• 検索結果がありません。

506 日本写真学会誌 2012 年 75 巻 6 号 : 特集 : 有機太陽電池の性能向上への科学的アプローチ 解説 有機薄膜太陽電池の開発動向と今後の展開 Development Trend of Flexible Organic Photovoltaic and Its Evol

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "506 日本写真学会誌 2012 年 75 巻 6 号 : 特集 : 有機太陽電池の性能向上への科学的アプローチ 解説 有機薄膜太陽電池の開発動向と今後の展開 Development Trend of Flexible Organic Photovoltaic and Its Evol"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

特 集:有機太陽電池の性能向上への科学的アプローチ  解 説

有機薄膜太陽電池の開発動向と今後の展開

Development Trend of Flexible Organic Photovoltaic and Its Evolution in the Future

山 岡 弘 明

*

Hiroaki Yamaoka

* 要 旨 有機薄膜太陽電池の開発動向と有機薄膜太陽電池の特徴について最初に概説し,次に三菱化学で開発を進める現時点で世 界最高効率 11.7%を有する新コンセプトの塗布型有機薄膜太陽電池について特長と有機太陽電池高性能化へのマイルス トーンを説明し市場拡大が見込まれる太陽電池市場での次世代電池としての市場導入を目指した取り組みについて紹介を 行う.

Abstract At first, we outlined the development trend of organic thin film photovoltaic and their features and then introduced a new concept coating type organic photovoltaic which Mitsubishi Chemical Corporation has been developing, its cell efficiency is 11.7% as world record at present. We would like to explain its forte and milestones of future performance advancements and applications for promising market as new generation photovoltaic.

キーワード:有機薄膜太陽電池,p 型有機半導体,n 型有機半導体,モルフォロジー,フレキシブル,コーティング

Key words: Organic thin-film photovoltaic, p-type organic semiconductor, n-type organic semiconductor, Morphology, Flexible, Coating

1. はじめに 有機薄膜太陽電池は開発段階であるが,その特徴として軽 量,フレキシビリティーやデザインの自由度も大きく太陽電 池の新しい応用分野の創出等,今後の展開が期待されている. 有機系太陽電池は電解液を用いる色素増感系と電解液を用い ない全固体の有機薄膜系に大きく分かれる.さらに分子量の 違いで低分子系と高分子系があり,また製膜方法として蒸着, 塗布がある(Fig. 1).本稿では有機薄膜太陽電池の開発動向 を紹介し,材料,プロセス面に特徴を持ち印刷が可能な塗布 型有機半導体を用いた三菱化学で開発を進めるフレキシブル 有機薄膜太陽電池を取り上げる.最近,独自の p 型,n 型有 機半導体を用い p 型有機半導体の HOMO,n 型有機半導体の LUMOレベルの調整,素子設計,光学設計の最適化による効 率向上を図った検討結果では 2012 年現時点で有機薄膜太陽 電池として世界最高効率 11.7%のセルを得ている. 光変換効率の改良課題として,光吸収スペクトルと太陽光 とのマッチングの最適化,励起子移動及び電荷分離機能の向上 (界面の制御による電荷発生機会の増大),電荷分離後のキャ リア輸送効率向上,再結合の抑制等があり材料設計,素子設 計により改良を図っていく必要がある.また,寿命の向上に 関しては用いる有機半導体の耐久性向上のほか,バリア材, 封止材の性能向上も重要な要素である. 商業化には有機薄膜太陽電池の特長である軽量,フレキシ ビリティー,デザイン性,印刷適性等の多様性を活かした新 ニーズの創生が重要になってくる.

