1.問題の所在と本研究の目的
消費者教育推進法の施行以降,消費者教育の重要性は高まっているものの,いまだ浸透 しきれていない。学校教育における消費者教育の具体化を示した 1966 年 11 月の国民生活 審議会消費者部会による「消費者保護組織および消費者教育に関する答申」では,「経済 社会全体のうちにおける消費および消費者の意義を自覚させること」にも触れながら,当 時の学校教育における消費者教育の現状と問題として,次の点を挙げている。第一に,家 庭科を除けば散発的に各教科に入っているにすぎない。第二に,社会科では消費者教育は 部分的に取り上げられているが,消費の重要性を強調し,消費者の観点から経済社会を理 解させ,消費者としての権利と責任を自覚させるような意識に乏しい。第三に,商品知識 の基礎や家庭経営については,商業科や家庭科ではかなり取り扱われているが,生徒数が 限られている。したがって,市民教育として消費者教育を行うことはあまり期待できない。 第四に,現場の教職員に消費者教育を行うための知識や意欲が不足しており,再教育の機 〔報 文〕学校教育における消費者教育の新たな可能性と課題
New Possibilities and Challenges for Consumer Education in
School Education Programs
松葉口玲子
*(Reiko Matsubaguchi)
* 横浜国立大学(Yokohama National University)
The purpose of this study is to find new opportunities for mainstreaming consumer education into school education programs in accordance with revisions to courses of study published by the Ministry of Education, Japan in 2017. The reason for identifying the new opportunities above to mainstream consumer education is to ensure that the guidelines that have been set by the Ministry of Education, and the teaching of the subject in the classroom have the same goals and expectations. In this paper, after clarifying this relationship between the two, a need for teacher training emerged as a future subject.
PISA(programme for international student assessment),資質・能 力(competencies),主体的・対話的で深い学び(active learning), 社会に開かれた教育課程(education curricula open to the public), SDGs (sustainable development goals)
会も十分に与えられていない。その対策として,「学校における消費者教育は一部のもの だけを対象とした職業教育や家庭科教育としてのみでなく,広く一般教育の中に織り込ん で実施するべきである」ことを明記している(松葉口 2000)。その後,学習指導要領の 中に盛り込まれるようにはなったものの,50 年も前に示されていることが今日でもまだ 通用することには,あらためて驚かされる。 しかし,2017 年 3 月に公示された新学習指導要領(小中学校)において特記事項とし て消費者教育の重要性は明記されるとともに,高等学校においても成年年齢の引き下げと ともにその重要性はますます高まっている。このことをチャンスと捉え,学校教育におけ る消費者教育の新たな可能性を考究することが本研究の目的である。その際,目指す到達 点は,学校教育における消費者教育の主流化である。一見,無謀ともいえる試みではある が,日本における学習指導要領はじめ世界の教育政策動向に多大な影響を及ぼしている OECD の PISA(国際学力調査)や,その影響が反映された新学習指導要領における改訂 のポイントと照らし合わせて考察してみれば,不可能ではないことを明らかにしたい。