福祉情報ネットワークによる地域支援 : 熊本バリ
アフリーマップ作成から
著者
守弘 仁志
雑誌名
社会関係研究
巻
8
号
1
ページ
83-108
発行年
2001-11-24
URL
http://id.nii.ac.jp/1113/00000538/
福祉情報ネットワークによる地域支援
熊本バリアフリーマップ作成から
守
弘
仁
志
はじめに 近年、社会の各方面での情報化傾向は著しい。「IT(情報技術)」の充実は 現代の日本における政治的な目標にまでに掲げられるようになった。この傾 向は、産業界における情報化のみならず、社会生活の各方面での情報化傾向 をも意味するようになってきた。そしてそれは1980年代の全体社会において、 産業 野においての情報化傾向を経て、1990年代には地域社会において(「地 域情報化」という用語が用いられる)、また生活 野の情報化傾向が指摘され るようになった( 津、1997、53-61)。また、阪神淡路大震災に関する援助 活動としてインターネット情報が一定の役割を果たしたことも知られている (田中、1996)。突発的な災害はともかく、情報ネットワークによる情報提供、 あるいは情報 換などはどのような形で地域社会の支援になるのであろう か。 本稿においては、このような地域に、そして生活に関わるようになった情 報ネットワークが実際にどのような支援の可能性を持つのか、ということを 検討してみたい。本稿は、前半部において、社会生活、地域生活における情 報ネットワークの有用性と問題点を検討する。そしてさらに、後半部では地 域社会における情報ネットワークの可能性を実際的に探るため、情報ネット ワーク上での地域情報の提供システム(具体的には身体障害者用のトイレ マップのインターネット地図上での情報提供)を作成した試みを紹介し、そ の作成、および実際的運用の中からも、地域社会での情報支援がいかに可能 かに関する知見を提示してみたい。1. 情報ネットワークとしての地域社会 近年においてコンピュタリゼーション(コンピュータ化)の影響からの社 会的変化は急速なものである。それは経済的・産業的側面において多くの変 化を引き起こしたが、ひいては社会生活、地域生活といった個人の生活の側 面にも大きな影響を及ぼし、またさらに及ぼしつつある。特に、対人関係を つないでゆく「ネットワーキング」において、その道具としてコンピュータ 情報を通信回線で結ぶ「電子ネットワーキング」が適合していることから、 地域社会が情報ネットワーキングの側面も持ち得るものへと変化してゆく可 能性がある。以下においてはその幾つかの側面を述べてみたい。 ⑴ 情報縁」の形成 複数のコンピュターが通信回線を 用して繫がり、ネットワークを形成す ると、そこでネットワーキングは地域的近接性の制限から開放された。「電子 ネットワーキングのメディア特性が自由な集団形成を許容する(池田1997、 p10)」ことになり、近接性を基礎とするによる直接的面接をその成立条件と していた人間関係の「縁」に変化が生じてきた。ここで生じた電子ネットワー キングによる人間関係は、地域的近接性ではなく関心の近接性における「情 報縁」である。かつては、地域的近接性による面接が集団形成の大きな基礎 であり、「縁」の生じる根本であった。しかしながら、電子ネットワーキング はたとえ地域的に遠隔であろうとも、関心を共有する一連の人々を結びつけ る機能を果たすことになった。個人の日常的な行動が可能な地域社会の中に、 自らと同じ特殊な関心を共有する他人が存在しない場合でも、電子ネット ワークはそれらを結びつけ、物理的近接性という制限のない集団を形成させ る。 G・ガンパートは地域にこだわらないこのような集団形成をある種の地域 社会であるとして「地図にない地域社会」「関心のコミュニティ」(G・ガン パート、1990、p232-265)と呼んだ。「関心のコミュニティ」は、たとえ遠く であっても「関心を共有する」と言う契機が存在すれば電子ネットワークで
