我が国の少年法 とその改正論議の概要 *
丸 山 雅 夫
Ⅰ
は じめに『非行少年 に対す る処遇 と成人 の犯罪 (者)に対する処罰 とは本質的に異なっ ているべ きであ る』。 このよ うな認識 は,おそ らく広 く一 般 に認 め られて い る ものであ り,各国の少年法制 も,このよ うな認識 の うえに成 り立 っていると言 っ てよい
。1 9 4 8
(昭和2 3 )
年7 月1 5
日に制定 された我が国の現行少年法 (法律第1 6 8
号。翌年1 月
1日施行) も,後 に見 るよ うに,成人 とは異 な った少年 に特 有 の取 り扱 いを広 く認 めている。 しか し,福祉的観点 ない しはパ ターナ リズ ム の観点か ら 『少年 と成人 とは異 な った取 り扱 いをすべ きであ る』 ことをいか に 強調 した と して も,一定 の問題行動 ない しは犯罪事実 を契機 と しては じめて少 年 の取 り扱 いが問題 にされ る以上,そ こに刑事法的 (司法的) な観点 が登場 し て くることも否定 で きない事実 である1)。 この点 に,
「刑 事法 的 な もの と後 見 的な もの との結合 ,司法的な機能 と福祉的な機能 との妥協調和 の中に見出され*
本稿 は,漢陽大学校法科大学 (大韓民国) と上智大学 を中心 に開催 され た刑事 法 セ ミナ ー( 1 9 9 0
年9
月17
日漢陽大学校安 山キ ャンパ ス) において行 な った報 告 を, 改題 し (原題 は,
「日本 の少年法 とその改正問題」),大幅 に加筆 した うえで,注 を付けた ものであ る。 なお,本稿の性質上 ,文献の注記 は原 文 を引用 した場合 に限 り, それ以外 の ものについて は 「参考文献」 として一括 して後 に掲 げた0
1) 少年法の法理 には,大別 して,ふたっの流れがあると言 われて い る。 ひ とつ は, 刑事法的な観点 か ら,行為者 に適切 な処遇 を加えることを基 盤 と して,一般 に可 塑 性 (教育可能性)が高 い とされ る少年 につ いて は教育的方法 を もって個 別 的 な処 遇 をす るべ きことを強調す る立場であ り,主 と して大陸法系で発達 した。 もうひ とっ は,衡平法 (ェクイテ ィ) の思想 に由来す る国親 (パ レンス ・パ トリエ) の考 え方 に もとづいて,適切 な親 の保護 を欠 く児童や福祉 の損 なわれてい る少年 に対 して は 国家が親 に代わ る監護教育 の責任 を果 た さなければな らない とす る もので あ り,特 にアメ リカにおいて発達 した。 ただ,このような図式的な流れ は必 ず しも互 い に排 斥 し合 うもので はな く,各国の少年法制 は,いずれの側面 に重 点 が置 か れて い るか の相違 はあるに して も,立法 ない しは運用 の場面 において両者 の調和 の うえ に成 り
〔 53〕
5 4
商 学 討 究 第41
巻 第3
号る2)
」
と言われ る少年法制の特徴がある。 アメ リカ標準少年裁判所 法 を模範 と した我が国の現行少年法 において も,全体 として後見的 ・福祉的観点が強調 さ れている一方で,司法的観点 に立 った規定 が少 なか らず兄 い出される。ところで,現行少年法 は,福祉的機能 と司法的機能 の混在 とい う特徴の故に, そのあ りうべ き姿 (両機能 の調和 のあ り方) との関係で根本的な改正 の必要性 の有無等 をめ ぐって活発 に議論 され,一時 は根本的な改正直前 にまで至 った と い う経験 を有 している。 現在 の ところ,そのような議論 自体全 くの沙汰 止 み に なってお り3),当面 あるいは相 当の将来 にわたって,我 が国 の少年 法 の根本 的 改正 とい う事態 は考 え られな くな っていると言 ってよい。 しか し,少年 法制 が いか にあるべ きか とい う根本問題 は依然 として未解決 のままに残 されて お り, 将来 この点 に関す る議論が再燃す る可能性が皆無 にな って しま ったわ けではな
い。 また,現在 のよ うないわば静止 した状況 のなかで,我が国の少 年法 が置か れて きた立場 を客観的に跡づ けることも,一定程度 の意味を持 ち うるであろう。
そ こで,以下 において,必要 と思 われ るい くつかの点 に も言及 した うえで,主 と して現行少年法 をめ ぐる改正論議 の概要 を紹介 してい くことにす る。
Ⅱ
現行少年法制定 までの略史同 じ犯罪 を犯 した場合であ って も少年 と成人 はそれぞれ区別 してその特性 に 応 じて処遇すべ きであるとい う観点 か ら,各国 において少年法 とい う独 自の法 分野が形成 されたのは,一般 に
,2 0
世紀前半 の ことであると言われ て い る。 こ の ことは,我 が国 において も同様であ った4)。立 っていると言 ってよい。
2)
森田宗一 「少年保護 の基礎理念」小川太郎他編 『少年非行 と少年保護 ‑ 理論 と 実務‑ 』(1960年)5
頁。3)
議論 自体 ほとんどな くなって しま った現在 で は,森 田宗一 『少年法 のゆ くえ』( 1 9 7 6
年)4 8
頁が指摘す るよ うに,「一般国民 はもちろん,かな り有識 の人 にさえ, どこに問題があるのか,わか らされていないのが実状」である。4)
もっとも,個別的には,それ以前 にも少年 の特性に着 目した特別 な取 り扱 いがな か ったわけではない。 たとえば,徳川8
代将軍吉宗が編纂 させた公事方衛定書 に は, すでに,
「幼年者 は心底 も可改候」 という教育可能性への言及があるはか,人殺 しや 放火等の重罪を犯 した場合であって も,「子心 にて無弁」 の者 には 「拾五歳迄親類頚我が国の少年法とその改正論議の概要
5 5
我が国 における少年処遇 の事実上 の出発点 とも言 うべ き1 872
(明治5)
年 の 監獄別井図式 t(太政官達第378
号) において は,少年 は,成人 の犯 罪者 か ら隔 離 され寛大 な措置が とられ ることとされた ものの,成人犯罪者 と同様 に処罰 の 対象 として,慾治監 に収容 された( 10
条5)6))。 その後,1 880
(明治1 3)
