〈原著論文〉
スポーツの認知的観戦能力の解明
齊 藤 隆 志
1)・醍 醐 笑 部
2)・出 口 順 子
3)高 岡 敦 史
4)・中 路 恭 平
5)・嶋 崎 雅 規
6)佐 野 昌 行
1)・川 崎 登志喜
7)・長 野 史 尚
8)柳 沢 和 雄
9)Explication of cognitive capability on sports spectating
Takashi SAITO
1)Ebbe DAIGO
2)Junko DEGUCHI
3)Atsushi TAKAOKA
4)Kyouhei NAKAJI
5)Masaki SHIMAZAKI
6)Masayuki SANO
1)Toshiki KAWASAKI
7)Nagano FUMIHISA
8)Kazuo YANAGISAWA
9)1) 日本体育大学スポーツマネジメント 学部 〒227–0033 神奈川県横浜市青葉区 鴨志田町1221–1 2) 早稲田大学スポーツ科学学術院 〒202–0021 東京都西東京市東伏見 3–4–1 3) 東海学園大学スポーツ健康科学部 〒470–0207 愛知県みよし市福谷町 西ノ洞21–233 4) 岡山大学大学院教育学研究科 〒700–8530 岡山県岡山市北区津島 中3–1–1 5) 南山大学 〒466–8673 名古屋市昭和区山里町 18 6) 国際武道大学体育学部 〒299–5295 千葉県勝浦市新官841 7) 玉川大学教育学部 〒194–8610 東京都町田市玉川学園 6–1–1 8) 九州医療スポーツ専門学校 〒802–0077 北九州市小倉北区馬借 1–1–2 9) 筑波大学体育系 〒305–8574 茨城県つくば市天王台 1–1–1
1) Faculty of Sport Management, Nippon Sport Science University 1221–1 Kamoshida-cho, Aoba-ku, Yokohama, Kanagawa 227– 0033
2) Faculty of Sport Sciences, Waseda University 3–4–1 Higashifushimi, Nishi-Tokyo, Tokyo, 202–0021 3) School of Sports and Health Science, Tokaigakuen University
21–233 Nishinohara, Ukigai, Miyoshi, Aichi 470–0207 4) Graduate School of Education, Okayama University
3–1–1 Tsushima-naka, Kitaku, Okayama 700–8530 5) Faculty of Business Administration, Nanzan University
18 Yamazato-cho, Showa-ku, Nagoya 466–8673
6) Faculty of Physical Education, International Budo University 841 Shinkan, Katsuura, Chiba 299–5295
7) Faculty of Education, Tamagawa University 6–1–1 Tamagawagakuen, Machida, Tokyo 194–8610 8) Kyushu Medical Sports Vocational School
1–1–2 Basyaku, Kokura kitaku, Kitakyushu, Fukuoka 802–0077 9) Faculty of Health and Sports Sciences, University of Tsukuba
1–1–1 Tennodai Tsukuba, Ibaraki 305–8574
Abstract
The purpose of this study was to elucidate the structure of cognitive capability in sports spectating. First, a hypothesis construct of cognitive capability in sports spectating was made based on a review of the literature and semi-structured interviews with sports journalists. There were three generic concepts in the construct: intellectuality, sensitivity, and value judgements. Intellectuality comprised five specific concepts: understanding, analysis, evaluation, prediction, and focus. Sensitivity comprised two specific concepts: sym-pathy and aesthetic intuition. Values comprised one concept: fair play.
We then developed a measure of cognitive capability in sports spectating.
Second, 119 question items for a pilot investigation were formed based on interviews with two sports writ-ers and 16 books about sports spectating. The investigation subjects were student athletes. Through factor analysis of data on the survey, we selected 82 question items from the 119.
Third, for the main investigation, we collected data from J-League spectators. Through exploratory and confirmatory factor analysis, we developed 21 items to form a scale of cognitive capability in sports spectat-ing. Moreover, through confirming the consistency of the hypothesis construct, we elucidated six factors on the structure of cognitive capability in sports spectating. These factors were: Intellectual capability about individual play, Intellectual capability about team play, Sympathy toward the feelings of players, Sympathy toward the physical sensations of players, Aesthetic intuition about beautiful play, and Fair play.
Comparing these factors with the levels on the construct, Intellectual capability about individual play and Intellectual capability about team play come into Intellectual level of the construct. Sympathy toward the feelings of players and Sympathy toward the physical sensations of players come into Sympathy in Sensitiv-ity level, and Aesthetic intuition about beautiful play come just into Aesthetic intuition on the construct. Fair play comes into Value judgement level on the construct.
These cognitions seemed to relate to spectating knowledge. The spectator individually forms meaning through use of these cognitions together with spectating knowledge.
キーワード: スポーツ観戦,認知的観戦能力,観戦能力
Keyword : sports spectating, cognitive capability of sports spectating, capability of sports spectating
I .
