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授業における問題場面の構成 理 科 の 場 合

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Academic year: 2021

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授業における問題場面の構成

理 科 の 場 合

理科研究室 高  野  恒  雄

1.学習過程と子どもの問題意識

教師が新しい事物・現象を提出したり,あるいは児童みずからが自然を観察する中で発見した りしたとき,児童は新鮮な目をもって事象に注目する。そして「おやっ」と思ったとき疑問が生 まれる。たとえこれまでに経験したことがある場合でも,無意識に見すごしていたことであれば,

その事象を説明することができず,新しい疑問が発生する。

「これは何んだろう」,「これはどうなっているのだろう」と色,形,しくみなどを見,手ざわ

り,においなど,五官を活ばつに働かせて注意深く観察する。さらには肉眼にとどまらないで虫めが ねやけんび鏡を使って見る。そうしてこれは「・…・ににている」,「・・…とどこがちがう」,「……ら

しい」などと観察対象についてある程度の見当をつけるようになる。この見当にもとずいて,こ れから自分がしらべていく問題をっかみとる。あるいは創り出そうとする。こうして強い問題意 識をもち,その解決にのり出すことになる。学習指導の過程はこの問題意識による児童の自主的 活動を主軸として展開されていく。したがってその過程は機械的な固定した型にはならず,児童 の自主的活動に応じた弾力的でのびのびと発展しうるものでなければならない。

2.子どもへの問いかけ

児童は過去の先行経験を基礎として学習し,教師は単元の目標を見通しながら指導を行なって いく。この過程において児童の多様な自主的活動は,教師の指導によって方向づけられていく。

その方向づけは押しつけられたものであってはならない。教師は児童のもっている経験・知識・

考え方にじゅうぶんの配慮をしながら,その中から意味のあるものをひき出し,弾力的に指導し ていかなければならない。すなわち児童の先行経験の中から,今学習しようとする内容の足場と なるものを選択し,それらを新しい事象と比較することによって問題意識をもたせていく。ここ で教師の発問は決定的な役割りをはたす。

問題意識をもって学習をすすめていくとき,教師は適切な発問によって,児童が精いっぱい思 考を働かせ,意欲的に実験観察をするようにしむけなければならない。そのためには教師と児童,

児童と児童,児童と教材の間に論理の緊張が成り立たなければならない。ちがった考え方の間に

活ぱっな問答が展開され,本質的なちがいは何なのか,それはどう解決したらよいかと真剣に考

え合う。児童は緊張し,触発されて,これまで自分が考えたことのない新しい思考をし,実験観

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察を行ない,論理を形づくっていく。

このような学習が展開されるためには,教師の発問がその核にならなければならない。効果的 な発問は学習をもりあがらせ,児童は本質的な自然認識をするようになる。そのような発問を行 なうためには,その前提として教師の豊かな深い教材研究がなければならない。豊かな教材研究 は一つの教材をいくつもの多様な視点から理解し,考えることになり,児童がいろいろな意見を 出してきたとき,それらを関連づけ,絞っていくのに大きな力になる。児童が自分の考えをあま り出してこないときには,教師の方から一つの考えを示し,それによって児童の思考を活ばつに し,いくつかの考えをひき出すことができる。また児童が単純に一つの考えに固まってしまうと きには,教師はそれに対して切りかえしの問いを発することができる。

教師のすぐれた発問と児童の反応,児童の活ばつな問答によって,児童のもっている経験や知 識をじゅうぶん生かし,新しい内容を徹底した思考によって深く理解させることができる。ここ

に知識と思考がしっかり結びっいた指導が成り立っ。

3.教材「水溶液の性質」における問題場面の構成

以上のように考えてくると,授業過程において適切な問題場面・思考場面を構成することは,

学習効果を支配する最大の重要事といってさしつかえないだろう。そして単元の始めの部分をど う展開するかは特に大切な段階であろう。ふつう導入とよんでいるこの部分は,ややともすると,

これから学習する内容に関連ある先行経験やその他の事象に関する漫然とした話し合いになるこ とがある。そこには,学習しようとしている内容の中心テーマへ向かって第一歩をふみこむとい う感じはない。いわば散歩的な展開になってしまいやすい。では,この単元展開の始めの部分に おいてどのような問題場面を構成すべきなのであろうか。