年 に旧刑法が制定 され (太政官布告第
36
号。明治1 5
年1 月 1
日施行),そ こに懲 治場 制度が規定 された ことか ら( 79
条‑84
条),翌年 の改正 監獄則 (太政官達 第81
号O これによ り明治5
年監獄則 は廃止) によ り,懲治監 を慾治場 に変更 した う えで新 たな懲治処分が始 ま った。 そ こで は,刑法不論者 と しての幼年者 と唐 唖 者,および尊属親 の請願 による故意不良 の子弟を収容対象 とした うえで (旧刑 法79
条,82
条,監獄則1 8
条,1 9
条),1 6
歳未満 の者 と1 6
歳以上 の者 を区別 し,さらに
1 6
歳以上20
歳未満で初犯 の者 と再犯以上 の者 とを区別 して,それぞれ監房 を別異 とし (監獄則21
条),悪習感染の予防が図 られ た。 この改正 監獄則 は, 少年 と成人 の分離 とい う点で は明治5
年監獄別 よ り進んだ ものとなっていたが, 依然 と して少年 を処罰 の対象 としていた点 で,独 自の少年法制 と して位 置 づ けることので きない ものであ った。
一方 ,明治
1 0
年代 にはすで に,懲治場 における刑罰 による処遇 に実効性 のな いことが 自覚 され,欧米諸国の感化教育事業 の視察 にもとづ く懲矯院設 置運動ともあいまって,不良少年 に対す る独 自の処遇の必要性が唱え られるようになっ ていた。 ここか ら,民 間事業 としての私立感化院 による感化事業が精力 的 に進 め られ7
) ,1 900
(明治33)
年 には,不良少年 に対す る懲罰主義 思想 か ら教育保置」との規定があった。
5 )
監獄則では,監獄の構内に,未決監,己決監,女監,病監から区画 して懲治監を設 け,刑期を終了 した2 0
歳未満の者および不良行為がある幼年者等を懲治監に収容す るとしていた。6 )
以下,条文の引用にあたって,叙述の関係で法令名が明 らかな場合には,単に○
条とのみする。7 )
感化法制定以前に私立感化院としそ設立された主なものとしては,1 8 8 5
年の私立 予備感化院 (東京市),1 8 8 6
年の千葉感化院,1 8 8 7
年の感化保護院 (大阪市),1 8 8 8
年の岡山感化院,1 8 8 9
年の京都感化保護院,1 8 9 0
年の三河感化保護院 (静岡県),1 8 9 7
年の徳島感化保護院,三重感化院,1 8 9 9
年の広島感化院,阿波国慈恵院 (徳島 市),家庭学校 (東京府),等がある。5 6
商 学 討 究 第4 1
巻 第3
号護思想への転換を遂 げた感化法が制定 された (法律 第37号)。 感化法 は,成人 犯罪者 とは異 なった独 自の理念 に もとづいた少年処遇を標梼 した点で注 目すべ きものであ ったが,その後の第 1次感化法改正 によって懲治場制度が廃止 され るまでの実際の処遇 は依然 として従来の懲治場で行 なわれてお り,公認 の感化 院 も2府 3県 (東京,大阪,神奈川,埼玉,秋田) に設 け られて いた にす ぎず, 理念を現実化す るには不充分な ものであった
。1 9 0 8
(明治4
1)年 に至 り,現行 刑法の施行 にともな って感化法が改正 され (第 1次 改正),慾治場留置 に関す る規定が削除 された ことによって,はじめて,成人犯罪者 とは別 の理念 に立 っ た不良少年の処遇が内務省管轄 の感化院によるものに一本化 されたのである。その後,不良少年の増加を根拠 とす る感化教育の手ぬるさに対 す る批判 や, 感化法‑の司法的処分 の導入 の主張,アメ リカ少年法制の積極的な評価等 が あ いまって少年法立法運動が展開 され
,1 9 2 2
(大正11)年 に少年法 (
旧少年法) の制定 を見 るに至 った (法律第42
号。翌年1 月 1
日施行)。 旧少年 法 は,それ まで1 8
歳未満 の少年 を感化教育一本でや ってきた処遇制度を改め,同時 に制定 された矯正院法 (法律第4 3
号。翌年1 月 1
日施行) とともに,司法省管轄 と し て,年齢1 4
歳以上の少年を対象 としたのである。 こうして,旧少年法 は,1 4
歳 以上1 8
歳未満 の少年 について,福祉的機能 と司法的機能 とを併せ持 った法律 として登場 した。その主 な特徴 としては,一般 に,①少年の刑事事件 につ いて は 刑事処分 (刑罰)を もってのぞむが,教育改善の観点か ら,刑法,刑事手続 お よび行刑 に多 くの特則が設 け られていること,②刑事処分 はやむをえない場合 に限定 し,原則 として保護処分 を優先 させ (但 し,規定上 は刑事処分先議主 義),多様な保護処分 (訓戒,学校長訓誠,書面誓約,保護者引渡,保護 団体委 託,保護司観察,感化院送致,矯正院送致,病院送致の
9
種類) を設 けた こと,③保護処分の対象者 として,罪 を犯 した少年だけで はな しに,罪 を犯 す虞 れの ある少年を も含めた こと,④感化法の もとでの保護処分が純然たる行政処分 で あったのに対 し,司法的機能 とケース ・ワーク的機能 とを備 えた少年審判所 を 司法機構の中に設置 した こと,等が指摘 されている。 一方,少年法 の適用 を原 則的に免れ る年齢
1 4
歳未満の少年 については,感化法を改正 した うえで (昭和我が国の少年法 とその改正論議 の概要 57
8
年少年教護法の制定 (法律第55号) によって廃止),新 た に感化 院法 (大正1 2
年1 月 1日施行) を加えて,従前通 り内務省管轄 として取 り扱 うこととされ
た。 ここに,現在 に至 るまで引 き継がれている,少年保護 における二分化 (二 本建制)が出現す ることになったのである。第
2
次大戦 の終了 (敗戦) を契機 として,我が国の少年法制 は大 きな転機 を 迎え,少年保護立法の統合 (少年教護法 と少年法 との統合)や所管省の一元化 等,特 に少年保護事業 の一本化 が議論 された。 しか し,1 9 47
(昭和22)
年 に, 少年教護法 は児童虐待防止法 (昭和8
年法律第40号),母子保護法 (昭和1 2
年 法律第19
号) とともに児童福祉法 (法律第164
号。翌年1 月 1
日か ら一部施行,4 月 1
日か ら全部施行) に統合 され,翌19 48
