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査が抱える課題 ―ケニアの事態と訴追事件を素材 として―

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査が抱える課題 ―ケニアの事態と訴追事件を素材 として―

著者 東澤 靖

雑誌名 明治学院大学法科大学院ローレビュー = Meiji

Gakuin University Graduate Law School law review

巻 25

ページ 73‑94

発行年 2017‑01‑31

その他のタイトル Challenges in Proprio Motu Investigation by the Prosecutor of the International Criminal Court (ICC) ―Observations on Situation in Kenya and Prosecutions―

URL http://hdl.handle.net/10723/3096

(2)

1.はじめに

国際刑事裁判所(ICC)には,諸国家や国際政 治からの独立性を確保するために,さまざまな制 度が設けられている。その重要な制度の一つは,

検察官が自己の発意により(

proprio motu)捜査

を開始できることであり(以下,便宜上「職権捜 査」と呼ぶ),この制度は,1998年の ICC 規程採 択時に激しい論争の末に設けられた。

2010年3月,当時ICCの検察官であったオカン ポ(LuisMorenoOcampo)は,ICC締約国であっ たケニアにおいて2007年の総選挙の後に生じた騒 乱について,初めてこの職権捜査を用いて捜査を 開始し,6名の被疑者について訴追手続を開始し た。しかしながら,2016年4月までにこれらの事 件は,すべて有罪判決に至ることなく,訴追の取 り下げや手続の中止を余儀なくされている。

本稿では,ICCの独立を実現するために設けら れた職権捜査の制度がどのような問題を内在さ せ,ケニアの事態でどのような問題に直面したの かを概観し,その上で,この制度が真に機能する ための課題を検討する。

2.ICC における検察官の職権訴追制度

2.1 職権捜査制度の誕生

ICC 規程採択の際,ICC が管轄権を行使する きっかけ,言いかえれば検察官が捜査を発動させ る端緒は,銃になぞらえてTriggermechanism(ひ

きがね装置)として議論された

(1)

。その結果とし て設けられたのが,①締約国による事態の付託,

②国連安全保障理事会(安保理)による事態の付 託,③検察官が自己の発意に基づいて着手する捜 査(職権捜査)の3つである(ICC規程13条。以 下引用する条項は,ことわりのない限りICC規程 のもの)。

ICCが管轄権を行使するきっかけとして,締約 国や安保理の付託に加えて,検察官の職権捜査を 認めるかどうかについては,ICC規程を採択した ローマ会議において大きな論争があった

(2)

。ICC 規程を準備するための最初の草案であった1994年 の 国 連 国 際 法 委 員 会(ILC) 草 案(1994ILC DraftStatute)では,捜査を開始できるのは締約 国や安保理が付託した場合のみを想定し,検察官 の職権捜査は含まれていなかった。しかし,その 後の1995年の特別委員会(AdHocCommittee)

や 1996−1998 年 の 準 備 委 員 会(Preparatory Committee)においては,むしろ検察官の職権捜 査を支持する声が強くなっていった。検察官の職 権捜査を支持する見解が挙げた主な理由は,ICC が独立して事件に取り組むために職権捜査が必要 だということであった。すなわち,人権条約にお ける国家通報制度がほとんど利用されてこなかっ たという経験に照らせば,国際政治や外交の中で,

締約国や安保理が,他国の国家犯罪に関わるよう な事態を付託することは実際には期待できず,そ れらと離れてICCが犯罪に取り組む必要があると いうことであった。また,先行して設置されてい た安保理のもとにある2つの国際刑事法廷(ICTY

『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第25号 2017年 73−94頁

      

国際刑事裁判所(ICC)における 検察官の職権捜査が抱える課題

―ケニアの事態と訴追事件を素材として―

       

東 澤   靖

              

(3)

と ICTR)において,検察官に捜査を開始する権 限が認められているという先例も検察官の職権調 査を後押しした。他方でそれに反対する見解が理 由としたのは,締約国も安保理も付託しないよう な犯罪はそもそも国際的な関心の対象ではないこ と,そして,検察官に職権捜査を認めれば政治的 な動機による訴追や安易な訴追が行われてしまう ことなどであった。こうした二つの見解の対立は,

1998年のローマ会議まで続いたが,最終的には,

検察官の職権調査を認めながらも,予審裁判部が 許可することを条件とすることによってその適正 を図るという妥協が成立した。そのようにして職 権捜査の手続を定めたのが,15条である。

2.2 職権捜査制度の概要と締約国の協力

【職権捜査制度】

ICC検察官の職権調査制度は,15条のもとで次 のように用いられる。

まず,検察官は,自ら「取得した情報の重大性 を分析する」ことに加えて,「国,国際連合の諸 機関,政府間機関,非政府機関その他の自己が適 当と認める信頼し得る情報源に対して追加的な情 報を求めることができる」(同条⑵)。すなわち,

検察官は,捜査の端緒となる情報源に制約を受け ることなく,情報の収集と捜査の開始についての 検討を進めることができる。実際には,その情報 の収集のためにICC検察局は,あらゆる情報源か らの「通報」(Communication)を受け付けてい る

(3)

。そのようにして集めた情報は,ICC規程の 上 で は す べ て 検 察 官 の「 予 備 的 な 検 討 」

(preliminaryexamination)の対象とされる(同 条⑹)。しかし,実際にはすべての通報が予備的 な検討に付されるわけではなく,数段階のふるい にかけて,「予備的な検討」,さらには正式な捜査 の対象とする事態を選別していく

(4)

次に,検察官は,「捜査を進める合理的な基礎」

があると判断する場合には,正式な捜査の許可を 予審裁判部に請求する(同条⑶)。ここで検察官 に求められている判断は,「捜査を進める合理的 な基礎」のみであるが,実際には捜査の開始に関 する他の規程(53条⑴)に基づき,管轄権や受理

許容性の有無や裁判の利益(interestofjustice)

についても判断するものとされている

(5)

。 それを受けて予審裁判部が,捜査の開始の許 可・不許可を判断することになる(同条⑷)。そ の際,予審裁判部が判断する対象として同条が直 接に求めているのは,「捜査を進める合理的な基 礎」と裁判所の管轄権の有無である。しかし,実 際に予審裁判部は,前述の規程53条が検察官に判 断を求めている,受理許容性の有無や裁判の利益 に関する判断も行っている

(6)

【受理許容性をめぐる問題】

ここで,一点,注意しておく必要があるのは,

受理許容性に関わる審査である。ICCが事件を審 理するためには,その事件が属する事態に対して ICCが管轄権を持つことに加えて,事件について,

受理許容性が認められることが必要とされる。そ の受理許容性は,補完性の原則に関わる問題と事 件の十分な重大性という二つの側面から判断され る(17条)。後者の事件の十分な重大性の問題は,

