年),小島昌太郎『保険学総論J3 1 4頁(日本評論社, 1 9 4 3年),鈴木祥枝『海. 0頁(各務記念財団, 1 9 5 0年),葛城昭三『海上保険 上保険と共同海損の実際J1 9 7 3年),近見正彦『海上保険史研究一一 講義要綱J 4頁(早稲田大学出版部, 1 1 4・5世紀地中海時代における海上保険条例と同契約法理一一 J 1頁(有斐閣, 1 9 9 7年),水島一也『現代保険経済〔第 7版)J3 3頁(千倉書房, 2 0 0 2年)。 寺田四郎博士は,当初からその研究論文で「生命保険,火災保険,海上保険ノ. - 2 9(170)一.
(6) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 1号 の先行研究を通じて,海上保険制度およびその法形成史の一部を遡ること. 60条 は,保険制度および保険立法史に照らして,商法 6. 1項 を 取 り 巻 く 実 状. と,そこから生じたこれらの疑問に対する回答を得るための橋渡しとなる ものと考えられる。または,その解決につながる端緒を掴むことができる かもしれない。. 第 2章海上保険の成立と海上保険法制の形成. 第 1節 海 上 保 険 の 生 成 今日においては,保険の種類は多岐にわたるが,そのなかで最初に誕生 した保険が海上保険で、あることに異論はな L、。しかしながら,その起源に 9 ) 。海上保険の淵源をめぐっては つ い て は , い ま だ 明 確 と は な っ て い な い(. 5世紀 四説が展開され,またその発祥時期に至っては古代説にはじまり, 1 説まで諸説さまざまである ω)。 海上保険の淵源をめぐっては,投荷説または共同海損説,海上貸借説,. コンメンダ CCommenda)説および家族団体説と,その見解は分かれる ω。. 、等の中,海上保険は最先登に費生し護達したのである」と述べている(寺田四 郎「保険業及び保険法の嬰遷(ー) J生命保険曾社協曾曾報 1 1巻 l競 2 5頁および J法学新報 4 0巻 3競8 5頁(19 3 0年))。小町谷操三博士 同「海上保険起源論(ー ) も同様に,その著書に「海上保険が現代の築利保険の始祖であることは,周知 の事賓である」とする(小町谷操三『海上保険法線論ー海商法要義下巻四J 1 1頁(岩波書庖, 1 9 5 3年 ) 。 海上保険は総ての保険の中最も古い沿革を有つ さらに藤本幸太郎博士は, I ものであるから,その由来,起源を検討することは,やがて保険そのものの沿 革を明らかにすることであり,文兼ねて,保険そのものの原理を考察する上に も非常に参考となるであろう」と述べている(藤本幸太郎『商学全集第 2 4巻 7頁(千倉書房, 1 9 3 0年)。また博士は,藤本幸太郎『海上保険の 海上保険論Jl1 常識Jl 3 8頁(千倉書房, 1 9 4 1年)でも同様に述べている。 ( 9 ) 小町谷・前掲注( 2 ) 11 頁,小町谷・前掲注 ( 8 ) 11 夏,葛城・前掲注( 8 )4頁 。. - 3 0(169)一.
(7) 損害防止費用負担義務形成史序説. そのうち現在の通説となっているのは,海上貸借説である ω 。右説は,ギ リシャ,ローマ時代から地中海地方において盛んに行われていた海上貸借 または冒険貸借とよばれる金銭の特殊な貸借形態から転化したものが,海 1 0 ) わが国における海上保険の淵源およびその発祥時期に関する研究として,寺 田四郎博士による「保険業及び保険法の襲遷」生命保険曾社協曾曾報 1 1巻 1披 1 3頁以下, 1 1巻 2競 1頁以下, 1 1巻 3競 1頁以下,同「海上保険起源論」法学 新報4 0巻 3競 8 5頁以下, 4 0巻 4競 7 2頁以下, 4 0巻 5競 1 0 5頁 , 4 0巻 6競 1 0 3頁以 下 , 4 0 巻 7競 1 3 5頁以下, 4 0巻 9競 8 7頁以下,同「海上保険の起源」法律論叢 7 巻 5競 1 7頁以下,同「英園海上保険の起源」法律論叢 9巻 4披 3 3頁以下, 9 巻6 競4 1頁以下,同「中世欧洲に於ける海上保険の起源」保険皐雑誌 3 1 8 披 l頁以下, 同「近世保険の起源」保険皐雑誌 3 2 1競 l頁以下, 3 2 2競 3 7頁以下,同「海上保 険義生史論」保険皐雑誌 3 5 7 競 1頁以下, 3 5 8 競 1頁以下, 3 5 9号 1頁以下, 3 6 0競 l頁以下, 3 6 1競 1頁以下, 3 6 2競 1頁以下, 3 6 3 競 1頁以下, 3 6 4 競 l頁以下, 3 6 5 競 l頁以下, 3 6 6競 6 5頁以下, 3 6 7 競 1頁以下, 3 6 8競 1頁以下, 3 6 9 競 l頁以下 ( 19 3 8 " " " 1 9 3 9年)および同「海上保険発顕地考一一海上保険法史のー断面 - J 上智法学論集 2巻 1・2号合併号 1 6 7頁以下, 3巻 1号 1 4 1頁以下 3巻 2号 1 3 3 頁 以 下 4巻 l号 1 1 9頁 以 下 5巻 1号 1 0 3頁以下, 6巻 1号 2 9頁 以 下 に い た る,一連の非常に轍密かつ壮大な研究がある。本節は,これらの研究によると ころが大きい。. 1 n 海上保険の淵源をめぐる学説については,寺田・前掲注1 0 ) (法学新報 4 0巻 3 競) 8 7 " " " 1 0 6頁,同「海上保険養生史論(ー)J保険皐雑誌 3 5 7競 3 1 0頁(19 3 8 年),同「海上保険費生史論(二) J保険皐雑誌 3 5 8競 1, . ,1 3頁(19 3 8年)および 同「海上保険費生史論(三) J保険皐雑誌3 5 9競 1" " " 1 0頁(19 3 8 年)を参照した。 " , , :. 寺田四郎博士は,当初,海上保険の淵源をめぐる学説は,投荷説または共同 海損説,海上貸借説および家族団体説の三説としていたが(法学新報4 0巻 3披. 8 7頁以下),のちにコンメンダ説を加えている(保険皐雑誌 3 5 7競 3頁)。 1 2 ) わが国の海上保険に関する文献をみても,これに異論を唱える学説は皆無で ある(寺田・前掲注 保険皐雑誌 3 5 9競 1 0 1 2頁,小町谷・前掲注( 2 ) 12 頁,小町 谷・前掲注 (8)1 2 頁,椎名幾三郎『海上保険論~ 2 7 8頁(千倉書房, 1 9 3 8 年),小 島・前掲注( 8 )( 19 4 3年) 3 1 4, . ,3 1 5頁,勝目弘『海上保険〔改訂新版H 8頁(春 秋社, 1 9 5 5年),藤本・前掲注(司(19 4 1年) 4 1頁 , 藤 本 幸 太 郎 『 新 版 海 上 保 険~ 1 2 " " " 1 5頁(千倉書房, 1962年),加藤由作『海上保険新講~ 1 9頁(春秋社, 1 9 6 2年),水島・前掲注( 8 ) 3 4頁。. ω. 葛城照三博士は,海上保険の「起源の問題は,正確にいえば,不明であると いった方が安全である」としながらも,右保険が「共同海損から転化したとい う少数説もあるが,海上貸借即ち後に冒険貸借と称せられたものから保険貸借ノ. - 3 1(16 8 ).