意志や言葉のやりとりが出来るものである。 ⑵ 人間関係の広がりの可能性と実際 個人の知人のネットワークはどのように形成され、どのくらいのネット ワークの構成人数が可能なのだろうか。同じく池田によると、個人の「知人」 に類する人はほぼ100人から500人の範囲であるという。同様に、純粋に数字 の上で計算する上では「友達の友達」が重なる範囲は36%あるが、そこで到 達する範囲は15万人にも及ぶという(池田、同、p10-11)。個人は理想型とし ては多くの知人を得る可能性をもっている。このように人間関係は広範に広 がる可能性(可能性としては)をもっているが、実際の個人においてはその 広範さがあるのだろうか。我々の知り得る人間関係、それは地理的近接性と 面接を大きな条件としているのだが、実際にはそのような条件の中でも人間 関係は十 に広がらない可能性をもっている。それは池田があげる「日常生 活の狭さ」と「世間の狭さ」(いずれも池田、同、p12)という条件である。 単一の地域にも拘束されず、生活の場と職業の場という異なった人間関係 を構築可能な現代人にとって、個人の日常的な人間関係は広域化した現代社 会の中で広く開かれ、多様な他の個人に接触する機会が数多く存在するかの ように見える。 しかしながら、一見多くの人間関係の可能性が開かれた現代社会の中にも、 多くの社会的な障壁が存在している。これにはもちろん「あまりに遠隔であ る」という物理的・地理的な障壁もあるが、むしろここで検討すべきなのは さまざまな社会的な差異の障壁であり、逆に社会的な障壁の内部の近接性の 中で多くの人間関係が構築されている。そこには個人の諸所属地域を共にす る地縁(たとえば県や市という行政区 は、同一の構成員に対して共属意識 を持たせやすいが、その中で個人が持ち得る人間関係は近隣、あるいはその 内部の諸集団の中の人間関係程度であるのが通常で、行政区 全体にまんべ んなく人間関係が広がっている個人は極めて少ないと思われる)、家族や親戚 など血縁から、同級生や同窓生という学 縁、同じ企業に所属するという社
縁、より広くは性や年齢(社会的な条件により、同性や年代の近い者が社会 関係を構築しやすい傾向)が存在すると えられる。 ⑶ 新たな連携手段による人間関係 このようにみてくると、現代社会においても、現代人は可能性として狭隘 な地域拘束性から免れていながら、多様な他人との間に広範な人間関係を築 くことができず、同質的な人間関係を築いている傾向があると思われる。個 人の日常生活の世界を、狭い意味でとらえるならば、やはり、身近な人々と の間で構成されるものになるであろう。逆に言えば、現代社会において広範 な人間関係が広がる可能性があるにもかかわらず、生活世界の狭隘さの中に 人間関係が封じられている可能性もある。地域社会の観点からこの問題を 慮してみると同じ地域に住んでいるにもかかわらず、さまざまな社会的障壁 を越えて人間関係が広がらない可能性があることがあげられよう。例えば地 域社会において、ある問題状況の中では、対人的連携による援助行動が充 に行われなかったが、その理由は、その地域にはその援助行動に適した住民 が存在しなかったからではなく、実際にはその援助行動に適した住民が存在 するにもかかわらず、対人的ネットワークがその問題状況を構成する人々の 性、年齢などの社会的帰属の枠を越えられなかったため、ということがあり 得る。もちろん地域社会の中で対人的ネットワークがその機能を果たすこと はしばしばあり得るが、さらに大きな対人的繫がりの可能性を感じつつ、実 際にはその手段がないという感覚があるのではなかと思われる。このように、 現代の地域社会の中の個人は「可能性としての広範な人間関係」と「実態と しての狭隘な人間関係」の中にある。 ここで、地域社会において新たな援助行動を 出するという観点から え た場合、「可能性としての広範な人間関係」のなかに新たなネットワーキング の可能性が見いだせるのではないだろうか。何らかのネットワーキングの手 段を用いて性、年齢などの社会的帰属である「実態としての狭隘な人間関係」 を越えた「可能性としての広範な人間関係」の 出ができないかということ
