• 検索結果がありません。

鋼材の腐食速度と熱処理

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "鋼材の腐食速度と熱処理"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

鋼材の腐食速度と熱処理

長  船  忠  夫*

(昭和54年5月7日受理)

Corrosion Rate of Steei Materials and Heat Treatment

Tadao OsAlruNE

(Received May 7, 1979)

 Corrosin rate of steel is affected significantly by internal structure which depends on the method of heat treatment.

 For example, it is generally said that uniform structure controls the corrosioit rate.

 In this report, the e£fect of some heat treatments (quenching, annealifig, and tempering) to steel rnaterials (SS34,

SIOC and SUS32) on the rate of corrosion was investigated.

The experimental results are summarized as fotlows.

 (1) The rate of corrosion was least in the case of quenching regardless of rnaterials kinds.

 (2) The rate of corrosion was increased with increasing of H2 SO4 concentration up to 10N, but above 10N, it was   decreased.

 (3) SIOC was apt to corrode more than SS34 regardless of the methods of heat treatment.

        1.緒      言

 金属の内部組織が,それの腐食速度におよぼす度合は大 きい。そして内部組織は熱処理の方法によって変ってくる が,熱処理をその操作のうえから分類すれば,次の三つに

なる(1)。

1)高温に保持して組織を均一化し,それを徐冷して安定  な平衡状態をうる操作(焼なましあるいは焼ならし)

2)高温から急冷して,相変態あるいは,析出の大半また  は一部を阻止し,主として,かたい組織をうる操作(焼  入れ)

3)焼入れ後にあまり高くない温度に加熱保持し,相変態  あるいは析出を進行させる(焼もどしあるいは時効)

 (1)の処理は組織が均一となり,偏析あるいは,残留応力 などを除き,安定状態となるから一般的に耐食性がよくな

る。

 〔3ゆ操作は,異相の析出あるいは変態の進行などによっ て組織が不均一となるので,耐食性が悪くなる。

 {2)については,(1)と(3)との中間的な傾向を示す。熱処理

操作に対して以上のような一般的影響をふまえて,今回の 実験では2〜3の皆野について各種の熱処理方法が,どの

ように腐食速度に影響を与えるかを比較した。同時に腐食 環境として,硫酸水溶液を用いた場合,それの濃度と腐食 速度との関係についても考察した。

        2.実 験 方 法

 一般に使用されている鋼材として,一般用圧延鋼材(SS 34),機械構造用炭素鋼(S25C)およびステンレス鋼

(SUS32)を用いた。これらの試料を10mm XIOmm×2mmに切 断し表1に示すような熱処理を施した。熱処理後,表面の 皮膜,油脂分,よごれなどを充分除き,表面積を正確に測        袋1 鋼材の熱処理条件

熱処理法

保持時間

一般構造用鋼 機械構造用鋼

*金属工学科 ステンレス鋼

降なまし

1.5時間 seo℃

5000C 5000C

水焼入れ 0.5時間

g20ec 860℃

9200C

高温焼戻し 1時間

6000C 600℃

6000C

(2)

津山高専紀要第17号(1979)

早して供試試料とした。腐食液は硫酸水溶液を用い,硫酸 濃度:は1N,5N,10N,15Nの4種とした。液温は50℃

一定で腐食反応槽を恒温水浴中に入れて液温を一定に保持 した。液中の溶存酸素は除いてないが,強い酸性領域では 水素発生反応が反応の主体を占めるので,速度への影響を 大きく考える必要がないと云える。

 腐食速度の測定方法は各種あるが,本実験では,Pearson の方法2)によった。目的の試料金属を腐食液に浸し,これ を他の補助極(対極はステンレス鋼)と組んでまず試料極 をアノード極として外部電流を通じたときの参照電極(甘 コウ電極)とアノード極との電位と電流値との関係をプm ットし,これをアノード分極曲線とする。次に試料極をカ ソード極として外部電流を通じたときの,参照電極との電 位差と電流値との関係をカソード分極曲線とする。それぞ れの分極曲線の接線の交点から電流軸におろした点を腐食 電流,電位軸との交点を腐食電位とする。得られた腐食電 流の値より腐食速度を算出した。本実験で測定された分極

曲線の中で代表的なモデル図をFigユに示した。

F . E  C B

t Ec

 A: Heater

 B: Sample electrode  C: Luggin capUlary  D: Dilute sulfuric acid   E二 CoUnter electrode  F: Potentiostat

Fig.2 Block Diagram of the apparatus.