平成 24 年 11 月 8 日受付・受理 Received and accepted 8th, November 2012 *三菱化学理事情報電子本部 OPV 事業推進室統括部長

Director, General Manager, OPV Business Development Department, Information and Electronics Division, Mitsubishi Chemical Corporation Fig. 1 主な太陽電池の種類

(2)

ルクへテロ型接合の有機薄膜太陽電池の提案が平本らによっ て行われた 3)4).平本らはドナーである銅フタロシアニン (CuPc)とアクセプターであるペリレン誘導体(PV)を共蒸 着することによりバルクへテロ接合の形成を行った.バルク へテロ接合を用いた低分子有機太陽電池では Forest,内田ら が共蒸着層を i(intrinsic)層に導入することにより,光電変 換効率 5%を達成している 5) 平本らはフラーレンをセブンナインまで高純度化すること により,高純度化 C60と H2Pcを用いた共蒸着 i 層が 1 μm の 膜厚を有するセルで変換効率 5.3%を達成した.短絡光電流 Jscは 19 mA/cm2とシリコン太陽電池の 20 mA/cm2とほぼ同 等レベルとなっている 6).また,斉藤,當摩,阪井らにより, ペンタセンと C60を数分子ずつ交互に積層させ,バルクへテ ロ接合薄膜を形成した報告がある.これは従来のペンタセン と C60の共蒸着系では,微結晶化により薄膜形成がうまくい かないものを改良したものである 7) p型半導体に高分子を用いたものとしては PPV(ポリパラ フェニレンビニレン)等の導電性高分子と,フラーレン誘導 体を代表とする n 型低分子半導体の組み合わせによる,バル クへテロ型有機薄膜太陽電池の提案がなされてきた 8) 素子構造を制御して効率向上を図ったものとしては,2007 年 6 月に UCSB Alan Heeger と韓国光州科学技術院 Kwanghee Leeらが,p 型高分子タイプのタンデム型素子を基本構造と した系で変換効率 6.5%を達成したとの報告があった 9).ボト ムセルにシクロペンタジチオフェンとベンゾチアゾールを骨 格に有する PCPDTBT と PCBM の混合層をトップセルとして PC70BM(C70誘導体)と P3HT の混合層を用いている.中 間層にはゾル・ゲル法で作成した TiOx(酸化チタン材料)と PEDOT(ポリ(3,4 エチレンジオキシチオフェン)を用いてい る. ナノ構造素子の制御として吉川らは P3HT/PCBM セルに電 子輸送層(ETL)として TiOx層を導入することにより 4.1% の効率を得た.また TiOx層の導入により,セルの均質化と フィルファクター(FF)の向上(FF=0.7)並びにキャリア 寿命の延長(TiOx層がない場合の約 2 倍)を確認している. また素子の耐久性に関しても,効率低下を約 6%(0.25 cm2 100時間,大気下)以下に抑えることができ,バリア層とし ての優れた特性を確認している 10)11) 高分子型有機薄膜太陽電池を開発している企業としては Konarka,Plextronics,Solarmer 等がある.Konarka は 2001 年 にUniversity of Massachusettsからのスピンアウトベンチャー として設立された.Konarka は高分子型の有機太陽電池の開 て効率 5.4%のセルを得ている.また,2010 年には新規ポリ マーを用いた系で効率 7.0%を得ている.Solarmer では高分 子 P 型半導体 PBDTTT を用いた系で 2010 年に 8.1%のセル を得た. 東レでは新規ドナー高分子半導体(N-P7)を用い,分子配 向,モルフォロジーの制御を行い,効率 5.5%のセルを得てい る 12).住友化学では 2012 年に UCLA との共同開発で UCLA の短波長吸収半導体材料と住友化学の長波長吸収半導体材料 を用いたタンデムセルで効率 10.6%を得た.Heliatek は Dresden工科大学の技術をベースに Bosch,BASF が 160 万 ユーロを出資し両社の研究開発と密接に提携し,低分子蒸着 系の開発を行っている.2012 年にタンデムセルで効率 10.7% を得ている. 有機薄膜太陽電池の大量生産を意図した印刷法の検討で は,松下電工(現パナソニック電工)で高分子型ポリパラ フェニレンビニレン誘導体 MDMO-PPV(ポリ(2-メトキシ-5-(3',7'-ジメチルオクチルオキシ)-ポリパラフェニレンビニレン) とフラーレン C60誘導体 PCBM からなるバルクへテロジャン クション型有機太陽電池についてスクリーン印刷法の検討を 行いその適用可能性を示した 13) また,Konarka 社の Brabec らはインクジェット法を用い, P3HTと PCBM の系で検討を行った結果,スピンコートと同 等の性能を得ており,有機薄膜太陽電池の特徴である大量印 刷による低コスト製造の実現が期待できる 14) 3. 有機薄膜太陽電池の原理・特徴 有機薄膜太陽電池の動作メカニズムは,以下のように考え られている.ドナー(あるいはアクセプター)の有機分子が 光を吸収して励起子となり,励起子が拡散によりドナー / ア クセプター界面へ移動し,そこで励起子の解離が生じ,電子 とホールの電荷分離が起こり,電子とホールが電極から外部 回路へ取り出されることで光電変換素子として動作する. 従って有機薄膜太陽電池の光電変換効率の向上には光吸収 効率(励起子生成効率),拡散効率,励起子解離による電子, ホール生成効率,電子・ホールの移動度,電荷の捕集効率の 向上が求められる(Fig. 2). 有機薄膜半導体に光が照射されると,p 型半導体の中に「励 起子」と呼ばれる電子とホールの対が生成される.有機半導 体の励起子のクーロン力は,シリコンに比べて非常に大きい. 有機薄膜太陽電池の場合はクーロン力が数百meVあるのに対 して,シリコンのクーロン力は 15 meV である.