捜査を進める合理的な基礎,管轄権,裁判の利益 など他の判断要素と同じように,事件そのものに 関わる属性であり,事件の内容や重大性に基づい て判断されることになる。しかし,補完性の原則 に関わる受理許容性の問題は,事件に管轄権を持 つ国の対応をめぐって判断が行われる。すなわ ち,ICC規程は,各国の国内刑事手続に第一次的 な管轄権を認めた上で,ICCはそれを補完するも の で あ る と い う 補 完 性 の 原 則(principleof complementarity)を基本原理とする(前文第10 段落)。そのため,ICC は,事件に管轄権を持つ 国が捜査または訴追を真に行う意思または能力を 欠いていると認められる場合にのみ,事件を受理 することができる。このことは一般に「意思又は 能力」の要件として論じられている。この受理許 容性の審査は,ICC規程の中では,予審裁判部の 予備的な決定(18条)及び裁判所が職権または関 係者(被疑者・被告人,国家)の申立てによって 行う異議申立てに基づく決定(19条)において行 われるものとされている。しかし,ICCの実務に おいては,逮捕状・召喚状の請求と発布,あるい は前述のような予審裁判部による捜査の許可の際

(4)

にも実施されている

(7)

。そして,事件について管 轄権を持つ国が自国での捜査や訴追を主張してい るにもかかわらず,その「意思又は能力」を欠い ていると判断してICCが受理許容性を認める場合 には,自国での捜査や訴追を主張する国との間で,

対立や緊張関係をもたらす可能性がある。

【締約国の協力】

それでは,ICCの検察官が職権捜査を開始した 場合,検察官は,どのような手段を用いて捜査を 進めていくことになるのか。この点に関する職権 捜査の規定は,検察官がICCにおいて「書面又は 口頭による証言を受理することができる」(15条⑵)

とする以上に,検察官に特別の権限を与えてはい ない。またICC検察局が,各国の領域,特に犯罪 の発生国において直接に捜査を実施することは,

ICC規程においては原則として予定されておらず,

実際上も困難を伴うことが容易に想定できる

(8)

。 そのため検察官は,締約国や安保理が事態を付 託する場合と同じように,ICC規程が設ける「国 際協力及び司法上の援助」(第九部)で認められ た手段を用いて捜査を進めていくことになる

(9)

。 すなわち締約国は,ICC 規程のもとで,「裁判所 に対し十分に協力する」という一般的な義務(86 条)に加えて,個別に規定された協力や援助につ いて,ICCの請求に応じる条約上の義務を負う。

問題は,締約国がICCの請求に応じない場合,

あるいは請求に応じたかどうかに争いがある場合 に,ICCが締約国に対して取りうる手段である。

ICC規程がそのような場合のために定めている方 法は,まず,ICCが当該締約国と協議を行うこと であるが(97条),最終的には,ICC の任務及び 権限を妨げたとの認定をICCが行って,締約国会 議に付託する(安保理が付託した事態に関しては 安保理への付託)(87条⑺)ことでしかない。

このような国際協力に関するICC規程のシステ ムは,ICC検察官の職権捜査の場合において,特 にその捜査を困難なものとするかも知れない。締 約国の付託によって開始された捜査であれば,通 常は少なくとも付託した国家の協力と,その国の 外交努力による他の国家による協力も期待でき る。後に述べる自己付託(締約国による自己の国

内の事態の付託)であれば,その期待はさらに大 きなものとなる。また,安保理によって付託され た事態についても,安保理決議に拘束される国連 加盟国の協力が,特にその付託を行う安保理決議 が国連加盟国に捜査への協力を義務づける場合に は,期待できることになる

(10)

。なお,そのような 締約国や安保理によるバックアップを欠く場合に,

検察官がどのような困難に直面するのか,そうし た困難に対処するためにどのような制度が必要な のかが,ローマ規程の起草過程において十分に検 討されたとは思われない。起草過程の議論の中で は,検察官の職権捜査の導入に反対する論拠のひ とつとして,締約国や安保理のバックアップなし では検察官は実効的には行動できないという指摘 もなされた。しかし,そのような懸念は誇張され たものだとする賛成側の反論の前に,それ以上の 考慮は与えられなかった模様である

(11)

この点についてICCの検察官は,その活動の初 期の政策文書において,そうした問題点に触れて いた。すなわち締約国の付託がある事態について は,たとえそれが事件の第三国によるものであっ ても捜査を有利なものとする可能性を指摘してい た。他方で職権捜査については,「もちろん,い くつかの事態では問題の領域で捜査を実行するこ とが困難であるかもしれないが,検察局は,外部 から捜査する方法を開発している」と述べて,職 権捜査が直面するかもしれない困難に言及してい た

(12)

。しかし,実際にケニアの事態で職権捜査を 開始した後の政策文書では,捜査開始の判断にお いて,逆に,そうした困難性を判断要素とするこ との危険性を次のように指摘している。

  「実効的な捜査が実施において可能である かどうかに関して,検察局は,その実施可能 性が,捜査を開始するかどうかを決定する際 の規程上の独立の要素とはなっていないこと に留意する。さらに,実施可能性を独立の自 立した要素として評価することは,規程の一 貫した適用を損なうことになり,またICCの 関与を妨げる障害を後押しすることになるか も知れない。」

(13)

すなわち,ICCの検察官は,捜査開始の判断に

(5)

おいて捜査の実施可能性を考慮することを拒否す ることによって,捜査への妨害には屈しないとい うメッセージを送ろうとしているのだと考えられ る。しかし,すでに述べたように,締約国や安保 理のバックアップのない職権捜査が抱えるであろ う困難は,現実の問題として否定することは難し い。

2.3 職権捜査制度の運用状況

実際に,2003年にICCが活動を開始した後,検 察官の職権捜査は容易には発動されなかった。前 述のようにICC検察官が,2010年3月にケニアの 事態に対して初めての職権捜査を開始するまで の,ICC初期の活動の7年間において,検察官が 捜査を開始したのは,締約国により付託された事 態(3件)と

(14)

,安保理により付託された事態(1 件)

(15)

に限られていた。しかも,締約国付託の3 件は,ICC規程の採択時に想定していた締約国が 他の国が関わる犯罪を付託するというものではな く,締約国が自国内で行われた犯罪を自ら取り扱 うことなく直ちにICCに付託してしまうという,

いわゆる自己付託(self−referral)であった。

他方で,検察官の職権捜査に対しては,ICC が活動した直後から,検察官による捜査を求めて,

被害者や非政府組織などから多数の通報が寄せら れてきた。例えば,ケニアの事態の捜査が始まっ た時期の2010年6月までに,ICC検察局は,8,792 件の通報を受けていた

(16)

。しかしその当時,実際 に検察官が捜査を開始したのは,ケニアの事態1 件にとどまり,その前段階の予備調査の対象と なっていたのも,アフガニスタン,コロンビア,

コートジボアール,ジョージア,ギニア,パレス ティナなどの限られた事態であった

(17)

。すなわち 他の大半の通報は,正式の捜査またはその前段階 の予備調査には至っていない。なお,ケニアの事 態の捜査の後,現在までに検察官は,予審裁判部 の許可を受けて,コートジボアールの事態につい ての職権捜査(2011年),ジョージアの事態につ いての職権捜査(2016年)を開始している。

3.ケニアにおける職権訴追

3.1  ケニアにおける2007−2008年の大規模 な選挙後暴力

ケニアは,2005年3月15日に98番目の国として ICC 規程を批准し(現在批准国は124カ国),ICC 規程は同国内で同年6月1日に発効した。アフリ カ諸国(締約国数34カ国)の中では,ケニアの批 准は27番目でありむしろ後発である。その2年後 の大統領選挙を機に大規模な混乱と暴力が発生し て,ICCが捜査と訴追を開始することとなった。

