愛知淑徳大学論集 一コミュニケーション学部・心理学研究科篇一 第9号 2009 89−102
「若年層の友人関係における携帯電話利用」研究
一その概観と大学生の経年的調査による検討一
新美明夫※1
1.はじめに
1995年前後からの若年層への急激な携帯電話の普及は,その特異な利用状況が注目を浴び,とく にその人間関係への否定的影響がさまざまに取り上げられ,社会問題化することとなった。松田
(2006)はこれらの言説を「人間関係希薄化論」と呼び,2種類の「社会問題」として分類してい る。すなわち,「他人との関わり合いの忌避傾向が見られることへの憂慮」と「若者が『匿名の人 間関係』を構築していることへの違和感」である。いずれも,その根底に「新しい」メディアによっ て「伝統的な人間関係」が失われつつあることへの懸念があると松田(2006)は指摘している。こ れらの言説は携帯電話普及以前の若年層へのポケットベル(以下,ポケベルと呼ぶ)の普及期から あるものであり,その後の携帯電話利用に関する実証的研究は,まずこの人間関係希薄化論に対す る批判から始まった。批判の論点は二っあり,一っは,そもそも若年層の人間関係は希薄になって いない,とする人間関係希薄化論そのものの前提を否定するものである。もう一っは,人間関係の 様々な指標を取り上げて,携帯電話利用が与える人間関係への悪影響を否定するものである。これ らの実証的研究を踏まえた若年層の友人関係と携帯電話利用に関する理論化は,大別すると二っの 方向性があるように思われる。一っは,一見希薄に見える若年層の人間関係は,実は選択的である のだという方向である。その関係は必ずしも「浅い」ものではなく,携帯電話というッールが,そ のような関係性と親和的であると主張している。今ひとつは,希薄化とは対照的に,若年層は携帯 電話の特性を利用しながら,むしろ濃密な人間関係を形成しているというものである。この二っの 方向性をもった検証が,この10年間ほどの間に積み重ねられてきた。
著者は大学における講義時間を利用して,2001年度より大学2年生を対象に毎年ほぼ同じ時期に 携帯電話利用調査 2(以後,「大学生調査」と呼ぶ)を行ってきた。本稿では,この10年間ほどの 間に行われた上記に述べたようなさまざまな研究の概観を試みるが,著者の収集した経年的データ
とっきあわせながら検討することによって,「若年層の友人関係における携帯電話利用」研究の今 後の方向性への示唆を得ようとするものである。
2.人間関係希薄化論
松田(2006)は,若者の人間関係が浅く表層的になってきているという言説が1990年代の前半か
※1 コミュニケーション心理学科
※2 2001年から2008年にかけて,毎年5月から6月に行った(2001年のみ10月)。対象者数は毎年120人前後
(102〜161人),男女比は8年間全体で約1:4であった
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ら多くみられるようになったと述べている。そして,この時期に若者の間に,ポケベル,PHS,携 帯電話が次々と普及したため,.若者の人間関係とモパイル・メディアが関連づけて取り上げられる ことが多くなったと言う。代表的な言説として,「ポケベルやケータイはいっでも電源を切ること ができる。これは人間関係の葛藤を避けようとする若者たちに適しているのだ。」「若者の人間関係 は,メディアを通じたコミュニケーションばかりで維持されており,表面的である。」「孤独である がゆえに,若者たちはケータイで常にっながりを求めている。」という例を挙げている。
人間関係希薄化論の典型として多くの研究者から引用されているものとして大平(1995)の「や さしさの精神病理」があげられる。これはポケベル全盛期,携帯電話が普及期の頃の著作であるが,
旧来のやさしさが「相手の気持ちを察する」のに対し,近年の若者のやさしさは「相手の気持ちに 立ち入らない」所が異なり(p.69),ポケベルは(近年の若者のように)「ITやさしいIt人向きの交 信手段」であり,「ウォームラインとでも呼びうるようなもの」(p.169)であると述べている。大 平はさらに,ポケベルは「強い絆を求めるのには,はなはだ向かない道具」であり,「強い絆のた めには携帯電話が使われ」ると述べており(p.90),ポケベルと携帯電話の道具としての違いを強 調している。しかし,この大平の著作後,携帯電話は若年層に急速に普及し,「望まない通話を徹 底して避けられる番通選択という方法を背景として,同じ価値観,気の合う仲間同士を齪齪}を来さ ないかたちで繋ぎ,対話させる」ことで「ウォームライン」に近づいていく,と武田(2002)が述 べているように(p.23),携帯電話と若年層の人間関係にっいても,大平(1995)の主張は引き継 がれていった。
