産 婦 人 科 領 域 感 染 症 に 対 す るOleandomycin静
注 の 効 果
高 田 道 夫 ・森 操 七 郎 ・萩 原 璋 恭
順天堂大学医学部産婦人科学教室(主 任:水 野重光教授)
(1967年6月13日
受付)
耐 性菌 の 出現 率 が ます ます 増 加 して きて い る現 況 で は,使 用 す る抗 生 物 質 の選 択 に 苦 慮 す る よ うな感 染 症 に遭 遇 す る 機 会 も多 く,こ の よ うな傾 向 は グ ラ ム陽 性 菌 に対 して強 い 抗 菌 力 が あ り,耐 性 ブ ドウ球 菌 感 染症 に対 して,第1選 択 薬 剤 と して使 用 され て い るOleandomycin(以 下OMと 略)に お い て も例外 で は な い。 した が つ て本 剤 に よ る 内 服治 療 のば あ い よ りも,よ り高 い 血 中濃 度 を維 持 す るだ け の 充 分 な量 を投 与 しな けれ ば な らな い必 要 性 に 迫 られ るば あ い もあ り,耐 性 ブ ドウ球 菌感 染症 で な くて も,症 状 の よ り急 速 な改 善 が望 まれ るば あ い も しば しば であ る。 こ の よ うな 目的 に か な う薬 剤 として,Oleandomycinの 静 注 薬(1バ イ アル 中 に 燐 酸 オ レア ン ドマ イ シ ン500mg 含 有)を 使 用 す る機 会 を 得 た の でそ の 成 績 を 報 告 す る。 実 験 成 績 I. 各 種 細 菌 のOMに 対 す る感 受 性 寒 天 平 板 稀 釈 法 に よ るグ ラ ム陽 性 菌 に対 す るOMの 抗菌 力 は,表1に 示 す よ うに,黄 色 ブ ドウ 球 菌,溶 血 レ ンサ 球 菌 と もに0.31mcg/ml,糞 便 レンサ 球 菌1.25mcg/ml,ジ フ テ リー菌2.5mcg/mlの 最 小 阻 止 濃 度 を 示 し,い ず れ も有 効 で あ つ たが,大 腸 菌,サ ル モ ネ ラ菌 属(チ フス菌)変 形 菌,緑 膿菌 は100mcg/ml以 上 で,こ れ らに対 して は 無 効 で あ つ た。 II. 体 液 中 濃 度 1. OM 500mg 1回 静 脈 注 射 時 の血 中 濃 度 食 間 空 腹 時 を 選 び,5%ブ ドウ糖20mlにOM 500 mgを 溶 解 し,緩 徐 に 静 脈 内に 投 与 し,以 後30分,1 時 間,2時 間,4時 間,6時 間 に採 血 してOMの 血 中 濃 度 を 測 定 した 。 測 定 に は,黄 色 ブ ドウ球 菌209 P株 を 試 験 菌 と して 使 用 し,鳥 居 ・川 上 の重 層 法 に よつ た 。 成 績 は 図1に 示 す よ うに,測 定 を開 始 した30分 値 が 最 も高 く,20mcg/mlを 示 し,以 後 急 速 に 減 少 して,1 時 間15mcg/ml,2時 間後 に は30分 値 の約1/2(11mcg/ ml),4時 間後 に は1/5(4.0mcg/ml)と な り,6時 間 値 は1.7mcg/1nlで あ つ た 。 この 血 中 濃 度 を500mg1回 経 口 投 与 時 の血 中 濃 度 (図2)と 比 較 す る と,ピ ー クに 達 す る時 間 も非 常 に 速 く,そ の 最 高 血 中 濃 度 は 約7倍 で あ り,6時 間 値 に お い て も,経 口投 与時 に ほ ぼ 等 しい 有 効 血 中 濃度 を 維 持 して い る。 2. OM 500mg点 滴 静 脈 注 射 時 の血 中濃 度 OM 500mgを5%ブ ドウ糖500mlに 溶 解 して 点滴 静 注 し,30分,1時 間,2時 間,4時 間,6時 間 に採 血 して,血 中 濃 度 を測 定 した 。 前 述 した5%ブ ドウ糖 に 溶 解 して 静脈 注 射す る方 法 は,実 験 上 やむ を えず 施 行 した も の で,点 滴 静脈 注 射 が 臨 床 上 用 い られ る方 法 で あ るの で,本 法 に よ る血 中濃 度 は 最 も重 要 で あ る。 そ の成 績 は,図3の よ うに経 口投 与 時 に 類 似 した 濃度 表1 Oleandomycin抗 菌 力 図1 血 中濃 度OM 500mg 1回 静 脈 内 投 与 (5%ブ ドウ糖20mlに 溶 解)MICHIO TAKATA,SOSHICHIRO MORI & AKIMITSU HAGIWARA:Effect of intravenous oleandomycin in the treatment of gynecological infections.