である。同質的ではない、むしろ社会的帰属の異質な人々からなる、広範な ネットワークによる援助行動が必要となるのではないだろうか。 2. 地域生活における電子ネットワークの福祉的活用 ⑴ 電子ネットワークへの注目 先節まで述べたように、現代では所属地域の多重化と多様によって、多く の対人ネットワークを築ける可能性を潜在させているにもかかわらず、実際 の地域社会における面接による実体的な人間関係は、社会的な障壁によって 広がり得る可能性が大きくならない傾向にあることが示された。このような 障壁をどのような方法によって取り除くかが、これからのコミュニティ・ ヒューマン・ネットワーク(地域社会における対人的ネットワーク)にとっ て大きな問題となるのではないだろうか。 本論文では、先に述べたように、このようなコミュニティ・ヒューマン・ ネットワークにとって、社会的な障壁を減少させる方法として、コンピュー タの情報ネットワークなどの電子ネットワークをあげて検討してみたい。 いわゆるインターネットが一般市民の利用に供されるようになったのは、 少なくとも1990年代後半以降である。市民生活の中にいわゆるパソコンが 入ってきたのはほぼ1980年以降のことで、1980年代後半から90年代前半にか けてはいわゆる「パソコン通信」として文字情報を主とした情報がネット上 を流通した。このパソコン通信はパーソナル・コンピュータ同士が通信回線 で繫がれることによって、手紙と同じように「メール」のやりとりができる、 電話や手紙と同じ「個人対個人」のパーソナル・メディア・コミュニケーショ ンを可能にしただけでなく、①あたかも「会議室」で討論するように3人以 上の者が同時に文字情報を 換しあう「チャット」や、②一人一人が参加者 に情報を提示し、それに対して他の者がさらにそれに付加する情報や反対意 見を提示し、それが記録される「掲示板」や「フォーラム」、③複数の者に対 して同時に同一のメッセージを送付する「メーリング・リスト」のよるメー ル送付など、従来の個人の一対一のコミュニケーションをその特徴とする
パーソナル・コミュニケーションと、一つの組織が多くの者に同時にメッセー ジを送付するマス・コミュニケーションという伝統的なコミュニケーション 二 法に大きな変化を与えるものになった。このような特徴は、①チャット であれば同時にメッセージが 換できるのみでなく、その会話内容は原則的 には一時的なものであり残存しないことを前提に行われているので、面接で 言葉を わすような感覚のコミュニケーションができる。②掲示板は、その 用法により情報の 新修正が容易である。掲示板にある情報が掲示されて も、それに対して掲示板掲示者以外の者が情報の補足や修正の掲示を行うこ とができる。最初の掲示板の情報では不十 な情報に対して詳細な情報を付 加することが出来、またさらに最初の情報掲載者がそれに応じて最初の掲示 を新たな掲示に書き換えることも出来る。また論争を含んだ情報提示におい ては論者双方の論点が掲示される。しかも掲示を読む者は、必要に応じて過 去に って論点を参照することが出来る。③メーリングでは受け手を指定す ることによって関心のある限られた者のみへの情報の提示も可能になる。ま た、指定する受け手の数によってはマス・コミュニケーションに近い機能を 持つことが出来る…などがあげられる。 ⑵ 電子ネットワーキングの時間的特徴 このような特徴を持つ電子メールの情報提示に共通の大きな点として、時 間の問題があげられるだろう。マス・コミュニケーション、なかでも出版物 は情報を発信してから受け手が受信するまでに時間的なラグ(遅 )がある。 そしてさらに、それに対する受け手の反応はさらに時間的に遅れる。これに 対して放送は、同時放送の同報性という放送の大きな特徴を生かし、その情 報発信から受け手の受信までにはタイムラグはほとんど存在しない。しかし ながら、放送が受け手に受信されてからそれが受け手から送り手への反応に 結びつくには、その手段が保証されていないという問題がある。したがって、 送り手からの情報提示に対して、送り手以外のその情報を詳細に知る者がい ても、その補足・修正は原則的には即時には不可能である。これに対して、