つぎに具体的な教材について考えてみよう。小学校5年の新教育課程には,「B物質とエネルギ 一」の最初の項目につぎのような内容がある。

「(1)水溶液の性質を理解させる。

ア.気体のなかにも水に溶けるものがあること。

イ.水溶液のなかには,加熱すると溶けている物が蒸発するものがあること。

ウ.水に溶かしたり,うすめたりしたとき発熱する物があること。

エ.水溶液には酸性・アルカリ性・中性の物があること。

オ.水溶液には,電流を通しやすいものがあること。」

この内容を一つの単元に構成する場合,アとイをまとめて第1次,ウを第2次,エを第3次,

オを第4次の指導計画に織りこむのが普通であろう。ここでこの第1次の始めの問題場面をどう 構成するかを考えてみよう。第1次で使う素材は,気体をとかした水溶液として炭酸水,塩酸,

気体以外のものをとかした水溶液として固体をとかした食塩水,液体をとかした酢などが適当な

主な素材と考えられる。これらはこの教材を学習する前,先行経験としてもっているか,日常生

活経験として身近かなものばかりである。さて第1次の始めの問題場面を特に気体のとけている

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水溶液に焦点をあてて,いくつかの構成の仕方をあげて検討してみよう。

(1)気体のとけている水溶液の存在を前提とする問題場面

A.

「二酸化炭素の水溶液は,水や他の水溶液とどうちがうかくらべてみよう。」

この問いかけを中心に味,におい,色,手ざわり,色水との反応,熱の発生の有無,ヨウ素液 との反応等をいくつかの水溶液とくらべていかせる。その中で二酸化炭素という気体をとかした 水溶液の特質を明らかにしていく展開である。

B.

1.「二酸化炭素の水溶液を熱すると,とけている気体はどうなるだろうか。」

この問いかけのもとに石灰水を使って加熱の前後を比較し,加熱によって気体は出ていってしま まい,後には何も残らないことを認める。

2・「気体の水溶液では,どれも熱すると気体は出ていき何も残らないのだろうか。また固体の水

溶液と比べてみよう。」

この問いによって,固体は蒸発しないで残るが,気体は何も残らないことを認めるように導く。

C.

ア,イ,ウの三つの容器にそれぞれ食塩水,酢,水を入れて提示してから

1.「この三つの液体の中に,何がとけているかを見分けるにはどんな方法があるだろうか。」

ここで味,におい,ヨーソ反応,蒸発などによってしらべる。つまり固体,液体のとけている 水溶液を先にあつかい,引き続き「蒸発させる実験のとき,酢は何も残らなかったが,何もとけ

ていなかったのだろうか。」

「食塩水は熱するととけていたものが残るが,酢は蒸発してしまったのはなぜだろう。」

と進み,以上をもとにして,

2・「それでは気体が溶けている溶液を熱した時はどうなるのだろうか。」

の問いかけによって炭酸水,塩酸,アンモニア水を熱してしらべるように導く。

(2)気体が水にとけることの認知を前提としない問題場面

D.

「食塩,ほう酸,二酸化炭素を水にとかしてみると,どうなるだろうか。」

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この問いによって,実際にそれぞれをとかしてみる。その結果から,気体の水溶の特徴をっか

ませていく。

E.

水と炭酸水を試験管に入れてくばり,

1.「2本の試験管の液体は同じものだろうか。」

ここでにおいをかいだり,炭酸水の入っている試験管の内側の気泡を観察したりする。この後 で蒸発させ,とけている物が残らないこと,気体がとけていることを認める。

2.「この気体を水にとかせば,リトマス紙や石灰水をかえるだろうか・」

ここでこの水溶液は酸性を示し,石灰水で白濁することを認め,二酸化炭素の水溶液であるこ

とをっかむ。

F.

