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遠隔教育と著作権

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(1)遠隔教育と著作権. 大和 淳. 1 はじめに(デジタル・ネットワーク化の進展による遠隔教育の変化)  学校教育や社会教育など生涯学習の機会提供の方法については,従来から公 教育及び民間教育ともに多様な手段が開発・実践されてきた。ライフ・スタイ ルの多様化に伴い,学習スタイルについても様々なニーズが発生し,伝統的な. 通学型の学習だけでなく,いわゆる遠隔教育という方式も学習の形態として定 着してきている。.  かつて,遠隔教育の代表的な例はいわゆる通信教育であった。これは,送付 された教材や課題等に基づき自宅で学習し,作成したレポートにさらに添削を 受けるなどして学習を進めるもので郵便を活用した方法である。これについて は,高等学校や大学の通信課程や民間教育事業者の教養講座・資格取得講座な どで活用されている。その後,放送大学が設置され,テレビやラジオの放送に より講義が提供され,全国各地の学生がそれを受信して自宅で学習するという 放送活用型の遠隔教育が出現した。また,「エル・ネット」1)や「SCS」2)など. 衛星を利用して双方向授業を行うことができるシステムも開発されてきた。.  そして近年,デジタル・ネットワーク技術の急速な発達・普及により,デジ タル化,ネットワーク化された環境の下でさらに多様な教育の展開が可能とな                                   1.

(2)  横浜国際経済法学第15巻第2号(2006年12月). っている。例えば,テレビ電話やテレビ会議のように遠隔地にいながら同時に 双方向の情報が交換できるシステムも開発されている。このようなシステムに より,ある会場で開催されているセミナーなどを遠隔地の会場に送信し遠隔地 でも受講できるようにする,あるいは連携した大学間で共同授業として相互の. 授業を送信する,特殊な設備を要する実験の状況をそのような設備がない大学 等でも見学できるように送信するなどの教育方法も可能である。また,情報の. 記録領域の大容量化や通信速度の高速化により,デジタル化された高機能の教 材コンテンツρ蓄積・送信が可能となっている。これにより,サーバに任意の 時間にアクセスし,静止画,動画,音声,文字などの教育情報を取得しながら 反復学習することができ,さらにグレード試験などを組み合わせてレベルアッ プしながら進めるものも現れている3)。このように,いわゆるe一ラーニング4) と呼ばれる学習教材,教育方法が提供されるよう.になってきており5),また,. そのようなe一ラーニングを提供するための場(プラットフォーム)も生まれて いる。今後,企業等の組織内研修においても,職員を一堂に集めた従来型の研 修に代えて,あるいはそれと並行してe一ラーニングのシステムが活用されてい くとの見込みもある。.  通信教育やe一ラーニングを提供する過程においてその教材として第三者の著. 作物等が用いられる場合には,複製,公衆送信などの行為が伴うことが通常で あり,原則として著作権者等の許諾が必要となる。.  本稿では,各種遠隔教育を提供する過程におけるどのような行為に著作権等 が及ぶのか,また,著作権等が及ぶ場合であっても一定の要件を満たす場合に はそれらの権利が制限され,著作権者等の許諾を得る必要がないこととされて いるが,その一定の要件とはどのようなものかについて述べることとする。. 2.