そ の際,「教育」のグローバル・スタンダード化に無自覚に迎合することの危険性について も触れつつ,今後の課題について提示したい。 周知の通り,新学習指導要領ではその前文において,「あらゆる他者を価値ある存在と して尊重し,多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え,豊かな人生を切り 拓き,持続可能な社会の創り手となることができる」ことが明記された。同時に,重視す べき事項として消費者教育もあげられ,とりわけ家庭科においてその充実ぶりは顕著であ る。しかし,高校家庭科においては,家庭総合(4単位)ではなく家庭基礎(2単位)が 全国の 8 割を占めている現状などから時間不足であることはこれまでも指摘されてきた。 今回の改定で大きく変化するのは,高校である。「公共」の新設や「総合的な学習の時間」 が「総合的な探究の時間」へと名称変更される等,消費者教育との接点がますます重視さ れることが予想される。それだけに,教科・横断型の消費者教育は必須である。
2.PISA 出題例への着目
松葉口(2016 b)はすでに<新しい能力>と消費者教育との親和性について明ら か に し た が, 日 本 の 教 育 改 革 に も 多 大 な 影 響 を 与 え た PISA は,SDGs(Sustainable Development Goals)4.1 の指標として位置づけられるほどまでその影響力を増している。 しかし,2000 年の開始当初から様々な批判にさらされ,2014 年の「PISA 公開書簡」と その後の反対署名運動や PISA 論争等が展開されているように,その範囲拡大によるひず みも顕在化しており,安易に信望するのは危険であり十分な注意が必要である。たとえば, 2017 年の協同問題解決能力で日本の正答率が 13.7%(OECD 平均 17.5%)と低かった問題, すなわち,「僕が「地理」の問題をやるはずだったのに。みんな,自分が選んだ分野をや ろうよ。」が正答となる問題は,日本における現実世界においてこの発言をした場合,「空 気が読めない人」となってしまう。正答率が低かった背景が象徴するように,極めて単純 化された問題が出題されているケースもあるのである。こうした現状に対し,松下(2017)が提唱する「PISA を飼いならす(本質を知り,そ の影響をコントロール可能なものにする)」視点は重要であり,それを前提としつつ,ま ずは PISA の出題傾向からみる消費者教育の優位性についてみてみたい。 PISA 調査問題例(国立教育政策研究所)として出題されている事例をみてみると,た とえば「読解力」(2009 年)として「携帯電話の安全性に対する問題」,「数学的リテラシー」 (2003)として「為替レートに関する問題」,「科学的リテラシー」(2006 年)として「遺 伝子組み換え作物に関する問題」など,消費者教育のテーマそのものといえるような内容 である。特に「携帯電話」と「遺伝子組み換え作物」については,その当時,消費者団体 からの問題提起をはじめとする消費生活における「論点」(issue)となっていたものであ る。つまり,欧米における消費者教育においては,消費者問題について,明らかな「問題」 (problem)と意見が分かれる「論点」(issue)とを分けて考える必要性1)と同時に,前 者よりも後者の方を教材として使用することが重視されていたが,まさに「論点」(issue) にあたる問題が出題されていることは特筆すべきことである。 「携帯電話の安全性に関する問題」では,「携帯電話は危険ですか?」という設問に対し て「はい」「いいえ」それぞれの意見が複数列挙され(ディベートあるいはディスカッショ ン),各意見にもとづいて「携帯電話を使うときは」「こうしましょう」「やめましょう」 という具体的行動が提示されるとともに,傍らに「キー・ポイント」として,研究結果報 告書等の事実関係が紹介されている。これに対して,「キー・ポイント」がどのような目 的で書かれたものなのか,「はい」「いいえ」の主張内容と因果関係等について問くなど, 文脈の背後に意図されているものを読み解く能力をみる設問が設定されている。 また,「遺伝子組み換え作物に関する問題」では,「自然保護団体は新しい遺伝子組み換 えトウモロコシを禁止すべきだと要求している」から始まり,その理由を除草剤の有害性 とし,「一方,遺伝子組み換えトウモロコシの支持者たちは科学的研究がそのようなこと は起こらないことを示している」としたうえで,科学的研究の事実関係を示し,その研究 条件の根拠等について問う内容となっている。 つまり,現実世界における自らの意思決定に至る過程において必要なさまざまな情報を 客観的に分析する批判的思考力を反映した作問となっており,まさに消費者教育としての 内容といっても過言ではない。しかし翻って現在の学校教育における消費者教育の現状を 振り返ってみた場合,はたしてこのような授業実践が展開されているのかについては省察 する必要があるだろう。
