〈論文〉黒岩涙香譚述『人の運』--原典の発見および原典との相違について
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(2) ば、 本 論 の写 真 に挙 げ た よ う な、Simpkin&Co.,Limited,1892の. よ うな 廉. 価 版 で 、 書 店 や貸 本 屋 の み な らず 、 当 時 流 行 を 見 た 鉄 道 売 店 で も買 え る版 (い わ ゆ る 、 鉄 道 文 庫)で. は な い か と思 わ れ る。 原 典 は19世 紀 イ ギ リス 小. 説 に 倣 っ て、 も と は三 巻 本 で あ り、 現 在 で は大 英 図 書 館 お よび イ リノ イ大 学 図 書 館 に は初 版 が あ り、 イ リ ノ イ大 学 図 書 館 は ウ ェ ッブ 公 開 も して い る し、 ま た デ ジ タ ル ・オ ン ・デ ィ マ ン ドで 注 文 購 買 もで き る。1892年 出 版 の 廉 価 版 で は章 が 通 しの一 巻 本 に な っ てい る。 訳 述 『人 の 運 』 は最 初 『萬 朝 報 」(明27.321∼10.24)に. 掲 載 され たが、. 単 行 本 と して は 、 初 篇 と後 篇 の二 冊 に分 け られ 、 初 篇 は50回 の253頁 篇 は そ れ に続 く通 し番 号 の108回 (本 名 三 木 貞 一)の. の539頁. 、後. か ら成 る和 綴 じ本 で 、 愛 花 仙 史. 前 書 き 「題 人 之 運 」 を付 して、 扶 桑 堂 か ら 出 版 社 され. た。 愛 花 仙 史 は 『朝 野 新 聞 』、 『東 京 公 論 』 を経 て 涙香 の 主 催 す る 『 萬朝報』 に入 社 した 明 治 ・大 正 の新 聞 記 者 で あ り、 漢 文 小 説 『 新 橋 八 景 佳 話 』、 『南 総 美 談 復 仇 実 記 』、 『 情 天 比 翼縁 』 な どの作 者 で あ る 月 発 行 、 後 篇 は 明 治28年1月. 『人 の 運 』(扶 桑. あ る。 僻望. 防71ゴ の 著 者 エ リ ザ ベ ス ・ブ ラ ッ ド ン は 、 ヴ ィ ク ト リ. ア 朝 中 期 に 、 五α4y且 忽 勿3S6676'(1861)と Nove1)で. 〃侃g6防7Zゴ(Simpkin&Co.,. 天理 図書館 所蔵 貴重 本の涙 香小 史繹 述. 堂 、 明27∼28)で 原 典 の.4S〃. 。 初 篇 は 明 治27年11. 発 行 で あ る 。 以 下 本 論 で テ ク ス トと して 使 用. し た の は 、 筆 者 所 蔵 のElizabethBraddon,!∬ Limited,1892)と. ゆ. い う 煽 情 小 説(Sensation. デ ビ ュ ー し、 八 十 五 編 の 小 説 を 世 に 送 り 、 明 治 初 期 の 日 本 の 翻 訳. 界 を 席 巻 し た イ ギ リ ス 小 説 の 大 立 者 で 、 ニ ュ ー ゲ イ ト・ノ ヴ ェ ル(Newgate Nove1)の. 創 始 者 と 目 さ れ たEdwardBulwer-Lytton(1803-73)を. 師 匠 に持. ち 、 妻 子 あ る 男 性 と の 関 係 で も 一 世 を風 靡 し た フ ェ ミ ニ ズ ム の 先 端 を行 く 女 流 作 家 で あ る 。 彼 女 は デ ィ ケ ン ズ の よ う な"greatnovelist"で て も 、"greatstoryteller"と. は ない に し. 呼 ぶ に 相 応 しい 小 説 家 と して の 優 れ た 資 質 を. 持 っ て い る こ と は、 上 に挙 げ た よ うな 彼 女 の小 説 を一 読 す る と、 よ くわ か る。 ま た 黒 岩 涙 香 とい え ば 、 我 が 国探 偵 小 説 の元 祖 と して い まだ に高 い 評 価. (2). [155].
(3) を得 て い る明 治 期 の 大 文 豪 で あ り、 異 色 の 日刊 紙 『萬 朝 報 』 を 明治25年. に. 創 刊 し た新 聞 人 と して名 を馳 せ た 人 物 で あ る こ と は、 広 く世 に知 られ て い る。 涙 香 の 作 家 あ るい は 実 業 家 と して の 詳 しい伝 記 的事 実 につ い て は 、 伊 藤 秀 雄 『黒 岩 涙 香. 探 偵 小 説 の 元 祖 』(4)や 高橋 康 雄 『萬 朝 報. 黒 岩涙香. と明 治 の メ デ ィア 人 た ち』㈲な ど に詳 しい の で 、 そ れ を参 照 さ れ た い 。 こ こ で は 涙香 が 如 イ 可に原 典 の小 説 を、 翻 訳 あ る い は翻 案 あ る い は 創 作 し直 して い る か を 明 らか にす る のが 肝 心 で あ る。 前 置 きは こ れ く らい に して、 さ っ そ くそ の 肝 心 の 本 論 に入 りたい 。. 本論 1.ASmηgeWo〃d(『. 不 思 議 な 世 界 』)概 要. 第 一 巻(第1∼18章) ドサ 廻 り の 旅 役 者 の 父 と 娘 が 、 寺. 院. の. (Eborsham)で. 町. エ. ボ. ル. シ. ャ. ム. 興 行 中 に、 若 い 二. 人 の 紳 士 に 出 くわ す。 父 親 は マ シ ュ ー ・ エ ル グ ッ ド(Matthew Elgood)と. い い 、50過. ぎの初老 の. 酒 好 き で、 娘 は 珍 し い ジ ャ ス テ ィ ー ナ(Justina)と. い う 名 の17. 歳 の 子 供 か ら大 人 へ の 成 長 期 に あ りが ち な、 青 白 く ほ っ そ り と した 少 女 で あ る。 紳 士 の 一 人 は コ ー ン ウ ォ ー ル(Cornwall)の. 郷 士 で、. ペ ン ウ ィ ン荘(PenwynManor)の 年 収7000ポ. ン ドの 後 継 者 の 若 殿 、. ジ ェ イ ム ズ ・ペ ン ウ イ ン(James Penwyn)と. い い、 ま だ オ ッ クス. [154]. (3).
(4) フ ォ ー ド在 学 の 学 生 で あ る 。 も う 一 人 は 少 し 年 上 の30歳. ASTRANGEWOR恥. くらい の. モ ー リ ス ・ク リ ッ ソ ル ド(Maurice clissold)と. 3訟ohe!. い う若 者 で 、 ジ ェ イ ム. ズ の 親 友 で 遺 産 の 年 収400ポ. ン ド ■▽mAむ7口OBO7. が あ る の で 、 こ れ を基 に好 き な 文. `L訓)YAUDE?SSEσR卿"ムURO磁FLO YD,. 惚V互XEN. ,勾 脅1SE匠AE駈" ■皿B臨 罵TC.. 学 で成 功 を夢 見 て い る。 この二人 の紳士 が 夏の休 暇 中 に 気 ままな旅 の途 中エ ボル シ ャムの. 9敏 幽 凶6漁. ㎎. 町 に逗 留 中 に、 町 はず れ を 散 歩 し て い て、 旅 役 者 の 父 娘 に 町 へ の 道. 曲. 町.職. を 尋 ね ら れ た こ と か ら、 急 速 に 親 し く な っ て い く。 特 に 若 い 方 の. ,_颪. ジ ェ イ ム ズ は 人 間 が や さ し くで き. ん ゆ おぎ ㎜70鳳 寵!▲ 丁竃0 ㎜H▲LLOOUBT 1892. μ跡殉剛b剛胴醐. 囮 冊`oo . 昌α㎜. 轍一 一露__、._駈. 調. (上 記 写 真 本 の 内 表 紙). て い て 、 田 舎 者 で 素 朴 な ジ ャス テ ィー ナ の 芝 居 を見 に行 っ た り、 親 子 と も ど も競 馬 に誘 っ た り、 は て は 貧 しい旅 役 者 を豪 勢 な 食 事 に 誘 って もて な し た り して い る うち に、 気 が付 い て み る と二 人 と も相 手 に恋 を して い る こ と を知 り、 ジ ェ イ ム ズ は ひ そ か に ジ ャス テ ィ ー ナ に 求 婚 し、娘 の 方 は夢 の よ う だ と思 い な が ら も、 結 婚 して ペ ンウ ィ ン家 の 夫 人 に な る こ と を承 諾 す る 。 運 命 の 糸 に引 き寄 せ られ る か の よ うな 、 出会 っ て か ら た っ た 二 日間 の 短 期 間 の 出来 事 で あ っ た。 しか し果 たせ るか な、 二 人 の 結 婚 に は ジ フ゜ シ ー の 予 言 が 暗 い 影 を落 と し ている。エ ボルシ ャムの町でジ ェイムズ とジャステ ィーナはジ プシーの老 婆 に 手 相 を見 て も ら っ て 、 ジ ェ イ ム ズ の 生 命 線 に そ れ を途 中 で 切 断 す る別 の線 が あ る こ とか ら、 気 を付 け る よ う に言 わ れ た の が 的 中 し、 ジ ェ イ ム ズ が ま だ ジ ャス テ ィー ナ の 父 親 に結 婚 の承 諾 を得 る 前 に何 者 か に殺 さ れ る こ とに な る。 ジ ェ イ ム ズ が 芝 居 の跳 ね た 後 ジ ャス テ ィ ー ナ と寺 院 の広 場 を散 歩 して 彼 女 の投 宿 先 に行 き、 待 っ て い た マ シ ュ ー や 座 長 た ち と遅 い 夕 食 を済 ませ た. (4). [153].
