はしがき
本書は,ラプラス変換とその微分方程式の解法への応用につい て,初歩的内容からゆっくりと解説した本です.理工系大学2 年 次生程度の数学予備知識をもっているけれども,ラプラス変換を全 く知らないというような方を読者に想定しました.ここでいう予備 知識とは「大学初年級の微積分」と「常微分方程式のごく初歩的内 容」です.大学によって事情は異なるでしょうが,ラプラス変換は 「応用数学」とか「応用解析」等という名前の科目の中で一つの単 元として扱われ,ごく簡単に済まされることもあるようです.ラプ ラス変換について消化不良のまま専門課程に進んでしまった理工系 3,4 年生や一般の方たちも読者として大歓迎です. ほとんどすべての微積分の本では,一変数関数を扱う際に独立変 数はx を用いて,f(x) とか y = y(x) などと書かれています.そし て,読者のみなさまは講義などを受けた際に,「x を用いなければ ならない絶対の理由はなくて,f(t) とか f(u) とか f(ξ) などと表 しても何の問題ないのだが,昔からの慣習でx を用いることが普 通である」などと説明を受けたことがあることと思います.一方, ラプラス変換の教科書では,慣習に従うと,一変数関数を扱う際に は独立変数はt を用い f(t) とか y = y(t) と表すことがほとんどでvi はしがき す.本書でもそれに従います.t はもともと時間を表す変数によく 用いられ,時間に関して変化する量に対してラプラス変換が応用さ れることが多いのが理由でしょう. ラプラス変換の醍醐味は, ステップ1 現実世界の問題をある仮想世界へ持ってゆく ステップ2 その仮想世界で問題を解く ステップ3 ステップ 2 で解いた解を現実世界に持ち帰る という手順で問題を解決するところにあります.ステップ2 で現 れる仮想世界は,どこか見覚えのある風景であり,親近感を覚える ことでしょう.本書で,この醍醐味の味わい方を習得してもらえれ ば,著者にとってこのうえない喜びです.なお,本書を通じて,筆 者が思うところの「かんどころ」は,下線を引いて強調しました. 冒頭にも書きましたが,本書を読むのに必要な予備知識は,大学 初年級の微分積分学と常微分方程式論のごく初歩的内容のみと想定 しました.そのためもあって,逆ラプラス変換を求めるための直接 的な方法(これを理解するには複素解析の知識が必要で,フーリエ 解析についても勉強済みであることが望ましい)は取り扱うことが できませんでした.これについては巻末に挙げた関連図書[2],[3] などで勉強されることをお勧めするに留めたいと思います. 筆者が大学に入学したてのとき,数列や関数の極限に登場する ε-δ 論法に面食らいました.ひょっとして数学科に進学したこの 先,大学での数学についていけるのか不安になったのを今でもよ く覚えています.そんなとき,幸運にも(本シリーズの前身)数学 ワンポイント双書「イプシロンデルタ」を手にとって,ε-δ 論法と はなるほどこういうものかと理解できました.そのときの恩返しを するつもりで本書を執筆しました.
vii 本書の執筆を勧めてくださった桑田孝泰 東海大学教授には,草 稿を隅から隅まで読んでいただき,誤りの指摘や,より適切な内容 への助言をいただきました.そして,和田成夫 東京電機大学教授 には,第1 章について貴重な助言をいただきました.深く感謝申 し上げます.また,挿絵を描いてくださった飯高順氏,本書執筆に 多大なサポートをいただいた共立出版編集制作部の野口訓子氏に も,ここに感謝の意を表します. 2012 年 6 月 國分 雅敏