大平(1995)以外の著作で人間関係希薄化論を述べたものとして,よく引用されるものには,中 島(1991)「コミュニケーション不全症候群」,小此木(2000)「ケータイ・ネット人間の精神分析一 少年も大人も引きこもりの時代」などがある。また最近の著作としては松田(2006)が,正高
(2003)の「ケータイを持ったサル」を挙げている。
3.希薄化の否定
若年層における人間関係希薄化論に対して,実証的な立場から橋元(1998,2005)は組織的な批
判を行った。橋元は,親しい友人の有無や友人数などに関する各種の調査データを引用し,青少年
の対人関係の様相が変化してきているかどうかを検討している。彼らは1970年代以降におけるこれ
らの指標の変化を検討したが,大きな変化は見られず,むしろ親友がいる比率や友人数は経年的に
増加している傾向すらあると指摘している。また,彼らが2001年に行った調査の分析結果として年
齢層別に見た知人,友人の数を挙げているが,年齢層が低いほど知人,友人数は多く(最多の10代
で,知人6.1人,友人5.5人),少なくとも若者自身の主観的意識としては彼らの友人数は少ないと
は言えないと述べている。著者も橋元(2005)と同様の調査を経年的に行っているが,その値はこ
れらよりも大きな値を示しており,知人数は7,8人,友人数は6,7人を示しており,やや減少
傾向にあるものの,この8年間で大きな変化はない(図1参照)。さらに橋元(2005)は,友人関
係における量的な変化のみでなく,友人とのっきあい方に関する1970年から1995年の調査データの
検討もしており,大きな変化はないと結論している。これらの結果を踏まえて橋元(2005)は,繰
り返し人間関係希薄化論が出てくる要因としてコーホート効果と年齢層効果の混同,分析データの
「若年層の友人関係における携帯電話利用」研究(新美明夫)
10
8
人6 数4
2
0
■一一●一一1・ttt−t.
一●一知人 ・橿…友人
2001年 2002年 2003年 2004年 20◎5年 2006年 2007年 2008年 調 査 年 度
図1 大学生調査における知人・友人数の経年的変化 偏り,マスメディアの影響,をあげ,この主張に根拠のないことを指摘している。
橋元(2005)以外にも同様の検討はなされており,武内(2004)は,1980,1992,2003年に高校 生を対象として行われたベネッセの調査結果から,友達との関係に満足している者の比率は1980年 に比べて1992,2003年は増加しており,8割を超す高校生が満足していることを示している。辻
(2006)は1977年から2003年まで行われた世界青年意識調査の調査結果をあげ,若者は年々友人関 係にも恵まれ,かっ満足度も上昇してきた,と述べている。このように,少なくとも経年的な調査 結果からは,近年,若年層の友人関係が希薄化しているという証拠は見られない。
一方で,中村(2003)は2001年にモバイルコミュニケーション研究会が12〜69歳を対象として行っ た調査結果から,希薄な友人関係を問う「友人であっても,互いのプライベートには深入りしたく ない」など3っの質問に対する選択率が年齢層が高くなるほど多くなることを示し,表層的なつき あいは,むしろ年長者ほど多いことを指摘している。
4.人間関係希薄化と携帯電話利用との関連の否定
前項では,若年層の人間関係,とくに友人関係が希薄化していることを示す実証データがないこ とをみてきた。しかし,それは必ずしも,若年層の中での携帯電話利用と希薄な人間関係との関連 を否定するものではない。この関連性についても繰り返し検討がなされてきた。
人間関係希薄化論が,当初はそのころのモバイルメディアであるポケットベルとの関連を取り上 げたことから,それに対する反証もポケットベルを採りあげたものであったが(中村,1997;橋本,
1998),ここでは,携帯電話普及以降に人間関係との関連を検討した研究を取り上げる。
橋本(1998)は「同性の一一tsの親友とは何も言わないでもわかりあえる」などの一連の項目から
構成される「友人関係の深さスケール」を作成して,12歳から29歳の青少年に尋ねたところ,携帯