曲線 が み とめ られ,血 中 濃 度 は30分(60ml注 射 後)3.2mcg/ml,1 時 間(130ml注 射 後)6.0mcg/mlで あ り,2時 間(400ml注 射 後) で ピー クに 達 し,13.5mcg/mlと 経 口投 与2時 間 値 の 約4倍 の 値 を 示 し,以 後 急 速 に減 少 して,4時 間(500ml注 射 終 了時,即 ち注 射 開 始 後1時 間15分 後)6.6mcg/ml,6時 間 値 は1.7mcg/mlで あ つ た 。 3. OM 500mg 1回 静 脈 注 射 時 の乳 汁 中濃 度 OM 500mgを5%ブ ドウ糖20mlに 溶 解 して,緩 徐 に 静脈 内 に 投 与 し,乳 汁 中 濃 度 を測 定 し,血 中 濃度 も併 わ せ て 観 察 した 。 乳 汁 中 濃 度 は 図4の よ うに,30分 で既 に54mcg/mlと 非 常 に 高 く, 1時 間,2時 間 値 は ともに80mcg/mlと ピ ー クを 示 し,4時 間64mcg/ ml,6時 間 値 は46mcg/mlで あ つ た。 各 測 定 時 間 の血 中濃 度 は,30分 28mcg/ml,1時 間21mcg/ml,2時 間16mcg/ml,4時 間7.2mcg/ml, 6時 間2.0mcg/mlで あ り,乳 汁 中濃 度 が 血 中 濃 度 に比 較 して 非 常 に 高 い のは,測 定 時 間 中,哺 乳 を お こなわ な か つ た た め,OMか 乳 汁 中 に蓄 積 した も の と考 え られ る。 4. OM 500mg 1回 注 射 時 の臍 帯血,羊 水 中濃 度 妊 娠10カ 月,体 重57kgの に 産 婦OM 500mgを5%ブ ドウ糖20 mlに 溶 解 して静 注 し,45分 後 に羊 水 を 採 取 し,さ らに 分娩 時(注 射 後 55分)膀 帯 血,母 体血 を 採 取 して 各 濃 度 を 測 定 した 。 そ の さ い の 母 体 血 中 濃度 は,18mcg/mlで あ り,臍 帯 血 中 濃 度 は1.9mcg/mlと,母 体 血 中 濃度 の約1/10の 値 を示 した 。 また,羊 水 中 濃 度 は0.96mcg/mlで あ り,充 分 な有 効 濃度 を 得 るた め に は分 娩 数 時 間 前 に 本剤 を静 脈 内 投 与 す る必 要 の あ る こ とを知 り得 た 。 III. 臨 床 成 績 本剤 の静 脈 注射 を 必 要 とす る症 例 は,比 較 的 稀 で あ るた め,本 実 験 期 間 中 に遭 遇 した 感 染 症 例 か ら重 症 例 を 選 ん で 使 用 した。 1. 産 褥 乳腺 炎 す で に膿 瘍 を大 き く形 成 した産 褥 乳 腺 炎 に お い ては,切 開,排 膿 を必 要 と し,こ の操 作 を お こ な う ことに よつ て 急 速 な症 状 の 改 善 が み とめ ら れ るた め,使 用 した 抗 生 物 質 の真 の効 果 が 判 然 と しな い 傾 向 が あ る。 本 実験 期 間 中 に遭 遇 した 産 褥 乳腺 炎3例 の うち,症 例1は,ま だ膿 瘍 形 成 を み とめ な い初 期 の もの で あ り,症 例2,3は 膿 瘍 形 成 初 期 の もの で,い ず れ も試 験 穿 刺 に よつ て コア グ ラ ー ゼ陽 性黄 色 ブ ドウ球 菌 を証 明 して い る。 そ の治 療 成 績 は表2の とお りで,1回500mgか ら1,000mgを1日 2回,5%ブ ドウ糖500m1に 溶 解 し,点 滴 静脈 注射 した 結 果,投 与 量 4,000∼8,000mgで い ず れ も著 効 を示 し,局 所 所 見,白 血 球 数,体 温 と もに 改 善 され,切 開す る こ とな く治癒 し,乳 汁 分 泌 も障 碍 され な か つ た。 図2 血 中濃 度(6例 平 均) OM 500mg,1回 経 口投与 図3 血 中濃 度OM 500mg点 滴 静 注 (5%ブ ドウ糖500mlに 溶 解) 図4 血 中 な らび に 乳 汁 中 濃 度 OM 500mg 1回 静 脈 内投 与 5%ブ ドウ糖20mlに 溶 解