(8) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第. l号. 上保険であると考える。 海上貸借とは,船舶所有者,荷主もしくはその代理人が発航に際して, 当時のいわゆる資本家から船舶または積荷を担保として,特定の航海ある いは一定の期間,金銭を借り受けるのだが,その航海中あるいはその期間 内において,海難や盗難に遭遇し,航海を継続することが不可能となった 場合には,その損害の程度に応じて,債務の全部または一部の弁済が免除 されるという制度である。反対に,航海を完遂し目的地に到達した場合に は,元金に加え,その二割四分から三割六分にあたる利息を返済しなくて はならない。一般の消費貸借における利息が一割二分から一割八分の当 時,海上貸借におけるそれが非常に高額であったことが知れる o これは, 資本家の海上危険負担の報酬が包含されているためである O この古代に行われていた海上貸借の制度が,近世における冒険貸借なら びに海上保険の前身をなし,その進化・発展の最終形態が,今日の海上保 険制度であるとする海上貸借説は,航海の危険を他の第三者に転化する方 法を発見するようになったのが,右制度に始まることにその根拠をおく尺 しかしながら,海上貸借ないし冒険貸借制度は,主として当時の商人が信 用を享受するための要具であって,危険転嫁の職分は,単にその副次的な. 、文は準保険に脱皮し,これから海上保険に蝉脱したか又は官険貸借から一足飛 2 )5頁,葛城・ びに海上保険に転化したというのが通説である J(葛城・前掲注( 前掲注侶.)4 " " ' "5頁)。同様に,坂元毅『新訂海上保険J I1 5頁(文雅堂銀行研究 社 , 1 9 6 3年 ) 。 海上保険は他の保険より早く護達したことは明らか ただ,鈴木鮮枝博士は, I であるが,果たして何年頃から始まったものであるか,或は海上輸送に閥聯す る共同海損から縛化したと云い,或は冒険貸借(船が無事錦港したら何倍かに して返えして貰うが,船が蹄えらなければ貸主は返済を受けぬと云う僚件の貸 金)から護達したものだと云う諸説があって明確ではない」とする(鈴木・前 8 ) 10 頁 ) 。 掲注( u 3 ) たとえば,藤本・前掲注u 2 ) 1 1' "1 2頁 。. - 3 2(1 6 7 )一.
(9) 損害防止費用負担義務形成史序説 効果にすぎなかった ω 。ただ,このように商人の信用享受という側面が非 常に色濃い制度ではあったけれども,海上貸借ないし官険貸借に際して は,なるべく多数の船主の間で少額ずつの資本に分割されるようになり,. A t o m i s i e r u n gd e rG e f a h r )Jが 成 立 す る よ う に そこに「危険の原子化 C なっていったとされている ω 。 葛城照三博士は,海上貸借または「冒険貸借から直接海上保険が生まれ るか,或は冒険貸借から保険貸借が生れ,保険貸借から海上保険が生れる ことは自然の成り行きである」としたうえで,右制度における「貸主も, 冒険貸借や保険貸借を永年に亘って多数に行なえば,大体の損害率を発見 し,利子又は危険負担料として受取った金額が返済を受けない資金を償う のに十分であるかどうかを予見することができたであろう。ここに至って 従来の利子又は危険負担料は純然たる保険料となって,正味保険料と損害 填補金とが均衡を得るならば,それは真正な海上保険と認むべきである」 6 )。 と明言する 0. その後,この海上貸借ないし官険貸借は,無償貸借,仮装売買へと姿を 変えながら,海上保険の基礎を培っていった仰。加えて,これら海上貸借 または冒険貸借をはじめとする契約内容は,既にその実体において損害填. ω たしかに,海上貸借ないし冒険貸借は普通の貸借と異なり,この貸借は付た んに海上輸送の場合にのみ行われる特質を有すること, ω その債権は海上危険 にさらされるものであること,同債務の弁済は当該船舶が無事に到達すること を条件とすること,および同海上危険を負担する者は債務者でなく債権者であ ることをその特徴として掲げることができるものの,やはりそれは海上保険を 目的としたというよりはむしろ商人に必要な信用を付与するために有用な役目 を果たしたのである(藤本・前掲注ω12 頁 ) 。 ( 1 5 ) 藤本・前掲注ω12 頁 。 0 6 ) 葛城・前掲注(司 7頁,葛城・前掲注( 8 )6頁 。 仰 1 2 3 0年頃に時のローマ法王グレゴリウス 9世により発布された徴利禁止令と 抵触するという理由で海上貸借ないし冒険貸借が禁圧されるにいたったため, 代替制度として誕生したのが,無償貸借である。この形態では,海上貸借またノ. - 3 3(16 6 )一.
(10) 近畿大学法学. 第5 3巻第 1号. 補の契約と変わらないことから,純然たる海上保険契約が現出するまでに は , それほど年数を要しなかったと考えられている ω。そして現在では,. 4世紀にその成立をみるというのが通説である ω 。 1 4 海上保険については, 1 世紀当時,海上商業の中心都市であったイタリアのジェノヴァ, ピサ, 、は冒険貸借制度とは違って現実に資金の融通が行われることはないのだ、が,無 償の資金貸借関係があるかのごとく擬制し,その返済を海難発生の場合に限 る。海難にあった場合に「返済」されるのが事実上の保険金に相当し,契約上 の借主が保険者,貸主が被保険者になる。しかしながら,右制度においても利 息の推定は免れないということで,やがて売買を仮装し,危険負担の効果をあ げようとする工夫がなされるようになった。これが,仮装売買とよばれる制度 である。右制度のもとでは,保険者に相当する者が被保険者に当たる者から積 荷を買い入れたこととし,航海途中に事故が発生した時だけ,保険金たる売買 代金を支払うのである(水島・前掲注侶) 3 4 3 5頁)。. @二i) 長議今. │. i1 ( 官 ! こ ). 制償. 筆~. @二~ 図. 海上保険への道程. 1221tgFJ. 航海終了の 場合のみ, 元利返済。 全損の場合, 返済なし。. 、 、 時金い 難代払 海“支 、 、 、 、 , 〆 、、,,,,, FIli-‘ -1. 告二i). 守一主一 一 主-Illl1. ~ -[ 無 償 貸 借 ] 一 一 一 → [ 仮 装 売 買 ]. 売 一 一 買 一 Ailili--: 一 ((売買を擬制)(. [冒険貸借]. 8 ) 3 4 頁 (出典)水島・前掲注(. U 8 ) 水島・前掲注( 8 ) 3 5頁。. U 9 ) 葛城・前掲注( 8 )7頁,藤本・前掲注(副 0 930年) 2 1頁,加藤由作『ロイド保 険証券の生成~ 3頁(春秋社, 1 9 6 3年)。 寺田四郎博士は,海上保険の発祥時期をめぐって,古代説にはじまる多種多 様な学説見解を詳細に検討したうえで,. i 海上保険の成立時期に闘し諸説区々. ω生命. なりと雄も,十四世紀前半説が最も有力である」とする(寺田・前掲注. 1巻 I競 3 3 3 4頁)0 保険曾社協曾曾報 1 また,今井薫教授は,保険制度の起源に関して「古代ギリシアにおける宗教 的色彩の強い,葬儀費用扶助を目的とした tρα VOl や Eταtρ2αt などの 団体,あるいは古代ローマにおける軍隊移駐に伴う金融手段としての. c o l l e g i amilitum や葬儀費用扶助を目的とする. c o l l e g i a tenuiorum を保. 険の淵源とするものや,さらに古代オリエントにこれを求めるものなどがあノ. - 3 4(165)一.