電話利用者(Mニ1.33)は,非利用者(M=0.71)よりも有意に深いっきあいを好むことがわかっ
たと報告している。橋本(2005)は1996年に行われたこの調査の結果をうけて,2001年にも同様の
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趣旨で調査を行っている。その結果,メール利用も含む携帯電話に関して「よく利用する人ほど,
友人との深いっきあいを望み,人付き合いも上手」と結論し,社交的でコミュニケーションも活発 な人が,コミュニケーション・ッールとしての携帯電話・携帯メールをよく使うと解釈している。
辻・三上(2001)は大学生を対象として調査を行い,携帯メールの利用頻度と友人関係の各種指 標との相関を検討している。その結果,友人数や自己開示性,「友達づきあいで重要なのは自分の 本音を話すこと」など,密なっきあいを好む傾向を測定する項目とは正の相関が,孤独感や対人不 安とは負の相関が見られた。これらの結果を総括して,対人的な積極性が携帯メールの活発な利用 と関係している,と結論している。携帯通話の利用頻度との関連についても同時に検討されている が,携帯メールと同様に友人数や自己開示性との間に正の相関が見出されている。
松田(2001a)も大学生を対象として調査を行い,携帯電話の通話ヘビーユーザ,メールヘビー ユーザの特徴を抽出している。その結果,いずれのヘビーユーザもライトユーザに比べて,有意に 友人の数が多く,恋人がいる比率が高く,「社交的な集まりによくでかける」「自分は他人に好かれ
るほうだ」「人間関係は財産」「いっも恋人と一緒にいたい」などの社交性を表す項目に対する肯定 的回答が多いことがわかった。これらの結果から「社交性の高さ」が通話,携帯メールのヘビーユー ザの特徴であると結論している。
中村(2003)は大学生を対象として,孤独感と携帯メール利用との関連を検討している。その結 果,メール利用が多いほど,友人との活動,友人数が多く,孤独感が少ないことがわかった。ただ し一方で孤独恐怖が強いほどメール利用が多いことを指摘し,学生が卒業して社会人になりライフ ステージ的に濃密な友人関係が維持できなくなった時に,深い孤独感に悩まされる可能性を指摘し
ている。
五十嵐・吉田(2003)は,大学入学というライフ・ステージの移行時に注目して,携帯メール利 用と孤独感の関連について検討した。その結果,携帯メールのもっ対人緊張の低さによって,大学 新入生が入学後に新たに知り合った友人へ携帯メールを送信しやすくなる結果,間接的に孤独感が 低減される可能性を示している。
古谷・坂田(2006)は,友人との物理的距離に注目し,近距離友人では,携帯メールによるコミュ ニケーションが対面と組み合わされることで関係維持に繋がること,対面の困難な遠距離友人とは,
近距離友人ほどの関係満足感は得られないものの,携帯電話や携帯メールによるコミュニケーショ ンによって関係の維持を図っていると指摘している。
ここまで見てきたように,若年層の人間関係が全体として希薄化していることも,携帯電話利用 と人間関係の希薄化との関連も実証的な調査データとしては否定されてきている。しかし一方で,
関係を取り結ぶ手段としての携帯電話はその重要性をますます増してきているのであり,多くの研
究がなされてきた。その中で若年層の人間関係,とくに友人関係における携帯電話利用に関する研
究には,第1項で指摘したようにおもに二つの流れがあるように思われる。一つは,一見希薄に見
える関係は,実は選択的になったのだというものである。今ひとつは,希薄化とは逆に濃密な関係
の維持に携帯電話は利用されているというものである。次項から,これら二っの研究の流れを順に
検討する。
「若年層の友人関係における携帯電話利用」研究(新美明夫)
5.選択的な人間関係と携帯電話利用
松田(2000)は,人間関係希薄化論の主張する若者の「広いが浅い」友人関係を,「選択的」と 捉えなおす見方を提出している。社会が都市化して行くにしたがって,「接触可能な人口の増大」
がおこる。必然的に,人間関係は選択的にならざるを得ないのであって,このような関係性は若者 に限ったものではない,と述べている。
このような選択的関係論を前提として,松田(2001b)は,若年層で広く行われている「番通選 択」一電話がかかってきた時に,端末番号表示を見てから,電話に答えるかどうかを決める行為一 を,年齢が若いほど携帯電話の電話帳(メモリダイヤル)への登録数が多い事実と合わせて取り上 げ,携帯電話は自分が接触を持ちたい選んだ相手に直接繋がるための手段であるだけでなく,誰が 自分へ接触しようとしているかを事前に知り,「電話に出ない」という消極的な手段によって,今 自分が接触を持っ相手を選ぶ手段ともなっている,と述べている。番通選択によって可能となる,
