上越教育大学障害児教育実践センター紀要,第10巻,63‑66,平成16年3月
カ レンダーボ ックス
土 谷 良 巳*
カレンダーボ ックス
( Ca l e n d a r ‑ bo x)
あるいはタイ ムテーブル( Ti me ‑ t a bl ef o r ma t )
な どと,英語圏で も ことばはい くらか違 ってい ます が, ここで は カ レン ダーボ ックス として,図1,2,3,4の よ うな 「教 材」を紹介 します。養護学校 に限 らず障害 のある子 どもの教室では,一 日の日課が絵,写真,絵文字,文字 な どを用 いて黒板 に示してあるのは珍 しい ことではあ りません。多 くの 教室では,朝の会でその 日の一 日の予定 を説 明 した り, 確認しなが ら,‑繋が りの 日課表 を構成す る活動 に取
り組んでいます。構成す る作業 の一部が子 どもたちの 課題となっていた り,その 日の給食 の メニューを話題 にすることは, どこの教室で も見 かけることです。
精勤 の流 れ
カレンダーボックス(A)
このよ うな 日課表 の言わ ば原形が, ここで紹介す る カレンダーボ ックスなのです。欧米の障害児教育では, 障害の重 い子 どもの教育の場, と りわ け文字では十分 なコミュニケーシ ョンが とれなか った り,見 る力が弱 い子 どもの場合 には, どこで も図に示 した よ うなカレ ンダーボ ックスが,一人 ひ とりの子 どもに用意 されて いることが,当た り前 の こととだっているよ うです.
* 上越教育大学学校教育学部附属障害児教育実践セン ター
カレンダー ・ボックスとは
カレンダーボ ックスは,先天的 に視覚 と聴覚の両方 に障害がある子 ども (いわゆる先天性盲 ろ う児)の教 育の場 で,開発 され ました。オ ラソダの
va nDi j k
とい う研究者であ り教育者で もあるひ とが,その開発 に深 く関わ っていると聞いています。生 まれなが らに視覚 と聴覚の両方 に障害があると, 目と耳を使 って外界か らの情報 を摂取す ることが極め て制約 され ること,多 くの人 々の通常 の コ ミュニケー シ ョン手段である音声言語や文字言語が使 えない こと か ら, コ ミュニケーシ ョンと移動 とにたい‑んな困難 が生 じます。その ことは,周囲の状況 との繋が りを保 つ ことがたいへん難 しい状態であるとも言 えます。
この子 どもたちはまた, いわゆ る時間概念をもつ こ とが容易ではない とされてきました。時間概念 とい う と,「時計 の針 の読み方 を教 えること」とおもわれた り もします。 またその発達 もいろいろ と研究 されではい ます。 しか し,生 まれなが らに見 ることも,聞 くこと も困難 な子 どもた ちに,音声言語 で の コ ミュニケー シ ョンを とらず に,また文字や絵 を使わず に,ど うや っ て教 えた らよいので し ょうか。
その ヒン トは,時間概念の始 ま りは, これか ら (め るいはその 日に)取 り組む活動 の順序 に,子 ども自身 が気付 いた り,理解 した り,見通 しを もっ ことである と考 えた ことで した。それを視覚や聴覚に頼 らず に, ど う実現 させ るか。
その答 えは, モ ノの手がか り(オブジ ェク ト・キ ュー と呼ばれ ることが多い よ うです。) を使 うことで した。
まず子 どもがだいたいルーテ ィンとしている活動 を選 び,その活動 を意味す るモ ノの手がか りを用意 します。
それぞれの活動で実際に使用す るモ ノ, もし くはその モ ノの一部で手 にす る部分 (例 えばカサな らその握 る 杖 の部分)が都合が よいよ うです。 モ ノであれば触覚 を使 って, なんであるかを捉 えることがで きます。 ま た実際に使 うものであれば,手がか りとして分か りや す いはずです。例 えば食事の場合 はスプーンが,外 出
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には靴や帽子が,学校へ行 くにはその時 に使 うカバ ン がオ ブジ ェク ト・キ ュー として考 えられ ます。
構造化 と分 か りやす さ
このオ ブジ ェク ト・キ ューを活動 の順 に箱 に入れて 並べ ます。蓋 を付 け る場合 もあ ります。 あ る活動 をす る際 にはそのオ ブジ ェ ・キ ューを手 に とってか ら活動 に向かいます。 その活動 が終わ った な らそのオ ブジ ェ ク ト・キ ューを箱 の もとの場所 に戻 し,場合 に よって は蓋 を して, その隣 の箱 のなかに手 を入れ ます。 その とき手 に触れた オ ブジ ェク ト・キ ューが,次 に取 り組 む活動 にな・ります。
この よ うにす ることで,見 ることも,聞 くことも困 難充 子 どもたちが,取 り組む活動 の順序 を理解す るよ うにな ります。次 に何 をす るのか分 か らないまま (係 わ り手 か らす れ ば ど う伝 えて よいか,分 か らな い ま
普),次 の活動 に手 を引かれ て連 れて行 かれ るよ うな状 況か ら,子 どもが 自分 か ら箱 に手 を伸 ば し, オ ブジェ ク ト・キ ューを手 に してその活動‑ 向か う, とい うよ
うな場面が見 られて きました。
また,箱 に入 って並 んでいるオ ブジ ェク ト・キ ュー をひ ととお り触 ってみ ることで, その 日の活動全体の メニューを子 どもが知 ることがで きます し,一 日の終 わ りに, 同 じよ うにすべ てのオ ブジ ェク ト・キ ューを 触 ってみ ることで, その 日の活動 を振 り返 ることもで きます。 あ る活動 を終わ りにす る場合, そのオ ブジェ ク ト・キ ューを箱 に しま う,蓋 をす るとい うことで, よ り分 か り易 くもな ります。
