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教員養成における「謡曲」の学習方法に関する一考察

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Academic year: 2021

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(1)Title. 教員養成における「謡曲」の学習方法に関する一考察. Author(s). 尾藤, 弥生. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 58(1): 37-45. Issue Date. 2007-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/479. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第58巻 第1号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.58,No.1. 平成19年8月 August,2007. 教員養成における「謡曲」の学習方法に関する一考察. 尾 藤 弥 生. 北海道教育大学岩見沢枚音楽教育研究室. AInquiryConcerningthe“You−Kyoku’’LearningMethodinTeacherTraining BITO Yayoi DepartmentofMusicEducation,IwamizawaCampus,HokkaidoUniversityofEducation. 要 旨 本研究では,日本の伝統音楽の「声の種目」の中で,能楽の声楽部分「謡曲」に焦点を当て,教員養成の 学生に対して,謡曲の体験学習を通して,謡い方の基礎技術を習得させるとともに,日本の音楽の特徴や謡 曲の表現技術の価値も理解させることを目指し,少ない時間の中で学習効果を上げられる学習方法を考え, 実践しその効果について検証する。 検証の結果,次の3点が明らかになった。. ① 本実践のように,体験学習を通して学習することで,初めて出会うジャンルの音楽に対する関心・意欲 が高まることが分かった。. ② 基礎技術の習得に関しては,元譜の謡本を見て謡うだけでなく,視覚的図形楽譜を使用することで,基 礎的技術が短時間で習得でき,特に,学習の始めの段階で図形楽譜が有効な手段であることも明らかになっ た。. ③ 表現技術の価値に関しては,リズム感や気の入れ方,拍子合と拍子不合の違いや音程が相対的であるこ と,心情を伝えることが大切であることなど,日本の音の特徴に関わる謡曲の特性への理解が深まること が明らかになった。. キーワード:教員養成 音楽教育 日本の伝統音楽. 1.研究の背景と目的 国際化が進む今日,我々日本人が日本人としてのアイデンティティを確立するため,自分たちの足元,つ まり自分達の伝統文化や音楽を再確認することは重要である。このような中,なぜ日本の伝統音楽の中で「声」 に関する題材なのかと言うと,和楽器撃の教材や指導法の研究を進めるうちに,日本の伝統音楽には,声を 含む音楽が大変多く,重要な位置を占めていることがわかったからである。さらに,教員養成では,平成13 年度より教員免許法の改訂に伴い,日本の伝統音楽の「声」に関わる種目についての学習が義務付けられた. 37.

(3) 尾 藤 弥 生. ので,これらの学習方法について研究する意義は大きいと言える。 このような状況の中「声」の種目の中で,なぜ「謡曲」を取り上げるのかについて述べる。まず,日本の 伝統音楽「声」に関わる種目に当ると実に多くの種目が存在し,大きく「歌いもの」と「語り物」に分類で きることが分かる。また,歴史を追ってみてゆくと,中世までに成立したものには,催馬楽,朗詠,声明, 神道の祝詞,盲僧琵琶・平曲の琵琶楽,能楽がある。そして,それらの影響を受けて,長唄などの近世邦楽 が生まれた。これら近世邦楽に大きな影響を与えたのが能楽であり,長唄や歌舞伎には,能楽の番組の題材 (曲目)を扱ったものが多く,歌詞の台本も能楽のものをそのまま利用したり,書き加えたり,庶民に分か りやすい言葉に書き換えたりして,使われているものが多い。例えば,歌舞伎の「勧進帳」は能楽の「安宅」 を原型としている。 このような理由から,近世邦楽に多大な影響を与えた能楽の声楽部分である「謡曲」を扱うこととした。 そして,それらを学習者が体験することで,日本の伝統音楽の素晴らしさに一層深く接することができる という考えに至った。 そこで本研究では,これらの背景を踏まえて,近世邦楽の「声」の種目の原点である「謡曲」に焦点を当. て,教員養成の学生に対して,謡曲の体験学習を通して謡い方の基礎技術(1)を習得させるとともに,日本 の音楽の特徴や謡曲の表現技術(2)の特徴も理解させることを目指す。そして,実際の教員養成の授業の中 では,少ない時間の中で体験を通し実感を持って習得させることが求められる。そこで,本研究では,短時 間で習得するための学習方法を考え実践し,その効果について検証する。. 2.研究方法. 2−1 謡曲の概要 謡曲の謡い方は大きく「コトバ」と「フシ」から成る。. 「コトバ」は演劇のセリフに近く,吟型の指定も旋律や音価に関する指示記号もないが,コトバ独特の抑 揚とリズムがある。. 「フシ」はリズムの特徴からビートを主張しない「拍子不合」と拍節が明瞭な「拍子合」から成る。また, 発声法や旋律の動きの違いから,音程変化が少な く強く押し出すように気を込めて謡う「強吟」と,. 音程変化や節の扱いが細かく,精密な情感表現を する「弱吟」がある。そして,「表1」に示すと. 「表1」 【謡曲の謡い方の種類】 男,女. コトバ. フシ(強吟,弱吟) 拍子不合. 一セイ. おり,それぞれに様々な謡い方のパターンが存在. カカル. する。. クドキ サシ クリ ワカ 拍子合. 上歌 下歌 塑箪 追行 クセ ノリ地 ロンギ. 38.

