特集
学生支援コーディネートの実践
― 学生支援の包括性を実現する取り組み ―
渡 邉 あい子・片 山 愛
柳 瀬 圭 志
要 旨 立命館学園全体が、学園の理念を示す立命館憲章を踏まえて、2020 年にどのような学 園を目指すのかという将来像を示す学園ビジョン R2020(以下、R2020 )において提唱さ れた包括的学習者支援体制の実現に基づき、立命館大学では、学生が個々のニーズに応じ た大学生活の実現を叶えるべく、必要な相談や情報を求めることが可能となった。学生の 多様かつ変容し続けるニーズを適宜必要な支援資源につなげるための手段として現在注目 されているのが、学生支援コーディネート機能である。本稿では、支援体制の包括性を担 保することを目的とした、学生支援コーディネートの取り組みと今後の課題を論ずる。 キーワード エンパワメント、学生支援コーディネート、支援の可視化、支援の最適化1 はじめに
学生支援は、主体的な学生生活の実現を目指す全ての学生に寄与するエンパワメントシステム である。この間、立命館大学では、時代の流れとともに変化する多様な学生の実態に応じたエン パワメントのあり方について検討を重ねつつ、学生支援の選択肢を増やし、またその選択肢に専 門的手法を導入するなどして、支援体制の高度化を目指す取り組みを続けてきた。このような 「学生一人ひとりの状況に応じた自立と成長のための包括的な学生支援」1 ) の実現を目指した体 制整備が進む一方で、新たな課題として浮上したのが、高度化した支援体制の適切な利活用を実 現することを目的とした支援機能の高度化である。 本稿では、R2020 前半期計画「包括的な学習者支援政策と体制の検討」2 ) の到達点を評価し、 高度化した支援体制特有の課題を分析する。次に、支援機能の高度化を目的とした学生支援コー ディネートの実態を 3 つの事例に基づき紹介する。そのうえで次世代学園ビジョン R2030 の基 盤となる「包括的な学習・学生支援の仕組みの形成」3 )の実現に向けた、新たな支援体制課題に ついて言及することとしたい。なお、本稿で取り上げた事例は、いずれも複数のケースに基づき 再構成されたストーリーであり、特定の人物やケースを示唆するものではないことを申し添えておく。
2 R2020 の到達点と課題
R2020 前半期( 2011 ∼ 2015 年度)および後半期計画( 2016 ∼ 2020 年度)における特筆すべ き到達点は以下の 3 点である。 1 点目は、発達障害やその傾向、精神疾患等に起因した学生生活に関する困りごと(困り感) を抱える学生、また本人に気づきはないが周囲が困っているケースを合わせて、特別ニーズ学生 支援室(Special Needs Student Support Room:SNS)における包括的学習者支援の対象へと内包化 し、組織的な支援体制の構築が達成できた点である。この SNS は、2011 年度に学生部所管のも と開設され、専門性を有する支援コーディネーターを専任職員として配置した。これは、本学の 包括的学習者支援の原点であり、多様なニーズを有する学生とその周辺にある課題を相談できる 文化を作ったといえる。 2 点目は、学生部内に専門家による学生相談窓口を一元化し、支援の包括性を高めることがで きた点である。従来、学生部には臨床心理士によるカウンセリングを提供する学生サポートルー ム(Student Support Room:SSR)があり、1997 年の開設以来、学生生活上の悩みに関わる相談窓 口となってきた。そこに前述の SNS が開設され、2015 年度には保健センターが総務部から学生 部に移管、2016 年度には精神・発達障害学生の支援を行ってきた SNS と教学部に属していた身 体障害学生への支援組織が統合し、新たな障害学生支援室(Disability Resource Center:DRC)と して、学生部所管となった。また、SSR においては、期間の定めのない特定業務専門職員を雇 用したことにより、体制が安定し、学内外との連携が円滑になるなど、一人ひとりの学生に対す る密な支援が可能となった。3 点目は、相談を必要とする学生の増加やニーズの多様化に伴って顕在化した修学上の課題を 新たな支援ニーズと位置づけ、2017 年度より Student Success Program(以下、SSP)を開設、学 修支援の経験を持つ専門スタッフを配置した点である。