3.新学習指導要領における可能性と課題
(1)コンピテンシーへの着目の先進性 2017 年告示の新学習指導要領の大きな特徴は,これまでの「内容(コンテンツ)ベース」 から「資質・能力(コンピテンシー)ベース」へと大きく転換した点にある。育成すべき「資質・ 能力」として,「生きて働く知識・技能の習得」「未知の状況にも対応できる思考力・判断 力・表現力等の育成」「学びを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力・人間性の涵養」の 3 本柱が,各教科の特質に応じた「見方・考え方」を通してすべての教科で示されると 同時に,「何を学んだか」だけでなく「何ができるか」が重視される。 ここであらためて気づかされるのが,消費者教育の先進性である。 すでに今井・中原(1994,235-238)は,消費者教育の効果評価について,認知領域で はなくコンピテンシーでみることの重要性を提示するとともに,1975 年の米国ペンシル バニア方式を紹介していたのである。ここで紹介されているコンピテンシーの定義,すな わち「人間がその必要とするモノやサービス,社会的グループや組織などのいろいろな環 境と人間らしく生きるために有効に相互作用する行動の力量あるいは能力のこと」とは, まさに OECD のキー・コンピテンシーと共通するものである。 (2)「社会に開かれた教育課程」と消費者教育推進地域協議部会 新学習指導要領ではその前文において,「持続可能な社会の創り手」が明記されると同 時に,「社会に開かれた教育課程」の必要性(文部科学省 2018a,b)が明記されている ことは,消費者教育の展開にとって有益である。 「社会に開かれた教育課程」とは,よりよい学校教育を通じてよりよい社会をつくると いう目標を共有し,社会と連携・協同しながら,未来の創り手となるために必要な資質・ 能力を育むことである。そこで重視されるのが,「カリキュラム・マネジメント」や「チー ム学校」である。「チーム学校」は狭義には,スクール・カウンセラー等の学校関連専門 職を指すが,広義には,保護者を含めて学校をとりまく地域における人材すべてを指すこ ともできる。消費者教育においては,生協等,消費生活に関わる何等かの団体の加入して いる保護者だけでなく,地域商店街で専門知識を有する大人たち等,多様な人材を活用す ることができると考えたい。 そこで想起するのは,消費者教育推進法に示された消費者教育推進地域協議会である。 福瀬(2017)が懸念するように,たとえば消費者教育推進地域協議会の設置が単なるアリ バイ作りになる危険性を秘めていたとしても,少なくとも消費者教育を推進するために地 域で協議するための場の存在がわかる名称を付した組織が位置づいていることは,当該地 域における消費者教育やその推進の必要性について可視化する可能性をもたらしたと,肯 定的に評価することもできるであろう。たとえば筆者も関わっている消費者教育推進地域 協議部会も独立した協議会ではなく,あくまでも既存の消費生活審議会内に部会の一つと して新設されたものであるため,当初は不服であった。しかし,少なくとも消費者教育に 関する部会が一つ新設された意味は大きいと肯定的に捉え,学校教育における消費者教育 を促進するうえでは当初はメンバーに入っていなかった教育委員会関係者を何とか巻き込 むことが不可欠と考え,消費者教育の実績のある有力者に直接的に働きかけるとともに消 費者行政担当者にもお願いして,具体的議論を進める際には加わっていただくことを実現 した。そして,地域を代表する他のメンバーとの議論の結果,地域商店の有する日本文化 の伝承を学校教育に入れながら消費者教育を展開することによって地域商店街の活性化に もつなげるという授業実践すなわち「社会に開かれた教育課程」の実現性が一気に進展し た。またこのことを母体である審議会内で報告したところ,消費者教育の重要性に初めて
