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作文の評価 : 評価者の特性(母語の相違)に着目して

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1.はじめに

作文の評価

評価者の特性(母語の相違)に着目して

宮 島 良 子

大学院での研究や進学を目的とした日本語教育においては,単に日本語能力の育成だけ ではなく,

I

論理的思考力」を基礎としたアカデミック・ライティング能力の育成も求め られている。そのため,そこで教える教師には, 日本語ネイティフ、、かノンネイティブ、かに 関係なく,日本語学習者が書いた日本語による論理的記述(以下,作文)を適切に評価し, 指導を行うことが求められる。 田中・長坂

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が 「パフォーマンス評価としてのライティング評価は, 真正性は 高いが,人聞による評価であるが故にその限界もある。限界を認識しつつ,他者の評価・ 意見に耳を傾け,自らの評価を省見ることが重要」 であると述べているように日本語教師 が作文の評価を行う上で,

I

論理的」であるとはどういうものであると捉えているのか自 覚しておくことは,指導する教師自身の内省にとっても重要なことである。 大学院への進学を前提とした日本語教育機関の一例として, 日本語で日本法について研 究できる人材を育成することを目的に設置されている, 日本法教育研究センター1(以下, センター)がある。ここでは,法学分野の作文教育が行われてきている。センターの学生 は,現地の大学における学部4年間の専門教育 (法学または行政学)と並行して,法学 分野の専門日本語を学ぶ。一部の学生は,センター在籍中に日本語能力試験Nlに合格す るレベルに達することはある。しかし, 日本の大学院への進学にあたって求められる,作 文能力をどのように育てるのかが課題となっている。これまでの研究で,作文能力には, 母語の修辞構造や教育などによって違いがあり,作文評価には,評価者の学習経験,職業, 言語 圏 , 文 化 固 な ど 様 々 な 要 因 が 複 雑 多 岐 に 絡 み 合 っ て 影 響 す る と 考 え ら れ て い る

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そこで,本研究では,大学・大学院進学を目指す予備教育機関等で重視されてきている, 日本留学試験 (EJU)2の記述問題3を評価する過程を観察し,センターで教えている日本 語教師が,作文能力をどのように評価しているのかについて見ることを通して,作文教育

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上留意すべき点について探る。

2

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先 行 研 究

作文評価に関する研究は,英語教育分野では 1986年に米国の EducationalTesting Serviceが実施する TOEFL(Testof English as a foreign Language)にTWE(Testof Written English)が導入されていることなどもあってか,比較的多く行なわれてきてい る。評価者トレーニングについての研究,評価基準についての研究,タスクについての研 究などがある。母語の違いや専門の違いといった評価者の特性による評価の違いについて の研究としては, Kobayashi (1992), Shi(2001),中西・赤堀 (2004)などがある。 日本語教育分野ては評価基準や信頼性についての研究があるものの,日本語ノンネイティ ブ教師の作文評価に関する研究はほとんどない。 日本語教育分野における作文評価の研究では評価者のほとんどは日本語ネイティブであ り(田中・長坂2009,田中・阿部2014など), 日本語ネイティブを対象としているもの (方2018など)は稀少である。これは, 当該分野における,教師の分業意識,つまり, 作文の指導や評価はネイティブが行うものという意識の表れと解釈されうる。しかしなが ら,海外の日本語教師の約7割を日本語ノンネイティブ教師が占める現状において,彼 らがどのように作文評価を行うのかを知ることは大きな意味があると考える。 評価者の特性に注目した研究としては,日本人教師及び一般日本人を比較したもの(田 中ほか 1998), 日本語教育学を専攻するネイティブ大学院生とノンネイティブ大学院生 を対象としたもの(村上200,1 Miyajima 2007,宮島2018),専門の異なる評価者によ るもの(宮島2016)がある程度である。また,これらでは,以下の相反する結果が報告 されている。それは,許容できる範囲が狭く,模範的な回答以外は誤用であると感じてし まうためにネイティブよりもノンネイティブの評価の方が厳しいというものと, 書き手と 母語や母文化を共有していることによって,書き手の意図していることを理解することが 容易であるなどして,ネイティブよりもノンネイティブの評価の方が甘いというものであ る。しかし,いずれも採点結果を踏まえての考察のみであり,その過程で何が起きてい るのかや,その理由や背景については検証されてはし、なL、。 作文の評価に影響する要因として,たとえば手紙文などは,社会言語学の要素が大きく 含まれ,読み手に与える親疎や好悪などの印象は,母語や母文化によって異なるであろう ことは外国語学習者であれば,誰もが気付くことであろう。しかし,意見文などの作文の 場合はどうであろうか。評価者が作文について,どのような見解を持っているのかに影響 するものと予想されるが,それには評価者の母語や母文化の相違による影響はどのように 出るのであろうか。本稿では,作文の教育を考えていく上で,そのような評価者の特性が 作文評価にどのような影響を与えているのかを詳細に見ていく。