(3)

シリコンの場合は,室内の熱エネルギーでも光が当たると 電子とホールが非常に分離しやすい.シリコン系の太陽電池 の場合は,クーロン力が有機系に比べて小さく十数 nm 程度 の励起子になっている. それに対して有機半導体の場合は,電子とホールの間の クーロン力が非常に強いので,励起子のサイズは約 1 nm と 無機系太陽電池と比較して小さくなり,そのままでは分離せ ず,生成された励起子は,p 型(ドナー)と n 型(アクセプ ター)半導体の界面まで移動しないと分離しない.界面のエ ネルギー差により電子とホールが分離して,ホールは p 型半 導体を通じて陽極に移動する.電子は,n 型半導体を通じて 陰極に移動し,電極同士を結べば,電流が流れる. 有機薄膜太陽電池は,光吸収の過程があって励起子が発生 するが,拡散する距離は数十 nm であり,その間に p 型,n 型 半導体の界面が形成されないと,形成された励起子がうまく 分離できないことになる. 界面で励起子が分離しても,電子とホールが再結合せず電 極に移動する必要がある.その際,移動度の因子が重要であ ると考えられている. エネルギー変換効率(η)は,「開放端電圧(Voc)」,「短絡 電流(Jsc)」とフィルファクター(FF)との掛け算になってい るので,効率を向上させるには各 Voc,Jsc,FF の数値を大き くする必要がある. 例えば Voc を向上させるには,p 型の「HOMO(最高被占 軌道)」準位と n 型の「LUMO(最低空軌道)」準位のギャッ プは開放電圧(Voc)に比例するので,このギャップを大きく 取ればよい.Jsc を大きくするには,光を吸収する p 型半導体 のバンドギャップを小さくし,長波長側を効率よく吸収させ たり,励起子を効率よく分離させるために,界面をうまく制 御する必要がある.現状はこのような要素を解析しながら, それぞれ改良の方向を見いだしている. 4. 有機薄膜太陽電池の特長 有機太陽電池の特長と基本構造を Fig. 3 に示す.p-n 混合層 (i 層)は励起子の移動可能距離を考慮し数十 nm 以下の範囲 になるように界面を制御し,また分離したあとに再結合させ ずに移動させる必要がある.そのため,基本的に,「p 層」, 「p-n 層(i 層)」,「n 層」という構成で開発を進めている.さ らに電極との間にバッファ層を設けて,それぞれ分離した電 子,ホールを選択的に透過させる役割も担わせている. Fig. 4に有機薄膜太陽電池で用いられている p 型半導体と n 型半導体の例を示した.p 型半導体には低分子あるいは高分 子の有機半導体材料が使用されている.n 型半導体のほとん どはフラーレン誘導体が使われている.フラーレンは電子受 容体として優れており,n 型半導体としてフラーレンが主に 使われる理由である. P型半導体としてテトラベンゾポルフィリン(BP)を用い た有機薄膜太陽電池の例を紹介する.変換型 p 型有機半導体 として用いたテトラベンゾポリフィリン(BP)は愛媛大学小 野教授と三菱化学との共同研究で有機トランジスタへの応用 先行研究からその優れた半導体特性が見出されたものであ る.BP はフタロシアニンに類似の構造を有している.フタ ロシアニンは古くから堅牢な難溶性顔料として使われてい る.また,フタロシアニンは代表的な有機半導体として高い 光電変換特性,半導体特性を有しており,電子写真感光体用 材料として実用化されている. BPは,結晶性が高く,半導体としては移動度が高く良好 㸫 + Fig. 2 有機薄膜太陽電池の動作メカニズム Fig. 3 有機薄膜太陽電池の特長と基本構造 Fig. 4 有機薄膜系のアプローチ