(昭和23)年 には,現行少年法が,
同時に制定 された少年院法 (法律第1 69
号。翌年1 月 1
日施行) や翌年制定 さ れた犯罪者予防更生法 (法律第142
号) などとともに,旧少年法,矯 正院法 を 引 き継 ぐこととな った。 このため,旧少年法 の制定 によって もた らされた少年 保護の二本建制 は,現在 に至 るまで依然 として続 いているのである8)0Ⅲ
現行少年 法 の特色
〔1〕 旧少年法 に対する特色
現行少年法 は,旧少年法 と比べて,福祉的機能 と司法的機能 との調和 の もと で少年 の保護を図 るという基本的認識では異 なるところはないが,その具体化
との関係で,い くつかの変化が見 られ る。
少年 に対す る人権保障の強化 とい う観点か ら,旧少年法を改正 し,①保護処 分 の決定 を,行政的機能 を併有 していた少年審判所の手 (旧
1 5
条) か ら,純然8 )
児童福祉法 は,1 8
歳未満の者 (児童) を対象 とし(4
条),少年法 は,2 0
歳未満 の 者 (少年) を対象 としている(2
条1
項)。 したが って,1 8
歳未満 の者 について は両 法が競合す ることになるが,1 4
歳未満 の者 (刑事未成年) について児 童福祉法上 の 措置を原則 と して少年法上 の措置を例外 とす ることによって (少年法3
条2
項),一 定程度 の調整が図 られている。 なお,後 に言及す るよ うな少年 に対 す る特別 な (刺 外的)取 り扱 いの存在 ともか らんで,我が国 の少年法制 は,対象者 の年 齢 との関係 で (特 に,1 4
歳,1 6
歳,1 8
歳,2 0
歳 といった2
歳 きざみで) 複 雑 な もの とな って いる。
6 8
商 学 討 究 第41
巻 第3
号たる司法機関 としての家庭裁判所の手 に委ねた
(3
条),②保護処分 が強制力 を伴 う裁判所 の措置 とな った こととの関係で,保護処分の決定 に対 して抗告 を 認めることに した( 3 2
条‑3 5
条),③決定機関たる少年審判所 が執行面 に も関 与 しえた (旧5
条) のを改め,保護処分の決定 と執行 とを原則 として分離 した( 2 7
条,2 7
条 の2,4 6
条),④保護処分のなかか ら裁判 に適 さな い事実的処分 を 除外 し,児童福祉法 との調整を も図 って,保護処分の内容を従来の9種類 (旧
4条)か ら3種類 (保護観察所の保護観察,教護院 または養護施設送致,少年 院送致) に整理 した( 2 4
条),⑤保護処分 の合 目的性 の観点 か ら手続 を無方式 としていた旧法の態度 を改め,保護処分の手続の形式性を強化 (刑事訴訟法化) した(5
条,1
1条,1 2
条,1 7
条‑2 1
条,2 3
条‑2 5
条,等)0少年 の健全育成の充実 とい う観点か らも改正が行 なわれ,⑥保護処分を拡充, 徹底 させ るために,少年 の年齢を
,1 8
歳未満 (旧1
条)か ら2 0
歳未満 にまで引き上 げ
(2
条1
項),⑦検察官先議 による刑事処分優先主義 の態度 (旧2 7
条, 旧6 2
条) を改めて,保護処分 に付す るか刑事処分 に付す るかの先議権を家庭裁 判所 に与えた( 2 0
条,4 1
条,4 2
条),⑧旧法で も採用 されていた科学的な人格調 査 (旧3 1
条) の徹底を図 り,家庭裁判所 に家庭裁判所調査官 をおいて科学調査 (社会調査) を行 なわせ るとともに,身柄 を保全 しなが ら心身 の鑑別 (資質調 査)を行な う専門機関 として少年鑑別所を設置 した(8
条,9
条,1 7
条)0さ らに,⑨少年 の刑事事件 において,死刑 ・無期刑を科 しえない年齢 を,行 為時
1 6
歳未満 (旧7
条)か ら行為時1 8
歳未満 に引 き上 げ( 5 1
条),⑬ 旧法 で は 全 く配慮 されていなか った少年の福祉を害す る成人 の刑事事件を,新 たに家庭 裁判所 の管轄 とす る( 3 7
条),な どの改正が行なわれた。旧少年法 と比較 した このような変化 は,手続的には旧少年法の 「改正」によっ て もた らされた ものであるが,非常 に広範囲にわた ってお り,同一理念 に立 っ た 「新立法」 として評価 しうるほどの ものであったと言 ってよい。特 に,⑥⑦ の点 は,その後 の改正論議 のなかで常 に中心的問題 として扱われることにな る
ものであった。
我が国の少年法 とその改正論議 の概要
5 9
〔2〕
成人の刑事事件 に対する特色福祉的機能 と司法的機能 との調和 の うえに成 り立っ少年法制 は,成人 の刑事 事件 に対す る取 り扱 いと比べて,多 くの点で特色を有 している。 特 に,現 行少 年法 について は,旧少年法か ら引 き継 いでいるもの も含 めて,次 の よ うな特色 を指摘す ることがで きる。
少年法制 の基本 をなす理念的特徴 として は,①原則 として,応報 に ウ ェイ ト の置かれがちな刑罰 (処罰) を手段 とせず,性格 の矯正 および環境 の調整 に関 す る保護処分 を行 な うことによって,少年 の健全 な育成が 目ざされてい る こと
(1
条)である。また,一般的 (全体的)特色 として は,②法 の対象 が,刑罰 法規 に遵反 した 者 (犯罪少年 ,触法少年)だ けで はな しに,一定の要件 の もとに将 来 的 に刑罰 法規 に違反す る虞 れのある者 (虞犯少年) にまで拡張 されていること (
3
条),③事件 の管轄が,通常 の裁判所 にで はな く,家事事件 とともに家庭 裁判所 に属 す ること (裁判所法31条 の
3
9)),④法の関心が,非行事実 (何 をや ったか) そ れ 自体 にあるので はな く,当該少年 の要保護性 (その少年 が どのような少年 で あ り,彼 が現在何 を必要 としているのか) の究 明 に こそ あ る こと( 2 3
条),⑤ 少年事件 につ いて は,現在,過去 を問わず,当該事件 の本人 で あ る ことを推知させ るよ うな記事等 の掲載等が禁止 され ること
( 61
条),が挙 げ られ る。以上 のような理念的特徴 と一般的特色 とを うけて,異体的な手続段階 につ い て も,次 のよ うな特色が兄 い出され る。 審判 の前段階 においては,⑥審判 に付 すべ き少年 を発見 した者 は,誰 で も,家庭裁判所 に直接通告 しうる
