Mycobacterium lentiflavum のコバス TaqMan MAIにおけるMycobacterium intracellulare 偽陽性反応についての遺伝子学的検討Genetic Analysis Reveals Misidentification of Mycobacterium lentiflavum as Mycobacterium intracellulare by the COBAS TaqMan MAI Test富田 元久 他Motohisa TOMITA et al.703

全文

(1)

Mycobacterium lentifl avum

のコバス TaqMan MAI

における Mycobacterium intracellulare 偽陽性反応

についての遺伝子学的検討

1

富田 元久  

2

吉田志緒美  

2

露口 一成  

3

鈴木 克洋

2

岡田 全司  

3

林  清二       

は じ め に

 Mycobacterium lentifl avum は Springer らによりヒトの脊 椎椎間板炎病巣や諸種臨床検体から分離された,遅発 育性の抗酸菌種である1)。その後,本菌によるリンパ節 炎2) 3),中高年齢者での肺感染症が世界各地より相次い で報告されている4) 5)。わが国でも,まず Iwamoto ら6) より本菌による慢性肺疾患患者の 1 症例が報告され,そ の後複数の感染症例が報告されている7)。環境からの感 染が考えられており,感染源の一つとして飲料水供給シ ステムがある3) 8) 9)。従来,本菌は生化学的性状や市販の 遺伝子プローブを用いた方法では同定不能であるため, その確定診断には 16S rDNA などの塩基配列の解析が必 要である1)  コバス アンプリコア MAV,MIN(以下アンプリコア 法:ロシュ・ダイアグノスティックス)は高い感度と特 異度をもった同定キットである。Mycobacterium avium と Mycobacterium intracellulareは遺伝子学的に近い菌種で あるにもかかわらず,アンプリコア法の検出用プローブ は両菌種を特異的に検出できる。これは抗酸菌特異的プ ライマーにて増幅させた後,両菌種の間にみられる微小 な塩基配列の違いを識別するのに適した,各々の検出用 プローブで反応させているためである。一方,コバス TaqMan MAI(TaqMan 法:ロシュ・ダイアグノスティ 独立行政法人国立病院機構近畿中央胸部疾患センター1臨床検 査科,2臨床研究センター,3内科 連絡先 : 吉田志緒美,独立行政法人国立病院機構近畿中央胸部 疾患センター臨床研究センター,〒 591 _ 8555 大阪府堺市北区 長曽根町 1180(E-mail : dustin@kch.hosp.go.jp)

(Received 18 Mar. 2014 / Accepted 18 May 2014)

要旨:〔目的〕臨床分離 Mycobacterium lentifl avum 株を対象としたコバス TaqMan MAI における偽陽 性反応を検証する。〔材料と方法〕コバス アンプリコア MAV,MIN にて Mycobacterium intracellulare 陰性,コバス TaqMan MAI にて陽性と判定された臨床分離 13 株を用い,10 倍希釈系列を用いてその検 出感度を検証した。同時に 16S rDNA シークエンス解析による相同性の確認を行った。〔結果〕16S rDNA の前半部分(約 600 bp)の塩基配列から,対象株はすべて M. lentifl avum と同定された。これら はコバス TaqMan MAI の M. intracellulare 検出用プローブにのみ陽性反応を示した。無作為に抽出した 菌株と M. intracellulare 標準株を希釈系列して作成した菌液において,コバス TaqMan MAI に感度の差 が認められた。M. intracellulare 検出用プローブ領域における M. intracellulare と M. lentifl avum が異なる 塩基は 3 カ所あるのみで,その高い相同性により M. intracellulare の偽陽性が生じたと推測された。〔考 察〕現在わが国には M. lentifl avum を正確に同定できる市販キットは存在しない。臨床検体から培養さ れるコロニーの性状からの両者の鑑別は非常に困難である。コバス TaqMan MAI に対する偽陽性反応 の影響によって M. lentifl avum が過小評価されている可能性が考えられた。〔結論〕わが国において比 較的汎用されている抗酸菌核酸増幅法の 1 つであるコバス TaqMan MAI において M. lentifl avum の偽陽 性反応が臨床分離株に認められた。M. lentifl avum の遺伝子的特徴を踏まえたうえでの,抗酸菌同定検 査法の一層の改良・開発が今後望まれる。