(5) の ち 、 ジ ャ ス テ ィー ナが ジ ェ イ ム ズ を戸 口 に 送 り出 した の が 、 彼 女 が 婚 約 者 を 見 た 最 後 で あ っ た 。 こ の 時 、 し か し、 ジ ャ ス テ ィ ー ナ は 、 旅 籠 ウ ォ ー タ ー フ ァ ウ ル(Waterfowl)に. 帰 っ て い く婚 約 者 の 後 を つ け て い く よ う な 怪. しい 男 の 人 影 を見 つ け 、不 審 に思 っ た が 、 翌 日 に な る と、 婚 約 者 が 殺 され た こ と を 知 ら さ れ 、 夢 が 無 残 に も砕 か れ て し ま う。 容 疑 者 と し て ジ ェ イ ム ズ の 親 友 の モ ー リ ス が 、 ア リ バ イ 証 言 を 拒 否 した こ とで 拘 留 され るが 、 尋 問 に は ジ ャス テ ィ ー ナ が 彼 女 が 見 た 怪 しい 影 の 男 とは モ ー リス で は な い こ と を証 言 して 、 証 拠 不 十 分 とい う こ と で モ ー リス は 釈 放 さ れ る が 、 親 友 ジ ェ イ ム ズ の 喪 失 を 嘆 くモ ー リ ス は 、 必 ず 真 犯 人 を 探 し 出 す と心 に 誓 う。 そ し て 落 胆 し た 婚 約 者 の ジ ャ ス テ ィ ー ナ に は 、 今 後 力 に な る と約 束 す る 。 そ れ か ら一 年 ほ ど経 て モ ー リ ス は 亡 き 友 人 ジ ェ イ ム ズ の コ ー ン ウ ォ ー ル の里 ペ ン ウ ィ ンの 彼 の館 ペ ン ウ ィ ン荘 に旅 す る こ とに な るが 、 こ の館 は 今 は ジ ェ イ ム ズ の 従 兄 弟 の チ ャ ー チ ル ・ペ ン ウ イ ン(ChurchillPenwyn)が ジ ェ イ ム ズ の 死 後 、 遺 産 相 続 を し て い て 、 恋 人 の マ ッ ジ(Madge)と し、 マ ッ ジ の 妹 ヴ ァ イ オ ラ(Viola)と. 結婚. 共 に幸 せ に 暮 ら して い る 。. 館 の 当 主 チ ャ ー チ ル は 、 ロ ン ド ン の テ ン プ ル(Temple)の 士 の 勉 強 に 努 力 奮 闘 し て い た30歳. 、. 独 身寮で弁護. の 若 者 で あ っ たが 、金 が な い とい う理 由. で 愛 す る マ ッ ジ か ら結 婚 を 断 ら れ て い た の だ が 、 従 兄 弟 ジ ェ イ ム ズ の 急 死 で 遺 産 が 転 が り込 ん で き た の を 潮 に 、 念 願 の 結 婚 を 果 た し 、 しか も館 の 当 主 に収 ま っ た後 い うわ け で あ る。 初 め て ペ ン ウ ィ ン館 を訪 れ た モ ー リス は 門番 の ジ プ シ ー 老 婆 を ど こか で 見 た よ う だ と不 審 を 抱 く 。 こ の 老 婆 は か つ て エ ボ ル シ ャ ム で ジ ェ イ ム ズ の 手 相 を 占 っ た 女 で あ り、 ジ ェ イ ム ズ 殺 害 の現 場 を見 て 知 って お り、 そ の 証 拠 と な る 名 前 入 り の 血 の 付 い た ハ ン ケ チ も 隠 し持 っ て い る こ と か ら、 チ ャー チ ル が 密 か に手 元 にお い て 門 番 に据 え 、 監 視 下 に 置 い て い る の で あ る が 、 モ ー リス は そ の よ う な こ とを 今 知 る 由 も な い。 つ ま りジ ェ イ ム ズ 殺 害 の 真 犯 人 は チ ャ ー ル ズ ・ペ ン ウ ィ ン な の だ が 、 モ ー リ ス も 、 チ ャ ー チ ル の 誠 実 な 妻 マ ッ ジ も、 そ し て 読 者 も ま だ こ の 事 実 を 知 ら な い 。. [152]. (5).
(6) 第 二 巻(第19∼38章) ペ ン ウ ィ ンへ の 旅 で モ ー リ ス が 宿 泊 す る こ と に な っ た の が 、 鉄 道 の 駅 の あ る シ ー コ ム(Seacmb)と (BorcelEnd)の. ペ ン ウ ィ ン 荘 と の 問 に あ る ボ ー セ ル ・エ ン ド. ト レ ヴ ァ ナ ー ド農 場(theTrevanards)で. ヴ ァ ナ ー ド夫 妻(Michael&Bridget)と. あ る が 、 トレ. 息 子 の マ ー テ ィ ン(Martin)、. そ. れ に 半 盲 目 の 祖 母 が 暮 ら して い る 。 農 夫 も た く さ ん 雇 っ て い る 豪 農 で 、 今 で も ペ ン ウ ィ ン 家 の テ ナ ン トで あ り 、 昔 か ら館 と は 深 い 関 わ りの あ っ た 農 家 で は あ るが 、 名 門 の家 柄 で あ る。 こ こ に 泊 ま っ た 最 初 の 夜 に モ ー リ ス が 出 く わ す の が 、 青 白 く痩 せ 細 っ た 背 の 高 い 女 の 幽 霊 で あ る 。 否 、 こ れ は 幽 霊 で は な く 、40歳 女 で マ ー テ ィ ン の 姉 ミ ュ リ エ ル(Murie1)と. く らい の 実 在 の. い い、 モ ー リ ス が 泊 っ て い る. 二 階 の 部 屋 は、 か つ て こ の 女 の 使 っ て い た寝 室 で あ っ た の で 、 女 は 月夜 に は 時 々 こ の 部 屋 に や っ て き て は 、 今 は 亡 き恋 人 の 名 を 呼 ん で 、 男 の 帰 り を 待 つ 狂 女 に な っ て し ま っ た こ とが 後 に 判 明 す る 。 ミ ュ リ エ ル は あ る 時 か ら 家 族 と 切 り離 さ れ て 、 離 れ の 祖 母 の 寝 室 の 二 階 で 隔 離 さ れ た 形 で 暮 ら し て い る。 翌 日 も モ ー リ ス が 裏 庭 を 散 歩 し て い る と、 こ の 狂 女 ミ ュ リ エ ル に 出 く わ し、 モ ー リ ス が 彼 女 の 母 の 名 を 出 す と 女 は 突 然 怒 り 出 し 、 自 分 の 子 供 を ど こ に 連 れ て 行 っ た の か と 叫 ん で 、 家 の 中 に 姿 を 隠 して し ま う 。 モ ー リ ス は 、 こ の ト レ ヴ ァ ナ ー ド家 に は 人 に は 言 え な い 秘 密 が あ る の で は な い か と勘 づ く。 ま た モ ー リ ス は 日 曜 日 に 村 の 教 会 に ト レ ヴ ァ ナ ー ドー 家 と 参 拝 に 出 か け た 時 、 ペ ン ウ ィ ン館 の 新 し い 主 チ ャ ー チ ル と妻 の マ ッ ジ に 出 会 い 、 館 に 招 待 さ れ 、 大 変 親 切 に も て な さ れ る が 、 ト レ ヴ ァ ナ ー ド夫 人 だ け は 、 身 分 の 違 い を理 由 に決 して ペ ン ウ ィ ン夫 妻 との 交 わ りは 持 と う とは しな い 。 そ こ に は夫 人 だ け しか 知 ら ない 、 屈 折 した もの が心 に隠 され て い る の で あ る が 、 そ れ が 娘 ミ ュ リ エ ル の 発 狂 と も 関 わ りの あ る も の で あ る こ と が 、 や が て わ か る こ とに な る。 モ ー リ ス は マ ー テ ィ ン と 仲 良 く な っ て ボ ー セ ル ・エ ン ド周 辺 を 馬 車 で 案. (6). [151].
(7) 内 して も ら うが 、 あ る 時 シー コ ム の 教 会 の洗 礼 名 簿 を 見 て い て、 そ の 中 に マ シ ュ ー ・エ ル グ ッ ド夫 妻 の 名 と彼 ら の 赤 ん 坊 の 洗 礼 名 エ ミ リ ー ・ジ ェ ー ン(EmilyJane)が. 記 さ れ て い る の を 見 て 、 び っ く り し、 こ れ は ひ ょ っ と し. て エ ボ ル シ ャ ム の 町 で 出 会 っ た あ の 旅 役 者 の エ ル グ ッ ド とそ の娘 ジ ャス テ ィ ー ナ の こ と で は な い か と思 う。 あ る 夕 方 ト レ ヴ ァ ナ ー ドー 家 の も の が 留 守 の 時 、 祖 母 の 老 婆 が 退 屈 しの ぎ に 居 間 に 出 て き て 寂 し い か ら話 し相 手 に な っ て く れ と モ ー リ ス を 自 分 の 部 屋 に誘 うの で 入 っ て み る と、 暖 炉 の 上 に女 の 肖像 画 が 掛 け て あ っ て 、 だ れ か と尋 ね る と、 老 婆 は 、 そ れ は 自分 の 夫 の母 親 で ジ ャス テ ィ ー ナ ・ト レ ヴ ァ ナ ー ド(JustinaTrevanard)だ. と い うの を聞 い て 、 モ ー リ ス は 直 ち に. 旅 役 者 の 娘 ジ ャス テ ィー ナ の こ と を思 い 起 こす 。 そ して教 会 の 洗 礼 者 名 簿 の 名 前 の 女 性 と の 不 思 議 な 縁 を 思 う。 モ ー リ ス が 、 夜 中 に そ して ま た裏 庭 で 、 ミュ リエ ル と出 会 っ た こ と を話 す と、老 婆 は 、 恋 人 が 若 く して死 ん で し まっ て か ら、 精 神 に異 常 を きた し、 村 の 医 者 に 診 て も ら っ た が 、 ど の よ う な 薬 も効 力 が な く 、 若 い 時 の 美 しい 姿 が あ れ ほ ど 痩 せ 衰 え て し ま っ た と 、 姪 の 不 幸 を 嘆 く。 こ の 時 二 階 か ら 降 り て き た ミ ュ リ エ ル は 祖 母 の 膝 に 樽 り、 髪 を 撫 ぜ て も ら い な が ら 、 突 然 子 供 の 泣 き声 が す る と言 い 出 す 場 面 に もモ ー リ ス は 出 く わ す 。 他 方 、 第 一 子 の 息 子 ヌ ー ジ ェ ン ト(Nugent)の. 誕 生 を機 に、 チ ャー チ ル. は シ ー コム か ら国 会 議 員 と して打 っ て 出 、 当 選 す る。 そ して植 樹 、道 直 し、 所 有 の 鉱 山へ の 新 た な投 資 と利 益 の 管 理 、 有 用 な小 作 人 へ の 支 援 、不 要 な 者 の 首 切 りな ど、 地 所 の大 変 革 を や って の け る。 国 会 議 員 と して もそ の 論 法 の鋭 さで、 大 い に賞 賛 を博 す よ うに な る。 妻 の マ ッ ジ も 、 モ デ ル 村 を 作 り、 慈 善 学 校 を 建 て る な ど し て 村 人 の 人 気 を 凌 い 、 夫 の た め に 尽 く す 。 ロ ン ド ン社 交 界 の 大 物 未 亡 人 で マ ッ ジ た ち 姉 妹 に 肩 入 れ を し て い る チ ェ ス ハ ン ト夫 人(LadyCheshunt)が. 館 を訪 れ て 、. こ の ペ ン ウ ィ ン 荘 は ま さ に 「ア ル カ デ ィ ア 」 だ と 絶 賛 す る 。 だ が 、 幸 せ の 絶 頂 期 に あ り な が ら も、 妻 の マ ッ ジ は 時 折 夫 の チ ャ ー チ ル が 沈 ん だ 様 子 を して い る の を 見 逃 さ な い 。 そ して や が て そ の原 因 が 妻 に 明 か さ れ る 時 が 来. [150]. (7).