3.結果および考察

          O     翫︻も≧﹈

EA

  \

      ノド   一…一一.…一♪(、

     / 1\、

         \

     ノ     1     〆        1    !/        i    ノ          ノノ       

 /    }

/     l        i        i        I

x

       lcorr

      i CAm pt  EA : anode potential Ec ;eathode potential Eterr:corrosion potential 1,.r,:corrosion current      Fig.1 Polarization curve

 堅甲の各プmットは電位設定後2秒径過時の電流値であ る。分極曲線の測定は島津製ポテンショスタットPS2型 を用い,参照電極は飽和甘こう電極である。

 測定回路図をFig.2に示す。なお熱処理方法については 焼戻し処理は,水焼入れ後の試料について施されたもので ある。焼入れの冷却剤は水で水温15℃である。また炉冷速 度は20。C/分とし町中の時間は熱処理温度の保持時間を示

す。

 3. 1SS34の腐食傾向

 SS34を所定の大きさに切断し,熱処理を施したのち,

表面をよく研磨し,脱脂洗浄した。腐食環境としての硫酸 水溶液に試料を浸して電流電位曲線の測定を行った。硫酸 濃度によって腐食傾向がどのように変化するかを調べた。

その結果をFig.3に示した。

︵Ω三Uエ・・㎜・︐・§ちΦもに

5

10

5

o

A

c

1 5 IO 15

H2SO4 concentration[N]

  A: Tempering   B : Annealing   C : Quenching

Fig.3 The relationship between sulfuric acid concentra−

  tion and rate of corrosion of heat−treated SS34.

図からわかるように,1Nの場合は,腐食速度が低く,

5N,10Nと濃くなるにともなって,腐食速度が増加す る。しかし15Nとなると急激にその速度が減少して,5N

(3)

の場合とほぼ同じ程度になった。この傾向については次の ような理由が考えられる。酸濃度の増加にともなって試料 表面での溶解反応が活発となるが,15Nになると,表面付 近でFe2+イオンが飽和状態となり,電導性の悪い硫酸鉄 が表面に被膜を形成するため,電流が流れにくくなると考 えられる。このときの反応として,

Fe 2 ++ SO4 2−aFe SO4

が考えられる。15N以下の濃度においても上記反応は起る と考えられるが,SO42 濃度の増加により, FeSO4の生成 が激しくなってくる。15N以上の高濃度になると, FeSO4 の被膜が試料表面をおおい,不動態現象を呈するため,腐 食速度の顕しい減少がみられる。

 一方熱処理方法の違いによる腐食速度への影響について 考えると,焼戻しを行ったときが最も腐食がすすみ,焼入 れのままの組織が耐食性が最も大きくなった。

 腐食速度は焼もどし温度によって変化するが(2),焼もど し温度が低いときは,残留オーステナイトの分解が起るに とどまり,組織は主として,マルチンサイト単相である。

焼もどし温度の上昇とともに,固溶していた炭素が,マル チンサイトの分解とともに,炭化物を形成し,水素過電圧 の小さいカソードとして働くといわれている(3)。

 本実験においても,焼もどし温度を600℃で行ったため に焼入れにより生じたマルチンサイトの分解により,組織 中に炭化物の生長が起り,これが水素発生を活発にしたも のと考えられる。一般的には,前述のように焼なましを行 うと組織中の内部ひずみが消され,さらに粒子の均一化が 進み 組織全体の単相化が増すため,腐食速度は最も小さ くなると考えられているが,本実験では焼入れ材の方が腐 食速度が小さくなった。これは試料のサイズが小さいため 加熱が均一に行われて焼入れ効果が充分現われて,組織全 体がマルチンサイトに均一化されたためと考えられる。し たがって,組織は単一相となり,アノード部,カソード部 の領域が顕著には現われず,腐食反応の駆動力が小さくな ったと考えられる。

 焼なましの場合には,逆に試料サイズが小さいため,炉 冷中,炉内温度が低下するにつれて,炉内の温度の不均一 さに敏感に影響され,試料の局部に空冷状態に近いところ が生じ,かえって組織的に不均一になったものと考えられ る。本実験では,組織観察を行ってないが,組織上の差異 については,この点の究明が必要である。

 3.2S10Cの腐食傾向

 S10Cについての実験結果をFig.4に示す。

SS34にみられたと同様,硫酸濃度の増加にともなって,

腐食速度は増加していくが,10Nを越したあたりから,そ の速度は低下し,15Nぐらいではかなり小さくなった。硫

b    ゆ    5︵寸Ω・看壱⊇・⁝﹂8ちのも配

    O l  5   ゆ   15       H2SO4 concentration[N]

         A:丁ernpering          B: AL nnealing          C: Quenchin g

Pig.4 The relationship between sulfuric acid concentra−

  tion and rate of corrosion of heat−treated SIOC.