2007年12月27日に行われたケニアの大統領選挙 は,再選を狙う現職の与党国民統一党(PNU)

のムワイ・キバキ候補と,野党オレンジ自由運動

(ODM)のライラ・オディンガ候補の一騎打ちで あった。事前の世論調査ではオディンガ候補が有 力であり,開票途中まではその予想どおりの流れ であったが,開票速報が突然中断した後,全国選 挙管理委員会は,キバキ候補の勝利を宣言し,即 座に深夜,大統領宣誓式を強行した。その直後か ら,不正選挙の無効を叫ぶ若者と治安部隊が衝突 し,各地で暴動が相次ぐことになったという

(18)

。 一連の事件の直後に設置された選挙後暴力調査委 員会(後述)によれば,選挙後暴力は,ケニアの 2県(Province)を除くすべての県(全8県)に,

都市部・農村部を問わずに影響が及んだ

(19)

。そし て,2007年12月27日から2008年2月29日の短期間 のうちに,1,133名が死亡し,3,561名が負傷し,

117,216件の私的財産が破壊され,約350,000名が 国内避難民となった

(20)

。また,死亡者の中で,銃 創による死亡者が最も多く(35.7%),それに次 ぐ鋭利物による死亡者(28.2%)を上回っていた 事実は,それらの暴力が市民同士で行われるより も,相当の部分が警察の行動によって発生したと いう見方を裏付けていた

(21)

。そして,当初の暴力 が自然発生的に市民によって生じたとしても,途 中からは,政治家,ビジネスマン,ギャングなど によって組織された計画的な,一定の民族に対し 向けられた暴力となっていった

(22)

。また,それら の暴力の中では,個別/集団の強かんや性器切断

(6)

などの性暴力が行われ,そのかなりの数が治安部 隊によって行われた

(23)

3.2 ICC による捜査開始

こうした選挙後暴力の状況に対し,アフリカ連 合(AU)から事態の解決を委ねられた前国連事 務総長コフィ・アナンが,両陣営のトップと会談 しながら混乱収拾に乗り出し,最終的には2008年 3月に旧与党のキバキを大統領,旧野党のオディ ンガを首相とする大連立体制ができあがった

(24)

。 その間,両陣営は,和解合意によって,選挙後暴 力調査委員会を設置し,同委員会は,同年10月に 勧告を含む報告書を公表したが,その勧告には,

選挙後暴力について特別法廷を設置して人道に対 する犯罪などに最大の責任がある者を裁くこと,

それが実施されない場合には,実行行為者の氏名 をICCに提供することが含まれていた

(25)

。ケニア 政府は,特別法廷の設置を含む報告書の勧告を実 施することに同意したが,国会は,国内で設置さ れる法廷の公平性に疑問を持つなどの理由によ り,政府が提案する特別法廷の設置を拒否し,そ の後もアナンが2010年8月までの猶予期間を設け て働きかけを行ったにもかかわらず,特別法廷は 設置されなかった

(26)

一方でICC検察局は,いまだ選挙後暴力が継続 していた2008年2月5日の時点で,ICCの管轄権 の対象であるケニアでの犯罪ついて注意深く情報 を収集していることを表明していた

(27)

。そして 2009年7月3日,ICC検察官は,ケニアの司法大 臣をはじめとする政府代表と協議し,同年9月末 までに国内における捜査や訴追の情報をICC検察 局に提供すること,しかしそれについて国会にお ける合意が達成されない場合には,ケニア政府が その事態をICC検察官に付託することの合意を得 た

(28)

。しかしながら,ケニア政府による事態の付 託はなされず,検察官は同年11月26日に,ケニア の事態について職権捜査を開始する許可を予審裁 判部に請求した

(29)

。これを受けて,2010年3月31 日,予審裁判部Ⅱは,2005年6月1日から2009年 11月26日にいたるケニアの事態における人道に対 する犯罪について,検察官の捜査を許可する決定

を行った

(30)

。この決定は,捜査許可の条件である

「捜査を進める合理的な基礎」の有無(15条⑷)

の検討にその理由の大半を費やしている。他方 で,事件に管轄権を有する国(本件ではケニア)

の「捜査又は訴追を真に行う意思又は能力」の有 無(17条)という受理許容性の問題については,

特別法廷設置の試みは挫折したなどのきわめて簡 単な理由で,受理許容性を肯定した

(31)

。この点は 後にケニア政府との間での受理許容性をめぐる紛 争を招くこととなった。

3.3  ICC 検察官による被疑者の特定とケニ ア国内での反発

2010年12月15日,ICC検察局は,6名の被疑者 について人道に対する犯罪を理由に召喚状の発付 を求める申立を行うとともに,その被疑者を公表 した

(32)

。それらの被疑者は,2007年の大統領選挙 で対立した PNU と ODM の各陣営からの各3名 であった。OTP の発表によれば,それらの被疑 者と容疑は次頁に掲げるとおりである。

この被疑者公表と前後して,ケニア国内では ICCに対する疑義や非難が組織的に沸き起こり,

国会も同年12月23日に ICC からの脱退を決議し た。しかし,ICCの予審裁判部Ⅱは,翌2011年3 月8日に上記の6名の被疑者に対する召喚状を発 付した。これらの6名に対する事件は,ルトをは じめとするODM派の3名の事件(ルト事件)と,

ケニヤッタをはじめとする PNU 派の3名の事件 とに分かれて審理されることになった(ケニヤッ タ事件)。

3.4 受理許容性に対する異議申立て ケニア政府は,前述の6名の被疑者に対する召 喚状が発布されるや,直ちに2011年3月31日,ル ト事件とケニヤッタ事件のいずれの事件について も,事件の受理許容性に対する異議申立てを行っ た。補完性の原則のもとで,事件に管轄権を持つ 国が捜査または訴追を行う「意思又は能力」を欠 くと認められなければ,ICCにおける受理許容性 が否定されることは,すでに述べたとおりである。

そして,ケニア政府が主張したのは,ICCが召喚

(7)

状を発した6名については,自国内で捜査がすで に開始されていることを理由に,ICCでの事件の 受理許容性は認められないというものであった。

この申立ては,被疑者・被告人ではない国家が,

国内捜査の存在を理由にICCの受理許容性を争う 初めてのケースとなった

(33)

これらの申立てに対し,予審裁判部Ⅱ(同年5 月30日)も,その後ケニア政府の上訴を受けた上 訴裁判部(同年8月30日)も,ケニア政府の主張 を退けて,いずれの事件においても受理許容性を 肯定した

(34)

。この申立てを通じて争われた主要な 争点は,受理許容性を判断するために,捜査・訴 追の競合の有無を審査する対象となる事件は何で あるのか,そしてそれをどのように判断するのか というものであった。これらの点について,上訴 裁判部は,「国家の捜査が,裁判所の手続におい て主張されている同一の個人と実質的に同一の行 為を包摂しなければならない。」,そして「異議申 立を行う場合,国家は裁判所に,当該事件が確か に捜査されていることを示す十分な程度の特定性