SSP 開設以前は、SSR のカウンセリング が対象とする学生生活上の悩み、また DRC が対象とする障害学生が抱える問題は、いずれも修 学上の課題を内包する場合が多いことは認識されてきたものの、それぞれの窓口の本来的な機能 の限界や時間的制約もあり、これに十分対応できないという事情があった。本格的なアカデミッ ク・アドバイジング機能を担う SSP は、現在、SSR や DRC に相談する学生にとって新たな支援 の選択肢となっており、彼らが心理的、もしくは障害等の状態によって抱える多重な課題をそれ ぞれの窓口で解決しつつ、そのうえで修学環境に持続的にコミットするために必要な学び方につ いての力量形成を目指すことが可能になった。以上の 3 点をもって、R2020 に掲げた「包括的学 習者支援」に関わる体制整備は、概ね達成したともいえる。 一方、今後の課題として、支援の選択肢が増え、またその質も向上したことにより、学生・学 内教職員にとって適切な相談窓口がわかりにくいという問題が発生している。学生支援は、学生 自身に積極的に支援を求める力、支援活用力があってこそ功を奏するものである。しかし支援活 用力が脆弱な学生は、高度化したがゆえにコンテンツが複雑になった支援体制にコミットする術 を見失い「支援を必要としているが支援を求められない」支援難民層として顕在化するように
なった。包括性を目指して高度化した体制が、実際に包括的に運用されるためには支援機能の高 度化も併せて必要であることに気付きが及んだ 2018 年度現在、現場でケースを担うコーディ ネーターらの取り組みに、改めて注目が高まっている。また、前述のように学生からの支援ニー ズや相談内容の多様化が進む中、複数の相談窓口を活用するケースが増加している現状もある。 いずれにおいても、学生支援コーディネーターを中心に、学生部内の各組織の専門スタッフ同士 の連携や役割分担のあり方について検討が必要な時期を迎えている4 ) 。 尚、本章では R2020 で提起されてきた学生・生徒を含む「包括的学習者支援」という表現を 用いていたが、3 章以降は学生部における学生支援について述べるため、「包括的学生支援」と いう表現を用いることとする。
3 学生支援コーディネート:支援機能の高度化を目指した試み
本章では、「支援の可視化」( 1 )と「支援の最適化」( 2 )の 2 つに焦点を置き、事例に基づい て学生支援コーディネート機能の実態を紹介する。なお「学生支援コーディネート」とは、「全 ての学生が必要なタイミングで必要な支援を求め利用できる状態を導き出す機能」と定義づける こととする。 ( 1 )支援の可視化 事例① 教員は、欠席が多く孤立気味の A 学生の様子を心配している。グループワークでは明らか な緊張状態にあることが認められ、他の学生と協力して活動に参加をすることが困難である。 A は何らかの支援が必要な状態だと思われるが、教員は A が何に困っているかを判断する ことができないまま、相談窓口を案内しかねている。 事例② B 学生は、その努力が報われることなく低単位状態が続いている。家族からはうつ傾向にあ るのではと指摘され、SSR での相談を薦められた。B は、ここでカウンセリングを受け修学 困難のつらさを語り続けたが、一向に単位が取れる見込みは立たない。支援の効果を感じら れない B は、次第に SSR に足が向かなくなった。 事例③ C 学生は最近になって、保証人から発達障害があることを告げられた。実際に学生生活がう まくいっていないと感じる C は、その名称から最も自分の状況に適した相談窓口であるに 違いないと判断し、DRC の利用を検討している。しかし障害受容ができずに苦しんでいる C は、〈障害〉を冠する名称の窓口へアクセスすらできないまま、悶々としている。 これらは、主に支援利用の初期段階において散見されるミスマッチ事例である。いずれの場合 も明確な困り感を呈しており、またそれについて周囲や学生自身の気付きもあり、更に支援の必 要性も感じているが、適切な相談窓口との出会いに至っていない。このように支援へのアクセシ ビリティが阻害される背景には、それぞれの相談窓口が対象とする事項や具体的な対応内容について、利用者である学生もしくはその関係者の理解が不十分という事情がある。