表2
産 褥 乳 腺 炎 に 対 す る 使 用 成 績
表3 骨 盤 内 感 染 症 に 対 す る 使 用 成 績 代 表 症 例(症 例2,図5) 腹 式 帝 王 切 開 分 娩 し た 初 産 婦 で,産 褥15日 よ り右 乳 房 痛,局 所 熱 感,腫 張 を 訴 え,発 熱38.4℃,4時 ∼8時 の 部 に 圧 痛 の あ る硬 結 を 触 知 し,表 面 発 赤 す る も,波 動 を み と め ず,白 血 球10,800。 試 験 穿 刺 に よ つ て 膿 性 乳 汁 を 採 取 し,培 養 に よつ て コ ア グ ラ ー ゼ 陽 性 黄 色 ブ ド ウ 球 菌 を 証 明 し た 。 直 ち にOM 1回1,000mg,朝 夕2回,静 脈 内 点 滴 注 射 を 開 始 し た 。 翌 日 に は 解 熱 傾 向 を 示 し,3,000mg投 与 後 に は,白 血 球76,000と な り,平 熱 に 復 し,局 所 所 見 も 改 善 さ れ,そ の 後 の 投 与 に よ つ て 圧 痛,硬 結 も消 失 し,治 療 終 了 後 も乳 汁 分 泌 は 障 害 さ れ な か つ た 。 総 投 与 量 は 8,000mgで あ り,副 作 用 は み とめ られ な か つ た 。 な お,検 出 さ れ た 黄 色 ブ ド ウ 球 菌 は,PC,SM,TC耐 性,CP, OM,LM,KM,AB-PC感 性 で あ つ た 。 2. 骨 盤 内 感 染 症 産 褥 子 宮 内 感 染,骨 盤 腹 膜 炎,子 宮 内 感 染 進 行 流 産 各1例,急 性 付 属 器 炎3例,計6例 に 本 剤 を 使 用 し た 。 投 与 方 法 は,い ず れ も1回500mg,1日2回 静 脈 内 点 滴 投 与 で あ り,総 投 与 量 は4,000∼5,000mgで あ る(表3)。 症 例4 Y.T.34才,産 褥 子 宮 内 感 染(図6) 妊 娠4ヵ 月 でSHIRODKOR氏 手 術 を 施 行 し,腹 式 帝 王 切 開 分 娩 後,産 褥20日 目 に40℃ の 発 熱 お よ び 軽 度 下 腹 痛 を 訴 え,再 入 院 し た 。 子 宮 は 超 手 拳 大,軟,子 宮 復 故 不 全 の 状 態 を 示 し,子 宮 口 は 一 指 開 大,子 宮 体 部 に 圧 痛 が あ り, 悪 露 は 暗 赤 色,白 血 球1,100で あ つ た 。 直 ち にOM 500mg,朝 夕2回,1日1,000mg静 脈 内 注 射 を 開 始 し,Bro-melainを 併 用 し た 。4日 後,総 量4,000mg投 与 に よ つ て,完 全 に 解 熱 し,白 血 球 も7,500と な り,子 宮 収 縮 剤 の 使 用 に よつ て 局 所 処 見 も 正 常 に 復 し た 。 症 例5 I.M.21才,骨 盤 腹 膜 炎(図7) 熱 発38.8℃,白 血 球 数13,000,下 腹 痛,腰 痛,暗 赤 色 帯 下 を 訴 え て 来 院 し た 。 両 側 付 属 器,ダ グ ラ ス 窩 に 圧 痛 の あ る 腫 瘤 様 抵 抗 を 触 知 し,ダ グ ラ ス 窩 穿 刺 に よ つ て 約3mlの 膿 血 性 浸 出 液 を み と め た 。OM 500mg,1日2回,静 脈 内 点 滴 投 与 に よ つ て,翌 日に は 解 熱 し,下 腹 痛 も軽 快 し,5日 目5,000mg投 与 後 に は,白 血 球 数6,100と な り, 下 腹 痛 も消 失 し,そ の 後,非 ス テ ロ イ ド系 消 炎,鎮 痛 剤Benzydamin hydrochlorideに き りか え,治 療 開 始 後9日 目 に は,局 所 処 見 も 完 全 に 改 善 さ れ た 。 な お,穿 刺 液 の 好 気 性 培 養 で は,菌 を 検 出 で き な か つ た 。 症 例6 K.K.29才,子 宮 内 感 染,進 行 流 産(図8) 妊 娠4ヵ 月,子 宮 内 胎 児 死 亡 。 