(4) 教員養成における「謡曲」の学習方法に関する一考察. これら全ての謡い方のパターンを短時間の学習で習得することは不可能であるため,本研究では,「フシ」 の中で,「強吟」の「一セイ」および「弱吟」の「次第」に焦点を当てる。その理由は次の3点である。. ① これらは他の謡い方のパターンに比べ短い。 ② 「強吟」の「一声」では,短いパターンの中に「クル」「入る」「廻す」などの節廻しが入っていると 同時に気を込めて強く謡う謡い方が学習し易い。. ③ 「拍子合」の「弱吟」の「次第」では,「ウキ」「ハル」を含む細かい音程変化,細かい旋律変化が学 習できる。. 2−2 謡曲に関わる先行実践研究. 能楽の体験学習に関する小・中・高等学校および教員養成における実践的報告事例(3∼9)は多少存在する。 しかし,教員養成における「謡曲」の学習方法に関する研究は,見当たらない。. 2−3 実践内容の概要. 本実践は,謡曲初心者の本学音楽専攻の学生を対象に,平成18年4月から7月にかけて,一回60分で8回 の計画で実施した。実践にあたり,始めは日本の伝統音楽の伝統的学習方法である一対一で師匠の演奏を真 似ながら学習する形態を取り入れ,プロの演奏のCDと指導者(4年程能楽師のお稽古を受けている)の説 明により学習を進めようと試みたが,謡い方の基礎技術を8回の中で習得することが難しいという考えに至 り,3回目より学習方針を改善し,以前拙著(10)で試みた方法,つまり,元譜の謡本だけでなく,謡い方の 音程や長さなどを視覚的に理解できる楽譜(以後「図形楽譜」と記す)として示して学習する方法を取り入 れることとした。さらに,謡い方のパターンも2−1で述べた理由により,強吟の「一セイ」と弱吟の「次 第」に焦点を当てて学習することとした。具体的指導内容は,「表2」の通りである。. 「表2」 【実践内容】 学習内容. 回数. 調査内容. 「土蜘昧」の前半。元譜の謡本を使い,プロのCT)の演奏と指導者の謡いを 「土蜘昧」の次第1回目の音 手がかりにして謡う練習 声録音 2. 「土蜘昧」の後半。元譜の謡本を使い,プロのCDの演奏と指導者の謡いを 「土蜘昧」の一セイ(月措き 手がかりにして謡う練習. 3. 「土蜘昧」の復習。 一セイと次第の謡いカを図形楽譜で提示。. ∼)の1回目の音声録音 「土蜘昧」の一セイ(月措き ∼,土も木も∼,)と次第,「羽. 学習した謡い方を見本の図形楽譜を参考に記譜させる。「土蜘昧」の一セイ 衣」の一セイ,の謡い方を示. 4. (月措き∼,⊥も木も∼,)「羽衣」の一セイ,「⊥蜘昧」の次第。. す図形楽譜の記譜。. 「⊥蜘昧」「羽衣」の一セイの復習。. 一セイの図形楽譜の記譜. 様々な番組(曲目)の強吟の一セイの練習と記譜。「/ト袖曽我」「狸々」「田. 村」「鶴亀」 5 様々な強吟の一セイの復習。 弱吟の一セイの練習と記譜。「富士太鼓」. 一セイと次第の図形楽譜の記 壬並 P日. 弱吟の次第の練習と記譜。「田村」 6 弱吟の様々な番組の次第の練習と記譜。「田村」「東北」「紅葉狩」「大仏供養」 次第の図形楽譜の記譜 7. 「羽衣」の前半とキリの練習。 一セイ,次第,キリの記譜。「羽衣」. 8. 「羽衣」の復習。 様々な番組の一セイと次第の復習. 一セイ,次第,キリの図形楽 譜の記譜。 様々な番組の一セイと次第里 2回目の音声録音. 39.

