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修了生アンケートと事例からみる「学び続ける教師」と北海道教育大学教職大学院 ―「 修了生フォローアップ」を模索しながら ―

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Academic year: 2021

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(1)Title. 修了生アンケートと事例からみる「学び続ける教師」と北海道教育大学 教職大学院 ―「 修了生フォローアップ」を模索しながら ―. Author(s). 前田, 輪音; 工藤, 久実; 大久保, 昌史; 水上, 丈実; 寺嶋, 正純. Citation. 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 : 教職大学院研究紀要 , 8: 45-58. Issue Date. 2018-03. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/9835. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 第8号. 修了生アンケートと事例からみる「学び続ける教師」と 北海道教育大学教職大学院 ― 「修了生フォローアップ」を模索しながら ― 前田 輪音*1・工藤 久実*2・大久保昌史*3・水上 丈実*4・寺嶋 正純*5. はじめに 2007年に創設された北海道教育大学教職大学院は、養成する人材像を次のようにおいている。「学 校現場における諸課題について、 理論的・実践的研究を深め、教師としての使命を自覚し、学校全体 を俯瞰して課題解決にあたるための高度な専門的能力及び実践力の形成を図り、授業実践力、学級・ 学校経営力、生徒指導力、教育相談力、協働遂行力及び地域教育連携力を備えた人材を養成します。」 創設から10年、4月に第10期生の入学を迎えた。その成果や課題をどう表すかはそれ自体、重要な 課題であるが、その一つの鍵は修了生の成長にある。 中央教育審議会大学分科会大学院部会専門職大学院ワーキンググループの報告書「専門職大学院を 中核とした高度専門職業人養成機能の充実・強化方策について」 (2016年8月10日)では、次のよう な記載がある。 「専門職大学院は、修了生が、目標どおりの人材として育っているかをフォローアッ プすることが必要であり、修了生の就職状況に加え、それ以降の活躍状況(企業・地方公共団体等で の処遇の状況を含め目標に掲げた人材像に合致する活躍をしているか)についての情報公開を促進す ることが必要である。 」 本大学院では、年度ごとに修了生の協力などを得て勤務校や役職等を可能な限り把握し、 「教育実 践交流会」1での修了生による報告・大学院生らとの交流等の機会をつくってきている。大学院教員に よる個別の働きかけとしては、大学院の講義でマイオリジナルブックでの取り組み経緯と修了後の勤 務校での課題への取組などを伝えたり2、大学院研究紀要への教員と共著での論文投稿、大学院の事 例研究(演習)に参加し報告・交流する場合もある。教育委員会の研修に大学院教員が講師として向 かったところ修了生複数が受講者として再会した、などのエピソードもあった。 また、附属学校に副校長として勤務しストレートマスターの実習全般を担当したり、北海道・札幌 市教育委員会等で研修を受け持つ、同期で研究会の立ち上げ、学会に自ら入会し論文を執筆・投稿す る、等の修了生独自の継続的な進展3も多々見られる。 大学院教員らにその時々の課題を抱えて相談に訪れたり、大学院教員が勤務校に訪問する、などの ケースもみられた。 これらに加え、 開設10年を目前に控えた2017年2月には、 全修了生(当時)である第1~7期生(註 ───────────────────── *1. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)札幌. *2. 札幌市立中島中学校教諭(北海道教育大学教職大学院 2016年3月修了生). *3. 札幌市立新川高等学校教諭(北海道教育大学教職大学院 2016年3月修了生). *4. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)旭川. *5. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)釧路. 45.