(11) 損害防止費用負担義務形成史序説 フィレンツェ等において誕生したとされる。これは,. 1 3 8 4年にピサで発行. 3 9 7年,フィレンツェでの保険証券の存在に起 された保険証券,ならびに 1 因する o 両証券は,他の契約を仮装しない,内容的にも形式的にも現存す る最古の海上保険証券とされている ω。. 第 2節. 世界最古の海上保険法制と損害防止義務. 海上保険が 1 4世紀には既に存していたとすれば,かかる法制度について はどうか。加藤由作博士はいう o I 海上保険は十四世紀初頭以来地中海沿 岸地方にその発達を遂げたのであるが,これがまた一方当時の貿易交通関 係から,ロンドン,ブルージュ等の港に伝播したのである。要するに海上 保険の発生から大体アメリカ大陸または東印度航路の発見に至るまで約二 百年間は海上保険の揺箪時代と見ることができ,海上保険の地中海時代と 称することができる O 海上保険の地中海時代といっても今日行われている世界各国の海上保険 、る。しかしながら,これらの制度は今日の保険制度と直接の関連はなく,また, 文化人類学によるフィールド研究の進展に伴い,かかる保険類似制度は人類に 普遍的なものとして,多くの未聞社会に散見されるようになってきた」結果か ら , 1 保険の原初形態たる類似制度の起源を求めることは,現在ではほとんど意 味がなく,むしろ不確実でリスクに満ちた環境に生活せざるを得ない多くのリ スク回避者的人間が生得的に有していた互酬性文化を,最も洗練し技術的に精 密化したものが?現在の保険制度である」として,その直接的起源が「おそら く中世の商業の復活に密接に結びついている Jとする(今井薫 12 保険の沿 革と現代的課題」今井薫=岩崎憲次=栗田和彦=坂口光男=佐藤幸夫二重田晴 生『現代商法町保険・海商法改訂版』所収 2 0 2 1頁(三省堂, 1 9 9 9年 ) ) 。 ω たとえば,加藤・前掲注( 2 ) 2 2頁,藤本・前掲注( 2 ) 14 1 5頁,葛城・前掲注( 2 ) 7頁,水島・前掲注( 8 ) 3 5頁 。 この二つの保険証券以前に,ゼノアの公証人役場の記録中に発見された 1 3 4 7 年1 0月2 3日付と 1 3 4 8年 1月1 0日付の海上保険証券に類似した証書がある。これ らはあくまでゼノアの公証人役場で作成された貸付証書であって,純然たる損 害填補の契約書ではないが(葛城・前掲注( 2 )7頁),これを海上保険証券の最古 頁 ) 。 とする見解もある(藤本・前掲注ω14. 3 5(16 4 )一.
(12) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 1号. 法規または約款の骨格は,大部分この時代にでき上がったといって差し支 えな Lリと帥。それでは,この当時の海上保険法あるいは海上保険約款のな かに,損害防止義務および損害防止費用負担義務に関する規定をみること はできるのであろうか。. 3 6 9年 G a b r i e l eAdornoによるジェ 現在,世界最古の海上保険条例は, 1 ノヴァ条例である O 他方,その内容の充実度に加え,条例の体系性に鑑み. 4 3 5年バルセロナ条例が,世界最初の海上保険法典であるとの理解が て , 1 強いω。たしかに,全 2 0ケ条からなる右条例は,当時としては異例なほど に条文数の多い海上保険条例となっており,内容的にもこれ以前のイタリ ア初期の条例に比すべくもないほどに詳細なものとなっている民バルセ ロナ条例が,その制定以降,地中海時代に誕生した数々の地中海法および 現代海上保険法の母法と称され,さらには今日の海上保険法が,このバル セロナ条例から一元的に発達したと主張されるのにも領ける ω 。. 4 3 5年バルセロナ条例には,損害防止義務や右費用 しかしながら,この 1 負担義務にかかる規定をみつけることはできな L、。バルセロナでは,その. 4 8 4年に至るまで,数回にわたって条例が制定されているが,結局, 後も 1. ω 加藤・前掲注ω22頁 。 加藤・前掲注Q 9 )3頁 。 近見正彦教授は,この点について,この 1 4 3 5 年ノ')レセロナ条例が r 1 4 3 2年条 4 3 2条例は, 1 4 2 4 年ヴェネツィア条例の流れを汲むもので 例を嘱矢とし,その 1 あって,バルセロナ条例は,それ以前のイタリア初期の条例ときわめて密接な 関係を有していた」ことをその詳細な研究のうえに指摘し, r 従来,イタりア初 期の条例は「断片的,公法的Jであるとされ,あたかもバルセロナ条例は,イ タリア初期の条例とは無関係に制定されたかの如き主張がなされてきたが,実 際のところは,決してそうではなく,バルセロナ条例は,イタリア初期の条例 と,無視すべからざる関係を有していたのである」として,バルセロナ条例以 前のものを軽視する傾向に苦言を呈している(近見・前掲注( 8 ) 10 8頁 ) 。 ( 2 $ バルセロナ条例およびその日本語訳については,近見・前掲注( 8 } 9 1頁以下。 ω 加藤・前掲注ω22頁,加藤・前掲注Q 9 )3頁 。. ω. - 3 6(163)一.
