遠心限外濾過法によるAndrogenの
血清蛋白結合に関する研究
特に,Dehydroepiandrosterone sodium su1癒teの 正常婦人ならびに正常妊婦の血漿蛋白との結合について
金沢大学医学部産科婦人科学教室(主任 赤須文男教授)
石 川 久 夫
(昭和38年12,月13日受付)
1934年Butenandtら1)によって尿中から,1954年に はMigeonら2)によって血中から分離されたDehy−
droepiandrosterone(DHA)は,周知の如く,Andro−
sterone, Etiocholanoloneなどと共に尿中および血中 17−K:etosteroids(17−K:S)の主要な分画であり,副腎 皮質由来のステロイドホルモンと考えられている.即 ち,Liebefmanら3)(1953)は副腎皮質の機能充進
(例えばACTH投与による副腎皮質刺激)が常にDH Aの多量排泄を伴なうことなどから,DHAは副腎皮 質に由来するものであろうと推測し,Pregnenoloneを その前駆物質と考えた.しかし,1957年Plantinら4)
は手術によって易適した副腎腫瘍組織からDHAを抽 出し,DHAが副腎より分泌されることを示唆した.
さらに,Lombardoら5)(1959)は乳癌の精神病患者 の副腎静脈血から,また,Bushら6)(1959)は多毛症 の女子の副腎静脈血よりDHAを抽出し, DHAは副 腎皮質ホルモンの単なる排泄型ではなく,それ自体が 副腎皮質より分泌されるステロイドであることが明ら かとなった.
赤須はこの事実に注目し,DHAが副腎から分泌さ れている以上,従来から推知されているTestosterone やEstrogenへの前駆物質としてのD}IAの他に,
DHAには何らかの生理的意義,例えば全身的作用を もつものと考え,ことに,天然の蛋白同化ステロイド として,異化ステロイドであるCortiso1と拮抗調節 的作用をなしているのではないかと想定している.
私もこの見地から,DHAの生理的意義に関する研 究の一端として,既報論文7)でDehydroepiandroster・
one sodium sulfate(DHA・S)とウシ血清蛋白との結 合率を遠心限外濾過法を用いて測定し,蛋白濃度6.8 9/dl,温度37・5。C, pH 7.4の条件では96〜97%であ
ることを報告した.
今回は,正常婦人血漿,正常妊婦血漿について,前 回と同様,遠心限外濾過法を用いてDHA・Sの蛋白 結合状態を観察したのでその結果を記載する.
実 験方 法 1.遠心限外濾過法
1)遠心限外濾過装置
前脚8)と同一の装置を使用したのでその詳細は省略 する.また,限外濾膜には,良質の和紙を5%のコロ ジオン溶液に浸した後,間隙0.3mmのスリットを通 して3分間室温で乾燥させた,いわゆる標準和紙コロ
ジオン膜9)を用いた,2)温度,pHの調節
前報7)に記載した方法により,遠心操作中の温度を 37・5±0・5。Cに,試料(被検:血漿)のpHを7.3〜7.5
に調節した.
3)遠:心急タト濾過
回転半径15cm,3,000 r.p.m・で20分間遠心した.
2.血漿蛋白定量法,血漿蛋白分画定量法 血漿蛋白総量は日立血清蛋白計を使用して測定し,
血漿蛋白分画値は濾紙電気泳動法10)にて測定した.な お,私の正常値は,血漿蛋白総量が6.5〜829/dl,ア ルブミン分画比は47・9、55・5%である.
実 験 成 績
〔1〕Dehydroepiandro£terone sodium sulfate Studies on the Patterns of the Binding of Androgen with Serum Protein by the Meth6d of Centrifugal Ultrafiltration, Especially of the Binding of Dehydroepiandrosterone Sodium Sulfate with Normal Non−Pregnant and Pregnant Women s Plasma Protein. Hisao Ishikawa,
Department of Obstetrics and Gynecology(Director:Prof. F. Akasu), Sごhool of Medicine,
Kanazawa University.
18
石
の正常婦人血漿蛋白との結合について
1943年Rakoffら11)が妊婦血清の無蛋白濾液中に Estfogenが検出されないことから血清蛋白と結合し たEstrogen分画の存在を示唆して以来,血中のステ ロイドはすべて蛋白と結合していることが明らかとな って来た.DHAもその例にもれず,血漿蛋白または 血清蛋白と結合しているとされているが,その結合状 態に関する研究報告は他のステロイドのそれに比して 非常に少なく,2,3を数えるに過ぎない.