(6
条10)),⑦審判 に付すべ き少年 について は,事件 について家庭裁判所調査官 が調査 し少 年鑑別所 の鑑別を行 な うため
(8
条,9
条,1 7
条),成人 の刑事事件 で はせ いぜ9)
家庭裁判所 は,少年事件 と家事事件 の問に有機的な関連のある ことに着 目 して設 立 された。 ただ,両者の背景の違いや法体系の相違な どか ら,調査官制度の統一 を除 いては,有機的関連 に対応するような有機的結合 は必ず しも実現 して いないのが実 状である。1 0)
ただ,現実的には,一般人が家庭裁判所 に直接通告す ることはほとんどあ りえず, 捜査機関‑の通報等が発見の端緒 とな る場合が大部分であるo6 0
商 学 討 究 第41
巻 第3
号い情状 と して扱 われ る事情 が む しろ重 視 され る ことにな る,とい った特 色 が あ る。審判 段 階 にお け る特色 は,⑧検察 官 に先議 権 が な く,少 年 事 件 は家 庭 裁 判 所 に全件 送 致 され る
( 42
条1 1 ) )
,⑨刑 事訴訟 法 が対 立 当 事 者 訴 訟 の構 造 を と る の と本質 的 に異 な り,審 判 が職 権 主 義 に も とづ く非 形 式 的 な もの で あ るた め( 22
条1
項 ),検察 官 の関与 が な く,成人 事件 で は当然視 され る起 訴 状 一 本 主 義 の原則 や黙秘 権 の告 知 (刑事 訴 訟法256条6
項,291
条2
項) 等 に関 す る明 文 規 定 を もた な い,⑲ 憲法上 の要請 で あ る裁判 の公 開原則 (憲法82
条) は採 用 され ず ,審判 非 公 開主 義 を とる( 22
条2
項),⑪ 保護処分 を決定 す る前 に,プ ロベ ー シ ョンと して の実質 を持 っ 中間的措 置 で あ る家庭裁 判所調査 官 の観 察 (いわ ゆ る試 験観 察) に付 す る ことに よ って,事 実 上 の処 遇 を な し う る( 25
条 12)),点 に見 る ことが で きる。 また,処 遇段 階 での特 色 と して は,⑫原 則 的 な処 遇 形 態 と して の保護処 分 の内容 が,い わ ゆ る試 験 観 察 制 度 を含 め て 多 彩 で あ る こ と( 24
条,25
条) を指摘 しうる。さ らに,少年 の刑事事 件 につ いて も,⑬送致 時
1 6
歳 以上 の少 年 に対 して の み 例 外 的 に刑事処 分 をす る ことが許 され るが( 2 0
条),そ の場 合 に は起 訴 便 宜 主 義 (刑事 訴 訟 法248
条) の適 用 が な く,起訴 が強制 され る( 45
条5
号 ),⑭ 少 年ll) しか し,実務 においては,1
95 0
(昭和25 )年 5
月以来,犯罪捜査規範38 2
条該 当の 要保護性のない事案について,通常の事件送致手続の例外 としての簡易送致手続 に よることが認め られている (昭和25
年8
月14
日家庭甲2 3 5
家庭局長通達等)。簡易送 致手続 は,捜査機関 (警察)が,その事案が軽微で要保護性 に も問題がない と患わ れる少年に訓戒のみを与えて,家庭裁判所には非行事実 と若干の情状 を記載 した送 致書のみを毎月 1回一括 して送付 し,家庭裁判所が書面審査によって問題がなけれ ば審判不開始の決定をす るというものであり,実質的に,裁判所 による非行事実の 認定や要保護性の判断等の権限を捜査機関に付与するものとなって いる。特 に,こ の処理手続の充分な活用を目ざした19 69(
昭和4 4 )年の通達 (
昭和44
年5
月27
日最 高裁家3
第1 03
号家庭局長通達等)によって,
「軽微な少年事件の範囲」が改め られ, 実務上完全 に定着 している。1 2 )
終局決定を留保 したうえで行なわれる試験観察は,実際上 も柔軟 な運用が可能で あることなどか ら,都合のよい制度 として利用 され,
「保護観察や少年院の実際のあ り方が固定化 して くるに従 って,試験観察 に家庭裁判所が頼 る部分が多 くな ってい く」(守屋克彦 『少年の非行 と教育』( 1 9 7 7
年)214
頁) ことになる。そして,このよ うな点か ら,試験観察制度 の非本来的な活用に対する批判が生 まれ るとともに,短 期少年院の導入 といった保護処分の多様化が主張 されることにもなるのである。我が国の少年法 とその改正論議の概要
6 1
に対 して は,他 の被疑者 または被告人 との接触 を避 ける分離的な取 り扱 いが要 請 され( 4 9
条),勾留 もやむをえない場合 に限 って許 され る( 48
条),⑮例外 としての刑事処分 に付す る場合 にも,④行為時1
8
歳未満 の者 について は死刑 と無 期刑 とが緩和 され る( 51
条),⑥一定 の範囲内で相対 的不定期刑 が採 用 されて いる( 52
条),㊤換刑処分 (労役場留置) の言渡が禁止 され る( 5 4
条),③ 懲役 または禁鋤 の執行が成人 と区別 した場所で行 なわれ る( 56
条),とい う重 大 な 特則が設 け られている,といった点 に特色が認 め られ るのである。Ⅳ
現行少年法成立か ら現在 に至 るまでになされた改正現行少年法 は,旧少年法 によって もた らされた少年保護 における二本建制 を 引 き継 ぎ他の法制 との関係で も複雑 な もの とな っていたため,それ らとの調整 を も含めて,これまでに,以下 に示す よ うな1
4
回にわたる部分的改正 を経験 し て きている。1 9 48
(昭和23)年 1 2
月18
日少年法等 の一部 を改正す る法律 (法律第252
号)0 少年法 と同時の制定が予定 されていた犯罪者予防更生法の立案が遅れたため, 少年法中 「地方少年保護委員会」 とあるのを一時 「少年審判所」
と読み替えるために,69条を置 いた。
1 949
(昭和24)年 5
月31日犯罪者予防更生法施行法 (法律第143
号)。上述の69
条 を削除 した。1 9 49
(昭和24)年 6
月15
日少年法の一部を改正す る法律 (法律第212
号)0① 児童福祉法 との調整を図 り,1 4