今いる場所や現在所属している集団にとらわれず,「好きな相手」「気の合う相手」とつながるこの ような関係性は「広い一狭い」「深い一浅い」という軸で捉えるより,「選択的」と捉える方が適切 であると主張している(松田,2000)。
岡田・松田・羽渕(2000)はこの主張を前提としながら,4っの私立大学の学生を対象にして調 査を行い,携帯電話のヘビーユーザほど社交性が高く,携帯電話利用により「人と直接会うことが 増えた」と感じていること,また「っきあう相手」をより選択する傾向がある,と結論している。
また,大学生の間には「人間関係を大事にしなければいけない」という志向と「人に煩わされたく ない」という志向が共在し,ヘビーユーザほど社交的であるが故に広がる対人関係を,携帯電話に 付属する機能を利用して,常に選択する必要がある,と述べている。
辻(1999a)は「フリッパー志向」という概念を考案して,松田と類似の議論をしている。彼は,
1990年代に入って出現してきた「〜っていうか」「〜とか」などの意味論的に無内容な若者言葉が,
語用論的にはコミュニケーション上で設定される対人関係への参与を弱める働きをもっていること に注目している。さらに辻(1999a)は実証的なデータを引用しながら,このような若者言葉の出 現を「対人関係の希薄化」と考えることをミスリーディングであるとして否定し,対人関係に強く 拘束されたくない,対人関係のオンオフを容易に保ちたいという性向の表れであると主張している。
そして場面場面に合わせて気軽にスイッチを切り替えられるこのような対人関係のあり方を「ブリッ パー志向」と呼んでいる。さらにこのような部分的な対人関係は,従来的な同心円状の自我構造を 前提とすると,表層的な希薄化した対人関係を想起させるが,複数の中心を持ち,複数の円が緩や かに束ねられた自我構造を想定すれば,それぞれの対人関係は部分的だが深い結びつきが可能であ るとしている。辻(1999b)では首都圏の学生250人を対象として調査を行い,携帯電話の通話頻 度が友人数(広さ)や友人関係の深さと正の相関をもっとともに,このようなフリッパー志向とも 正の相関をもっことを示し,携帯電話が対人的フリッパー志向に親和性の高いメディアであると述 べている。
人間関係希薄化論が従来の「深い一浅い」ないしは「濃い一薄い」という暗黙の基準に従って若 年層の友人関係を否定的に評価するのに対して,上記のような松田や辻の主張は,関係の選択ない
しは切り替えという観点から肯定的に捉え直そうとするところに特徴がある。
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さて,三宅(2005)が関係選択論としてまとめたこのような松田や辻の主張にっいても,実証的 な検討がなされてきた。モバイルコミュニケーション研究会が2001年に行った調査(データの概要 は土橋(2003)を参照のこと)では,年齢が高くなるほど人間関係が選択的になることが報告され ており,このような関係は若年層に特有のものではなかった(中村,2003)。また同時に,携帯電 話利用との関係が検討されたが,通話とは関連が見られたものの,携帯メールとは関係が見られな
かった。
フリッパー志向と携帯電話利用を検討した辻・三上(2001)や辻(2003)でも類似の報告がされ ており,人間関係切り替え志向は通話数とは関係があったが,メール利用とは関係がなかったとし ている。したがって,友人関係の切り替え志向は,携帯通話とは正の相関が認められているが,携 帯メールの場合は,対人的コミュニケーション・チャンネルを切り替える「リモコン」としての役 割は薄いようだ,と結論している(辻・三上,2001)。
これらの実証的な研究では通話利用と選択的人間関係のある程度の関連が指摘されたが,一方で 羽渕(2003)は,携帯電話の通話利用は従来的な「つきあい」のサポートが中心であり,選択的人 間関係との関連に疑問を呈している。