(5) 尾 藤 弥 生. 2−4 調査項目の設定および調査方法 本研究での調査項目と方法は,以下の質的調査によって行う。 ① 毎回の学習の記述記録および学習後のアンケートの記述記録。 ② 学習成果の音声記録。 ③ 学習時の記録楽譜など。 この三項目により,学習状況の変化と成果を調査する。 具体的に音声記録では,「土蜘昧」の「一セイ」と「次第」の1回目と2回目の謡い方の変化を比較調査 する。この1回目の演奏では,まず,範唱を一回聴き,その後2∼3回範唱とともに謡った後,学習者一人 で謡った。また,各回ともこの歌唱時には元譜の謡本(譜例1)を見て歌唱した。. この他,学習の記録楽譜については,図形楽譜の記入状況の正解との違いを調査する。学習の記述記録か らは,習得状況と内容の調査をする。. 3.調査結果 ここでは,調査結果を,「譜例2∼5」「表3,4」に記述する。尚,「譜例1」は,本研究の学習で扱っ た部分の元譜(謡本)である。また,. 学習者の音声記録の結果は,紙面上視覚化して示さなければならない. ので,音声記録を筆者が何回か視聴して,「一セイ」も「次第」も図形楽譜化して示す。(譜例2,3,). ︹譜例1﹂︺. は矛︵ヨワめ︺. 明寧㌢紅生第ナやばき、考. 栗岩蟹箪義烈. ノセうつヲ威J. 嘲一醜斬む,敵軍Vか,本省露ゎ. 誓琴警崇毎. − 諺け﹁・一基 レ坪. 40. 〔上物蛛・一セイ ヱ虔柑〕. っ−くきノ1,ヱよき一 よぉーヒ「よ、ノも、叫んすい くhノ/しきりり一. がか1.ノぁれ「もはし/らくか㌻_ こ∴ノ㌔、ろ…一. イ. 野.

(6) 教員養成における「謡曲」の学習方法に関する一考察 〔譜例3〕. [t蜘蛛のふ絹1朗〕. 仕蜘明い接写2回り ーゆく. ゴ. こ ■. ーー. 〔譜例4〕. 拍鼻確ノブ. 一可}ポヲ刃 Jl粥り豆乙璃 きちか1‥、あリ. 釈ぬヽ」;ぅん−ん一1ん一 ろ. ⇒ つごヽもノ. 〔譜例5〕. 飽ねん抽、をへ_. か み号よをペー. 聖惣た___カ、 」鎧根 にあけてノj\uの. めぐちす 【. 41.