歳未満の者 は原則 として児童福祉法で扱 うとす るとともに,児童 に対 して強制的措置を必要 とす る場合 には事件を家庭裁判所 に送致 しなければな らない旨の規定(3
条2
項,6
条3
項) を設 けた。②没取 の規定( 2 4
条の2
)を設 けた。③少年観護所収容の一時継続の規定( 26
条の2)
を設 けた。④成人 の刑事事件 に関す る37
条を改正 して,児童福祉法60条 の罪 の はかに30条 1項 に関す る6 2
条2
項 の罪 を加え,新 たに学校教育法 (昭和22年法 律第26号)90条,91
条の罪 を加えた( 37
条1
項4
号,5
号)。1 9 49
(昭和24 )年 1 2
月8
日少年法の一部を改正す る法律 (法律第246
号)06 8
6 2
商 学 討 究 第4 1
巻 第3
号条 によって施行後 「一年間」だけ
1 8
歳未満の者を少年 としていたのを,さ らに1
年間延長 して 「二年間」 とした。1 9 5 0
(昭和2 5 )
年4 月 1 4
日裁判所法及 び裁判所職員の定員 に関す る法律等の 一部を改正す る法律 (法律第9 6
号)0
「少年保護司」を廃止 し,新たに 「少年調 査官」を設 けた。1 9 5 0
(昭和2 5 )
年4 月 1 5
日少年法の一部を改正す る法律 (法律第9 8
号)。 (丑「少年観護所」を 「少年保護鑑別所」 に改めるとともに, 9条 の調査 にあた っ て特 に少年保護鑑別所 の結果を活用すべ きことを明文化 した。②調査,審判 に あたって本人が
2 0
歳以上であることが判明 した場合 の検察官送致の規定( 1 9
条2
項,2 3
条3
項) を置いた。③緊急福祉上必要 な場合 に同行状 を発 しうる旨の 規定( 2 6
条 4項)を置 いた。(参同行状執行の場合 に,少年を最寄 りの少年保護 鑑別所 に収容 しうる旨の規定( 2 6
条の3)
を置いた。⑤保護処分の取消に関す る規定( 2 7
条 の2
)を置いた。⑥調査,観察 の援助 に対 し,費用 を支払 うこと がで きる旨の規定( 3 0
条 の 2)を置いた。⑦4 5
条の2,4 6
条但書等が挿入 された 。
1 9 5 0
(昭和2 5 )
年5 月 2 5
日保護司法 (法律第2 0 4
号)0 1 6
条,3 0
条の2
の規定 中 「司法保護委員」 とあったのを 「保護司」 と改めた。1 9 5 1
(昭和2 6 )
年3 月 3 0
日少年法の一部を改正す る法律 (法律第5 9
号)0 3 9
条を削除 した13)01 9 5 2
(昭和2 7 )
年7 月 3 1
日法務府設置法等 の一部 を改正する法律 (法律第2 6 8
号)。法務府 の機構改革 に伴 い,
「少年保護鑑別所」を 「少年鑑別所」 に改 め,2 6
条1
項中の 「法務府事務官,法務府教官」を 「法務事務官,法務教官」 に改めたはか,従来 の保護処分 のひとっであった 「地方少年保護委員会」 の観察 を
「保護観察所」の観察 とし
,2 4
条1
項1
号,2 7
条の2
第2
項,2 8
条中の 「地方少 年保護委員会」 を 「保護観察所」 に改めた。1 3 )
これによって,家庭裁判所 は,少年の福祉を害す る成人 の刑事事件 の裁判 におい て,罰金刑だけではな く,従来科 しえなか った禁鋼以上 の刑を科す ことが可能になった 。
我が国の少年法 とその改正論議 の概要
6 3 1 953(
昭和28)年 7 月 2 5
日少年法及 び少年院法の一部を改正す る法律 (法律 第86
号)。少年鑑別所送致 の場合の仮収容 に関す る規定( 1 7
条 の 2) を置いた。1 95 4
(昭和29 )年 5 月 2 7
日裁判所法 の一部を改正す る法律 (法律第1 2 6
号)0 従来の 「少年調査官」 と 「家事調査官」 とを統合 して,「家庭裁判所調査官」とした 。
1 95 4
(昭和29)年 6 月 8
日警察法の施行 に伴 う関係法令の整理 に関す る法律 (法律第1 63
号)0 6
条2
項,13
条2
項,16
条1
項,26条1
項中の 「,警察吏員」の字句が削除 された。
1 985(
昭和60)年 6 月 1
日雇用 の分野 における男女 の均等 な機会及 び待遇 の 確保を促進するための労働省関係法律の整備等 に関す る法律 (法律 第45号)037
条1
項3
号中,
「少年 についての第64条」 を 「第63条」
に,
「少年 につ いて の第62条又 は第63条 (第
3
項を除 く。), 」
を 「第61条,第62条又 は」 に,
「第11 9
条 第 1号の罪, 」
を 「第119
条第1
号の罪及 び」 に,
「,少年 についての第68
条」 を「又 は第6
4
条」 に,それぞれ改めた。1 987
(昭和62)年 9 月 2 6
日労働基準法 の一部 を改正す る法律 (法律第99号)037
条1
項3
号中,
「第60条第2
項若 しくは第3
項, 」
を「 1 8
歳 に満 たな い者 についての第32条又 は」 に
,
「第62条又 は」を 「第62
条若 しくは」 に,それぞれ改 めた。Ⅴ
実現 されなか った根本的改正の試みⅣで見た現行少年法 における改正 は,い くつかの重要 な改正 (特 に,昭和2
4
年6 月 1 5
日および昭和25年4 月 1 5
日の改正)を含んで はいるものの,主 と して 字句 の削除や名称 の変更 といった部分的な ものであ り,少年法のあり方 や基本 的理念 に関わるような根本的な ものではなか った。 そのような根本的な改正 を目ざ した動 きは,昭和40年代 に入 っては じめて表面化 して くることになる。
〔1〕 根本的な改正の試み
1 法務省 は,戦後の少年非行 の激増 とその質的変化 (凶悪化 ,知能犯化)
6 4
商 学 討 究 第4 1
巻 第3
号に対す る積極的な施策 の必要性,現行少年法制定当時か ら内在 していた問題 の 顕在化 と新 たな問題の発生への対応,家庭裁判所 によ る処遇 の不充分 さの回避 といった基本的認識か ら,現行少年法の根本的改正を意図 し
,1 9 6 6 ( 昭和 4
1) 年5
月に,