(2)

ッ ク ス)は ア ン プ リ コ ア 法 と 同 様 に M. avium と M.

in-tracellulareを特異的に識別できるが,戸田らは環境から 分離された M. lentifl avum が TaqMan 法の M. intracellulare に の み 偽 陽 性 を 示 す こ と を 報 告 し て い る10)。 彼 ら は

TaqMan 法の蛍光標識 DNA プローブの設計に問題がある のではないかと考察しているが,詳細な検証は行ってい ない10)。当センターでは 2012 年以降アンプリコア法か

ら TaqMan 法 に 変 更 し,M. avium と M. intracellulare に 対 する高い識別能を確認していたが,M. lentifl avum の偽陽 性反応について検証してこなかった。しかし 2012 年の 1 年間で,結核菌群を除いた抗酸菌に占める同定不能Ⅱ群 菌の分離頻度が減少していたことが判明した〔2011 年: 3.6%(15/414)→ 2012 年:1.5%(6/397)〕。そ こ で 2011 年に分離された M. lentifl avum に対してアンプリコア法な らびに TaqMan 法の反応性をレトロスペクティブに検証 し た。 加 え て, 希 釈 系 列 に よ る M. intracellulare と M. lentifl avumの検出感度比較を行い,臨床現場における菌 種分類の可能性を検討した。さらに,増幅ターゲットと している 16S rDNA 領域における 3 菌種間の塩基配列を 比較し TaqMan 法の偽陽性反応の原因を探った。 材料と方法 〔供試菌〕  2011 年 1 月から 2011 年 12 月にかけて NHO 近畿中央胸 部疾患センターの外来および病棟から提出された喀痰か ら分離され,アンプリコア法にて M. intracellulare 陰性, TaqMan 法にて陽性と判定された臨床分離 13 株を使用し た。菌株が分離された患者 13 名の居住地は大阪府堺市 以南(11 株),大阪市( 2 株)である。年齢構成は 53∼ 86 歳(平均 72.6 歳),また,13 名の患者の男女比は男性 9 名,女性 4 名であった。また,同期間中に分離されア ンプリコア法陽性のM. avium 2 株とM. intracellulare 3 株, アンプリコア法,TaqMan 法ともに陰性となり DDH マイ コバクテリア‘極東’(以下 DDH 法:極東製薬工業)に て同定不能な Runyon 分類Ⅱ群菌 3 株を対照株とした。  これら菌株は−30℃保存されていたため,Mycobac-teria Growth Indicator Tube(MGIT:日本ベクトン・ディ ッキンソン)により培養し,陽性を認めた菌液を用い て,まず結核菌群同定試薬キャピリア TB(日本ベクト ン・ディッキンソン)を行い,結核菌群の否定を確認し た。続いて,小川培地,7H11 培地上で複数菌株の混在 を否定した後,得られた菌株から TaqMan 法による測定 を実施した。 〔DNA 抽出・PCR〕  小川培地上で発育させた供試 13 株と対照株を無作為 に釣菌し,コロニーの 1 白金耳より Boil 抽出した DNA 1 ng を PCR 反応に使用した。抗酸菌の菌種同定に汎用さ れている 16S rDNA の可変領域を含む前半(約 600 bp) の塩基配列分析を行うため,PCR 反応は Takara Ex Taq (タカラバイオ)を用いて,94℃ 30秒(denaturation),55℃ 30秒(annealing),72℃ 1 分(extension)を 35 サ イ ク ル 行い,下記のプライマーセットを用いて PCR 増幅産物 を得た11)〔プライマーセット:285F(5’-GAG AGT TTG