気づいてくれた委員もおり,思いがけず議論が活発化し,既存の他部会よりもむしろ目立 つこととなった。要は,どのような形であれ,まずは我々のような消費者教育関係者が与 えられたファースト・ステップをチャンスと捉え,内容を実質化していくには何が必要か を考えて工夫する努力をして関係各所に仕掛けていくことが重要である。そうでなければ, 「市民」になることすら国家の法律で規定されなくてはならない消費者教育が,さらに自 治体行政にまでお膳立てしてもらわなくてはならないという矛盾を孕む危険性もある。 (3)「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング) アクティブ・ラーニングについてはあえて言うまでもなく,消費者教育では従来から重 視されてきた。図1は,アクティブ・ラーニングに伴い,「探究的な学習」の説明によく 使用されるものである。文部科学省(2011)によれば,「探究的な学習」とは,「課題の設定」「情 報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」といった問題解決的な活動が発展的に繰り返さ れていく一連の学習活動である。 図1 探究的な学習における児童の学習の姿 出所)文部科学省(2011,17) これをみれば,消費者教育における「意思決定プロセス」と類似していることだけでな く,むしろ今井(1994,158)による「螺旋方式による消費者教育のシステム」(図2)の 方が,ブレーンストーミング,ロールプレイング,ゲーム,シミュレーション・ゲームなど, といった具体的な教育方法も図中に組み込んだ精緻なものとなっていることがわかる。 また,花城(1994)が詳細に検討している意思決定における批判的思考(クリティカル・ シンキング)の重要性についても,今日においても遜色はない。 このように,消費者教育の理論上は先進性があった。しかし,それが実際の学校現場に おいて「深い学び」になっていたかについては省察する必要があろう。その背景には,授 業時間の不足という問題があったことは否めない。それだけに,総合的な学習の時間や他 教科との教科横断型によって「探究型消費者教育」の実現にむけたカリキュラム・マネジ 課題の設定 情報の収集 まとめ・表現 整理・分析 ■日常生活や社会に 目を向け、児童が自 ら課題を設定する。 ■研究の過程を経由 する。 ①課題の設定 ②情報の収集 ③整理・分析 ④まとめ・表現 ■自らの考えや課題 が新たに更新され、 研究の過程が繰り返 される。
メントが重要となる。その際,松葉口(2017)で提唱した「消費者教育カレンダー」的な ものの作成を教員の協同や校長のリーダーシップによって試みるのも一案である。ここで は,家庭科を核として各教科とのつながりを可視化することを提案したが,新学習指導要 領における家庭科では,見方・考え方の一つに「持続可能な社会の構築に向けて」が挙げ られている。さらに学習過程も,「生活の課題発見」「解決方法の検討と計画」「課題解決 に向けた実践活動」「実践活動の評価・改善」といった一連の流れを通した「家庭・地域 での実践」を繰り返し,消費者教育におけるスパイラルな学び(図2)と類似している。 したがって,従来から言われているように,社会科との連携はもちろんのこと,「データ 活用」が登場した算数・数学や,高校では新設の「公共」との連携等,これまで以上に教 科横断の可能性は広がってくる。 すでにある実践のなかで,消費者教育と名付けずとも通底する実践に着目することも必 要だろう。たとえば総合的な学習で長い歴史を有する奈良女子大学附属小学校2)におけ る生活科・総合的学習授業研究会(2017 年 7 月)での「わたしたちとお菓子∼長く続き スナック菓子のひみつを探ろう∼」は,その「カリキュラムの要諦」として次の 6 点すな わち,1)生活を向上する,2)思考活動によって学びを構造化する,3)直接経験を伴う, 4)情動,事実,情報,学友の考えをつなげて考えをつくる,5)学習者の発達に応じた 図2 螺旋方式による消費者教育のシステム(一部省略) 出所)今井・中原(1994,158) 動機 欲求 目的 情報 意思決定能力の 螺旋状開発過程 価値 ① 問 題 の 自 覚 責任⑥ ④ ⑤ 決定 ② ③ ライフ スタイル 高い 生活の質 低い 生活の質 問題認識 意思決定 行動 ブレーンストーミング ロールプレイング ケーススタディ ゲーム シミュレーション・ゲーム など 解 決策のアイディア 価 値 づ け 比 較 考 慮 性格 資源 価値 づ け