(3)                             遠隔教育と著作権.  ll遠隔教育に伴う送信行為と著作権との関係(公衆送信権の制限    に関する法改正).  1 公衆送信・送信可能化とは  従来,著作権制度においては,放送及び有線放送について著作権者の許諾を. 得なければならないこととしていたが,情報通信技術の発達・普及に伴い,平 成9年の著作権法の一部改正において,新たに「公衆送信」の概念を設け,無 線又は有線による著作物の送信行為が再整理された6)。すなわち,「公衆送信」 の中に,「放送」(公衆7)によって同一の内容の送信が同時に受信されることを 目的として行う無線通信の送信8)),「有線放送」(公衆によって同一の内容の送. 信が同時に受信されることを目的として行う有線電気通信の送信9))及び「自 動公衆送信」(公衆からの求めに応じ自動的に行うもの10>)が含まれるものと した上で,著作者に公衆送信権11)を認めたものである。.  このことにより,従来から放送大学において実施されていた授業科目の放送 や,エル・ネットやSCSなどを用いて行われていた送信などに加え,インター. ネット環境においてWebサイトにアクセスした者に対して映像・音声・文字 などの情報を送信する行為についても,放送大学やエル・ネットの発信者など と同様に当該映像などの著作物の著作権者の許諾を得ることが必要となった12)。. なお,著作者に対するこのような法改正と同時に,実演家及びレコード製作者 に対しても「送信可能化権」が認められており,実演,レコードが送信可能化. される場合にはそれぞれの権利者の許諾が必要となる。さらに,平成14年の 法改正により,放送事業者及び有線放送事業者に対しても「送信可能化権」が 認められている13)。.  「送信可能化」とは自動公衆送信の前段階の行為であり,公衆からの求めが ない段階であ・っても,もし求めがあれば送信しうる状態に著作物等を置くこと. をいい,①ネットワークに接続された自動公衆送信用サーバに情報を記録する こと,②情報が記録されたメディアを自動公衆送信用サーバに加えること,③ 情報が記録されたメディアを自動公衆送信用サーバ中の公衆送信用メディアに                                    3.

(4) 横浜国際経済法学第15巻第2号(2006年12月). 変換すること,④自動公衆送信用サーバに情報を入力すること,及び⑤自動公 衆送信用サーバに情報が記録され,情報が記録されたメディアが加えられ,情 報が記録されたメディアが公衆送信用メディアに変換され,又は情報が入力さ れている自動公衆送信用サーバを,ネットワークに接続することがこれに該当 する14>。. 二一内容の送儒が公衆に よって同時に受信される よう送信すること. 公衆からの求めに応じて 自動的に送信すること.  以上の法改正の内容については,世界知的所有権機関(WIPO)において 1996年(平成8年)に採択された「著作権に関する世界知的所有権機i関条約 (WCT)」及び「実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約(wppr)」 に対応する内容となっており15),これを踏まえ,我が国は平成12年,所要の法. 改正を行い同条約に加入した。なお,放送事業者及び有線放送事業者の「送信 可能化権」については,条約の規定はなく,我が国独自の措置である。.  したがって,遠隔教育のうち,放送大学のようなもの,エル・ネットやSCS を活用したもの,インターネット接続環境下で同時授業を行うもの,インター ネット上のサーバに教育コンテンツを蓄積しそれにアクセスして学習させるも のなどの場合,講師自身が自ら創作した教材を用い,自らの講義のみで構成さ れる授業を行うのであれば,講師本人が著作権者であるため問題はないが,そ の講義の中に,あるいはサーバに蓄積した教材の中に講師以外の者が作成した 著作物等が含まれる場合には,原則として16)当該著作物等の権利者から公衆送. 信又は送信可能化の許諾を得る必要がある。授業や提供するコンテンツの内容 4.

(5)                             遠隔教育と著作権. により様々である・が,公衆送信権又は送信可能化権が及ぶ可能性があるものと して具体的には,次のようなケースが考えられる。.  ①ある会場において第三者の著作物等の複製物を提供・提示している授業   を,他の会場に生中継するケース. ②ある会場で行われた授業であって,その中で第三者の著作物等の複製物が.   提供・提示されたものを収録してネットワークに接続したサーバに蓄積   し,別の時期に他の会場に録画物を送信するケース. ③番組として制作された授業科目であって,その中で第三者の著作物等の複   三物が提示されたものをネットワークに接続したサーバに蓄積し,学習者   からのアクセスに対応して当該番組を送信するケース. ④教育に利用可能な動画,静止画,音声,文字などの情報をネットワークに   接続したサーバに蓄積し,学習者からのアクセスに対応してそれらの情報   のうち必要なものを送信するケース.  なお,これらのうち,②,③又は④の場合において,収録されたものや制作 した番組等に実演が複製されている場合,当該実演家から録画の許諾を得てい れば,その録画物をその後に送信可能化することについて実演家の許諾を得る 必要はない17)。したがって,例えば,地域の祭りに関する映像資料を教育素材. として制作してインターネットを通じて提供しようとする場合,最初の段階で 踊り手から録画の許諾を得ていれば,その映像資料の公衆送信について改めて 当該踊り手の許諾を得る必要はない(もっとも,当該映像資料に実演以外の著. 作物やレコードなどが複製される場合には,その部分については複製や公衆送 信・送信可能化の許諾を得る必要がある。)。. 5.