(13) 損害防止費用負担義務形成史序説. 両義務が設けられることはなかった快. 5 3 2年フィレン 損害防止義務が規定としてはじめてその姿を現すのは, 1 ツェ条例における保険証券約款のなかにである ω。フィレンツェ条例にお ける保険証券約款とは,すなわち,右条例をもって定められた保険証券約 款の雛形であって,これに反するものは原則として無効とされていた的。 船舶が難破した 同条例における保険証券約款は,損害防止義務について f 際には,保険者の許可なくして救助することができる J 旨規定する叱 ただ,フィレンツェ条例における保険証券約款のそれを,現代につなが る損害防止義務に関する原型と考えることには異論がある ω。同条例にお ける保険証券約款には,損害防止費用負担に関する規定が設けられていな いためで・ある o 加藤由作博士は,右約款に損害防止費用の負担という重大 な規定が欠落している理由について,損害防止費用を「本来一般に費用損 害は損害保険の原則からいって特別の事 情のない限り保険者の負担しない a. ところであるが,古来特に損害防止費用についてこれが例外を認めたの は,公平の観念に出ずるのであって,被保険者に損害防止義務を負担せし. 師バルセロナ条例は, 1 4 35'年以前に制定されていた 1 4 3 2年のものも含めると,. 1 4 3 6 年 , 1 4 5 2年 , 1 4 5 8 年 , 1 4 6 1年 , 1 4 7 1年および 1 4 8 4 年と,計 8条例が制定さ れている o このうち,量的にはもちろん,その規定内容もきわだって豊かで,. 4 3 5年 , 1 4 5 2年 , 1 4 5 8年お 海上保険法理の生成・発展に大きく寄与したのは, 1 4 8 4年の各条例であり,バルセロナ四大条例とされている(近見・前掲注 よび 1 U 8 ) 1 10 頁 ) 。. 。 。. 加藤・前掲注側 1 6 0 1 6 1頁,木村栄一『ロイズ保険証券生成史〔第二版)J1. 4 5 4頁(海文堂, 1 9 8 0 年 ) 。 近見正彦教授によれば, 1 5世紀バルセロナにおける個々の契約のなかにも, このフィレンツェ条例と近似する損害防止条項をみることができる(近見・前. 8 ) 3 3 7 3 3 8頁)。 掲注( 9 ) 17 頁 。 的 加 藤 ・ 前 掲 注U ( 2 8 ) 加藤・前掲注U 9 ) 16 1頁,木村・前掲注側 4 5 4頁0 ( 2 ) 9 加藤・前掲注U 9 ) 16 6 1 6 7頁。. - 3 7(62)一.
(14) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 1号. めた事実に対するもの」とその意義を理解しつつ ω ,フィレンツェにおけ る当時の海上保険を取り巻く状況に照らして説明する。 すなわち,フィレンツェでは当時,海上保険に関して「商人からなる五 人の海上保険監督官が商人団体から選ばれて保険に関する一切の事項を処 理しうる権限を有していて,……船貨危急の際にはこれ等の監督官が保険 者,被保険者双方の立場を考慮、して,臨機の処置を採るよう適当な者に命 じうることになっていた。そしてこれに要した費用は救助物自体がこれを 負担することになっていた」ことから,こ「のように特別の機関があって, 蔦ーの場合には自ら救助の任に当るとなると,その費用は被保険者白から 負担するのが当然という結論にある J と尺 いずれにせよ,このフィレンツェ条例における保険証券約款に設けられ た損害防止義務に関する規定は,その後の様々な保険証券約款に登場する ことになる O. 第 3章. 中世保険証券約款における損害防止行為の法的性質. 第 1節 被 保 険 者 の 損 害 防 止 義 務 前章で紹介したフィレンツェ条例に定める保険証券約款は,損害防止義 務を規定するものの,損害防止費用負担義務については全く触れられてい な~,。そのような理由から,当該約款規定をいわゆる現在の損害防止義務. 規定の原型とみなすことの是非については,見解がわかれている O しかしながら,このフィレンツェ条例以降に出現する,. 1 5 3 8年ブルゴス. (Burgos) 条例, 1 5 5 6年セビリア ( S e v i l l a ) 条例,ギドン・ドゥ・ラ・メー. C 3 0 ). ω. 加藤・前掲注1 9 ) 16 7頁 。 加藤・前掲注側 1 6 7頁 。. - 3 8( 1 61).
(15) 損害防止費用負担義務形成史序説. ル ( Guidond el amer),1 5 6 0年ビルバオ ( B i l b a o )条例,そして 1 5 6 3年ア ントワープ ( Antwerpen)条例における保険証券約款には,損害防止義務. と損害防止費用負担義務の双方が定められており,かつ,それらは同ーの 条文のなかに確認することができる O たとえば, 1 5 3 8年ブルゴス条例中の保険証券約款には,両義務に関して 以下のように規定する O すなわち,. r 万一危険の発生に際し,船舶または積. 荷の全部もしくは一部が滅失せんとしたる場合において,被保険貨物の保 存および回復のためにこれを処置する必要があるときは,我々は貴殿,ま たは貴殿等の一人またはその代理人に対して事後,我々共同の利害関係あ る部分については,我々保険者の過半数の同意なくしてこれを処置せざる べしとの条件のもとに,その救助および回復が成功するまで,自己の貨物 に対すると同様,我々に問い合わせをなしまたは同意を要せずしてこれを 処置することのできるための自由と権利を与える O これによって生じたる費用については,我々はたとえ該貨物の回収が不 能に終わったときにおいても,その引き受けたる責任の割合に応じてこれ を負担する J s l 2 0 続く 1 5 5 6年セビリア条例にも,. r 災害事故の発生にあたり,積荷保存のた. め,これを処置する必要があるときは,被保険者は積荷の救助に努め,か っこれを自己の所有物であるかのごとく看倣すことのできる権利を付与さ れ ,. したがって海洋または港湾において積荷をー船より他船に移し,さら. にこれを第三船に移し,またこれを陸揚し,さらに従来の船舶または船舶 に積込をなすことができ,被保険者はこれらの事実によって何ら不利益を. 。、. 蒙らな L. ω 1538年ブルゴス条例に定められた保険証券約款規定および日本語訳について は,加藤・前掲注U 9 ) 16 1 1 6 2頁 。. - 3 9(16 0 )一.
(16) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第. l号. これらの事情により生じたる費用は,積荷が救助されたると否とを問わ ず,これを被保険者に償還する」旨の,損害防止義務および損害防止費用 負 担 義 務 に 関 す る 規 定 が 設 け ら れ て い る ω。. 5 3 8年 プ ル ゴ ス 条 例 や 1 5 5 6年 セ ビ リ ア 条 例 に お け る 保 険 証 そして,この1 券約款に見受けられる損害防止義務および同費用負担義務に関する規定 は,ギドン・ドゥ・ラ・メールをはじめ帥,. 1 5 6 0年 ビ ル パ オ 条 例 中 に 規 定. された保険証券約款紛や1 5 6 3年 ア ン ト ワ ー プ 条 例 に お け る 保 険 証 券 約 款ω へと,文言の違いは多少あるものの,引き継がれていくことになる。さら. C 3 $ 加藤・前掲注U 9 ) 16 2頁。. e w ギドン・ドゥ・ラ・メールにおいては,. I 我々は貴殿「某J (ママ)殿または. その代理人に対し災害事故の発生にあたって我々の許可を要求することなく前 掲の商品を回復するため,これを処置しまたは処置することができる o また 我々の利益または損失においてこれを売却または処分することができる権能を 与える。而して我々はその支払われるすべての費用を償還し, しかもかかる費 用の支出は支出者の単なる宣誓をもって足り,その他の証拠または証明を必要 とせず J(加藤・前掲注U 9 ) 16 2 1 6 3頁)。 ピルパオ条例中に規定されている保険証券約款には, I さらに我々は航海中. ω. 船舶が滅失しまたは前掲の積荷に一部の損害を蒙る際,これが救助に従事しま たは滅失を防止する必要のある場合においては,我々は貴殿被保険者,貴殿の 代理人,当該船舶の船長その他の船員に対し何らかの通知をなし,または施す べき処置について許可を得る義務を負うことなく当該積荷の救助に従事し,か ったとえ損失を見ることがあってもこれを売却することのできる権利を与える ことを宣言する。また前掲の積荷を救助しまたは売却するために支出された費 用は,救助が成功しなかった場合においても本来の負担額とは別途これを支払 うことを約する J(加藤・前掲注U 9 ) 16 3 1 6 4頁)。これに反するものは,その範 囲内において無効とされていた(加藤・前掲注U 9 ) 18 頁 ) 。 0 0I 而して上掲の如き災害事故の発生にあたっては,被保険者某殿およびその 代理人に対し,上掲保険者の利益または損失において上掲の積荷の保存に必要 なる方法を講じるべき権利を与える。なおこの保存のために生ずべき費用はそ の成否の如何にかかわらず,その支払を為したる者がその勘定書を作成し,か っこれに宣誓を行えば保険者が償還を行うことを約する」旨,アントワープ条 例に付属して定められた保険証券約款には規定されている(加藤・前掲注ω 164 頁 ) 。. - 4 0(159)一.