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評価とは,作文の読み手でもある評価者と,課題,作文,評価基準の 3っとの相互作 用の結果である (Lumley2005; Weigle2002)と言われている。そこで,評価者がそれ らをどのように捉えたのかについて,実際の評価行動やインタビューをもとにまとめるこ とにする。 作文を評価する際には,書き手の意図が読み手に伝達されているかどうかが重要であり, コミュニケーション上の問題点があれば,それを指摘できる能力が求められると考えられ る。そのような評価能力の有無を,各評価者が課題に即した答えをどのように想定し,心 理的な影響を含め,どのように評価をし,採点へと至ったのかを発話思考法やインタビ、ュ一 等での調査から得られた情報を整理し, 具体例を紹介し,提言を行う。 本調査では,ベトナムとモンゴルのセンターで日本語教育を担当しているネイティブと ノンネイティブの教師の作文評価を,収集,分析,比較する。その結果から,その特性が 評価にどのような影響を与えているのか,評価の実態から検討する。

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調査

3

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1.実験調査の方法 評価の過程において何が起こっているのかを知るために,まずは発話思考法を用いて採 点してもらう。但し,本調査の前に実施した予備調査によって,誰もが思考をスムーズに 言語化し,発話できるわけではないことが判明している上,同時にいくつかの処理(例: 読み,解釈,分類など)が行われている場合,即時に言語化されていない部分は見落され てしまうことは容易に想像される。そのため, 言語化ができなかった場合には,採点決定 後に,ビデオ録画映像を見ながら振り返る,再生刺激法を用いる。また,フォローアップ・ インタビュー,質問紙調査も併用し,データ収集の手法上の課題を補う。実験は,すべて 録音し,文字化データ(以下,テクスト)にする。

3

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2

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素材文 評価の対象とする,素材文となる作文の書き手の国籍はカンボジアである。いずれの評 価者にとっても母国語や母文化を共有しない書き手の作文を対象とした。彼らは法学部の 2年生で, 日本語学習期間が 1年6ヶ月の時点で当該作文を書いた。同じ時期に日本語を 学び始めており,来日経験は無い。約20名の中から, 日本語能力が,センター内のクラ スルームテストの結果や日本語能力試験の結果がほぼ同レベルであるものを3点選んだ。 この素材文を書いた3名は,同じ課題についてセンタ一入学前に,母国語であるクメー ル語で書いた作文の評価についても同等レベルであると評価されている。つまり,ほほ同 レベルのライティング能力を母語の作文においては,持っていると考えられる。彼らが書 いた作文は,それぞれ①440字,10行, ②394字, 10行, ③348字,8行である。なお,

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これまでの研究で字の美醜などが評価に影響を与えることはわかっているため,その要因 の排除を目的に,元々は手書きであったものをタイピングし直して使用した。 まずは,素材文①を使って,採点し,実験に問題がなければ,続けて評価を実施し,疑 問などの問題があれば,受け付けた。また,順序効果を避けるため,素材文②と③はラン ダムに行った。

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3

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評価者 評価者は,モンゴルとベトナムにあるセンターの日本語教師である。上述したように, ネイティブ日本語教師同様,ノンネイティブ日本語教師にとっても素材文の書き手と母国 語や母文化を共有しない形で実施した。 評価者の母国語の 1つであるモンゴ、ル語は比較的日本語に文法が似通っている。また, もう 1つのベトナム語は漢語由来の語嚢が豊富である。これらの言語的な背景もあり, この二つのセンターには,それぞれ上級レベルの日本語能力を持った教師が在籍している。 実験協力者は各センターのネイティブ日本語教師