問題と目的
第2 期スポーツ基本計画(文部科学省,2017) では,我が国のスポーツ産業規模を現在の5.5 兆円から2025 年までに15 兆円に拡大させるこ とをめざしている.とくにプロスポーツの活性 化やスタジアム・アリーナへの経済的投資を政 策課題として掲げているものの,経済的投資の 必然性の根拠となるスポーツの文化的・社会的 な価値の創出と拡大の方策については十分に言 及されていない.民間部門への投資と公共部門 (教育や福祉)への投資のアンバランスや,消 費者の欲求が生産者の広告活動に依存すること で生じる社会不安について警鐘を鳴らしたガル ブレイス(2006),消費者が宣伝や流行に踊ら され文化がビジネスの手段となってしまうと指 摘した池上(1991)に依拠するだけでも,我が 国における今日の国際的イベント開催とその マーケティングによる消費者としての人々の関 心の喚起は,単なるブームを作り出すだけに終 わりかねないと推測される. 人々の豊かなスポーツ生活の実現を志向する 生活者本位のスポーツ経営が,スポーツをみる というスポーツとの関わりを活性化してスポー ツ観戦の諸価値を生活者に享受してもらおうと 企図するとき,経営の作為だけでなく,生活者 がスポーツ観戦を意味ある経験として価値を見 出す「観戦能力」の育成も必要になる.スポー ツプロデュースとは「スポーツの質を高めるた めにスポーツの特性やプレーヤー・観戦者の特 性を活かし,スポーツルール等のスポーツを構 成する要素を調整・創造する活動やその過程」 (宇土,1993)であると考えるならば,観戦者 の特性の一つである観戦能力の解明はスポーツ プロデュース理論を考究する上での,基礎研究 として重要な位置づけであると言える.これまでの観戦能力に関する研究には,宇 土(1992, 1993),齊藤(2004, 2009, 2013, 2015)によ る一連の研究,出口(2012)や醍醐ほか(2016) の研究がある.宇土(1992)によれば,ゲーム の価値とは,競技者がスポーツの特性に触れ る活動を全力でするとともに,文化として好ま しく競技できたかどうかに依存する.さらにス ポーツ文化の発展には観戦者がその判断を正し くしていかなくてはならないと指摘する.すな わち,観戦者は競技者がスポーツの特性に触れ るプレイをしているかどうか,フェアでスポー ツマンシップに則っているかどうかという観点 を持ちつつ,正しく観戦することの重要性を示 している.さらに宇土(1993)は,ゲームの価 値が観戦者の観戦能力注1),すなわち観戦者の認 知や価値判断に左右されるので,観戦能力への 配慮はスポーツプロデュースの課題として扱う 意味が大きく,体育・スポーツそれ自体の専門 家によってよりよく開発されるべく重要な分野 であると示している. 齊藤(2013, p.120)は,みるスポーツの文化価 値生成プロセスの循環モデルを〈所与の文化価 値→内面化→意味形成→外面化→所産の文化価 値〉のように示すとともに,各局面において, モデルの主体である人間の能力開発の必要性を 述べている.また,所与の文化価値を人々が意 味形成するまでの能力を総じて「観戦能力」と 称し,「知識」,「観察・解釈力」,「評価・評論 力」から成るとしている.昨今では,「観戦力」 や「観戦ガイド」と題されるようなスポーツ観 戦の仕方や観戦に必要な力を論じようとしてい る書籍が数多く発刊されているが,取り扱っ ている内容の大半は予備知識,すなわち齊藤 (2013, p.122)が示す「観戦能力」の中の「知識」 に集中している. 教育学における今日的な学力観は,「『何を 知っているか』ではなく,実際の問題状況で 『何ができるか』」である(国立教育政策研究所, 2016, p.12).石井(2004)は人間の学習能力につ いて改訂版ブルームタキソノミー概念を用いて 認知と知識について説明する中で,認知とは知 識を活かしながら物事や社会を認識するもので あるとしており,社会的課題解決型の思考活動 に関する能力発揮,すなわち論理的思考を中心 と考えている. 齊藤(2013, p.120)がモデル構造を示した観戦 能力についても,観戦対象となるスポーツに関 する知識を記憶するだけでなく,観戦者がス ポーツ観戦経験を意味づけ,価値づける能力と して知識を活用し,観戦対象としてのスポーツ 現象を観察し,理知的に解釈し,自らの生活 に引き寄せて意味づけ,一定の価値を見出す 力(何ができるか)としており,国立教育政策 研究所(2016)や石井(2004)の指摘と相似的で ある.しかし,スポーツ観戦をめぐっては「感 動や夢をありがとう」という言葉で感受したこ とが表現されることがある.みるスポーツで生 活を豊かにするために,齊藤(2013, p.123)や樋 口(1987)が指摘する,観戦者が高度なプレイ に気分を高揚させたり,選手の頑張りに感嘆し たりする際に求められる感性的側面の認知能力 が,論理的思考と同様に重要となるだろう.た だし齊藤(2013, p.123)も樋口(1987)も理論的 枠組みの提示にとどまっており,実証に至って いない. 醍醐ほか(2016)は,齊藤(2013)の文化価値 生成プロセスの中でも意味形成から外面化の局 面に着目し,スポーツをみて外面化するための 能力(観戦能力と述べている)と意味形成に関 わる外部からの知識の関係について明らかにし ている.しかし,所与の価値を内面化し意味形 成するまでのプロセス(競技場でスポーツの試 合を観戦し自己の内面に意味づけする局面)に おいて発揮されている観戦能力の具体的な内容 に踏み込んではいない. また,出口(2012)は認知という内面的な認 識に関する研究がそれまで行われてこなかった と指摘し,スポーツ経験歴によって認知の内容 が異なることを報告している.しかし観戦時の 認知の機能や構造については言及していない. 以上のように観戦能力には観戦に必要なルー ルや技術といった知識を保有するだけでなく, 知識を活用しながらプレイを論理的に理解し, 評価すること,卓越したプレイなどに感動する
こと,フェア/アンフェア,スポーツマンシッ プといった一定の価値基準を重視してゲームを 観戦することといった,ものごとを意味づけし たり,価値を与えたりする認知的な能力が必要 であることが理解される.しかし,認知的能力 の側面からとらえた観戦能力については,その 具体的な要素と構造が明らかになっているわけ ではない. そこで本研究は,観戦能力の認知的領域(以 下,認知的観戦能力とする)の構造を明らかに することを目的とする.具体的には,認知的観 戦能力の測定尺度の開発を通して,認知的観戦 能力の構造を明らかにする. 観戦能力の解明は,スポーツプロデュース論 の基礎研究として位置づくばかりでなく,みる スポーツ事業をめぐる製品や技術開発に応用可 能である.齊藤・小野里(2004)は観戦者が観 戦サービスに対してとる観戦者行動について, 観戦能力の違いによってプロダクト(対象とな るゲーム現象)の中核的便益が異なっているこ とを証明している.芸術鑑賞能力の指標化が美 術館経営に革新をもたらした(上野,2011)こ とを鑑みると,スポーツ経営における観戦能力 の解明は意義深い.例えば,観戦能力開発に関 わる学習プログラムの開発,観戦能力に見合っ たコンテンツ開発,能力を補助するサブ・コン テンツの開発といったスポーツ製品・サービス 開発などが発想され,これらのサービスは単な る知識に限らずむしろ認知的観戦能力に依拠す る場合が多くあるのではないかと予想される. 認知的観戦能力に応じたコンテンツサービス開 発や技術開発は,情報技術の高度化によって ますます期待されよう.このように観戦能力に ついて,とりわけ認知的観戦能力を理解するこ との有用性は認められるものの,認知的観戦能 力について明らかにされていないのが現状であ る.本研究においてこれまで明らかにされてこ なかった認知的観戦能力について明らかにする ことは,基礎的研究としての研究意義にとどま らず,今日的な多様な実践的応用可能性を見出 すことができる.