(7) 尾 藤 弥 生 「表3」 謡曲学習後アンケートのまとめ. 5 今回の学習であなたが分かったこと 今回の学習であなたが分かったこと. 質 問 能楽全般の特徴. 謡い方に色々な種類がある. 謡曲の声の出し方 地声で丹田に力を入れて太い声で,時にこぶしを入れたりして声を出す。 謡い方のリズム,テ ただ一定のリズムで強弱,高低をつける所もあれば,点の数でコトバの長さが変わったり, ンポ. −が付いているとこう歌うとか,リズミカルな所もあると知った。. 謡い方の音程の取り ウ,ヲ,上,中,下,で音程を変えること,西洋音楽ではこの音!という絶対的なものが 方. あるけど,能楽では,気持ち高め,低め,ちょっと低め,のようなフィーリングに近いも のがある。. 声色,音色. 表情の付け方. 「うた」というより,語りに近い謡い方だと思った。低めの声が多いから。. 昔の変化がない中で,変化するところが強調したい所と知った。でも,西洋音楽もそうだ なと思った。ちょっとした昔の長さで,表現することを知った。. 「表4」 毎回の学習記録 感想・学習して分かったこと. 回数. ロ 今は棒読みになってしまうけど,もっと慣れて,かっこよく謡えるようになりたい。フシが色々あって覚 えたらもっと謡い易くなると思ったので,覚えたい。. 2 音楽史で西洋の歴史や雑学を勉強し,この授業でR本の歴史を勉強できるから,とてもおもしろい。舞踊 や体の使い方も日本と西洋の違いが分かっておもしろい。もっと日本のことを知りたい。 3 今まで唆昧だったことがだんだん分かってきたのがうれしかった。「か」を「くわ」とか「な」を「ぬあ」 とか少しずつそれらしく謡えるようになりたい。自信たっぷりに歌うことに照れている自分がいたので, その照れを次回克服したい。 4. 5 今日は歌舞伎と狂言と能の違いや歴史など,今まで曖昧だったことが分かってうれしかった。強吟ばかり 練習していたので,なんとなく慣れてきておもしろかった。もっと物語の内容を知ろうと思う。 6. この間は一セイを沢山練習して,今回は次第を集中練習した。まだ慣れないので難しかった。一番最初に 土蜘昧を通してやったのが,難しかったので,ぱっぱと思い出せるようにしたい。. 42.

(8) 教員養成における「謡曲」の学習方法に関する一考察. 7. この間より次第に慣れてきた。今日は羽衣をやって,3種類の話し方をした。いつもは何がなんだか分か らないまま読んでいたが,だんだん分かってきたのでおもしろかった。ストーリーは始めに話してもらえ たので,理解しながら読むことができた。. 8. この授業を通して,今まで暖昧だった邦楽について,沢山のことを勉強することができた。本を読んでも よく分からないことがあって,全体像が把握できていなかったが,授業で直接質問できるので,能と歌舞 伎と狂言の関係とか歴史とか分かってきたので,うれしい。この間ラジオで謡曲が流れていて,ずっと身 近に感じることができたし,意味も分かってきたし,おもしろかった。これからも少しずつTVなどでも いいから,勉強を進めたいと思う。. 4.調査結果の考察. 4−1 「−セイ」の基礎技術の習得状況の考察 「譜例2」の通り,音声記録を視覚化するため図形楽譜で示して謡い方を調査することとした。. 「譜例2」の1回目を調査すると,1行目は正確に謡えているが,2行目以降,□ の部分が間違ったフ シまわしになっていた。具体的には,2行目「よ㊨とも」の「わ」や4行目「㊨かれば」の「か」で,「クル」 「入る」のついている文字の前の文字にフシをつけていた。また,5行目「こ㊤ろ」の「こ」の所で,「こ」. の文字を謡い始めた後に,音程や気の入れ方を変化させるべきであるところを,謡い始めから変化をつけて いた。さらに,3行目「く⑥きりの」「も」の文字の所では,「も」の文字を謡った後もう一度その「も」の 母音を言い直す,つまり「生み字」を入れるべきところで「生み字」が入っていなかった。 この他,3,4回目の学習時に,学習者に作成させた図形楽譜を調査すると,「譜例4」の「つるも」の「つ る」の所や「譜例5」の「雪を廻らす」の「ゆき」の所で,「クル」「入る」のフシの前後を含めたフシの付 け方に間違いがあった。 これらのことから,「クル」「入る」「生み字」のフシの付け方を習得することが難しいことが分かる。. 音声記録の1回目と比較して,2回目では,基礎技術に当るフシ付けは正確に謡えており,基礎技術を習 得できていることが分かる。. 4−2 「次第」の基礎技術の習得状況の考察 「譜例3」の通り,音声記録を視覚化するため図形楽譜で示して謡い方を調査することとした。弱吟は音 程変化が上音,中音,下音と確定しているので,図形楽譜にも三本線を入れその区別をはっきりさせた。. 「譜例3」の1回目の音声記録をみると,「浮き立つ」と「雲の行方」の所の○印のついている所の音程 変化と生み字のフシ付けが間違っていた。具体的には,「ウキ」「ハル」「まわし」の複雑なフシ付けが間違っ ていた。しかし,3回目の学習で初めて次第の図形楽譜を学習者に作成させたが,この時には,ほぼ正確な 図形楽譜を作成することができた。その後,6,7回目に様々な曲目の次第を,図形楽譜で記譜させたが, この時もほぼ正確な楽譜作成ができた。そして,最後の2回目の音声記録を調査しても正確に基礎技術を習 得して謡っていた。. これらのことから,次第のような謡い方のパターン(弱吟の拍子合)は学習し易いことが分かった。. 4−3 基礎技術の習得における図形楽譜を取り入れた学習効果の考察 本実践では,始めに一回わかりにくくても,元譜の謡本をみて指導者と一緒に謡い,その次にそれを図形 楽譜化した楽譜を見て謡う練習をする。このように学習した結果,「表3」の「謡曲学習後のアンケートの まとめ」によると,「初心者は元譜の謡本より図形楽譜の方が謡い易い」と述べている。実践の結果,図形. 43.