(8) る。 モ ー リ ス が コ ー ン ウ ォ ー ル を 旅 し て か ら 、 ロ ン ド ン に 戻 り、 一 年 ほ ど を 経 た 頃 、 待 望 の 詩 集 を 出 版 して 、 爆 発 的 な 人 気 を 得 る 。 こ の 詩 集 は 自分 の 過 去 の 失 恋 を 基 に し た フ ィ ク シ ョ ン の 物 語 詩 で 、.4五 舵.P癖. 躍6,僻4α. 加7. Po6〃z∫ と い う 題 で 、 作 者 は 本 名 を 明 か さ ず 、 ク リ フ ォ ー ド ・ ホ ー ソ ン (Cli伽rdHawthorn)と (Mudie's)で. い うペ ン ネ ー ム で あ る が 、 貸 本 屋 の ム ー デ ィ ー ズ. は、 大 人 気 で 、 なか なか 手 に入 ら ない ほ どで あ った 。 ロ ン ドン. の館 で は、 マ ッジ と ヴ ァイ オ ラ の姉 妹 が 、 ま さ か作 者 が 知 人 の モ ー リス だ と は 知 ら な い で 、 こ の 詩 集 を 読 み 、 批 評 し合 う 。 モ ー リス の この 物 語 詩 は 彼 の 過 去 の 失 恋 が 元 に な っ て い るが 、 実 は モ ー リス が エ ボ ル シ ャ ム で友 人 ジ ェ イ ム ズ の 殺 人 容 疑 で 逮 捕 され た と き、殺 人 の あ っ た 夜 の ア リバ イ を敢 えて 証 言 し な か っ た の は、 こ の 詩 に登 場 す る恋 人 か らの 手 紙 で 急 遽 彼 女 に 会 い に 出 か け て い た か ら で あ る 。 恋 人 は父 の 言 い つ け で 、 金 持 ち の 男 との結 婚 を余 儀 な くさ れ る か ら助 け て ほ しい とい う 内容 の 手 紙 で あ っ たが 、 い ざ行 っ て 見 る と女 は 、 す で に 明 日結 婚 式 をす る 段 取 りだ と い い 、 モ ー リ ス は 尻 の 軽 い 女 に 裏 切 ら れ る こ と に な る の で あ る が 、 詩 の 中 で は 主 人 公 が 天 使 の よ うな 恋 人 を捨 て る話 に な って い る 。 ア リ バ イ証 言 を拒 否 した の は、 女 の名 誉 を思 っ ての こ とで あ っ た。 あ る 日、 文 学 仲 間 の 新 進 劇 作 家 ジ ャ ッ ク ・フ リ ッ タ ー ギ ル ト(Jack Flittergilt)の. 新 作 劇1V∂Cα ノ4sを 見 に 、 連 れ ら れ て 王 立 ア ル バ ー ト劇 場. (theRoyalAlbertTheatre)に. 出 か け る と、 そ の 新 作 劇 の 女 優 が 、 二 年 前. に エ ボ ル シ ャ ム で 田 舎 芝 居 を し て い た ジ ャ ス テ ィ ー ナ ・エ ル グ ッ ドで あ り 、 こ れ が 人 が 変 わ っ た よ うに 美 しい女 性 に成 長 して い て、 見 事 な演 技 力 を身 に つ け て 、 観 客 を 圧 倒 す る の を 目 の 当 た り に す る 。あ の 二 年 前 の 彼 女 を 襲 っ た 悲 劇 が 少 女 を 一 人 前 の 女 に 成 長 させ た の だ と 、 父 親 の エ ル グ ッ ドは い い 、 楽 屋 を 訪 ね た モ ー リ ス に 、 今 は ブ ル ー ム ズ ベ リ ー(Bloomsbury)に. 投宿 し. て い る の で 、 是 非 訪 ね て きて ほ しい とい う。 行 っ て み る とジ ャス テ ィー ナ は、 モ ー リス の 詩 集 を読 ん で 涙 して い る と こ ろ で あ っ た。 勿 論 そ の詩 集 の 作 者 が モ ー リス で あ る とは知 る 由 もな い。こ う してモ ー リス と ジ ャス テ ィー. (8). [149].
(9) ナ は再 会 し、 急 速 に親 密 の度 を増 して い くこ とに な る。 さ て 、 そ の 後 の ペ ン ウ ィ ン家 で あ るが 、 折 し も、 門 番 の 老 婆 レベ ッ カ (Rebecca)の. 息 子 ポ ー ル(Paul)が. 、 捨 て られ た 母 を捜 して や っ て 来 て 、. 空 腹 だ か ら何 か 食 わせ う とい い、 ジ プ シ ーが 館 に雇 わ れ て い る こ との 不 信 を言 い 募 り、 従 兄 弟 が 殺 され た お か げ で チ ャー チ ル が 屋 敷 を手 に入 れ た こ とに つ い て母 が 何 か 知 っ て い る か らで は な い か と迫 る 。老 婆 が こ れ を否 定 す る と、 パ ー テ ィー を や っ て い る館 を覗 い て くる と い っ て 、 開 い て い る窓 か ら忍 び込 ん で 、 奥 方 マ ッ ジ が テ ー ブ ル に 置 い て お い た ダ イ ア モ ン ドの ネ ッ ク レ ス を 盗 む と、 逃 走 しよ う と して 、 マ ッジ の 妹 の ヴ ァ イ オ ラ に 見 つ か り、 居 合 わせ た客 とチ ャ ーチ ル に取 り押 さ え られ る。 この 盗 難 事 件 をめ ぐっ て 、 い ざ告 訴 と い う寸 前 に、 門番 の 老 婆 レベ ッ カ が 傍 聴 席 か ら告 訴 を取 り下 げ て ほ しい とチ ャー チ ル に 嘆 願 す る。 だ が 見 せ しめ の た め に そ れ は で き ない とい うチ ャ ー チ ル に対 して 、 で は奥 方 の マ ッ ジ に 話 した い こ とが あ る と い っ て 、 隣 室 に行 き、 十 分 ほ どす る と、真 っ青 な顔 を した マ ッ ジが 出 て き て、 そ れ まで 告 訴 を主 張 して い た の を翻 し、 夫 に告 訴 を取 り下 げ る よ う に嘆 願 す る 。 チ ャ ー チ ル は 隣室 で何 が 話 され た の か を察 知 す る と、 妻 の い う こ とを 聞 きい れ て 、 傍 聴 席 が 唖 然 とす る うち に 、 告 訴 を取 り下 げ、 謹 慎 を 申 しつ け た のみ に て、 裁 判 は結 審 す る。 勿 論 、 ジ プ シ ー の 老 婆 が マ ッジ に 語 っ た の は、 読 者 も推 察 の 通 り、 夫 チ ャ ー チ ル に よ る従 兄 弟 ジ ェ イ ム ズ の 殺 人 の 現 場 を 目撃 した と い う話 で あ っ た 。 夫 が 彼 女 の 結 婚 の た め の条 件 を満 たす た め に殺 人 を犯 す に 到 った こ と を知 っ た マ ッ ジ夫 人 は 、 そ の 罪 の 半 分 は 自分 に も責 任 が あ る こ と を悟 り、 い ま だ もっ て 神 に臓 悔 す る こ との で きな い 夫 を責 め る こ とな く、 心 の 中 で 自 らが 仲 介 と して神 に峨 悔 を す る。 そ して そ の罪 ゆ え、 チ ャ ー チ ル の 心 は蝕 ま れ て い き、 そ の伴 侶 と な っ た マ ッジ の 美 しい容 貌 は 次 第 に 衰 えて い くこ とに な る。 一 方 、 モ ー リス は ロ ン ドンの 劇 場 で 名 声 を博 して い くジ ャス テ ィー ナ と 父 の エ ル グ ッ ド氏 の 投 宿 先 を しば しば 訪 れ て は 、 娘 に は 文 学 の 教 養 を深 め る 話 を して や り、 飾 り気 の な い そ の 部 屋 を本 や 茶 器 や 花 瓶 、 彫 刻 な どで. [148]. (9).
(10) 飾 っ て や る。 エ ル グ ッ ド氏 に は コ ー ン ウ ォ ー ル の シー コ ム の 教 会 で偶 然 見 つ け た洗 礼 名 簿 の 名 前 につ い て尋 ね る と、 そ れ は ジ ャス テ ィ ー ナ で は な く、 生 ま れ て 六 週 間 で 亡 くな っ た 彼 女 の姉 だ とい う。 さ ら に モ ー リス が ジ ャス テ ィー ナ とい う変 わ っ た 名 前 に言 及 し、 そ の 名 前 の 持 ち 主 が ボ ー セ ル ・エ ン ドの ト レヴ ァナ ー ド家 の 曾 祖 母 の 名 前 で あ る とい う と、 エ ル グ ッ ド氏 は 仰 天 す るが 、 そ の 家 の こ とは 噂 で 聞 い た だ け だ と 白 を切 る 。 モ ー リス は 彼 が 何 か を 隠 して い る と察 知 す る。 娘 の ジ ャ ス テ ィー ナ は相 変 わ らず 亡 き婚 約 者 の こ とが 忘 れ られ な い よ う で、 彼 か らペ ン ウ ィ ン家 を 奪 い 、 裕 福 に 暮 して い るチ ャ ー チ ル を赦 して は い な い 様 子 で あ る。 そ こ で モ ー リス は彼 女 を連 れ 出 して は よ くロ ン ドンの 美 術 館 や ハ イ ド ・パ ー ク(HydePark)を. 散 策 す る よ う に な り、 次 第 に 自分. の ク ラ ブ に は 立 ち寄 らな くな る。 夜 帰 っ て か らは 、 こ れ ま で 以 上 に純 粋 に 詩 の創 作 に没 頭 す る よ うに な るが 、 ジ ャ ス テ ィー ナ に は ま だ 彼 女 の好 き な 詩 人 が 自分 で あ る こ とは 明 か さ な い で 、 自分 の 人格 の み で彼 女 を手 に 入 れ よ う と思 う。 マ ー テ ィ ン ・トレ ヴ ァナ ー ド と別 れ て 二 年 の 歳 月 が 経 っ た と き、 突 然 彼 か ら母 の 容 体 が 悪 い の で 来 て ほ しい とい う手 紙 を受 け取 る と、 モ ー リス は 詩 の 創 作 に没 頭 し、 ま た ジ ャス テ ィー ナ と別 れ る の が 辛 い 時 で は あ る が 、 友 人 の 悲 しみ に は勝 て ず 、 す ぐさ まボ ー セ ル ・エ ン ドに 向 か う。 特 に マ ー テ ィ ンが モ ー リス を呼 ん だ の は、 彼 の 母 が 家 族 の 者 に は言 え ない 何 か 恐 ら く娘 の ミュ リエ ル に 関 す る こ とか も しれ な い. を心 に 秘 め て い て 、. そ れ が 彼 女 を弱 らせ て い る よ う な の で 、 よ そ者 で は あ る が信 頼 で きる 紳 士 の モ ー リス に な ら話 す か も しれ な い か ら、 訊 き出 し、 何 か正 す こ とが で き る もの が あ る な ら、 そ れ を や っ て も らい た い とい う依 頼 の た め で あ っ た 。 トレ ヴ ァナ ー ド氏 か ら は、 最 近 ペ ン ウ ィ ンで あ っ た泥 棒 の話 を 聞 か さ れ 、 なぜ チ ャ ーチ ル が 細 君 の 嘆 願 を 聞 きい れ て突 然 門 番 の 息 子 で あ る盗 人 を釈 放 す る に至 っ たか を不 思 議 に思 う。 散 歩 の 途 中 ペ ン ウ ィ ン荘 に足 を 向 け たモ ー リス は、 門番 の 女 が か つ て エ ボ ル シ ャム の 牧 草 地 で ジ ェ イ ムズ の手 相 を占 っ た ジ プ シ ー だ と確 信 す る が 、. (10). [147].