ところで,関係選択論の前提としては,若年層が大量に電話番号やアドレス情報をメモリ(電話 帳)に貯め込んでいること,そして発信者番号通知を利用して番通選択をすることが挙げられてい る。松田(2001b,2002)は,これらの携帯電話利用には年齢効果や結婚効果が見られること,年 齢を統制して分析すると既婚男女には番通選択は少なく,連絡を取る相手は,家族を除くと男性で は仕事関係が,女性では仕事関係以外の友人・知人関係が多いことを報告している。松田はこのよ うな携帯電話利用の違いを,ジェンダーの観点から,それぞれの性に割り当てられた社会的な「役 割」を果たすために携帯電話が利用されているからだと説明している。新美・松尾・永田(2005)
は,20代,30代の女性を調査対象としてこの点を検討し,既婚女性よりも未婚女性の方が電話帳の 登録数が多く,番通選択の実行率は高いものの,年齢が低い層ほど未・既婚間の差は小さく,学生 時代から携帯電話を利用している年齢層では,結婚しても番通選択をやめない可能性を示唆してい
る。
著者の大学生調査では,携帯電話の電話帳への登録や番通選択の実行の実態にっいて知るために,
共通の質問を用いて調査を継続して行っている。その結果を図2,3に示した。図2は電話帳の登 録数を示しているが,登録数は年々増加の傾向を示し,2008年度の調査では松田(2001b,2002)
の独身男女の40人前後の数値を大きく越える100人近くまで達している。
次に図3に示したように番通選択は8年間を通じて大きな変化はない。「よくある」「時々ある」
をあわせて2割前後,「たまにある」をさらに加えた実行率は約6割と,松田(2001b,2002)の独 身男女の調査結果と大差はない。松田(2002)は,(若年層ほど)メモリ登録数(電話帳登録数)
が増え,その結果「番通選択」が必要となる,と主張している。それに従えば,登録数の増加とと
もに番通選択の実行率は高くなるはずである。しかし図3では電話帳登録数は年々増加しているの
に対し,それに見合うほどの番通選択の増加は見られず,むしろ変化がほとんどないことがわかっ
た。これらの結果から,登録数の増加は必ずしも番通選択の実行にっながるとはいえず,登録数の
増加の内容をも検討する必要があることがわかった。松田(2001b,2002)は登録した相手を,連
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120
100
80
60
40
20
0︶
人 ︵
2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 調 査 年 度
図2 大学生■査における携帯電話の電話帳の登録数
100%
80%
60%
40%
20%
ない 蓋たまにある■時々ある■よくある
0%
2001年2002年2003年2004年2005年2006年2007年2008年 調 査 年 度
図3 大学生翻査における番通選択の実行状況
絡する頻度に応じて分類した結果を報告しているが,大学生調査でも同様の分類をしている。その 結果,「よく連絡する相手」は一貫して10人前後,「たまに連絡する相手」をあわせても30人前後と
この8年間であまり変化はなく,松田(2001b,2002)の独身男女の調査結果とそれほど違いのない 値を示している。すなわち,この8年間の継続した登録数の増加の内容としては「ほとんど連絡し ない相手」のみが増えたことがわかる。
一方で,携帯電話の所有時期は年々低年齢化の一途をたどり,著者の大学生調査では,2001年に
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は大学2年時点での平均所有期間は2年10か月であったが,2008年では4年10か月と大幅に増加して いる。平均的な所有開始時期が高校2年時から,中学3年時まで低年齢化したことになる。したがっ てこの8年間における電話帳登録数の増加は,単に所有期間の長期化に伴って増加したのであると も考えられる。そこで,所有期間と電話帳登録数の相関係数を算出したところ.272と正の相関を 示し,その可能性を支持する結果となった。電話帳には所有期間の長さに比例すると考えられる量 の新たに出会う相手の情報が蓄積されていくこと,その情報は活用されることなく単に蓄積されて いるだけのことが多く,「番通選択」の増加には繋がらないこと,がここから示唆される。すなわ ち,所有期間の拡大に応じて,その時々に知り合った相手の登録が蓄積されているのであり,必ず しも大学生となった現在において連絡しあう相手ではない者が多いことになる。連絡をすることも されることもない相手を大量に登録しておくことは無駄に思えるが,現在の携帯電話はそれを可能 にするメモリ容量と検索能力をもっているということであろう。