ATC CTG GCT CAG-3’),264R(5’-TGC ACA CAG GCC ACA AGG GA-3’)〕。

〔塩基配列解析〕

 PCR産物をスピンカラム(SUPREC-02, タカラバイオ) で精製しダイレクトシークエンスに用いた。ダイレクト シークエンスは,BigDye Terminator Ready Reaction Cycle Sequencing キット(Applied Biosystems Japan)を用いて, ABI 310 Genetic Analyzer(Applied Biosystems Japan) で 行った。シークエンスプライマーは 259R(5’-TTT CAC GAA CAA CGC GAC AA-3’)を用いた。

 M. lentifl avum,M. avium,M. intracellulare について得ら れた塩基配列上で,アンプリコア法で用いるプライマー (Forward, Reverse)と M. avium と M. intracellulare の 検 出 用プローブが相補する領域を検索し,M. lentifl avum に対 するマッチングを確認した。プライマーとプローブの配 列は以下のとおりである12)

 Forward プライマー(KY18):

  5’-CAC ATG CAA GTC GAA CGG AAA GG-3’  Reverse プライマー(KY75):

  5’-GCC CGT ATC GCC CGC ACG CTC ACA -3’  M. avium 検出用プローブ(KY167):

  5’-CAA GAC GCA TGT CTT CTG GTG-3’  M. intracellulare 検出用プローブ(KY169):   5’-TTA GGC GCA TGT CTT TAG GT-3’ 〔TaqMan MAI 検出感度の検証〕

 供試 13 株のうち無作為に抽出した M. lentifl avum 1 株と

M. intracellulare標準菌株(ATCC13950)を用いた。測定 サンプルの調整は,MGIT 陽性培養液を滅菌蒸留水で McFarland No. 1.0( 3 ×108CFU/mL)に調製した菌液を

もとに,4℃に冷却した滅菌蒸留水で 10 倍希釈した系列 を用い,TaqMan 法の添付文書に従って最小検出感度を 求めた。作成した希釈菌液は 3 回の反復測定を行い,3 回とも同じ結果となる濃度を最終の最小検出感度とした。 結   果 〔塩基配列解析〕

 供試13株の16S rDNA塩基配列は,M. lentifl avum ATCC 51985T基準株(アクセッション番号 X80769)と 100% 一

致した。M. avium 2 株は ATCC 51985T株と,M.

intracellu-lare3 株は ATCC 13950 株と 100% の相同性を示した。対 照のⅡ群菌株は M. intermedium 2 株,M. interjectum 1 株と

(3)

Table 1 Comparison of misidentifi cation Mycobacterial species using COBAS Amplicor MIN and COBAS TaqMan MAI

Table 2 Comparison of minimum detection of colony forming unit per mL COBAS TaqMan MAI to detect for random sampling M. lentifl avum and M. intracellulare reference strain

Sample ID COBAS Amplicor MIN COBAS TaqMan MAI 16S rDNA sequence MIN MIN 65 79 86 88 89 90 92 93 94 95 96 97 100 80 91 99 (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−) (−) (+) (+) (+) (+) (+) (+) (+) (+) (+) (+) (+) (+) (+) (−) (−) (−)

Mycobacterium lentifl avum Mycobacterium lentifl avum Mycobacterium lentifl avum Mycobacterium lentifl avum Mycobacterium lentifl avum Mycobacterium lentifl avum Mycobacterium lentifl avum Mycobacterium lentifl avum Mycobacterium lentifl avum Mycobacterium lentifl avum Mycobacterium lentifl avum Mycobacterium lentifl avum Mycobacterium lentifl avum Mycobacterium intermedium Mycobacterium interjectum Mycobacterium intermedium