そのた め には,子 どもが係 わ り手 と ともに カ レン ダー ・ボ ックスのある場所 へ いかなけれ ばな りません が,子 どもが何 か活動 を していてその場所 を離れ よう とは しない場合 な ど, カ レンダー ・ボ ックスを子 ども
図2 カレンダーボ ックス(B)
図3 カレンダーボ ックス (C)
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カレンダーボックス
の側へ持 ってい くな どの工夫が必要 になることもあ り ます。その場合 はあま り大 きなカレンダー ・ボ ックス では使いに くいか もしれ ませ ん。
やがて子 どもが一週間の予定 を理解す るよ うになれ ば,図4に示 した よ うなカレンダー ・ボ ックスを使 う こともあ ります。 これは引 き出 し式 になっていて,一 つの段が曜 日を表 しますので,7段 の引 き出 しになって います。そ して左か ら右へ と活動が順序づ け られてい るわけです。
見通 しをもつ ことと落 ち着 いて活動すること このよ うな分か りやす さが,子 どもが 自分が取 り組 む活動‑の見通 しを もつ ことを支 えます。 また見通 し をもつ ことで,子 どもは安心 して落 ち着 いて行動す る ことができるよ うにな り,その子の もっている力を存 分に発揮す る下地がで きるとも言 えるで し ょう。分か りにくさは ときに不安 と混乱 を もた らします。その よ うな場合には, 自分の持 っている力を十分 に発揮で き ないことは,私たちが誰 で も経験 していることではな いでしょうか。
手続きを共有するコ トバへ
このカレンダー ・ボ ックスは,教材 あるいは教具 と いえますが,む しろ子 どもと係わ り手 が共有す るコ ト バである (コ トバになる)といった方が適切で し ょう。
確かに最初 は, カレンダー ・ボ ックスの手続 きを子 ど もは学習す る必要があ ります。 また多 くの場面で,係 わ り手が子 どもに 「次 に子 どもには何が起 きるのか。」
「係わ り手 は子 どもに何 を してはしいのか。」を子 ども に伝えるために, カレンダー ・ボ ックスが使われ るこ とでしょう。その ことが子 どもの分か りやす さをたす
けることは,すでに述べた とお りです。 この状態が高 じると, カレソダー ・ボ ックスは,係わ り手が子 ども (の行動) を コン トロールす るための,便利 な道具 と な りかね ません。子 どもの分か りやす さは増 えた もの の,子 どもは受 け身の状態のままとい うことにな りか ね ません。
しか し実際 にこのカレンダー ・ボ ックスを使 ってみ ると,子 どもが このカレンダー ・ボ ックスの意味を理 解す るにしたが って,子 ども自身が,このカレンダー・
ボ ックスをつかって,係わ り手 にものを言 うよ うにな る場合があ りました。例 えば,子 どもが カレンダー ・ ボ ックスの中に入 った ものを取 り出して放 り投 げて し まった り,箱 の中身を互いに入れ替 えて しまった りす ることです。前者 はその活動 を子 どもがや りた くな かった か らで あ り,後者 は好 きな活動 を先 にや りた か ったか らだ と考 えられ ます。
この とき,子 どもは某 に このカレソダー ・ボ ックス を使 えるよ うになった と言 えます。係わ り手 か らの メ ッセージを受 け取 る (受信す る)だけでな く,係わ り手 に 自分の思いや考 えを, カレンダー ・ボ ックスを 使 って伝 えよ うとした。つ ま り子 どもか らみても便利 な コ トバであることが,分かった とい うことではない で し ょうか。それ までは分か りやす さにたす け られて, スムースに活動 に取 り組み,活動 を切 り替 えるよ うに なった子 どもが, 自分 を主張す るためにカレンダー ・ ボ ックスを使 い始めたわ けです。 この とき係わ り手 と 子 どもとは, カレンダー ・ボ ックス とい うコ トバを共 有 したのです。
カ レンダー ・ボ ックス と教育の新たな課題
この事態 は ときには,係わ り手 の考 えと子 どもの思
図4 カレンダーボックス
( D)
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いがぶつか り合 うとい う,穏やかではない場面 ともな ります。係わ り手 は ど うした らよいので し ょうか。わ た しは この よ うな事態が,話 しコ トバを もつ ことが困 難 な障害 の重 い子 どもの教育の場 に生 じることに,喜 びを感 じています。それが簡単 に解決で きる場合 ばか りとは限 らない ことは百 も東知 です。先生方が困 って
しま うことも多 々あることで し ょう。で もこの事態を 教育的 に意味があるよ うに解決す るための努力を続け る先 に,新 しい障害児教育の地平が拡が るのではない か,大げさに言 えばその よ うな ことを考 えています。
皆 さんは ど うお思いで し ょうか。 いち ど, このカレン ダー ・ボ ックスをため してみてはいかがで し ょうか。
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