II . 観戦能力の捉え方
ここでは,本研究が考究の対象にしている認 知的観戦能力を理解するために,スポーツをみ るということとその能力について,芸術鑑賞と の比較,並びにみるスポーツ生活をめぐる諸能 力を整理する. 1. 芸術鑑賞との違い みるというスポーツとの関わりは,豊かなス ポーツ生活を構成する要素のひとつである.み るスポーツ生活者(つまり観戦者)が,何を, どのようにみるのか,あるいはみることができ るか,ということを知ることは,スポーツをみ るということを理解することにほかならない. スポーツの試合をみることは,一般的には「観 戦」と呼ばれている.スポーツ鑑賞と表記する 場合もあるが,本研究では競技全体をみるこ と,つまりプレイヤーが競技として勝敗のため にプレイすること,プレイヤーの歓喜や感情表 出,あるいはプレイに関連するコーチとのやり とりや采配,審判によるジャッジなどの総合的 な「スポーツゲーム現象」をみていることを射 程としているので「観戦」を用いることとする. 近接領域である美術鑑賞については,「美術 作品には作者の思いが込められているが,それ だけではなく,鑑賞者が鑑賞によって意味づけ をして,初めて作品が完成する」(光村図書出 版,2014)ものと捉えられている.また中学校 学習指導要領解説(文部科学省,2008)におい ては,美術鑑賞を「知識を詰め込むものではな く思いをめぐらせながら対象との関係で自分の 中に新しい価値を創り出す創造活動」と位置づ けている. 樋口(1987, p.78)は芸術鑑賞とスポーツ観戦 の違いについて次のように述べている.芸術 鑑賞とは,人が何らかの素材に心を動かされ (①),芸術的意図を持って表現するための芸術 作品を制作し(②),鑑賞者はその芸術的制作物 について鑑賞する(③)というプロセスを踏むと し,芸術とは①∼③のプロセス全体で完成され る.これに対し,スポーツ観戦とは①に相当するのみであり,「何らかの素材」がゲーム現象 に相当し,観戦者はそのゲーム現象を観戦して 心を動かされただけでしかないと彼は指摘す る. 一部の採点型スポーツでは,芸術性が採点 される場合がある.しかし芸術性は,各種得 点を積み重ねていく要素のひとつでしかなく, 得点化されて技術の難易度(体操競技)や飛距 離(スキージャンプ)といった技術要素等に加 算される.つまり,芸術的要素は勝敗を競う競 技の一部分でしかなく,観戦者は芸術的要素を みている場合もあるかも知れないが,その部分 をみていたとしても芸術が完成するわけではな い. さらに樋口(1987, pp.96–98)はスポーツ観戦 者が感じるスポーツの美しさには,プレイヤー が相手に勝つための行為,すなわち運動技術や 試合展開,人格性などといった,観戦者にみせ ることを直接企図していないような内容がある とし,スポーツ観戦には芸術鑑賞とは異なる美 的要素についての感性的行為を述べている. 芸術鑑賞もスポーツ観戦も,みるという行為 によって当人の内面に意味形成する文化的行為 である点は共通する.スポーツ観戦は,感性的 側面について取り上げると,種目によっては芸 術性も一部含まれるが,芸術を企図しない運動 技術や試合展開などの美的要素についても観戦 する.さらに,観戦には先述の通り論理的思考 を用いた観戦や,価値を重視する観戦もある. 一方,芸術鑑賞は,鑑賞者が作品全体に対し芸 術的意味づけることによって芸術が完成され る.ここに芸術鑑賞とスポーツ観戦の相違点を 見いだすことができる. 2. みるスポーツ生活をめぐる諸能力と観戦能 力 みるスポーツの生活にかかわる“能力”を想 起すると,当該スポーツ種目の知識を有してい ることやゲーム内容を認知することのほかに も,スポーツ観戦に対する関心や意欲,観戦者 としての態度・マナー,観戦のための環境を自 ら整える力(例えば,チケット情報を得たり, 一緒に観戦に行く仲間を誘ったりすることがで きる力),感想を語り合ったりブログに評論を 書く力など様々なことが考えられる.関心や態 度は心理的な観戦前の準備状態であり,また自 ら環境を整える力は観戦そのものの力ではな い.これらはスポーツ生活を豊かに彩るために 必要な能力ではあるが,観戦自体の能力ではな いといえよう.また語ったり評論したりするた めの力は,齊藤(2013, p.120)の指摘する外面化 する力である.一方,観戦した内容を自身の内 面に意味づけるために求められる能力とは,知 識と認知である. 齊藤(2013, p.122)が指摘する観戦能力の「知 識」,「観察・解釈力」,「評価・評論力」のうち, 「知識」については,当人に記憶されていて観 戦に必要となる「知識」のことであり,スポー ツに関する科学理論や歴史・哲学・価値・競 技経験などから得られる知識,ならびに選手・ チームや社会的背景といった情報に関する知識 を提示している.一方,「観察・解釈力」や「評 価」とは,プレイやゲームを観戦して,保有す る知識を活用してプレイの動きやゲームの展開 等を理解したり,善悪や正誤を判断したり,自 分なりにプレイやゲームに意味を見出す(意味 づける)能力としており,すなわち本研究でい うところの「認知」と見なすことができる. 認知的観戦能力の構造を明らかにすることを 目的とする本研究への着手の前に,スポーツの 観戦能力に関する前述の着想や先行研究を整理 するならば,観戦能力とは,「プレイやゲーム について観戦者が観戦を通して理解し,自身の 内面に意味づけすることができる力のことであ る」と定義することができるだろう.そして, 観戦能力には認知と知識が含まれており,認知 的観戦能力とは,「プレイやゲームに関する知 識を活かし,観戦者が観戦を通して理解したり 評価したりしながら,自身の内面に意味づけす ることができる力」と定義する.
III. 方 法
本研究は認知的観戦能力の構成概念と項目の 設定(研究1),それを受けた認知的観戦能力の 構成概念の確定(研究2)を通して認知的観戦 能力の構造を明らかにする. 研究1 は,認知的観戦能力の構成概念を構築 するものである.そのために,はじめに先行研 究(齊藤,2013, p.123;宇土,1993; 樋口,1987) において記述されている認知的観戦能力として 考えうる要件から上位構造を構築した. そして大手新聞社のスポーツ記者を対象とし た半構造的面接調査注2)を実施し,下位構造に 含まれる要素を把握し,上位構造との包含関係 を検討し,構成概念とした.こうして構築され た認知的観戦能力の構成概念に基づき,認知的 観戦能力を測定するための尺度を開発した.尺 度開発にあたっては,観戦能力と関連する一般 書籍注3)の具体的な認知に関わる文章を抽出し, それらを定性的データとして採集した.また, 先に実施した半構造的面接調査から得たテキス トデータも,尺度として活用できる場合には尺 度開発のためのデータに含めた. これらのデータをもとに,第一段階の測定尺 度としての質問項目を作成し,構成概念と仮説 的に連結させた.なお,第一段階では構成概念 を逸脱しないよう留意しながらも,拡散的思考 法により100 項目以上を目安にできる限り多く の項目を列挙していくことにした.そして,作 成された第一段階の測定尺度の妥当性を検討す るために,大学生を対象に質問紙調査法による プレ調査を行った. プレ調査から得られたデータについて,天 井・フロア効果,尖度・歪度による項目分析を 実施した後に,競技経験者を対象とした因子分 析を行い因子として構造的なまとまり具合をみ て,認知的観戦能力測定尺度を構成する項目を 選択し,尺度を完成させた. 研究2 では,研究1 で作成した認知的観戦能 力測定尺度を用いた本調査を実施した.本調査 は,J リーグ2 試合の観戦者(1 試合目の観戦者 を A 群,2 試合目の観戦者を B 群とする)を対 象に実施した.A 群を対象に探索的因子分析を 行い,B 群を対象に確認的因子分析を行い,認 知的観戦能力の因子構造を検討した.分析には SPSS23.0および AMOS24.0 を使用した.IV.