先にあげた新美・松尾・永田(2005)は,参考までに着信時に発信者が不明な場合(すなわち電 話帳に登録されていない場合),応答を拒否することがあるかを尋ねた.その結果,番通選択の実 行状況と比較すると,「よくある」「時々ある」の比率が明らかに多く,あわせて6割から7割の実 行率であった。著者の大学生調査でも同様の設問をしており,その結果を図4に示した。「よくあ
る」「時々ある」を会わせた比率は漸増傾向を示しているものの,6割〜8割前後と,新美・松尾・
永田(2005)の対象とした20代,30代の女性と大差はなかった。登録外の相手への応答を拒否する ことは,若年層に限らずもはや一般的な行動であるといえよう。
以上のような結果から,場合により応答を拒否する行動は,(相手が明確な番通選択行動に限っ てみても)若年層に特有な行動とは言えず,電話帳に多くの情報を貯め込む行動は,番通選択を可 能にすると同時に,そもそも自分のパーソナルネットワークに所属するか否かの第一の関門として 機能していると考えられる。
﹇眺
180%
60%
40%
20%
ない 二たまにある■融ある■よくある
0%
2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 調 査 年 度
図4 相手不明時の応答拒否実行状況
「若年層の友人関係における携帯電話利用」研究(新美明夫)
6.携帯電話を利用した濃密な人間関係
濃密な人間関係の維持に携帯電話が利用されているという見解が最初に提示されたのは仲島・姫 野・吉井(1999)の「フルタイム・インティメート・コミュニティ」の概念であろう。吉井(1993)
は固定電話によって結びつけられている社会集団を、アロンソンのpsychological neighborhood の概念を拡張して,親密度の高い順に,心理的家族,心理的近隣,心理的コミュニティと名付け,
それらが三層構造をなしたメディア・コミュニティを形成していることを指摘した。「フルタイム・
インティメート・コミュニティ」は,このメディア・コミュニティの発想を携帯電話に適用したも のであり,その利用によって,ごく親しい友人や彼氏・彼女とそれ以外という,友人を2層分化さ せる機能を果たしたと主張した。都市化の中で匿名性を獲得し,ムラ的コミュニティの呪縛を逃れ た都会人が,孤独感や疎外感を和らげるために,特別に親しく,普段からよく会っている仲間との 絆を一層強め,心理的には24時間一緒にいるような気持ちになれる「フルタイム・インティメート・
コミュニティ」を創造しようとしている,と考えたのである。
吉井(2000)はその後,「フルタイム・インティメート・コミュニティ」を「携帯コミュニティ」
と言い換え,インターネット上で形成される電子コミュニティと比較して論じている。インターネッ トが創り出す電子コミュニティは見知らぬ人を多く含んだ,新たな人間関係を求める,外向きで拡 張的,関心限定的なコミュニティであるのに対して,携帯電話が創り出すコミュニティは,親密な 仲間からなる,よりトータルな関係を模索する内向きのコミュニティだ,と述べている。宮田
(2005)は,PCメール利用者と携帯メール利用者のもっ社会的ネットワークを調査し, PCメール の利用が弱い紐帯も含めたネットワークの規模や多様性を維持するのに役立っていること,携帯メー ルは近くにいてサポートを提供してくれるような強い紐帯をっなげる役割を果たしていることを指 摘し,吉井の見解を支持している(p.49)。
この携帯電話利用によって少数の友人間で形成される濃密な人間関係を,携帯電話のもっ人間関 係へのサポート機能に注目して検討し,「テレ・コクーン」という概念を提起したのが羽渕(2006)
である。携帯電話のもっサポート機能には①出会いのサポート②関係維持のサポート③関係選択の サポートがあり,①の出会いのサポート機能が見知らぬ人との接触可能性を増大させているといっ た想定をすることは可能であり,都市化の議論を援用することができる。しかし,②関係維持のサ ポート,③関係選択のサポートは,匿名的ではない共同体的な親密性を強化するためのケータイ利 用という仮説を立てることが可能であり,都市化の文脈では説明不可能な現象が多く現れると述べ ている。羽渕は,これらの携帯電話の機能を前提として,親密な他者への選択可能性が増大したこ とで自身の代替可能性も増大し,そこから生起する不安感が既存の人間関係への依存を生むという 仮説を提示している。このような文脈の中で,維持されている既存の人間関係をべ一スとして,地 理的・時間的制約を離れ,人が絶え間なくメンテナンスを行い続ける親密圏を羽渕はテレ・コクー