(4)

な半導体だが,不溶性のためインクにならない.結晶性を少 し低下させ,インク化が可能すなわち溶剤に可溶なテトラベ ンゾポルフィリンの前駆体材料(CP:テトラエタノベンゾポ ルフィリン)の開発を行った.BP の 4 つのベンゼン環をビ ジクロ構造にした塗布製膜可能な前駆体を 150°C以上で加熱 すると,逆 Diels-Alder 反応によりエチレン部が解離し高い結 晶性や良好な半導体特性を有する BP に変換される(Fig. 5). BPは高い結晶性が特徴で,多層構造を形成できる. また,BP の FET(電界効果トランジスタ)特性を調べる とその移動度は 0.92 cm2/Vs(最大で 1.8 cm2/Vsの移動度発 現)であり,BP を用いることで高特性な TFT(薄膜トラン ジスタ)が得られている 15) p型半導体としてテトラベンソポルフィリン(BP),n 型半 導体としてフラーレン誘導体の組み合わせによる検討は東京 大学の中村栄一教授と 2004 年から JST(科学技術振興機構) の ERATO(Exploratory Research for Advanced Technology)で 共同開発を行った. Fig. 6に有機太陽電池の作製方法を示した.発電(活性)層 として BP とフラーレン誘導体を用いている.p/i/n 層構成で p層として BP,i 層として BP とフラーレン誘導体のバルク へテロ混合層,n 層としてフラーレン誘導体の薄膜層を用い, いずれの層も塗布(スピンコート)で製膜を行った.i 層は BP前駆体とフラーレン誘導体を共通の有機溶媒を用いてイ ンク化し,塗布後,加熱し BP 前駆体を BP に変換を行った. この p/i/n 層構成により,i 層で光を吸収して発生する電荷 を,p 層,n 層およびバッファー層を経由し電極に輸送して いると考えられる.有機薄膜太陽電池の膜構造のモルフォロ ジーは電子顕微鏡(SEM)の解析から,明らかになってきた (Fig. 7) 16).i層の構造を明らかにするため i 層を塗布した後, 加熱し BP 前駆体を BP に構造変換した後,トルエンで i 層中 のフラーレン誘導体層を抽出し,残った BP 層を SEM で観察 を行った.BP は数十 nm オーダーでの柱状結晶として構造制 御されている.柱状結晶の間にはフラーレン誘導体が入り込 んでおり,この構造は数十 nm オーダーで制御された界面で 励起子が効率良く正孔と電子に電荷分離が行われ,分離した 正孔と電子が再結合することなく p 層(BP 層)と n 層(フ ラーレン誘導体層)をとおって移動するのに適当な構造と なっている.以上述べたように BP の結晶層は前駆体 CP か らの結晶化により自己組織化され,励起子が移動できる約 20 nm以内に界面が存在している.図下面から p 型半導体に 光が入ると励起子が発生する.一度発生した励起子は,高い 効率で界面まで移動できるため電荷の分離効率が良い. Fig. 8に示す模式図を使って励起子発生から電荷分離のメ カニズムを説明する.中央の大きな円柱は,p 型半導体の BP の結晶である.光が入ると,その結晶の中で励起子が発生す る.この励起子は,BP と n 型半導体であるフラーレン誘導 体の界面において電子と正孔の電荷分離が行われる. 界面と励起子の分離効率の関係について,Fig. 9 に示すよ うな初期に開発された有機薄膜太陽電池の p 型と n 型半導体 が平面で接合されているヘテロ接合タイプ(図左)と p 型と Fig. 5 変換型半導体 Fig. 6 p-i-n セル構造の形成 Fig. 7 有機薄膜太陽電池の膜構造 Fig. 8 光電変換メカニズム