1.「炭酸水と水はどうちがうだろう。」(炭酸水のびんを提示)

炭酸水は味があること,ブタをあけると泡が出るのだから,ただの水ではなく,泡が中に入っ

ていたと考えられる。

2.「ブタをとって泡が出てしまった炭酸水は,ただの水になったのだろうか。」

ブタをとった後でもまだ味がする,蒸発させるとまた泡が出て後には何も残らないことから炭 酸水には気体がとけていることを認める。

「炭酸水にとけていた気体は何だろうか。」

石灰水を使って二酸化炭素がとけていたことを認める。

4.6種の問題場面の比較検討

以上,「水溶液の性質」の始めの部分における問題場面の構成を6種あげてみた。っまり気体の

とけている水溶液の存在を前提とする問題場面はA〜Cの3種気体が水にとけることの認知を 前提としない問題場面はD〜Fの3種である。これらの6種の問題場面の優劣はいろいろ複雑な

要因と関連していて一概に断定することはむずかしいが,基本的特徴にお いて比較してみよう。

まずU)の気体のとけている水溶液の存在を前提とする問題場面を構成することは,それ自体一 種の押しつけであり望ましくないとの意見がありうるだろう。この点はたしかにじゅうぶん考慮

しなければならないところではあるが,しかし,この単元「水溶液の性質」を学習する前に「酸 素と二酸化炭素」を学習することはありうるので,その場合は二酸化炭素の水溶液が存在するこ

とを始めから明らかにして出発しても一概に悪いとはいえない。

ところでく1)に属するA〜Cの3種の問題場面を比較してみると,AとBについては, Aが一般

的に二酸化炭素の水溶液の性質をしらべていくのに対し,Bは熱したときの変化を問いかけてお

り,その意味ではそれ以後の学習の中心に焦点づけができている。しかし,一面Bの場合は,問

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いかけが単刀直入すぎて,ふくみに欠けるきらいは否定できない。またA,Bいずれにおいても 問いかけによる子どもの緊張感,強い問題意識の発生はあまり期待できないのではないか。それ に比べるとCの場合は,始めに,固体・液体をとかした水溶液とただの水を,謎解きの形で見分 けさせ,固体・液体をとかした水溶液の方から攻めていき,それをもとにして,気体がとけてい る溶液を熱したときはどうなるだろうかと問いかけている。ここには問題意識の盛り上りが計面 されており,緊張感をもって気体がとけている水溶液に立ち向かうことが期待できるのである。

(2)の気体が水にとけることの知識を前提としない問題場面について考えてみると,気体が水に とけるかどうか分っていない状態で,気体の水溶液の存在を発見することは,子どもの問題意識 の盛り上りを高める点からみて自然な出発点といえよう。しかし,それにはいろいろな場面が構 成されうる。Dにおいては,先行経験をもっている食塩・ほう酸という固体物質と二酸化炭素と いう気体物質を水にとかしてみるとどうなるだろうかと問いかけるのであり,かなり単刀直入に 切りこんでおり,ふくみにやや欠けるところがあろう。それに対しEとFは謎解きの形で出発し ている。Eでは2本の試験管の液体(水と炭酸水)は同じものだろうかと問い, Fでは炭酸水の びんを提示しながら炭酸水と水はどうちがうだろうかと問う。Fの方がすなおに問題の過程に入 っており,その意味であっさりしているが,実質的にはEとこの点ではほとんど差がないといえ よう。しかし,その後の追いこみはかなりちがってくる。Eでは炭酸水の入っている試験管の内 側の気泡を観察したり,蒸発させてとけている物が残らないことを認めて,気体のとけているこ

とをつかみとる。これに対してFでは,炭酸水のびんのブタをあけたときの泡を観察し(劇的な 効果がある),泡が中に入っていたのだと考え,そのあとで,ウタをとって泡が出てしまった炭酸 水は,ただの水になったのだろうか。」と問いかける。それから味をみたり,蒸発させて何も残ら ないことを確認する。またその過程で再び泡が出ることを観察させている。その後で炭酸水にと けていた気体は何だろうかと改めて問う。したがってFにおける方が,問いが重層的であり,問 いに関連して提示されたり実験したりする事象が劇的で明瞭である。展開の過程も単調な一本道

でなく屈折しており,構造的である。

以上のようにみてくると,単元「水溶液の性質」の始めの問題場面の構成は,単元「酸素と二

酸化炭素」との単元配列の前後関係によって,(1),(2)のいずれがよいとは簡単には断じられない

が,どちらかといえば,(2)の立場が一般的にすぐれているのではないだろうか。また,それぞれ の中での各3種の問題場面の長所・短所が上記のように考えられるのである。