(11) 老 婆 は こ れ を 否 定 す る。 モ ー リ ス は チ ャ ーチ ル が こ の女 を こ こ に住 まわ せ た の に は、 訳 が あ る こ と を直 覚 し、 そ の 訳 を探 っ て み よ う と思 う。 館 まで の 道 が 整 備 され て い る ば か りで な く、 館 そ の もの が 見 事 に改 装 さ れ 、 居 間 は客 の 楽 し さに あ ふ れ る 光 景 に満 ち て い る こ と に気 づ くが 、 モ ー リス は 特 に ペ ン ウ ィ ン夫 人 マ ッ ジ の 変 わ り様 に 目 を奪 わ れ る 。 輝 く肌 の色 は 失 せ 、 顔 も角 張 り、 目 も大 き くな っ て、 鋭 くな っ た よ う に見 え 、 話 す 声 の 調 子 に も、 かつ て の楽 しげ な響 きが 失 せ て しま っ た よ うに思 え る。. 第 三 巻(第39∼55章) 以 降 、 物 語 は モ ー リ ス が ト レ ヴ ァ ナ ー ド家 の 秘 密 を 知 り、 そ れ が 深 くペ ン ウ ィ ン 家 と 関 わ っ て お り、 さ ら に こ れ に は ジ ャ ス テ ィ ー ナ の 出 生 の 秘 密 が 隠 さ れ て い る こ と を 突 き止 め る 問 、 こ れ と並 行 し て チ ャ ー チ ル ・ペ ン ウ ィ ン の 悪 事 が 暴 か れ 、 ペ ン ウ ィ ン 家 が 没 落 し て い く必 然 の 過 程 が 、 見 事 な 推 理 の 組 み 合 わ せ を 通 し て 展 開 さ れ て い く。 娘 ミ ュ リ エ ル の こ と で 心 を 痛 め て い る ト レ ヴ ァ ナ ー ド夫 人 に 同 情 す る モ ー リ ス は、 夫 人 か ら ミュ リエ ル に 関 す る秘 密 を 聞 く こ と に な る 。 そ れ は 次 の よ うな話 で あ っ た。 ミ ュ リエ ル は シ ー コ ム の 女 学 校 時 代 に 可 愛 が られ た 校 長 先 生 の ミス ・バ ー ロ ー(MissBarlow)か. ら、 ミ クル マ ス の 期 間 二 週 間 学 校 に泊 ま りに来 て ほ. しい とい う招 待 状 を 受 け取 る と、 父 母 の 承 諾 を得 て 、 喜 ん で 出 か け た が 、 二 週 間 の 滞 在 を さ らに一 週 間延 長 して 、 三 週 目 に な っ て 元 気 で 戻 っ て きた が 、 時 折 発 作 的 に ふ さ ぎ こ む 様 子 が 見 られ る よ う に な っ た 。そ して ペ ン ウ ィ ン家 の 長 男 で 後 継 者 の キ ャ プ テ ン ・ジ ョ ー ジ ・ペ ン ウ ィ ン(CaptainGeorge Penwyn)が. 連 隊 に加 わ っ て カ ナ ダ に立 っ た 頃 は、 落 ち込 んで しま っ た。. あ る 日 ミュ リエ ル は母 親 に妊 娠 して い る こ と を告 げ る が 、 相 手 の 名 前 も 言 わ な け れ ば 、 秘 密 の 結 婚 な の か ど う か も言 わ な い 。 驚 い た 母 親 は 祖 母 と 相 談 の う え 、 ミ ュ リ エ ル を祖 母 の 寝 室 の 二 階 に 隔 離 し 、 そ こ で 母 屋 と は 離 して 生 活 させ 、 家 の 者 に は気 づ か れ な い よ う に した。 あ る 冬 の 日エ デ ン夫 妻(Mr.&Mrs.Eden)と. 名 乗 る 若 い 夫 婦 が 雪 の た め に 立 ち 往 生 し、 助 け を. [146]. (11).
(12) 求 め た の で 、 ト レ ヴ ァ ナ ー ド夫 人 は 哀 れ と 思 い 、 二 人 を 乾 草 小 屋 に 泊 め て や る こ と に し た 。 話 を 聞 く と 、 こ の 夫 婦 は 最 近 赤 ん 坊 を 亡 く した ば か りだ とい う。 こ の 話 を 聞 い た ト レ ヴ ァ ナ ー ド夫 人 は 妙 案 を 思 い 付 き 、 雪 の 降 り積 も る 問 の み な らず 、 春 に な る ま で この 若 い 二 人 を乾 草 小 屋 に密 か に住 ま わせ 、 家 の 者 に は 内 緒 で 食 事 を 運 ん で や っ た 。 若 い 母 親 は 元 気 を 取 り戻 し た 。 そ こ で ト レ ヴ ァ ナ ー ド 夫 人 は 亡 き 子 ど も の 代 わ り に 「母 の な い 子 」 ("motherlesschild")を. 一 人 育 て て くれ ま い か と い う と 、 エ デ ン 夫 妻 は 喜 ん. で この 依 頼 を 引 き受 け、 春 暖 か くな っ た 早 朝 に 立 ち去 っ て 行 っ た。 ミュ リ エ ル は 産 褥 の熱 で しば ら くは弱 っ て い たが 、 気 が つ い て 自分 の 赤 ん坊 が い な くな っ て い る こ と を知 る と、 気 が 狂 っ た よ う に な るが 、 母 親 が 訳 を云 い 聞 か せ 、 人 に 育 て て も ら う よ う に よ そ に や っ た と 話 す と 、 ミ ュ リエ ル も 心 を静 め て こ れ を受 け入 れ る よ う に な っ た。 だ が 、 あ る 時 父 親 の マ イ ケ ル が 何 も知 ら ず 、 カ ナ ダ に 行 っ た キ ャ プ テ ン ・ ジ ョ ー ジ ・ペ ン ウ ィ ン が 原 住 民 に 殺 さ れ た こ と を 告 げ る と 、 折 角 回 復 し か か っ て い た ミュ リエ ル の頭 は狂 っ て し ま っ た 。 そ こで 祖 母 の 二 階 に 隔 離 す る よ う に し て 、 こ れ ま で 暮 ら し て き た 。 ト レ ヴ ァ ナ ー ド夫 人 は 語 り終 え 、 つか. 心 の病 え をお ろす 。 こ の 話 を 聞 い て モ ー リ ス は 、 エ デ ン 夫 妻 と い う の は エ ル グ ッ ド夫 妻 の こ とで あ り、 そ の 娘 ジ ャス テ ィ ー ナ こ そ は ミュ リエ ル の 娘 だ と半 ば確 信 す る 。 そ の 後 す ぐ ト レ ヴ ァ ナ ー ド夫 人 は 容 体 が 悪 化 し 、 モ ー リ ス を 呼 ん で 、 「聖 書 ・ あ げ た … 家 族 用 聖 書 を 」 とい っ て 息 を 引 き取 る 。 「家 族 用 聖 書 」 に 謎 を 解 く カ ギ が あ る も の と 思 う モ ー リ ス は 、 そ れ を マ ー テ ィ ン か ら 借 り受 け て 調 べ て み る が 、 ト レ ヴ ァ ナ ー ド家 の 家 系 が 記 し て あ る だ け で 、 ミ ュ リ エ ル の 子 ど もの こ とは何 ら記 され て は い な い 。 こ の聖 書 の 中 に ミュ リエ ル が ミル ト ン の 詩 を 引 き 写 し た 紙 片 が 挿 入 さ れ て い る の を 見 つ け 、 モ ー リス は 彼 女 の筆 跡 証 明 の た め に、 貰 い受 け る。 こ の 大 型 の 家 族 用 聖 書 の ほ か に 「家 族 用 聖 書 」 と 呼 ば れ る 聖 書 が な い か ど う か を ト レ ヴ ァ ナ ー ド夫 人 の 遺 品 の 中 に 捜 し て い た モ ー リ ス は 、 夫 人 の. (12). [145].
(13) 最 後 の 言 葉 に 「あ げ た 」 と い う 言 葉 が あ っ た の を 思 い 出 し 、 彼 女 が 告 白 の 中 で 、 赤 ん 坊 を 旅 人 に 託 す る と き、 聖 書 に 誓 わ せ た とい っ た こ とか ら も、 き っ と そ の 聖 書 は エ ン デ 夫 妻 に 形 見 と し て や っ た に 違 い な い と推 理 す る 。 そ して そ の聖 書 に はマ ー テ ィ ン の 曾 祖 母 ジ ャス テ ィ ー ナ の 名 が 書 い て あ っ た と い う か ら 、 ジ ャ ス テ ィ ー ナ ・エ ル グ ッ ド と い う の は ミ ュ リ エ ル の 娘 に 違 い な い と確 信 す る 。 自分 が 愛 す る よ う に な っ た 娘 ジ ャ ス テ ィ ー ナ を め ぐ る こ う し た 謎 は 、 ま さ に モ ー リ ス が 解 くべ き 「宿 命 」(Destiny)と. 思 われ、. 彼 は 謎 の 解 明 に 本 格 的 に 取 り組 む こ と に な る 。 ロ ン ドンに 帰 る前 に、 モ ー リ ス は 別 れ を告 げ にペ ン ウ ィ ン荘 に チ ャー チ ル を 訪 ね 、 な ぜ 従 兄 弟 の 占 い を し た こ と が あ り、 ま た そ の 息 子 が 泥 棒 を し た と い う ジ プ シ ー を 門 番 と して 雇 っ て い る の か を尋 ね る。 チ ャ ー チ ル は 、 貧 しい 女 を 哀 れ と思 い住 ま わせ て い る、 追 放 す る よ う な酷 い こ とは で き な い とい う。 だ が 、 モ ー リス は 、 そ の老 婆 の 予 言 の お か げ で 金 持 ち に な って こ の館 に暮 ら して い る チ ャ ーチ ル が 、 そ の 女 を門 番 と して 住 ま わせ て い る こ とに疑 惑 を抱 か ざ る を え な い。 この 館 で モ ー リス が 確 信 した こ とが 二 つ あ る。 一 つ は小 さ な書 斎 に 掛 っ て い る キ ャ プ テ ン ・ジ ョ ー ジ ・ペ ン ウ ィ ン の 肖像 画 が 語 っ て い る の は 、 ま ぎれ も な くジ ャス テ ィー ナ は彼 の娘 だ とい う こ と で あ る 。 ジ ャ ス テ ィー ナ は 彼 の 生 き写 しで あ っ た 。 初 め て こ の 館 を 訪 れ て 、 家 政 婦 の ダ ー ヴ ィ ス 夫 人 に 案 内 さ れ て この 肖像 画 を見 た 時 は、 ジ ャス テ ィ ー ナ の 顔 を う ろ 覚 え に しか 覚 え て い な か っ た の で 、 そ れ ほ ど強 く印 象 に残 らな か っ た が 、今 や 自 分 の恋 人 とな っ た女 の顔 の記 憶 は確 か で あ っ た。 も う 一 つ は 、 同 じ書 斎 に ジ ョ ー ジ が 大 学 よ り 持 っ て き た 文 学 書 が あ り 、 彼 の 教 養 の 高 さ を証 す る もの で あ る が 、 そ の 中 の バ イ ロ ン詩 集 の 中 に 女 文 字 で 適 切 な評 が 書 きこ まれ て い る の を発 見 し、 これ は ミュ リエ ル の筆 跡 で あ る こ と を知 る モ ー リス は 、 ジ ョー ジ の 愛 読 書 に こ う して 書 き込 み をす る 二 人 の 関係 が 物 語 っ て い る もの を確 信 す る。 ジ ョ ー ジ ・ペ ン ウ ィ ン に つ い て の 人 の 噂 を ヴ ァ イ オ ラ か ら 聞 い た モ ー リ ス は 、 ジ ョー ジ が 立 派 な紳 士 で あ り、 ミュ リエ ル を裏 切 る 男 で は な い と確. [144]. (13).