と証明価値を持つ証拠を提供しなければならな い。捜査が進行中だと主張するだけでは十分では ない。」として,ケニア政府はそのような証拠を 提供していないと判断したのである

(35)

このようにルト事件とケニヤッタ事件について は,ケニア政府が自国で捜査を行うという異議の 申立てを拒否する形で,ICCが審理を進めること になった。

4.ケニヤッタ事件

4.1 事件の経過

こ の 事 件(TheProsecutorv.FrancisKirimi Muthaura, Uhuru Muigai Kenyatta and MohammedHusseinAli)で被疑者とされたムタ ウラ,ケニヤッタ,アリは,前述のように2007−8 年の事件当時,与党 PNU 派の要人である。前述 の受理許容性に関するケニア政府の異議申立てに かかわらず,これらの容疑者は,2011年4月8日 に,召喚状に応じて最初の出頭を行い,事件の受

【ODM派】

1 ルト William Samoei Ruto

事件当時は国会議員で,その後,高等教育・科学技術大臣,副大統領。

PNU支持者に対する犯罪の中心的計画者・組織者であった容疑。

2 コスゲイ Henry Kiprono Kosgey

事件当時は国会議員で,その後,産業大臣,ODM 議長。PNU 支持者に対 する犯罪の中心的計画者・組織者であった容疑。

3 サング Joshua Arap Sang

事件当時はラジオ司会者で,その後,FM 局の運営代表。PNU 支持者に対 する犯罪の中心的計画者・組織者であった容疑。

【PNU派】

4 ムタウラ Francis Kirimi Muthaura

事件当時から内閣官房長官,国家安全諮問委員会議長。ODM支持者への過 剰な武力使用を許可し,攻撃を促進した容疑。

5 ケニヤッタ Uhuru Muigai Kenyatta

事件当時は副首相兼財務大臣で,その後,大統領。ODM支持者を攻撃する 犯罪組織を動員するのを助けた容疑。

6 アリ Mohamed Hussein Ali

事件当時は警察長官で,その後,郵政公社の総裁。ODM支持者への過剰な 武力使用を許可し,攻撃を促進した容疑。

(8)

理許容性を認めた上訴裁判部の判決後の同年9月 21日に予審裁判部Ⅱでの犯罪事実確認手続が開始 された。翌2012年1月23日に犯罪事実確認に関す る決定が行われ,ムタウラとケニヤッタについて は,犯罪事実を確認する判断がなされたものの,

アリについてはその確認が拒否された

(36)

。 この事件での容疑は,ムンギキ(Mungiki)と いう名の組織が,野党ODM支持者に対して実行 した殺人,住民の追放または強制移送,強かんそ の他の形態の性的暴力,迫害,その他の非人道的 な行為などの人道に対する犯罪について,その犯 罪を実行したあるいは寄与した責任(25条⑶⒜,

⒟⒤)があるというものであった。そして,予 審裁判部Ⅱは,ムタウラとケニヤッタについては,

ムンギキの指導者との間での共同計画(common plan), 不 可 欠 の 寄 与(essentialcontribution)

及び組織への支配が存在したことを根拠に,ムン ギキが行った犯罪行為に間接的な共同実行犯(25 条⑶⒜)

(37)

として責任があると信ずるに足りる実 質的な理由を証明する十分な証拠があると判断し た

(38)

他方で,アリの容疑は,ムンギキが攻撃を加え 際に,警察長官として,警察や治安部隊に攻撃を 妨げないように指示し,また実行者に対して逮捕 や訴追をしないことによって,人道に対する犯罪 に寄与した責任(25条⑶⒟⒤)というものであっ た。しかし,予審裁判部Ⅱは,アリの警察長官と しての関与の問題以前に,警察が不作為という形 で犯罪に参加したと信ずるに足りる実質的な理由 が認められないとして,その犯罪事実の確認を拒 否した

(39)

こうしてムタウラとケニヤッタの事件は,第一 審裁判部Ⅴに送付されたが,翌2013年3月11日,

検察官は,ムタウラに対するすべての訴追の撤回 を通知し,弁護側もそれを争わず,第一審裁判部 V⒝はその撤回を許可した

(40)

。撤回の通知の中で 検察官があげた直接の理由は,有罪を立証するた めの十分な証拠がないということであり,より具 体的には,証人候補者が死亡したり証言を拒否す る中で,ケニア政府が重要な証拠を明らかにしな かったという協力不足の問題や,犯罪事実確認決

定後に不可欠の証人がその証言を撤回したという 事情であった

(41)

。ICC検察官は,さらに同日の声 明において,この撤回は例外的な決定であって,

その捜査において直面してきた「深刻な難題」の 結果であると説明し,苦渋の選択であることを表 明していた

(42)

。また,この時期の2013年4月,被 告人として残ったケニヤッタは,ケニアの大統領 に就任した。

以上の経緯でこの事件は,ケニヤッタのみを被 告人として進められることになったが,実際の公 判が開始されないままに時間が経過した。その間 に,検察官のケニア政府に対する協力の請求と非 協力に対する措置をめぐる攻防があった。そして,

翌2014年12月3日に第一審裁判部VBは,2つの 決定を行った。その一つは,ケニア政府の非協力 に関する決定であり,次項で検討する。もう一つ は,検察官の求める公判期日の再延期を拒否し て,1週間以内に訴追を撤回するか,公判を開始 できるように立証準備を整えるかを求める決定で あった

(43)

。検察官は,前者の決定に対して上訴を 行う一方で,後者の決定を前に,延期が認められ ないもとではケニヤッタに対する公判を開始する ための立証準備ができないとして,同年2014年12 月5日にケニヤッタに対する訴追を撤回した

(44)

。 第一審裁判部V⒝は,ムタウラの場合とは異なっ て,単に撤回を許可することはせず,翌2015年3 月13日,ケニア政府の非協力に関する決定への上 訴の結果によっては事件終了決定を見直す必要性 にも言及しながら,ケニヤッタに対する事件を終 了する決定を行った

(45)

4.2 ケニア政府の非協力をめぐる決定

【締約国の非協力に対する措置】

それでは,ケニア政府の非協力問題とはどのよ うな問題であったのか。

冒頭で簡単に触れたように,ICC規程の締約国 がICCの協力請求に応じない場合,ICCには87条

⑺により問題を締約国会議に付託することが認め られている。同条によれば,この付託を発動する 要件は,「締約国がこの規程に反して裁判所によ る協力の請求に応じず,それによって裁判所のこ

(9)

の規程に基づく任務及び権限の行使を妨げた場 合」,すなわち,協力の請求への遵守違反(non−

compliance)と,それによる裁判所の任務・権限 への妨害(prevention)である。それらがある場 合にICCがとることができるのが,①遵守違反と 妨害についての認定と,②問題の締約国会議への 付託である。なお,②の付託については,事案が 安保理によって付託されたものである場合は,安 保理に対して行うことになる。

ここで注意しなければならないのは,①及び② の措置をとることが,担当する裁判部の義務であ るのか,あるいは裁量的な権限であるのかという 解釈問題である。ICC規程の日本語の訳文は,い ずれの措置も「できる」と訳されているが,英語 の原文では,“theCourtmaymakeafindingto thateffectandreferthematterto...”とされてお り,“may”が“make”のみならず“refer”にもかか るものであるのかは,必ずしも一義的ではない。