(5)

n型が混合されているバルクヘテロ接合(BHJ)タイプ(図 右)を比較した.図左のように,p 型と n 型が平面で接合し ている場合には,界面に比較的近いところでは励起子は界面 まで到達し励起子が電荷分離される.しかし,界面から遠い 場所で発生した励起子は,界面まで移動できずその結果,電 子と正孔の電荷分離が行われず光電変換効率が低くなってし まう. 一方で,p 型と n 型が混合し,構造制御されているバルク ヘテロ結合タイプは励起子がどの部位で発生しても,界面が 近くに存在するため,電子と正孔の分離効率が高いことがわ かる. 有機薄膜太陽電池において使用する有機半導体材料の設計 指針は重要である. 変換効率(η)は,先に述べたように開放電圧 Voc と短絡 電流 Jsc とフィル・ファクタ FF(曲線因子)の掛け算で求め られ,それぞれの数値を大きくすることで効率が高まる. 開放電圧 Voc は p 型半導体の HOMO(最高被占軌道)準位 と n 型半導体の LUMO(最低空軌道)準位のエネルギー準位 差に比例するため,そのエネルギー準位差を大きくすること で,Voc を大きくできる(Fig. 10). Jscを大きくするためには,前述のような界面の制御と同時 に光の吸収波長帯についても考慮が必要である.有機半導体 は太陽光のスペクトルの中で赤外領域の長波長側を吸収でき ていない場合が多い.太陽光をできるだけ利用するためには, p型半導体のバンドギャップを太陽光の長波長側を吸収でき るように調節し小さくする必要がある. フラーレンの誘導体については,フラーレン誘導体を合成 し p 型半導体と組み合わせに適当なエネルギー準位を有した フラーレン誘導体のライブラリーを有している.p 型の半導 体も多くの種類があるが,フラーレン誘導体との HOMO, LUMOのエネルギー準位差を考慮し,p 型と n 型の組み合わ せを最適化する材料設計を行っていく必要がある. Fig. 11に有機薄膜太陽電池の高性能化へのマイルストーン を示した 17)18).2012 年現在,独自の p 型,n 型半導体を用い 素子設計,光学設計を行った三菱化学での検討結果では現時 点で世界最高効率 11.7%のセルを得ている. 有機薄膜太陽電池を製造する場合には,p 型,n 型の半導 体およびバッファー層等を積層していく.耐久性,寿命の向 上にとって,周辺部材,特にバリア部材,封止部材は重要で ある.耐久性の良い有機半導体を開発を行う一方で酸素や水 分は可能な限りカットする必要がある. しかし,高バリア性を求めると薄膜には SiOxバリア層を厚 く蒸着することになり,フレキシビリティーが失われてしま うとともにコスト増の要因になる.そこで,用途に必要とさ れる寿命を確保できるバリア性を有したバリア材料と,封止 材自身も水分の浸入を防ぐ材料と組み合わせた検討が必要と なってくる. Fig. 9 ナノ構造形成 Fig. 10 有機太陽電池半導体材料の設計指針 Fig. 11 有機太陽電池高性能化へのマイルストーン Fig. 12 有機薄膜太陽電池の層構成例とプロセスイメージ

(6)