MIN : M. intracellulare

Sample (CFU/mL) MIN Sample (CFU/mL) MIN

M. lentifl avum 3×105 M. lentifl avum 3×104 M. lentifl avum 3×103 M. lentifl avum 3×102 M. lentifl avum 3×101 M. lentifl avum 3 MIN (+) MIN (+) (−) (−) (−) (−) M. intracellulare 3×105 M. intracellulare 3×104 M. intracellulare 3×103 M. intracellulare 3×102 M. intracellulare 3×101 M. intracellulare 3 MIN (+) MIN (+) MIN (+) MIN (+) (−) (−) MIN : M. intracellulare 同定された(Table 1)。  Fig. に,アンプリコア法で用いるプライマーとプロー ブの領域を上記 3 菌種の塩基配列パターン上に示した。 Forward プライマー領域(ポジション 7 _ 29)は 3 菌種と も100%相補性が保たれていたが,Reverseプライマー(ポ ジション 552 _ 575)では M. lentifl avum の配列に 4 塩基の 違いが認められた。検出用プローブが反応する領域(ポ ジション 135 _ 155)での M. avium と M. intracellulare の塩 基配列の違いは 5 塩基,M. avium と M. lentifl avum との間 では 6 塩基,M. intracellulare と M. lentifl avum との間には

3 塩基認められた。

〔TaqMan 法における最小検出感度の検証〕

 M. lentifl avum は 3 ×104CFU/mL,M. intracellulare は 3×

102CFU/mL 菌液濃度の検体に対して陽性反応が認めら

れ,M. lentifl avum と M. intracellulare の TaqMan 法 に お け る最小検出感度の違いが示された(Table 2)。 考   察  今回の供試菌 13 株は 16S rDNA 塩基配列解析の結果, すべて M. lentifl avum と同定された。超可変領域を含む 16S rDNA の前半(約 600 bp)の解析によって同菌と M. avium,M. intracellulare の識別は可能であり1),そこに相 当する領域を増幅するアンプリコア法のプライマー(KY 18,KY75)は,抗酸菌の菌種同定において感度・特異度 が優れていることは明らかである12)。今回,アンプリコ

ア法の増幅領域内での M. lentifl avum と M. intracellulare の 塩 基 配 列 の 差 異 は M. lentifl avum の 欠 損 部 分 の ほ か に M. lentifl avumの塩基配列上の 135_155 のポジションとポ ジション 552 付近に存在していた(Fig.)。前者はアンプ リコア法の検出プローブ部分,後者は Reverse プライマ ーが菌体の塩基配列を認識する部分に相当する。この Reverse プライマーは 24 mer で設計されており,塩基配 列の 3 末端部分に位置する 4 塩基が M. lentifl avum ではミ スマッチとなってしまうため PCR 反応が不充分となる。 したがって,M. lentifl avum は増幅されなかった可能性が 高くなり,結果的にアンプリコア法での M. lentifl avum が すべて陰性となった要因と思われる(Table 1)。一方, TaqMan 法ではプライマー等の塩基配列が明らかになっ ていないため詳細は不明であるが,プライマーやプロー ブの結合する領域の M. intracellulare と M. lentifl avum の塩

(4)

Fig.

Nucleotide sequences of the 16S rDNA segments of 3 mycobacteria

l species The fi rst and last nucleotides of M.lenti fl avum correspond to E. coli 16S rDNA positions 7 and 690, respectively. Same nucleotides from those in the M.lenti fl avum sequence are shown by asterisks (*) ; dashes (−) indicate deletions. For comparison, nucleotides differentiating the proposed M.lenti fl avum species from M.intracellular e are indicated

by spaces, variable nucleotide positions within probe and prime

r are gray color characters.

Avium : M.avium ,  Intra : M.intracellular e,   Lenti : M.lenti fl avum

(5)

基配列に違いが少ないと推測される。リアルタイム PCR を原理とする TaqMan 法で増幅される産物は概ね 150 bp と従来の PCR 法より小さく,アンプリコア法の増幅領域 より狭くなる。したがって TaqMan 法のプライマーはア ンプリコア法のプライマー設計から変更することが必要 となると思われる。アンプリコア法の Reverse プライマ ーと同じ領域を認識する TaqMan-Reverse プライマーを 設 計 し た な ら ば,ポ ジ シ ョ ン 400 _ 550 の 領 域 内 で M. aviumと M. intracellulare を認識する必要があるが,こ の部分には塩基配列の違いがほとんどないため TaqMan 法には不適であろう。一方,TaqMan-Forward プライマ ーをアンプリコア法と同じ領域(ポジション7 _ 29)に設 計すれば TaqMan-Reverse プライマーを 180 付近のポジシ ョンに設定でき,M. avium と M. intracellulare を認識でき るポジション 135 _ 155 を含むことから,これらの識別は 可能となる。しかし,TaqMan-Reverse プライマーでは