この点は,以下に述べる決定や判決ではひとつの 問題となった。

なお,ICC規程には,締約国の非協力の問題が 締約国会議や安保理に付託された後に,それらが どのような制裁を行うのかについては,締約国会 議が問題を検討する(124条⑵⒡)という以上には,

何ら具体的には定められていない。しかし,この 点については,2011年の締約国会議第10回会合に おいて,「非協力に関しての締約国会議の手続」

という文書が決議によって採択されている

(46)

。こ の手続は,ICCが特定の国の非協力の問題を締約 国会議に付託した場合の公式の手続と,そのよう なICCの付託がない場合の非公式の手続とからな るが,前者には,締約国会議議長から非協力国に 対する公開書簡の送付,非協力国との公開対話の 開催(他の締約国,オブザーバー,市民社会の参 加を含む),締約国会議での具体的な勧告を含む 決議などが含まれている

(47)

【ケニア政府に対する遵守違反の認定・付託の 申立て】

以上に述べた87条⑺のもとで,検察官は,2013 年11月29日に,ケニア政府に協力請求への遵守違 反の認定と締約国会議への付託を求める申立てを

行った。これは,検察官が前年の2012年4月にケ ニヤッタ被告人に関係する経済活動などの記録の 提出をケニア政府に請求したが,同政府がそれに 応じないことを理由とするものだった。この申立 を受けて第一審裁判部V⒝は,その申立てに関す る手続を進める一方で,翌2014年4月以降,当初 に予定された公判手続を同年10月7日に延期し て,進行協議を開催し,進捗状況の報告を求め,

あるいは検察官の請求が関連性・特定性・必要性 を満たしているとの決定を行うなどして,検察官 とケニア政府との間の協力の問題を解決するため の調整をおこなった。しかし,延期後の公判開始 期日を過ぎても問題は解決せず,ケニア政府は文 書の提出を行わなかった。

【第一審裁判部の非協力に関する決定】

このような状況の中で,第一審裁判部V⒝は,

すでに述べたように2014年12月3日,さらなる期 日の延期を求める検察官の申立てを拒否するとと もに,また,ケニア政府に協力請求への遵守違反 の認定を求める検察官の申立てに関する決定を 行った

(48)

この決定はまず,規程87条⑺のもとでの①遵守 違反と妨害についての認定と,②問題の締約国会 議への付託とは,いずれも裁判部の裁量的なもの であると解釈し,遵守違反と妨害が存在すると認 定した場合であっても,さらに締約国会議への付 託を行うべきかどうかについては,別途にその適 切性を判断するものとした(para.39,以下,こ の項における項目数は,同決定のもの)。

そして,同決定は,ケニア政府の対応が,「規 程93条にもとで要求される誠実な協力の基準に達 しないものであり」(para.78),さらにその遵守 違反が,「容疑を完全に捜査する検察官の能力を 損なってきただけでなく,究極的には64条のもと での権限を実行する当裁判部の能力と,とりわけ 規程69条⑶に従った真実発見の任務とを侵害して きた」(para.79)との認定を行った。ただし,こ のような認定を行った直後に,同決定は,遵守違 反の「公式」の認定を行うべきかどうかを検討す るとしながら(para.80),その問題については明 確な結論を示していない。そのためこの認定がそ

(10)

のまま,87条⑺の①遵守違反と妨害についての認 定と評価できるのかには,疑問が残った。

その上で,同決定は,結論として,締約国会議 への付託を行うことについては適切とは考えられ ないとして,87条⑺の適用を拒否した(para.90)。

同決定が理由としたのは,そのような付託を行っ ても必要な証拠を得ることができるというのは憶 測に過ぎないため,公正な裁判や裁判の利益を促 進するとは考えられず,かえって手続をさらに遅 延させること(para.82),検察官の公判延期の申 立てに対しては拒否をしているので,付託が手続 を促進するかどうかの問題は意味を失っている

(moot)こと(para.83),付託は司法的な措置が 尽くされた場合にのみ認められるが,協力の問題 が行き詰まり(‘deadlock’)となっているかにつ いてもケニア政府と検察官との間で一致していな いこと(para.89)などであった。

さらに締約国会議への付託がケニア政府に対す る制裁や懲戒措置としてもなされるべきだという 検察官の主張に対しては,同判決はむしろ,捜査 の第一次的な責任は検察官にあるとして,検察官 において最初の協力請求へのフォローアップが遅 れたことやもっと早期に可能な手続を取らなかっ たことなど,検察官側の問題点を指摘していた

(para.84−9)。

このようにして,第一審裁判部V⒝は,検察官 の求める締約国会議への付託を拒否する判断を 行った。

【上訴裁判部の非協力に関する判決】

この決定に対しては,第一審裁判部V⒝が,⒤

第一審裁判部は,締約国の遵守違反の認定を行っ た場合,問題を締約国会議に付託しない裁量権を 有するのか(第1の争点),ⅱ仮にそうした裁量 権を持つとしても,裁量権の行使を誤ったもので あるか(第2の争点)について,検察官の上訴を 許可した

(49)

上訴裁判部の判決は,2015年8月19日になさ れ,結論としては,第一審裁判部V⒝の決定(以 下,「原決定」)の一部に法の適用の誤りを認めて,

審理を第一審裁判部V⒝に差し戻した

(50)

。 この判決は,まず第1の争点について,規程87

条⑺の構造については,原決定の解釈を肯定し,

①遵守違反と妨害についての認定,②問題の締約 国会議への付託,さらには,それらの判断のため にどの要素が関連するのかの判断において,裁判 部はいずれの点についても裁量権を持つとした

(paras.1,2,55,以下,この項における項目数 は,同判決のもの)。つまり,裁判部は,①遵守 違反と妨害についての認定を行った場合に,その 遵守違反の②締約国会議への付託を自動的に義務 づけられるわけではなく,その付託が「求める協 力の獲得に向けて外部関係者の援助を求めるため に,あるいは,被請求国の協力の欠如にその他の 方法で取り組むために,適切な措置であるかどう かを考慮すべきである」(para.53)。

そして,裁量権の行使を誤ったかどうかという 第2の争点について,検察官が提起したのは,原 決定が,無関係な要素を考慮し,他の関連する要 素を適切に考慮せずに裁量権の行使を誤ったとい うことであった(paras.18,57)。この点の判断に おいて同判決がまず確認したのは,87条⑺におけ る締約国の遵守違反に関する手続と,被告人に対 する刑事手続とは,異なる当事者を含む異なる手 続であるということである(para.73)。それゆえ,

被告人に対する刑事手続において手続の延期を拒 否する決定がなされ,さらに訴追が撤回されたと しても,それにもかかわらず第一審裁判部V⒝は,

締約国の将来の協力問題に影響を持つ締約国会議 へ の 付 託 に つ い て, 判 断 を 行 う 権 限 を 持 つ

(para.77)。ところが,原決定は,遵守違反を付 託することが被告人に対する刑事手続をさらに長 引 か せ る こ と を そ の 決 定 に お い て 考 慮 し た

