「長距離走」における大学と中学校の連携実践
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(2) 北海道教育人学紀要(教育科学編)第55巻 第2号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.55,No.2. 平成17年2月 February,2005. 「長距離走」における大学と中学校の連携実践 富川 浩・城後 豊*. 北海道教育人学教育学部附属札幌中学校 串北海道教育人学札幌校保健体育科教育学研究室. 1 はじめに. 本校は,北海道教育大学の附属学校であり,「共創の学校を求めて」を研究主題に研究推進校として理論 構築とその実践に努めている.そのテーマに『共創の学校』を掲げ,「生徒」「教師」「保護者」「地域社会の. 人々」の4者が,共に学び手として子どもの学びに有機的につながり,子どもの学びを中心に学び合い,高 まり合う場としての学校である.この実践的な理念に基づく保健体育科の授業づくりでは,「生徒」と「教師」. がかかわる中で,「地域・社会」にある大学と,その大学の教官を本校「教師」の拡大概念として捉え,中 学生の学びに中学校教諭と大学教官のかかわりを有効にとり入れる試みを始めたところである. 本′ト論では,大学教官による通称「出前授業」の結果を受け,その授業をまとめ,保健体育授業の充実を. 目指す取り組みについて紹介する.具体的には,本学の中学校保健体育のカリキュラムにある陸上競技・長 距離走について大学との共同研究の立場から授業支援や授業研究の在り方について若干の報告をする.. 2 中学校必修教科の授業に大学がどのようにかかわればよいのか 中学校の保健体育科(必修教科)の題材(運動領域・種目)は,学習指導要領の目標と内容の取り扱いに 基づき,生徒・学校の実態に応じて年間指導計画を立案し,配列する.その題材を通して,4観点における それぞれの基礎・基本となるべき内容は全員に,さらに,発展的内容は個の能力に応じて生徒に身につけさ せる事項を明確にしておく必要がある.. 教科の授業展開は,その学校の教師が専門性を生かして生徒を指導していくことを基本とする.また,よ り専門的知識・技能をもつ人とかかわることによって,生徒の学びにより深まりや広がりがもてるようにな るのは間違いない.現在,発展的な内容ばかりではなく,基礎・基本的内容を生徒全員に対して確実に定着 させる手立てや方法について大学教官との共同研究をすすめている.. そこで,本校が大学の附属学校であることを地域特性と捉え,さらによりよい大学へのアプローチのしか たを模索している.さらに,大学との授業構築における望ましい連携のあり方としては,以下の点が挙げら れる.. (1)中学校における全体研究や教科研究の方向性の大学教官との共有化 (2)全体研究における教科研究の追究に対する大学教官からの助言 (3)大学教官の中学校への授業参画 (4)教育実習だけにとどまらない大学生の中学校への授業参加. ここで留意しなければならないことは,生徒が自己の学びに対して,大学教官とのかかわりに必要感や必. 13.
(3) 富川 浩・城後 豊. 然性を感じることができるような場を設定することである.. 3 平成14年度の「陸上競技・長距離走」の授業実践から 本校では,毎年9月に教育研究大会を実施し,教育実践を広く発信し,その評価を求めている.年度当初 に全体研究と教科研究の整合性や,教科研究の視点等について,大学教官からの助言を受けている.また, 教育研究大会の公開授業づくりに事前研究会を2,3回設定し,大会当日も大学教官が助言者として参画し ている.しかし,「共創の学校」像として,平成14年度は助言者としてのみならず,授業づくりはもちろん,. 実際に中学生に対して授業を行うこととした.特に,授業のどの部分に大学教官がどのようにかかわればよ いのか.生徒の学びに大学教官のかかわりが「必然性」をもつように計画する必要がある.. 単元名 2年生「長距離走」(男女共習). (1)単元計画. 時間. 学 習. 学 習 課 題・. 内 容. 口 ≪体力テストⅠ≫ 2. 男子1500m走. 授 業 形 態. 「自負分の全身持久力を客観的に知ろう」 女子1000m走. 「この記録を向上させるにはどうしたらよいだろうか?」. ◆城複数授による講義. 「至適脈拍値」とは?. (2年生全員に対する講義). 3. く自己の能力に適したペースの理解〉. 「全身持久力を向上させるには」. 