つぎにもう一つ関連問題を考えてお』きたい。それは,この「水溶液の性質」の始めの部分の展 開が,それ以後の部分とどう関係するかということである。例をEにとれば,「2本の試験管の液

体は同じものだろうか。」との問についての追求に続いて,「この気体を水にとかせば,リトマス紙

や石灰水をかえるだろうか。」と問いかける。この問いかけによる以後の発展の方向は,一口でい えば非常に複合的なものとなる。つまり,気体の水溶やとけている物の蒸発を追求する最中に,

水溶液の酸性・アルカリ性・中性のテーマを持ちこむのである。学習指導要領でいえば項目ア,

、イの学習中に項目工を入れこむのである。項目アとイは二つにまとめるのが自然の成り行きだが,

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14       教育研究所紀要第三号

項目工はアとイのまとまりを学習し終ってから,一応独立してあっかうのがふつうである。とこ うがここでは項目工を混入させるのである。ここでのねらいは,複合的な場面の構成だからこそ,

子どもを思考に追い込むのに適しているのだという考えにもとずくのである。しかしこの場合は 子どもの思考を深めるための複合ではなく,ややともすれば内容の複雑化に終るきらいがないと はいえないと考えられる。つまり問題とするテーマがお互に混乱し,かえって思考を雑然とした

ものにしてしまう恐れがあると思われる。子どもが真に思考するにたる問題場面というのは,複 雑な場面というのではなく,追求するテーマがむしろ単純化される方向に向かったものでなけれ

ばならない。したがってこの場合は,複合場面よりは一つ,一つのテーマを追求し,後に相互の 関連を考えて統一していくように展開するのが妥当であると考える。

5.問題場面のあり方についての仮説的な結論

ここで「水溶液の性質」にかぎらず,ほかの教材についても一般的にいえることがらを,以上 の検討の中から少し大たんに仮説的にひき出してみると,つぎのようになろう。

①単元の展開の始めの部分における問題場面の構成は,あくまで教材がふくんでいる中心的テ 一マに向かうものでなければならないが,しかし子どもへの問いかけが,単刀直入すぎるか,平 凡なものでは,子どもに強い問題意識をもたせることができない。

②始めの問いかけは,教材のテーマについての単なる話し合いの形にもちこむことは,例外は ありうるにしても,一般には平凡な過程になりやすく,また学習の能力を低くする場合が多い。

したがって学習素材はかなり卒直に自然事象の形でずばりともち出した方がよいことが多い。

③正体の分からない何個かの物を提示し,これは何だろう,これとこれはどこがちがうだろう といった形で問いかける方法,つまり謎解きの形で問題場面を構成することは,その構成内容が 単なる興味本位に走らずに中心テーマに向かっているものである限り,かなり有効な学習への入

り方である。

④一つのまとまった問題場面の構成においては子どもへの問いかけが,単発的であるよりは,

重層的,構造的に発せられるべきである。ただそのとき問いと問いとの関係はあくまで論理の筋 でつながっていなければならず,その意味も,鮮明なものでなければならない。

⑤一っの問いかけから,つぎの問いかけに至る道筋は,単調な一本道では,子どもの思考をじ ゆうぶんによび起こすことはできず,適度の屈折が望ましい。いわば論理の糸でつながれた劇的 な曲り道をたどる方法が効果的である。

⑥そのためには,前の問いかけによって達した思考結果を認めながら,なお一一見それと反する ように見える自然事象を子どもにぶっつけ,いやでも応でも子どもを思考の場に追いこむことが

大切である。

⑦したがって学習素材の選定は,単に実験観察がやりやすいとか,成功するとかの観点だけで なく,子どもの思考を変容させるに足る内容をもった素材は何であるかという観点に立ったじゅ

うぶんな分析の上に立ってなされなければならない。

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⑧子どもが問題場面でじゅうぶん思考することを考慮するあまり,いくつもの学習内容.テー マをもりこんだ複合的な場面を構成することは,思考の混乱をまねく危険をもっており,問題場 面にふくまれる内容は.一時に一つのテーマを追求し,後で諸テーマを有機的に統一するのがよ

いo

筆者は・このような仮設的な問鵬面の構成のあり方について,今後実験的に吟味したいと考

えている。

参照

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