(para.74)。

また,決定においてどのような要素を考慮する か裁判部の裁量であるが,その要素は,決定全体 を通じて一貫性を以て評価されなければならない

(para.78)。ところが,原決定は,ケニア政府の 遵守違反について,一方では裁判部の能力と任務 を侵害してきたと認定しながら,他方では協力の 請求が完全に執行されたとしても証拠を獲得でき るというのは憶測にすぎないと評価しており,両 者には矛盾がある(para.80)。つまり,遵守違反

(11)

の認定においては,協力請求の問題が検察官とケ ニア政府との間で行き詰まりとなったかどうかが 主要な要素であるにもかかわらず,原決定は司法 的手段が尽くされたかどうかに対する明確な判断 を行っていない(para.81)。また,検察官の行為 の評価においても,一方ではケニア政府の協力義 務に悪影響を与えたわけではないとしながら,他 方で検察官の申立てを拒否する理由としている点 で,一貫性がない(para.89)。

このようにして上訴裁判部は,原決定が,遵守 違反に関する手続と被告人に対する刑事手続を融 合させている点,司法的手段が尽くされたかどう かを明確にしなかった点,証拠の充足性や検察官 の行為の評価が一貫していない点において,裁量 権の行使を誤り,また,遵守違反の有無について の最終的な判断を行わなかったと結論づけた

(paras.90−1)。そして,上訴裁判部は,②問題の 締約国会議への付託についてのみならず,①遵守 違反と妨害についての認定についての決定を行わ せるために,問題を第一審裁判部V⒝に差し戻し た。

【差し戻し後の第一審裁判部V⒝の決定】

差し戻し後の第一審裁判部V⒝の決定は,2016 年9月19日に行われた

(51)

。差し戻し後の手続にお いて,ケニア政府は,引き続き同政府と検察局と の間の協力協議が行き詰まりとはなっていないと 主張した。しかし,同決定は,上訴裁判部の示し たガイダンスに従い,ケニア政府が協力の請求に 応ぜず,そのことは,裁判所の規程に基づく任務 及び権限の行使を妨げていると認定した。その上 で同決定は,以前の決定のように締約国会議への 付託決定と審理対象の刑事手続とを関連させるこ とをせずに,また,ケニア政府とのさらなる協議 に利はないとして,ケニア政府の非協力を締約国 会議に付託する(ことを含意する)決定を行った。

4.3 まとめ

以上のように,ケニヤッタ事件は,3名の被疑 者のいずれについても,実際の公判にまで手続が 進むことなく,それぞれ,予審裁判部による犯罪 事実の確認拒否決定,検察官の訴追撤回により事

件が終了した。そして,ムタウラとケニヤッタの 訴追撤回にいたる過程では,証人候補者の死亡,

証言拒否,証言の撤回による立証の困難性,そし て,証拠収集についてのケニア政府の非協力とい う問題に,検察官は直面することになった。

もちろん犯罪事実の確認拒否決定(61条⑺⑻)

あるいは検察官の訴追撤回(参照同条⑷⑼)に より終了した事件については,有罪無罪の判決を 前提とする一事不再理効(20条(1))は及ばな いと解され,検察官が新たな証拠を得て再度訴追 を行うことは,理論上は不可能ではない

(52)

。実際 にケニヤッタに対する訴追について第一審裁判部 V⒝は,前述したように非協力に関する決定の上 訴の結果次第では事件終了決定の見直しの可能性 にも触れていた。

しかし,検察官の職権捜査とそれに引き続く公 判での立証において,証人をあらためて確保でき る見通しやケニア政府の協力が行われなければ,

実際に再度の訴追は不可能であろうし,そのよう な変化が生じる実際の展望もない。

5.ルト事件

5.1 事件の経過

この事件(TheProsecutorv.WilliamSamoei Ruto,HenryKipronoKosgeyandJoshuaArap Sang)で,被疑者とされたルト,コスゲイ,サ ングは,前述のように2007−8年の事件当時,野党 ODM 派の要人である。そして,ルトとコスゲイ は,事件後の大連立体制において大臣や副大統領 として政府に参画している。ケニヤッタ事件と同 様に,前述の受理許容性に関するケニア政府の異 議申立てにかかわらず,これらの容疑者は,2011 年4月7日に,召喚状に応じて最初の出頭を行い,

事件の受理許容性を認めた上訴裁判部の判決後の 同年9月1日に予審裁判部Ⅱでの犯罪事実確認手 続が開始された。そして,ケニヤッタ事件と同じ 翌2012年1月23日に犯罪事実確認に関する決定が 行われ,ルトとサングについては,犯罪事実を確 認する判断がなされたものの,コスゲイについて はその確認が拒否された

(53)

(12)

この事件での容疑は,ODM支持者による「実行 者のネットワーク」(Networkofperpetrators)が,

与党 PNU 支持者に対して実行した殺人,住民の 追放または強制移送,迫害などの人道に対する犯 罪について,その犯罪を実行し,あるいは寄与し た責任(25条⑶⒜,⒟⒤)があるというものであっ た。そして,予審裁判部Ⅱは,ルトについては,

共同計画,不可欠の寄与及び組織への支配が存在 したことを根拠に,実行者のネットワークが行っ た犯罪行為に間接的な共同実行犯として(25条

⑶⒜)

(54)

,また,サングについては,FM 局の中 心的ブロードキャスターとして,攻撃中に対象地 域での実行者に対する指示を放送するなどして実 行者のネットワークの犯罪行為に寄与したとして,

責任があると信ずるに足りる実質的な理由を証明 する十分な証拠があると判断した

(55)

。他方で,コ スゲイについては,ルトと同様の間接的な共同犯 罪実行犯の責任について,その責任があると信ず るに足りる実質的な理由を証明するための十分な 証拠がないとして,その犯罪事実の確認を拒否し た

(56)

。なお,犯罪事実の確認決定に対する上訴は ICC規程上認められていないが,ルトとサングは それぞれ,この決定に付された反対意見,すなわ ち事件が人道に対する犯罪の要件とされる「組織 の政策」(7条⑵⒜)を欠くので管轄権が否定さ れるべきだとする判断に依拠して,規程上認めら れた「管轄権に関する決定」に対する上訴(19条

⑹,82条⑴⒜)を行った。しかし,上訴裁判部は,

「組織の政策」の有無は,事物管轄権の問題では なく犯罪事実確認の認定それ自体の問題であると して,実体の判断に入ることなく上訴を退けた

(57)

こうしてルトとサングの事件は,第一審裁判部

Ⅴに送付され,2013年9月10日には公判手続が開 始された。しかし以下に検討するような証拠と協 力をめぐる数々の攻防の末に,第一審裁判部V⒜

は,2016年4月5日,この事件の手続中止を決定 した

(58)

5.2 証人に対する召喚命令

【検察官による証人召喚決定の申立て】

最初の問題は,公判手続が開始されて間もない 2013年11月28日に,検察官が,ケニアに在住する 8名の証人について,その召喚決定を第一審裁判 部V⒜に申立てたことから始まる。検察官によれ ば,これらの証人は,その証言が関連性の高い証 拠となる可能性があるものの,もはや協力的では ないか証言を希望しないことを通知してきたため,