(6) 横浜国際経済法学第15巻第2号(2006年12月). 権利者. 客体. 権利の名称. 著作者. 著作物. 公衆送信権. 実演家. 実演. 送信可能化権. 備考. 録画の許諾を得た実演を送信可能化 キることには権利が及ばない。. レコード製作者. レコード. 送信可能化権. 放送事業者. 放送. 送信可能化権. 有線放送事業者. 有線放送. 送信可能化権. (音楽の演奏が録音された音源をネットワーク上に送信可能化する場合,著作. 者の公衆送信権,実演家の送信可能化権レコード製作者の送信可能化権が重 畳的に働くことになる。).  2 授業のための公衆送信権の制限に関する法改正  上述のとおり,情報通信技術の発達・普及に伴って著作物の公衆送信に係る 著作者等の権利が整備されたが,他方,情報通信技術が教育などの公益性の高 い活動にも活用される点についても配慮される必要がある。例えば,大学や学 校等における「遠隔授業」や「合同授業」等において,離れた場所の学習者に 対して,主会場で複製・配布されたり提示されたりする教材等を,衛星通信や インターネット等により送信することに対して,教育効果の向上の観点18)から 一定条件の下で公衆送信権を制限することも必要と考えられたのである19)。.  そこで,平成15年の著作権法の一部改正により,営利を目的としない教育 機関が遠隔授業等を行う場合には,教員等が主会場にいる学習者に複製・配 布・提示した著作物等を,遠隔地で授業を受ける学習者向けに無許諾で送信で きることとされた20)。. 6.

(7) 遠隔教育と著作権. 門:35条第2項 公表された著作物については,前項の教育機関における授  業の過程において,当該授業を直接受ける者に対して当該著作物をその  原作品若しくは複製物を提供し,若しくは提示して利用する場合又は当.  該著作物を第38条第1項に規定により上演し,演奏し,上映し,若しく  は口述して利用する場合には,当該授業が行われる場所以外の場所にお.  いて当該授業を同時に受ける者に対して公衆送信(自動公衆送信の場合  にあっては,送信可能化を含む。)を行うことができる。ただし,当該  著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利 益を不当に害することとなる場合は,この限りでない。. (1)「前項の教育機関における授業の過程」.   第35条第1項において,教材を複製について権利が制限されるものについ.  ては「学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除  く。)」と規定されており,第2項において公衆送信権が制限されるものも同. 様の教育機関とされる。したがって,小・中・高等学校や大学など学校教育  法上の学校のほか,公民館などの社会教育施設や教員研修施設,他の法律に  より設置されている大学校などの教育機関も含みうるものであり,それらが 主体となって行う教育活動が第2項の対象となる21)。民間教育事業者による  ものは含まれないことになる。.   また,「授業の過程」については,初等中等教育機関の場合,いわゆる教. 科の授業だけでなく,特別活動である学校コンクール等の学校行事や教育課 程に位置づけられたクラブ活動なども含まれる。大学の場合は,講義をはじ  め,実験・実習,体育実技;ゼミ等もこれに含まれる。さらに,社会教育施−. 設や教員研修施設などの場合,当該施設が主催して行われる講座などがこれ  に含まれる。ただし,学習者による任意の活動は「授業の過程」には含まれ  ない。.                                   7.