認知的観戦能力の構成概念と項目の
設定(研究1)
1. 認知的観戦能力の構成概念 II章において観戦能力とは「プレイやゲーム について観戦者が観戦を通して理解し,自身の 内面に意味づけすることができる力」であり, 認知的観戦能力とは「プレイやゲームに関する 知識を活かし,観戦者が観戦を通して理解した り評価したりしながら,自身の内面に意味づけ することができる力」と定義した. 先行研究においては,認知にはゲーム場面を 知的・論理的に理解し分析や評価していくこ と(齊藤,2013, p.123),感性的に高度なプレイ やドラマチックな展開に感動すること(齊藤, 2013, p.123;樋口,1987),あるいはスポーツ文 化として正しいかどうか価値判断(齊藤,2013, p.123;宇土,1993)をすることがわかってい る.このことから「認知的観戦能力」を説明す る上位次元は「知性」「感性」「価値判断力」で構 成されると仮説を立てた.「知性」とは物事を 論理的に考え分析したり評価したりする力のこ とであり,「感性」とは美しさに感動したり他 人の気持ちや感覚を推し量り共感したりする力 ことであり,「価値判断力」とは善悪といった 価値を見分け,善いことを大切にする力のこと である. さらに,下位次元については,大手新聞社の スポーツ記者を対象とした半構造的面接調査か ら得た定性的データから認知的観戦能力に該当 するキーワードを抽出した.半構造的面接調査 からはインタビュイーの回答を基に共同研究者 間で協議してキーワードを導出した(付表2 を 参照).その結果,キーワードには「理解」「分 析」「評価」「予測」「注目」「共感」「美的直観」 「フェアプレー」を抽出することができた.そして上記8 つの下位次元を上位次元と関連づけ るため,共同研究者間で協議して適切な項目へ 割り当てた結果,「知性」には「理解」「分析」「評 価」「予測」「注目」があてはめられ,「感性」に は「共感」と「美的直観」があてはまり,「価値 判断力」には「フェアプレー」があてはめられ た.よって,8 つのキーワードを構成概念の下 位概念とした.以上の手続きにより,表1 のよ うな構成概念が設計された.なお表中に示され る英数字は表2 の質問項目との対応関係を表し ている. 2. 質問項目の作成 観戦能力とは「知識」と「認知」が互いに関連 しているものと想定される.そこで質問項目作 成に際し,まず面接調査と書籍の言説分析から 得られた2 種類の定性的データを集約し,内容 の分析により「知識」と「認知」に関するテキス トデータを抽出した. 次に調査対象をサッカー観戦者に限定し,尺 度についてもサッカー観戦者注4)を想定して開 発することとした.というのも,スポーツ全般 の理論知や事前情報を記憶していることを「知 識」とすると,その内容量は種目数に乗じて莫 大となる.人々はすべてを記憶することは不可 能であるし,競技特性によって競技展開や運動 方法は全く異なった理解や解釈を要するだろ う.逆にこれらに共通するような抽象的な文言 で質問項目を表現すれば回答者が質問文の意図 を理解できなくなると思われるからである. 共同研究者らによって抽出・収集されたテキ ストに対し,再度共同研究者間で読み直し,文 意の明瞭性と簡潔性等のワーディングの検討を 行いつつ,定義である「プレイやゲームに関す る知識を活かし,観戦者が観戦を通して理解し たり評価したりしながら,自身の内面に意味 づけすることができる力」という文意に沿うよ う,「【知識】について【認知】している」という 文章注5)で単文化するという協同作業を行った. このような項目の作成手順を数回繰り返し,質 問文として119 個のテキストを採用するととも に,構成概念との結び付けを行った.表2 は採 用された項目と構成概念上の上位・下位次元と の対応関係を示している.なお質問紙の作成に 当たっては,「サッカーの試合を観るとき,あ なたは下記の項目のような見かたをどの程度 しますか.」という全体質問を設け,下記項目 として今回作成された質問項目を列挙し,それ ぞれ「まったくしない(1)」から「とてもよくす る(7)」のリッカート7 件法で回答を得た. 3. プレ調査の実施と尺度項目の選定 プレ調査は,4 つの大学に所属する大学生 (18∼22 歳)を対象に,2016 年7 月に実施した. 調査はすべて各大学の教室において配票後に 調査員が主旨と回答方法を説明し,その場で全 員が回答した.配布数716,回収数716(回収率 100%),欠損を除いた有効回答数は435(有効 回答率60.8%)であった.サッカー経験者は154 名であった. 適切な尺度項目を選定するために,まずは得 られたデータに対し天井・フロア効果,尖度・ 歪度を測定した.天井効果の認められる項目は なく,フロア効果が認められた1 項目(NO85, 統計量0.91)を削除した.つぎに尖度分析し, 絶対値が1 を超える4 項目(NO20, 58, 61, 84)を 削除した.尖度の統計量は,NO20 が−1.026, NO58が−1.087, NO61 が−1.006, NO84 が−1.009 だった.歪度分析では絶対値はすべて1.0 以下 であり,1 を超える項目はなかった.このこと により,5 個の項目が削除された. 次に得られた全データに対し仮分析として因 子分析を試みたが,的確な説明ができるような 因子にうまくまとまらなかったため,サッカー 表1 認知的力量構造の仮説構成概念
競技経験のある者だけを抽出して因子分析をし た注6). 観戦能力は競技経験によって培われること がこれまでの研究において報告されている(樋 口,1987, pp.71–72; 出 口,2012). 樋 口 は ス ローモーション映像や分解写真を分析しなくて も,未経験者では完全に見落としてしまうよう な場面を,競技経験者は競技経験と競技知識に よって正確に見抜くと指摘する.出口は観戦者 の競技経験年数の差が,観戦者のスポーツ現象 の認知内容について違いを生むことを実証して いる. また国立教育政策研究所(2016, p.36)による と「ある領域の熟達者(例えば運動選手)は, 専門領域の問題をうまく解くことができる概念 や原理に基づいて構造化された豊富な知識にあ り,その知識によって現象を説明・予測でき, 自分の認知過程を評価しながら適切な行為を取 ることができる」とされている.樋口,出口, 国立研究所の3 者の指摘から,競技経験者は高 度に構造化された専門的知識を所有し,観戦時 の認知が的確に処理されるだろうと類推した. 以上より第一次調査において収集された標本の 内,当該スポーツ種目(サッカー)の競技経験 者のみを分析の対象とした(以下,競技経験者 群とする). 表3 プレ調査の因子分析結果
次に,競技経験者群に対し因子分析(主因子 法,プロマックス回転)を実施した.結果を表 3に示す.因子負荷量0.4 以上の項目を採用し, 11因子が抽出された.因子負荷量が採用基準 に満たない項目(0.4 未満が22 項目,1 以上が1 項目),ならびに因子を説明しうる項目が因子 中に1 項目しかなかった因子(一因子単数項目 が9 項目)の合計32 項目注7)あった. 以上より,最終的に本調査において観戦能力 を測る尺度として82 項目が採用された.