まず,Eik−Nesら12)(1954)は水と5%血清アルブ ミン溶液に対する溶解度の差から,DHAが血清アル ブミンと結合することを示唆し,Bongiovanniら13)
(1957)は透析法および塩析法でDHAの血漿蛋白結 合率を測定してそれが50〜100%であることを確かめ,
Oefte1ら14)(1958)もDHAの蛋白結合率を約25%
と報告している.近年になって,Chenら15)(1961)
は遠心限外濾過法を使用して,血漿ならびに5%の入 アルブミン溶液に3HでラベルされたDHAを添加し てその蛋白結合率を測定しているが,DHAの結合に 関与する蛋白分画はアルブミンであり,結合率は92〜
95%であったと報じている.Pucheら16)(ig62)も透 析法によってDHA・Sとウシ血清アルブミンとの結合 を観察し,DH:A・S濃度が5馳9/d1の際の結合率を 84%と報告し,さらにその結合の本態について,陰イ オン化したDHA・Sとアルブミンのアルギニン基との 間の電気的結合であると論じた.
先に私7)は遠心限外濾過法を用いてウシ血清蛋白
(濃度6.8g/d1)とDHA・Sの結合状態に検討を加 え,(1)ウシ血清蛋白とDHA・Sの結合率は蛋白濃
度6.89/d1,37.5。C, P:H7.4では96、97%であること,
(2)DHA・Sの濃度:によってDHA・Sの蛋白結合率は 変化せずほぼ一定であり,また,蛋白濃度が減少する につれて単位蛋白量当りのD:HA・S結合量は急速に増 加することから,D且A・Sの結合に関与する血清蛋白 分画は主として大きな結合能力をもつたアルブミンと 思われること,(3)DHA・Sの血清蛋白との結合に関 する私の実験成績がFreundlichの吸着式にかなりよ くあてはまることから,その結合は化学的な性質のも のではなく主に物理的な吸着によるものと推測される ことなどを報告した.
今回は前実験に引き続き,正常婦人の血漿について 同様の実験を試みた.
実験材料および実験方法 1)実験材料
血漿は血液銀行の婦入供血者および金沢大学医学部 附属病院に勤務する看護婦からの提供を受けた.ヘパ
川
リンで内面をぬらした注射器で1人当り50m1ずつ正 中静脈から採血し,速やかに遠心して血漿を分離実 験に供するまで冷蔵庫に保存した.
職2)実験方法
A)DHA・S・血漿蛋白結合に及ぼすDHA・S濃度の 影響についての実験
各種濃度のDHA・Sを含む試料(被検血漿)を遠心 して,血球中のDHA・S量から試料中の拡散性DHA・
S濃度を求めた.
a)試料の調製
0.04%のDHA・S水溶液を順次蒸溜水で稀釈し,こ れに等量の血漿を混じてDHA・Sの終末濃度を80,
120,160,200粋g/m1にした.これら試料の各50 ml をpH補正後,4個の限外濾過管に分けて遠心した.
b)遠心限外濾過
37・5±0.5。C,3,000r.P.m.で20分間遠心した.遠心 後,4個の限外濾過管の無蛋白濾液を集め,蒸溜水を 加えて全量を20mlにした.
c)濾液中DHA・Sの定量
Solvolysisを応用した2Step Hydrolysis 17)によ って第1表の如く水解・抽出し,Zimmermann反応 を用いて比色定量した.比色は分光光電光度計(日立 EPU 2型)を使用して,波長460,520,580 mFでの 吸光度を測定し,AIIenの補正式を用いて補正した.
なお,拡散性DHA・S濃度はMcLeanら18)に従っ て次式から血漿中の水分量を計算し,拡散性DHA・S の濃度は水1g当りの量で表わした.
W=99.0−0.75xP
W:血漿100ml中の水分量(g)
P:血漿蛋白濃度(g/dl)
また,血漿中の非添加DHA・S量(blank)は0と
みなした.
B)DHA・S・血漿蛋白結合に及ぼす血漿蛋白濃度の :影響についての実験
DHA・S 100 mgをエタノール100 m1に溶解させ,
それを」Oml宛分割し,エタノールを蒸発乾固させ た後,それぞれに血漿50ml,血漿40 m1十蒸溜水10 ml,血漿25 m1十蒸溜水25 mlを加えてDHA・S終 末濃度が20い9/m1,蛋白濃度がそれぞれ7.4,5.9,3.7 9/dlの試料を調製した.これについて実験A)と全 く同様に,遠心・水解・抽出・発色の操作を加えた.