M. lentifl avumに 対 し て 相 補 性 が 向 上 し,M. avium,M.

intracellulareと同様に増幅が可能となったと推測する。  検出用プローブはマイクロ磁性粒子を固相したアンプ リコア法と 5’末端に消光物質(クエンチャー),3’末端 側に蛍光色素(レポーター)で修飾された TaqMan 法の 違いはあるが,同じく 20∼30 mer の長さの短いオリゴヌ クレオチドで,相補的な配列を特異的に認識する特徴が ある12)。特に M. avium と M. intracellulare 検出用プローブ は各々の菌種に対する配列の特異性が非常に高く,高い ホモロジーを有するこれらの配列間であっても 5 塩基の 違いなら認識することが可能であると言われている12)

しかし,同プローブの領域では M. avium と M. lentifl avum に 6 カ所の塩基配列が異なるため識別できていたのにも かかわらず,M. intracellulare と M. lentifl avum では 3 カ所 しかなかった。このことから TaqMan 法では M. lentifl a-vumとM. intracellulareを識別できなかったと推察される。 今回の M. lentifl avum の偽陽性反応は情報公開が少ない中 での検討であるため,明確な結論を示すことができない が,これらの菌種間の遺伝子的特徴を論ずることによ り,今後の検査法の改良ならびに新規抗酸菌同定法の開 発の一助になることを期待する。

 TaqMan 法最小検出感度の検討では,M. lentifl avum と

M. intracellulareの間で 100 倍の違いが認められた(Table 2)。おそらく,プローブの相補性が M. intracellulare を対 象として設計されているため,3 塩基異なる M. lentifl a-vumでは同プローブとの相補効率が劣り,感度が低下し たのではないかと考えられた。シークエンス解析が日常 的でない臨床の現場において,今回行った希釈判定法を 用いれば少なくとも M. lentifl avum と M. intracellulare の識 別は可能ではないかと考えられるが,検体を用いた TaqMan 法での菌濃度による反応の違いを今回検討でき

ていないため,あくまでも培養菌を用いた場合にのみ運 用が見込まれるという結果でしかない。しかも菌株数が 少ないため,今後追試を行う必要があると考える。  M. lentifl avum は Runyon 分類のⅡ群菌に属する遅発育 菌であり,典型的なコロニーは暗所内培養でオレンジ色 か黄色に着色している。非光発色性Ⅲ群菌の M. avium, M. intracellulareの特徴であるクリーム色コロニーと同菌 種は,本来,性状の観察をもって鑑別は可能である。し かしながら,臨床の現場では着色性を有した M. avium や M. intracellulareは決して珍しくなく,マニュアル検査で あるコロニー観察は熟練性が要求されることもあり,実 際にはこれらの識別を行うことは非常に困難である。特 に MGIT など液体培地からの菌液に対して TaqMan 法で 直接同定することは,コロニー観察という手順を省いて しまうため注意を要する。液体培養での M. lentifl avum の 発育速度は遅い傾向があるという報告2)があるが症例数 が少ないため,今後のデータの蓄積が求められる。  結核菌群を除く抗酸菌中に占める M. lentifl avum の割合 については,いくつかの論文で述べられている。オラン ダの van Ingen らは 2240 株の臨床分離菌を検査した結果,