V. 認知的観戦能力の構成概念の検証
(研究2)
1. 調査方法と統計手法 研究1 において理解した認知的観戦能力の構 成概念とそこに含まれる82 項目から構成概念 を検証するための本調査は,J2 リーグに所属 する2 つのクラブのホームゲーム来場者を対象 に実施された.調査した試合の概要を表4 に示 す.調査にあたっては,事前に訓練された調査 員を会場全体に均等な間隔で配置し,観戦者に 対し調査趣旨を説明した後に質問紙調査法によ り回答させ,会場内で回収した.1 回目の調査 は,2016 年11 月3 日に行われ,配布数262,回 収数262(回収率100%),欠損を除いた有効回 答数は206(有効回答率78.6%)であった(表5). 当該試合の来場者数は,4,163 人であった.以 下この調査結果を A 群とする.2 回目の調査 は,2016 年11 月5 日に行われ,配布数699,回 収数536(回収率76.7%),有効回答数は437(有 効回答率81.5%)であった.当該試合の来場者 数は,9,216 人であった.以下この調査結果を B群とする.性別は,A 群で男性63.6%,女性 36.4%で あ り,B 群 で 男 性65.5%, 女 性34.5% であった.A 群と B 群の男女比は,類似の傾 向がみられた.年齢は,A 群,B 群ともに40 代がもっとも多く,それぞれ32.0%,39.7% で あ っ た. 次 い で,A 群 で は30 代 と50 代 が 共 に21.4% と多かった.B 群では,50 代が21.4% で2 番 目 に 多 く,30 代 は16.9% で3 番 目 に 多 かった.4 番目に多かったのは,A 群では20 代(14.6%)であったのに対し,B 群では60 代 (11.0%)であった.J リーグスタジアム観戦者 調査2016 サマリーレポートによると,調査対 象チームの観戦者の性別及び年齢分布は,A 群 のチームについては性別が男66.1%,女33.9%, 年齢分布では40 代が最も多く41.8% であり, 30代が17.8%,50 代が16.3% であった.B 群の チームについては性別が男66.6% 女33.4%,年 齢分布では40 代が最も多く36.1% であり,次 いで50 代が21.7%,30 代が18.3% であった.し 表4 本調査の実施内容 表5 標本構成たがって,本標本が全来場者の分布と比較して 偏りはないと判断した. 質問項目は,研究1 で明らかとなった認知的 観戦能力の測定尺度82 項目について,研究1 と同様に,「サッカーの試合を観るとき,あな たは下記の項目のような見かたをどの程度しま すか.」と尋ね,「まったくしない(1)」から「と てもよくする(7)」の7 件法で回答を得た.得ら れたデータから因子構造を明らかにするため, A群に対して探索的因子分析を行い,因子を抽 出した.その後抽出された因子構造を確認する ため,B 群において確認的因子分析を行った. 2. 認知的観戦能力の構成概念の確定(研究2 の結果および考察) ( 1 )A 群における探索的因子分析の結果 最初に,尖度・歪度分析により該当する3 項目(NO51, 52, 98)を削除した.NO51 は尖度 が1.251, NO52 は歪度が−1.033, NO98 は尖度が 1.117だった.天井効果とフロア効果により削 除すべき項目はなかった.次に残りの79 項目 に対し探索的因子分析を行った. 1回目の因子分析(最尤法,プロマックス回 転)を行い,固有値1 以上に設定(小塩,2011) したところ,因子が12 個抽出された.つぎに この分析結果から項目の取捨選択を行い,因子 負荷量が0.5 未満の項目(26 項目),複数因子へ の重複項目(1 項目),一因子単項目となる項目 (1 項目)および因子内の意味重複項目(18 項 目)注8)の計46 項目を削除した. 残り33 項目に対して2 回目の因子分析(最尤 法,プロマックス回転)を行った結果,6 個の 因子が抽出された.ここでは因子負荷量が0.5 未満の項目(6 項目),因子内の意味重複項目 (3 項目)及び因子内の意味不整合項目(3 項目) の計12 項目を削除した. さらに残り21 項目に対し,3 回目の因子分析 (最尤法,プロマックス回転)を行った.固有 値の変化は,9.51, 2.30, 1.36, 1.03, 0.98, 0.92, 0.630 …,というものであり,6 因子構造が構成概念 へのあてはまり具合が良好であると考えられ た.結果を表6 に示す.また全因子において因 表6 3 回目の探索的因子分析結果(Promax 回転後の因子パターン)
子負荷量が0.4 以上となった.下位項目の信頼 性を確認したところ,すべて Cronbach’sα=.73 以上(基準値α=.72 以上;Nunnally, 1978)を確 認することができた.以上より,因子構造は 6因子21 項目から構成されることが明らかと なった. 第1 因子は,個人技に注目し,個人能力や動 き方の意味を理解でき,そのプレイについて分 析や判断のできる能力であると解釈できること から,「個人プレイ知性認知能力」と命名した. 第2 因子は,選手の喜怒哀楽の気持ちを感じ取 り,共感したり感動したりできる能力と解釈で きることから,「心理共感力」と命名した.第 3因子は,個人技に着目し,個人技のすばらし さ,フォームの美しさといった,プレイの卓越 したすばらしさを見とる能力と解釈できること から,「美的直観力」と命名した.第4 因子は, 選手の身体を動かす感覚を理解し,共感でき る能力であると解釈できることから,「身体共 感力」と命名した.第5 因子は,ボールを持っ ていない時,すなわち第3 の動きやサポートの 動きといった,チーム構成員全体の動きによる 戦術性について分析したり評価したりできる能 力と解釈できることから,「チームプレイ知性 認知能力」と命名した.第6 因子は,フェアプ レーに関する価値を尊重する能力と解釈できる ことから,「フェアプレー重視力」と命名した. ( 2 )B 群における確認的因子分析の結果 最 初 に 尖 度・ 歪 度 分 析 を 行 っ た と こ ろ, NO32の尖度の値が1.083 となり,絶対値1.0 以 上だったため分析から削除した.天井効果およ びフロア効果について削除項目はなかった.残 り20 項目について,確認的因子分析を行った (表7).モデル適合度は,χ2=389.688, df=155, χ2/df=2.51( 基 準 値3.00 以 下 ),RMSEA(root mean square error of approximation)=.072(基準 値 .080 以 下 ),CFI(comparative fit index)=.94 であり(基準値 .90 以上),モデル適合度の基準 (Hair et al., 2009)を満たした.また下位項目の 信頼性,収束妥当性;AVE(average variance