有機薄膜太陽電池は,有機半導体薄膜,バリア材,封止材 の積層体といえる.有機半導体はダイ・コート等の塗布方法 で塗布するロール・ツー・ロールプロセスを目指して開発を 進めている. Fig. 12,13 に塗布型有機半導体を連続塗布(Roll-to-Roll) プロセスにより製造する工程の模式図を示した 17) Fig. 14にロール・ツー・ロールのベンチでの試作品と曲面 タイプの太陽電池モジュール試作品を示した.曲面タイプの 試作品は曲げた状態でも I-V 特性は変わらなかった. 5. 今後の展開 光変換効率の改良課題として,光吸収スペクトルと太陽光 とのマッチングの最適化,励起子移動及び電荷分離機能の向 上(界面の制御による電荷発生機会の増大),電荷分離後の キャリア輸送効率向上,再結合の抑制等があり材料設計,素 子設計により改良を図っていく必要がある 19)20).モジュール にした場合のモジュール効率はセル効率の 70 ~ 80%である ため,実用化を考えるとセル効率として 10%以上が目標であ る.また,セル効率 15%以上を達成するにはタンデム型の開 発が必要になってくる. また,寿命の向上に関しては用いる有機半導体の耐久性向 上のほか,バリア材,封止材の性能向上も重要な要素である. 商業化には有機薄膜太陽電池の特長であるフレキシビリ ティー,軽量,デザインの多様性等を活かした新ニーズの創 生が重要になってくる(Fig. 15). 例えば,有機薄膜太陽電池の特性を考慮した候補のアプリ ケーションの例として内装材がある.ブラインドやロール・ カーテンなどへ適用できる太陽電池モジュールを開発し,垂 直部分への太陽電池の応用を図っていく.ハイブリッド車や 電気自動車には,補助電源あるいはメイン電源に寄与できる 軽量で曲面追随性の良い太陽電池の必要性が高まっている. 近い将来には,ドーム状の三次元曲面を太陽電池で覆う一方 で蓄電も行い,夜には蓄電した電気を使って有機 EL でイル ミネーションすることも可能になる. 冒頭で述べたように,電力の地産地消やスマートビル,ス マートコミュニティの実現のため,従来の発電所で電力を作 り,各所に提供する系統連係電源と同時に,エネルギーミッ クスの多様性や災害,ピークカット,計画停電等に備え地域 単位で発電することが求められている.そのためには,現在 主流のガラス基板 Si 太陽電池だけではなく,フレキシビリ ティーや軽量化,3 次元曲面追随性,デザイン性などの特徴 を有している有機薄膜太陽電池を実現し,スマートビル,コ ミュニティなどへの展開を図り,再生可能エネルギーでの創 エネに少しでも貢献したいと考えている(Fig. 16) 21–24) Fig. 13 OPV セル製造プロセスイメージ Fig. 14 有機薄膜太陽電池試作品 Fig. 15 有機薄膜太陽電池の特長と用途 Fig. 16 KAITEKI 社会(スマートコミュニティ)への展開

(7)

謝 辞

本,有機薄膜太陽電池の開発研究は一部,戦略的イノベー ション創出推進(S-イノベ)の支援により行われましたこと を御礼申し上げます.

引 用 文 献

1) C. W. Tang, Appl. Phys. Lett., 48, 183 (1986).

2) C. W. Tang and S. A. VanSlyke, Appl. Phys. Lett., 51, 913 (1987). 3) M. Hiramoto, H. Fujiwara and M. Yokoyama, Appl. Phys. Lett., 58,

1062 (1991).

4) M. Hiramoto, H. Fujiwara and M. Yokoyama, J. Appl. Phys., 72, 3781 (1992).

5) J. Xue, B. P. Rand, S. Uchida and S. R. Forest, Adv. Mater., 17, 66 (2005).

6) 平本昌宏,機能材料,28, No. 6, 25 (2008).

7) J. Sakai, T. Taima and K. Saito, “Development of Pentacene-C60 Superlattice Bulk Heterojunction Organic Photovoltaic Cells”, MRS 2006 Fall Meeting, S6, 47.

8) N. S. Sariciftci, D. Braun, C. Zhang, V. I. Srdanov, A. J. Heeger, G. Stucky and F. Wudl, Appl. Phys. Lett., 62, 585 (1993).