電子メールは同報性が保証されていると同時に、受け手から送り手への反応 のメッセージも同報性がある。送り手の発信した情報に対して、それに対す る受け手の補足、修正が即時に行われるという特徴を持つ。 さらに、インターネットでは文字情報のみではなく、図表、画像データな ども送付可能であり、表現手段がさらに広がる。また、パソコン通信の持つ 特徴も持っているため、マス・コミュニケーションでもパーソナルコミュニ ケーションでもない新たなコミュニケーション手段、メディアとなり得る。 ⑶ 電子ネットワーキングの匿名性 一方電子メールやインターネットの持つ特徴として、コミュニケーション の当時者同士の「顔が見えない」ことがあげられる。このことは、広く言わ れるように面接のコミュニケーションと異なり、比較的コミュニケーション の相手を判断する材料が少ないことを意味する。従って、電子コミュニケー ションの持つ問題点となるのがコミュニケーションの相手の属性などについ て何の保証もない、仮想空間上での関係であるということである。仮想空間 上では職業などの業績的属性のみでなく性、年齢などの生得的属性ですら偽 ることが可能である。「相手の属性(性・年齢など)がわからない」つまり「顔 が見えない」ことに対する不安がインターネットから人々を遠ざける大きな 要因になっていることは多く言及される。 しかしながら、このような点を逆に特長として解釈するなら、職業、年齢、 性、居住地、国籍を 慮しない、つまり人間関係を作り上げる際に大きな条 件となる社会的な障壁を意識しない、属性に左右されない自由な人間関係を 構築できる可能性を持つことが可能である。 もちろん、電子コミュニケーションは、即時の情報発信と即時の応答が可 能なので、その 用法によっては、他方で社会的障壁の中の人間関係に関し て、職場や家 など「常に既存縁に縛られる」というの既存縁の強化の手段 にもなりえるが、新たな人間関係への手段ともなり得るという両義的なもの である。
このような電子コミュニケーションの手段を 用することによって、ある 特定の関心を持つ人々だけを電子ネットワークに集めることが出来る「関心 のコミュニケーション」のメディアとなる。それと同時にこの関心のコミュ ニケーションには社会的な障壁を意識しない多様な人々がネットワークで連 携することが可能になる。いわば一つの関心の共有で社会的なバリアが取り 除かれることになる。 3. 生活における福祉 野の情報化動向 本論文は、以上にあげた特徴をもとに新たなネットワークによる地域援助 手段として「電子ネットワーク」「情報ネットワーキング」に注目したい。 近年、福祉 野でも情報化の動向は注目され「福祉情報論」に関する論文 も出始めるようになった。例えば2000年度からの「介護保険」においてもツー ルとしてのコンピュータによる情報処理システムの存在によってそれが可能 になった側面があったことはよく指摘される。しかしながら、このような福 祉の実務的の情報処理ツールとしてのみでなく、市民生活の福祉一般に関す る情報源としてインターネットの情報ネットワークが利用され得る可能性を 持つのではないだろうか。以下において福祉 野でインターネットなどの電 子ネットワーキングがどのように利用され得るかを列挙した。 ⑴ 福祉」問題に関する 的な情報提示 これは「福祉」問題の情報源としてのインターネットの利用である。イン ターネットの多様なページは、いわゆるサーチエンジンによるキーワード検 索でも多数の情報が得られる。厚生省ホームページ(http://www.mhw.go. jp/)をはじめとして、官 庁の 式資料(統計等)、 式発表(ニュース・リ リース)等、社会福祉に関する情報は基本的に得ることが出来る。また統計 等はデータベースにもなっている。この他にも自治体のホームページはその サブカテゴリーの「福祉」項目を見ることによって、自 の居住する以外の 他地域・自治体では福祉問題に対し、どのように対応しているのかもわかる。
⑵ 福祉」問題に対する一般の情報掲示 福祉」問題の情報源としてのインターネットの利用は 的機関の情報開示 にとどまらない。多くの研究者の学説や各種団体の主張、福祉問題に対する 個人的立場からの提言など提示される情報は多数あり、多様である。これに 関してもサーチエンジンでの検索が可能であり、検索システムによって、ヒッ ト数はさまざまだである。ただし、官庁の 式資料のみでなく個人の論説ま で多様な情報が等価に提示されるという特徴があり、多重検索は可能である が、基本的にその用語との合致や近似で示される。従って、利用者の側から の重要度に応じては判断できないことになり、ここでは個人の情報判断力(ど の情報が検討に値するか、いわゆるメディア・リテラシー)が必要とされる。 ⑶ 福祉」問題に対する掲示板など会議室「フォーラム」としての機能 インターネット上では福祉問題を議論することも可能である。インター ネットメールのメーリングリスト(会員の問題に対する問題提起や発言が、 会員にメールとして配信される)に対して、他の会員がさらに議論するよう な形で、同じ部屋にいなくても「会議室」になる。また、ホームページ上の 掲示板」はメーリングリストに近いが、議論は会員のみでなくホームページ の閲覧者に 開されている場合が多い。会員外の発言(書き込み)による議 論が可能。部外者が「わからないこと」を聞けば教えてくれる可能性もある。 4. 熊本バリアフリーマップの制作 ⑴ マップ制作の概要 以上のような地域生活における電子情報ネットワークの福祉的利用を検討 してきた。このような検討をもとに、筆者を構成員とするグループは福祉情 報の実践的検討のために福祉情報の発信を試みた。本章では熊本学園大学平 成11年度の学内科学研究費の助成により地域電子情報ネットワークの実例と して身体障害者向け外出用マップの電子情報ネットワークによる供給をおこ なったケースを述べてみる。
本実践は共同研究者からのインターネット上で社会福祉に関する情報提供 プロジェクトとして身体障害者用トイレマップの作成をおこなった経過であ る。福祉目的で地域援助的な情報ネットワークとして先行試行するには、ど のようなコンテンツが一番適当かについて専門家や自治体の福祉関係者に聴 き取るなどして内部で検討した結果、「身体障害者、特に車いす 用者の外出 時のトイレ情報が求められている」という結論になった。そこでこのような 情報提供が宮崎県ではすでに行われているということで、先行研究を行って いる宮崎 立大学の金子正光教授からの聴き取り調査を行って教示を受けた (金子正光、 利則『福祉と情報(Ⅰ)―みやざきフラワーフェスタのタウ ンモビリティと宮崎県内の車いす用トイレマップのホームページ構築―』平 成11年3月、宮崎 立大学人文学部紀要、第6巻、第1号、pp.237∼254)。 ⑵ インターネット情報「宮崎バリアフリーマップ」の概要 以下は、宮崎の例から聴き取り調査により得られた知見をまとめたもので ある。 ①経緯 1991年に「宮崎市まちづくり協議会」は車いすで利用できるトイレの位置 とその構造のイラストを印刷物の形で手がけていた(「 91みやざき車いす といれマップ ―在宅福祉を支えるために―」宮崎福祉のまちづくり協議 会)。その後、94年に宮崎県からもマップが発行され、1998年には県内の民間 ボランティアチーム(「宮崎福祉情報ボランティア」)がスタートした。ここ で金子氏をはじめとするコンピュータの専門家が加わりインターネット情報 提供を手がけることになった。 同プロジェクトは先ず車いす利用者のためのトイレマップを先行させた が、同プロジェクトで車いす利用者に聴き取り調査を行ったところ「車いす で利用できるトイレがどこにあるか」という情報が先ず必要であることがわ かったという。これは、県内の福祉施設などでアンケート調査の結果を見て も「必要な情報」の3位までには必ず入っていることからも裏付けられた。
障害者が外出する場合には、トイレの情報というのは、 常者が えている よりも、まず一番に大きな問題だということであった。 ②手順 このようなマップを 表するまでには大きく けて三つの段階があること がわかった。 第一は「調査」、第二は「データまとめ」、第三は「情報発信」の各段階に けることができる。まず、第一の「調査」が最も手間と時間がかかる。こ れについては、トイレ内のさまざまな設備の有無、設備の実測値などをデー タとして掲載するデータシート状のものを開発し、これに調査結果を記載し、 共通に 用することによってデータが累積されてゆく。トイレの仕様のみで なく、そもそも身体障害者用トイレを備えている施設に入るのにスロープ等 はちゃんとついているかなどのことも見てゆく。また、実際に車いすの 用 者の意見は積極的にする。従って、マップの情報において設備の「容易に 用可」などの定義は、できるだけ障害者と 常者が二人で行って客観的にな るにようにするのがよい。細かなデータシートの書式を始めにきちんと作り、 これを継続的に 用すると第二の「データまとめ」の労力を省く。 第三の「発信」に関しては民間のサーバを うといくらかの実費が必要と なる。