3

名,ノンネイティブ日本語教師

2

名 である。モンゴルで教えるネイティブ教師はJTM,ノンネイティブ教師は MT,同様に ベトナムで教えるネイティブ教師はJTV,ノンネイティブ教師は VTとし,個別には, JTMlなどと記す。全体平均年齢36.9歳 (SD=9.37,54 歳 ~28 歳), 日本教育歴平均 6.64(SD=6.77年, 25 年 ~2 年),全員女性である。学歴は, JTV ,1 JTM ,1 VT ,1 VT 2, MT2の5名は日本語教育学関連の修士, MTlは博士,後の 4名は学士である。 JTVlはさらに法科大学院を修了しており, 日本語教育学という視点と法学という二つの 視点を有している存在であると言える。 素材文の書き手に関しての情報は,学習期間についてのみを伝え,どの国の学生のもの であるか等の情報は伏せた状態で実験を実施した。

4

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結果と考察 4. 1.評価者の評価基準と採点結果 評価者自身が自己申告した独自の評価基準を以下,表1にまとめた。 以上から,似通っている部分はあるものの,それぞれ異なる評価基準で評価しているこ とがわかる。なお, VTlとMT2は手書きのものであれば,教育効果を考え,字の読み やすさや美醜などを評価項目に入れたいと述べたが,今回はタイピングしたものを評価す るため,考慮しないことを確認した。 それぞれの基準による採点結果は,以下の通りである。 ①?③は素材文の番号で,表2 は独自の評価基準で100点満点での採点,表 3は共通の評価基準を使用した 50点満点で の採点の結果を2倍にしたものである。

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表1学習課題の達成に関する認識について 評価者 JTV1 ]TV2 ]TV3 VT1 VT2 評価項目 ①内容面 (50) ①立場が明確に表明できてい ① 内容 (40) ①論理的か (30) ①餓成 (30) (配点) 一貫性 るか (20) ② 表記 (30) (課題に沿っているか, ②内容 (50) 説得力 ②理由がわかりやすL、か (20)③ 文法 (30) 理 由 を ま と め て書い ③言葉逃い (20) 反対説への言及 ③意見に説得力があるか (20) ているか) ②言語面 (50) ④日本語が適切か (20) ②文法 (30) わかりやすさ 不適切一つにつき減点2 ③言葉遣い (30) t J品文,語誌の使用 (文体の不統一減点5) ④誤字 (10) バ ラ エ テ ィ (漢 字 ⑤日本語の誤用 (20) の使用) 誤用一つにつき減点2 文法的な正確さ 文体の一貫性 JT恥11 JTM2 JTM3 MT1 MT2 ①日本語の正確さ (25) ①文法 (40)(表現含む) ①構成 (70) ①内容 (25) ①内容 (50) ②文の流れ (前後のつながり)(25) ②表記 (20) ②文法 (30) 課題に沿っているか ②文法 (25) ③課題の達成 (25) ③内容 (20) ②文法 (25) ③構成 (25) ④論理展開 (25) ④構成 (20) ③話i誌の選択 (25) ④構成 (25) 表2独自の評価基準による採点結果(太字は最高点) JTV1 JTV2 JTV3 VT1 VT2 ]TM1 JTM2 JTM3 MT1 MT2 ① 60 60 60 40 70 70 59 85 80 75 ② 50 67 50 35 60 80 79 70 75 80 ③ 40 61 75 20 80 60 85 68 80 70 平 均 50.00 62.67 61.67 31.67 70.00 74.33 74.33 74.33 78.33 75.00 標 準 偏差 8.16 3.09 10.27 8.50 8.16 11.12 11.12 7.59 2.36 4.08 表3共通の評価基準による採点結果 JTV1 JTV2 JTV3 VT1 VT2 ]TM1 JTM2 JTM3 MT1 MT2 ① 60 40 50 70 60 50 60 60 70 60 ② 50 40 40 80 80 70 80 50 80 80 ③ 40 50 70 40 80 40 80 40 70 50 平 均 50.00 43.33 53.33 63.33 73.33 53.33 73.33 50.00 73.33 63.33 標 準 偏差 10.00 5.77 15.28 20.82 11.55 15.28 11.55 10.00 5.77 15.28 比較すると, VTlは全体的に低めに採点しており,厳しめの評価を行っている。 MT は両名とも甘めの評価を行う傾向が観察された。また, ]TV2とM T両名は,標準偏差 が他の評価者と比較すると小さい。また,最もよい評価を得たものは,素材文①4名,素 材文②3名,素材文③4名と一致した傾向は見られず,更に,特性による特徴的な評価も 見られなかった。 表 2,表 3を見てわかるように,独自の評価基準による採点では,最高点を与えた評価 者は3名であった素材文②が,共通の評価基準を使った採点では, 6名の評価者が最高点