(3) 前田 輪音・工藤 久実・大久保昌史・水上 丈実・寺嶋 正純. 1期生は2010年3月修了 以下、順次)を対象に試行的にアンケート調査を行った4。従来、大学 院としては必ずしも行ってこなかった修了生全体調査としては第一弾の取り組みだった。目的は、修 了生の現況とニーズを把握し、本大学院の意義や成果の一端を知ることにおいた。実際の作業は2016 年度自己評価委員会が担当することになり、アンケート項目を作成し若干の分析を行った。 本稿の目的は、このアンケート結果自体を記録に残し整理・若干の分析・考察すること、2人の修 了生の現況を本人の言葉で伝えることとにより、本大学院の成果と課題の一端を示すことにある。 なお、分担については、アンケート項目の作成は2016年度自己評価委員会全員で、全体の構成と「は じめに」、1−2の項目4・項目5の集計・考察および「3」は前田(自己評価委員会委員長)が、 1-2項目2の集計・考察は寺嶋(同委員)が、1−2項目3の集計・考察は水上(同委員)が担当 し、2-1は工藤(修了生) 、2-2は大久保(修了生)がそれぞれ執筆した。. 1 修了生アンケート調査 (担当:前田、水上、寺嶋) 1-1 調査方法 調査期間は2017年2月10日〜2月下旬である。調査対象者は全修了生 (第1期~第7期) としたが、 教師としての現況を知るために、管理職および教育委員会等の学校勤務外の人を除いた。送付は郵送 にて、回収はFAXにより行った。ケース数は87名(256名中) 、回収率は34.0%である。 1-2 回答結果および若干の考察 アンケート項目は自己評価委員会(2016年度当時)全員で作成・検討した。項目1を除き、回答は 自由記述形式である。以下、質問項目ごとに、分類および若干の考察を加える。 なお、本稿末に数値データを掲載する。 項目1 修了生の学校での立場(担当)について(回答87名、選択形式、重複あり) (単位:%) 主幹教諭:3.4 教務主任:3.4 生徒指導主任:2.3 研究部長:9.2 特別支援コーディネーター:4.6 学年主任:13.8 学級担任:75.9 その他:17.2 うち、元現職院生のみ 主幹教諭:7.7 教務主任:7.7 生徒指導主任:5.1 研究部長:10.3 特別支援コーディネーター:10.3 学年主任:23.1 学級担任:64.1 その他:15.4 項目2 現在、 学校課題または自己の課題として、 特に意識して取り組んでいることを教えてください。 以下、元現職院生・元ストレートマスターにわけ、記述内容を整理・考察する。 <考察> 今回のアンケートに回答を寄せた87名の修了生全員(元現職教員39名、元ストレートマス ター48名)が本項目に回答している。課題を有し日々の実践にあたっていることの表れである。 元現職教員は39名中、組織運営や教育課程、協働など、学校経営にかかわる記述が13名、年度の学 校課題と関連があると思われるものが8名おり、教員として学校経営に対する意識は高い傾向が見ら れる。また、現任校の実態から自校の課題を意識して、生徒指導に関する記述が7名、特別支援教育 に関する記述が5名おり、意識の高さがうかがえる。 元ストレートマスターは、48名中36名が授業づくり、学習指導など自己課題を日々の授業実践に定 め、日夜懸命に取り組んでいる姿勢が見られる。15名が学級づくり、生徒指導、特別支援教育を記述 しており前述の授業づくりと同様に意識して取り組んでいる姿勢が見られる。 項目3 教職大学院で、こんなことも学べたらよかったと思われることがあれば教えてください。 本項目は、本大学院のカリキュラムの妥当性および課題を探るものである。以下、元現職院生・元 46.

(4) 修了生アンケートと事例からみる「学び続ける教師」と北海道教育大学教職大学院. ストレートマスターにわけ、教職大学院の講義で設定されている3分野に沿っていくつかのカテゴ リーに分類して該当する人数を記し、若干の考察を記す。 ⑴ 元現職院生. 計39名. 分野 生徒指導・教育相談. 学校経営・学級経営. 授業開発. その他(方法等). 学べたらよかったと思われること. 人数. 臨床心理学(心理学を含む). 2. 生徒理解. 1. 保護者対応. 1. 生徒指導の事例研究をもっと多く. 1. カウンセリングの方法. 1. 教育相談の進め方. 1. 特別支援教育. 2. 職員会議の進め方. 1. 先進校の視察と交流. 1. 幼小中連携・接続の在り方. 1. タイム・マネジメントやタスク・マネジメント. 1. 職場での教師の力量形成. 1. 協働の在り方. 1. 校内研修の進め方. 1. 授業づくり・授業実践. 3. 授業改善の手立て. 1. 模擬授業. 1. 個に応じた指導. 1. キャリア教育. 1. ICT教育. 1. 専門・校種を越えた深い討論. 1. アンケートの分析法. 1. 研究手法(量的・質的). 1. 論文の書き方(学会で通用する). 1. 演習・実技を多く. 1. 充分・満足している. 5. <考察> 現職修了院生の場合、 「学べたらよかったと思われること」 は分散しかつ大半が1名であり、 充分・満足と表記した者が5名いることからも、本大学院の講義は内容面については必要なことは網 羅されているのではないかと考えられる。. 47.