実験成績
A)DHA・S一血漿蛋白結合に及ぼすDHA・S濃度の 影響についての実験成績
血漿蛋白濃度3.19/d1(アルブミン分画比47・2%),
pH 7・3〜7.5,温度37・5。Cの条件で,血漿中DHA・S
濃度と拡散性DHA・S濃度との関係をみると,第2表 の如く,DHA・S終末濃度が82.9,124.3,165.8,207;2 μ9/gH20の際の拡散性DHA・S濃度はそれぞれ平均
5.8±0.45,8.9±0.69, 10.5±0.27, 13.4±0.98晒g/gH20
であった.また,全DHA・S量に対する非拡散性(結 合型)DHA・S量の分画比,即ち血漿蛋白結合率を求 めると第2表および第1図に示される如く,DHA・S
終末濃度が82.9,124.3,165.8,207.2堕/gH20ではそ
れぞれ平均93.0±0.51,92.9土0.53,93.7±0.16,93。6士0・49%とDHA・S濃度と無関係にほぼ一月頃みなすこ
とができた.血漿蛋白1g当り,および,アルブミン 19当りのDHA・S結合量を求めると,それぞれ平均
2.4±0.01, 5.2=ヒ0.01; 3.7=ヒ0.01, 7.8±0.01;4.9, 10.4
±0.01;6.i土0.01,12.9±0.01 mgとなり(第2:表:),
第1表 濾液中DHA・Sの定量法 1蔽+蒸蔽12・ml)1
50%硫酸(2m1)
︷
エーテル(30m1)
20。C以上の室温,
エーテル(30m1)
6日間(1日2回振盈)
2回抽出 1『一
エーテ・レ層1匪液+蒸溜水1
L1エーテル1
濃硫酸(1ml)
︷
100。C,15分間 エーテル(30m1)2回抽出
重曹水で洗瀞 水 洗 乾 固
1発 色
「
比色定量
歴液+蒸泓1
↓
第2表DHA・S一血漿蛋白結合に及ぼすDHA・S濃度の影響(アルブミン分画比47.2%)
終末血漿蛋白 濃度 9/dI
−二!! .!!
3
終末DHA・S
濃度 μ9/gH20
2〃〃 2
8
拡散性DHA・S 濃度
μ9/gH20
ワ804ρ0
00=り屡U
D:HA・S血漿 蛋白結合率 %
92.0 93.7 93.3
DHA・S血漿
蛋白結合量
mg/9
QU44
り召9召9召
DHA・S血漿 アルブミン結 ムヨ ロ里mg/9
19刃り畠 RUKUぼり
5.8±0.45 93.0±0.51
2.4=ヒ0.01
5.2±0.01ーノ! ●!流
3 1
24
3〃〃 4100 n◎80 1 93.3
93.5 91.8
7.ワ8nO OUQUnO OOnO厚﹂ 7■7阿イ
8.9±0.69 92.9±0.53 3.7±0艦01 7.8±0.01
3〃〃 1
5〃〃 3
16 114■﹂
000 00000
94.0 93.5 93.5
QUQUGU
﹂仙﹂蔓﹂仙
10.5=ヒ0.27 93.7=ヒ0.16 4.9
1!! ・!!
3
207.2〃 〃
13.3 15.1 11.7
93.6 92.7 94.4
1096 nO6nO
10.5 10.4 10.4
10.4±0.0113.4=ヒ0.98
93.6±0.49QU80
りμ9召nδ
1116.1±0.01 12.9±0.01
20 石 川
第2図にみられるようにDHA・S濃度の増加とほぼ 比例的に増加している.
B)D:HA・S一血漿蛋白結合に及ぼす血漿蛋白濃度の 影響についての実験成績
血漿蛋白濃度の変化がDHA・S一血漿蛋白結合に及
轟ミ95
甜如埋Φ圏懸目い︒く=O
85
第1図 DHA・S一血漿蛋白結合に及ぼす D:HA・S濃度の:影響
む
・一一 ィ一・→一一」L一≒一
● ●
血漿蛋白農度3.1gん
ぼした結果を第3表に示した.蛋白濃度が3.7,5・9,
7.49/dlと増加すると,拡散性DHA・S濃度は平均 12.9土0.66,7.0±0.43,6.3土0.94μ9/gH20と減少す る.この時の蛋白結合率を図示すると第3図の如く,
蛋白濃度3.79/dlでは平均93.8±0.31%,5.99/dlで は平均96.8±0.20%,7.49/d1で97.0土0.45%と曲線 的な変化をみせ,蛋白濃度6.09/d1以上では97%前 後とほぼ一定であり,6.Og/dl以下では蛋白濃度の 減少につれて急激に減少している.また,血漿蛋白あ るいは血漿アルブミン19当りのDHA・S結合量を
求めると,それぞれ5.1,11.5±0.01;3.3,7.6±0.01;
2.6,5.9±0.01mgであった.