tracted)と CR(composite reliability),および弁 別妥当性;AVE と因子間相関の平方値の比較 について検討した.信頼性については,Cron-bach’sα が美的直観力でα=.69 であり,基準値 を満たすことができなかったが,その他はすべ てα=.78 以上で基準値を満たした(表7).収束 妥当性については,AVE=.55 以上ですべて基 準値(AVE=.50 以上:Fornell and Larcker, 1981) を満たすとともに CR=.89 以上ですべて基準値 (CR=.60 以上:Bagozzi and Yi, 1988)を満たし た(表7).弁別妥当性については AVE と因子 間相関係数の平方を比較したところ,[第1 因 子の AVE(.62)]と[第1 因子–第5 因子間の相 関係数の平方値(.64)],[第3 因子の AVE(.55)] と[第2 因子–第3 因子間の相関係数の平方値 (.56)],[第6 因子の AVE(.56)]と[第2 因子– 第6 因子間の相関係数の平方値(.62)]の3 比較 において,AVE が因子間相関の2 乗値を下回る 結果となり,弁別妥当性基準;AVE>因子間相 関係数の平方値(Hair et al., 2009)を満たすこと ができなかった(表8). 以上を総合すると,尺度の信頼性と収束妥当 性については,美的直感力に課題があるもの の,基準値を満たした指標もあることから,信 頼性と収束妥当性を確認することができたと判 断した.弁別妥当性については,基準を満たす ことができなかったが,因子間相関が高すぎる こと,本研究が認知的観戦能力の尺度開発が初 の試みであること,構成概念と因子の解釈から 複数の専門家(共同研究者)による内容的妥当 性が説明できるのではないかと考え,分析を続 けた. 3. 認知的観戦能力の構成概念に関する考察 ここでは抽出された因子の項目構成の内容的 妥当性を検討するとともに,構成概念と比較す ることにより,認知的観戦能力の因子的妥当性 と構成概念への内容的側面からの適合性を考察 する.考察に当たっては共同研究者である複数 のスポーツ経営学の専門家によって行われおお むね一致した見解だった. 第1 因子:「個人プレイ知性認知能力」とは, 個人技に着目し,そのプレイについて論理的 な分析や判断のできる能力である.これは構 成概念における「知性」に該当し,観戦対象が ゲーム現象を構成するプレイヤー個人あるいは 個の動きであると理解できる.構成概念と比 較すると,第1 因子は「分析(NO50)」,「知識 (NO49)」,「予測(NO48)」,「理解(NO43)」,「評 価(NO57)」,「注目(NO108)」といった「知性」 に関するすべての下位概念の項目によって構成 されており,むしろこれらが統合された因子と して抽出された. 第2 因子:「心理共感力」とは,観戦対象と なるプレイヤーの心理面について,選手の喜怒 哀楽の気持ちを感じ取り,共感したり感動した りできる能力であるので,構成概念における感 性の下位概念である「共感」に該当し,特に心 表8 弁別的妥当性(各因子の AVE, 因子間相関の平方)
理面について共感できる力である. 第3 因子:「美的直観力」とは,個人技のす ばらしさ,フォームの美しさといった,プレイ の卓越性を見とれる能力である.構成概念と比 較すると,「感性」の下位概念である「美的直 観」に該当する. 第4 因子:「身体共感力」とは,構成概念と 比較すると,感性の下位概念である「共感」に 該当し,とくに選手の身体を動かす感覚につい て共感できる力である.選手の身体感覚が観戦 対象であると考えられよう.すなわち,構成概 念の下位概念に属する「共感」は,第2 因子な らびに第4 因子としての「心理的共感力」と「身 体的共感力」にさらに分かれたことになる. 第5 因子:「チームプレイ知性認知能力」と は,チーム構成員全体の動きによる戦術性につ いて分析したり評価したりできる能力である. これは,構成概念における「知性」に該当し, 観戦対象がゲーム構成員全体の戦術的動きや複 数のプレイヤーによる連動性であると理解でき る.さらには「知性」の下位レベルに位置付く 「分析(NO30)」と「評価(NO3)」から構成され ている. 第6 因子:「フェアプレー重視力」は,フェア プレーに関する価値を尊重し重視しながら観戦 する能力である.これは構成概念における「価 値判断力」に該当する. 「知性」については個人技術もしくはチーム 戦術といった観戦対象物によって分かれるとと もに構成概念における「知性」といった上位概 念レベルによって統合されて抽出された.下位 概念に相当する因子は出現しなかったことにな る.また「感性」については,選手の身体面へ の共感と心理面への共感,卓越した技術やプレ イへの美的直観という下位概念に相当する因子 が抽出された.「感性」は「共感」と「美的直観」 に分かれ,さらに「共感」については身体や心 理という観戦の対象物で分かれた.これらの考 察によって認知的観戦能力因子の構成概念に対 する論理的妥当性と因子的妥当性が確認でき た. 以上のことから,弁別妥当性については説明 できなかったものの,構成概念の妥当性につい て,総合的に解釈すれば,信頼性,収束妥当 性,論理的妥当性及び因子的妥当性の観点から 認知的観戦能力因子の存在を認められるだろう 判断した.よって認知的観戦能力は,構成概 念における「知性」として2 個,「感性」として 3個,「価値判断力」として1 個の存在が明らか となった.
VI.
結 論
本研究は,認知的観戦能力を実証的に明らか にすることを目的とした. 構成概念の作成,尺度開発,探索的因子分析 及び確認的因子分析という手順を経て,認知 的観戦能力は,21 の評定尺度で項目構成され, 合計6 因子からなることが明らかとなった.さ らに存在の明らかになった因子と構成概念を比 較し概念の妥当性を検証した結果,以下のこと がわかった. 「知性」については「個人プレイ知性認知能 力」と「チームプレイ知性認知能力」が存在し, 「感性」については「心理共感力」「身体共感力」 および「美的直観力」が存在し,「価値判断力」 については「フェアプレー重視力」が存在して おり,すなわち認知的観戦能力が計6 個の要素 で構成されることが明らかとなった. 「個人プレイ知性認知能力」と「チームプレイ 知性認知能力」や,「心理共感力」と「身体共感 力」のように,観戦対象によって異なる因子が 存在するということは,観戦対象に関する知識 (たとえば競技経験によって得られる身体感覚 や選手心理といった経験知,あるいはチーム戦 術や個人技術に関する理論知を有している等) の違いによって認知が異なると考えられる.ま た観戦者は観戦対象(“選手”あるいは“チー ム”,“身体”あるいは“心理”)を限定させ,競 技場に居ながら観戦ポイントを絞りつつ,競技 中の「選手の個の動き」や「選手同士の連動性」 を認知し,「知性」あるいは「感性」による意味 づけをしているだろうと考えられる.このことから認知は知識と関連していることが示唆され る.これらの認知は知識と結びつき,観戦者は 知識を活かしながら観戦対象を明確にして,観 戦能力の「知性」,「感性」,「価値判断力」の各 要素を用いて認知しながら,主体的に個人の内 面に意味づけしていると考えられる.
