現代監査 No.30(2020.3) 22
解 題
監査を巡る規制と監査の品質
吉 見 宏
Ⅰ はじめに
監査を巡る規制の変更は,めまぐるしく行わ れている感がある。それは,監査が規制と本質 的に密接な関係を持っているからであり,規制 の制定・改訂が必要とされる事象が,監査に関 連して多く生じているからにほかならない。 一方で,規制に関しては,原則主義であるべ きかあるいは準則主義であるべきかなど,その あり方には議論がある。規制がなければ実務が 成り立たないとする指摘の一方で,過度な規制 は実務を拘束し,あらたな監査実務の発展を阻 害するという指摘もありうる。そして近年では, 特に「監査の品質」への注目から,監査の品質 を高めるための規制とはどのようなものなのか, すなわち,監査を巡る規制と監査の品質との関 係はどのように理解されるべきかが重要な論点 となってきている。 日本監査研究学会第42回全国大会における統 一論題は,「監査を巡る規制のあり方―高品質 な監査を目指して―」であった。これは,上述 のような研究課題に応えようとするものであっ たといえよう。本稿は,当該学会において,統 一論題報告を行った各論者の研究成果に基づい て,明らかにされるべき論点を整理するもので ある。Ⅱ 研究の視点
統一論題報告を担った4氏の研究の視座をま とめると,以下のようになる。 永見[2020]は,英国を範にとって,その監 査規制の展開を論じている。私見では,英国は 慣習法である英米法にも続く法体系を持つ国で あり,少なくとも国家が定める法という形での 規制は,最小限に止めてきた法制史を持つと考 えられる。それは,会計及び監査における規制 においても同様である。永見[2020]では,監 査品質に対する規制は公的機関であるFRCが そ の 最 終 的 な 権 限 を 持 つ も の の, 米 国 の PCAOBと比較するとそのあり方はかなり異な るものであった。一方で,英国における企業の 倒産等を背景に,FRCの解体を含む規制改革 が提案されてきており,歴史的には会計専門職 の自己規制から国による監視へ指向する傾向が 見られる,と指摘する。 これに対し,弥永[2020]は,わが国の監査 を巡る規制を注視する。すなわちここでは,わ が国の監査の基準の変遷を概観した上で,監査 の中で法が干渉している領域とそうではない領 域を区分する。その上で,監査の基準は,法が 干渉しない領域にあることを指摘している。 髙田[2020]は,監査規制に関わる実証研究 の展開を概観し,その成果を評価した上で,高 *論文受付日:2019年10月25日。現代監査 No.30(2020.3) 監査を巡る規制と監査の品質 23 品質な監査を目指すための規制のあり方という 観点からの実証研究には,限界があることを指 摘する。すなわちそれは,アーカイバル実証研 究が,存在するデータに基づく分析であるとい う性質上,過去指向的にならざるを得ないのに 対して,規制のあり方を探る試みは将来指向の ものであるからである。実証研究では,なされ た規制が期待された帰結を生んでいるかを検証 し,必ずしもそうではないという結果が出たの であれば規制を見直す,という必要性があるこ とを指摘する。 このほか,松永幸廣氏(京都監査法人・公認 会計士)の報告では,実務家の立場から,監査 実務においてより高い監査品質が求められる中 で何が生じているかを論じた。そこでは,期待 される監査の品質レベルが近年高度化しており, 監査規制がそれを求めていることが確認された。 その上で,その規制への対応にあたって,実務 上多くの問題点を擁し,実務対応の負担は大き いことは事実であるものの,高品質な監査に向 けて規制が寄与していることを指摘した。
Ⅲ 論点の検討
統一論題報告において報告者4氏によって呈 示された論点は多岐にわたるが,それらを包括 的にまとめると以下の5点が考えられる。 1.監査の基準を策定するのは誰か 監査規制をより具体的には「監査の基準」と して理解すると,監査に対して規制をなす主体 は監査の基準の策定(設定)者となる。歴史的 には,監査の基準は会計専門職ないし会計専門 職団体がこれを策定してきたが,企業不正や倒 産にあたって監査の失敗が指摘され,これを契 機により「独立」した機関等にその設定権限が 移行される傾向がある。監査の基準の策定が会 計専門職の自主規制の一環であると理解される のであれば,この傾向は自主規制の縮小を意味 する。これは,監査の品質を高めることに寄与 するのであろうか。あるいは,高品質な監査の ためには,誰が監査の基準の策定者となるべき なのであろうか。 2.誰が監査の品質を保証するのか 品質管理レビューは,会計専門職が自主規制 の一般として行う監査の品質保証であると考え られる。また,規制当局による検査も,監査の 品質保証のために行われている。これらはいず れも,「監査の見える化」のためのプロセスと いえるが,これらは階層的に,比喩的にいえば 屋上屋を重ねる構造になる(吉見[2019])。監 査の品質は,このような構造の中で保証され得 るのか。あるいは,最終的に誰が監査の保証を 行えば高品質な監査は実現するのか。 3.不正の発見・防止が監査に求められるのは なぜか 3.の論点にあるように,規制の強化,変更 とそれによる高品質な監査への指向は,企業不 正や倒産がその契機となってきたことは否めな い。では,監査の高品質化とは,不正の発見・ 防止に寄与するためのものなのか。 不正と監査の関係は,監査期待ギャップ問題 にその検討の必要性を求めることはできる。し かし,監査期待ギャップという現象自体は,社 会が監査に不正の発見・防止を期待していると いう事実でしかなく,これに監査が対応するこ とが,監査の品質を高めることになるのであろ うか。現代監査 No.30(2020.3) 24 4.監査規制は,不正を発見・防止するために 効果があるのか 4.に関連して,監査規制が不正を発見・防 止に指向して改訂されてきたとしても,果たし てその効果は現実に生じているのか。これらの 検証を,研究者はどのように行っていけばよい のか。そしてそれは,監査の高品質化に寄与す るのか。 5.監査を巡る規制は,どのように改訂されて いくべきなのか 監査の高品質化を念頭に置いたときに,監査 を巡る規制の改訂は,どのような理念と方向性 を持つべきなのか。監査実務において,監査人 に過重な負担を課すことなく,監査人が主体的 な監査判断を発揮できるような環境を確保しつ つ,監査の高品質化を目指すためには,特に理 論的視点に立ったときに,監査規制のあり方を どのように位置づけ得るのか。