考按および小括
第4表にD:HAの蛋白結合に関する諸家の報告をま
6
5
・︾ !1
4 3 2 1酉面聖碩噺懸昼切・くユO
50 100 150 200
終末DHんs濃度 〃,ん醤20
第2図 DHA・S一血漿蛋白結合に及ぼす DH:A・S濃度の影響
9
血漿蛋白濃度31g/dI
6
第3図 DHA・S一血漿蛋白結合に及ぼす 血漿蛋白濃度の影響
100
98
96
盈刃 2 9 0♂
掛如囎隠蟹塚目の・<工O
90
50
セ ロうロ柊末DHA・S農度 μ⊆ゾgH20 6 7 8
血漿蛋白濃度 9/dl
第3表 DHA・S一血漿蛋白結合に及ぼす血漿蛋白濃度の影響(アルブミン分画比44.0%)
終末血漿蛋白 濃度 9/d1
7〃〃 翫
終末DHA・S
濃度
μ9/9:H20乳〃〃
820
拡散性DHA・S 濃度 μ9/gH20
12.7 14.1 11.8
DHA・S血漿
蛋白結合率 %
93.9 93.2 94.3
DHIA・S血漿 蛋白結合量
mg/9
11ー
ビリEり判り
DHA・S血漿
アルブミン結 ム 口里mg/9
11.4 11.4 11。5
12.9=ヒ0.66
93.8土0.315.1 11.5dヒ0.of
OU!ノ
5
4ノ! ノ !
7
L〃〃
421
nO78厚イ 0080 Qり0りQり 厚〜∩Onb 民リ00ワ8
7.0±0.43 96.8±0.20
ー4!! !ノ 0
2
1 冒0ピ08 04ρ09召 97.5
97。4
96.1
300nO QUOOOO ワーピリハ0
脚了7■7
3.3
7.6±0.01ρ0ρOnり 9劃9一2 QUQり8 戻りKりにU
6.3土0.94 97.0±0。45
2.6
5.9±0.01第4表 DHAの蛋白結合率に関する諸家の報告
実 験 材 三 家 験 方 法 「蛋白曲率
BongiQvanniら13)(1957)
Chenら飾)(1961)
入血漿(DHA経口投与後)
5%アルブミン溶液
(騨添加量100 9/d1)
畑
鞠
入︵ 血聴漿鮮
透 析 法 100%
塩析法(水酸化亜鉛) 93〜65
〃
(トリクロル酢酸)55
〃
(硫酸アンモン)100
pH:3.0,50。C,20分間放置 72 遠心限外濾過法
(pH 7.4,37。C)
〃
91
91前後 Pucheら16)(1962) 15%ウシア・レブミン蔽1透析法(・H7・4・5〜6・c) 84
石川7)(1963)
ウシ血清 1無限朧蟷7.4β7.駅C)1 96〜97
とめて記載した.DHAの蛋白結合率について数値の 不一致がみられるのは主として実験方法の相違による ものであろう.DHAと血漿蛋白(恐らくはアルブミ ン)と,の結合は,Pucheら16)がアルブミンのアルギニ ン基との間の電気的結合と述べ,私7)が物理的な吸着 と考えているように,恐らく単一の性質のものではな く,非常に強固に蛋白と結合しているものから極めて 弱い力で蛋白に結びついているものまで種々の段階が あると思われる.従って,生理的な蛋白結合状態を観 察するためには,血漿または血清の物理的・化学的性 質を極力損なわぬようにすることが肝要であろう.こ の点,塩析法では血漿の性質に非生理的な変化をきた す可能性が大きく,Bongiovanniら13)の実験(第4 表)で除蛋白剤の種類によって結合率が55〜100%と 大きな変動を示しているのもこれが原因と思われる.
透析法においても,多量の試料を必要とする他に,比 較約長時聞を要するため蛋白の変性をきたす恐れがあ る.前報7)8)と同様,今回の実験で私の使用した遠心 限外濾過法は要する試料も極めて少量であり,遠心力 の影響(軽微と考えられる)のみ除去すれば,血漿の 性質を損なわずにDHA・Sを蛋白結合型と非結合型
に分けることができると思う.pHの調節も脱出した CO2を補う生理的な操作であり,また,温度の調節も 極めて容易である.