進 行 流 産 と 診 断 し,子 宮 内 容 除 去 術 を 施 行 し た と こ ろ,胎 児,胎 盤 は 一 部 融 解 し, 汚 暗 赤 色 を 呈 し て い た 。 子 宮 内 操 作 施 行 前 日 か ら軽 度 の 発 熱 が あ り,手 術 翌 日 に は38.4℃ と な り,白 血 球16,100, 下 腹 痛 を 訴 え,子 宮 体 に 圧 痛 が あ つ た 。OM 1回500mg,1日2回 使 用 し,4日 目 に は 体 温36.4℃,白 血 球7,400 と な り,局 所 所 見 も 改 善 さ れ,自 覚 症 状 も緩 解 し た 。 治 療 前,子 宮 腔 内 か ら の 検 出 菌 は,白 色 ブ ド ウ 球 菌 で あ る 。 図5 症 例2 K.W. 26才 産 褥 乳 腺 炎 図6 症 例4 Y.T.34才 産 褥 子 宮 内 感 染 図7 症 例5 M.I.21才 骨 盤 腹 膜 炎
症 例7 T.E.33才,両 側 急 性 付属 器 炎 下 腹 痛 を訴 え,右 付 属 器 部 に 圧痛 著 明 な 腫 瘤 様 抵 抗 を 触 知 し,左 付 属 器 に も圧 痛 を み とめ た。 白 血 球13,600発 熱37℃ で あ つ た。OM 1回500mg, 朝 夕 投 与 を 開 始 し,5日 目に は,自 他 覚 所 見 と も著 明 な 好転 を示 した 。 症 例8 M.E.30才,左 付 属 器 炎 左 下 腹 痛 を 訴 え,内 診 に よっ て 左付 属 器 部 に圧 痛 あ る抵抗 を 触 知 した 。 発 熱37.8℃,白 血 球11,000で あ つ た。 本 剤500mg,朝 夕2回,1日1,000 mg,4日 間 投 与 に よつ て 解 熱 し,白 血 球数 も 正 常 に復 し,自 他 覚 所 見 も緩 解 した。 症 例9 H.T.29才,左 付 属 器 炎 左 下 腹 痛,腰 痛 を主 訴 と した。 左 付 属 器,ダ グ ラ ス窩 に圧 痛 の あ る抵 抗 を 触 知 し,白 血 球9,400,37.2℃ の発 熱 を み とめ た。OM総 計4,000mg投 与 し,リ ゾチ ー ム を併 用 して,抵 抗 は軽 減 し,白 血 球4,300と な り,下 腹痛 もほ とん ど消 失 した 。 3. そ の 他 の 感 染 症 症 例10 N.T.30才,妊 娠8ヵ 月胆 嚢 炎 切 迫 早 産(図9) 来 院5日 前 か ら40℃ の 発 熱 が持 続 し,全 身 衰 弱 著 明,子 宮 底27cm,腹 囲85cm,第1頭 位,児 心 音 微 弱,子 宮 口一 指 を 通 じ,少 量 の 出血 を み とめ た。 右 悸 肋 部 に 著 明 な 圧 痛 が あ り,白 血 球9,700,赤 血 球279万,ヘ モ グ ロ ビ ン量11mg/dl ,血 清 総 蛋 白5.2,CCF(+++),血 液,尿 細 菌 培 養 と もに 陰性 で あ つ た 。 胆 嚢 造 影 に よっ て,妊 娠8ヵ 月,胆 嚢 炎 と診 断 し,胆 汁 培 養 を施 行 しっ つOM 1回1,000mg朝 夕,1日 計2,000mgを 静 脈 内 に 点滴 投与 した。 治 療 開 始 後,翌 日に は急 激 に解 熱 し,酸 素 吸 入,肝 庇 護 剤,栄 養 剤,胆 汁 排 出 促 進 剤 の併 用 に よつ て,6日 目に は 全 身 状 態 も好 転 し,白 血 球 7,600と な り,悸 肋 部圧 痛 もほ とん ど消 失 した。 胆 汁 培 養 に よつ て緑 色 レ ン サ球 菌,ナ イ セ リア を証 明 した が,緑 色 レン サ 球 菌 はPC,OM,CM,TC, AB-PCに 感 受 性 を示 した。 症 例11 M.I.27才,左 急 性 パ ル トリ ン氏 腺 炎,左 外 陰 蜂 窩 織 炎 外 陰 部 疼 痛,腫 張,歩 行 困 離 を訴 えて 来 院 し た。 左 大 陰 唇,小 陰唇 は著 明 図8 症 例6 K.K.妊 娠4ヵ 月 子 宮 内 感 染 進 行 流 産 図9 症 例10 N.T.30才 妊 娠8ヵ 月 胆 嚢 炎 に 腫 張 し,発 赤,圧 痛 強 く,バ ル ト リ ン氏 腺 部 に 硬 結 を 認 め た 。 発 熱37.5℃,白 血 球9,600,試 験 穿 刺 は 陰 性 で あ つ た 。OM 1回500mg,1日2回,6日 間 使 用 に よ つ て,局 所 所 見 は 緩 解 し,歩 行 可 能 と な り,バ ル ト リ ン 氏 腺 部 の 軽 度 硬 結 を 残 す の み と な つ た 。 ま と め