M. lentifl avumは 11 株(0.5%)で あ っ た と し,M.

intra-cellulareの 201 株(9.0%)に比べてまれな菌種と位置付 けられている13)。Buijtels らは Zambia の 213 患者から排菌 された抗酸菌を調べた結果,38 のM. lentifl avum 症例から 55 菌株が得られたと報告している4)。わが国では長野ら の報告によると,全国から集計した 636 株の抗酸菌を検 討した結果 M. lentifl avum は 14 株(2.2%)であったとし ている14)。隔年ではあるが,当センターの M. lentifl avum 株 数 と 抗 酸 菌 株 の 割 合 は 15/494(3.0%:2005 年),12/ 489(2.5%:2006 年),13/414(3.1%:2011 年)であった。 当センターにおいてアンプリコア法を含む市販キットに て同定できないⅡ群菌(M. lentifl avum を含む)の推移は, 16株(2005年),16株(2006年),15株(2011年)であり, M. lentifl avumは高い割合を占めていた。一方,同時期に 分 離 さ れ た M. intracellulare は 順 に 112 株(22.7%),109 株(22.3%),113 株(27.3%)であり大きな変動はなかっ た。しかしながら,TaqMan 法を運用し始めた 2012 年で は抗酸菌 397 株のうちⅡ群菌の割合は 6 株(1.5%)と減 少し,M. intracellulare は 110 株(27.7%)と微増した。こ れら 6 株は 16S rDNA 解析で M. lentifl avum とは同定され なかったため,M. intracellulare と同定された株の中に M. lentifl avumが含まれている可能性が考えられた(デー タ未掲載)。偽陽性となった株に対して clarithromycin を 含めた薬剤感受性検査が実施され,患者に M. avium com-plex 症の治療を施されていた可能性が充分推測される。  M. intracellulare の病原性は高い傾向があるが,M. lenti-fl avumのそれとは異なることが既存のデータから示され

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ている1) 8) 15)。Springer ら(ドイツ)は,M. lentifl avum の基 準株とした ATCC 51985T株は脊椎椎間板炎病巣から分 離され,その病原的意義を認めているが,同時に ATCC 51986 株,ATCC 51987 株,ATCC 51988 株をはじめとし てその他の供試 18 株は検体から偶発的に,あるいは汚 染された気管支鏡から繰り返し分離され,病原的意義は ないだろうと述べている1)。Tortoli ら(イタリア)によ るレトロスペクティブな検討では,臨床材料からの本菌 の検出例のうち臨床的な意義が確認されたのは約 10% 程度であったという15)。Marshall ら(オーストラリア) は 4 名の M. lentifl avum 症患者から得られた菌株と,13 カ 所の飲料水供給装置から分離された株の遺伝子型が近似 なことから,水道水からの感染の可能性を述べている3) また,環境からの分離では,韓国では Lee らが 84 カ所の 供給施設を調査したところ,26% の施設から非結核性抗 酸菌(NTM)が分離され,そのうち M. lentifl avum は 65% を占めていたという16)。Torvinen らはフィンランドの水 道水供給施設の 80% に NTM が分離され,そのうち M. lentifl avumの分離頻度は 38% の第 2 位であったとしてい る9)。同じくフィンランドの Tsitko らは飲料水供給施設 内のバイオフィルムからの分離株と臨床分離株との比較 で,環境由来株 5 株中 4 株は ATCC 51988 株と同一の 16S rDNA 塩基配列を示したのに対して,病原的意義の あ る と 思 わ れ る 臨 床 分 離 株 で は 6 株 す べ て が ATCC 51985T株と同一の 16S rDNA 塩基配列を示したと い う8)。 わ が 国 で は, 戸 田 ら は ATCC 株 で 見 ら れ る Smooth 型コロニーではなく Rough 型コロニーを形成す る菌株が環境から分離されたとし10),彼らは採痰ブース

を起点とする M. lentifl avum による Pseudo-outbreak も経験 している17)。今回の検討では,すべての菌株はヒトに対 する病原的意義のあったとされる ATCC 51985T株と同 一の Smooth 型コロニー形状と 16S rDNA 塩基配列を有し ていた。これらの結果は菌株数が少ないため限定的であ るが,わが国と諸外国との間で M. lentifl avum の地域特異 性の存在が示唆される結果となった。しかしながら,当 センターは戸田らの所属する医療機関と同じ大阪府堺市 を所在地とするため,M. lentifl avum の地域特異性を明ら かにするのは困難である。今後,異なる地域からの臨床 分離株・環境分離株での TaqMan 法に関するデータが蓄 積されれば,今後開発が期待される新しい遺伝子プロー ブによる本菌の迅速同定法の信頼性を高めるうえで重要 な知見となるであろう。また,地域特異性・臨床的意義 などとの関連性が明確になると期待される。  今回,わが国で比較的汎用されている抗酸菌核酸増幅 法のコバス TaqMan MAI において M. lentifl avum の偽陽性 反応が臨床分離株に認められることが明らかとなった。