ただ,限外濾液中のDHA・S定量に用いたZimmer・
mann反応ではDH:A・Sの微量測定が困難であるたあ に,抽出過程で回収率のよい2Step Hydrolysisを応 用してもなお血漿に対して多量のDHA・Sを添加せね ばならなかった.即ち,DHA・Sの正常婦人血中濃度
はConradら19)によれば85〜166 F9/d1とされてい るのに対して,本実験で用いた試料のDHA・S終末濃 度は200粋g/m1であり,本実験の成績から生理的な DHA・S一蛋白結合状態を推察するためには, DHA・S 濃度の影響をまず検討せねばならなかった.私は DHA・S濃度を80〜200 F9/m1の範囲で変化させて,
それが蛋白結合に及ぼす影響を観察したが,前報7)で の結果と同様に,DHA・S濃度の二刀口につれて蛋白19 当りのDHA・S結合量は比例的に増加し(第2図),
蛋白結合率には殆んど変化のないことを確かめた(第 1図),従って,本実験の成績をもつて正常婦人の血 中DHA・Sの生理的蛋白結合状態を推測することに大 きな誤まりはないと思われる.
前報7)では,DHA・Sを血清に添加する際に,直接 血清に溶解させる方法はDHA・Sの水に対する比較的 低い溶解性から完全に溶解しない危険性を考慮して,
一たん水に溶解させ・,このDHA・S水溶液と血清とを 任意の比率で混合して蛋白結合率と蛋白濃度の関係を 求め,両者の関係から正常蛋白濃度での結合率を推測 した.今回はDHA・Sをエタノールに溶解させた後,
エタノールを蒸発乾固,その残渣を種々の蛋白濃度の 血漿に直接溶解させて,蛋白結合率と蛋白濃度との関 係を求めた.その結果,蛋白濃度:3.79/dlでの結合 率は93.8%であり(第3表),前実験(実験A))にお ける蛋白濃度3.1g/dl(DHA・S濃度20躯g/m1)の 時の結合率93.6%(第2表)と同値で,直接DHA・S を血漿に添加することによって何ら実験成績に誤差を 生じないことが明らかとなった.
以上,pH 7.4,温度37.5。Cの条件で正常婦人血漿
22 石
蛋白とDHA・Sの結合率を測定し,次の結論を得た.
1)DHA・Sの蛋白 結合率は蛋白濃度が6・O g/d1以 上ではほぼ一定で97%前後であり,蛋白濃度が6・0 9/dl以下に低下すると急激に結合率は減少する.
2)DHA・Sの蛋白結合率はDHA・Sの濃度とはほ ぼ無関係と思われる.
3)従って,正常婦入の血中のDHA・Sのうち約97
%が血漿蛋白(恐らくアルブミン)と結合して存在す るものと考えられる,
〔∬〕Dehydmepiandrosterone sodium sulfate の正常妊婦血漿蛋白との結合について 妊娠によって母体の下垂体・副腎・卵巣などの内分 泌腺は形態的にも機能的にも著しい変化を示し,胎盤 もまた,胎児循環の新陳代謝を司さどる他に内分泌腺 としての機能を営んでおり,肝などでの代謝あるいは 血液性状の変化などとあいまって,母体の内分泌動態 は妊娠時に特異な様相を呈してくることは周知のとこ ろである.血中Androgenについても同様に妊娠によ って特異な動態を示すものと考えられるが,その2,
3の報告を次述する.
Gafdnerら20)(1954)は33名の正常男子および女子 を対照にして妊娠末期の妊婦30名の血中17−KS値を 測定し,正常男子および女子の血中17−KS値には大 差なく平均61魑9/d1であったのに対して,妊娠婦入 のそれは18 9/dlと著しく画意であったと述べ,妊 娠末期における母体のAndfOgen産生が減少してい るためと考えた.Migeonら21)(1955)も妊娠末期の 妊婦血を検討し,Androsteroneの量については対照 と差はないが,DHA値は対照に比して低かったとし ている.本邦では金井22)(1958)が同様の実験を試 み,上述の報告とほぼ一致した結果を得ている.一 方,千葉23)(1959)は生物学的測定法で血中Andro・
gen量を測定し,正常妊婦の血中AndrOgenは妊娠 月数の増加に伴なって漸次増加し,9,10カ月で最高 値を示し,分娩後には急激に減少して1週目で正常値 に近づくと報告している.
このように,血中Andfogenは妊娠によって著しい 変化を呈し,ことにDHA値は非妊時に比してむしろ 減少するとされているが,その生物学的意義について は全く不明であるといってもよいと思われる.私は蛋 白結合の面から妊婦血中におけるDHAの動態の一端 を観察しようと試み,DHA・Sと正常妊婦血漿蛋白と の結合率を測定したのでその結果を報告する.
実験材料および実験方法 1)実験材料
川
当科外来に通院している妊娠8〜工0カ.月の妊婦の中 から,その厚意により,妊娠中毒症その他の合併症を 認めない症例のみを選んだ.対照としての非妊婦人は 私の温語である健康婦人および当院に勤務している看 護婦である.