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を与えている。これは,共通の評価基準で言及されている,

I

課題の達成度

J

I

主張の明 確さ

J

I

構成や表現の適切性」という点に注目したことによる影響ではなし、かと推察され るo

JTVl

以外の評価者は,独自の評価基準と共通の評価基準とでは,点数が変化してい る。

JTVl

が変化しなかったのは,他の評価者と違い,評価経験が豊かであり,固定化さ れた評価基準が内在化されており,そのことが採点にも影響したのではなL、かと考えられ る。 4.2.評価行動 以下,評価者の評価行動について見ていくことにする。 4.2.1.評価者モデル まずは,

JTVl

は, 日本語教育歴も

25

年と長く,作文評価の経験も豊かである。現実 的な問題として, 日本語教育歴が長くとも作文評価の経験が豊かな日本語教師はあまり多 くはない。海外の日本語教育機関で働いている日本語教師であれば,なおさら珍しいと言 える。

JTVl

は,内容面と言語面の大きく

2

つの観点で評価しており,具体的には,内容面 は, 一 貫性,説得力,反対説への言及, 言語面は,分かりやすさ,バラエティ(構文,語 嚢,漢字使用率),文法的な正確さを挙げている。評価過程においては,先行研究で指摘 された,経験豊富な評価者の特徴として挙げられている,全体の特徴を素早くつかみ,意 味の理解に影響する,グローパルな誤用がないかを判断したり,誤用の分類を頻繁に行っ たりする評価行動が観察された。また,

JTVl

は,

I

どちらかの立場に立ってとあるので, 両方賛成でもないし反対でもないという場合は,減点をすることになると思います。」 と 述べ,評価者の中で唯一,評価前にいくつかの例外を想定し,それに対しての指針を示し ~. ,~。 評価者の相聞を考えれば,

JTVl

と同じ順位で評価しているのは,

JTM3

のみであり, 特性にあまり共通点は見られない。 4.2.2.ネイティブ教師

JTMl

をはじめとしたセンターのネイティブ教師は,クラスルームレベル以外での作文 評価の経験があまり多くはないこともあり,先行研究で指摘された,未熟な評価者が陥り がちな,全体を見るよりも,意味の理解には大きく影響しない文法のミスなどローカルな 誤用が気になったり,誤用を正用に頻繁に言い換えたりする様子が頻繁に観察された。

JTMl

は,約

1

0

年の日本語教育歴を有している。日本語教師の習性として,どうして も「添削」してしまうと自己分析している。実際に, 実験で使用した素材文には,誤用訂 正が行われた跡が残っており,