(14) 信 す る 。 で は ど う して 生 ま れ て く る 子 ど も の こ と が 予 測 で き た は ず な の に 、 ミ ュ リ エ ル に 何 の 保 証 も与 え な い で カ ナ ダ に 行 っ て し ま っ た の か と い う 謎 が 残 る 。 この 謎 を解 くた め に モ ー リス は、 ミュ リエ ル が 女 学校 時 代 を過 ご し た シ ー コ ム の 町 に 立 ち 寄 っ て 、 昔 の 校 長 ミ ス ・バ ー ロ ー の 行 方 を 突 き 止 め よ う とす る 。 シ ー コ ム の 古 い 旅 籠 の 女 将 チ ャ ド ウ ィ ッ ク 夫 人(Mrs。Chadwick)に. ミ. ス ・バ ー ロ ー の こ と を 訊 ね る と 、 彼 女 の 女 学 校 は 淑 女 を 対 象 に し た 位 の 高 い学 校 で 、 そ の 中 で も ミュ リエ ル は と び き りの 少 女 で 、 若 者 の 憧 れ で あ っ た が 、 学 校 を 卒 業 し て ま も な く頭 が 変 に な っ た と 聞 い て い る と い う 。 ま た ミ ス ・バ ー ロ ー に 関 し て は 、 女 学 校 を 閉 じ て か ら は 大 陸 に 行 き、 勉 強 を し て 帰 国 す る と、 ロ ン ド ン で ピ ァ ノ の 教 室 を 開 い た と 聞 い て い る と い う 。 さ らに シ ー コ ム で の 芝 居 に つ い て 尋 ね る と、 そ れ は 散 髪 屋 の 主 人 ク リ ッ プ カ ム(Clipcome)が. よ く知 っ て い る と い うの で 、 モ ー リス は散 髪 屋 を尋 ね て. み る と、 は た して ク リ ップ カム は芝 居 の こ とな ら何 で も知 って い て 、 エ ル グ ッ ド と い う役 者 と そ の 妻 が 隣 の 仕 立 屋 に 下 宿 し て い た が 、 劇 場 が 閉 鎖 し て し まい 、 下 宿 を追 い 出 され て 、 雪 の 降 る寒 い 日 に こ の 町 を去 っ て い った と い う 。 最 後 に エ ル グ ッ ドが 芝 居 に 出 た 時 の ポ ス タ ー の 日付 は 、1849年1 月10日. とあ っ た 。. 再 び シ ー コ ム の 教 会 で 洗 礼 者 名 簿 を確 認 し た モ ー リ ス は 、 同 時 に 死 亡 者 名 簿 を 調 べ る と 、 そ こ に は1849年1月4日. の 日 付 で 、 エ ル グ ッ ド夫 妻 の 娘. エ ミ リ ー ・ジ ェ ー ン が 生 ま れ て 五 週 間 の ち に 死 ん だ こ と が 記 さ れ て い た 。 こ れ は シ ー コム 劇 場 が 閉 鎖 され て か ら六 日 目で あ っ た。 モ ー リス は ジ ャス テ ィ ー ナ が 自 分 の 誕 生 月 が5月. で あ る と い っ て い た の を 思 い 出 し、 エ ミ. リ ー ・ジ ェ ー ン の 誕 生 が1848年12月. で あ る か ら 、 翌 年 の5月. に ジ ャス. テ ィ ー ナ が 生 ま れ る こ と の 不 可 能 な こ と を 知 り、 ジ ャ ス テ ィ ー ナ は エ ル グ ッ ド夫 妻 の 子 ど も で は な い と 確 信 す る 。 ロ ン ド ン に 戻 っ た モ ー リ ス は 、 早 速 こ の 事 実 を す べ て エ ル グ ッ ド氏 に 話 す と 、 エ ル グ ッ ド氏 も こ れ を 認 め 、 ト レ ヴ ァ ナ ー ド夫 人 か ら 生 ま れ た ば か り の 赤 子 を 託 さ れ 、 養 育 費 と し て 貰 っ た200ポ. (14). [143]. ン ドを懐 に 、 シ ー コ ム か ら.
(15) 列 車 に 乗 り込 ん で 、 サ マ セ ッ トシ ャ ー の ス ロ ー ベ リ ー(Slowberry)に. あ る. シ ア タ ー ・ロ イ ヤ ル と い う 劇 場 の 支 配 人 の 契 約 を す る が 、 営 業 は う ま くい か ず 、 貰 っ た 金 も 底 を つ い て し ま い 、 お ま け 最 愛 の 妻 も 亡 く し、 あ と は ま た あ ち ら こ ち ら と幼 い娘 を連 れ て 流 れ 歩 い た とい う。 ス ロ ー ベ リ ー に 着 い て す ぐに、 洗 礼 を行 い、 貰 った 聖 書 に 書 い て あ っ た ジ ャス テ ィ ー ナ ・ト レ ヴ ァ ナ ー ドか ら娘 の 名 を 付 け た と い う。 次 に モ ー リ ス は ロ ン ド ン の 郵 便 名 簿 を 調 べ 、 バ ー ロ ー(Barlow)と. い う. 名 の す べ て に 当 た る が 、 ピ ア ニ ス トの バ ー ロ ー は 見 当 た ら な い 。そ れ で ジ ャ ス テ ィ ー ナ の 劇 場 の 楽 団 指 揮 者 に 尋 ね て み る と、 マ ダ ム ・バ ー ロ ー (MadameBalo)と. い う 女 性 な ら知 っ て い る とい う 。 こ れ は イ タ リ ア 留 学 の. 頃 の 呼 び 名 で あ ろ う と 推 測 し て 、 早 速 尋 ね て み る と 、60歳. になった当の ミ. ス ・バ ー ロ ー が 姿 を 現 し 、 ミ ュ リ エ ル は 最 愛 の 生 徒 で あ っ た こ と 、 ジ ョー ジ ・ペ ン ウ ィ ン に 頼 ま れ て 密 か に デ ヴ ォ ン シ ャ ー(Devonshire)の マ ス(Didmouth)と. デ ィ ド. い う と こ ろ の教 会 で 自分 が 立 ち会 っ て結 婚 式 を挙 げ た. こ と を 話 す 。 だ が そ の 後 ミ ュ リエ ル が ジ ョ ー ジ の 死 を 機 に 頭 が お か し く な っ た こ とは知 らな い。 そ こ で モ ー リ ス は 、 さ ら に 証 拠 固 め を す る べ く、 デ ィ ドマ ス に 出 向 く 。 教 会 に 行 き 、 結 婚 式 の 記 述 簿 を 見 せ て も ら う と 、 ミ ス ・バ ー ロ ー の 証 言 通 り 、1847年9月30日. と 記 さ れ て い た 。 そ の 足 で モ ー リ ス は ボ ー セ ル ・エ ン. ドに 赴 く。 そ し て マ ー テ ィ ン と 祖 母 の ト レ ヴ ァ ナ ー ドに ミ ュ リ エ ル に 関 す る 事 実 を 打 ち 明 け る と 、 マ ー テ ィ ン は 姉 の 娘 の 存 在 に 有 頂 天 に な り、 祖 母 は ミ ュ リ エ ル が 不 義 の 娘 で は な い こ と は 信 じ て い た と い い 、 母 親 の 犯 した 過 ち を 嘆 く。 モ ー リ ス は き っ と ミュ リエ ル を気 遣 う手 紙 を ジ ョー ジ が カ ナ ダ か ら送 っ て よ こ した もの が あ る に 違 い な い と思 い、 そ の 手 掛 か り を得 よ う と、 ミ ュ リエ ル が また彼 の 泊 ま っ て い る寝 室 に忍 ん で 来 るの を待 つ 。 果 たせ る か な 、 三 日 目 の 月 夜 に、 ミュ リ エ ル は や っ て 来 て 、 さ さ や き声 で 、 窓 の 下 の ジ ョ ー ジ に 気 を 付 け て 上 が っ て 来 る の よ と呼 び か け る 。 そ し て テ ー ブ ル の 上 に 置 い て あ っ た ロ ウ ソ ク に火 を つ け る と、 部 屋 を 出 て い くの で 、 火 事 に. [142]. (15).