採血には前実験と同様,凝血阻止剤にヘパリンを使 用し,正中静脈から1入宛20m1または40 mlを採 血し,直ちに遠心して血漿を分離した.なお,1人宛 20m1採血した場合には2人分の血漿を合わせて1検
体とした.
2)実験方法
大要は前実験と全く同様である.
a)試料(被検血漿)の調製
20mlの血漿に0.04%のDHA・S水溶液20 m1を添 加した(D:HA・S終末濃度2短い9/m1)・
b)遠心限外濾過
pH 7.3〜7.5,温度37.5±0.5。Cに調節して,3,000
r.p.m.で20分遠心した.c)濾液中DHA・Sの定量
水解・抽出(2Step Hydrolysis)後, Zimmermann 反応で発色し,分光光電光度計にて比色定量した.
実験成績
正常妊婦血漿蛋白総量は対照非妊婦の6例平均7.2
±0.129/d1に比べて6.8±0.219/d1と低値であり,
アルブミン分画比も非妊婦の平均50.6±1・01%に比較 すると42.6±0.40%と減少している(第5,6表).
終末濃度200粋g/m1におけるDHA・Sの蛋白結合 率は第5,6表に示す如く,妊婦血漿では平均94.1士 0・15%,非妊婦血漿(対照)では平均93.9±0.21%と差 はないが,D:HA・Sの単位蛋白量当りの結合量を求 めると,非妊婦血漿蛋白およびアルブミンに対する DHA・S結合量が5.2±0.02 mg/9および10.3±042 mg/gであるのに比べて,妊婦血漿蛋白およびアルブ ミン19当りの結合量は5.6士0・15mgおよび13.1±
0.46mgと増加していた.一方,個4の例についてそ の血漿蛋白濃度とDHA・Sの蛋白結合率との関係を 図示すると(第4図),妊婦および非妊婦血漿ともに,
蛋白濃度が減少するにつれてDHA・Sの蛋白結合率 も減少しているが,各蛋白濃度それぞれについて観察 すると,妊婦例では対照例よりも一般に高い蛋白結合 率を示している.血漿アルブミン濃度とDHA・S蛋白 結合率との関係についても全く同様の知見が得られた
(第5図).即ち,DHA・Sの蛋白結合率を総括的に平
均した場合には,妊婦血漿が非妊婦血漿に比して低蛋
白であり蛋白濃度の減少につれて結合率が減少するた
め,94.1%および93.9%と一見差がないように思われ
第5表DHA・Sの正常妊婦血漿蛋白との結合状態
1
2
3
4
5
6
氏 名 那○登○子 木○ 春○
道○美○子 松○ 妙○
高○登○子 脇○ 幹○
忠○く○子 宮○由○子 吉○ 京○
瀬○ 昌○
香○ 洋○
東 ○子 年
齢 ρ01
り召り召8RU 9召0乙 4nO 9θり召 88 り召9召
00009召04 −り0 60Ω4
妊娠 月数
0011nUOO
1
00ΩU
0り01 000
1
OQU 1
血漿蛋白 総量
9/d17.4
6.3
6.4
7.3
6.2
7.0
6.8士 0.21
アルブミ ン分画比 %
43.3
42,8
42.0
44.2
41.5
42.0
42.6±
0.40 終末
DHA・S 濃度
μ9/gH20207.9
207.0
207.0
207.6
206.9
207.4
/
拡散性 DHA・S 濃度 熱9/9H20
11.0
12。2
12.8
12.2
13.2
11.8
12.2±0.31
DHA・S 血漿蛋白 結合率
%
94.7
94.2
93.9
94.1
93.6
94.3
94.1±
0.15
漿度 20 血濃09H 末白10 終三郎
3.8
3.3
3.4
3.7
3.2
3.6
/
1)HA・S
血漿蛋白 結合量
mg/9
5.2
5.8
5.7
5.3
6.1
5.4
5.6土
0.15
DHA・S 血漿アルブ
ミン結合量 mg/9
12.0
13.5
13.5
12.0
14.7
12.8
13.1±0.46
第6表 DHA・Sの正常非妊婦(対照)血漿蛋白との結合状態
氏 名
年
齢
血漿蛋白 総量
・9/d1
十三s
%
μ9/gH20 拡散性
DHA・S 濃度
μ9/gH20DHA・S 血漿蛋白 結合率
%
終末血漿 蛋白濃度 9/1009
H20 DHA・S 血漿蛋白 結合量
mg/9
DHA・S 血漿アルブ
ミン結合量 mg/9