至適脈拍値に達するペース」とは?. ◆城後教授による演習. 「長距離走に適したランニングフォーム」とは?. 4. 「至適脈拍値」を体験しよう. (抽出1学級42名に対する演習). く自己の能力に適したペースの体験〉 5. a.走破距離を目標とするコース b.走スピードを目標とするコース. ・各自でコースを選択. 6. C.自己のペースで走るコース. d.仲間と楽しみながら走るコース. し,至適脈拍値に一定時. 7. e.トレーニングを中心とするコース. 間違する活動を行う。. 8. 夏休み. 夏休みの 自 由追究活動. 9. 5 ∼ 8 時 と 同様の活動. 10. 田 ≪体力テストⅠ≫ 12. 男子1500m走. ・体力テストⅠの自己記録と比較しての成果は?. 女子1000m走. 13 トレーニング効果に関するレポート. ・長距離走に適したランニングフォームは身についたか?. ・授業全体を振り返っての自己評価. (2)大学教官の授業(講義・演習)の実際. 長距離走は,生徒から敬遠されがちな単元であるが,心肺機能 向上や生涯スポーツの観点,さらには強くたくましい意志の形成 からも重要な単元である.そこで,生徒の長距離走の授業に対す る推進力となるものは何かを,大学の城後教官に助言を求めた. その助言から「至適脈才自値」という言葉に着目した.. 長距離走で画一的な授業を展開したのでは,運動経験や体力の 個人差から,授業に向かう推進力が失われる生徒も多く出る. また,「至適脈拍値」に達する運動負荷にも当然,個人差がある.. そこで,個に応じた授業を展開することによって,生徒全員が. 【城複数官による中学生に対する講義】. 長距離走に粘り強く取り組むことができる授業の条件を整え取組んだ.そのキーワードとなるのが「至適脈. 14.
(4) 「長距離走」における人学と中学校の連携実践. 指値」である.城後教官には,本校2年生全員に対して,スライドを使用して講義をしていただき,全身持 久力を高めるトレーニング理論を学習した.. 講義に引き続き,抽出1学級に対して,「長距離走に適したランニングフォーム」と,至適脈拍備に達す る運動負荷を体験する「自分に合ったペース」に関する演習が行われた. 「長距離走に適したランニングフォーム」とは,. 【長距離走における技能の基礎・基本】. 右に示した3点である.これが長距離走における. ・踵から着地する脚の運び方. 技能の「基礎・基本」と捉え,確実に生徒全員が. ・力を抜いた前後へり正しい腕の振り方. 身につくよう,毎時間,自己・他者評価を行うよ. ・正しい視線の向け方. う,学習カードにチェックさせた.. 「自分に合ったペース」を発見するために,右. 【至適脈拍値発見のためのコース設定】. の条件のコースを設定し,運動直後の脈拍を測定. Aコース(遅速度)…50mを25秒で走る. し,至適脈拍値となる運動負荷を実際に体験・体. Bコース(遅速度)…50mを20秒で走る. 感させた.(写真下参照). Cコース(遅速度)…50mを15秒で走る. ■2時間目は,1学級42名に正しいランニングフォームを指導。まず,体ほぐし運動(写真左)。次に,踵から着地する歩 き方(写真中央)。長距離走に適した踵から着地する正しいランニングフォームへ(写真右)。. ■安静時の脈拍測定。正確な脈拍 値の測定の仕方も「基礎・基本」 となる。. ■これから行われる「自己ペース」 の測定の方法を確認する。 測定コースは3コースある。. ■最も遅いコースは往復で50mを 25秒で2分間走るコース。まだ 余裕が感じられる。. ■中間のコースは20秒で走る。 女子はかなりきつそう・・。. ■最も速いコースは15秒。遅れる. ■最後に,脈拍140∼160回/分の. 生徒もでる。. 自己に適したペースを確認。. 15.
(5) 富川 浩・城後 豊. (⊃ジョギング. ⑨ 個人課題による追究活動 a.走破距離を目標とするコース. ≪個に応じた活動の場≫. b.走スピードを目標とするコース. ・中学校グラウンド(1周200m). C.自己のペースで走るコース. ・大学陸上競技場 (1周400m). d.仲間と楽しみながら走るコース. ・校地内外周. (1周746m). e.トレーニングを中心とするコース ・インターバルトレーニング. ※授業で走った距離の合計は,毎時間, ・レぺティショントレーニング. 必ずデータとして残しておく。 ・エアロビクストレーニング. 【授業での追究活動の場の設定】 インターバルルーニング. 16. レペティショントレーニング.