(5) 前田 輪音・工藤 久実・大久保昌史・水上 丈実・寺嶋 正純. ⑵ 元ストレートマスター 分野 生徒指導・教育相談. 学校経営・学級経営. 授業開発. その他. 計48名 学べたらよかったと思われること. 人数. 保護者対応. 5. 生徒指導. 3. 事例研究. 1. 子どもを取り巻く環境の変化. 1. 子どもに響くほめ方. 1. 臨床心理. 1. 学級経営(学級開き、中学校の学級経営含む). 5. 特別支援教育. 3. 分掌業務(校務の初歩、院内の仕事を分掌として行う). 3. 校内研修の進め方. 2. 特別支援の生徒の就労支援. 1. 発達障害. 1. 学校力向上の実践・取組. 1. 効率のよい仕事の仕方. 1. 若手教員から働きかける方法. 1. 授業づくり. 4. 専門教科の授業研究. 3. 学習評価. 3. 授業観の確立. 2. 教材研究. 2. 実技教科の実践. 2. 教育課程編成. 1. 外部講師との連携. 1. 地域と協力・連携した授業実践. 1. 旅行的行事のアイディア. 1. 指導技術. 1. 自主ゼミをするとよかった. 1. 討論・協働をもっと多く. 1. 実践できる場. 1. 充分・満足している. 2. <考察> 元ストレートマスターの「学べたらよかったと思われること」については、元現職院生の と異なり、各分野で集中している内容がある。例えば、生徒指導分野の保護者対応、学校・学級経営 分野の学級経営・特別支援教育、授業開発分野の授業づくりや学習評価などである。充分・満足して 48.

(6) 修了生アンケートと事例からみる「学び続ける教師」と北海道教育大学教職大学院. いる者が2名のみである。このことから、学びを深める何らかの手立てを講じる必要性や、全ての授 業を元現職院生・元ストレートマスターが一緒に行っている現在のカリキュラムについて検討してい く必要があると考えることができる。 元現職院生・ストレートマスターの回答全体から、修了後、自らの教育実践における課題意識や課 題そのものが高められたからこその要望、とも想像できる。 項目4 教職大学院では、毎年10月に教育実践交流会を開催し、識者による講演と修了生の実践報告 を実施し、修了生のみなさんへのフォローアップの一環としています。また、今年度は修了生 みずからの発案で自主研究会も行われました。今後、教職大学院に望む研修の機会・内容があ りましたら、教えてください。 本項目の回答からは、「教育実践交流会」*への評価も含め、今後の修了生フォローアップの一指針 を得ることができる。以下、いくつかのカテゴリーに分類し(重複あり) 、若干の考察を記す。 *. 註 「教育実践交流会」は、年に1度、在籍中の院生と教員を前に、修了生による大学院時代や修了後の取組につ いての報告と交流の場である。報告者以外の修了生にも参加を呼び掛けている。. . 計45名回答(元現職院生24、元ストレートマスター21). 主に内容についての要望 ・特別支援の知見・技術…2 ・教育界における情報交換…1 ・推薦図書の案内…1 ・学習評価…1 ・高校卒業後の進路へのつながり…1 ・ワークショップ…1 主に運営方法について要望 ・実践・事例・研究等の交流(授業研究・協議の研修、実践例の交流、授業参観、修了生と院生の交 流、同窓会・同期と学びあう機会、交流・同窓会、修了生向けの集まり・講座、講義公開での議論 の場、若手と経験豊富な教員との相談、実践例の紹介、など)…20 ・大学院教員との個別相談…1 ・紀要への投稿募集…1 ・道南・道北・道東・道央(札幌)の4ブロックでの「修了生実践報告会」…1 ・各振興局で授業公開(他校種、他教科の授業を見る。現役院生は都合のつく範囲でさまざまな地域 の授業を見る)…1 ・遠隔地の事情を考慮した開催方法・情報公開(HPの活用、在籍地域以外への参加、など)…2 ・長期休暇での開催…2 ・大学院から内容の提示を希望…1 現状維持 ・現在の実践交流会の継続…7 ・すでに行っていること(ゼミ仲間との交流・勉強会…2) (教員との個別相談…1) <考察> 今回のアンケートに回答を寄せた87名のうち半数以上が何らかの検討・交流を求めてお り、必要とし続けている現状と同時に、課題意識の高さをうかがわせる。 内容についての要望からは、 現在抱えている課題が垣間見られる。また、 従来の「教育実践交流会」 の継続を求めるものや、わずかだがすでにいくつかの取組み(ゼミ仲間との勉強会等)がなされてい ることも示されている。 北海道の広域性から、地域ごとの取り組みや、HPなどでの情報公開も必要とされている。 一方で、本大学院研究紀要への投稿募集や、大学院講義の公開、教育実践交流会等で行われている こと等、現在すでに実施されていることも含まれていることから、本大学院の取組みが必ずしも周知 されていない実情も見出される。大学院としての積極的な発信が求められていると言えよう。. 49.