したがって、支 援の役割や特徴についての情報を分かりやすく提示し、個々の状況に応じた適切な相談窓口を選 択できるような状態作りを目指す「支援の可視化」が重要となってくる。 2018 年度現在、学生オフィスでは、特に役割や対応領域についての理解に混乱が生じやすい と思われる、SSR、DRC、SSP、これら 3 つの窓口について、下記表 1、図 2 のように対象・支 援内容を整理、相談フローを案内することで、可視化を試みている。 表 1 専門的支援機能と役割の整理 名称 学生サポートルーム (SSR) 障害学生支援室 (DRC)
Student Success Program (SSP) 対象とする ニーズや 状態 ① 悩みがある学生 ② 悩みを言語化する意思が ある学生 ③ 悩みを聞いて欲しいと希 望する学生 ① 診断がある学生 ② 診断が必要と思われる学生 ③ 修学困難状態にある学生 ④ 支援要請ができる学生 ① 正課・正課外活動を両立させ、 充実した学生生活を送りたい と考える学生 ② 自分にあった学修スタイルを 習得したい学生 ③ 学修スキルに課題がある学生 支援内容 ① 守秘義務を原則としたカ ウンセリング ② 臨床心理士によるカウン セリング ① アセスメント(修学困難理 由の分析) ② 情 報 連 携( 周 知 配 慮 依 頼 文) ③ 学修環境への参加条件の調 整(合理的配慮) ① アセスメント(学修スタイル・ 生活習慣・学修意欲の分析) ② スケジュール管理手法、タス ク 管 理 手 法、 試 験 対 策、 レ ポート論述対策などの紹介 学生支援コーディネート機能(どこで相談できるか/なにを相談できるか) 図 2 学生・教職員からの相談フロー
事例①にある相談未然者の A の場合、その様子を心配している教員にとって、A をどの相談 窓口に誘導すればよいかを検討するうえでこの整理表・フロー図(表 1、図 2 )は役立つであろう。 事例②にある受動的相談者の B は、 精神疾患によって修学が難しくなっているのではないか。 カウンセリングで相談すれば大学生活に戻ることができるのではないか。 という、周囲の想定 に基づいて薦められるがまま SSR に赴いた結果、ミスマッチを起こしている。確かにカウンセ リングは教育機関に定着した学生相談支援形態であるため、誘導先として提案されやすい。しか し実際のところは「単位を取れるようになる具体的な手段に出会う」ことを支援効果として期待 していた B が り着くべきは、様々な学修スキルを習得できる SSP だったことを、この整理表 があれば気付くことができた可能性がある。また、B とは対照的に、積極的に相談を求めようと した事例③の C は、診断がある状況を鑑みて、自分に必要と思われる相談窓口 DRC を発見して いるが、そこに相談することについての心因的バリアの高さに阻害され、必要な支援にたどり着 くことができずにいる。もし C が、学生支援には様々な相談の選択肢があることに気付き、そ れらを俯瞰する機会に恵まれていたとしたら、利用に一種のスティグマを感じる DRC ではなく、 支援を求めることについての苦悩を守秘義務下で相談することが可能な SSR を選ぶ判断ができ ていただろう。通常、学生の困りごとや困り感は複合的要因によって構成されている。したがっ て今回の事例にあるような支援活用力の脆弱な学生は、混在する困りごとや困り感のいずれの領 域を主訴となる支援ニーズと認定するのか、またどの相談窓口に拠点を定めるのかを自力で判断 できずに困惑する傾向にある。「どこで相談すればよいかわからない」・「何を、何から相談すれ ばよいかわからない」・「相談してよいかどうかわからない」というジレンマは学生支援において 一般的であり、だからこそ、相談窓口の役割とこれまでの相談事例を把握している立場の専門家 が、学生支援のコーディネート機能を果たすという考え方が重要になる。 可視化の取り組みには、学生が自らの判断に基づいて適切な窓口を選択する過程を援助し、自 分が必要としていることを相談できていると実感することが可能な成功体験を重ねることで支援 活用力を伸ばすといったエンパワメント効果が期待されている。 ( 2 )支援の最適化 事例① どこで何を相談すればよいか定まらない A 学生は、学生支援コーディネーターとの面談を 続けている。アセスメントの結果、教室に入ることすら苦痛であること、とりわけ同世代の 学生との付き合いに疲弊すること、定期試験やレポート課題に取り組んだ経験もないことが わかった。長い不登校歴があり成長段階に応じた対人関係構築や多種多様な学びの経験を逸 してきた A にとって、大学の修学環境への適応は困難な局面が多いことが予想される。 事例② 支援の効果を実感できないまま SSR への来談が途絶えた B 学生は、保証人からの要請がきっ かけとなり、学生支援コーディネーターとの面談を経て、単位取得を叶える手段の獲得を目 的に SSP で相談を再開した。スケジュール管理方法やレポート課題取り組みの個別支援を 続けるなかで、B には、時間や抽象的な表現など、具象化しにくい概念の理解を困難にさせ る特性があることが明らかになってきた。具体的な指示がなければ行動することができない
自分に気が付いた B は、就労や自立について危機感を感じ始めている。 事例③ 「普通のふり」をして学生生活を送ることを決めた C 学生は、そうすることによって生じる 不便や苦労を傾聴してもらうことを目的に、SSR での相談を続けてきた。これまで何とか 単位を取得してきた C であったが、卒業研究にいたって頓挫。テーマ設定や研究計画立案、 他の学生が難なくこなしていることが C にはできない。高回生進行し、また卒業研究に邁 進すればするほど障害特性があることを思い知らされるばかりの C は屈辱を感じ、自傷行 為に及ぶようになっている。 「可視化」が適切な相談窓口への接続を実現する仕組みであるとすれば、「最適化」は安定した 相談の継続を実現する仕組みだといえよう。これら 3 つの事例は、ニーズの多面性が明らかにな り、また学生の支援活用力の向上に伴いニーズが変貌する、支援中期に於ける特有の現象を表し ている。 ニーズの全体像を俯瞰し支援のベクトルを定め直すこと、また支援のベクトルに応じて必要な 体制を再度検証する、支援の最適化の仕組みには、主に次の 3 つの手法がある。 ア.複数相談窓口の活用 イ.相談窓口の変更・ケース移管 ウ.支援者間連携によるコンサルテーションの活用 事例①は、ア.「複数相談窓口の活用」の手法に基づく取り組みである。 A が経験している困難の背景には、大学生としての学びにコミットした経験の少なさがある。 また、そもそも対人能力や社会性が他の同世代と比較して未熟な A は、大学生活を送ることに ついての自信を喪失していることが状態の悪化に拍車をかける要因でもあった。したがってこの 事例では、学びの場に参加し大学生としての経験値を積むことが A にとっての優先的なニーズ であると判断することが妥当である。したがって A は、適応障害の診断を根拠資料として DRC より周知配慮依頼文を発行、個別的対応を合理的配慮と定めるなどして、A がより安心して学修 にコミットしやすい環境を整えた。また A は SSR の利用も同時に開始、学びの場に参加した経 験を振り返り、また不安を解消することを目的としたカウンセリングセッションを設けた。この 後の支援の展開としては、授業参加からレポート・試験など一通りの大学生としての学びを体験 した A が、大学生になることについての自信を回復したタイミングを見計らって、大学生の学 修に特化したスキルを学ぶべく、SSP も活用することが考えられる。 事例②は、イ「相談窓口の変更・ケース移管」の手法に基づく取り組みである。 単位取得の手段を学ぶという目的が相談の動機となった B は、意欲的に SSP での支援に参加 した。B が時間や抽象的な表現など、具象化しにくい概念の理解が困難であることに気付いたの は SSP の「可視化」を促すツールの使用によってであった。自分の状態を客観的に把握し自己 理解を深め、また、目標の達成のために何をどう行動すべきかを理解するメタ認知の習得ができ たのは、SSP の面談が成立したからこその効果であるといえる。