『少年法改正 に関す る構想』 (同説明書)を公表 した。 それ は,(》年 齢 に応 じた刑事政策 の実現,②関係機関相互の責任 と権限の明確化,③検察官 の参加 と適切な刑事政策 の実現,④保護 ・矯正 の執行面 の充実,⑤ その他,の 観点か ら,次のよ うな提案 を行 な ったのである。① については,処遇の個別化 を実現す るためには保護主義か刑罰主義かといっ た抽象的 ・択一的な論 じ方 は妥当でな く,具体的な事情 を総合的に考慮 した う えで,教化 ・改善手段 として何が適当か社会の治安維持上何が適当かを判断す べ きである,との認識か ら,④年齢層 に応 じて きめ細かい刑事政策 を行 な う必 要があ り,それ こそが世界的動向に沿 うものであるとしている。
② については,現行法 は,非行性 の治療 に関する合 目的的妥当性 を基準 とす る処分の判断手続が行政機関の関与を排除 して司法機関たる家庭裁判所の単独 処理 に一任 されている点で三権分立 に反 してお り,家庭裁判所が調査機 関 と審 判機関の機能 とを併せて行ない,しか も調査,審判手続が職権主義 的 ・軌 間主 義的に進 め られている点で人権保障機能 にも欠 けている,との認識 か ら,⑤ 青 年 の犯罪事件 について検察官 に先議権 を与え る,㊥青少年の保護事件 の処分 に つ いて検察官 に意見陳述権を与 え,国選付添人制度を設 け,青年 の審判手続 に はで きるだけ当事者訴訟的構造 を導入す る,②家庭裁判所 の処分 について検察 官 に不服 申立権 を与え る,ことを提案 している。
③ につ いては,家庭裁判所の処分 は温情的にす ぎ,また常 に一歩づっ遅 れ た 段階的処理が目立 ち,さ らには処分が全国的に見て極 めて不均衡で裁判官 の主 観的個人差が明瞭 に現われ,それが少年 に不信 と反感 を抱かせ るなど現状 には 極 めて問題が多 い,とす るところか ら,㊥検察官の関与を増大させることによっ
て,不当不均衡な処分の是正を制度的に保障すべきであるとす る。
④ については,保護処分の選択率が低 いばか りでな く事実上 目的を逸脱 して 試験観察制度を運用 (利用) している,一旦決定 した処分を変更で きないなど
我が国の少年法 とその改正論議 の概要
6 5
運用が硬直的である,との認識 か ら,①審判不開始 ・不処分 に際 して事 実上 行なわれている措置を制度化す る等 の保護処分 の多様化 を図 る,⑧審判 と執行 の 連携 の強化 (執行機関の申請 による保護処分 の取消 ・変更や期間延長 ,職権 に よる保護処分 の併科や執行機関の申請 による保護処分 の事後 的付加,行 政機 関 による処遇 の具体的な執行方法 に関す る事項 の決定,等) を図 ることが強調 さ れている
。
また,⑤ として,⑥独立 の総合的調査機構設置 の必要性等が指 摘 されて い る のである。
2
その後,法務省 は,1 97 0
(昭和45)年 6
月 に,次 の よ うな内容 を持 った『少年法改正要綱』 を法制審議会 に諮問 した。
①
2 0
歳未満 は発育盛 りであ って,1 4,5
歳 の年少少年 と1 8
,9
歳 の年長少 年 との間には質的な相違があるため,2 0
歳未満の者 を一律 に取 り扱 うのは合理 的 とは言 えないか ら,新 たに青年層( 1 8
歳以上2 0
歳未満) とい う区分を設 けた う えで,それ について は,保護処分 の余地 を残 しなが ら成人 に準 じて刑事 処分 優 先 で扱 い1
4),家庭裁判所が その刑事事件 を扱 うべ きであ る。②現行 の少年保護手続 は,密行 ,職権主義的で非形式的 な もので あ って,人 権保障上重大 な問題があ るので,人権保障の観点 に立 って手続 を厳正 にす るた めに,青年 の事件 につ いて は検察官 の関与を認 めた うえで原則 として刑事訴蕊 手続 によることとし,少年 の保護事件 について も,可及的 に検察 官 を関与 させ ることと権利 の保障の強化 (付添人選任権 の保障や供述拒否権 ・付添人選任権 の告知等) を図 るべ きである。
③現行法 は,検察官 の関与 を排除 して いるばか りでな く検察官 ・警察官 に よ る司法前処理を認 めていないため,少年事件 の処理や少年 の処遇 にあた る機 関 の協力体制が十全でない ことか ら,青年 の事件 について は検察官先議 とした う
1 4 )
これは,③ の青年事件 に対す る検察官先議 の提案 とと もに,1 6
歳以 上2 0
歳 未 満 の 少年 に対す る現行法 の原則 と例外 (家庭裁判所先議 の もとに保護処 分 を優先 し,刑 事処分相当 と認 める場合 にのみ例外的 に検察官 に送致 しうる) の関係 を,1 8
歳 以上2 0
歳未満 の者 (青年) につ いて逆転 させ よ うとす るものである。6 6
商 学 討 究 第41
巻 第3
号えで,少年事件 について も一定の司法前処分 (検察官 による不送致 ・不起訴処 分,司法警察員 による不送致処分)を認 めるべ きである。
④現行法では,保護処分 の種類が少ないうえにその運用が硬直的であるため に,少年 に対す る処遇が適切 になされていない状況が もた らされていることか ら,少年の処遇の個別化 と事態 に即応 した処遇の実現 という観点 に立 って,保 護処分の種類 を増加 (保護観察所 の定期観察 ・短期保護観察 ・保護観察,教護 院 ・養護施設送致,短期訓練所送致,短期青少年院送致,青少年 院送致) させ た うえで,その取消 ・変更 といった柔軟 な運用 についての途を開 くべきである。
3 法務省 の諮問に対 して,法制審議会少年法部会 は,6年余 り69回 にわた る会議 において調査審議 した結果,最終 的結論 に達 す る ことがで きず,1976
( 昭和 5
1)年1 1 月 2 2
日に,前年提出されたいわゆる植松部会長試案 を もとに し た 『法制審議会少年法部会中間報告』を出 した。 そ して,翌年6 月 2 9
日には,『中間報告』 と同一内容 の 『少年法改正 に関す る中間答申』 が法務大 臣宛提 出 されたのである。 そ こでは,「現行少年法の基本的構造 の範 囲内で,差 し当た り速やかに改善すべ き事項」 として,以下 のような具体的提言がなされている。