酸濃度の比較的低い領域では,H+イオンの増加が,カソ ード電位を貴方向へ移行させ,アノードおよびカソード間 の腐食反応への駆動力は増加する。

 10Nを越すと,前述のように,試料表面に皮膜の生成が 認められ,これが不動態皮膜としてはたらいたものと思わ れる。

 一方熱処理による速度の差異についても,SS 34の場合 と同様の傾向になった。S10Cの場合,炭素量が多いため それぞれの処理によって,炭素の挙動が激しく,組織内部 での異相の生成が活発となり,不均一化の傾向が大きくな る。したがって,腐食速度への影響が大きい。

 3.3SUS 32の腐食傾向

 ステンレス鋼についての実験結果をFig.5に示す。図に みられるように,焼入れのままの組織では,硫酸濃度の増 加に対して,SS34, SIOC,のようには腐食速度の増加 がみられない。しかし10Nを越すあたりからは,僅かなが

ら速度の低下がみられた。焼なましと焼もどし鋼について は,前2者の鋼材と同様の傾向がみられた。

 また熱処理の影響については,焼入れしたままのものが 最も尉食性がよいが,焼もどしを行うと耐食性が悪くなる。

焼入れ状態では組織が均一でクロム固溶量が大きく(4),そ の分布状態に変化がないが,焼もどしを行うと,マルチン サイトの分解とともにCrとFeとCとの複雑な化合物を生 じ,その近くのクロム濃度が減少するために耐食性が劣る と云える。しかし本実験では,焼戻し温度が600℃と高温

(4)

津山高専紀要第17号(1979)

︵も︸×︶宮乱⊆ρの︒ヒ8

}O

掾B巴

15

1o

5

0

  1 5 IO 15

  H2SO4 concentration[N]

     A : Tempering      B : Annealing      C : Quenching

Fig.5 The relationship between sulfuric acidconcentra−

   tion and rate of corrosion of heat−treated SUS32.

まで加熱しているため,クロムの拡散が起.って,欠乏部ヘ クロムを補うので,SS34,S10Cの場合よりは,クロム の効果が現われてきて,腐食速度は低くなっていることが 認められた。

 3.4鋼材の比較

 同じ熱処理を施した3種の鋼材について,同一硫酸濃度

(5N)中での腐食速度の比較を図に示した。 Fig.6には 焼なましの場合を示した。

5

O

5

︵寸Ωx言∈﹈⊆ρω︒﹄﹂8もΦも匡

0

      SS54 SIOC SUS52

Fig.6 The comparison of the rate of corrosion between    SS34, SIOC and SUS32. (anneaiing, 5N H2SO4)

 鋼の腐食は前述のように,酸性の液中では水素発生反応 が主体となり,酸素ガスの拡散速度の影響をたいして受け ないで,むしろ鋼の種類や内部の組織,あるいは含有不純 物によってその影響が大きく,腐食速度が異ってくる。上 に挙げてきた3種の鋼材の中でSS34とS10Cとの間の大 きな差異は炭素含有率である。一般に酸による腐食速度は 鋼中の炭素によって増大する(5)。

 オーステナイト領域から徐冷すると,セメンタイトの一 部はパーライト組織になるが,このセメンタイトは比較的 粒子が大きいので腐食速度は小さいが,SS34に比べて,

S10Cの方が炭素含有率が高いので,セメンタイトとして 存在する量も多いと云える。そしてこのセメンタイトは,

腐食反応においては,電気化学的にカソードとして強い挙 動をとる。このことがS10Cの腐食速度が大きい原因と考 えられる。一方SUS32については,クロムの防食効果が大 きく,当然他の2種に比べて腐食速度は小さい。