宮崎では宮崎 立大学のサーバを 用した。 ③維持運営の方向 宮崎 立大学と「まちづくり協議会」、そしてコンピュータ関連の民間の 人々、これらの三者の協力でマップが継続されることが望ましい。そのため には、大学でパソコン講習会などを広く行って、市民の中にパソコンボラン ティアになり得る人々を養成してゆくことも重要となる。そもそもパソコン を所持してはいるが、その い方を知らないためにあまり 用していない ユーザーは数多くいるものと思われた。講習会などを通じてパソコン 用の チャンスを広げることも、長期的にはこのような試みの継続の機会を広げる ことになるものと推定された。将来的にはボランティアからの情報提供をも とに協議会自身がデータの 新可能な体制とし、大学教員や学生がそれを
バックアップするという体制が好ましい。 ④将来構想 例えば、カーナビゲーションの業者がその情報に身体障害者用トイレ情報 を付け加えれば利用可能性の高い者となると えられ得る。実際に車いす利 用者が外出する計画を立てる際、目的地・経由地をマップ上で計画しただけ で、トイレの場所などがすぐにわかるドライブ・シミュレーションが将来的 には可能となると えられる。すぐには 新できない出版物と違い、書き換 えによって最新情報を供給できるコンピュータ・ネットワークの長所を生か した福祉関係の情報提供にはさまざまな可能性があり得る。 ⑶ 熊本におけるバリアフリーマップの作成 以上のような宮崎地区での先行研究の調査の結果、1999年夏より熊本バリ アフリーマップの作成を開始した。 ここで、インターネットのホームページとして情報を提供する以上、先ず はサーバを確保することが問題となるが、これについては、宮崎の例に倣い 熊本学園大学の同大学附属社会福祉研究所のホームページ内に設置すること (熊本学園大学のサーバを利用)こととした。 次に、バリアフリーマップの基盤となる地図を入力するという作業がある。 国土地理院の地図を 用申請し、調査データを一つ一つ入力する予定であっ た。しかし、県庁 康福祉部からの情報として、県障害者スポーツ・文化協 会が印刷物としてのバリアフリーマップ『車いすガイドマップ くまもとア クティブガイド』(Vol.1 1997年9月1日発行、Vol.2 1999年3月発行) を既出版済みということで、掲載情報のインターネットのホームページ情報 の基盤情報として転用を申し出て、 康福祉部および同協会から了承をうけ た。これによって、インターネット上に車いす利用のトイレマップの基礎情 報は表示可能になった。なお、情報は「acrobat」という図形表示ソフトを 用している。同ソフトは地図部 の拡大などの操作が可能であるが、同ソフ トを導入していないコンピュータでは閲覧ができない。従って、同ソフトを
備えていない 用者でも閲覧が可能なように(機能は若干制限される)選択 ボタンを設けた。 しかし、これだけでは単に車いすで 用可能なトイレ情報の表示にとどま る。このため、学生調査員を熊本市内10地区に区 して配置し、トイレを調 査させた。調査に当たっては写真撮影と略図の作成、設備等のコメントを課 した。調査結果は学生相互の検討により情報に共通性を持たせていった。調 査結果はホームページ上にリンクされ、地図上の施設のシンボルマーク、あ るいはリストの施設の項をクリックするとそのトイレの写真や構造図などが 表示されるようにした。この部 は、印刷物にはない本ページ独自の情報で ある。 ⑷ マップ制作操作の実際と操作面で得られた知見 ①操作 熊本学園大学附属社会福祉研究所ホームページ http://www.kumagaku.ac.jp/institute/sw/ 熊本バリアフリーマップ http://www.kumagaku.ac.jp/institute/sw/fukushi-map.htm 用法はまず、熊本学園大学の社会福祉研究所の「熊本バリアフリーマッ プ」(写真1)の項をクリックすると、「熊本アクティブガイド」(写真2)画 面になる。ここで、ソフトとして「アクロバット」が内蔵されているパソコ ンは右のアクロバット版の項目を、そうでない場合は左側の「e」のマーク をクリックする。なお、 用方法は「ご案内」(写真3)に示されている。ま た、 用されているさまざまなシンボルマークについては「マークの見方」 (写真4)に示されている。「インデックスマップ」(写真5)がバリアフリー マップである。これは熊本市だけは施設が多いため地区別の二重構造(写真 6、7)になっている。アクロバット版では地図の拡大(写真8)などがで きる。