(17) 損害防止費用負担義務形成史序説. に,右海上保険証券約款は,海上保険取引の拡大にともない,イギリスへ と伝えられ, 1 7 7 9年ロイズ保険証券ないしロイズ証券 ( L l o y d ' sP o l i c y ) へと発展していく問。この 1 7 7 9年ロイズ保険証券は,ほぼそのままの形で 1 9 0 6年,イギリス海上保険法の付則に保険証券様式として採用されるので ある ω 。 損害防止費用負担義務に関する規定を設けていないフィレンツェ条例に おける保険証券約款は除くとしても,それ以降の保険証券約款における損 害防止義務および損害防止費用負担義務に関する規定は,実質的に,また 形式的にもほとんど違いがな L訓 。 ただし,ここに注意すべきは,これらの保険証券約款にみる損害防止義 務および損害防止費用負担義務に関する規定と,現代海上保険法にみるそ れとの聞には,決定的な違いがある O 現在,各国制定法および各保険約款 が,損害防止を被保険者の義務として定めているのに対し,ブルゴス条例 をはじめとする中世海上保険証券約款からロイズ保険証券に至るまで,損 害防止行為を被保険者の義務としては規定していな L判。損害防止行為を 義務づけるのではなく,被保険者に損害防止行為を行うことを認める,す なわち lawfulという文言が用いられているのである。. 的 詳 細 は , 加 藤 ・ 前 掲 注Q 9 ) 17 2 2頁 。 O l ) この 1 7 7 9年ロイズ保険証券様式は, 1 8 5 0年頃に冒頭文言の I nt h eName o fGod,Amenが Bei tknownt h a t という文言に変更され,また 1 8 7 4年放 棄条項 C w a i v e rc l a u s e ) が挿入された点を除けば,そのままの形で 1 9 0 6年イ ギリス海上保険法の付則に保険証券様式として採用された(木村・前掲注(26)4 0 1. 頁 ) 。 ~9). 加藤・前掲注Q 9 ) 16 6頁 。 木村栄一博士によれば, I 損害防止条項それ自体はイギリス証券の特質でも何 でもないが,ロイズ証券に見られるような損害防止条項は, 1 6 0 0年頃に定型化 した,ということができょう JC 木村・前掲注ω 457頁 ) 。. 制) 近見・前掲注( 8 ) 3 3 5 3 4 0頁 。. - 4 1(15 8 )一.
(18) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 l号. 上述のように規定する条項は,委付制度が誕生した時代の契約に多くみ られる ω 。先に掲げたフィレンツェ条例,ブルゴス条例,セビリア条例,ギ ドン・ドゥ・ラ・メール,. ビルパオ条例に規定された各保険証券約款は,. まさにこれに当たる O また, は ,. しばしば損害防止義務に関する規定の沿革のなかで触れられるの. 1 6 8 1年のルイ 1 4世による海事勅令 C O r d o n n a n c ed el am a r i n e1 6 81 ). 第 3編第 6章 4 5条および同 5 1条の 2である o いずれも委付制度との密接な 関連のなかで,今日の損害防止行為と解されるべき事項について定めたも のであるが,とりわけ前者の規定では,やはり. l a w f u lとして構成されてい. るω。. この点について,加藤由作博士もまた,. r 古昔約款は勿論,英国証券まで. が揃って損害防止行為を以て被保険者の義務と解せず,これを以てその権 利Cl a w f u lt ot h ea s s u r e d ) となし,または保険者がかかる権利を被保険 者に授与するものであるという趣旨を規定するのは頗る不合理であるとい わなくてはならな L、。現在いずれの国法または約款においても,明かにこ れを被保険者の義務とし,理論上も正しくかくあるべきである」と述べた 上で,損害防止行為を被保険者の「権利」として定める「このような不合 理な規定が古昔約款およびこれをそのまた引継ぐ英国またはロイド証券に 見出される」理由を,やはり委付制度との関連から展開している ω。小町 谷操三博士もまた,その理由を「その当時,被保険者が損害防止行為をす. ω 近見・前掲注侶)337頁。 ω 近見・前掲注(8)335頁。 ω ここに加藤由作博士による考えられうる三つの理由とは,まず「一つは昔時 にあっては災害発生の場合における被保険物の救助または損害防止の問題を専 ら遭難物の委付の問題に結びつけ,この見地から特別の規定の必要を感じてい たためである J 。さらに, r 古昔約款が前掲のような特殊な内容の損害防止条項 を規定するに至った第二の理由は,当時における保険契約の意義に関する一般ノ. - 4 2(157)一.
(19) 損害防止費用負担義務形成史序説 ると,保険委付の権利を失う,という考えがあったため,これを排斥した ものである」としたうえで,上記約款の「文句が,. r 防止行為を為すこと. i ts h a l lb el a w f ul)という,許容的な文句で書いてあるのも,以上 を得JC の沿革に基づくものである」と理解する帥。 しかしながら,近見正彦教授は,. I 委付と結びつけられていれば,損害防. 止を権利として構成するのはたやす L、。損害防止の努力を行うことによっ て,委付する権利の行使を放棄したとみなされる可能性があるために,権 利としてそのような努力をなしうると構成することで,委付する権利の留 保を図りうるからだ」とするも,バルセロナでは委付制度が存在しなかっ た1 5世紀当時,既に損害防止が権利として考えられていた点に着目し,. I 損. 害発生の際に,被保険者がただ成り行きに事を任せ,扶手傍観することは, 保険者の利益に惇るので,保険者は被保険者に権利として損害防止の努力 をなしうるものとすることになったのであって,損害防止を被保険者の権 利としたのは,保険契約を売買契約と同様に扱い,保険の目的の所有が契 約とともに保険者に移転するかの知く考えた,今日から見ればはなはだ奇 。 異な中世的保険契約観に基づくのであった」と,その理由を説明する ω 加えて,. ドイツ海上保険法の塙矢といわれる 1 7 3 1年ハンブルク保険・海. 、的見解が特異的であったためである。それは昔の海上保険の実際家の理念によ れば,保険者が被保険者の危険を引受けるということは,被保険物または危険 に関して保険者は被保険者に代ってその地位に就くということであり,また保 険関係にあっては保険の目的は保険者の所有物と看倣されたということであっ たJ 。そして. r その第三の理由としてはやはり委付の問題にからむのである が,被保険者は保険の目的が遭難の場合,必ずしもこれを委付する必要なく, これを救助して(普通の方法で損害の填補を受けて)も差支ない旨を明かにせ んためであった。換言すれば本候項は委付権の性質を闇明せんとする意義を持 ったものである」とする(加藤・前掲注Q 9 ) 16 8 1 7 2頁 ) 。 小町谷・前掲注( 2 ) 5 5 1頁 。 師近見・前掲注( 8 ) 3 3 8 -3 4 0頁 。. ω. - 4 3(1 5 o)一.