①少年の権利保障の強化 と一定限度内での検察官関与 の両面か ら現行少年審 判手続の改善 を図 るために,④権利 の保障等 についての事項 に関す る規定 を新 設す ること,⑥国選付添人制度を新設す ること,㊤付添人 の権限 (意見 陳述権 等) に関す る規定を新設す ること,④一定 の事実認定手続 に関す る規定 を整備 す ること,㊥試験観察 に関す る規定 を整備す ること,①観護措置 に関す る規定 を整備す ること,⑧少年等の不服 申立制度 を整備,拡充す ること,⑤一定 限度 内で検察官 に審判出席権を与えること,①検察官 に抗告権を認めること。
②年長少年
( 1 8
歳以上2 0
歳未満) の事件 の手続 については1 8
歳未満の少年の 事件 とある程度異 な った特別の取 り扱 いをす る必要があることか ら,①一定 の 事件 につ き検察官 に審判出席権を与えること,⑥一定の事件 につ き必要 的付添 人制度 を設 けること,①検察官 に抗告権を認 めること。1 5 )
これは,これ まで通達 に もとづ いて事実上行 なわれて きた簡易送致手 続 (前 出注1 1 ) )
に対 して,よ り強 い法律上 の根拠 を与 えよ うとす るものである。
我が国の少年法 とその改正論議 の概要
67
③㊧一定限度内で,捜査機関による不送致処分を認めること15)0
④保護処分の多様化 と弾力化を図 るため,㊥保護処分 を
6
種類 (短期保護観 秦,保護観察,短期少年院送致,少年院送致,短期 開放施 設送致 ,教護院 ・養 護施設送致1 6 ) )
とす ること,㊥一定 の付随的措置 (定期 出頭命令,居住指定) の制度を新設す ること,⑨保護処分中の少年 について も,一定の場合 に新 たな 保護事件 としての通告 を認めること,⑥保護処分 の期間延長 に関す る規定等 を 新設す ること。⑤その他必要な改正 として,㊤送致時
20
歳未満の少年 については,例外的に, 成人後に も家庭裁判所 に管轄権 を認めること,㊥調査を開始 した事件 につ いて 仮 の保護的措置を認めること,①審判不開始等の場合 における付随的措 置 と し て,必要 な一定の保護的措置を認 めること,㊥執行猶予 について必要 的保護観 察 を認めるとともに,再度 の執行猶予 を可能 にす る特則を設 けること。4
法務省 『構想』 は,少年年齢の引 き下 げと検察官先議主義 の復活 とを軸 に しなが ら17),検察官の関与を広 く認 めるなど,全体 として少年法 の刑事訴訟 法化 を狙 った ものであると言 ってよい。 その後 の法務省 『要綱』 も,
「少年 の1 6 )
これ らの一部 の ものについては,現行法の改正を待つまで もな く,すで に実施 さ れている。 たとえば,短期保護観察 は,特 に197 4(
昭和49 )年以来 の短期交通保護
観察 に見 られ るように,保護観察処遇の多様化の一環 として事実上機能 してい る し, 短期処遇少年院 も,
「少年院の運営 について」 とい う通達 (昭和52
年5
月25
日法務省 矯教第11 5 4
号矯正局長依命通達)を根拠 として,19 77(
昭和52)年 6
月 よ り実施 に 移 されている。1 7 )
少年年齢の引 き下 げと検察官先議主義の復活 とを軸 とした改正 の方 向 は,その限 りで,旧少年法への復帰を目ざす ものであ ったと言 ってよい。 ただ,現行少年法 の 制定 にあたって,少年年齢の引 き上 げと家庭裁判所先議主義の採用 とが それぞれ別 次元の ものとして扱われていた点 は,指摘 してお く必要があ る。 す なわ ち,20
歳未 満‑の少年年齢 の引 き上 げが当時の我が国のいわば共通認識 として,19 47(
昭和22)
年1
月7
日に連合軍総司令部( G・H ・Q)
宛提出された 「少年法改正 草案」
にすでに盛 り込 まれていたのに対 し,家庭裁判所先議主義の採用 は,少年事件 に検察官 を関与 させ るべ きでないとしたG ・H
・Q
の強い要求 (昭和22
年2
月26
日の 「少年 法改正 に関す る提案」)
によるものだと言われている。 したが って,
「一連 の少年 法改正問題 において,なにゆえに
1 8
歳への引下 げを意図す るにいたったかについて は, 検察官先議権 の奪取 と無関係でないことはこんにちの常識 とな って い る」 (菊 田幸 一 『少年法概説』(1 9 8 0
年)89
貢) に して も,両者 の結 びつ きは,必ず しも論理必然 的 と言 いうるほどの もので はないのである。6 8
商 学 討 究 第41
巻 第3
号事件 についての手続 の大綱 は,おおむね,現行少年法 の とお りと し」 とは して いるものの,青年層 の設置 に もとづ く少年年齢 の引 き下 げ
( 1 8
歳未満) を内容 と していることとの関係で,実質的 には 『構想』 と同一 の方向を 目ざ した もの であ った。 そ して,このよ うな方向 は,
「現行少年法の基本的構造 の範囲内で, 差 し当た り速やか に改善すべ き事項」を限定 した 『中間答 申』 にも,明 らか にうかが うことがで きる。 おそ らく,そ こで言 われている 「現行少年法の基本 的 構造」 とは
,
『福祉的機能 と司法的機能 との調和の うえ に成 り立 って い る独 自の法分野 の存在 を維持 してい く』 とい う程度 の ものと して理解 され,その範 囲 内での両機能の具体 的な調和のあ り方 について は思 い切 った発想 の転換 も可能 であ ると考 え られているようにさえ思 われ る。その意味で,一連 の改正 の提案 は,現行少年法の根本的改正 を目ざ した ものであ るとの評価が可 能 で あ り,辛 実 そのような観点か らの非難を受 けることにもな ったのである。
〔2〕
最高裁判所の対応最高裁判所 は,当初,法務省 の 『構想』 および 『要綱』 に対 して は,批判 的 な立場 を表明 していた。た とえば,1
966
(昭和41)年10
月の最高裁判所事務総 局家庭局 『少年法改正 に関す る意見』 は,国選付添人制度 の新設以外 には 『構 想』 に反対 の立場 を とりつつ,家庭裁判所 の充実強化 と現行手続 の一部手 直 しによる改革 を強調 した。 また,1
9 7
1(昭和46)年2