M. lentifl avumの遺伝子的特徴を踏まえたうえで,今後,

抗酸菌同定検査法の一層の改良・開発を期待したい。

 著者の COI(confl icts of interest)開示:本論文発表内 容に関して特になし。

文   献

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14) 長野 誠, 市村禎宏, 伊藤伸子, 他:16S rRNA遺伝子お よびITS-1領域をターゲットとしたInvader 法による23

(7)

Abstract [Objective] To evaluate COBAS TaqMan MAI test misidentifi cation of Mycobacterium lentifl avum as

Myco-bacterium intracellulare.

 [Materials and Methods] Preliminary comparative analysis identifi ed 13 clinical isolates used in this study as COBAS Amplicor MAV and MIN_negative but COBAS TaqMan MAI_positive. The COBAS TaqMan MAI test limit of detec-tion and reproducibility were evaluated by tenfold diludetec-tion series from 3×108 CFU/mL. Isolate 16S rDNA nucleotide

sequences were compared with Mycobacterium avium and

M. intracellulare.

 [Results] Discrepancies were observed between isolates identifi ed as M.lentifl avum by 16S rDNA sequencing and as

M. intracellulare by the COBAS TaqMan MAI test. The false-positive results were verifi ed by sequence comparison of a randomly sampled clinical isolate and the M.intracellulare reference strain. Sequence analysis of M.lentifl avum and M.

intracellulare 16S rDNA amplifi cation products showed at least 3 mismatches between species. The high identity in the sequence was found for M.intracellulare by COBAS TaqMan

MAI.

 [Conclusion] In Japan, commercially available nucleic acid probe- and amplifi cation-based tests cannot identify

M.lenti-fl avum. Correct identifi cation, though challenging, is possible using standard cultivation procedures for colony growth. Misleading results using the COBAS TaqMan MAI kit may lead to erroneous diagnoses.

Key words : Mycobacterium lentifl avum, Mycobacterium

intracellulare, COBAS TaqMan, 16S rDNA

1Department of Clinical Laboratory, 2Clinical Research Center, 3Department of Respiratory Medicine, National Hospital

Organization Kinki-chuo Chest Medical Center

Correspondence to : Shiomi Yoshida, Clinical Research Center, National Hospital Organization Kinki-chuo Chest Medical Center, 1180 Nagasone-cho, Kita-ku, Sakai-shi, Osaka 591_ 8555 Japan. (E-mail: dustin@kch.hosp.go.jp) −−−−−−−−Original Article−−−−−−−−

GENETIC ANALYSIS REVEALS MISIDENTIFICATION OF

MYCOBACTERIUM LENTIFLAVUM

AS MYCOBACTERIUM INTRACELLULARE

BY THE COBAS TaqMan MAI TEST

1Motohisa TOMITA, 2Shiomi YOSHIDA, 2Kazunari TSUYUGUCHI, 3Katsuhiro SUZUKI, 2Masaji OKADA, and 3Seiji HAYASHI

菌種の抗酸菌の同定―臨床分離株を用いたDDH法との 比較検討. 結核. 2008 ; 83 : 487 496.

15) Tortoli E, Bartoloni A, Erba ML, et al.: Human infections due to Mycobacterium lentifl avum. J Clin Microbiol. 2002 ; 40 : 728 729.

16) Lee E-B, Lee M-Y, Han S-H, et al.: Occurrence and

molec-ular differentiation of environmental mycobacteria in surface waters. J Microbiol Biotechnol. 2008 ; 18 : 1207 1215. 17) 戸田宏文, 山口逸弘, 鹿住祐子, 他:採痰ブース内水道

水を介したMycobacterium lentifl avumによるPseudo-Out-break の分子疫学的解析. 環境感染誌. 2013 ; 28 : 319 324.

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