(16) な る 危 険 を 察 知 し た モ ー リ ス が 跡 を付 け る と 、 屋 根 裏 部 屋 に 通 じ る 狭 い 梯 子 段 を 上 っ て い く。 屋 根 裏 部 屋 で ミ ュ リ エ ル が 捜 し て い た の は 、 ま さ に ジ ョ ー ジ か ら の 手 紙 で あ っ た 。 そ れ を ミ ュ リ エ ル は ベ ビ ー ベ ッ ドの 中 に 隠 し て い た の だ 。 そ れ を 取 り 出 して 読 む 姿 を 陰 に 隠 れ て 見 て い る モ ー リ ス に 気 付 い た ミ ュ リエ ル は 、 亡 き夫 ジ ョー ジ の 亡 霊 が 帰 っ て きた と思 い こ み 、 ロ ウ ソ ク を 捨 て て 、 モ ー リ ス に しが み つ く 途 端 、 彼 女 の 寝 巻 に 火 が 移 っ て 、 燃 え 上 が る の を 消 し止 め た モ ー リ ス は 、 失 神 し た ミ ュ リ エ ル を 抱 き か か え て 、 祖 母 の 部 屋 に 連 れ て 行 き、 医 者 を 呼 ん で 、 看 病 を 依 頼 す る 。 翌 朝 モ ー リス は屋 根 裏 部 屋 に上 が って 、 ミュ リエ ル が 読 ん で い た手 紙 を 探 し 出 す 。 そ れ は ジ ョ ー ジ が ミ ュ リ エ ル を 妻 と 呼 び 、 帰 国 し た ら父 に も 承 諾 を得 て 、 必 ず 結 婚 を 公 に す る とい う 内 容 で、 も し困 っ た こ とが あ れ ば 、 シ ー コム の 某 弁 護 士 に相 談 す る よ う に と い っ て 、 そ の 弁 護 士 宛 て の手 紙 も 同 封 し て あ っ た 。 だ が 、 封 が 開 け ら れ た 形 跡 が な い 。 ト レ ヴ ァ ナ ー ド氏 に 尋 ね る と 、 こ の 弁 護 士 は1842年12月. に旅 先 で 亡 くな っ た こ とが 判 明 し、. ミ ュ リエ ル が そ の 手 紙 を 弁 護 士 宛 て に 送 ら な か っ た 謎 が 解 け る 。 こ う して モ ー リ ス は ジ ャ ス テ ィ ー ナ が ペ ン ウ ィ ン 荘 の 後 継 者 と し て の 証 拠 の す べ て を 入 手 した。 ロ ン ド ンに戻 っ た モ ー リス は、 ジ ャス テ ィ ー ナ が エ ル グ ッ ドの 実 の 娘 で は な い こ と を 話 そ う と す る が 、 エ ル グ ッ ドが 先 に 自 分 は お 前 の 法 的 な父 親 で は ない とい い 、 娘 を驚 か せ る。 モ ー リス は チ ャー チ ル を 告 訴 し て ペ ン ウ ィ ン の 家 屋 敷 を 彼 か ら剥 奪 し、 正 当 に 継 承 す る か ど う か を訊 ね る と、 ジ ャス テ ィー ナ は 、 そ の よ う な 酷 い こ とは した くな い 、 ペ ン ウ ィ ン の屋 敷 は そ の ま ま に して お い て 、 ペ ン ウ ィ ン の 名 前 の継 承 と、 身 代 の 半 額 の み を 貰 え ば よ い と い う示 談 を 提 案 し 、 こ れ を チ ャ ー チ ル に 示 して了 解 を得 て ほ しい とい う。 こ う し た 了 解 の も と、 モ ー リ ス は や っ と ジ ャ ス テ ィ ー ナ に 対 し て 、 深 ま り ゆ く ロ ン ドン の セ ン ト ・ジ ェ イ ム ズ ・パ ー ク(StJamesPark)を. 散歩 し. な が ら 、 こ れ ま で わ ざ と伏 せ て い た 愛 の 告 白 を す る と、 ジ ャ ス テ ィ ー ナ は 驚 い て 、 あ な た は 私 に は気 が ない の か と思 っ て い た とい っ て 喜 び、 二 人 は 結 婚 の約 束 を交 わす 。. (16). [141].
(17) 再 び ボ ー セ ル ・エ ン ドに 取 っ て 返 した モ ー リ ス は 、 ミ ュ リ エ ル の 火 傷 が 大 した こ とは な くて、 快 方 に向 か っ て い る こ と を確 か め る と、 娘 に 遭 わ せ て や る と 約 束 す る 。 だ が 、 ミ ュ リ エ ル は 、 歳 月 の 感 覚 が な く、 赤 ん 坊 の ま ま の 娘 に 遭 い た い と い う 。 トレ ヴ ァ ナ ー ド氏 に も 、 奥 方 が 家 名 を 守 る た め に ミ ュ リ エ ル と そ の 子 ど も を 犠 牲 に し た こ と の す べ て を 話 す と、 氏 は 妻 の 狭 量 な世 界 が 生 ん だ悲 劇 だ と い い 、打 ち明 け て お れ ば 、 き っ と ミュ リエ ル と そ の 子 を 世 間 か ら守 っ て や っ た で あ ろ う と 、 二 人 の こ れ ま で の 不 幸 を 嘆 く。 だ が 、 ミ ュ リ エ ル の た め な ら、 た と え 踊 り 子 で あ ろ う と 、 孫 を 愛 す る と い う。 モ ー リ ス は 書 斎 に い る チ ャ ー チ ル を訪 ね 、 ミ ュ リ エ ル ・トレ ヴ ァナ ー ド と ジ ョ ー ジ ・ペ ン ウ ィ ン の 子 ど も ジ ャ ス テ ィ ー ナ が 館 と財 産 の 真 の 後 継 者 で あ り 、 そ れ を 証 明 す る 結 婚 証 明 書 と 立 会 人 、 ジ ョー ジ か ら妻 宛 て の 手 紙 、 シ ー コ ム の弁 護 士 へ の依 頼 状 な どの 存 在 に つ い て 語 る 。 そ して 自分 は ジ ャ ス テ ィー ナ の 依 頼 を受 け て、 法 律 に訴 え て 地所 を手 に入 れ るつ も りは な く、 財 産 の 公 平 な 分 配 を希 望 して い る の で 、 そ れ に 同 意 して ほ しい とい う提 案 を す る。 だ が チ ャ ー チ ル は これ を 撲 ね つ け 、 モ ー リ ス を詐 欺 師 と呼 ん で 、 館 か ら追 放 す る 。 モ ー リ ス が 帰 っ た直 後 、 書 斎 の 扉 が 開 い て 、 す べ て を 立 ち 聞 き して い た 妻 の マ ッジ が 入 っ て来 る 。机 に樽 る 夫 を抱 き しめ なが ら、 これ を機 に 地 所 と財 産 の す べ て を 新 し い 後 継 者 に 譲 る よ う に 夫 に 嘆 願 す る 。 だ が 、 チ ャ ー チ ル は、 罪 を犯 して ま で得 た も の を す べ て 詐 欺 師 に手 渡 す こ と は で きな い と い い 、 あ く ま で も控 訴 し て 戦 う と い う 。 だ が 、 マ ッ ジ は 今 度 だ け は 夫 の 言 い な り に は な らず 、 財 産 を 取 る か 私 を 取 る か 二 者 択 一 を せ よ と迫 る 。 だ が 、 チ ャ ー チ ル は す ぐ さ ま ロ ン ド ン の 弁 護 士 パ ー ガ メ ン トに 会 っ て 、 訴 訟 を起 こ され た 場 合 の 準 備 を す る よ う に命 じ、 ど う して も勝 つ た め に は 「平 気 で 悪 事 を す る 」("unscrupulous")よ. う な 連 中 の 手 を借 り よ と も指 令 す. る。 こ う して お い て館 に取 っ て返 す と、 門 番 の ジ プ シー が 高 熱 で うな され 、 殺 人 の こ と を 喚 くの を 、 必 死 で 抱 き し め て 看 病 し て い る マ ッ ジ の 姿 を 見 つ け、 二 人 で 看 取 って や る と、 朝 方 死 ん で しま う。枕 の 下 に 自分 の名 前 入 り. [140]. (17).
(18) の血 の付 い た ハ ンケ チ を見 つ け たチ ャー チ ル は これ を密 か に暖 炉 で処 分 し、 殺 人 の証 拠 を消 して しま う。 看 病 に疲 れ果 て た マ ッジ の 顔 を ま じま じ と見 た チ ャ ー チ ル は、 は じめ て そ の 顔 が 驚 く ほ ど 精 気 が な く、 や せ 衰 え て い る の を 知 り 、 妻 に 齎 し た 気 苦 労 が彼 女 を衰 弱 させ て し ま っ た こ と を知 る 。 そ れ で 、 チ ャー チ ル は 、妻 が そ う した い の で あ れ ば 、 す べ て を 放 棄 す る 、 館 も 財 産 もす べ て 新 し い 後 継 者 に 譲 っ て 、 自分 た ち は シ ドニ ー に 行 っ て 、 新 た な 人 生 を は じめ て も よ い とい う。 これ を 聞 い た マ ッ ジ は こ れ まで の 心 の 重 荷 が 取 れ た よ う に な り、 そ う して ほ しい とい い、 そ れで こ そ 自分 の 愛 す る夫 だ とい う。 早 速 手 紙 を書 い て、 チ ャー チ ル は 、 ロ ン ドンの 弁 護 士 に は 、 後 継 者 が 本 物 で あ る と分 か れ ば 、 控 訴 し な い で 譲 渡 の 手 続 き を す る よ う に 命 じ 、 銀 行 に は 、 預 金 の2000ポ. ン ド の う ち600ポ. ン ドで カ ナ ダ の 公 債 を 買 い 、400ポ. ン ドを 現 金 で 送 り届 け る よ う 指 示 し、 シ ドニ ー 行 き の 船 の 予 約 を す る 。マ ッ ジ は 息 づ か い が 荒 く、 熱 が あ る 様 子 な の で 、 チ ャ ー チ ル は す ぐ さ ま 医 者 を 呼 び に や り手 当 て を す る が 、 一 向 に 良 く な ら な い 。 一 方. 、 火 傷 か ら回 復 した ミュ リエ ル は、 す べ て の 事 情 が わ か っ た家 族 の. 居 間 に 再 び 姿 を 現 し、 弟 マ ー テ ィ ン や 父 に 看 病 さ れ る よ う に な る 。 ロ ン ド ンに 帰 っ た モ ー リス は、 す ぐ に ミュ リエ ル の住 まい を ロ ン ドン近 郊 に 捜 し て 、 マ ー テ ィ ンに 姉 を連 れ て 来 させ 、 実 の 娘 ジ ャス テ ィ ー ナ との 再 会 を果 た させ る。 だが 、大 人 に な っ た 娘 を わ が 子 だ とい わ れ て も、 ミ ュ リエ ル は 納 得 しない 。 ロ ン ドン の 医 者 は診 察 の の ち、 ミュ リエ ルが 正 常 な状 態 に戻 る ことはないが、現在 の. 「穏 や か な 」("gentle")状. 態 の ままでい るこ とは. で きる とい う。 ジ ャ ス テ ィ ー ナ は 、 昼 間 は 母 の 世 話 を し、 夜 は 舞 台 に 立 つ と い う生 活 を 始 め る 。 モ ー リス が 訴 訟 を 依 頼 して い た 弁 護 士 は 、 チ ャ ー チ ル の 弁 護 士 か ら地所 も財 産 もす べ て後 継 者 に譲 渡 し、 控 訴 は しな い とい っ て きた こ と を モ ー リ ス に 話 す が 、 ジ ャ ス テ ィ ー ナ は 従 兄 弟 の チ ャ ー チ ル か ら 家 も財 産 も す べ て 奪 う よ う な こ と は し た く な い と い い 、 自分 で チ ャ ー チ ル に 妥 協 を 提 案 す る手 紙 を書 く とい う。. (18). [139].