(7) 前田 輪音・工藤 久実・大久保昌史・水上 丈実・寺嶋 正純. 項目5 教職大学院修了後のあなたの研究・研修活動について、主なものを教えてください。 以下⑴~⑹の諸点について、どのような規模(自校・市町村・全道・全国等)のものか、およびそ の性質等をいくつかのカテゴリーに分類し、 元現職院生・元ストレートマスターに分けて件数を記し、 若干の考察を記す。 ⑴ 授業公開 元現職院生 全32件(23名回答) 校内研10件、自校公開研究会8件(うち附属2件) 、出前授業1件、飛び込み授業1件、 市町村・管内規模等7件、市教委研修1件、道・県規模1件、全国規模2件、 文科省指定校公開授業1件 元ストレートマスター 全46件(38名回答) 校内研27件、自校公開研4件、市町村・管内規模7件、道・県規模(研修等含む)7件、 初任研研究授業1件 ⑵ 口頭発表 全28件(22名記載 うち元現職12名、元ストレートマスター10名) 校内研究会2件、市町村・管内規模11件、道・県規模4件、全国規模7件、 北海道教育委員会ジョブシャドウイング、不明3件 ⑶ 講師経験 全16件(10名記載 うち元現職院生9名、元ストレートマスター1名) (複数記載3名) 校内研1件、市町村・管内研究会7件、道研究会2件、初任研1件、10年研1件、 本学非常勤2名、不明2件 ⑷ 論文等執筆 全13件(11名記載 うち元現職院生9名、元ストレートマスター2名) うち複数記載 元現職院生2名 学会誌論文2件(2件とも元現職院生1名) 、大学紀要1件(元現職院生1名) 、 全国教育関係雑誌論文5件(元現職院生3名) 、 地域の教育研究会関係雑誌3件(元現職院生2名、 元ストレートマスター1名) 、 教育関係雑誌に1件(全国か地方か不明 元ストレートマスター1名) 、 単行本分担1件(元現職院生1名) ⑸ 学会所属 全6件、6名記載(うち元現職院生5名 元ストレートマスター1名) ⑹ 研究会所属 全30件、22名記載(うち元現職院生8名、元ストレートマスター14名) 複数所属7名(元現職院生1名、元ストレートマスター6名) 市町村・管内規模18件、全道規模7件、不明5件 研究部長など「長」5名(うち元現職院生4名、元ストレートマスター1名) <考察> ⑴「授業公開」については、元現職院生が全国クラスのものも含み健闘している。元スト レートマスターは回答数・記載数ともに多く、学校主催の研究会での公開が積極的になされていると ともに、校外(市町村・管内・道等)での公開も健闘している。⑵「口頭発表」では、 校内や市町村・ 管内規模での発表はもとより、全道、そして全国規模での発表もみられ、幅広く活躍していることが わかる。⑶「講師経験」は決して多くないが、様々な地域規模のものや、本学非常勤、初任者・10年 50.