VII. 研究の限界と展望
今回の分析において,構成概念の下位概念 に相当する因子が知性において現れなかった ほか,インタビューや書籍分析によって仮説的 に議論されてきた,多様な観戦能力の要素につ いて明らかとすることができなかった.その ため,今後は下位概念としての「理解」「分析」 「評価」「予測」「注目」といった知性的認知のさ らに細分化された観戦能力の要素がどのように 存在するのかについて詳しく検討していく必要 がある.また本研究は観戦能力における知識の 構造については実証研究の対象とはされなかっ た.これまでの研究によって知識の内容が研究 されてきているものの,観戦能力の認知や外面 化の過程との関わりは言及されておらず,そう した視点から知識についても今後観戦能力に関 する一連の研究の中で検討していくことが必要 だろう. さらに調査対象の限界性があげられる.本研 究の対象はサッカー J2 リーグの観戦者のみで あったため,スポーツ種目全体を反映している ものと言い切れない.したがって,サッカーを 対象とした根拠については IV 章に述べたとお りであるが,他の種目の観戦者を対象とする調 査へと研究対象を拡大し,尺度の一般化妥当性 の検証を継続発展させていくべきであろう.ま た,確認的因子分析における妥当性の検討にお いて,信頼性,収束妥当性,論理的妥当性及び 因子的妥当性は確認できたものの,弁別妥当性 については基準を満たすことができなかった. これは,因子間相関が高すぎること,本研究が 尺度開発の初の試みであることが考えられる. 今後ワーディングの工夫,新しい質問項目の設 定などの工夫が必要だろう. また,本研究では構成概念における下位概念 の構造性について内容的妥当性を検討したが, 上位概念と下位概念の階層性について検証して いない.本論の調査は,認知的観戦能力とそれ に関連する概念間の因果的関係の検証を目的と して実施されたものではなく,認知的観戦能力 の測定を目指して行われた調査だからである. しかし今後は,認知的観戦能力の構造化を目指 し,階層的因子モデルを設計し,階層構造を実 証していくことが期待される. 同様に,尺度の開発に当たって,構成概念 は,外的基準(例えば競技歴やルール理解度, スポーツ生活の豊かさの実感や QOL,あるい は評論力といった外面化に要する能力)との外 的な基準連関の側面からの検討を行うことに よって妥当性の検証がさらに進められなければ ならない. 上記さまざまな限界や課題を有しているもの の,本研究によって認知的観戦能力の構造が実 証され,他種目でも利用可能な汎用性の高い尺 度を作成できたことは,スポーツ経営の視点, 特にスポーツプロデュースの現場からの一定の 期待に応えることができたといえよう.今後数 年の間に国際的スポーツイベントが次々に行わ れ,国民のスポーツ観戦能力に大きな影響を与 えるであろう状況を考えると,得られた結果は スポーツ観戦能力研究の出発点となる.スポー ツ経営体はこれまで「ただ見せれば良い」と考 えていた経験主義に立った姿勢を今一度見直 し,観客に内在するスポーツ観戦能力を視野に 入れ,さらにはその構造を把握したうえで(潜 在的)観戦者に向けた事業を提供していくこと で,「ただ見る」スポーツ観戦から,スポーツ 文化を見据えた観戦空間を作り上げていくこと につながるであろう. 注 注 1 ) 宇土は観戦能力という名辞を直接的に示 していないが,スポーツ観戦時の観戦者の 価値が「良い悪い・高い低い・好き嫌いな ど,観戦者側から主観的に示される認知や価値判断を伴う.∼中略∼ 観戦者の示 す価値観は観戦者自身のスポーツ教養(ス ポーツの関わり方に影響する各種の知識, 理論)によって大きく違ってくる.」と示し ており,本研究と同様に観戦能力とその能 力としての知識と認知を明確に分けて認識 しているものと解釈できる. 注 2 ) 記者に対し面接調査を行った理由は,イ ンタビュイーが熟達した専門的職業人(記 者歴30 年以上)として「外面化」について 非常に高度な能力を有しており,ゆえに 「内面化」やそこで発揮される認知的観戦 能力についても的確にテキストとして表 現・回答できると考えたからである.面接 調査は一般人を対象とする質問紙の測定尺 度を開発することが目的であるので,一般 人に対する記事執筆を専門的職業とする記 者を選んだ.ほかに専門的職業人として コーチや競技経験の豊富なアスリートが考 えられる.コーチはアスリートに指導する ための指導技術としてのコーチング用語を 言語化できるように教育訓練されているか も知れないが,一般人に文章で説明する ための教育訓練を受けていない.またアス リートはそもそも一般人に説明するための 自身の競技内容を言語化する教育訓練を受 けていない.一方,記者自著の記事は社内 の複数人の校正者や編集者からのチェック を受けて新聞記事になる.不適切な表現を した場合には読者の投書や第三者機関の チェックも受ける.そのようなキャリアを 数十年積んでいる人物は測定尺度を開発す るための予備調査の対象として適切である と考えた.面接調査の実施及び結果概要は 付表1-1, 1-2 の通りである. 注 3 ) 書籍調査については,書籍通販サイト Amazonで,キーワードとして「観戦力」 でヒットした138 冊(2015 年11 月時点)の 図書から,タイトル(書名)に「観戦力」ま たは「観戦術」を含む図書を中心に我々が 入手できた図書16 冊について,全ての図 書を共同研究者が分担して精読し,執筆者 が表現している文章から構成概念に沿った 記述文章を抽出した.抽出した書籍につい ては執筆者のプロフィールを確認し,経歴 及び言説内容から当該スポーツ観戦につい て精通している高度な熟達者であることを 確認してから分析を行った.共同研究者の 分担作業によって,対象図書の言説から, 観戦能力を説明するであろうと考えられる テキストを抽出したところ,最初に689 個 の短文が抽出された.共同研究者が作業室 に集合の上,抽出されたテキスト文を読 み直し,その短文について,「知識」と「認 知」の関係に留意しながら,構成概念の下 位概念と整合させていき,重複する文章や 不適切な文章をとりのぞくという作業を 行った.分析対象図書は付表2 の通りであ る. 注 4 ) 調査対象種目をサッカーに限定した理由 を以下に述べる.まずサッカーはひろく観 戦型スポーツとして人々に知られているこ と.そして,サッカーの競技特性は,集団 的球技であるが,観戦者からすると観戦 対象となるゲーム現象には個人プレイと チームプレイの両面の要素を含んでいるこ とがあげられる.さらには,サッカー観戦 時には,特定の観戦能力に限定されずに, 本研究で我々が構成概念において設定した 能力のいずれかを用いて観戦していると想 定したからである.この場合の認知的観 戦能力はすべて可能態であり高低(初級者 ∼上級者)で測ることができると想定され る.たとえば,サッカーにも美的価値があ り,「芸術的なシュート」「感動的展開」な どは日常的に使われる表現である.観戦者 に美を感受する能力が高ければ,感動的展 開などの内容をより多く楽しめるが,美を 感受する能力が低ければ,あまり楽しめな いだろう.観戦者がサッカーの芸術的側面 を観戦しようとする場合もあるだろうし, 技術・戦術的側面を観戦しようとする場合 もある. 翻って,他の種目への一般化の可能性とし