その申立てを行った。検察官が求めたのは,実際 にはこれらの証人をケニアからハーグに移送する ことではなく,ケニア政府の援助のもとに,これ らの者をケニア国内の適切な場所に召喚して,現 地に赴いた第一審裁判部の前で,もしくは,ハー グの裁判部とビデオリンクを通じて証言させると いうことであった。この申立てに対して,弁護側 は反対し,裁判部から参加を求められたケニア政 府も,同政府にはICCの求める証人の召喚を履行 する義務はなく,また,ICC規程の国内実施法に もそのような手続はないと反論した

(59)

【ICC規程における証人召喚権限と出頭義務】

国内裁判所であれば,刑事裁判の実施のために 証人の出頭を強制することは,真実発見の要請や 適正手続の観点から一般に認められている扱いで ある。ICC規程においても,証人については第一 審裁判部の権限として,「証人の出席及び証言並 びに文書その他の証拠を求めること」が認められ ている(64条⑹⒝)。他方で,証人が実際に ICC のために証言を行うためには,証人が所在する国 の政府の協力が必要となるが,それに関する締約 国の協力義務については,「証人又は専門家とし て個人が裁判所に自発的に出頭すること3 3 3 3 3 3 3 3 3 3を容易に すること」(93条⑴⒠:強調点付加)あるいは「そ の他の形態の援助であって被請求国の法律が禁止 していないものを行うこと」(93条⑴⒧)との規 定があるのみである。

さらに拘禁されている者を証言のために移送す る場合には,当事者の「任意の同意」が必要とさ れている(93条⑺⒜)。すなわち,これらの規定は,

(13)

証人の出頭や移送に関わる国際協力において,そ の当事者の自発性や同意を必要とし,強制をする ことができないとも読むことができる。

そのため,ICC規程は証人の強制的な出頭を想 定していないという主張もなされ

(60)

,さらには,

ICC における証人には,「自発的出頭」の原則や 出頭を拒む権利があるのかという論争もなされて きた

(61)

。ICCにおける証人の出頭義務を全面的に 否定する解釈をとれば,当事者にとっての立証活 動,特に立証責任を負う検察官にとってのそれが 困難なものとなることは容易に想定できる。

他方で,証人に関する第一審裁判部の権限の規 定(64条⑹⒝)と,国際協力の規定(93条⑴⒠

⒧)との間に不一致が存在することを前提としな がら,それを区別して解釈しようとする主張も存 在した。すなわち,第一審裁判部の権限としては 個人に対して出頭義務を課すことを認めているが,

国際協力の規定のもとで締約国は,進んで協力す ることは妨げられない一方で,その個人に課せら れた義務を実行すべき協力義務は課せられていな いというものである

(62)

。しかしこのような解釈を 取ったとしても,証人が出頭に同意せず,締約国 が証人の出頭への協力を拒む場合には,前述と同 様に立証活動の困難が生じることになる。

このように証人の出頭については,締約国の協 力義務を定めたICC規程の中に証人の自発性を前 提とする規定が存在するために,ICCへの出頭に 同意しない証人をどのようにして証言させること ができるのかという困難な問題が,本件の事件に おいて提起されることになった。弁護側やケニア 政府は,前述の「自発的出頭」の原則に依拠して,

検察官の申立てに対抗したのである。

【第一審裁判部の証人召喚に関する決定】

この問題に対して第一審裁判部V⒜は,2014年 4月29日,検察官の申立てを認めて,証人に対し ては「彼らに課せられた義務として,ビデオリン クによりまたはケニア内において第一審裁判部の 前で証言すること」を求め,またケニア政府に対 しては「ケニアの法の下で利用可能なすべての措 置を用いて,証人の出頭を確保すること」を求め た(末尾の決定第2項と第3項,以下,この項に

おける項目数は,同決定のもの)

(63)

第一審裁判部V⒜の決定が依拠したのは,ICC の締約国領域内での一般的な任務遂行及び権限行 使の権限(4条⑵)と,証人に関する第一審裁判 部の権限の規定(64条⑹⒝)である(paras.100, 110−1)。他方で国際協力の項に記載された「自発 的な出頭」(93条⑴⒠)の点については,ICC 規 程は被請求国の国内法が禁止していない限りICC が締約国に求めることができる援助の形態は限定 されてはおらず(93条⑴⒧),「93条⑴に掲げら れた各種形態の援助の中にある,証人の『自発的 な出頭』という93条⑴⒠の表示は,締約国が,

第一審裁判部の召喚状のもとで証人の出頭を強制 する方法での援助を行うことを妨げるものではな い。」と判断した(paras.115−6)。

この決定は,そのような結論を導く根拠として,

裁判所の黙示の権限の原則(principleofimplied powers), 刑 事 手 続 の 国 際 慣 習 法 の 諸 原 則

(principlesofcustomaryinternationalcriminal procedurallaw) や 誠 実 の 一 般 規 則(general ruleofgoodfaith)を議論して,証人の出頭を強 制するための締約国の義務の存在を理由づけよう とする。しかし,締約国の協力を定める規定に存 在するのは「自発的な出頭」であるにもかかわら ず,なぜ,強制的な出頭への協力を締約国に義務 付けることができるのかについて,明確な解釈論 を提示することはしなかった。

この決定に対して,弁護側は上訴の許可を求め,

第一審裁判部V⒜は,証人に証言を強制すること の可否,また証人の出頭についてケニア政府が協 力すべき法的義務の2点についての上訴を許可し た。

【上訴裁判部の証人召喚に関する判決】

上訴裁判部の判決は,同年10月9日,第一審裁 判部V⒜の決定(原決定)には誤りはなかったと して,弁護側の上訴を退けたものの,やや異なる 解釈を示した

(64)

(以下,この項における項目数は,

同判決のもの)。

上訴裁判部の判決はまず,問題の所在を,証人 の出頭を締約国に「一般的に」義務付けることが できるかどうかではなく,本件の事件で具体的に

(14)

生じている,ケニアの現地での(in situ)または ビデオリンクの方法による第一審裁判部への出頭 という点に問題を限定した(para.31)。そして,

原決定が,黙示の権限の原則や刑事手続の国際慣 習法の諸原則に依拠して結論を導いた点について は,それを必要とするような法の欠缺は存在しな いとした(para.105)。

同判決は,64条⑹⒝について,「第一審裁判部 が,関係する個人に法的義務を設定するという意 味で,証人の裁判所への出頭を強制する権限を持 つ 」 こ と を 明 瞭 に 示 し て い る と 判 断 し た

(para.107)。その上で同判決は,ケニア政府の協 力義務に関わる部分については,本件で実際に問 題となっている点に沿う形で,判断の対象を,ケ ニア政府が,①ICCの発した召喚状を送達するこ とへの協力を義務づけられるかどうか,②現地で のまたはビデオリンクの方法による証人の出頭に ついて,出頭の強制を援助する義務があるかどう か,という問題に整理した(para.114)。