②知見 実際にマップを制作して得られた知見としては、マップ自体が膨大な情報 量となり、機種、通信回線の状況によってはインデックスマップを表示させ るだけでも、かなりの時間を要することがわかった。HP 上のマップは随時 新が可能という点で、調査の進展の成果を情報追加、訂正ができるが、必要 な情報までの到達時間が問題となる。また、表示ソフトの「acrobat」につい ても全ての端末が備えているとは限らないという点がある(同ソフトによっ て作成されたドキュメントを読むためのソフトはインターネット上で無料ダ ウンロード可能ではある)。これについては、「Internet Explorer」があれば 閲覧可能なボタンを設けた。また、同様に通信状況によっては利用者は常に 情報回線を接続可能な状況にあるわけではない。この点については、CD-ROM 版を作成し必要に応じて配布することとした。 5. 地域支援としての電子情報ネットワーク 情報化によって、コンピュータなどの最新の情報機器を利用可能でそれに よって社会的地位を上昇させることが可能な「情報強者(富者)」と、さまざ まな社会的条件(障害も含まれる)によって情報機器を利用できず社会的地 位を上昇させる機会を持たない「情報弱者( 者)」が 化する可能性がある ことは、社会情報論における「情報格差論」あるいは近年の「デジタル・ディ バイド」で指摘されているところである。このような 化を解消する実際的 な方法が模索されており、本研究もその一端…つまり情報弱者となり得る 人々に対する情報保障策…に位置すると えている。 情報ネットワーク」と 地域(社会的)ネットワーク」の連携に関して、こ れまで、電子情報ネットワークを地域ネットワークに 用できる可能性とそ の実践について述べてきた。ここでさらに両者の共通点を述べるならば、情 報ネットワークも地域社会のネットワークと同じく「互助」という特徴を持 つことがあげられよう 金子郁容は「情報」は無限であり、限られてはいない。しかも、情報を独
占することからはその価値を生まれない、つまり、その情報を他社と共有す ることでその価値が生まれるということを示している(金子、1992)。従って、 情報はその原則としてネットワークを通じて本来的に 開されるべき性質の ものであることを説明する。このことは「情報提供者が情報を提供する」こ とで「それがネットワークの中で流れ」、「社会の中で情報が等しく行き渡る」、 その結果として「情報における“弱者(情報を共有できない、従ってその価 値を利用できない者)”が作られない」という「情報」というものの共有の特 徴をあらわしている。「情報」というものの持つ、受信を望む全ての者に開か れているという性質上、理想的にではあるがこのような可能性はありえる。 このような理想が実現するならば、電子ネットワークは一般地域住民の ネットワークとして機能するのみでなく「福祉」 野の支援資源としても広 く機能することが可能だと思われる。「福祉」 野において自治体などの福祉 野の者がその手続きを情報化することによってより効率的な福祉政策、実 務の遂行が可能になることは「福祉情報化論」として多く論じられてきてい る。しかしながら、それのみでなく生活者の側に立点した福祉の情報化に関 する方向性を論ずることも可能であろう。 例えば竹中ナミは「プロップ・ステーション」として、情報機器が障害者 の就労機会を与える可能性について、その促進運動を行っている。身体障害 者や視覚障害者、聴覚障害者がそれぞれの障害状況に合致した情報機器の入 室力機器を得ることによって、在宅で編集などの労働が可能になるという試 みである。竹中は障害者を「挑戦すべきことを与えられた人々」という意味 で「チャレンジド」と呼び、コンピュータ就労とインターネットによる労働 成果の伝達やコミュニケーション手段を結びつけることによって就労機会を 支援し、「障害者を納税者にする」ことを目標としている。プロップとは「両 脇で支える者(ラグビーのポジション)」の意味である。このような情報ネッ トワークの活用によって社会的条件から孤立を余儀なくされていた人々も、 ネットワークの中に参加可能になる。(竹中、1998) しかし、このような試みを実現させるためのいくつかの必要な条件がある。