その後、B は具体的な指示がなければ行動にエラーが生じそれを自ら修正できない状況に危機 感をもち、自立や進路決定に関わる懸念を口にするようになったが、その内容は具体的かつ前向 きであり、課題解決を目指す主体的な態度として現れるようになっていた。したがってこの事例 では、B の前向きな危機感や懸念を強みとして活かす新たな支援フェーズを迎えることが適切で あろうと判断するに至った。SSP で一通りの支援を活用したことが確認できたタイミングで、B は DRC を紹介され、B はそこで初めて自身が感じる困難さには診断という根拠がつくこと、ま た同様の困難さを感じる人は他にも存在し、また、困難さの内容や程度に応じた配慮があり、自 立や進路決定を判断することについて支援を受けることもできること、などを知ることができた。 この後は、SSP から DRC に、更にキャリアセンターや就労移行支援所に相談拠点を移管して就 職を目指す展開が想定される。 事例③は、ウ.「支援者間連携によるコンサルテーションの活用」の手法に基づく取り組みで ある。 必要な支援を求めるために、障害というスティグマを回避し SSR に相談窓口を確保した C の 判断は賢明だったといえよう。また障害受容に苦慮しているという事情を勘案したカウンセリン グを要請するという工夫があってこそ、C は SSR での相談を続けることができ、日々の「普通 のふり」をして生きることについてのストレスや苦悩を緩和する一助となっていたのかもしれな い。SSR の相談を通じて C は、一定の支援活用力が養われたものの、彼の課題でもある障害受 容は遅々として進まず、その結果、自傷行為にいたるまでに瓦解することとなった。したがって この事例では、逸脱する行為の危険性から C の心身を守ることが最優先のニーズとされ、支援 者間連携を要として支援の最適化にあたった。C の様子を学修の現場で見守る指導教員、保証人、 発達障害について専門的見地からアドバイスが可能な DRC 関係者が連携支援に参加した。その 結果 C は、複数の関係者から心療内科の受診を勧められて治療に専念、行動化は収まっている。 その後の支援の展開としては、落ち着いた C が再び卒業研究に取り組み始めたタイミングを見 計らって DRC が支援体制に介入、しかし障害というスティグマを拒絶する C の状況を慮り、 DRC 関係者としてではなく、学生オフィスの支援コーディネーターという身分で関わることで、 それと悟られないまま相談を継続するという流れが考えられる。 3 )学生支援コーディネート機能による包括性の実現と新たな課題 以上の事例では、いわゆる支援難民層が相談窓口にたどり着き、適切な支援を受けられるよう になるまでの展開を段階的に紹介した。SNS では 2011 年度より、支援の対象者を自ら課題解決 を志して来談する学生〈直接支援〉だけではなく、支援が必要であると思われながらも来談に至 らない層に〈見守り支援・静観〉と名前をつけ対象化することで支援のフレームワークを大きく 改変し、その結果、支援難民層のアクセシビリティを高めることに成功した。また本人だけでは なく「周囲の困り感」も支援対象とすることを明文化し、組織として見守り層の行動化を促し来 談に誘導する体制を整えた。教職員などの関係者を介した間接的アプローチや集団守秘による情 報共有などを経て、ようやく支援の窓口に繋がるようになった学生に対し、困り感を解消する多 様な支援のコンテンツを提示し(「支援の可視化」)、困り感の言語化をはかり適宜必要な相談窓 口を案内する(「支援の最適化」)、この一連の流れが、現在の学生支援コーディネート機能であ
る。 しかしながら、そうした「包括的学生支援体制」の実装化を進めるも、関係者からは心配され 相談が寄せられるものの本人は相談窓口にたどり着いていない「見守り・静観」学生は依然とし て多い。その実態を示すデータが以下の表 2 である。 見守り支援・静観層は以下の 3 タイプと分析する。 A)高校から大学への移行・順応が難しい、あるいは時間を要する B) 障害、特定不能、複合的な要因が理由で修学上の困難が予想され、かつ本人がそれを課題と 認識し、相談の必要性があると自ら気づくことが困難 C) 本人も課題と認識、また支援を必要としているが、「障害」を前提として支援を活用するこ とに対するスティグマ・ミスマッチを感じる このように悩みや不安、困難を感じることに時間がかかる・抵抗を覚える、もしくはそのような 認識を根拠に支援にアクセスする理屈が成り立たない学生は一定数存在する。