ン(telecocoon)と呼んでいる。
フルタイム・インティメート・コミュニティやテレ・コクーンという用語で表される,携帯電話
を利用した濃密な友人関係にっいても,実証的な検討がなされてきた。中村(2001)は,大学生の
携帯メールの伝達内容を検討して,フルタイム・インティメート・コミュニティのような人間関係
は,音声(通話)ではなく,携帯メールによって実現されていると述べている。石井(2003)は,
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高校生・大学生を対象にして「友達とのつきあい方」の因子分析で得られた「いっも一緒のっきあ い」の傾向の強い者が携帯電話利用回数が多く,電話やメールで連絡してくる友達が多いことを確 認し,このグループに属する者がフルタイム・インティメート・コミュニティを成立させていると して,日常生活との関係を検討している。泊(2004)は大学生を調査対象として,携帯メールでお 互いの相談をすることと友人関係の活動的側面との関連の高さを見出し,現代大学生は孤独感や疎 外感を和らげるために,特別に親しく,普段からよく会っている仲間との絆をいっそう強め,「フ ルタイム・インティメート・コミュニティ」を創造しようとしていると解釈している。
伊藤・岡部(2006)は,ケータイ・ヘビーユーザーへのインタビューから,彼らが常にたいてい 2〜5人,多くて10人の親しい人とメッセージをやりとりしていること,そして,ごく少数の友人 や恋人などとは,ケータイ・メールを送り合うことを通して,まるで24時間一緒に行動しているか のような関係を構築していることを見出している。このような関係がフルタイム・インティメート・
コミュニティ,もしくはテレ・コクーンと呼ばれるものであるとし,携帯メールの頻度が圧倒的に 多い10代のカップルの例などを挙げている。
7.若年層の携帯電話利用は活発なのか:今後の展望に代えて
吉井(2001)は携帯電話が「利用者の目的に応じて柔軟に使えるメディア」であるという点に注 目し,第2項で取り上げたような「深くはないが誰とでもっきあう表層的人間関係」を作ることも,
第5項で取り上げたような「いろいろな集団に多重帰属する多元的人間関係」を構築することも,
第6項で取り上げたような「少数の親密な仲間集団」を作ることも可能であるし,実際それぞれの 目的のために,携帯電話を駆使している若者が存在していることを指摘している。これら3種類の 友人関係を志向する若者像はそれぞれかなり異なるが,共通するのはそれぞれの友人関係を維持す
るために携帯電話を頻繁に利用している姿である。これを反映して,若年層では通話利用に比べメー ル利用が圧倒的に多いこと,他の年齢層に比べメールの利用頻度が圧倒的に多いことが報告されて きた(イプシマーケティング研究所,2004)。
15
0 5
1
日あたりの回数
0
〒 ee●・・メール発信 t…M・… ■±・・メール受信
2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 調 査 年 度
図5 大学生調査における携帯電話の利用回数(中央値:回数/日)
「若年層の友人関係における携帯電話利用」研究(新美明夫)
若年層の携帯電話利用,とくに携帯メールの利用頻度が多いことは継続して注目をされてきてお り,実証的な研究ではたいていその結果が報告されてきている。しかし,実際の利用頻度は個人差 が非常に大きく,平均値で代表させることが困難なこと,度数分布で報告する場合には,その階級 の区切りが共通でないことなどから,各種の報告から経年的な推移を検討することは難しい。参考 までに,著者の大学生調査の経年データを中央値を使って示したのが図5である。
図5からは,この8年間一貫して通話利用よりメール利用の方が多いこと,通話利用は受発信と も中央値は1回であることがわかる。一方でメールの利用回数は送受信とも5回から10回の間を上 下しており,一貫した傾向はここからは読み取れない。しかし,この間のメール送信数の最大値が 40通から160通であることを考えると,平均的な大学2年生のメール頻度はそれほど多くないので はなかろうか。