(8) 横浜国際経済法学第15巻第2号(2006年12月). (2)「当該授業を直接受ける者に対して当該著作物をその原作品若しくは複製  物を提供し,若しくは提示して利用する場合」   この規定では「当該授業を直接受ける者」が存在する必要があり,一例えば,. 教員が単独で講義スタジオから授業の送信を行うような形態であれば,「当  該授業を直接受ける者」がいないこととなり,第2項の対象とはならない。   「当該著作物をその原作品若しくは複製物を提供し,若しくは提示して利  用する場合」とは,教育機i関における授業の過程において主会場で授業を受  ける学習者に対して,著作物の複製物をプリント教材として配布・掲示した  り,絵画などの原作品を提示したりすることが想定される。. (3)「当該著作物を第38条第1項に規定により上演し,演奏し,上映し,若し  くは口述して利用する場合」.   「当該著作物を第38条第1画面規定により上演し,演奏し,上映し,若し  くは口述して利用する場合」とは,非営利かつ無料で著作物を上演したり, 演奏したり,上映したりするなど,無形的に著作物を利用する行為である。. 例えば,演劇の発表会を行う場合,音楽の授業で合唱や演奏を行う場合,国 語の授業で小説や俳句を朗読する場合などが想定される。 (4)「当該授業が行われる場所以外の場所」.   「当該授業が行われる場所以外の場所」とは,教育機関が遠隔授業等によ  り学習者向けの授業の中継を行う場合の,その遠隔地を指す。例えば,教員. 等が授業を行っている主会場に対し,遠隔地でその授業の中継を受信する  「副会場」や,いわゆる「サテライト教室」,学校間連携をしている他の学校  の教室などが想定される22)。. (5)「当該授業を同時に受ける者」.   「当該授業を同時に受ける者」とは,授業の中継による遠隔授業等を行う 場合に,遠隔地である副会場において主会場と同時に受講する学習者を指す。.  この者に対して公衆送信を行うとは,副会場において主会場の授業を同時に 受講する学習者に対して送信することを指す。 8.

(9)                            遠隔教育と著作権.   したがって,放送大学による放送授業のように,受講者以外の不特定の者 が視聴できるような送信は含まれない。.   また,録画した授業が送信される場合は,主会場の授業と同時に副会場の. 授業が行われることにならないため,第2項の適用を受ける対象には含まれ  ない。. (6)「当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者 の利益を不当に害することとなる場合」.   「当該著作物の種類及び用途に照らし著作権者の利益を不当に害すること  となる場合」とは,例えば,市販のドリル,ワークブックや教育ソフトのよ  うに,ひとりひとりが購入することを前提として販売されている補助教材を 一部だけ購入して,衛星通信・インターネット等により送信してしまうこと  などが該当する。.   「当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる 場合」とは,例えば,スクランブル等によって受講者を限定することなく,  受講者以外の不特定の者も視聴できるように,衛星通信・インターネット等  により送信してしまうようなことが該当する。.  3 試験のための公衆送信権の制限に関する法改正  遠隔教育の中では遠隔試験も行われ,衛星通信・インターネット等が用いら れ得るのは授業と同様であり,そのような方式も増えつつある。試験問題の作 成に当たりその中に第三者の著作物が用いられる場合には,すでに複製につい て著作権者の許諾を得る必要がないこととされている23)が,公衆送信について. 許諾を得るものとすることは必ずしも適切ではない。そこで平成15年,上記 H−2の法改正と同様に,試験:問題として第三者の著作物をインターネット等 で公衆送信する場合についても,例外的に無許諾でできるようにしたものであ る24)。. 9.