そして,弁護側が「自発的な出頭」の根拠とし て依拠する93条⑴⒠は,ケニアにおける現地・

ビデオリンクの方法による証人の出頭強制におけ る締約国の協力を妨げるものではないと結論づけ た(para.117)。すなわち同判決によれば,93条

⑴⒠に含まれる「自発性」の用語は,その起草 過程に照らせば,同意しない証人を他の国に移送 することを憲法上許容していない国々が持つ問題 に対応するために挿入されたものであって,その ような国外移送を伴わない証人の出頭の場合に ICCが出頭の強制を締約国に求めることを排除し たものではない(paras.118−120)。そのように考 えれば,93条⑺⒜が拘禁されている者の証言に「任 意の同意」を要求する理由も,それが国外移送を 伴うからであると説明できる(para.122)。それ ゆえ,本件における協力請求を妨げるような「自 発的出頭の原則」は,存在しない(para.123)。

ただし,原決定がケニア政府に求める協力義務 の根拠を,「その他の形態の援助」(93条⑴⒧)

に求めた点については,上訴裁判部は,93条

⑴⒝がより適切な根拠であるとした(para.128)。

すなわち同項は,「証拠(宣誓した上での証言を

含む。)の取得及び証拠(裁判所にとって必要な 専門家の意見及び報告を含む。)の提出」を,締 約国の協力義務の一形態としているが,上訴裁判 部は,ここで言う証言の取得や提出が,締約国の 国内裁判所が実施するものに限定されるわけでは なく,本件の請求のような形態でICCが実施する ものを含むと解釈した(paras.127−131)。

このようにして,ICC規程の解釈いかんによっ てはICCが国外に所在する証言を望まない証人の 証言を一切得ることができなくなるのではないか,

というICCの制度そのものに関わる問題は,証人 が所在する現地でのあるいはビデオリンクによる 証言という手段に対する締約国の協力義務を肯定 することによって一応は解決された。

しかしながら同時に,この一連の経過は,立証 手段として証人と証言の確保という刑事裁判の根 幹に関わる問題において,国際刑事裁判のシステ ムに内在する問題,すなわち,国境を越えた証言 の確保の困難性を再認識させることとなった。

5.3 証人の事前記録証言の許容性

【検察官の記録証言許容の申立て】

2013年9月10日に始まったこの事件の公判は,

2年後の2015年9月10日に検察官の立証を終え,

その間に30名の証人とその他の証拠が提出され た。しかし,検察官は,その立証の終盤にあたる 2015年4月9日に,6名の証人について,検察官 が6名の証人から取得していた供述書や事情聴取 反訳書(以下,「事前記録証言」(PriorRecorded Testimony))を証拠として採用することを申し 立てた

(65)

。検察官は,そのような申立てを行った 理由として,被告人の犯罪を立証するための重要 な証拠となる証人が,公判における証言で以前の 供述を取り消しあるいは出頭を拒否したが,それ は被告人らのために行動する集団が威迫や賄賂の 手段を用いて,証人らに干渉したためであるとい う事実を挙げていた

(66)

実際に,この申立てに至るまでの間には,ケニ アの事態において2013年8月2日に1名の被疑者

(WalterOsapiriBarasa)に対して(同年10月2

(15)

日公開),2015年3月10日には2名の被疑者(Paul Gicheru と PhilipKipkoechBett)に対して(同 年9月10日公開),予審裁判部Ⅱは,証人に関わ る犯罪(70条⑴⒞)での逮捕状を発付している

(67)

。 しかし,これらの事件の被疑者の身柄は確保され ていない。

検察官は,反対尋問を経ていない事前記録証言 の証拠採用を求める根拠として,主位的には,

ICCの手続及び証拠に関する規則(以下,「規則」)

の第68⑵⒟規則を挙げ,またそれが適用されな い場合に予備的にICC規程の69条⑵と⑷を挙げて いた。

【ICCにおける事前記録証言の許容性

(68)

ICC規程には,反対尋問を経ない供述証拠,す なわち伝聞証拠それ自体を禁止する定めはな い

(69)

。しかし,証人の証言は,公判において自ら 行うことが原則とされ(69条⑵),その例外は,

証人保護のための措置が提供される場合(68条)

と後述の規則が定める場合とされている(69条

⑵)。他方で,69条⑵は,裁判所がビデオ・オー ディオ手段による直接または記録された証言や,

文書や反訳された文書の提出を,被告人の権利を 害せず,それと両立する場合には,許可すること ができるとも定めている。また,69条⑷は,証拠 一般について,証拠の証明力や不利益などを考慮 して,裁判所が証拠の許容性と関連性の決定を行 うことができると定めている。そのため,ICC規 程の条文自体からは,伝聞証拠に関する扱いは一 義的に明らかではない。

この点で,「事前記録証言」と題してその扱い を定めているのが,規則の第68規則である。そし てこの第68規則は,ルト事件の公判が開始された 後の2013年11月27日に締約国会議によって改正さ れている。

改正前の旧第68規則は,第一審裁判部が,69条

⑵に従いかつ一定の条件を満たす,証言のオーディ オ・ビデオ記録,反訳文その他の文書証拠を採用 することができるとしていた。その条件とは,⒜

証人が公判に出頭せず,記録が作成された際には 検察官と弁護側が反対尋問を行う機会を持ってい たこと,または,⒝証人が公判に出頭していて事

前記録証言の提出に異議を唱えず,かつ当事者と 裁判部が尋問の機会を持つことである。いずれの 場合も,弁護側に反対尋問の機会があることが条 件とされていたため,旧第68規則は,必ずしも伝 聞証拠の許容性を正面から認めようとするもので はなかった。さらに,69条⑵に従って,被告人の 権利を害せず,それと両立する場合という要件も 加えられる。そのため,旧第68規則のもとでは,

検察官が捜査の過程で証人から事情聴取をした際 の供述書や録音反訳は,証人が公判に出頭しない 場合には弁護側に反対尋問の機会がなかったため に,あるいは証人が公判に出頭していても事前記 録証言の提出に同意しない場合には,第一審裁判 部は事前記録証言を採用することはできない。ル ト事件で検察官が採用を求めた事前記録証言は,

まさにそのような証言であり,旧第68規則の条件 を満たすものではなかった。

しかし改正後の第68規則は,従うべき規程条文 として69条⑷を加えるとともに,証人が公判に出 頭しない場合において第一審裁判部が事前記録証 言を採用できる場合を,大きく拡大した。それは,

⒜当事者が記録の際に尋問の機会を持っていた場 合,⒝被告人の行為以外を立証する証拠で一定の 条件を満たす場合,⒞利用可能ではない証人で(死 亡,合理的な努力によっても克服できない障害に よる)一定の条件を満たす場合,⒟干渉を受けた 証人で一定の条件を満たす場合である。言いかえ れば,弁護側に反対尋問の機会のない事前記録証 言であっても,その許容性が認められる可能性が 出てきたのである。

この中で,ルト事件における検察官の申立てに 関係するのは,⒞利用可能ではない証人の場合と,

⒟干渉を受けた証人の場合である。これらの場合 に共通する条件は,事前記録証言に十分な信頼性 のあかし(sufficientindiciaofreliability)があ ること,かつ,その証言が被告人の行為を立証す るために使われる事実が採用を妨げるべき要素(a factoragainstitsintroduction)として考慮され ること,である。それに加えて,⒞利用可能では ない証人の場合には,予審裁判部を通じての証拠 保全(56条)の措置が予測できなかったことが必

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