(8) 修了生アンケートと事例からみる「学び続ける教師」と北海道教育大学教職大学院. 勤務の教員対象の研修等、様々な講師の役割を担っている。 ⑷「論文執筆」は、学会誌、紀要、全国教育関係誌など13件みられ、実践を研究的にすすめて活字 にする必要性の自覚が読み取れる。⑸「学会所属」6件、⑹「研究会所属」30件は、積極的な研究の 継続・発展の一側面といえるが、研究会への複数所属は7名で、そのうち元ストレートマスターが6 名と多い。研究部長等の「長」をつとめているケースもあり、うち1名は元ストレートマスターであ る。 なお、論文等の執筆は元現職院生が多いが、 「学会」 ・ 「研究会」をあわせると元現職院生13名、元 ストレートマスター15名となり、両者ともに教育実践を研究的に進めるための多様な機会をとらえて いることがわかる。 1-3 まとめ 修了生が、自身の課題(項目2) 、本大学院での学びの振り返り(項目3) 、大学院とのつながりの あり方への要望(項目4) 、授業公開・研究会発表・などの取組みなどから実践を研究的に進めてい る(項目5)、などの状況から、 「学び続ける教師」の姿の一端を示していると言えよう。 しかしながら、調査自体が試行的であったがゆえに、本大学院が掲げる「養成する人材」像にどう 迫っているのかをひもとく調査内容になったかといえば、疑問も感じられる。アンケート項目の設定 や分析方法等の面で改善の議論は今後継続的に求められる。. 2 修了生自身による教育実践を対象とした学びの継続・発展の事例 本節では、2人の修了生(札幌)自身の言葉から、その一端を示す。 2-1 札幌校7期修了生が企画・運営する研究会 「理論と実践の往還を可能にする教育実践研究会」 の創設と今後 (担当:工藤) 北海道教育大学教職大学院札幌校7期生(2016年3月修了)は、大学院修了後に「理論と実践の往 還を可能にする教育実践研究会」と題し、自主的な研究会を実施してきている。修了後の研究や実践 について発表・交流し、それぞれの修了生が日々の実践にいかしていくことを目的としている。 2016年8月13日・14日に第1回、2017年8月12日に第2回研究会を開催してきている。 ⑴ 創立の理由 私たちがこの研究会を立ち上げようと考えたのは在学中のことだった。素晴らしい大学院教員と同 期院生に恵まれて充実した日々を過ごすことができた一方、修了後の学びについて疑問や不安が浮か び上がってきた。在籍時には、院生どうしで活発に意見を交わすことでよりよい学びが生まれていた が、修了後は修了生同士が意見を率直に交わしたり、自身の教育実践や仕事をしているうえでの悩み や葛藤を共有する場が少ないという危機感を感じていたのだった。そのような私たちを後押ししてく ださる大学院教員もおられた。このように「修了後も集い、率直に意見を交わし、学び続けたい」と いう思いから設立に向けての活動が始まった。 ⑵ 第1回研究会について 2016年8月13日、14日の2日間日程で開催した。実践報告4件とインシデントプロセス法を用いた 討論を行った。22名(内訳:7期生14名、大学院教員5名、他学年修了生3名)の参加者を得た。 実践報告① 佐々木啓輔(元ストレートマスター) 「教師の防災意識の向上」 札幌市内の小学校で働く佐々木教諭から、防災意識育成についての実践について報告された。専門 である理科の授業を中心に、 防災訓練や他教科との関連を図りながら取り組まれた様子が紹介された。 51.

(9) 前田 輪音・工藤 久実・大久保昌史・水上 丈実・寺嶋 正純. 各学年の授業、学校行事がどのように関連づいているか整理し、計画的に実践に取り組まれている様 子を知ることができた。 実践報告② 塚野太朗(元ストレートマスター) 「中学校における英語教育の実際」 北海道の中学校で働く塚野教諭から、大学院でのMOBを生かし中学校でどのような実践を行って いるか報告された。また、多忙な日々の中でどのように効果的な教科指導を行っていけば良いかとい う率直な悩みも語られ、発表後の議論が盛り上がった。 実践報告③ 大久保昌史(元現職院生) 「主体的な学びの育成に関する教育実践例」 札幌市内の高等学校で働く大久保教諭から、主体的な学びの育成を目的とした実践について報告さ れた。自身の専門である数学の授業を通し、生徒に主体的に学ぶ力を育成するための具体的な実践、 アンケート結果の検証が紹介された。 (本稿2-2も参照のこと) 。 実践報告④ 伊藤弘紀 (元ストレートマスター) 「僻地校での教育実践―高等学校数学科と生徒指導―」 北海道の高等学校で働く伊藤教諭から、数学の授業実践と生徒指導について報告された。地域の特 色、学校の校風などから必要とされている数学の力は何かを考え、生徒の目線に立った授業研究の様 子が紹介された。また、授業実践や生徒指導での悩みについても率直に語られ、 「授業と生徒指導の 関係性」について改めて考えるきっかけを与えてくれた。 インシデントプロセス法を用いた討論 参加者は3つのグループに分かれ、インシデントプロセス法を用いて討論した。事例は参加者から 提供され、生徒指導や学級経営、特別な支援を必要とする生徒への支援のあり方などが検討された。 ただし、この手法の手順についての確認が足りなかったため、議論を進めていく中でその方法から外 れてしまうグループもあった。討論を始める前にインシデントプロセス法について確認を行うなどの 改善が必要だということがわかった。 意義と課題 研究会終了後に、全体の振り返りと意見交流を行った。研究会を実施し、修了後も学ぶ 場ができたことについて参加者全員が満足感を感じていた。開催の継続の希望も多く出された。 一方、研究会の構成・開催日・報告内容について指摘があった。特に今回は発表者の悩みを話す場 面が多く、研究的な側面が少し薄れてしまったことが挙げられた。参加者の率直な思いを話す場と研 究的・学問的な観点で議論する場となるよう、研究会の在り方を改善する必要性を感じた。 ⑶ 第2回研究会について 第1回に続き、2017年8月12日に第2回を開催した。 実践報告2件にあわせ、 参加者全員による日々 の教育実践の取り組みや課題の共有を行った。14名(内訳:7期生11名、大学院教員2名、他学年修 了生1名)の参加者を得た。 実践報告① 大久保昌史(元現職院生) 「修了2年目の実践発表」 北海道の高等学校で働く大久保教諭から、教科指導実践、組織体制実践について報告された。実践 している中で感じた疑問について率直に語られ、よりよい教科指導、よりよい組織体制実践について 考えるきっかけとなった。 (本稿2-2も参照のこと) 実践報告② 佐藤昭彦(元現職院生) 「バハレーン日本人学校での経験」 バハレーン日本人学校で働く佐藤教諭から、バハレーン日本人学校での経験について報告された。 日本の学校との違い、文化の違いなどが紹介された。また、この経験をいかし、日本に戻ってきてか らは国際理解教育に関わりたいという決意も語られた。 自己課題や実践についての課題の共有 参加者全員が15分程度報告し、自己課題や実践について意見交流を行った。議題は多岐に渡り、授 52.