葛藤場面がある,6)子,親,教師が三位一体となって知の追求を楽しむ,であった。「お 菓子」を多面的に追求することだけでなく,田畑を開墾してお菓子をつくる穀物を育てる 活動もしたうえで,現代的なお菓子と,伝統的なお菓子の比較を通して,長く続くための 秘訣について考究する展開となっている。ここでは「消費者教育」という用語は登場しな い。しかし,まさに「持続可能な消費と生産」につながる「探究型消費者教育」ともいえ る実践であった。したがって,さらに家庭科や社会科における「消費者の願い」と繋げる 等,教科横断型にすることによって,「学び」がより有機的に深いものとなるはずである。 また,ともすればケーススタディから処方箋を学ぶことの多かった消費者教育にとって, 今後は「子どものための哲学」3)への着目も重要である。これはリップマンが創始した対 話型の哲学教育により思考力育成をはかろうとするもので,身近なテーマを題材として, 自分たち自身でテーマを決め,意見を表明しあって問題についての理解や考察を深めなが らも,必ずしも一つの結論は出なくてもよい,といったタイプの対話を行うものである。「自 分の思い込みや先入観を他者の意見によって吟味していく過程の中で,批判的で,創造的 で,そして何かをケアし育んでいくような思考力を成長させていく」(リップマン 2014, 451-452)ことは,消費者教育にとって極めて重要である。 「○○しましょう」といった価値の方向付けはなく,ひたすら多面的に追求するのである。 そうこうするうち,子どもたちの口から自然と,「○○した方がいいのではないか」といっ た発言が出てくる。まさに,一つのテーマを多様な角度から検討することから内発的に表 出する思考力・判断力・表現力である。そこに至るまでには当然のことながら相当な時間 がかかるため,教師の側にはこれまで以上に「待つ」姿勢が重要となる。つまり,これま であった教師像からの転換が求められるのである。
4.課題としての教員養成・研修
松葉口(2017)は,「主体的・対話的で深い学び」を実現する環境教育にとって,消費 者教育との連接が,ともすればバーチャルな学びに陥る危険性を「身体性」を伴うリアル なものにするうえで重要であることについて論じた。しかしその一方で,消費者教育につ いてみてみれば,コンテンツ・ベースに偏っていないかという注意が必要であろう。たと えば近年多くみられるフェアトレードに関わる実践では,国際協力系団体が作成した視聴 覚映像を見た後,バレンタインデーに向けてフェアトレードチョコを使用した調理実習と いうパターンが散見される。しかし,近年出回っているフェアトレード商品の中には,フェ アトレード率が 100%ではなく 10%と表記されているものがあることを知らない教師も多 い。また,限られた授業時間を有効利用するためにも,チョコレート製作に有する時間を もっと多面的に思考する力をつけるための時間として活用することの方が重要なのではな いだろうか。さらに,さまざまな意見が出てきた際に,教師の思考枠組みを超越した意見 を否定的に捉えることがないような柔軟性も重要である。筆者が参加する授業見学の際に も,たとえば「ロボットを作って・・」という現代の子どもならでは発想に対し,ともす れば教師が否定的であることが見受けられる。つまり,「正しい答えに導く」従来型の教師像を転換し,「答えなき答えをともに探す」姿 勢が求められているのである。消費者教育に関する教員養成や研修の必要性については従 来から指摘されてきたが,そのあり方についても転換が必要だということである。 <新しい能力>等の学力観に伴なう新しい評価方法についての検討も必要である。パ フォーマンス評価やルーブリック(評価基準表)4)を使用した消費者教育については,す でに神山(たとえば神山 2017)が実践しているが,ポートフォリオ評価等も含めて,今 後の検討が重要となる。 消費者教育はこれまでどちらかといえば消費者政策からのアプローチによる議論が多 かったが,学校教育における主流化にむけては教育政策からのアプローチがさらに必要で あろう5)。
結語