11坂・副39い・gi46・21・・7・4114・1193・213・615・3i11・4
2
3
4
西○不○子 山○富○枝 窪○ 玉○
中○ 道○
田○ 喜○
亀○ 敏○
ハ0ワ■ り召9召 OU﹂軽 9βり召 8り召 qUΩ4 7.0
7.5
7.0 49.8
49.6
48.9
207.4
207.9
207.4
13.8
12.9
13.3 93.4
93.8
94.2
3.6
3.9
3.6 5.3
5.0
5.4
10.6
10.1
11.5
51永・佐・子13217・4156・212・7・811・9194・313・815・119・・
61西・智・」28i7・6153・・12・8・1111・3ig4・613・915・・19・4
7.2±:
0.12
50.6±LOl
/
12.9士 0.44
93.9::ヒ
0.21
/
5.2士0.0210・3士0・42
95
鴨
冊如鰐O幽藪僧亀り堕︽=O
第4図
○
●
DH:A・Sの妊婦および非妊婦 血漿蛋白結合率
●
●O
o o
● o
o ●
o
95
〜
o 非妊婦
● 鉦 婦 94
93
硲如婬佃剛切・︽エO
第5図 DHA・Sの妊婦および非妊婦 血漿蛋白結合率
●
●
●
● ●
● 0
o
o 0
0
o
o・非妊婦●・ 疑 婦
30 32 34
血漿蟹白濃度
36
9/d1
38 12 1.4 16
血漿アルブミン濃度
1£9/61
20
24 石
るが,各蛋白濃度について両者を比較すると,DHA・S の蛋白結合率は非妊婦血漿よりも妊婦血漿において増 加している.同様にして,血漿蛋白濃度およびアルブ ミン濃度とDHA・S蛋白結合子との関係を図示したの が第6,7図であり,共に,妊婦例において単位蛋白 量当りのDHA・S結合量が大であることを示してい
る.
者按および小括
妊娠時の血漿蛋白あるいは血清蛋白の濃度,およ び,アルブミン分画比は一般に非妊時より減少してい
第6図 DHA・Sの妊婦および非妊婦 ,血漿蛋白結合量
6.0
8 5
受︒ε
5.6
る りる
㌦ 翫
噌如埋Φ噸簸日ψ︽=O
5,0
■
●
●
o・非妊婦
●・・婿 婦
0
00 ●●
o
OO6 書ε 1
1 4
3.0
3,2 3.4
血漿蛋白濃度 36
9/d1
38
第7図 D:HA・Sの妊婦および非妊婦 血漿アルブミン結合:量
12
劇如埋ハ岬トミト忠直
齢︒ψ・<エO
8
●
o ●
o 非妊婦
● 嫉 婦
O ●O
●
o o
o o
12 葺4 16 18 20
血漿アルブミン舐 4dl
ア ! i
るとされており2の25),私の実験成績でも正常妊婦の血 漿は対照に比較して蛋白総量,アルブミン分画比とも
に低値であった.
このように妊婦血漿では蛋白濃度が減少しており,
むしろDHA・Sの蛋白結合率の減少が予想されたのに もかかわらず,非妊婦血漿に比べて蛋白結合率がやや 増加しているのが認められた(第5,6表).さらに,
個々の例についてその蛋白濃度と結合率との関係を比 較検討すると(第4,5図),DHA・Sの蛋白結合率が 妊婦血漿では増加していることが明らかとなった.ま た,蛋白19あたりのDHA・S結合量も非妊婦に比 較して一般に増加していた.
妊婦血中のステロイドホルモンと蛋白との結合に関 する研究報告は殆んどみあたらないといってもいい が,Slaunwhiteら26)(1959)は妊娠末期婦人の血漿に ついて,Cortisolの蛋白結合率が増加しているのを透 析法で確かあ,蛋白と結合したCortisolは生物学的に 不活性であると論じ,妊婦では血中のCoτtisolが増加 しているのにもかかわらず副腎皮質機能充進症状が現 われないのは,生物学的に不活性の蛋白結合型Corti・
solが多いためであると説いている.上述の如く,私 は妊婦血中DHA・Sの蛋白結合率が増加しているのを 認めたが,そのMechanismについては全く不明であ り,DHA・Sの代謝経路の完全な解明を待つ他はな い.また同時に,血中の他のステロイドならびにイオ ンによる影響,妊婦に特異な血液の物理・化学的性状 の変化なども考慮に入れるべきであろう.一つ方,妊婦 血におけるDHA・Sの蛋白結合率増加の意義について も全く不明であり,推測の域を超えない現状である.