1954年SOBIN等 に よ つ てStreptomyces antibioticusか ら得 られ たOleandomycinは,溶 血 レ ンサ球 菌,黄 色 ブ ドウ球 菌,糞 便 性 レンサ 球 菌,ジ フ テ リー菌,肺 炎 球 菌,リ ス テ リア 菌 テ タ ヌス菌 等 の グ ラム陽 性 球 菌 に 対 して 強 い 抗 菌 力 を 示 す ほ か,ナ イ セ リア,ヘ モ フ ィ リス属 等 の グ ラ ム陰 性 桿 菌 に も有 効 であ る。 わ れ わ れ の実 験 で も,溶 血 レ ンサ 球 菌,黄 色 ブ ドウ球 菌,糞 便 レ ンサ 球菌,ジ フ テ リー 菌 の 順 に強 い抗 菌 力 を 示 し たが,抗 生 物 質 の 普 及は,本 剤 に 対 して も,し ば しば 耐 性菌 の 出 現 とい う困難 な 問 題 を 提 起 し,ブ ドウ球 菌 に お い て そ の 傾 向が 著 る しい。 日常 臨 床 に お いて 遭 遇 す る これ らの 耐 性 菌 感 染 症 に 対 して,よ り高 い 血 中濃 度 を必 要 と し,急 速 な 症 状 の 改 善 を 期 待 した い ば あ い も しば しば で あ る。Oleandomyccinの 静 注剤 は,急 速 な血 中 濃 度 の 上 昇 を 期 待 し うる薬 剤 で あ り, 点 滴 静 脈 内投 与 に よつ て,経 口投 与 例 と同 様,約2時 間 で ピー クに 達 し,経 口投 与 時 の約4倍 の1.35mcg/mlと い う高 い 血 中 濃 度 を 示 し,6時 間後 に も0.17mcg/mlと い う有 効 血 中 濃度 を維 持 し得 た 。 乳 汁 中 濃 度 は,測 定 期 間 中,哺 乳 を 中 止 した た め 本 剤 の 蓄 積 に よつ て さ らに 高 い 値 を 示 し,1,2時 間 値 と も80mcg/mlに 達 した 。 産 褥 乳 腺 炎3例,骨 盤 内感 染 症6例,そ の 他2例 の 感染 症 に対 す る効 果 も,こ の 急 速 か つ 高 度 な 血 中,乳 汁 中濃 度 の上 昇 を 反 映 して,全 身,局 所 所 見 と も著 る し い改 善 がみ とめ られ,投 与 翌 日に は 急 速 に 解 熱 し,産 褥 乳 腺 炎 で は 乳 汁 分 泌 を 障 碍 す る こ とな く治 癒 した。 な お,分 離 され た起 因 菌 は コア グ ラーゼ 陽 性 黄 色 ブ ドウ球 菌,白 色 ブ ド ウ 球 球,緑 色 レ ンサ球 菌,ナ イ セ リアで あ り,本 剤 に 対 して強 い 感 受 性 を示 した。 本 剤 の 静 脈 内使 用 量 は,1回500∼1,000mg,1日1,000∼2,000mgで あ り,総 投 与 量 は4,000∼8,000mgで あ つ た 。 また 本 剤 使 用 期 間 中,肝 機 能 の 障 碍 され て い た1例(症 例10)は 悪 心 を 訴 え た が,他 の10例 では な ん ら副 作 用 を み と めず,広 領 域 抗 生 物 質 の使 用 時 に み られ る よ うな 胃腸 障 碍,下 痢 等 の不 快 な 症 状 もみ られ な か つ た。 稿 を 終 る に 当つ て,水 野 重 光 教授 の御 校 閲 を 深 謝 す る。
文
献
1) SOBIN, B. A.; A. R. ENGLISH & W. D. CELMER: P. A. 105, a new antibiotic. Antibiot. Ann. 1954/1955: 327•`830, 1955.