ところで,若年層の携帯電話利用に関する研究は,実際には大学生を対象とした者が多く,高校 生以下を対象としたものは少ない(小林・池田,2007)。携帯電話の普及がすでに高校生の段階で ほぼ100%近くになっていること,高校から大学にかけてはその友人関係において大きな変化が予 測されること,などから,携帯電話利用にっいても高校から大学にかけて変化が予測されるが,そ の発達的変化に注目して行われた研究は非常に少ない(松尾,2009)。ここではその少ない例のひ とっである内閣府の2007年3月に行われた「第5回情報化社会と青少年に関する意識調査」(内閣府,
■11回以上團61・回_1−5回二それ以下
小学生女子 中学生女子 高校生女子
2001年度女子 2002年度女子 2003年度女子 2004年度女子 2005年度女子 2006年度女子 2007年度女子 2008年度女子
0% 20% 40% 6096 図6 若年層の一日あたり携帯メール送信数
80% 100%
愛知淑徳大学論集 一コミュニケーション学部・心理学研究科篇一 第9号
2007)のデータと著者の大学生調査のデータを比較することで,高校生以下と大学生のメール利用 の比較を試みてみたい。内閣府の調査データは男女別に報告されているため,著者のデータでは比 較的多く得られている女子のデータのみを比較して図6に示した。図6には一日あたりの携帯メー ル送信数の度数分布が示されている。
図6を見ると1日あたりのメール送信は,内閣府のデータでは申学生・高校生女子でもっとも頻 繁であり,1日に11回以上の者が6割を超している。これに対して著者の大学生調査では増減があ るにせよ,2割から4割程度の分布を示しており,明らかに中学生女子,高校生女子よりも頻度が低 い。この結果からは,高校から大学へのライフ・ステージの移行により,携帯メール利用頻度に大 きな変化が起こる可能性が示唆されている。ちなみに著者の大学2年生を対象にした2008年度の調 査では,高校時代と現在とで携帯電話利用にっいて変化があったかを尋ねている。その結果を図7 に示した。
通話
メール
とても増えた 少し増えた
蕊=.巳
変わらない 少し減った
!1;i] とても減った
L持っていなかった
0% 20% 40% 60% 80% †00%
図7 高校時代と現在との利用頻度の変化への認知(2008年度大学生調査)
図7から,高校時代から大学時代にかけて,通話は増えたと認知している者が6割を越し多数を 占めているのに対し,携帯メールでは,増えたと認知している者,変化なしと認知している者,減っ たと認知している者と3っのタイプに分かれた。松尾(2009)も同様の結果を報告しており,携帯 電話利用の相手や内容の検討から,対人関係の広がりによる利用頻度の変化,高校時代に「おしゃ べり」的メールを多用していた者の利用減少などの可能性に言及している。中村(2002)は,大学 生が社会人になる過程で起こる携帯電話利用変化(通話利用の増加,メール利用の減少)に言及し ているが,同様の変化が現在では,高校から大学への移行過程で起こる可能性を示しているのかも しれない。高校生以下を対象とした実証的な研究が少ないことと併せて,高校生から大学生への過 程で起こる変化に注目すべきであろう。
最後に「若年層の友人関係における携帯電話利用」をテーマとする実証的研究における困難さに
っいて述べておきたい。このテーマでは積み重ねられてきた研究結果が単純に比較できない困難さ
がある。一つは携帯電話の普及の低年齢化が進行中であることであり,例えば,大学2年時点にお
ける経年的なデータを比較することも,ある時点での大学生と高校生を比較することも単純にはで
きないことである。すでに普及が小学生の段階まで下がったことを考えると,いっから使用開始し
たのか,所持した理由は本人の希望なのか,親から持たされたのかも考慮に入れる必要があるだろ
う。今ひとっは携帯電話の料金体系やサービスおよび機能が年々変化・進歩しており,数年の違い
「若年層の友人関係における携帯電話利用」研究(新美明夫)
で携帯電話によって可能となることが大きく様変わりしてしまうことである。先ほどの通話利用の 増加認知は,ここ数年の通話料金の値下げ戦略(同一の会社同士では通話無料というサービス等)
が影響している可能性を否定できない。また,携帯電話によるウェッブ利用が急速に進んでおり,
SNSやプログの機能は,友人関係における通話やメールの機能を一部代替えする可能性もある。
以上のような不確定な要素を考慮に入れながら,慎重に研究を進めていくことが必要であろう。
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