冒頭で示した PISA への懸念だけでなく,アクティブ・ラーニングについても,西岡 (2017)は,日米におけるアクティブ・ラーニング論の成立と展開について検討し,アクティ ブ・ラーニングを推進する日米の政策の背景には共通して,国際的競争力の向上という意 図があったことを明らかにしている。SDGs がその以前の MGDs と異なり日本において 盛り上がっている背景にも,企業憲章の中で盛り込むほどのビジネスチャンスが見込まれ ていることがあげられる。OECD は近年,金融教育も含めながらその影響力を教育界に 増大させているが,UNESCO とは違って,その背景に「経済主体」の性格を有すること も忘れてはなるまい。今日の格差・分断社会(地域商店街の衰退などを含む)の背景には, 単なる資本主義ではなく「金融資本主義」があるのではないかともいわれる今日,消費者 「教育」に携わる者としては,かつて地域通貨が注目された時のように,「金融」そのもの を問う姿勢を忘れてはなるまい。 こうした「教育」と「経済」の微妙な関係を自覚的に見極めながら,消費者教育の深化 を遂げていくことが必要である。 注 1 )たとえばバニスターとモンスマの『消費者教育における諸概念の分類』(Bannister, R & Monsma, C. 1982,24-25) においても,「概念:1.3 意思決定プロセス」の「1.3.1」に明示さ れている。 2 )松葉口(2017)で「生活科・総合的な学習の時間 前史」として一覧に示した通り,大正新 教育の木下竹次による「奈良の学習法」や戦後の「奈良プラン」(「しごと」「けいこ」「なかよ し」の教育構造)を 100 年に渡り継承している。 3 )筆者が近年関わっているお茶の水女子大学附属小学校はこの実践を行っている。 4 )筆者が勤務する横浜国立大学でもシラバス内の評価部分にルーブリック記載欄が設けられて いる。 5 )松葉口(2018)は,消費者教育を教育制度論の中に組み込んだささやかな試みである。さらに,1980 年初期に展開された山口富造や宮坂広作ら社会教育学からの視点も現代的に継続発 展させる必要があろう。 <引用文献> 今井光映・中原秀樹編(1994),消費者教育論,有斐閣ブックス 神山久美(2017),教育実践学−消費者教育の指導と評価,西村隆男編著『消費者教育学の地平』 慶應義塾大学出版会,113-134.
国立教育政策研究所,OECD 生徒の学習到達度調査∼ PISA 調査問題例∼ http://www.mext. go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2010/12/07/1284443_02.pdf (2018.1.4 確認) 西岡加名恵(2017),日米におけるアクティブ・ラーニング論の成立と展開,教育学研究(日本 教育学会誌),第 84 巻第3号,25-33. 花城梨枝子(1994),消費者教育における意思決定−批判的思考能力の開発−,前掲:今井・中原編, 299-318. 福瀬尚志(2017),自治体における消費者市民教育の優先順位,消費者教育,第 37 冊,1-10. マシュー・リップマン/河野哲也・土屋陽介・村瀬智之監訳(2014)探究の共同体−考えるため の教室,玉川大学出版部 松下佳代(2017),グローバルな機能的リテラシーとしての PISA −日本の教育改革への影響の 批判的検討−(「今こそ PISA を問い直す−学力のグローバル・スタンダードをめぐるポリティ クス」2017.12.16 開催,上智大学グローバル・コンサーン研究所,第 37 回国際シンポジウム資料) 松葉口玲子(2000),持続可能な社会のための消費者教育−環境・消費・ジェンダー−,近代文芸社, 292-293. 松葉口玲子(2016a),グローバル・スタンダード時代における学力/能力−ケアリングとジェン ダーの視点から−,諏訪哲郎監修『持続可能な未来のための教職論』,学文社,78-96. 松葉口玲子(2016b),<新しい能力>と「消費者市民」時代における消費者教育再考−環境教育 / ESD の動向を射程に入れて−,消費者教育,第 36 冊,13-21. 松葉口玲子(2017),「主体的・対話的で深い学び」を実現する環境教育−家庭科教育の視点から, 環境教育(日本環境教育学会誌),Vo.26-3,39-44. 松葉口玲子(2018),消費者市民育成にむけた教育制度−消費行動から持続可能な未来を創る−, 小玉敏也・鈴木敏正・降旗信一編著『持続可能な未来のための教育制度論』(「ESD でひらく未来」 シリーズ),学文社,60-79. 文部科学省(2011),今求められる力を高める総合的な学習の時間の展開(小学校編) 文部科学省(2018a),小学校学習指導要領(平成 29 年告示)東洋館出版社 文部科学省(2018b),中学校学習指導要領(平成 29 年告示)栗山書房
Bannister, R& Monsma, C. (1982)“Classification of Concepts in Consumer Education”. South-Western Publishing Co.