I

評価」をするようにという指示があっても,評価するた

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めにも誤用訂正をしなければできないと答えており,誤用訂正が習性となっていることが 確認された。 このことは,作文評価をするにあたって, 日本語教師は,ネイティブであっても単に日 本語教育の経験を積んでいるだけでは不十分で,評価者訓練が必要であることを示唆して いると考える。 4.2.3. ノンネイティブ教師 ノンネイティフ、、教師の評価について述べる。彼ら独自の評価基準では, VTlは素材文 ③を最も低く評価し, VT2は素材文③を最も高く評価しているoMTlは素材文②を最も 低く, MT2は素材文②を最も高く評価している。しかしながら,共通の評価基準を用い た場合は,いずれも素材文②を高く評価している。 ベトナムセンターのノンネイティブ教師のVTlは,独自の評価基準においては,誤用 分析が専門であるため,どうしても文法の誤用に目が行ってしまうと自覚している。一方 のVT2は,内容が一番大切であると考えているため,違いが出たことが推察される。 モンゴルセンターのノンネイティブ教師の MTlとMT2は,ロシア語で教育を受けて きており,モンゴル語での論文の書き方についての知識はあまり有しておらず, 日本語を 学ぶ過程で,作文の書き方について学んできたという。ともに調査時点において 30代で あるが,彼女ら世代では,モンゴル語ではなく,ロシア語での教育を受けた教育者が多い と述べている。 MTlは,評価前には,課題に沿っているかどうかという内容が大切であり, 重視する と述べながらも, 実際に評価を行うと,文法や語葉に関するテクストが多く見られた。こ の傾向については,再生刺激法による振り返りの際に,自分の評価行動をビデオで確認し, 本人も気がついている。また,書き手の母語の影響について考えながら評価していること が発話思考法やフォローアップ・インタビューによって収集したテクストによって確認さ れた。また, 書かれているものが明確な誤用なのか, 日本語としてあり得るのかについて 悩むときがあると述べている。但し,共通の評価基準表を使用した評価においては, 基準 表によって細かL、文法項目の誤用等が目に入らなくなったと感じていると述べている。 MT2は, 最初に内容を見て,筋が通っているか,そのテーマに合っているかどうかと いうのを重視しており,そのため,多少文法や語嚢が間違っていても,テーマに沿ってい れば,問題ないと思うと述べている。特に内容を中心に見ており,文法や語葉の多少の誤 用は気にしていないと答えている。テクストからも,細かな文法についてのコメントはほ とんど確認されず,評価の後のインタビューでは,外観として, 長さ, 漢字率,段落分け から受ける第一印象をもとに,独自性,明確さ,具体性を見ているとし,自分の教えてい る学生が書くものと比較しながら,採点すると答えている。評価基準表との違いは感じな いとも述べている。

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以上のような相違が,独自の評価基準での採点結果の違いに影響していると考えられる。 また, この結果は,ノンネイティブ教師の一致度を高めるのに,評価基準の使用が効果的 であることを示していると考えられる。 4.3.論理的記述に対する考え 評価者へのインタビューのテクストから,モンゴルとベトナムでは作文に対する考え方 がそれぞれ異なることが観察されたため,以下に国別に報告する。国別の作文事情,つま り学習者やノンネイティブ教師が受けてきた作文教育の背景や背景についてまとめる。 4.3.1.ベトナム まず,ベトナムについて述べる。JTVlは,作文について,ベトナムセンターの学生の 特徴として,よく 「社会批判に反するから」というモラリズムを理由として持ち出し, 「社会規範に反する」で終わってしまうことが多く,反対説への言及が非常に難しいため, それ以上の議論ができないと評しており,さらに,おそらくそれは教育の影響と社会主義 の影響であろうと分析し,論理性の開拓の必要性を感じているO しかしながら, JTV2は, 論理的なものに違いはないが,学生が日本語で表現するのに慣れておらず,論理的な考え 方は教えている法学部の学生は得意であるように思うと述べている。同様に, VTlも, それほどの違いを感じておらず, JTV1とそれ以外の評価者との意識のずれが確認された。 ベトナムセンターのネイティブ教師とノンネイティブ教師の聞には大きな相違は確認され ず, JTV1のようにある意味,特殊な背景を持っている評価者との相違が大きいのではな いかということが示唆される。JVT1が法科大学院を修了していること,評価の経験が豊 かであることが大きな違いを生じさせる要因となっており,法学的に論理的であるとする ものが他の日本語教師とは異なる可能性が考えられる。 4.3.2.モンゴル JTM,l JTM2, M T,l MT2は,モンゴル語による作文の構成についての考え方と技 術に問題があると述べた。JTM3は,問題であるとまでは述べなかったものの,教えると きには,最もスタンダードなものから教えなければならないと思ったが,書き手である学 生には個性を出したいという欲求があり,その指導は難しいと述べている。 たとえば, JTM2は10年以上モンゴルに暮らし,モンゴル語学習をモンゴルで体験し たことがあるが,その授業では, 書き方については, 学んだことがないと答えた。さらに, フォローアップ・インタビューのテクストからも,学生たちが主張や論拠,結論などの書 き方がなかなか上手にならないのは,主張はあっても,その主張の根拠について記述する 訓練を幼少期から受けてきていないことが原因であり,また,口頭伝承を重視してきたモ ンゴルの歴史的な要因もあり, 日本語学習を通して初めて 「記述」を意識し始めるのでは