(10) 修了生アンケートと事例からみる「学び続ける教師」と北海道教育大学教職大学院. 業実践や生徒指導、学校経営、保護者対応、ボランティアの実践などであった。 意義と課題 第1回研究会と同様に、 参加者の満足感は高く、 今後も研究会を開催していくことになっ た。前回の反省をいかし、全員が自己課題や実践について話す場があったことで、主体的に参加しや すい構成となった。また、今後必要があった場合には、研究会の中で模擬授業を行ったり、ゲストス ピーカーによる講演なども考えている。7期生の必要に応じて内容を変化させながら続けていきたい という方針でまとまった。 ⑷ 今後のあり方について 私たち札幌校7期生は「修了後も集い、率直に意見を交わし、学び続けたい」という思いから研究 会を設立し、2回の開催を経た。修了後も教職大学院の仲間と集い、学ぶ時間が貴重であることを全 員が感じているはずだと思う。今後も、 「自分たちに必要とされていることは何か」を考えながら、 自分たちの求める研究会を7期生で作っていきたいと考えている。 なお、当面はこの同期のメンバーで実施していきたい。2年間共に学んだ同期だからこそ、率直に 意見を交わし、学び合える側面もある。この取組みをきっかけに、他キャンパスや他期でも自主的な 研究会が始まることを願う。 2-2 修了生(元現職院生)からみた教職大学院の意義 (担当:大久保) ⑴ 教職大学院入学から修了まで-「運営における軸」と「教育における軸」探し― 入学前までは、教科指導力の向上や自己意識改革のために、勤務校での教職員との議論のほか、外 部での研究会に積極的に参加してきた。一方で、教科指導以外の業務に関しては、実践による経験年 数を通すことで得られるものが大きいとは思いつつも、それだけでよいのか不安に感じてならなかっ た。 「運営における軸」を自分自身の中で感じることができず、経験年数が増えても教職員としての 成長を実感できずにいた。 札幌市立高校での勤務年数が10年目を迎え、これまでの自分を見直し更なる向上を求め、知識と理 論の融合を学ぶことができる教職大学院への進学を決意し、札幌市教育委員会派遣の現職教員として 入学することができた。 ストレートマスターや北海道教育委員会派遣教員との学び合いは、 疑問や発見の連続だった。特に、 「教育とは、人間を育てるための教育である」ことを再認識させられ、その「教育に深く追及する姿 勢」を、自分は欲していたことに気が付いたように思う。何のための行事なのか、何のための指導案 作成なのかなど、自分がこれまで生徒を前にして話していた言葉の希薄さを恥ずかしく感じた。在学 中での講義やゼミ( 「事例研究」 )による学びが、教育的な意味付け・裏付けを教えてくれ、自己省察 することで、自分が欲していた「教育における軸」をおぼろげながらに形成してくれたように感じて いる。大学院修了時に作成したMOB(マイオリジナルブック) 「進路指導部が主導する進路指導体制 構築に向けての一考察-学年連携や継承する連絡体制を目指して~」は、自分の教育実践省察文集と して今でも繰り返し読み直している。 ⑵ 修了後に学んだ自己修正学習 大学院在籍当時は、校務分掌が進路指導部長ということもあり、様々な業務や責任を学び得ること ができ、かつ大学院での研究テーマに即した働きかけを実践することができた。当時の管理職の方々 には大変感謝している。しかしながら、MOBのサブタイトルでもある「学年連携や継承する進路指 導体制」は十分に達成されたとは言い難いものがあった。 修了後、転勤した次の職場(現勤務校)では、担任・進路指導部を担当することになったこともあ 53.

