• 検索結果がありません。

公務福祉労働における労働環境の変化と専門性の揺らぎ

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "公務福祉労働における労働環境の変化と専門性の揺らぎ"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

86

■学位論文内容要旨

公務福祉労働における労働環境の変化と専門性の揺らぎ

桑田 久仁子(2018 年度修了)

〈研究の背景と目的〉

 この間急増してきている福祉サービス事業所の中で,

事業実践のサービス水準については,様々な問題が指摘 されている。また,政策主体の動向には福祉労働の専門 性を軽視する傾向がある。筆者は,福祉労働の向上に向 けての展望を切り開きたいと考えている。社会福祉基礎 構造改革後の福祉事業の民営化・市場化が,福祉労働の 水準低下の大きな要因としていわれている。公務労働は かつて,倫理性に誘導されることなく相対的には安定し た労働条件の中で福祉労働水準をリードしてきた。公務 においての福祉労働も,現時点においてはその位置を失 われつつある。ところが,公務労働に特化した先行研究 が少ない。そこで筆者は,公務労働の現場に着目し,公 務における社会福祉労働の変遷を実証的に検証する。と りわけ政令指定都市は,先進的な水準をリードしてきた 位置にあった。その労働環境の変化に着目し,現状分析 する。

〈研究の着眼点〉

 福祉労働の専門性の維持・継承のために必要なことは 何かを考えてみる。専門性向上が経験とそれに伴う研修 に裏付けられているとすれば,福祉分野の賃金水準はそ れにふさわしいのもではない。介護報酬などの公定価格 の枠組みの中で決定される民間社会福祉法人や営利法人 における賃金水準は,制度上の価格改変に規定される。

これとは異なって,公務における福祉労働者の賃金水準 は,自治体ごとの給与条例に定められ,比較的高く安定

したものとなっている。その条件に支えられている公務 労働において,福祉の専門性は磨き続けられているのだ ろうか。かつて革新自治体として権利としての福祉実現 を強く先導した政令指定都市の現状について,福祉の現 場に勤める公務労働者へのヒアリングを通して明らかに しようと試みる。それを通じて福祉労働の専門性を高め る条件を導くことを目的とする。

〈先行研究〉

 先行研究では,① 1980 年代初頭の臨調「行革」まで,

公務労働がまだ日本の福祉労働を牽引してきた時代,

②臨調「行革」から社会福祉基礎構造改革まで,臨調「行 革」が公務としての福祉を切り離してしまったことへの 批判に焦点が集まった時代,③社会福祉基礎構造改革 後,営利企業の参入による福祉事業の民営化が更に進む 時代,を背景に専門性の位置づけをみた。時代背景の違 いで,専門性の論証は変化していく。

 さらには「福祉労働の専門性とは」という,専門性の 本質の議論に触れる。

〈実証研究〉

 かつて福祉労働を牽引してきたといわれる政令指定都 市へのヒアリングで,公務労働の実態を検証する。ヒア リングの対象者は,名古屋市職員労働組合前書記長・児 童福祉センター職員,名古屋市職員労働組合福祉支部元 副支部長・福祉職経験者,京都市元職員・児童相談所再 任用職員,京都市児童相談所休職中・労働組合副中央執 人間発達学研究 第 10 号

86―87 2019 年3月

(2)

87

公務福祉労働における労働環境の変化と専門性の揺らぎ

行委員長,横浜市従業員労働組合組織部長・生活保護ケー スワーカーである。質問項目は以下である。

①保育所を除く直営施設を保有の有無

② 児童相談所(以下児相),生活保護(以下生保)のケー スワーカー(以下 CW)の採用試験区分

③児相,生保の CW の経験年数   1 )同じ職場への配置年数   2 )配属年数分布

  3 )年齢分布

  4 )非正規職員配置の有無

④児相,生保の担当の平均ケース数

⑤研修の有無

⑥社会福祉士の資格取得

⑦技能労務職員(現業職員)が福祉職場に残っているか

⑧公私間格差是正のいわゆる民調費制度の有無

⑨  2020 年から施行予定の会計年度任用職員制度におけ る,交渉の進捗状況

⑩要介護認定業務の状況

⑪施設の民間委託による公務(労働)への影響

〈考察〉

 名古屋市の福祉専門職採用は試験区分だけのもので,

実際の配置は専門性を考慮していない。京都市は 10 名 程度の福祉専門職採用枠はあるが,問題は採用後の配置 転換で,新規採用後ほとんどの職員が 2 〜 3 年で他部署 への異動となる。これは,本庁の人事が福祉の現場での 継続勤務への配慮が無く,2 〜 3 年で異動というのが慣 例化していることが背景にある。また新人職員自身も,

2 〜 3 年で異動であるということを予期して仕事に従事 するため,モチベーションも維持できない。そのため,

経験者からの専門性の継承が実現しないことと,その後 の短期間の配置転換で専門性の継続に繋がる考慮はない。

 横浜市においては,福祉専門職採用で福祉職場が構成 されており,配置も福祉分野の中だけでの異動で他都市

と大きく違うところである。また,職員を育てるという 点でも新規職員育成制度があり,先輩職員が新規採用職 員についてサポートするというトレーナー制度があるの も特徴的である。専門職採用が実現しても,その後いか に専門性を維持・継続でき継承できるような体制が整っ ているかにかかっているという。それはその後の配置や 研修制度による。

 比較的労働条件の安定した公務福祉労働においても,

専門性の維持・継続は担保されているとはいえない。先 行研究とヒアリング結果を踏まえて,公務福祉労働にお ける福祉の専門性の課題をまとめてみると次のような問 題を指摘することができる。①採用と配置,異動におけ る配慮の欠落,②技能労働職の差別の残存,③非正規職 員の増加,会計年度任用職員制度に見る固定化,④監査 能力の後退,⑤事業を切り離した事による,住民生活実 態からの乖離〜政策立案力の低下等。①の背景には依然 として自治体人事部局においての「日本型福祉社会論」

的認識が,自治体職員はゼネラリストであるべきとの信 念が残っていることがある。生活保護や児童相談の業務 負担の増加は,専門職制を敷いていない場合には職員の 定着を困難にし,②の問題は戦前からの公務員制度の差 別的体系の残存である。①②を兼ね合わせてみれば,多 くの自治体首長や人事部局は,福祉サービスの直接処遇 において,発達的視点を持った専門的支援ではなく,家 事労働を置き換えたお世話と捉えていると指摘できる。

③については地方行革の影響によって,正規職員配置が 制約される中での行政需要への対応である。その結果,

福祉部局において生活保護や児童相談への対応職員を増 員せざるを得ない事態が,直営施設の委託を促進すると いう矛盾を生んでいる。④自治体が直営施設を持たない ことによって,現場業務を体験したことがない公務員が 現場を監査することになる。書類上の指導はできても,

実践の専門的アドバイスが困難になる。⑤さらに福祉 サービス利用者,住民の生活実態に直接触れることが乏 しくなれば,住民本位の政策立案は自治体幹部職員の能 力から欠落していくことになる。

参照

関連したドキュメント

制度の履行状況は比較的よく,近年弱体化が指摘さ

2%)。このアンケート調査の対象となっ

労働力の価値と労働市゜場   (松井)

指導観 ○

指導観 ○

722/September 2020 3 合的な対応の必要性を主張する。介護福祉士は,高齢

●BOOK REVIEWS 本章によれば, 離職した労働者は前職と同一の産業内 で職探しをする傾向が強いため,

自己の技能を生かして労働生活をおくる場で