9) J. Y. Kim, K. Lee, N. E. Coates, D. Moses, T. Q. Nguyen, M. Dante and A. J. Heeger, Science, 317, 222 (2007).

10) A. Hayakawa, O. Yoshikawa, T. Fujieda, K. Uehara and S. Yoshikawa, Appl. Phys. Lett., 90, 163517 (2007).

11) 吉川 暹,佐川 尚,機能材料,28, No. 6, 17 (2008).

12) N. Koide, Technical Digest 17th International Photovolataic Science

& Engineering Conference(PVSEC-17), 2007, p. 83.

13) 阪井 淳,安達淳治,有機薄膜太陽電池の最新技術,シーエム

シー出版,2005, p. 105.

14) C. N. Hoth, S. A. Choulis, P. Schilinsky and C. J. Brabec, Adv. Mater., 19, 3973 (2007).

15) S. Aramaki, Y. Sakai and N. Ono, Applied Physics Letters, 84, 2085 (2004).

16) Y. Matsuo, Y. Sato, T. Niinomi, I. Soga, H. Tanaka, and E. Nakamura, J. Am. Chem. Soc., 131, 16048–16050 (2009).

17) 山岡弘明,塗布変換型有機薄膜太陽電池の開発とその展開,プ リンテッドエレクトロニクス技術 最前線,シーエムシー出版, 2010, pp. 242–252. 18) 山岡弘明,太陽電池セミナー 2008,2008/7/1 日経マイクロデバ イス,日経エレクトロニクス,2-1 ~ 2-19. 19) 山岡弘明,塗布変換型有機薄膜太陽電池,情報機構 最新太陽 電池技術の徹底検証・今後の展開,2008, pp. 353–363. 20) 山岡弘明,有機薄膜太陽電池の開発動向と市場ニーズ,サイエ ンス&テクノロジー,有機薄膜太陽電池の高効率化と耐久性向 上,pp. 27–36. 21) 山岡弘明,荒牧晋司,塗布変換型有機半導体の有機薄膜太陽電 池への応用,有機薄膜太陽電池の最新技術 II,シーエムシー出 版,2009, pp. 162–174. 22) 山岡弘明,コスト低減と耐久性向上をもたらす新しい有機薄膜 太陽電池,日経 BP 社,2009, pp. 31–38. 23) 山岡弘明,新コンセプトのフレキシブル有機薄膜太陽電池,日 経 BP 社,2010, pp. 106–117. 24) 山岡弘明,有機薄膜太陽電池の開発と今後の展開,有機エレク トロニクス 2012–2013 離陸するプリンテッド・エレクトロニク ス,日経 BP 社,2012, pp. 90–107.

参照

関連したドキュメント

「 Platinum leaf counter electrodes for dye-sensitized solar cells 」 Kazuhiro Shimada, Md. Shahiduzzaman,

「 Platinum leaf counter electrodes for dye-sensitized solar cells 」 Kazuhiro Shimada, Md. Shahiduzzaman,

再生可能エネルギーの中でも、最も普及し今後も普及し続けるのが太陽電池であ る。太陽電池は多々の種類があるが、有機系太陽電池に分類される色素増感太陽 電池( Dye-sensitized

Sungrow Power Supply Co., Ltd.は世界の太陽光発電事業向け、パワーコンディショ ナ、蓄電システム及びソリューション提案を提供しております。.

11) 青木利晃 , 片山卓也 : オブジェクト指向方法論 のための形式的モデル , 日本ソフトウェア科学会 学会誌 コンピュータソフトウェア

• NPOC = Non-Purgeable Organic Carbon :不揮発性有機炭素 (mg/L). • POC = Purgeable Organic Carbon :揮発性有機炭素 (mg/L) (POC

一部の電子基準点で 2013 年から解析結果に上下方 向の周期的な変動が検出され始めた.調査の結果,日 本全国で 2012 年頃から展開されている LTE サービ スのうち, GNSS

分類 質問 回答 全般..