(9) 尾 藤 弥 生. 楽譜だとすぐ謡えるようになるので,短時間での学習には有効であると言える。 次に,図形楽譜を見て謡えるようになった所で,元譜の謡本の胡麻点の見方(謡い方)を説明し,謡本に 慣れていくようにした。その次に,楽譜の見方が分かった所で,違う曲目の同じ強吟の一セイの部分の,自 分用の図形楽譜(譜例4,5)を作成することを行った。その結果,以前学習した図形楽譜の書き方や胡麻 点の表現方法のルールをゆっくり思い出しながら,図形楽譜を作成することができた。そして,その楽譜を 謡わせ間違っている所を指摘し,書き直して再度練習するという学習過程を取った。これにより,どこが違っ. ていたかが,学習者に視覚的にわかりすぐ理解して正すことができた。 これら4−1,2,3,の考察から図形楽譜がフシの謡い方に当る基礎技術の習得上有効であったことが 分かる。さらに,図形楽譜の活用が短時間での謡い方の理解に有効であることも明らかになった。. 4−4 表現技術の価値に関わる日本の音楽の特徴の理解についての考察 学習の最後に行った,「表3」の「謡曲学習後のアンケートのまとめ」の記述調査においても,謡曲の特 徴および日本の音楽の特徴を理解した結果が得られた。声の出し方については「丹田に力を入れて太い声で, 時にこぶしを入れて声を出す」と,記述し基本的な声の出し方を理解できていることが分かる。リズムやテ ンポについては「一定のリズムで強弱,高低をつける所もあれば,胡麻点の数でコトバの長さが変わったり する」と拍子合と拍子不合や胡麻点の謡い方を理解できていることが分かる。音程の取り方については「西 洋音楽ではこの音程という絶対的なものがあるが,能楽では気持ち高め,低め,ちょっと低め,のようなフィー. リングに近いものがある」と,絶対音ではなく相対音であること,自分の音域に合わせて調整できることを 理解できていることが分かる。これは日本の音楽の特徴のひとつでもある。また,声色や音色,表情の付け 方については「語りに近い謡い方。音の変化が少ない中で変化する所が強調したい所と知った」と,物語の 内容や登場人物の心情を伝えることが大切だと言う特徴に気付くことができていることが分かる。 これらのことから,謡曲の謡い方の特徴,日本の音楽の特徴にも気付くことができたことが分かる。. 4−5 謡曲への興味・関心の変化についての考察 「表4」の. 「毎回の学習記録」の記述を考察すると,学習の1回目では,「フシが色々あって覚えたらもっ. と謡い易くなるので,覚えたい」と意欲はあっても,何をどう学習するか,真似るべきか具体的でなかった が,3回目には「「か」を「くわ」とか「な」を「ぬあ」とか少しずつそれらしく謡えるようになりたい」 と何をどのように真似るとそれらしく聞こえるかを具体的に理解できるようになってきたので,学習方法が 分かり関心も深まってきていると言える。また,学習の最後には「ラジオで謡曲が流れていて,ずっと身近 に感じることができたし,おもしろかった。これからも少しずつTVなどでもいいから勉強を進めたい」 と興味の高まりと学習継続への意欲が示されている。. そして,「表3」の調査の中で「子どもたちに日本独自のずっしりした感じ,力強い感じを伝えたい」と 指導者としての意欲的感想を述べている。. これらのことから,興味・関心が深まっていることが分かる。. 5 研究成果 実践を考察した結果,大きく次の3点が明らかになった。. ① 本実践のように,体験学習を通して学習することで,初めてH会うジャンルの音楽に対する関心・意欲 が高まることが分かった。. 44.