月の 『少年法改正要 綱 に関 す る意見』 も,現行少年法 の一定程度 の手直 し (執行面 の充実整備,保護処分 の多様化 と取消 ・変更,検察官 の意見陳述 および不服 申立 ,国選 付添人制度 , 適正手続 の保障を強化す るための諸規定 の整備等 ,参与員制度 の新設,年少者に適 した開放 ・非開放施設 の新設 ,交通関係事件 に適 した保護処 分 の新 設,審 判権 の留保等)が必要であることは認 めなが らも,青年層 の設定 ,検察 官等 に よる処分 の要否 の選択,年長少年 の手続 の全面的な刑事訴訟化 審判手 続 にお ける検察官 の当然かつ全面的な関与等 といった提案 に対 しては詳細 な理 由づ け を もって厳 しく批判 した うえで
,「 2 0
年 を こえ る現行 少年 法 の運用 の実績 か らして も,年長少年 の実態,少年非行の現状か ら考 えて も,い ま制度 を根 本 的 に
我が国の少年法 とその改正論議 の概要
6 9
変革 し,歴史 の流 れにも逆行 して,要網 の 目ざす ような方 向へ改正 す る ことを 必要 とす る理由 は全 くない。裁判所 と しては,‑‑少年法 の基本的構造 を変 更 す るこのよ うな改正 には,とうてい賛成で きない」ことを言明 していたのである。しか し,その後,最高裁 は
,
『中間報告』 との関係で態度を改 め,法務 省 を代 弁す るかのよ うな発言 をす るに至 った。 このよ うな態度 の変化 は,形 を変 え て『要綱』 の内容 を具体化 した ものと言 うべ き‑『中間報告』 との関係で,「試案‑
及 び二が部会 において採決 されたか らといって,直ちに要綱 の青年層設 置 を否 決 した ことにはな らない。 それ は,中間報告 の趣 旨が要綱 の可否 につ いて の結 論 を出す ことを避 けつつ,差 し当た り改正すべ き事項を取 りまとめるとい うこ
とにあるか らである」 とし
で 8 )
,『要綱』 と 『中間報告』 とを切 り離 して扱 お うとす る点 に現れている。 そ して,それ は,
『中間報告』 と全 く同一 の内容 を 持っ 『中間答 申』 について もそのままあて はまるのである。 このよ うに最高裁 が態度 を変化 させた ことの理 由は,必ず しも明 らかにされてはいないが,裁判 所 内部 において少年法 の司法的機能 を強化 (刑事訴訟法的に運用) してい くことについての広 い一致か形成 されたためで はないか との指摘がなされている。
〔3〕
日本弁護士連合会の対応このよ うな最高裁判所 の対応 に比べて,日本弁護士連合会 の対応 は
,
『構 想』・ 『要綱
』
・ 『中間答 申』 のいずれに対 して も常 に一貫 して絶対反対 の立場 を とり続 けた点で特徴的である。『構想』 に対す る1 9 6 6 ( 昭和 4
1) 年1 2
月 の 日本 弁護士連合会 『少年法改正 に関す る意見』 は,「現行法 は制度面 につ いて は, その人権保障面での欠陥を除 きなん らの欠陥 も見出 しえず,む しろ現 状 で は, その運用面 での強化改善が急務 である」 との基本的認識を前提 としなが ら,法 務省 の主張す る青年層 の設置,検察官先議 ,審判手続への検察 官 の関与,調 査 機構 の統合 と独立 ,保護処分 の多様化等 について は,独 自の偏 った論拠 に立 って現行法 の福祉的機能を後退 させ るものであるとして批判 し,人権保障のため
1 8 )
最高裁判所事務総局家庭局 「法制審議会少年法部会の審議状況 と部会長試案 の基 本的性格」家庭裁判月報28巻8号 (1976年)243貢。7 0
商 学 討 究 第4 1
巻 第3
号の一連 の提案 について も,手続 を刑事訴訟化す ることとの引 き換 えの もので し かないと批判 している。 その うえで
,
「現行少年 法 はす ぐれ た法律 で あ り,そ の理念 や基本構造 を変え る必要 はまった くな く,逆 にます ますそれを維持発展 させなければな らない。法務省構想 は,少年 に対す る厳罰 の威嚇を復活させて, 旧少年法‑の復帰 を 目指す ものである」 と結論づ げ,「現在早 急 になすべ きこと」 として,①家庭裁判所 自身が現行法運用 につ ききび しい反省 をす る こと,
②執行面での人的物的不備欠陥を是正す ること,(卦調査機関を司法権 の もとに 統合独立 して,科学的処理体制を確立す ること,④人権保障 の担保 とな るべ き 国選付添人を中心 とす る諸制 を確立す ること,とい う現行法 の部分的手 直 しの みを強調 しているのである。 そ して,このよ うな態度 は,『要綱』 に対する
1 9 7 2
(昭和4 7 )
年4
月の 『少年法改正要綱 に関す る意見』,
『中間答 申』に対する1 9 8 4
(昭和5 9 )
年3
月の 『少年法 「改正」答 申に関す る意見』 に引 き継がれている。このよ うな基本的認識か ら,日弁連 は,日弁連 白身 あるいは各都道府県単位 の弁護士会が中心 となって少年法 「改正」反対 のための諸活動 (内部 における 勉強会 や研究会,外部 に対す る講演会等 のキ ャンペー ン活動)を精力的 に実践
し
,
「改正」阻止 の大 きな原動力 とな った。一方 では,『中間答 申』 をめ ぐる法 制審議会での審議 において,採決を時期尚早 であると して審議の続行 を主 張 す る日弁連推薦委員 と他 の委員 とが激 しく対立 し,弁護士委員が辞任す るとい う 事態 にまで至 っている。 その こと自体 の是非等 につ いての評価 は一応別に して,そのよ うな事態 の発生 を も辞 さなか った点 に,少年法 「改正」に対す る日弁連 の明 らかな対決姿勢 を看て取 ることがで きるのであ る。
〔4〕
小括上 に見 たよ うに,現行少年法 について は,少年 の人権 をで きる限 り保 障 した うえで少年 の健全育成 を図 るべ きであるとい う点 に関 して少 な くとも観念的な い しは抽象的 レベルで は広 い一致が見 られ るにもかかわ らず,必要 とされ る改 正 の具体的な範囲およびその内容をめ ぐって は立場 が根本的に対立 している。
この立場 の相連 については,すでに当時か ら,それは法務省 ・裁判所 ・日弁連