無 電 解 N i ‑ W ‑ P 皮 膜 抵 抗 体 *
樋 浦 正 青 木 博 夫
1. ま え が き
次亜 りん酸 ナ トリウムを還元剤 とす る酸性無電解め っき法に よって作製す る Ni‑Cr‑P皮 膜抵抗体は,製造方法 も簡単である上種 々の電気抵抗特性 も真空蒸着に よる NトCr系合金 皮膜抵抗体のそれに匹敵す る(1)な ど渡れた抵抗体であるが, この方法のめ っき液 中には重金 属 であるCrが必然的に含 まれ る関係上大量生産 の場合その廃液処理に問題があ る.我 々は 今回 Crを使用せず無電解め っきに よるタソグステ ンとニ ッケル との合金皮膜抵抗体 の作製 を試衣(2),め っき特性, 電気特性等を測定 した. 抵抗特性 の内で も最 も重要な要素であ る抵 抗温度係数 (以下 T.C.Rと略記)はあ る条件 の下で作製 した試料については 50ppm/oC 以下 とな り,先に報告 した Ni‑Cr‑P皮膜抵抗体(a)のそれに匹敵 させ うるとい うことを確認
した. また この方法の利点は,め っき液中にCrを含 まない こと,及び還元剤 として用い る 次亜 りん酸 ナ トリウム量をNi‑Cr‑Pめ っきに比 して約1/5以下に押えることが可能で,生産
コス トを さらに低下 させ得 ること等があげ られ る.
2. め っき浴温度 と抵抗特性
無電解Ni‑Cr‑P皮膜抵抗体の製造にあた って行 った前処理法に準 じて(4),感受性化,活性 化の各処理をそれぞれ1分間常温で施 した 1/2WP形 フォルステ ライ ト磁器円筒基体を次 の 処方に よるめ っき浴中に1分間浸潰 して皮膜形成を行 った.なおめ っき浴温はそれぞれ60, 70,80,90oCの4段階 と し,め っき浴200cc, 1ロッ トの基体数は50本 とした.
め っき処方
硫酸 ニ ッケル 7g/∫ タソグステン酸ナ トリウム 35g/∫
クエン酸 ナ トリウム 40g/∫ 次亜 りん酸ナ トリウム 10g/∫
Fig.1はめ っき浴温 と抵抗値 の関係を示 した ものである.初抵抗値はめ っき浴温 の上昇に 伴い指数関数的に減少 してい る. この傾向はNi‑Cr‑P抵抗体 の場合 と全 く同様 であ る.な お,め っき浴温60oCの ロッ トにおいては皮膜の形成が きわめて不安定であ り抵抗体 として 使用す ることは困難であった.め っき浴成分,め っき時間等各種の条件をすべ て同一 として め っき浴温のみを変えた場合,初抵抗値はめっき浴温の上昇に伴 って減少す る. これはめ っ
き反応速度が上昇 して一定時間におけ る膜厚が大にな るため と思われ る.
Fig.2は上記 ロッ トか ら無作為に抽出 した9本 の試料について
●
T.C.Rを測定 した もの* 昭和49年10月 電子通信学会信越支部大会において発表 昭和49年10月 電気関係学会東海支部適合大会において発表
** 電気工学科助教授 ★‑ 電気工学科助手 原稿受付 昭和50年9月27日
46 長野工業 高等 専門学校紀要 ・第6号
70 80 90 TemperatureoLplatingso一ution(.C)
(tHdd).tI+U.i
/ モノ
l to t5 0p ieces/200cc.
Plating timelmin. 70 80 90 TcnperatureoEplatjngsolutiorL('C)
Fig.1 Relationshipbtweentemperature Fig.2 Relationshiptxtweentemperature ofplatingsolutionandresistance. ofplatingsolutionandT.C.R.
である.T.C.Rは温度の上昇に伴いその絶対値は減少 し,ば らつ きも小 となる.め っき浴 温90oCではほ とん どの ものが ‑30‑ 0ppmノoCの範囲にあ りT.C.Rについてのみ考慮す ればめ っき浴温90oC付近でめ っき時間1分程度が最適であると思われ る.T.C.Rは負の値 を示 しているが これは膜厚が薄い場合皮膜は島状組織を皇 し(5),その島間での導電機構 に よ って負になるもの と思われ る. したが って Fig.2よりわかるように膜厚の増大に伴 ってT.
C.Rは正の方向に上昇 している.現在のところT.C.R50ppm/oC以下の抵抗体を作製 しよ うとす る場合,初抵抗値で 100gと,みぞ切 りを行 って 100kfと程度が限界のように思われる.
以上のことを考慮す る時め っき時間1分の場合のめっき浴温の最適値は80oC付近である.