では、困ることを 前提としない学生のニーズはどのように支援対象とし得るのであろうか。この分類から導き出さ れるのは、障害受容を含む自己理解や気づきを前提とせずとも提供できる学生支援形態であろう。 2017 年度に立ち上がった SSP は、従来までは学生生活における困りごとと位置づけられてき た課題を、正課と正課外の両立という、より一般的な学生生活上の課題と読み替え、「困難解消 の手段」としてではなく、「希望する学生生活の実現に寄与する手段」として積極的に選び取れ るような考え方を学生に提示するという、他の相談窓口とは一線を画するアプローチを試みるこ とで学生の関心を引くことに成功した6 ) 。この実績を見ても、困りごとを起点とする学生支援が 包括できる領域には限界があるといってもよい。今後は、困りごとの有無に拘泥することなく、 立命館に学ぶ全ての学生にニーズがあることを前提としたうえで、主体的な学生生活の実現を目 指せる、よりエンパワメントを明確に打ち出したフレームへと視点の変更を迫られていると言え よう。
おわりに:R2030 に向けた提言
学園通信 2018 第Ⅴ章では、2019 年度以降の教育・学生支援施策として、「これまで推進して きた教育改善および学生生活支援の取り組みを発展させる」としている。この展望に基づき、 R2020 において実現してきた包括的学生支援を、主体的な学生生活の実現を目指す全ての学生に 寄与するエンパワメントシステムに発展させるために、下記の提言をもって、本稿のまとめとす る。 表 2 DRC コーディネート支援学生数について5 ) 直接支援 見守り支援・静観 見守り・静観の割合 2017 207 250 54.7% 2018 134 306 69.5%( 1 )「困りごとを超えた支援ニーズ」に対する眼差しの形成 3 で論じたとおり、現状の包括的学生支援は、学生生活上の課題を、不安や悩み・困難など 「困りごとを起点とする支援ニーズ」に基づくものであることを前提としている。しかし、学生 生活上の課題は、必ずしも困りごととして説明できるとは限らない。R2030 に向けた新たな課題 の 1 点目は、学生には困りごととは表現できない支援ニーズがあることを認識し、これを新たな 支援対象としていく取り組みの進め方である。 困りごとを超えた支援ニーズのある学生とは、例えば、学修や課外活動、アルバイト、留学な ど、大学生活のコンテンツを充実させたいという意欲的な理由で SSP の利活用を求める学生の ことである。もしくは本学での学びを実現したいからこそ、母国の学びの文化との差異に戸惑い、 改めて学び方について考えたいと希望する留学生かもしれない。または、自認する性に基づくア イデンティティ形成を目指したいと願う性的マイノリティの学生かもしれない。「挑戦をもっと 自由に」7 )を新たなモットーとする本学であればこそ、これらの多様性に満ちた挑戦に挑む学生 を積極的に支援するという姿勢が、今後は求められるであろう。 ( 2 )支援コーディネーターの専任化による支援機能の高度化 学生の多様な支援ニーズに応じて細やかに対応すべく、包括的学生支援体制のもとでは、多様 な専門的手法を導入するにいたった。その結果高度化した支援の包括性を担保すべく生まれた支 援コーディネート機能は、今後も多様化の一途を るであろう学生実態とそのニーズに柔軟に対 応するためにも更に重要となっていく。R2030 に向けた新たな課題の 2 点目は、この支援コー ディネート機能を担保するために不可欠な専門的人材を確保する取り組みである。 支援コーディネーターには、担当する窓口に相談を求める学生の状況を適切に把握し、学生の 成長とともに変化する支援の方向性を定める高い専門性が必要である。また同時に、他の相談窓 口の対応領域を適切に理解し、学生とその課題を適宜繋ぐ判断ができることも重要である。更に、 大学としての対応の合理性を勘案しつつ支援の内容について他部署関係者と協議・交渉できるよ う、支援コーディネーターには組織に紐付く立場が保障されているという条件も欠かせない。専 門的手法を導入した全ての相談窓口には、専門性の高い専任の支援コーディネーターを置くこと が、多様な学生の多様な学生生活の実現を援助する体制を整える上で必要となるだろう。 