(10) 横浜国際経済法学第15巻第2号(2006年12月). 第36条 公表された著作物については,入学試験その他人の学識技能に  関する試験:又は検定の目的上必要と認められる限度において,当該試験 、又は検定の問題として複製し,又は公衆送信(放送又は有線放送を除き,.  自動公衆送信の場合にあっては送信可能化を含む。次項において同じ。).  を行うことができる。ただし,当該著作物の種類及び用途並びに当該公.  衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合  は,この限りでない。. 2 営利を目的として前項の複製又は公衆送信を行う者は,通常の使用料  の額に相当する額の補償金を著作権者に支払わなければならない。. (1)「入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定」.   「入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定」とは,例えば,入. 学試験・入社試験などの選抜選考試験,模擬テストなどの学力評価試験,学 校等の教育機関における学期末試験等の定期試験,運転免許試験:などの技能. 検定などが考えられる。すなわち,学校教育に限定されるものではない。 (2)「試験又は検:定の目的上必要と認められる限度」.   「試験又は検定の目的上必要と認められる限度」とは,試験等を行う上で  どうしても必要な範囲と解される。したがって,例えば,入学試験に出題さ. れた問題を集めて受験者の参考にするためにWebサイトに掲載するような 場合には,この規定の対象とはならず,著作権者から公衆送信の許諾を得る 必要がある。. (3)「試験又は検定の問題として公衆送信を行う」.   「試験又は検定の問題として公衆送信を行う」とは,例えば,大学等にお. いて,インターネットを利用してWebサイト上に試験問題を掲載し, IDや パスワードを取得した学生からのアクセスに応じて送信する場合や,大学等  において,教員が授業を受講する多数の学生に対してメールを送信する場合, 10.

(11)                             遠隔教育と著作権.  大学等において,教員が授業を受講する多数の学生に対してファックスで試 験問題を送信する場合などが考えられる。.   ただし,学生が自習できるようにするために演習問題をアクセスに応じて 送信することは試験又は検定のためとは考えられない。. (4)「当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者 の利益を不当に害することとなる場合」.   「当該著作物の種類及び用途に照らし著作権者の利益を不当に害すること  となる場合」とは,例えば,英語のリスニング試験用のテープなど,各試験:. 会場でそれぞれ購入することを前提として販売されているものを1本だけ購  入して,インターネット等により送信してしまうことが該当する。.   「当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる. 場合」とは,IDやパスワード等の配布等によって受験者を限定することな  く,受験者以外の不特定の者も閲覧できるようにインターネット等により送 信してしまうことなどが該当する。 (5)「営利を目的として前項の公衆送信を行う者」.   「営利を目的として前項の公衆送信を行う者」とは,例えば,受験料を徴 収して模擬試験等をインターネット等を用いて送信する業者が該当するもの  と考えられる。.  lll遠隔教育のための教材作成等と著作権との関係  遠隔教育に伴う送信行為と著作権との関係については上記Hのとおりである が,公衆送信や送信可能化の前段階の著作物等の利用行為についても,一定条 件の下で権利が制限される。.  1 著作権法第35条第1項  第三者の著作物を複製して多数の者に配布することについては,原則として. 複製権や譲渡権が及ぶが,教員が授業の過程において児童・生徒・学生等に第                                  11.

(12)  横浜国際経済法学第15巻第2号(2006年12月). 三者の著作物を複製したプリント教材を配布する場合,あるいは児童・生徒・ 学生等が各自学習した成果の一部として第三者の著作物を複製したものを授業 の過程で配布する場合には,円滑に教育活動を展開するため,一定条件25)の下 で著作権者の許諾を得ずに行えることとされている。  なお,この規定により著作権者の許諾を得ずに複製ができる場合には,翻訳, 編曲,変形又は翻案を行うことについても許諾を得る必要がない26)。.  遠隔教育のうち,郵便を活用する通信教育の場合には,自宅学習のための通 信教育教材を作成するが,それに第三者の著作物が利用される場合にこれらの 規定の適用が受けられる可能性がある27)。.  2 著作権法第38条第1項  非営利かつ無料の催しにおいて第三者の著作物が上演・演奏・上映又は口述 される場合で,実演家鼠は口述者に報酬が支払われない場合には,その上演・ 演奏・上映又は口述について著作権者の許諾を得る必要がないとされている。.  遠隔教育の内容として,音楽の演奏などが公衆送信される場合に公衆送信権 の制限を受けるために巌,もともとの演奏が本条の規定により許諾を得ずに行 えるものである必要がある。.  3 著作権法第32条  第三者の著作物を自己の著作物に引用することについては,教育の目的に限 らず著作権者の許諾を得る必要がないものとされており,その要件について, 「公正な慣行に合致するもの」,「報道,批評,研究その他の引用の目的上正当. な範囲内で行われるもの」とされている。したがって,遠隔教育の教材作成の ために第三者の著作物を利用する場合にも,要件を満たす限り本規定が適用さ れる可能性はある。.  本条の規定による著作物の引用については,利用方法を複製に限定せず「引 用して利用することができる」としている。したがって,引用の必然性が認め 12.