(20) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第. l号. 損条例 ( D e rS t a d tHamburgA s s e c u r a n z =u n dH a v e r e y =O r d n u n g )第. 8章 4条,第 1 4章 1条および第 1 5章 l条では,ともに委付とは別段関係な く , しかも義務として,損害防止努力に関する個々の場合について規定さ れている ω。 以上に鑑み,中世保険証券約款をはじめ,被保険者による損害防止行為 をl a w f u lとして規定する理由が,これらの保険証券約款が設けられた当 時の情況から生じた特段の事情によるものと考えるのが自然とはいえ,そ れを委付制度のみに限定するのは理論的に困難であろう ω 。. 第 2節保険者の損害防止費用負担義務 プルゴス条例,セビリア条例,ギドン・ドゥ・ラ・メール, ビルパオ条 例,アントワープ条例中に規定された各保険証券約款をはじめとする中世 保険証券約款では,損害防止義務に関してはともかくも,損害防止費用と その負担については,現在の保険立法にみるそれとほとんど変わらな L 。 、 これら中世保険証券約款,またこれらを引き継いだロイズ保険証券が,そ の損害防止義務に関する規定に比して,結局,損害防止費用に関する部分 働 近 見 ・ 前 掲 注( 8 ) 3 3 6頁。 的. ところで,海上保険制度史上は,このように損害防止義務について,被保険 者の「権利」から義務へという変容があったとの図式で理解されているように 見受けられる。しかしながら,当時の海上保険契約において,当該契約により 保険の目的についての所有権が移転すると考えられていたとするならば,被保 険者は契約締結にともなって,当該目的に係る権利を失う。そこで,保険者と しては,このような保険の目的の名目的な所有権の移転に伴い,被保険者が損 害防止措置をとるための法的なサンクション,すなわち遵法行為に対して与え られる報酬・利益を設ける必要に迫られるはずである。. a w f u l を「権利」と訳し理解することにも, そうであるならば,そもそも l. 7 7 9 疑問が残る。これに対して,木村栄一博士はその著書において,先述した 1 年ロイズ保険証券約款中の損害防止条項において, l a w f u l を「適法」と訳して. 5 3頁)。なお,この問題については,本稿「おわりに」 いる(木村・前掲注側 4 において改めて検討する。. - 4 4( 1 5 5 )一.
(21) 損害防止費用負担義務形成史序説. しか現代的意義を有しないと指摘される所以である ω。 たとえば,ブルゴス条例中の保険証券約款によれば,保険者は,被保険 者が損害防止に要した費用について,その成否にかかわらず,その引き受 けたる割合に応じてこれを負担する O さらに一部保険の場合の損害防止費 用負担額についても,既に規定されている O ブルゴス条例以外の約款も, 右条例のそれとほぼ同様に,損害防止のために支出された費用について は,それが成功しなかった場合においても,保険者が右費用を償還する旨 の内容を定める。 一連の保険証券約款が損害防止費用の負担について上述のような規定を 設けている理由は, もしこれを被保険者自身が負担する,あるいはまた損 害の防止に成功したときにのみ保険者がこれを負担すると規定すれば,保 険事故発生の際,被保険者はややもすれば費用の負担をおそれて保険の目 的の救助に従事せず,すくなくとも損害を防止することに蒔賭する場合が 多いから,かかる不利益を慮ったためである ω 。 ところで,初期の条例に付属して定められていた保険証券約款のほとん どにおいては,保険者の損害防止費用負担額について,特に規定されてい な L、。ブルゴス条例におけるそれは,一部保険の場合に負担する損害防止 費用に関して明文化しているけれども,そもそもの損害防止費用負担額 が,たとえば現行制定法の多くがそう規定しているように,他の填補額と 合算して保険金額を超過した部分についても支払われるのか,あるいは保 険金額を限度して負担されるのか,ということについては,全く触れられ 側. 損害防止費用の負担に関して,. r 相当行届いた定めをなしている。このこと. はこれ等諸保項が損害防止事項自体に関しては兎角暖昧な,または不十分な規 定しか有しない事実に照らして顕著な対象をなすものである J(加藤ゐ前掲注. ω175頁)。また, r 実際的な損害防止の程度および費用の負担については現代 的な考えがすでに採られていた」との見解もある(近見・前掲注( 8 ) 3 4 0頁)。 頁 。 側 加 藤 ・ 前 掲 注ω175. - 4 5(15 4 )一.
(22) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 l号. ていな L、。そればかりか,右条例にいたっては,被保険者によって行われ た損害防止行為の成否にかかわらず,損害防止費用が負担される旨の規定 もな L 。 、 それ以外の条例もほぼ同様で,損害防止費用の負担額については,明確 に規定されていな L、。唯一, ビルバオ条例中に規定されている保険証券約 款にのみ,. I 支出された費用は,損害の防止に成功しなかった場合において. も本来の負担額とは別途これを支払うことを約する」旨の文言をみること ができる O そして,この損害防止費用負担額をめぐる規定の問題は,ロイ ズ保険証券に至るまでそのまま踏襲されている O このような諸条例における損害防止費用負担義務に関する規定が精確性 に欠けるという事実に対して,加藤由作博士は,特にギドン・ドゥ・ラ・ メールに見受けられる保険証券約款を掲げ,右約款に規定する損害防止の. C l e i r a cが ために「支払われるすべての費用を償還」することについて, I Guidond el amer ( C h .XX.A r t . 9 ) において説明している通り,保険者 の責任はいずれの場合にあっても保険金額を限度とするのであり,またこ の考え方は近代仏蘭西商法における損害防止規定の基礎ともなっているの である O すなわちこれによって, O rdonnanced el amarine1 6 8 1~ 4 5お. oded ecommerce ~ 3 8 1は,いずれも保険者は救助物の価額 ( v a よび C l e u rd e se f f e t sr e c o u v r e s )の限度において該費用を負担すると規定するに 至った」とする ω。 救助が成功したときはその救助 そのうえで,ここに意味するところは, I された物の価額を限度として該費用を負担し,全然失敗すれば,すなわち 被保険物が全損に帰すれば,結局費用の償還または負担は行われず,一部 成功すればその成功の限度において(分損額とともに)これを支払う」こ. 側 加 藤 ・ 前 掲 注U 9 ) 17 5頁 。. - 4 6(15 3 )一.