(6) 「長距離走」における人学と中学校の連携実践. ④ 自己・他者評価 観点ごとに「基礎・基本」が確実に定着するよう,自己・他者評価によるチェック機能を十分はた らかせるよう,学習カードのあり方を工夫した.. 【授業で使用した学習カードとそのねらい(抜粋)】 ※北海道教育人学教育学部附属札幌中学校 保健体育科学習カード3. ◆. 月. 日() 2年. 組. 番 氏名: 授業始めの安静時の脈拍数 回/分. その具体目標を達成するための活動:. 生徒の変容の姿 ※「基礎・基本」の定着度を毎時間確認する。 連動直後の脈拍数. 今日の自己評価:. □足の裏は「なめるように」着地できた. ※種目の「学び方」デタ化. □指先の力を抜いて走ることができた [コ目標は適切であった. Hのデータ [コ活動は目標にふさわしいものであった. □運動直後,至適脈拍数に達していた ■次の授業につながる感想:. く目標にせまる活動であったか?〉. ◆安静時・運動直後の脈拍数の変化. ○安静時 ●運動直後. 〈継続的な記錦測定によるデータ分析を練習に生かす力〉. 月. R. 月. R. 月. R. 月. R. 月. R. 月. R. 17.
(7) 富川 浩・城後 豊. 4.授業実践を通しての成果と課題 授業研究では,題材の価値は前述した通りであるが,「長距離走」という題材に対して,子どもたちが どこまで自主的に価値ある課題を設定し,その解決に向けて粘り強く努力するかは不安であった.しかし, 実際に授業を終えての子どもたちの取り組みには目を見張るものがあった.. 一つは,夏休みを単元の途中にはさんだ理由としては,心肺機能の向上やトレーニング効果を期待するに はある程度の期間が必要であると判断したためである.しかし,夏休み期間であるため,生徒全員に対する 必修課題として与えることはできず,希望者に限定して継続した取り組みを奨励した.ところが,ほとんど の生徒が夏休みにもかかわらず,「せっかく今まで取り組んできた自己課題だから」ということで,継続的 に課題解決に向けた取り組みをし,レポートにまとめて提出した.. 子どもたちにここまで課題に向かわせた推進力となるものは何であったかを分析したところ,子ども達の 実際の声やレポートから見取ると,「至適脈拍値」であった.心肺機能の向上のためのトレーニング効果を 上げるには,『「至適脈拍値(140回ノー、−ノ160回/分)」に脈拍が達する運動を5分ノー、−ノ12分継続する』ことが条件. となる.この部分をより専門性の高い大学教官に講義を受けることができ,子どもたちの課題に対する動機 付けとなったのである.「至適脈拍値」が客観的な数字であり,子どもたち自身が簡単に測定できるもので あることが,質の高い学びへ導く大きな要因となることが確かめられた. 課題としては,「長距離走」のねらいである「ある特定の距離を速く走り通し,記録の向上をねらう活動」 を行うことはできたが,「競走する」ことに関しては,ねらいを達成する活動を組み込むことができなかった. 今後,競走やスピードの変化に対して留意していくことが人切である.. 5.おわりに 本′ト論では,大学との共同研究による保健体育授業における「長距離走の実践的な試み」を実行した.そ. の結果,子どもたち学びの有効化を図る立場から,次の四つの授業の視点を得ることができた. (1)教育研究の共有化には,中学校における研究テーマ解釈や教科研究の方向性を示唆する支援体制を整 える.. (2)授業研究の分析では,授業に対する科学的な数量的な指標及び教材解釈の関わる内容の提供を積極的 に進める. (3)学びの育成には,大学教官による「出前授業」による学習への動機付けと学習への意欲化を図る.. (4)教員養成系における指導者の資質向上では,教育実習だけにとどまらない大学生の中学校への体験的 な授業参加を促す.. いずれも,今回の教員養成系大学としての附属学校としての役割と機能を果たす試みとして,実践的な教 育資質の向上をねらいとした授業研究の在り方を示唆できる取り組みであった.. 6.参考・引用文献 ・ 北海道教育大学教育学部附属札幌中学校研究紀要「第46集」「第47集」2000年,2001年. ・ 平成13年度 附属札幌中学校のカリキュラム開発 北海道教育大学附属札幌中学校 2001年 ・ 文部省 中学校学習指導要領(平成10年12月)解説 一保健体育編− 2000年 ・ 梶田敏一著 「〈生きる力〉 の人間教育を」 金子書房1997年 ・ 本村清人/戸田芳雄共著 「新中学校教育課程講座 〈保健体育〉」 ぎょうせい1999年. (富川 浩 北海道教育大学教育学部附属札幌中学校) (城後 豊 札幌校教授). 18.
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