(11) 前田 輪音・工藤 久実・大久保昌史・水上 丈実・寺嶋 正純. り、運営面での研究テーマを「担任として、 分掌・学年・担任・職員室内部から働きかけるボトムアッ プ型の進路指導体制」と修正し、再挑戦することにした。 そしてまた、転勤した同じ年に行われる札幌市立高等学校教科別研究協議会の代表校発表として決 まっていたことから、教科指導面での研究テーマを「主体的な学びを育成する授業改善の実践記録」 とし、自分の授業をどのように改善することで、生徒の主体的な学びを推進することができるのかを 研究することに挑戦することにした。 仮説し、実践し、アンケートを取って評価・分析し、指導案改善を考え、次の実践計画を練り…と、 まさにPDCAサイクルをたどる日々を過ごしているが、このサイクルが全て自己の活動で完結された わけではない。例えば、教職大学院教員の前田先生と同期の工藤さんに、大学院研究室にて中間報告 を兼ねた検討の機会を得て、実践の方向性についての検討や学校自己評価ではない取り組み方などに ついて意見をいただいた。この機会自体が、頭の整理となり、次の実践へのヒントを多く学び得てい ることを強く覚えている。また、教職大学院教員の梅村先生からは、組織マネジメントに関する助言 を多くいただくことができた。このように大学院修了後も贅沢なゼミの機会を得ながら勤務校でのさ らなる研究にいそしんできている。 修了した年の2016年8月に開催された教職大学院の同期(第7期札幌)の第1回研究会(本稿2- 1参照)で報告の機会を得(報告タイトルは「主体的な学びを構築する授業改善」 ) 、7期生はもとよ り教職大学院の複数名の先生からもご意見や激励の言葉をいただくことができた。第2回(2017年8 月開催)でも「修了2年目の実践発表」と題して報告した。 このように、様々な協議や発表経験を繰り返すことにより、そのたびに文章内容と文言を検討・整 理し、次の実践に対して改善・修正を行ってきている。このサイクルは、自己修正・モニタリングと して活きていると実感している。 また、実践記録を勤務校や研究会の研究紀要に残せれるよう、テーマを設定し積極的に報告するよ うに心がけている。2016年度は、 「主体的な学びを育成する授業改善」というテーマで、授業評価ア ンケートを定期的に実施し、自己の授業改善に活かしました。2017年度は、前年度のテーマに「家庭 学習時間を増やす」ことを加えたテーマとし、授業評価アンケートには、授業評価だけではなく、生 徒に「望む生徒像」を意識させることでの(生徒の)自己評価アンケートを含めて実施し授業改善に 取り組んでいる。この取り組み自体は、自分の担当する授業クラスのみでの実施だが、アンケート項 目内容を考えるうえで数名の同僚と意見交換し、あわせて集計結果をともに検討するなど、できるだ け同僚に広げることを意識している。集計結果に興味を示してくれる同僚もいるが、学校全体として の活動につなげるには、さらなる改善や工夫が必要と考えている。 これらの取組みの表れとして、2016年度には、大久保他 札幌市立高等学校教科別研究会(2016年 10月)にて札幌市立高等学校教科別研究会代表校として主体的学びを育成する授業改善について報告 した。また、大学院時代からの課題の継続・発展の一環として、大久保「38期生進路指導の取り組み (1学年4月~12月) 」 (北海道新川高等学校研究紀要『礫』第38号、2017年3月)をまとめた。これ らは現在も継続して取り組んでいる。 「研究的な視点」や「理論と実践の往還」を意識することで、目の前の生徒を分析し、どのような 姿を理想とし、どのような実践を行えば効果的なのかという、仮説・実践・省察・改善といった自己 修正を心がけ、自分にとっては頭が整理され、 納得のいく実践方法となっていることを実感している。 ⑶ 教職大学院の意義 教職大学院入学前は、教科指導以外の業務においては、教師経験年数を増やすことにより、ある程 54.