2) RANTZ, L. A.; E. RANDALL, L. THUM & L. F. BARKER : The effects of vancomycin, oleandomycin, and novobiocin on staphylococci in vitro. Antibiot. & Chemoth. 7(8): 399•`409, Aug. 1957.
3) 水 野 重 光, 松 田 静 治, 高 田 道 夫, 於 保 英 彦: 産 婦 人 科 領 域 感 染 症 に お け るOleandomycinに つ い て 。 産 科 と 婦 人 科 25(4): 348∼355, Apr. 1958. 4) 水 野 重 光: 妊 娠 と ウ ィ ル ス 性 疾 患 。 産 科 と婦 人 科 27(10): 1265∼1275, Oct. 1960. 5) 水 野 重 光: 耐 性 菌 症 。 産 科 と婦 人 科 32(9): 1199∼1204, Sept. 1965. Oxychlortetracycline J.H. MARTIN,L.A. MITSCHER,P.A.MILLER, P. SHU & N.BOHONOS: 5-Hydroxy-7-chlortetracycline.
I.Preparation,isolation,and physicochemical pro. perties.Antimicr.Agents &
Chemoth.1966:563-567,1967.
L.A.MITSCHER,J.H.MARTIN,A.C.DORNBUSH. L.LEESON & G.REDIN:5-Hydroxy-7-chlortetracy.
dine.II.Stability and biological properties,dittc 568•`572,1967.
Streptomyces rimosus ATCC 13224株 の3∼4日 培
養 の 細 胞 を 洗 い,燐 酸 緩 衝 液(pH6.5)に 懸 濁 し,5a, 11a-Dehydrochlortetracycline(500mg/L)を 懸 濁 液 に 加 え,25℃ で8時 間 攪 拌 し,HClでpH2に 修 正 す る 方 法 で 生 物 学 的 変 換 を お こ な い,セ ル ロ ー ズ ・ ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー(低 温),酢 酸 エ チ ル ・n-ブ タ ノ ー ル ・0.01 N塩 酸 を 溶 剤 系 とす る 流 分 配 に よ つ て 精 製 し て 得 られ る 。 中 性 近 く で は 不 安 定 で,37℃,2時 間30分 で 他 の Tetracycline類 がpH7で78∼96%,pH6で90∼100 %残 存 す る の に 対 し て,pH7で25%,pH6が57% 残 存 す る に す ぎ な い 。 水 溶 液(エ タ ノ ー ル ア ミ ン でpH 7.5∼7.6に 修 正)は 室 温2時 間30分 で 力 価 が61%, 94時 間 で26%と 低 下 す る の に 対 し て,Ca++(CaCl2)を 加 え る と 安 定 に な り,94時 間 後76%,484時 間 後48% が 残 存 す る 。 塩 酸 塩 の 試 験 管 内 抗 菌 作 用 を 他 のTetra cyclinesの 塩 酸 塩 と 比 較 す る と,作 用 は 一 般 に 弱 く, MIC(mcg/ml)はMycob.607で は0.062∼0.25に 対 し て0.5,Staph.auremで は0.5∼2に 対 し て8,E.coli で は1∼4に 対 し て15,Ps.aeruginosaで は8∼15に 対 し て31で あ つ た 。Staph.aureus Smith株 感 染 マ ウ ス に 対 す るED50(mg/kg)を 比 較 す る と,経 口 投 与 で は Oxytetracyclineに ま さ る が(23:44),静 注 で は 著 る し く 劣 る(11:1.6)。 カ ル シ ウ ム 複 塩 の 試 験 管 内 抗 菌 作 用 は 塩 酸 塩 よ り も 弱 く,感 染 防 禦 効 果 も と く に 差 が な く, 化 学 療 法 剤 と し て の 利 点 は な い と 判 断 さ れ た 。 (八 木 沢 抄) LL-A 0341 A & B H.A.WHALEY,E.L.PATTERSON,M.DANN,P.