3.め っき時間 と抵抗特性 め っき時間が初抵抗値 とその分布及び T.C.R
に及ぼす影響について検討す るために,め っき時 間を1,2,3,4分の4段階に変えて作成 した 試料の各特性をそれぞれ Fig.3, 4, 5に示す. 享
■l
本測定にはめ っき浴量20α光,め っき浴温85oCで ≡200 帆
作成 したlT,ッ ト30本の試料を使用 した.初抵抗 '〔空弓
値に及ぼす影響についてはFig.3によって明 らか な ように,め っき時間の増加に伴 って抵抗値は減
少す る憤向があって特に1‑ 2分の問では急激に 100
減少す るが, 2分以上では緩やかに減少 している.
以上の原田を考えてみ ると,め っき時間2分の付 近を掛 こしてそれ以下の時間では皮挟組織は島状 組織を星 してお りめ っき時間の経過に伴 って島が 成長 して連続 した膜状に変 るため急激に抵抗値が 減少 し,又2分以上では皮膜は基体表面に一様に
0 1 2 3 4
platingtime(min.)
Fig.3 Relationshipbtweenplating timealldresistance
無電解 Ni‑W‑P皮膜抵抗体 47
≡
±I 3 60
EEe
Li ト 40
20
0
‑20
‑40
‑60
‑80
」 一 手 /
1 2 3 4
PJalinglimc(minJ llot30pieces/200とC.
TemperattJreOfplathg 10 30 100 300 Resistance(n) Fig.5 Relationshipbtween plating time
allddistributionofresistance.
Fig.4 Relationship tx:tweenplating timeandT.C.R.
形成 されその抵抗値は単純に皮膜 の厚 さすなわちめ っき時間のみに関係す るためであ る.
Fig.4はT.C.Rに及ぼすめ っき時間の影響を示 した ものである.め っき時間が1分の ものは T.C.Rが負 とな り, 1分か ら2分の問で反転 して正 とな り2分以上ではめ っき時 間を増加 しても T.C.Rの値はほぼ一定である.め っき時間1分以下において T.C.Rが 負になる理由については先に述べた ように皮膜が島状組織を呈L T.C.R 測定温度の上昇 に伴 って島間の接触面積が増大 して抵抗値が減少 しT.C.Rが負を示す もの と思われる.
又 T.C.Rのば らつ きはめ っき時間の増大 とともに減少 していることがわか る.
Fig.5は初抵抗値 の分布に及ぼすめ っき時間の影響を示す.め っき時間が1分 の も の は 他の試料 と比較 して著 しく分布特性が劣 ってい るが,め っき時間を2, 3, 4分 と増すに従 ってシ ャープな分布が得 られ るようになる.以上のことか らめっき時間2分前後においてほ 皮膜組織に相違があろ うとい うことが容易に想像 され抵抗特性を論ず る際に も別 々に扱 う必 要があろ う.
4.タングステン酸ナ トリウム量 と抵抗特性
タングステン酸ナ トリウムのめ っき浴中の投入量が初抵抗値及び T、C.Rに及ぼす影響 を知 る目的で投入量を0‑ 7g/200ccの範囲で変え,め っき浴温 90oC,め っき時間2分の条 件 の下でめ っきを施 した試料について初抵抗値及びT.C.Rを測定 した結果を Fig.6, 7 に示す.
Fig.6より初抵抗値は タングステ ン酸ナ トリウム投入量の増加に伴い しだいに減少 し, 6 g付近において最小 とな りさらに投入量を増加すると再び増大の煩向がある.また皮膜の光 沢 も6g付近で最 も良好であ りこの程度の投入量の時め っき形成反応が最 も活発 であ ると思
長野工業高等専門学校紀要 ・第6号
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1lot20,iecesL ,・, Platingtime2min. Temperatureofplating sollldon90●C
0
2 4 6 8QuantityofNa2WO4(ど)
Fig.6 Relationshiptx:tweenquantity ofNa2WO4andresistance.
≡ 3 60
pj L5
J 40
20
0
‑20
‑40
, ( 壬 旦
̀ 6 8
Fig.7 Relationshipbtweenquantityof Na2WO‑andT.C.R.
われ る.また タソクステ ン酸ナ トリウム投入量を過大にす るとめ っき浴中で自己分解を起 こl しやす く10g以上では皮膜の形成が困難である.