(19) マ ッ ジ は 二 週 間 に 及 ぶ 懸 命 の 看 病 に も か か わ らず 、 夫 に 抱 き つ い て 、 満 足 の 吐 息 を つ く と 、 死 ん で し ま う。 チ ャ ー チ ル は ペ ン ウ ィ ン 家 代 々 の 石 の 廟 に で は な く 、 風 が 吹 き 海 の 見 え る 草 原 の 墓 地 に 妻 を 葬 っ て や る 。 そ して す ぐ に お 前 の も と に 行 くか ら と 、 密 か に 亡 き 妻 の 墓 前 で 誓 う 。 一 方 、 ジ ャ ス テ ィ ー ナ か ら届 い た 手 紙 に チ ャー チ ル は、 地 所 や 財 産 は す べ て 渡 す が 、 息 子 だ け は 、 出 来 れ ば 紳 士 に 育 て て ほ しい 、 そ し て 妹 の ヴ ァ イ オ ラ と 義 父 サ ー ・ヌ ー ジ ェ ン ト ・ベ リ ン ガ ム を 息 子 の 後 見 人 に し て ほ し い と い う 短 い 返 事 を 書 く。 これ で 思 い 残 す こ とが な くな っ た チ ャ ー チ ル は、 馬 小 屋 に行 き、気 の 荒 い 愛 馬 タ ー バ ン(Tarpan)を. 引 き出 す と、 拍 車 の付 い た 靴 を履 い て 、 これ. に 跨 り、 草 原 を 駆 け 抜 け る と 、 岬 の 崖 ま で 行 く 。 夕 日 の 沈 ん だ 水 平 線 を 見 や り な が ら、 こ れ ま で の 人 生 を 振 り 返 り、 自 分 の 人 生 は チ ェ ス の 駒 を 急 い で 動 か し た よ う な も の で 、 一 時 は 勝 っ て も、 や が て は す べ て を 失 う こ と に な る 手 を打 っ て し ま っ た と思 う。 「自 分 が 運 命 を 支 配 す る 唯 一 の 道 は 、 時 を 得 て 、 運 命 と の 戦 い に 自 ら 終 止 符 を 打 つ こ と だ 」("amanhasbutone poweroverhisdestinypowertomakeanendofthestruggleathis owntime."378)と. い う最 後 の 言 葉 を 残 し て 、 愛 馬 タ ー バ ン に も う ひ と駆 け. させ 、 向 き を 変 え る と、 拍 車 を 蹴 り 込 み 、 断 崖 め が け て 一 目 散 に 駆 け 去 っ て い っ た。 翌 日崖 下 に 馬 と と もに砕 か れ た チ ャ ーチ ル の 死 体 が発 見 さ れ、 妻 の 死 で 頭 の 混 乱 し た チ ャ ー チ ル が 、 薄 暗 い 霧 の 中 で 道 を 誤 り転 落 死 し た と思 わ れ 、 マ ッ ジの 墓 が 再 度 開 か れ 、 チ ャ ー チ ル は、 望 み どお り、妻 と一 緒 に埋 葬 さ れ る こ とに な っ た。 ジ ャス テ ィー ナ は チ ャー チ ル の 申 し出 を考 慮 して、 息 子 の ヌ ー ジ ェ ン ト か ら屋 敷 を 取 り上 げ る こ と は せ ず 、 ヴ ァ イ オ ラ を 乳 母 と し て そ の ま ま 置 い て や り 、 自 ら は ペ ン ウ ィ ン の 鉱 山 か ら あ が る3,000ポ. ン ドの 年 収 の み を 得 る. こ と に し た 。 そ う し て 舞 台 を 惜 し ま れ な が ら去 る と、9月. の あ る朝 、 ブル ー. ム ズ ベ リ ー の 教 会 で モ ー リ ス と結 婚 式 を 挙 げ 、 ドー ヴ ァ ー 経 由 で ロ ー マ へ の 旅 に上 っ た 。 この と きに な っ て初 め て モ ー リス は ジ ャス テ ィ ー ナ の 愛 読. [138]. (19).
(20) の 詩 集 の 著 者 が 自 分 で あ る こ と を 明 か し、 ジ ャ ス テ ィ ー ナ の 名 前 を モ ノ グ ラ フ に して詩 集 の留 め金 に した もの を、 結 婚 指 輪 の 代 わ りに贈 った 。 結 婚 後 三 年 を経 て、 モ ー リス の詩 人 と して の 名 声 は さ ら に高 ま り、 夫 妻 は ミ ュ リ エ ル が 静 か に 暮 ら す ボ ー セ ル ・エ ン ドの 近 く に ス イ ス 風 シ ャ レ ー を建 て 、 夏 の別 荘 に して暮 らす よ う に な る。 ペ ン ウ ィ ンの館 か らは 、 ヴ ァ イ オ ラ が 小 さ な ヌ ー ジ ェ ン ト を 連 れ て よ く遊 び に 来 る よ う に な り、 マ ー テ ィ ン は ヴ ァ イ オ ラ と親 密 の 度 を 増 し て い き な が ら 、 地 元 で の 農 場 の 改 善 に 力 を 尽 くす こ と に な る 。 ヌ ー ジ ェ ン ト の 後 見 人 の 一 人 サ ー ・ヌ ー ジ ェ ン ト ・ベ リ ン ガ ム も 時 折 は 孫 の 顔 を 見 に や っ て き た 。 こ の 頃 に な る と 、 モ ー リ ス ・ク リ ッ ソ ル ド夫 妻 は 自 分 た ち の 子 ど も 部 屋 を 建 て 、 夫 妻 の 乳 母 と 子 ど もた ち は館 か らや っ て 来 る ヌ ー ジ ェ ン トと乳 母 役 の ヴ ァ イ オ ラ と、 大 の 仲 良 し とな っ た。 こ う して、 結 婚 した若 者 、 子 ど も、 そ して恋 人 に と っ て 、 幸 せ な夏 の 日 が 続 い た 。 青 春 と愛 と深 い 満 足 の 甘 美 な 季 節 で あ っ た 。. 皿.涙. 香小史詳述. 『人 の 運 』. 原 典 との 相 違 を 中心 に. まず 登 場 人 物 の 原 名 お よ び地 名 とそ れ に対 応 す る 日本 語 名 の一 覧 を挙 げ 、 続 い て原 典 との相 違 点 を詳 述 す る。. 筆 井 清(筆. 井 家 の 若 殿)JamesPenwyn. 栗 田 廣 夫(清. の 友 人)MauriceClissold. 川 岸 弁 護 士(栗 江 木 茂(旅 園 田(旅 江 木 楓(芸. 田 の 弁 護 士)Dr.Hillyard. 役 者 で 楓 の 義 父)MatthewElgood 役 者 江 木 夫 妻 の 別 名)Mr。&Mrs.Eden 名 、 花 山 花 子 、 旅 役 者)(筆. 井家の後継者 で、のち栗 田. 夫 人)JustinaElgood(JustinaPenwyn/Clissold) 筆 井 淡(清. の 従 兄 弟 で 、 清 の 殺 害 者)ChurchillPenwyn. 米 村 松 子(淡. 夫 人 松 子)MadgeBellingham(Madge. Penwyn). (20). [137].
(21) 大 磯 弁 護 士(筆. 井 淡 の 弁 護 士)Mr.Pergament. 筋 川 弁 護 士(悪. 徳 弁 護 士)Mr,McStinger. 鳥 庭 夫 妻Mr.&Mrs,Trevanard 鳥 庭 の 老 婆(祖 鳥 庭 柳 子(長 筆 井 深(筆. 母)OldMrs.Trevanard 女)MurielTrevanard(MurielPenwyn). 井 家 の 長 男 で 清 や 淡 の 叔 父)CaptainGeorge. Penwyn 漣 夫 人(シ. ー コ ム の 音 楽 学 校 の 校 長 、 別 名 小 田 夫 人)Miss. Barlow(Seacombの. 女 学 校 の 校 長 、 別 名MadameBalo). 筆 井 家 家 番 麻 村 夫 人gypsyRebecca 捨 吉(家. 番 の 息 子)RebeccぼssonPaul. エ ボ ル シ ャ ムEborsham(Yorkの. 古 名 と 思 わ れ る). コ ル ニ シ 地 方Cornwall シ ー コ ム(シ. イ コ ム)Seacomb. 〈初 篇 〉 エ ボ ル シ ャム の 郊 外 、二 人 の若 い 紳 士 筆 井 清 と栗 田 廣 夫 が 、旅 の役 者 江 木 茂 と娘 楓 に 出 会 って、そろって エ ボ ル シ ャム の 町 に まで徒歩 で帰 り、 そ の途 中 で清 が 女 占 師 の老 婆 に 手 相 を見 て も ら い、 短 命 の相 が あ る とい わ れ る。 そ の夜 、楓 の 出 る芝 居 を見 に清 と栗 田 が 出 か け 、 清 は江 木 父 娘 と座 主 夫. [136]. (21).
(22) 婦 を 夕 食 に 自分 の 泊 ま っ て い る旅 籠 に招 待 し、楓 と は夕 食 の の ち庭 で夜 中 ま で話 を し、 一 行 を清 が 彼 らの 投 宿 先 に送 っ て行 って 旅 籠 に帰 っ て くる と、 清 が あ ま りに も楓 に馴 れ馴 れ し くす る の を栗 田 が とが め だ て した こ とで 口 喧 嘩 と な る。 翌 朝 、 清 が 江 木 父 娘 と座 主 夫 婦 を仕 立 て た馬 車 で 競 馬 場 に連 れ て行 くの に、 栗 田 は釣 りに行 くと書 置 き して、 同行 しない 。 競 馬 場 で の楽 しい 昼 間 を過 ご した 時 に も、 昨 夕 出 会 っ た 女 占い が 再 び 近 づ い て き た の で 、 清 は金 を与 え る。 夜 は楓 の 芝 居 に 出 向 き、 芝 居 の跳 ね た 後 は 、 江 木 茂 と座 主 夫 婦 と一 緒 に夕 食 を と る前 に、 出 会 っ て まだ 二 日 しか 経 た な い け れ ど、 清 は楓 の 中 に 自分 の 理 想 の女 性 像 を見 出 し、 結 婚 を 申 し 込 ん で 、 コ ー ン ウ ォ ー ル の筆 井 郷 の後 継 者 で あ る 自分 の妻 に す る と約 束 す る。 そ う して一 同 夕 食 の の ち 、 清 は一 人 泊 っ て い る旅 籠 に 帰 るの を楓 が 見 送 るが 、 そ の時 清 の後 をつ け て い る よ う な不 審 な男 の 姿 を、楓 は 目撃 す る。 翌 朝 芝 居 の稽 古 を して い る と、 そ こ に江 木 茂 が 筆 井 清 が 昨 夜 殺 され た と い う報 せ を持 っ て くる。 楓 は 清 との婚 約 を父 に も話 して い な い の で 、 一 人 清 の死 を思 い涙 に くれ る。 一 方 、 筆 井 清 の 従 兄 弟 に 筆 井 淡 とい う男 が あ っ て、 貧 乏 弁 護 士 だ が 、 彼 に は ロ ン ドン郊 外 に住 む 貧 乏 貴 族 の 娘 米 村 松 子 とい う恋 人 が あ り、 彼 女 と 結 婚 した い と思 うが 、 貧 し さゆ え これ が 受 け 入 れ ら れ な い 。 そ う した と こ ろ に清 が 殺 さ れ た の で 、突 如 コー ンウ ォー ル の 筆 井 家 の 身 代 、 年 収6,000ポ ン ド(数 百 万 円)の 後 継 者 と な り、 貧 し さ か ら脱 却 で き、愛 す る松 子 と も 結 婚 で きる こ とに な る。 こ の 辺 り ま で は、 話 の 前 後 入 れ 替 え は あ る が 、 大 体 原 典 の 筋 の 展 開 に 従 っ て い る。 だ が 、 筆 井 清 が 殺 さ れ た 後 か ら、 訳 者 が 原 典 に は な い創 作 部 分 の挿 入 や 、 筋 の展 開 を始 め る。 *例 え ば、(訳 第17回)で. は 、 栗 田が 清 殺 人 の容 疑 者 と して 裁 判 で取 り. 調 べ を受 け 、 「証 拠 不 十 分 」 で釈 放 され た 帰 り道 で 、 あ る男 が ぶ つ か って き て、 懐 に 紙 切 れ を入 れ て い く とい う事 件 が あ る 。 だ が 、 こ れ は 原 典 に は な く、 訳 で はそ の書 付 に記 して あ る場 所 に行 っ て み る と、 乞 食 の よ うな 男 が 姿 を 現 し、 清 殺 害 の 血 の付 い た 犯 人 の 名 前 を刺 繍 した ハ ンケ チ を証 拠 の 品. (22). [135].