SHU,M.E.SWIFT,J.N.PORTER & G.REDIN:LL-A 0341 G.REDIN:LL-A and B,new antibiotics.I.Isolation and
characterization,Antimicr.Agents & Chemoth. 1966:587•`590,1967
H.A.WHALEY,E.D.PATTERSON,M.P.KUNST-MANN & N.BOHONOS:LL-A 0341 A and B,new antibiotics.II.Chemical properties.ditto 591•`594, 1967 Streptomyces candidus A 0341株 の 培 養 濾 液 を 活 性 珪 酸 マ グ ネ シ ウ ム に 吸 着,ア セ ト ン水 で 溶 離,減 圧 濃 縮 後,n-ブ タ ノ ー ル に 転 溶,減 圧 濃 縮 して 粗 結 晶 を と り, さ ら に 液 ・液 パ ー テ イ シ ョ ン ク ロ マ トグ ラ フ ィ ー で 精 製
し てLL-A 0341 A(全 力 価 の10%以 下)とLL-A 0341
Bを 得 た 。Bは,225∼230℃ で 分 解,[α]25D-104℃(Cl
1:CH3OH-水1:1),溶 液(メ タ ノ ー ル ・水)の 紫 外 部
吸 収 極 大338mμ(E1%1cm 170),28gmμ(肩,E1%1cm 93),
278mμ(E1%1cm 110),222mμ(E1%1cm 525),赤 外 部 吸 収 ス
ペ ク トル はhydroxyl(3.0μ),amidecarbonyl(6.05μ)
の 強 い 吸 収 帯 と,esterま た はlactone carbonylに よ
る 弱 い 吸 収 帯(5.75μ)を 示 し,C55H72N12O15(1,140)の
実 験 式 が 与 え られ た 。
グ ラ ム 陽 性 菌 に 作 用 し,グ ラ ム 陰 性 菌 に 作 用 し な い 。ス
ペ ク ト ラ ム はTelomycinに 似,MIC(mcg/ml)は,B
subtilis 2(Telomycin 3),Mycob.smegmatis 6(>100),
Staph.aureus 3∼12(25∼>100),Str.faecalis 12 (100),Str.pyogenes 6(12)で,作 用 はTelomycin,よ り も強 い 。 患 者 分 離 のStaph.aureus 6株,Str.fecalis 1株,Str.pyogenes 4株,Str.sp.2株 のMICは1∼12 mcg/mlで,Tetracycline,Penicillin G,Erythromycin と の 間 に 交 叉 耐 性 を み と め な い 。 LL-A 0341 Bは,塩 基 性 のPeptide-lactone抗 生 物 質 で,酸 水 解 に よ つ て,L-Serine,L-Threonine,allo-Threonine,Alanine,Glycine,β-Hydroxyleucine, trans-3-Hydroxy-L-Proline,L-Prolineを 等 モ ル に 生 じ つ ぎ の 構 造 が 提 唱 さ れ た 。 H2N-Ser-Thr-allo-Thr-Ala-Gly-trans 3HOPro O O=C-Pro-ΔTry-βMe-Try-βHOLeu
LL-A 0341 Aは,酸 水 解 に よ つ て,Proline 2モ ル を 生
じ,3-Hydroxy-L-Prolineを 欠 く ほ か,Bと 同 じ ア ミ
ノ 酸 を 生 ず る。 構 成 ア ミ ノ酸 と そ の 配 列,紫 外 部 吸 収 ス
ペ ク ラ ト ル か ら,LL-A 0341 A,B,Telomycinお よ び
Neotelomycinは 近 似 の 化 学 構 造 を も つ 抗 生 物 質 群 で あ