(13)                             遠隔教育と著作権. られること,引用する著作物と引用される著作物との問に適切な主従の関係が あること,どの部分が引用されるi著作物であるかの区分が明瞭であることなど,. 許諾を得る必要がないとされるために一般的に認められている引用の要件を満 たしていれば,遠隔教育のための公衆送信などについても権利が制限され得る ことになる。.  デジタル・ネットワーク環境の下では,情報の複製や加工が容易にできるこ とに特徴があるため,画像,音声,文字等の情報を独立して利用することもで きるように蓄積する方が便利であるが,独立して利用することが可能になれば,. 上述した主従の関係や区分の明瞭性などが失われることになってしまい,その 結果,引用の要件を満たさず,公衆送信や送信可能化について許諾が必要とな る。逆に,後の加工には不便であっても,自他の著作物の関係において,主従 関係や区分明瞭性が維持されるような教材の作成方法によれば,適法な引用と して著作権者の許諾を要しない場合もあり得ると考えられる。.  なお,この規定により著作権者の許諾を得ずに利用できる場合には,翻訳を 行うことについても許諾を得る必要がない28)。. lV おわりに  情報通信技術の発達により,教育素材のデジタル・ネットワーク化もますま す進展する。知的財産の創造・保護・活用のよりよいサイクルを構築するため,. このような社会の変化に対応し,著作権制度においても時宜を失することなく 権利の創設や権利の制限に関する見直しが必要となっている。.  遠隔教育の分野においては,例えば,教育関係者からは,授業のためには自 宅における予習や復習も不可欠であり,そのための教材をインターネット上で. 常時閲覧することができるようになれば,より教育効果をあげることが期待で きるが,現行規定ではそのような公衆送信・送信可能化について権利が制限さ れていないとの指摘がある。すなわち,教育目的であれば随時アクセスができ.                                  13.

(14)  横浜国際経済法学第15巻第2号(2006年12月). るようにするためのサーバへの蓄積についても権利を制限してはどうかという 意見である。.  また,教育目的の複製や公衆送信等について許諾を得ずに行える者は限られ ており,民間教育事業者の場合には,権利の制限規定が受けられる可能性は少 なく,ほとんどの場合,著作権者等の許諾を得なければならない。そのため, ひとつの教材の作成利用に当たり,その内容によっては相当多数の権利者から 許諾を得なければならない場合もある。.  このような場合,ある種の著作物について著作権者の許諾を縮小させても大 きな影響は生じない場合があるかもしれないが,様々な著作物について一律に 権利制限を適用することが必ずしも適当であるとは限らない。あらゆる立場の. 創作者の作品をあらゆる立場の者が利用しうる環境にある今日,法改正の検討 と平行し,円滑な権利処理システムの構築に向けた関係者の協議がいっそう重 要となるものと思われる。. 1) 衛星通信を利用して,教育・文化・スポーツ・科学技術に関する情報を直接全国に発信する   文部科学省の教育情報衛星通信ネットワークをいう。 2)スペース・コラボレーション・システム(Space Collabora廿on System)の略称で,大学・研.   究機関の間で通信衛星を利用して映像・音声による双方向通信を可能にする大学間ネットワ   ークシステムをいう。. 3) メディア教育開発センター『メディア教育研究 2006VoL2 No.2』では,全国における特色  あるe一ラーニングの取組を紹介している。 4)情報通信技術を活用した学習システムや方法を指すことが多いが,e一ラーニングについて明   確な定義はない。. 5)平成17年度にメディア教育開発センターが実施した『e一ラーニング等のITを活用した教育   に関する調査報告書』によれば,e一ラーニングを導入している高等教育機関は,回答者全体   では36.3%,IT活用教育を導入している機関では82.0%を占めている(同報告書6頁)。. 6)日召和61年の法改正において1「リクエストに応じて番組などを送信すること」と「有線放送」   とを念頭に置き,「有線送信」の概念を設けたのがその先駆けである。. 7)著作権法において「公衆」とは,不特定の者だけでなく,特定かつ多数の者を含むとされで   いる(著作権法第2条第5項)。. 8)著作権法第2条第1項第8号 9) 著作権法第2条第1項第9号の2 14.