(12) 修了生アンケートと事例からみる「学び続ける教師」と北海道教育大学教職大学院. 度無難にこなせるようになった。ところが、それは経験や勘や慣行によるものが多く、実践力と例え られるものでしかない。だからこそ、その実践力に、確かな理論を加えることによって、科学的根拠 を持った教育実践になると、納得感をもって認識されるはずと考えている。 教職大学院はその一翼を担う確かな存在であると、私は確信している。そして、在学中に議論を深 めた多くの同期・先輩・後輩だけではなく、ご指導を頂いた教職大学院の教員の方々とも、修了後も 相談・議論できる関係性を築けてきていることに、本当に感謝申し上げる。 教職大学院のHPを開くと、次の言葉が真っ先に目に入り、今でも確かに実感できる。 「人が人を育てる」. 3 まとめにかえて 本稿では、修了生アンケートの自由記述のデータおよび若干の考察・分析、および修了生自身によ る教育実践を対象とした学びの継続・発展の事例を示した。 直接・間接に、 積極的に課題を有して日々 の教育実践に研究的に向き合うことの重要性や、学び続ける必要性の自覚、その学びの諸相の一端が 示されたといえる。あわせて、教育実践交流会も含め修了生とのかかわりを意識した本大学院として の様々な実践の意義および課題の一端もみえてきた。 ただし、本稿で示した試行的に進めたアンケート調査は、本大学院が掲げる「養成する人材像」の 多様性もあり、それに真に迫ったものかと言えば疑問の余地は残る。これを契機に、どのような調査 を行えばよいのかを議論していくことは、重要な課題である。 なお、今回は修了生自身の取組みや成果に焦点をあてたが、先述した修了生を対象に個々の大学院 教員が個別に行っている研究会や相談などに加え、 今後は、 困難を抱えた修了生への組織的な支援や、 課題の継続発展に向けた具体的なフォロー体制の構築が求められる。現在、本大学院ではその在り方 が議論され始めている。 今後も、修了生の協力を得ながら、大学院教育の改善および修了生のフォローアップの在り方につ いて模索を続け、 「学び続ける教師」を育てる大学院の構築を目指していきたい。本稿がその一助と なれば幸いである。 付 記 今回の修了生アンケート調査にご協力をいただいたすべての修了生に、記して感謝する。 附 表 本稿第1節で示したアンケート調査結果に加え、以下のデータを示す。 教職大学院で学んだことが、現場での実践にどの程度生きていると感じられますか。 以下の①~⑩まであり、次の5つ(5:強く感じられる 4:感じられる 3:どちらともいえな い 2:あまり感じられない 1:全く感じられない)から選択し回答する形式である。. 55.

(13) 前田 輪音・工藤 久実・大久保昌史・水上 丈実・寺嶋 正純. ① 所属学校の現状と課題を、広い視野から意識する。. ② 学校経営方針を理解しつつ、その実現に向けて取り組む. ③ さまざまな取組に対し、協働で進めることを重視する. ④ ⑴ よりよい学級づくりに向けて、実践を重ねる(元ストレートマスター). ⑵ 自分がリーダーの一人であることを意識して動く(元現職). 56.

(14) 修了生アンケートと事例からみる「学び続ける教師」と北海道教育大学教職大学院. ⑤ 所属学校の教育課程を理解しつつ、その実現に努める. ⑥ 手立てをもって生徒指導に取り組む. ⑦ ⑴ 授業研究を積極的に行う(元ストレートマスター). ⑵ 授業研究を積極的に進めて、発信する(元現職院生). ⑧ 特別な支援が必要な児童・生徒に対し、個々に必要な支援を考えて関わる. 57.

(15) 前田 輪音・工藤 久実・大久保昌史・水上 丈実・寺嶋 正純. ⑨ 家庭・地域と共にという意識のもと児童・生徒の成長をとらえる. ⑩ MOBの研究内容・方法が実践に何らかの形で活きている. [注] 1 本大学院の取組みの経緯の一端は,前田輪音,津田順二,斉藤英昭,竹本克己,藤川聡「教育実践交流会の成 果と課題―2014年度教職大学院FD報告」北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要,第5号,2015に表し ている。 2 本大学院では,講義に「授業協力者」という立場で一部分を学外の方に担当いただくシステムがある。一例と して,次の論文にそのことがあらわされている。前田輪音・箭原さおり「実践報告 教職大学院および修了後の教 師の『研究』過程−『省察』し『学び続ける』教師の姿から−」北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要, 第6号,2016 3 いくつかのエピソードを,本大学院10周年記念式典のパンフレット「北海道教育大学教職大学院10年間の軌跡」 (北海道教育大学教育学研究科高度教職実践専攻編,2017)に記載した。 4 本研究紀要の創刊号には,研究紀要編集委員(当時)3名による,当時の唯一の修了生である1期生(2008年 入学,2010年3月修了)を対象にしたアンケート調査とその結果を示した論考が掲載されている。その後,大学院 として修了生を対象に行ったアンケート調査としては,本稿の調査が第2回のものとなる。玉井康之・前田輪音・ 藤森宏明「修了生対象の振り返りアンケートからとらえられる院生の学びの軌跡と成長」 ,藤森・前田・玉井「修 了生対象意識調査の結果と特徴」北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要,第1号,2011. 58.

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参照

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