注 1 ) 立命館大学学生部「学生一人ひとりの状況に応じた自立と成長のための包括的な学生支援の取り組み について―「正課と課外の両立促進による成長支援の取り組みについて」に関する意見集約を踏まえて」 2016 年 2 ) 「R2020 第 3 委員会 包括的学習者支援政策と体制の検討 最終答申」2010 年 3 ) RS 学園通信特別号 2018 年度全学協議会開催に向けて 2018 年 4 ) R2020 前半期および後半期計画については、会議文書を参照した。 「R2020 第 3 委員会 包括的学習者支援政策と体制の検討 最終答申」2010 年 未来をつくる R2020―立命館学園の基本計画―前半期( 2011 年度から 2015 年度)の計画要綱 2010 年 未来をつくる R2020―立命館学園の基本計画―R2020 後半期( 2016 年度から 2020 年度)の計画要綱
2016 年 5 ) 2017 年の学生数は 2018 年 3 月 31 日まで、2018 年度の学生数は 2018 年 9 月 25 日までを集計した数 字である。 6 ) 集団支援(セミナー)2017 年度 495 名、2018 年度春学期 732 名、個別支援では 2017 年度 73 人、2018 春学期 129 名 7 ) 学園ビジョン R2030 ドラフトについて<答申> 2018 年
Coordination Functioning DOES Matter:
Empirical Practice to Further Enhance the Comprehensiveness of Ritsumeikan Student Support System
WATANABE Aiko(Coodinator, Student Success Program, Office of Student Affairs at Kinugasa Campus, Ritsumeikan University)
KATAYAMA Ai(Coodinator, Disability Resource Center, Office of Student Affairs at Kinugasa Campus, Ritsumeikan University)
YANASE Keiji(Associate Manager, Office of Student Affairs at Biwako-Kusatsu Campus, Ritsumeikan University)
Abstract
Upon implementation of the Comprehensive Student Support System addressed in the Future Vision Plan of R2020, students with needs are eligible to ask for assistive consultation and resources that enables them to make their student life at Ritsumeikan successful. Accordingly, the need of Student Support Coordination functioning is emerged, in order to properly navigates students various and changing needs, to the support system that delivers appropriate services in a timely manner. In this paper, practice of the Student Support Coordination will be introduced, as a possible tactics to further enhance comprehensiveness of the student support system.
Keywords
Empowerment, Student Support Coordinate, Informative Support System, Optimization of Support Methods