まず、地域における情報ネットワークそのものの確立である。情報支援と いう地域における福祉の情報疎通の機能そのものに、ネットワークの確立は 欠かせないだろう。これは「情報共有」を主な要素とする機能であり、次の 二つの機能の土台とも言うべきものである。ただしこのためには、地域にお ける要支援者へのメディアリテラシー教育(情報を受け取り、理解し、操作 加工し、発信する能力を作るための教育)を行わなければならない。メディ アリテラシーは意図的教育によるものばかりでなく、新聞・放送などのマスメ ディアをはじめとする多くの情報に触れて行く中でも涵養されるが、具体的 には「パソコン教室」が典型的で、「ホームページ作成教室」「パソコントラ ブル援助者」なども必要に応じて開催することになろう。このように、地域 社会の中で情報ネットワークを通じて地域支援を行う方向としては、パソコ ン、インターネットを地域住民に教育する支援者が必要になる。 次に、実務的支援として福祉における具体的支援の「情報」面における道 具としての機能などの機能があり得ることが指摘できる。第三に、福祉 野 に関する意見形成支援として各種福祉問題の議論のフォーラムとしての機能 があり、これは問題解決のためのコミュニケーション機能である。また、さ らに以上の条件を可能にするため、情報ネットワーク自体の形成のための 様々な支援を行う、そして、その支援者を充当する機能、などのはたらきも えられる。 本ページの実践としては、入力基盤を作成することに多くの時間を割いて しまった。このため、第一の情報基盤の確立と、第三の具体的支援の操作の 入り口にまでしか達することが出来なかった。より具体的に、他組織とリン クして地域における情報・人的ネットワークを組んで広がりを持つ方向にま では至らなかった(情報リンクの申し込みはいくつかの組織からあったが)。 また、第二のフォーラムの構築は、全く手つかずで終わってしまった。だが、 地域における研究機関としての大学という位置づけを 慮すると、この他で も市民向けパソコン教室などこのような方向を充実させて行く方向は大いに あり得ると えられる。
本ページも、これからは学生などの授業の中でのレポートを通して、熊本 市以外の地域の情報の詳細化、あるいは施設自体、歩道などのバリアフリー の実地検証の掲載などの情報も追加掲載して行こうと企画している。 なお、本研究の成果を障害者に対してインターネットで表示するに当たっ て、その方法、および調査方法については国立特殊教育研究所(神奈川県横 須賀市)の研究者の方々から基本的な示唆を受けた。また、熊本に先んじて インターネット上での宮崎地区でのバリアフリーマップを実現させ、そのさ まざまなスキルをわれわれに教えていただいた宮崎 立大学の金子教授にも 謝意を表したい。
注
本研究は熊本学園大学平成11年度学内科学研究費「熊本バリアフリー マップ作成に関する研究(共同研究者:中山泰雄 元商学部教授、大山佳 三 経済学部講師)」による助成研究である。 本研究で作成した「熊本アクティブガイド」CD-ROM は版は若干の在庫 がある。入手を希望される研究・教育機関等は、熊本学園大学附属社会福 祉研究所(熊本市大江2-5-1、tel 096-364-5161 内線1753)までお問い 合わせください。参 文献
池田謙一「ネットワーキング・コミュニティ」1997年、東京大学出版会 大谷信介「現代都市住民のパーソナル・ネットワーク」1995年、ミネルヴァ 書房 佐野匡男・伊澤偉行「ケーブルテレビジョンの野望」1996年、電気通信協 会 竹中ナミ「プロップ・ステーションの挑戦」1998年、筑摩書房 G・ガンパート「メディアの時代」石丸正訳、1990年、新潮社出版 金子郁容「ボランティア―もう一つの情報社会―」1992年、岩波書店田崎篤郎、 津衛「社会情報論の展開」1997年、学文社
田中克己「震災とインターネット」1996年、NEC クリエイティブ 中山泰雄、河野俊弘、丹下篤嗣「重度肢体不自由者のためのコンピュータ