(23) と して 取 引 に応 じる よ う に要 求 して くる。 だ が 、 こ の男 は 自身 ハ ンケ チ を 持 参 して い な い の で 、 栗 田が そ の男 を捕 まえ て 警 察 に連 行 しよ う とす る と、 男 は逃 げ去 っ て しま う とい う一 幕 が 挿 入 され てい る。 この 男 は 実 際 に殺 人 現 場 を見 た 女 占い の実 の 息 子 だ が 、 原 典 で は 女 占い が 殺 人 者 の筆 井 淡 自 身 に接 触 を試 み て 、 談 判 の 末 、 筆 井 家 の 門番 に 雇 わ れ る とい う こ とに な る の を、 訳 者 は そ の 息 子 を登 場 させ 、 栗 田 にハ ンケ チ を 売 りつ け よ う と して失 敗 させ て い る。 こ の 時 栗 田 は、 こ の 男 か ら 自 ら 目撃 した わ け で は な い が 、 殺 人 の 経 緯 を 聞 か さ れ て 、 淡 へ の疑 念 を抱 く よ う に な る。 *そ れ か ら一 年 経 て、 栗 田 は亡 き友 人 清 の実 家 筆 井 郷 の 筆 井 家 を 訪 ね て み た い と思 い 、 旅 に 出 る が 、 原 典 で は この 館 を 栗 田 が 訪 れ るの は初 め て で あ る が 、 訳 で は 清 の 生 前 に何 度 も訪 れ た こ とが あ る と変 更 さ れ て い て 、 今 度 新 た な後 継 者 と な っ た 筆 井 淡 の 手 で ず い ぶ ん と都 会 風 に 改 装 さ れ た 様 子 を 目 にす る こ と に な っ て い る(第21回)。. こ こで も訳 本 で は、 筆 井 家 の 門. 番 は70歳 位 の老 人 とな っ て い て 、 門 番 と は別 に家 番 とい うの が い て 、 これ が 清 の 女 占 い で 、 殺 人 の現 場 を 目撃 した 老 婆 とい う よ うな 変 更 が 加 え られ て い る。 原 典 で は 、 館 の 入 り 口の 門 番小 屋 に住 ん で い る む さ くる しい ジ プ シ ー 女(原 典 の マ マ)こ. そ が 門番 で 、 家 番 とい うの は 、筆 井 家 に代 々 仕 え. て い る家 政 婦 と な っ て い る。 なぜ こ の よ う な変 更 を役 者 が 加 え た の か は 不 明。 む しろ原 典 の方 が 自然 に思 え る。 *つ づ い て 、 栗 田 が 筆 井 郷 で の宿 泊 場 所 と して 、 か つ て 筆 井 家 の 家 扶 を して い た大 農 場 の 鳥 庭 家 に ま で案 内 して も ら うの が 、 原 典 で は 門番 の 女 ジ プ シ ー(原 典 の マ マ)の 孫 娘 で あ る が 、 訳 本 で は こ の孫 娘 は 終 わ り まで 登 場 す る こ とは な く、 門番 に され て い る老 人 で あ る。 ま た 原 典 で は 鳥庭 家 に は一 人息 子 の マ ー テ ィ ン(Martin)が. い て、 栗 田(Maurice)を. 案 内 す る役. を務 め 、 親 友 に な るが 、 この マ ー テ ィ ン に相 当 す る息 子 は 、 訳 述 で は す で に七 歳 の 時 に 亡 くな っ た こ と さ れ て 、 物 語 の後 半 で 少 し言 及 さ れ る の み で あ る。 鳥 庭 家 の 二 階 に泊 め ら れ た栗 田 の寝 室 に夜 半 に幽 霊 の よ うな女 が 現 わ れ 、. [134]. (23).
(24) 窓 を 開 け て月 夜 に 向 か い、 咽 び 泣 きなが ら、 恋 人 の帰 りを待 つ 場 面 は、 原 典 通 りで あ り、 こ れ が 色 刷 りの挿 絵 を付 さ れ て、 初 篇 の 口絵 を飾 っ て い る(第23 回)。 こ れ が 鳥. 聾 (天理図書館所蔵涙香小史言 睾述 「 人の運』初篇口絵). 庭 柳 子 と い う40歳 位 の 幽 霊 の 正 体 で 、 長 男 で 後 継 者 で あ っ た 筆 井 深 と 秘 か な結 婚 式 を挙 げ て 、 子 ど もを産 むが 、母 親 が 家 名 の 誇 りを守 る た め に 、 そ の 子 ど もを旅 の 途 中 で 立 ち 寄 っ た 若 い 夫 婦 に 託 し、 金 も与 えて 立 ち去 ら せ た結 果 、 発 狂 す る こ とに な る哀 れ な 女 性 で あ る 。 こ う した 設 定 は訳 本 も 原 典 を踏 襲 して い る。 詳 し くは、 原 典 の 梗 概 を参 照 され た い 。 *ロ ン ドンの 劇 場 で、 楓 が 花 山花 子 と名 乗 っ て 登 場 す る 場 面 で は 、 原 典 と違 っ て 訳 本 で は、 花 山花 子 とい う名 も さ る こ と なが ら、 栗 田 の 詩 集 を劇 に した もの を花 子 に演 じ させ て い る。 そ の 詩 集 の 内 容 も、 原 典 に は な い 、 ミュ リエ ル(Muriel)を. 題 材 に した 「狂 婦 人 」(翻 案 の マ マ)で. 、 この狂 婦. 人 、 つ ま り実 の母 柳 子 を、 そ れ と知 らず に娘 楓 が 熱 演 す る とい う仕 掛 け に な っ て い る。 この 芝 居 を 見 た 栗 田 は 、 二 人 の類 似 に驚 き、 そ の 結 果 そ の 類 似 の謎 を解 くべ く奔 走 す る こ と に な る。 *ダ イ ヤ モ ン ドネ ッ ク レス 盗 難 の 裁 判 の 後 、 館 に 帰 る と き、 原 典 で は チ ャー チ ル は妻 マ ッ ジ と一 緒 に馬 車 で 帰 る が 、 訳 で は淡 は 馬 車 の 後 に つ い て 自分 の 馬 に乗 っ て帰 る 。 些 細 な相 違 の よ うに 見 え て、 こ れ は 作 者 の 見 解 の相 違 を表 明 して い る。 原 典 で は、 夫 が 殺 人 者 で あ る と い う事 実 を知 った マ ッジ は、 シ ョ ッ ク に打 ち ひ しが れ て い る の で 、 夫 を 自分 の そ ば に と どめ 置 き た い が た め 、 一 緒 に 馬 車 で 帰 っ て くれ と 嘆 願 す る。 夫 も妻 の 衝 撃 を. (24). [133].
(25) 知 っ て 、 こ れ を 宥 め るべ く、 妻 に寄 り添 う。 こ こ に原 典 に お け る夫 婦 間 の 深 い 愛 情 が 示 唆 さ れ て い る。 一 方 、訳 本 で は、 そ の よ うな 人 間 的 な深 い 感 情 は 取 捨 さ れ て 、 訳 者 の筆 は、 ま さ に 殺 人 や 謎 解 き と い う推 理 の方 に 急 激 に傾 斜 して い き、 深 い文 学 性 を失 っ て い く(第36回)。 *盗 難 裁 判 の 時 、 「血 の付 い た ハ ンケ チ 」 ま で 、家 番 が松 子 に 見 せ た(第 37回)と. い うの は 、 原典 に は な い 。. *花 山花 子 が 幽 霊 夫 人 を演 じて い る と江 木 茂 に言 わ れ る ま で、 栗 田 は そ れ に気 づ か な い とい う部 分 は 、 原 典 に は な い し、 そ も そ も原 典 で ジ ャス テ ィ ー ナ が 演 じて い る の が 幽 霊 夫 人 だ とい う説 明 は ど こ に も な い(第38 回)。 *ま た、 栗 田 が 幽 霊 夫 人柳 子 とそ れ を演 じる花 子 が あ ま りに も似 て い る 点 を心 に とめ 、 これ を不 思 議 に思 い 、 謎 を深 め る と い うの は、 や が て 母 と 娘 の 結 びつ きへ の 重 大 な展 開 の結 節 点 と して重 要 だ が 、 これ は原 典 に は な い。 また 訳 者 が 両 者 の 似 か よ りに、 柳 子 と楓 の 人 生 の類 似 を仕 組 ん で い る 柳 子 は夫 を 死 なせ 、 楓 も約 束 の夫 を死 なせ て い る て い る(第40回)。. 点 は工 夫 が 利 い. さ ら に、 鳥 庭 家 で見 た 「楓 女 の像 」(曾 祖 母 の 肖像 画). との繋 が りにつ い て栗 田 に考 え る契 機 を提 供 してい る。 *原 典 で は モ ー リス が教 会 に行 き、 楓 の 出生 を洗 礼 名 簿 に見 る が 、 栗 田 は シ ー コム の 役 所 に行 き、 こ れ を尋 ね て い る(第41回)「 茂. 旅役者江木. 其 妻 安 子 」 とあ る が 、 出 生 の女 児 は 「芳 子 」 と あ り、楓 で は な い こ と. に気 付 く。 こ の あ と栗 田 は 寺 に行 っ て 命 名 帳 を検 め る が 、 芳 子 の 出生 の 記 録 は な く、 逆 に死 亡 が 記 録 され て い る とい う原 点 へ の変 更 が 加 え られ て い る(第42回)。 *鳥 庭 家 の柳 子 の 弟 は 、 訳 本 の 中 で は 小 さな こ ろ に亡 くな っ た もの と し て 処 理 さ れ、 原 典 の よ う に 栗 田 を案 内 す る 役 割 と は な っ て い な い(第45 回)。 *柳 子 は 自 ら これ か ら生 ま れ て くる子 を密 か に他 国へ や って くれ と母 に 嘆 願 す るが(第47回)、. 原 典 で は 母 が 無 理 や り家 の 名 誉 を 守 る た め 生 まれ. た赤 子 を旅 人 に や っ て し ま う。 訳 本 で は、 こ の 旅 人 の名 は 園 田 と名 乗 った. [132]. (25).
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