(15) 遠隔教育と著作権. 10)著作権法第2条第1項第9号の4 11)著作権法第23条第1項 12)通信衛星を用いる場合のうち,送信の相手方が特定少数の者であるときは,公衆送信には当   たらない。. 13)著作権法第92条の2,第96条の2,第99条の2,第100条の4 14)著作権法第2条第1項第9号の5 15)たとえば,WCT第8条(公衆への伝達権)では,「(前略)著作者は,その著作物について,   有線又は無線の方法による公衆への伝達(公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において   著作物の使用が可能となるような状態に当該著作物を置くことを含む。)を許諾する排他的   権利を享有する。」と規定されている。. 16)例外として,権利の保護期間が経過したもの,条約締約国以外の著作物等で保護の目的とな   らないもめのほか,後述の権利の制限規定の適用を受ける場合がある。. 17)著作権法脈92条の2第2項 18)法改正の目的として,「情報機器と公衆送信システムを利用レた教育方法を普及させるため」   とする考え方もある(渋谷達紀『知的財産法講義H』143頁(有斐閣 2004))。. 19)この点については,「このようなものは,同時授業の実施に付随的な著作物の利用であり,   仮に,一方の音楽の授業で歌唱していた歌が他校に送信されたとしても,当該音楽の著作物   自体を送信することが目的ではなく,音楽の共同授業に付随するものとして,権利の射程外   との解釈もあり得る。また,物理的な仕組みとしては特定多数の児童生徒用端末に送信して   いるとしても,法的には特定少数の学校間での通信が行われているに過ぎないとの解釈もあ.   り得る。」との見解もある(作花文雄『詳解著作権法(第3版)』347頁(ぎょうせい   2005))。. 20)著作権法第35条の規定は,同法102条第1項の規定により,著作隣接権の目的となっている   実演,レコード,放送又は有線放送の利用について準用されており,実演家等の権利につい   ても同様の条件で制限される。. 21)著作権法第35条第1項及び第2項の教育機関には営利を目1的として設置されているものが除   かれるが,構造改革特別区域自然12条第2項に規定する学校設置会社の設置する学校は含ま   れる。. 22)「当該授業が行われる場所以外の場所」については,「『副会場』においては,同じ授業を同.   時に受ける場合であれば,その形態には限定がなく,別の会場において,スクリーンに映し   出す場合,児童生徒等の個々のパソコンに映し出す場合,自宅で授業を受ける場合などが含   まれる」とされる(加戸守行『著作権法逐条講義(5訂新版)』261頁(著作権情報センター   2006))。. 23)著作権法第36条第1項 24)著作権法第36条の規定は,同法102条第1項の規定により,著作隣接権の目的となっている   実演,レコード,放送又は有線放送の利用について準用されており,実演家等の権利につい   ても同様の条件で制限される。. 25)権利を制限する条件として,「学校その他の教育機関において行われる複製であること」, 15.

(16) 横浜国際経済法学第15巻第2号(2006年12月)   「教育を担任する者又は授業を受ける者による複製であること」,「その授業における使用を   目的とする複製であること」,「必要と認められる限度の複製であること」,「公表された著作.   物の複製であること」,「当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし   著作権者の利益を不当に害しない範囲での複製であること」が規定されている。. 26)著作権法第43条第1項第1号 27)授業を担任する者により複製されること,必要と認められる限度における複製であること,   著作権者の利益を不当に害することとならない複製であることなどの要件が満たされる必要   がある。. 28)著作権法第43条第1項第2号. 16.

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