(23) 損害防止費用負担義務形成史序説. ととする ~O。この理解に立っと,保険者は L 、ずれの場合においても,保険. 金額以上にその責に任じられないということになろう旬。. 第 4章 お わ り に 商法 6 6 0条 1項但書に定める保険者の損害防止費用負担義務を任意規定 と解する結果,実際には保険者による損害防止費用負担の行われていない わが国にあって,右規定と異なる保険約款の有効性については異論もあ り,その強行性知何を含め,議論が尽きな L例 。 損害防止費用負担義務を,永らく任意規定と解してきた通説および,そ れに基づく実務慣行が定着してきたわが国において,その強行規定化を主 張する立場を採ろうとするためには,当該制度の本質に照らした議論が必 要となるものと考えられる O その際,この問題についての比較法史的観点 からの考察は,そのための傍証として重要な役割を果たすことになろう O このような研究を行うためには,はじめに断ったように,各国の保険契 約にかかる法制度を対象として,判例をはじめとする膨大な一次資料を渉. ω. 加藤・前掲注Q 9 ) 1 7 5 ' " " '1 7 6頁 。. ( 5 2 ) そのうえで,加藤由作博士は,中世保険証券約款を含め,諸条例において採 用されていた,保険金額を限度として損害防止費用を負担する主義について は,一応,保険者の立場を考慮、したものであることは明らかであるが,損害防 止を奨励する見地からはむしろ不得策であり,被保険者をして万一の場合,損 害防止行為に挺身する熱意を失わせ,その結果,損害を防止し救助されるべき 物が救助されず,結局被保険者の利益にも反する結果をもたらすおそれがある と指摘する(加藤・前掲注ω 176頁 ) 。 ~. 損害防止費用不担保約款の有効性をめぐっては,①商法 6 6 0条. 1項但書を強. 行規定と解し,これと異なる約款はすべて無効とする無効説,②損害防止費用 と他の填補額との合計が保険金額の範囲であっても負担しない旨約定する約款 についてのみ無効とする条件的無効説,および. ③加何なる約款もすべて有効. とする有効説の三説が存在する(なお詳細は,拙稿・前掲注( 6 )産大法学 3 2巻 1. 号4 9頁以下)。. - 4 7(15 2 )一.
(24) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第. l号. 猟することに加え,個々の保険約款およびその運用を含めた保険実務の歴 史的変容についての詳細な検討を要する。かかる検討の予備的作業とし て,海上保険制度の生成と,それにともなって形成されてきた海上保険法 制に存する損害防止義務および損害防止費用負担義務にかかるわが国の先 行研究を整理し,要点を確認することが,本稿の目的であった。本稿はし たがって,あくまでも予備的な考察に終始するものではあるが,そのよう ななかにも明らかになったことを整理し,若干の問題を提示した L 。 、 現在,海上保険の成立時期については 1 4 世紀とみられているが,その体 系・内容から 1 4 3 5年バルセロナ条例が世界最古の海上保険法典であるとの 理解が有力である O 法典の体を為していなかったとはいえ, 1 3 6 9年 Gab-. r i e l eAdornoによるジェノヴァ条例を世界最古の海上保険条例とするな らば,かかる法制度もまた同時期に形成されていたと考えることができょ うo しかしながら,いずれの条例においても,損害防止義務および損害防 止費用負担義務に関する規定は存在しない。かかる規定は,その後一世紀 以上を経て,漸く海上保険法制の舞台に登場する o 1 5 3 8年ブルゴス条例に おける保険証券約款である倒。 当該約款の,同一条文中に規定された損害防止義務および同費用負担義 務は,これ以降,中世において形成されていく数々の保険証券約款に引き 継がれていったにとどまらず,海上保険取引の拡大にともない,イギリス へと伝えられ, 1 9 0 6年イギリス海上保険法の付則に保険証券様式として採 用されている 1779年ロイズ保険証券へと発展して~,く O それらは規定文言. が多少異なるのみで,実質的にも,形式的にもほとんど差異はないω 。. { 5 4 ) 既述のように,それ以前の 1 5 3 2年フィレンツェ条例に定める保険証券約款に. も,損害防止義務が定められているが,損害防止費用負担義務に関しては全く 触れられていない(加藤・前掲注側 1 6 0 1 6 1頁,木村・前掲注(26)4 5 4頁 ) 。 f f l 加藤・前掲注ω166頁,木村・前掲注(26)4 5 7頁 。. -4 8( 1 5 1 )一.
(25) 損害防止費用負担義務形成史序説 しかも,これら中世保険証券約款中の損害防止義務および損害防止費用 負担義務にかかる規定は,現在の各国制定法に定められるところと,その 内 容 は ほ ぼ 変 わ ら な L、。右規定,特に損害防止費用負担義務に関するそれ は,その当時から,現行法にみる規定内容とほぼ完全に一致していたこと も,ここで確認しておきた~,。わが商法660条 1 項やイタリア民法典 1914. 条凧. ドイツ保険契約法 6 3条 切 な ど , い ず れ も 損 害 保 険 契 約 に つ い て 規 整. するものではあるが,現状においてこれらを最終形態とするならば,損害 防止費用負担義務に関しでは,その規定が設けられたときには既に完成し ( 5 f V イタリア民法典 1 9 1 4条は,同 l項に被保険者の損害防止義務を規定したうえ. で,続く 2項において,保険者の損害防止費用負担義務につき「被保険者がこ の目的のために支出した費用は,保険者が当該費用が不当に支出されたことを 証明した場合を除き,その額が損害額との合算で保険金額を超過するとき,な らびにその目的を達成しなかったときといえども,保険価額とその保険の目的 物が事故発生時に有した価額の割合で保険者が負担しなければならな L、」と定. G u i l i oS a n t i,I lC o n t r a t t od iA s s i c u r a z i o n i,Roma1 9 6 5,p a g .3 8 5 )。 める ( イタリア保険法については,栗田和彦=今井薫=冊田豊基=小棲純「イタリ 9巻 2号 2 0 2頁以 ア保険法の逐条的研究(ー) - (六・完) J関西大学法学論集 3 0巻 2号 1 7 5頁以下, 4 0巻 6号 2 1 1頁以下, 4 1巻 4号 2 0 5頁以下, 4 2巻 6号 2 9 3 下 , 4 頁以下, 4 3巻 3号 2 9 4頁以下(19 8 9 1 9 9 3年)が詳細である。またイタリア民法 9 1 4 条については,拙稿・前掲注( 6 )保険学雑誌 5 6 7号 1 7頁以下を参照のこと。 典1 開 ドイツでは,保険契約法 6 3条に同様の規定を設けている。同法 6 2条におい R e t t u n g s p f l i c h t ) に関して詳細に規定するとと て,保険契約者の救助義務 ( R e t t u n g s k o s t e n ) については,同 6 3条に 1 1項 保 険 契 約 もに,救助費用 ( 者が 6 2条にしたがって支出した費用は,保険契約者がその事情において支出を 必要としたものである限り,その効果がなかったときにおいても,保険者の負 担とする。保険者は,その指図にしたがって支出された費用は,それと他の填 補額との合計額が保険金額を超えるときにおいても,これを填補する。保険者 は費用として必要な金額を保険契約者の請求があれば前払 L、しなければならな L 。 、 2項一部保険においては,費用は 5 6条 , 5 7条に定める割合でのみ填補され s s M a r t i n,V e r s i c h e r u n g s v e r t r a g s g e s e t z,2 6 . る」旨規定している (pぬ l A u f l a g e1 9 9 8,S .5 2 0 ft ) 。 2条および 6 3条についての詳細は,拙稿・前掲注( 6 )近畿大学法学 5 1 なお同法 6 巻 3・4号 4 7頁以下。 - 4 9(15 0 )一.