Fig.7よりT.C.Rはタソグステ ン酸ナ トリウムの投入量が少ない間は負の値を示 し, 投入量の増加に伴 ってその絶対値が減少す る.そ してタソグステ ン酸ナ トリウム量が3‑ 4
gの間で横軸を切 る.さらに投入量を増加す ると正の値を示 し6g付近で最大 となる.その 後は逆に減少す る傾向を示す.タソグステン酸ナ トリムウ量 とT.C.Rのば らつきの範囲 の間には有意な差は認め られない.なおタソグステン酸ナ トリウム量Ogでは皮膜形成が不 安定 となる上 T.C.R も極端に大にな り抵抗器 として使用す ることは困難である.
5.抵 抗 特 性 に 及 ぼ す 熱 処 理 の 影 響
NトⅥLP皮膜抵抗体のT.C.R及び経時特性を改善す る目的で種 々の条件の下で熱処理 を施 した.
Fig.8は熱処理温度のT.C.R 及びェージソグ変化率に及ぼす影響 について検討す るため に, 40批C, 85oCのめっき浴中で1ロット100本 の試料について200,225,250oCで それぞれ2.5時間の熱処理を施 した 結果得 られた特性を示す ものであ る.
すでに報告 されてい るNi‑Cr‑P皮 膜抵抗体(6)では200oC, 3時間の熱 処理後におけ る抵抗値変化率は,初 抵抗値を100%とした時ほぼ 96%と
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(%)33喜一S!SaJuOanl空a^T3et遥
0..250.C IJot100pieces/400cc.
○ ..225'C TemperatureoEplatingsolutior185'C
‑● ..200■C Platingtimelmin.
T.C.氏.4.8ppm I
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Temperature(.C) Iloldingtime(h)
Fig.8 Relationshipbetweenrelativevalueof resistar)ceandagingtemperature.
無電解Ni‑W‑P皮院抵抗体 49
減少す る傾向が確認 されている.Ni‑W ‑P皮膜抵抗体に同様 の処理を施 した結果200oC,2.5 時間の抵抗値変化率は102%と増加す るが,変化の割合はNi‑Cr‑P皮膜抵抗体 と比較す ると 小 さい. しか し熱処理温度を上昇させるに従 って抵抗値変化率 も増大す る傾向を示 し,250o C, 2時間では抵抗値変化率は104%に達 してい る.T.C.R に対す る影響は熱処理温度が高 温になるにつれてその値は小さ くな ってい る.特に250oCで熱処理 した ものは4.8ppm で他 の熱処理温度のものに比べて減少 してい る.以上の結果無電解め っきに よるNトW ‑㌣ 皮膜 批抗体の熱処理温度は,T.C.Rお よび保持特性の両か ら考慮 した場合250oCが適当であ り,
さらに高温の熱処理は T.C.Rお よび経時特性に良好な結果を与えることが予想 され る.
ただ しその場合結晶組織の変化,表面酸化等の影響(7)も出て くる可能性が考え られ るが この 点はまだ明 らかでない.また Ni‑Cr‑P皮膜抵抗体 と比較 した場合エージング変化率が正に なるとい う現象についての理論的検討 も今後の課題であろ う.
6. あ と が き
無電解め っきによるNi‑W‑P皮膜批抗体の抵抗特性は,多 くの点で NトCr‑P皮膜抵抗 体のそれに類似 しているが,熱処理特性な ど2, 3の点で Ni‑W ‑P皮膜抵抗体独 自の特性 と思われ るものが確認 された. NトⅥLP 皮膜抵抗体の抵抗特性は,その製作条件であるめ っき浴温度,め っき時間,めっき浴成分比,熱処理法等を適当に選ぶ ことに よってNi‑Cr‑P 皮膜抵抗体のそれに匹敵 させ うるものであ り, さらに製造の面か ら考えた場合安定 した皮膜 を容易に しか も廉価に得 られる点,Crを含 まない点等 NトCr‑P皮膜抵抗体に比べてい くつ かの優れた特徴 も認め られた.
参 考 文 献
(1)金親 :Ni‑Cr系高精度薄膜抵抗器の研究 電子通信学会誌(C) 1969111 (2)金属表面技術脇会編 :無電解めっき,朝倉書店
(3)樋浦 :無電解めっきによるNi‑Cr‑P皮膜抵抗体の電気抵抗特性 長野高専紀要第4号
(4)樋浦 : 〃 〟
(5)J.P.MartonandM.Schlesir)ger:TheNucleation,GrowthandStructureofThinNi‑ PFilms∫.Elect∝bem,Soc,115.16(1968)
(6) 樋浦 :無電解めっきによるNi‑Cr‑P皮快抵抗体の熱処理効果について 電子通信学会電子回路 部品材料研究会資料 資料番号CPM 72‑38(1972‑09)
(7) S.T.PaiandJ.P.Marton:EffectofOxidationontheResistivityofNトP FilmsJ. Appl.Phys.,Vol.43,No.12,December1972