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ないかと考えられると私見を述べている。 MT1はモンゴルの 「モンゴル語」の作文の授業では,面白さと正確さの2点で評価さ れると述べており,正確さとは,文法の正確さと誤字脱字がないかということであると説 明している。さらに, 日本語学習以外では,作文の構成を学んだことがなく, 日本語学習 を通して,初めて作文の書き方を知り,そこで提示されたモデルに対して,抵抗を感じた と述べている。 さらにMT1はモンゴル人学習者の日本語の作文に対する反応について,決められた枠 組みの中で記述をすることについて,面倒だと感じているようであると,分析している。 また,モンコ。ルでは, 書き手である自分を中心に書くのに対し,日本の作文は,読み手意 識が求められ,そのように読み手のことを考えて書くこともまた,学生にとって面倒であ ると感じる一因だろうと分析している。もう一つ,モンゴル人は,単文を好まず,複文を 多用する傾向があり,それが読み手にわかりにくい印象を与えるのではないかと述べてい る。先述した読み手意識にも通じるが,彼らは,モンゴル人の考えでは,これで十分と思 われるものが, 日本人にとっては,不足であることが多く,戸惑うことが多いと述べてい るO

5

.

おわりに

これまでに日本語教育では,作文指導において,

I

読み手」意識の欠如や不足が指摘さ れ,改善されてきた歴史があり, 日本語教育における作文教育は英語教育の研究結果を参 考にしながら,まだ模索中の段階にあると言える。上記のように今回の調査によって,特 に海外において作文評価,作文指導を行う際に,様々に留意すべき課題の一端が見えてき たと考える。 いずれにせよ, 学生たちを教育,評価,指導する上で,教師が自身の作文観を内省し, 自覚することは,ネイティブ,ノンネイティブに関わらず重要なことであることが確認さ れたのではないだろうか。 本研究は科研費(課題番号22720201)の助成を受けたものである。 注 l ウズベキスタン,モンゴル,ベトナム,カンボジアへの法整備支援の一環として,センター が設立された。詳細については http://cjl.law.nagoya.u.ac.jp/を参照された L、。 2 日本留学試験「記述問題」採点基準 http://www.jasso.go.jp/eju/description_q.htmlに詳 しL、。

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3 課題文は日本留学試験2002年 (2回目) I記述問題」の農薬問題で, I野菜や穀物などを育 てる時に, 害虫を殺すための農薬を使うことがあります。ある人は, <A>農薬は人間の体に よくないから使わないほうがいい, と言います。またある人は,く B>農薬を使わなければ十 分な収穫が得られないので,少量なら使ってもいい, と言います。あなたはく A>とく B>ど ちらの意見に賛成しますか。くA>かく B>のどちらかの立場にたって,その賛成理由を書いて ください(句読点を含み, 400字程度)oJというものである。 参考文献 国立国語研究所編 (2006)W世界の言語テスト』くろしお出版 田中真理・初鹿野阿れ・坪根由香里 (1998)I第二言語としての日本語における作文評価一

n

、ぃ』作文の決 定要因JW日本語教育J99:60-71 田中真理・長坂朱美 (2009)Iライテイング評価の一致はなぜ難しいか 人間の介在するアセスメント (く特 集 >言語・コミュニケーションの学習・教育と社会言語科学ー人間・文化・社会をキーワードとしてー)J 『社会言語科学第12(1): 108-121 田中真理・阿部新 (2014)WGood Writingへのパスポートー読み手と構成を意識した日本語ライティング』 中西千春・赤堀侃司 (2004)I日本人英語教師とネイティブ英語教師のライティング評価の相違J

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表 1 学習課題の達成に関する認識について 評価者 JTV1  ]TV2  ]TV3  V T1  VT2  評価項目 ①内容面 ( 50 ) ①立場が明確に表明できてい ① 内容 ( 40 ) ①論理的か ( 30 ) ①餓成 ( 30 ) ( 配点) 一貫性 るか ( 20 ) ② 表記 ( 30 ) ( 課題に沿っているか, ② 内容 ( 50 ) 説得力 ②理由がわかりやす L 、 か ( 20 ) ③ 文法 ( 30 ) 理 由 を ま と め て 書 い ③言葉逃い ( 20 ) 反対説への言及

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