熊谷ら27)(1959)はステロイドホルモンの蛋白結合の 意義について考察し,1)難溶性のステロイドを蛋白
と結合させることによって生体全般に分散させる,
2)血漿蛋白は活性ステロイドホルモンのPoo1の場 と考えられる,3)肝その他の臓器でのステロイドの 代謝性非活性化を防ぐ,4)腎よりの活性ステロイド ホルモンの排泄を防ぐ,5)過剰ステロイドの解毒お よび調節に役立つ,6)蛋白結合能の強弱に応じて合 目的な組織分配を行なう,の6項目をあげている.私 もステロイドー血漿蛋白結合の主な意義として,水に 難溶性のステロイドが血漿蛋白と結合することによっ て多量に身体各部へ運搬され,必要に応じて血漿蛋白 結合型→血中遊離型→組織蛋白結合型と変化して,ス テロイドが各組織へ分配・活用されるのではないかと 推測している.従って,妊娠時,血中DHA・Sが非妊 時に比較して多量に蛋白と結合していることによ.り,
母体各部へのDHA運搬が促進され,また,蛋白と結
合したステロイドは一般に腎から排泄されないと考え られるので,DHA・Sの排泄抑制にも役立っているの ではないかと思われる.
血中ヌ7−KS測定の際には,抽出に先だつて一般に 塩山法による除蛋白操作が加えられるが.Pucheら16)
(1962)は蛋白と結合している17−K:Sもこの二二に除
.去さ.れる可能性について言及し,実際の血中17−KS 値は測定値:より高いのではないかと考えた.そして,
除蛋白操作前にNa2sg4を血漿に添加することによっ て蛋白結合型の17ξKSを遊離させてから抽出し,6 名について平均208臆/dlと他の報告値よりも高い血 中17−KS値を得ている.先に述べたように,妊婦血 中DH:A・S量は非妊婦に比して一般に減少していると され,妊婦副腎からのDHA分泌の減少が推測されて いるが,あるいは,上述の如く妊婦血では蛋白結合型 DHA・S量が増加し,遊離のDHA・Sが減少している ために,除蛋白操作によってより多量のDRA・Sが除 去され,抽出されるDHA・S量が比較的少量であるの かも知れない.
以上,正常非妊婦人を対照に,正常妊婦について DHA・Sの血漿蛋白との結合率を遠心限外濾過法で測 定し,次の如き結論を得た.
1)DHA・Sの正常妊婦血漿蛋白結合率は蛋白濃度 3.1〜3.79/dlの範囲で平均94.1±0・15%であり,対 照に比べて増加している。
2)正常妊婦血漿蛋白あるいは血漿アルブミン単位 量当りのDHA・S結合量は対照より大きい.
3)妊娠時,蛋白と結合して存在する血中DHA・
Sは非三時よりも増加していると思われるが,その Mechanism,意義については不明であり,今後の究明 に待ちたい.
総括および結論
婦人体内におけるDHAの生理的意義,および,妊 娠時の血中DHAの動態ならびにその意義について蛋 白結合の面から検:討を加える目的で,正常婦人,正常 妊婦の血漿蛋白とDHA・Sの結合状態を遠心限外濾過 法によって観察した.
まず,PH 7.4に補正した正常婦入血漿を用いて,
37.5。Cの条件でDHA・S濃度がDHA・S一血漿蛋白結 合に及ぼす影響を,ついで,蛋白濃度がDHA・S一血漿 蛋白結合に及ぼす影響を検討した.さらに正常婦人血 漿を対照にして,DHA・Sの正常妊婦血漿蛋白との結 合率を測定した.
遠心根外濾:過法によれば,血漿の物理・化学的性状 を損ねることなくDHA・Sを蛋白結合分画と非結合分
画とに分けることが可能であり,従って,DHA・S一血 漿蛋白の結合を最も生理的な状態で観察することがで きると思われる.ただ,DHA・Sの定量:に用いたZi夏n mefmam反応では微量測定が不可能であり,血漿に 多量のDHA・Sを添加したため,かなり高いDHA・S 終末濃度で実験を行なわなければならなかった.覧今 後,血中DHA・S一蛋白結合の微妙な動態を観察する ためには,微量測定の可能な放射性同位元素の使用な どもさらに必要であろうと思われる.
得られた結果は次の如くである.
1)正常婦入の血中DHA・Sはその97%前後が血漿 蛋白と結合して存在し,妊娠によってそあ結合率がさ
らに増加するものと思われる.
2)DHA・S一血漿蛋白結合率はDHA・S濃度の変化 によって殆んど影響を受けない.
3)DHA・S一血漿蛋白結合率は蛋白濃度6.09/dl以 上ではほぼ一定であり,蛋白濃度が6.Og/d1以下に減 少すると結合率も減少する.
終始御懇篤な御指導ならびに御校閲を賜った恩師赤須教授に深 く感謝すると共に,貴重な御助言,御支援を賜った西田助教:授に 感謝します.
文 献
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