京都府宮津地域に分布する花崗岩類の地球化学的研
究
著者
清水 和冬
2019 年度 修士論文要旨
京都府宮津地域に分布する花崗岩類の地球化学的研究
関西学院大学大学院理工学研究科 環境・応用化学専攻 壷井研究室 清水 和冬 花崗岩は大陸地殻を構成する主要な岩石であり,その成因を解析することは大陸地殻の 形成過程の解明にとって重要である。山陰地方に分布する花崗岩の多くは古第三紀に形成 され,磁鉄鉱を多く含むことを特徴として山陰帯として区分されている1)。京都府宮津地 域には白亜紀―古第三紀に形成された宮津花崗岩とその南部に雲原花崗岩が分布する。宮 津花崗岩は直径約30 km のバソリスをなす,粗粒角閃石黒雲母花崗岩である。バソリスは 複数のマグマ活動によって形成される場合があり,化学組成や同位体を用いた年代測定に より成因検討が行われている。宮津花崗岩においては,K—Ar 黒雲母年代として 55—68 Ma2), 64.8 ± 1.5 Ma および 67.2 ± 1.5 Ma3)がそれぞれ報告されている。また,Rb—Sr 全岩—鉱物アイ ソクロン年代および87Sr/86Sr 同位体比初生値(SrI)は 60.4 ± 0.9 Ma (SrI = 0.70769)および 61.9 ± 0.9 Ma (SrI = 0.70725)が報告されている4)。Rb—Sr 全岩—鉱物アイソクロン年代は約 60 Ma のほぼ一致した値を示すが,SrIが異なっていることや,K—Ar黒雲母年代において55—68 Ma の大きな年代幅があることから,宮津花崗岩は複数のマグマ活動によって形成された可能 性が示唆されている4)。雲原花崗岩は宮津花崗岩と比較すると小規模な岩体で,優白質の 中粒黒雲母花崗岩である。雲原花崗岩に関して放射年代や化学組成の報告はなされておら ず,宮津花崗岩との関係は不明である。また,宮津地域に分布する花崗岩類は多くの場合, 表層の風化が著しい。そこで本研究では,風化に対して移動しにくい元素であり,その存 在度パターンからマグマの成因について検討が可能である希土類元素(rare earth element ; REE)に着目し,REE を含む全岩化学組成分析より,宮津地域に分布する花崗岩類の成因解 析を目的とした。 主成分・微量成分元素は溶融ガラスビード法で波長分散型蛍光X 線分析装置を用いて測 定した。REE は蛍光 X 線分析で使用したガラスビードを酸分解した後,陽イオン交換樹脂 を用いたカラム分離によりREE を単離し誘導結合プラズマ質量分析装置を用いて測定し た。 雲原花崗岩のSiO2量は60.62—67.87 wt.%,宮津花崗岩の SiO2量は69.20—76.76 wt.%を示した。主成分元素において,両花崗岩でSiO2量の増加に対してTiO2,Al2O3,Fe2O3,MnO,
MgO,CaO,Na2O,P2O5は減少し,K2O は増加する傾向を示した。主成分元素のハーカー
図上で,雲原花崗岩と宮津花崗岩は多くの元素で一つの傾向を示した。一方,Na2O は雲原
花崗岩と宮津花崗岩で異なる傾向を示し,これは曹長石がそれぞれ異なる結晶分化作用を したためと考えられる。微量成分元素のハーカー図上では,多くの元素で分散が大きく明
瞭な傾向は示さなかった。また,宮津花崗岩はV,Cr,Cu をほとんど含まないのに対し, 雲原花崗岩はそれらの元素を含むものが多い。アルミナ飽和度から宮津地域の花崗岩はI タイプ花崗岩に分類される。REE パターンは,全てのサンプルで軽希土類元素(LREE)に富 み,重希土類元素(HREE)がややフラットな右下がりの傾向を示した。雲原花崗岩は正と負 のEu 異常を示し,REE の含有量が増加するにしたがって正から負の Eu 異常に連続的に変 化する傾向を示した((La/Yb)N = 4.84—11.54)。宮津花崗岩はほとんどの試料で負の Eu 異常を
示し,岩体内で大きなREE パターンのばらつきを示した((La/Yb)N = 4.06—27.61)。Sr/Y と Y
含有量の関係において,雲原花崗岩と宮津花崗岩の北部はSr/Y がやや高い特徴を示した。 La/Yb 比と Yb 含有量の関係において,宮津地域の花崗岩は島弧火山活動によって形成し た花崗岩の特徴を示した5)。その中でも,宮津花崗岩の北部は,高いLa/Yb 比と低い Yb 含有量を示した。宮津地域に分布する花崗岩において,雲原花崗岩と宮津花崗岩の一部に 高La/Yb 質・低 Yb 質,高 Sr/Y 質・低 Y 質のフェルシックな花崗岩が分布する。宮津花崗 岩の形成については東部においてK—Ar 黒雲母年代として周縁部で 64.8 ± 1.5 Ma,中心部 で67.2 ± 1.5 Ma が報告され,SiO2量が岩体周縁部から中心部に向かうにつれ増加している ことからも,累帯深成岩体である可能性が高い3)。La/Yb 比は周縁部で 4.82—9.91,中心部 で15.27 である。マグマの分化が進むほど La/Yb 比が高くなることから,周縁部から中心
部に分化が進んだ累帯深成岩体であると支持できる。La/Yb 比と LILE (large ion lithophile
element)含有量の関係についてみると,雲原花崗岩の Ba と Sr 含有量は La/Yb 比の増加に
伴い,減少する傾向を示している。LILE は風化や変質などによって移動しやすく,特に K
とBa はフェルシックなマグマから角閃石,黒雲母,カリ長石が晶出するときには適合元
素としての性質をもつ。また,LILE の中でも風化,変質などの二次的作用を受けにくい特
徴をもつTh は,他の LILE ほど含有量が多くない。このことも,La/Yb 比と LILE の含有
量の関係が風化や変質によるものであることを示唆している。La/Yb 比と,風化や変質に
よって移動しにくいとされているHFSE (high field strength element)の関係より,Zr と TiO2
の含有量とLa/Yb 比が正相関しており,異なる 2 つの傾向を示した。特に宮津花崗岩の北 部はLa/Yb 比と HFSE 含有量の傾向がはっきり異なっていることから,宮津花崗岩の形成 では岩体の北部とそれ以外で異なるマグマ活動が起こった可能性が考えられる。以上の結 果より,京都府宮津地域に分布する花崗岩類のREE を含む全岩化学組成の特徴も,宮津花 崗岩が少なくとも2 種類のマグマ活動によって形成された可能性を支持し,雲原花崗岩と 宮津花崗岩も異なるマグマ活動で形成されたと考えられる。 1) Ishihara, S., Jour. Geol. Soc. Japan, 1971, 77, 441-452.
2)河野義礼, 植田良夫, 岩石鉱物鉱床学会誌, 1966, 56, 38-48. 3)西垣貴史, 関西学院大学大学院理工学研究科修士論文, 2010. 4) Terakado, Y. and Nohda, N., Chemical Geology, 1993, 109, 69-87. 5) Martin, H., Geology, 1986, 14, 753-756.