 次に焼入れの場合の三者の比較を行った場合をFig.7に 示した。三者とも腐食速度は小さくなるが,焼なまし処理 と同様,S10Cの場合が最も腐食速度は大きくなった。

A3点以上に加熱して,組織を一様なオーステナイトとし水 冷を行った場合,内部は単一組織となり結晶粒度も小さく なるため,金属表面上の電位のバラツキが小さくなる。こ れが腐食速度を抑える原因となる。S10Cの腐食速度が最

も大きくなるのは炭素密度の高いマルチンサイトが生成 し,酸との反応が進みやすいと考えられる。

︵もマ︾冨£⊂ρω︒﹂﹂8もΦも匡

15

IO

5

o

SS34 SIOG SUS 52

Fig.7 The comparison of the rate of corrosion between    SS34, SIOC and SUS32. (qucnching, 5NH2SO4)

 さらに,焼戻し処理を施したときの三者の比較をFig.8 に示した。S10Cの場合が最も腐食速度が高いが,それは 炭素含有量が多いために,マルチンサイトが分解するとき に生じるセメンタイトの量が多く,カソードとして働く度

(5)

5     0     5

︵もマ︶﹇℃で三︒︒遷﹂8もΦもに

0

      SS34 SIOC SUS32

Fig.8 The comparison of the rate of corrosion between   SS34, SIOC and SUS32 (tempering, 5N H2SO4)

合が大きいためである。これに対してSS34の場合,セメ ンタイトの生成量が少なく,組織の均一性は失われにくい が,高温まで焼もどしているので腐食速度は他の熱処理と 比べると大きくなっている。SUS32については,クロムの 効果によってその速度は他に比べて小さいが,前述のよう に,複雑なクロムの炭化物生成をもたらし,クロムの不足 した部分の腐食がかなり進んでいる。

4.結

 一般によく利用されている鋼材,一般構造用圧延鋼,

SS34,機械構造用炭素鋼S10Cおよびステンレス鋼SUS32

の3種を試料として,これらを焼なまし,水焼入れ,焼入 れ後高温焼もどしの熱処理を施したのち,硫酸酸性水溶液 での腐食傾向を検討した。腐食速度の測定は電気化学的手 法で,Pearsonの方法を用いた。実験結果を要約すると次 のとおりである。

 (1)3鋼材とも焼入れ材の場合が,腐食速度が最も小さ く焼戻しを行うと,その速度が大きくなった。これは,加 熱によりマルチンサイ5の分解が起り,セメンタイトが生 成してくるためであろう。

 (2)全ての試料について,硫硫濃度の上昇とともに,腐 食速度は次第に大きくなったが,10Nを越すと,逆に速度 の低下がみられた。これは,試料表面でのFe2+の濃縮と,

SO42一との反応により,表面に不溶性の硫酸鉄の皮膜が生 成し,不働態化現象が生じたためと考えられる。

 (3)3鋼材の腐食速度についての比較をみると,SUS32 はクロムの効果により最:もその速度は小さい。SS34と

S10Cとの比較では,熱処理方法に関係なく,常にS10C が腐食速度は大きい。組織内での炭素量の動きが活発であ るため,電位的にもカソード部分が多くなり,腐食反応へ の駆動力が大きくなったと考えられる。

(1)伊藤伍郎 腐食:科学と防食技術(昭45)155コロナ社

(2) 同 上

(3) 同 上

(4) 同 上

158 158 159

(5)H.H.Uhlig:腐食反応とその制御(昭45)101産業図書

(6) 同上      105

参照

関連したドキュメント

  以前、熱間の鍛造業者からこんな話を聞い たことがあります。“どうせ熱いものを型に

こ析 目 した トルースタイ トの混命組織 となってい る.共析部 ( C) の組織はマルチ ソサ イ トと トルースタイ トか ら成 って いる...

伊藤他:金銀パラジウム合金の熱処理

−Si系合金を用い、本ウィスカとの複合材を高圧鋳造法に

618 昭和32年5月 〔ⅠⅠⅠ〕実験結果 (り 2段焼入れによ るrRおよび硬さの変化 弟1図は直接焼入試片

弟13・\ノ】る図は2.2mm博さのフー 評 第17図 素材フープー→7200C 4時間焼鈍 第19図

√∈モ知こぜR唖m把れ 常温 」__ J 耶〝 〝〝β (、へ長ぃ■与こ撃榔㌫T聖「単一

が認められる。