ては,個人種目と捉えられている種目で あっても,個人レースに複数の人数による 連動性は見当たらないかも知れないが,多 くの「個人競技」と呼ばれる競技でもチー ムによる競技種目が存在し,いわゆるチー ムプレイをみることができる.陸上競技や 水泳におけるリレー,スピードスケートに おけるパシュート,テニスや卓球における ダブルスなどである.また,フィギュアス ケートのように一般的には美的要素が高い ように思われる種目であっても勝利するた めの戦略的合理性(たとえば,エッジの使 い方や,ジャンプのタイミングと膝関節の 角度,高得点を取るための戦術等)につい て観戦する場合もあるだろう.本研究の調 査においてはサッカーを対象としている が,最終的に明らかとなった場合の認知的 観戦能力は,様々なスポーツ種目での普遍 的共通要素として捉えられる. 注 5 ) 調査票においては当人が身につけている 認知行為の現状を調査対象者に尋ねるべき であると考え,質問文では「∼できる」と いう可能態で表記せず,あえて「∼してい る」という動態によって表記し,能力を働 かせている現状についての当てはまり度合 いを評定尺度にて回答してもらうべきと考 え,「【知識】について【認知】している」と いう構文を質問文の基準とした. 注 6 ) まずは仮分析として全サンプルを対 象に因子分析を試みたが,うまく収束 せ ず 納 得 の い く 結 果 を 得 ら れ な か っ た. そ の 理 由 と し て, 次 の こ と が 考 え ら れ た. 予 備 調 査 票 に お け る 質 問 文 は,「サッカーの試合を観るとき,あな たは下記の項目のような見かたをどの程 度しますか.それぞれの項目について もっとも近い番号を○で囲んでください.」 という文章であり,また,調査票の記述 と回収は大学の講義教室で行った.した がって,サッカー競技の経験者ではない学 生は,サッカーのゲーム現象を想起するこ と自体が難しく,そのためにプレ調査の質 問項目について回答することが難しかった のではないかと考えられた.そこでサッ カー経験者のみを抽出して因子分析を行 い,項目選択を試みることにした. 注 7 ) 予備調査の因子分析結果から削除された 項目は以下の通りである.NO9, 14, 16, 17, 22, 27, 28, 39, 42, 45, 55, 56, 65, 67, 78, 79, 80, 86, 87, 88, 89, 99, 100, 102, 103, 104, 106, 110, 111, 114, 115, 119. 注 8 ) F1 については大幅な項目削除を行った. 尺度開発においては拡散的思考法によりで きる限り多くの項目を設問したが,本調査 における探索的因子分析においては,構成 概念の妥当性を探索するために,収束的思 考法を用いた.予備調査ならびに本調査1 回目の探索的因子分析では類似する因子が 抽出された.すなわち探索的分析の経過に おいて構成概念で検討された知性の下位概 念を構成する各要素(評価,分析,予測, 注目)から作成された各々の尺度が同一因 子内に集中したため,解釈可能性の観点か ら構成概念の上位概念から解釈すべきであ る判断した. 付 記 本研究は,日本体育・スポーツ経営学会共 同研究プロジェクト「スポーツプロデュース研 究」(平成26∼29 年度)の成果の一部です.こ こに記して感謝いたします. 文 献
Bagozzi, R.P. and Yi, Y. (1988) On the evaluation of structural equation models. Journal of the Acad-emy of Marketing Science 16(1): 74–79.
醍醐笑部・木村和彦・作野誠一 (2016) ダンス映 像のプロダクト構造分析:スポーツ鑑賞授業 のための基礎的考察.体育・スポーツ経営学 研究29: 21–32. 出口順子 (2012) サッカー観戦者の認知について の研究—経験の差に着目して—.東海学園大 学研究紀要,社会科学研究編17: 55–72. Fornell, C. and Larcker, F.D. (1981) Evaluating
structural equation models with unobservable variables and measurement error. Journal of Mar-keting Research 18(1): 39–50.
ガルブレイス J.K. (2006) ゆたかな社会 決定版, 岩波書店.
Hair, J.F., Black, W., Babin, B., Anderson, R.E. and Tatham, R.L. (2009) Multivariate data Aanalysis (5th ed.), Prentice Hall: Upper Saddle River, NJ, USA. 樋口聡 (1987) スポーツの美学—スポーツの美の 哲学的探究.不昧堂出版. 池上惇 (1991) 文化経済学のすすめ.丸善,p.35. 石井英真 (2004) 「改訂版タキソンミー」にお ける教育目標・評価論に関する一考察:パ フォーマンス評価の位置づけを中心に.京都 大学大学院教育学研究科紀要50: 172–185. 国立教育政策研究所編 (2016) 資質・能力(理論 編),東洋館出版社. 光村図書出版 (2014) 中学校美術 I, p.3. 文部科学省 (2008) 中学校学習指導要領解説美術 編,p.13. 文部科学省 (2017) 第2 期スポーツ基本計画, p.21.
Nunnally, J.C. (1978) Psychometric Theory (2nd ed.). McGraw Hill: New York, NY, USA.
小塩真司 (2011) 第2 版 SPSS と Amos による心 理・調査データ解析—因子分析・共分散構造 分析まで.東京図書,p.140. 齊藤隆志 (2004) みるスポーツプロデュース論を めぐる問題整理—宇土プロデュース論の検討 を中心に—.体育・スポーツ経営学研究19: 19–30. 齊藤隆志 (2009) みるスポーツの価値を高めるマ ネジメント.体育・スポーツ経営学研究23: 1–9. 齊藤隆志 (2013) 観戦行動の概念枠組みの検討— 観るスポーツの文化価値創造マネジメントを 視野に入れて—.日本女子体育大学紀要43: 117–128. 齊藤隆志 (2015) みる力とはどのような能力か. 体育経営管理論集7: 46–53. 齊藤隆志・小野里真弓 (2004) 有効価値論から見 たみるスポーツにおける観戦能力と中核的便 益の関係.日本女子体育大学紀要34: 31–40. 宇土正彦 (1992) スポーツプロデュースの展望— スポーツ経営・学校体育への応用をめざし て—.体育・スポーツ経営学研究9(1): 63–73. 宇土正彦 (1993) スポーツプロデュースとスポー ツプロダクト.体育・スポーツ経営学研究 10(1): 1–6. 上野行一 (2011) 私の中の自由な美術.光村図書 出版,pp.101–106. 付表1-1 面接調査の概要
付表1-2 半構造化面接質問項目と主な回答とキーワード