(26) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 l号. ていたといってよい。 ドイツにおいてはその過程で,海上保険はアントワープから移植され, それと同時にアントワープの保険証券約款および慣習法がハンブルクに伝 えられたとされる民これは 1 7 3 1年ハンブルク保険・海損条例の制定まで 続き,右条例に引き継がれている失 わが国の海上保険法は,. r 1 1 3 1年のハムブルグ保険・海損条例を鳴矢とす. るドイツ法を継受したものであるが,そのハムブルグ保険・海損条例には,. 1 6 8 1年の LouisXIVによる海事勅令が多大な影響を与えていた。また, フランス海上保険法も,淵源として,上記海事勅令にさかのぼることがで き,イタリア海上保険法についても同様である O 結局,わが国,. ドイツ,. フランスおよびイタリアの海上保険法は,いずれも起源的には,海事勅令 に収赦するのだが,かかる海事勅令も,当時全く新規に定められたわけで はなく,. 1 6世紀中葉ルアンにおいて,おそらく AntoineMassiasの手で編. 纂されたギドン・ドゥ・ラ・メールの影響の下に制定されたのであり,さ らに,これには, 1 5世紀のバルセロナ海上保険条例が大きな影響を与えて L、 」 る ω。. 以上を勘案すると,少なくとも,損害防止義務または損害費用負担義務 に関する規定の萌芽を中世に見出すことができることが明らかとなったと ともに,わが国の海上保険法,ひいてはわが商法 6 6 0条. 1項に規定される損. 害防止義務および損害防止費用負担義務の起源もまた,中世保険証券約款 にみることができょう O しかしながら,ここに忘れてはならないのは,これらの保険証券約款に. ( 5 $ 亀井利明『海上保険証券免責条項論一一海上危険と海上損害に関するー研究. -J1 1 7頁(株式会社保険研究所, 1 9 6 1年 ) 。. 5 9 ) 亀井・前掲注(5$1 7頁 。 側 近 見 ・ 前 掲 注( 8 )3頁。. - 5 0(149)一.
(27) 損害防止費用負担義務形成史序説. みる損害防止義務および損害防止費用負担義務に関する規定と,現代海上 保険法にみるそれとの聞には,大きな相違点があることである O 現在,各 国制定法および各保険約款が,損害防止を被保険者の義務として規定して いるのに対し,ブルゴス条例をはじめとする中世海上保険証券約款からロ イズ保険証券にいたるまで,損害防止行為を被保険者の義務とは規定して いない。 海上保険制度史上は,この点,被保険者の「権利」から義務へという変 容があったとの図式で理解されているように見受けられる O しかしなが ら,当時,海上保険契約が売買契約の類型に位置付けられ,当該契約によ り保険の目的についての所有権が移転すると考えられていたとするなら ば,被保険者は契約締結にともなって,当該目的にかかる権利を失う O た とえそれが損害防止のための行為であったとしても,当該目的の所有者で ある保険者に断り無く行うことはできな L、。これは同時に,海上保険契約 によりその所有者となった保険者が,保険の目的につき,被保険者をして 損害防止のための何らかの措置を採らしめる方途を確保しなければならな かったことを意味する。その結果,被保険者に保険の目的について損害防 止を行うことを認めるという形式をとらざるを得なかったのである O これを前提に考慮すれば,損害防止義務が,被保険者の「権利」から義 務へと転換したというよりもむしろ,保険契約の性質の変容に伴い,その 位置付けが変わったものと評価すべきではなかろうか。 わが国においては,両義務が有する法的な性格について法律学上,必ず しも歴史的視点からの十分な研究がなされてきたとはいい難 L州。そのな. ( 6 D 小町谷操三博士は, [""保険法の研究は,海上及び陸上の保険を通じて,従来,. わが園の法律皐者から,著しく閑却せられてゐた。これに反して,保険撃の専 門家による研究は,著しく進んでゐ」ると述べるが,この指摘は,特に史的研 究の面に顕著であるように思われる(小町谷・前掲注( 8 )2頁 ) 。 - 5 1 (48)一.
(28) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 l号 かにあって,近代保険成立以前には,損害防止についての行為を被保険者 の「権利」とみなしていたように見受けられる O そのような見地からは, なにゆえ被保険者の「権利」行使に対して,保険者が費用負担義務を負う のかについて整合的な説明は困難になるのではなかろうか。むしろ,保険 者が費用負担義務を負うという規定が存在する以上,被保険者の側には法 的にはともかく,道義的ないしは条理上,損害防止に努めることが要請さ れていたと考えられないだろうか。この点は,制度の本質に関わる論点を 苧んでいるのかもしれなし例。 さらに本稿での考察対象となった海上保険制度が,大数の法則によって 導き出された保険事故の発生確率にしたがって,損害填補額および保険料 を設定するという近代保険制度の構造を有していなかった点をも考慮に加 える必要があろう。当時,商人の副業として行われていた海上保険には, 集団内における危険の平均化という発想や確率的思考はなく,保険引受は 。 一 種 の 賭 で あ り , 投 機 的 色 彩 を 強 く 帯 び た も の で あ っ たω それが北イタリア都市から地中海や北大西洋沿岸の港に伝えられ,. 1 6世. 紀にはフランドル地方がその中心地となる O その後,アントワープからロ 仰. わが国商法では現在,損害防止義務違反の効果について規定をおいていな い。学説には,損害防止義務を真正の債務とみて義務違反は債務不履行責任に ほかならず,義務違反により発生しまたは拡大した損害の額について義務者は 損害賠償責任を負い,保険者はこれによる賠償額を支払うべき保険金から相殺 により控除することができると解するものと,告知義務違反などと同様に義務 を真正の義務ではなく,保険金請求権を確保するための前提要件であるとし て,違反の効果については債務不履行による損害賠償という説明をせずに約款 で定めるような免責の効果が生じるとするものとがある。各種の損害保険の約 款では,損害防止義務違反があった場合に,損害の額から防止または軽減する ことができたと認められた額を差しヲ I t、た額を損害の額とみなす旨定められて いるのが通例である(山下・前掲注( 5 ) 4 1 4頁 ) 。 ここに損害防止行為を被保険者の了権利」と解した場合,その「権利」の不 行使に対して,どのような法的帰結が惹起されたのかという問題についての検 証が,必要となるものと思われる。. - 5 2(147)一.
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