(10) 教員養成における「謡曲」の学習方法に関する一考察. ② 基礎技術の習得に関しては,元譜の謡本を見て謡うだけでなく,「譜例2,3,」のような視覚的図形楽 譜を使用することで謡い方の音の長さや音程変化がわかりやすく,基礎的技術が短時間で習得できること が明らかになった。特に,学習の始めの段階で図形楽譜が有効な手段であることも明らかになった。 また,「クル」「入る」「生み字」「廻し」などの節の付け方の学習に重点をおいて指導することの必要性も 明らかになった。 ③ 表現技術の価値に関しては,リズム感や気の入れ方,拍子合と拍子不合の違いや音程が相対的であるこ と,心情を伝えることが大切であることなど,日本の音の特徴に関わる謡曲の特性への理解が深まること が明らかになった。 注 (1)謡曲における基礎技術とは,節を正しく謡うこと。つまり,音の高低(節),音の時間的長短(間)を間違いなく謡うこと。 (2)謡曲における表現技術とは,節や間の上に感情を盛って,曲趣や文章の情感を表現する技術のことであり,調子,速度な. どの技術的要素を含む。この表現力が加わって初めて謡いが芸術として成立する。 (3)金沢市中学校教育研究会音楽部会 鑑賞研究グループ(2004)『音楽教育研究報告 能の音楽の教材化』第23号 財団法 人 音楽鑑賞振興会 (4)木暮朋任(1999)「/ト学校における身体表現を伴う「つくる」活動」『学校音楽教育研究』Vol.3 pp.37−40 (5)『月刊「観世」』(2004)「西陣中央小学校 みんなで楽しむ能の世界」12月号 p.62 (6)諏訪裕子(2005)「能楽磯子を体験しよう∼伝続芸能の魅力を子どもたちに伝える∼」『“和楽器”活用の音楽教育』第3. 集 NPO邦楽教育振興会 pp.33−37 (7)山内雅子(2003)「第3章 実践研究 第4節 第6学年の実践の実際」『日本の伝続的な歌の指導法の研究』東京学芸大 学大学院 修士論文 pp.84−94 (8)尾藤弥生(2006)「日本の伝統音楽「声」に関する実技学習の効果についての研究」北海道教育大学紀要(教育科学編). 第57巻第1号 pp.313−326 (9)日本芸能実演家団体協議会が実施した,「能楽モデルによる授業」(渡遵泰祐「オリジナルの俳句で謡とお磯子にトライ!」, 緒形まゆみ「合唱活動から能楽へと導いた試み」,喜多伸了一「「魔王」を題材に∼能の演劇性の体験授業∼」,平口純逸「能 の謡と小鼓に挑戦」)(2006)『実演家が学校にやってきた』社団邦人日本芸能実演家団体協議会pp.26−53 (1¢)(8)に同じ. 参考文献 ・三宅=一(2001)『拍子精解』槍書店 ・三宅=一(2001)『謡稽古の基本知識』槍書店 ・河合宏一(2003)『謡曲 あじわいと愉しみを求めて』. (岩見沢校准教授). 45.

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