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一類義語を用いて一 相馬 壽明*・斉藤 みどり**

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(1)

聴覚障害児の理解語彙に関する研究 一類義語を用いて一

相馬 壽明*・斉藤 みどり**

(1986年9月27日受理)

AStudy on the Vocabulary of Hearing Impaired Children on the Basis of Synonymous Words

Toshiaki SoMA*and Midori SAiTo**

(Received September 27,1986)

目     的

聴覚障害児の話彙力は,住(1959)の指摘するように,聴覚障害児の言語発達の重要な指標であ るばかりでなく,言語能力の基礎として重要なものである。わが国ではすでに塚田(1968),伊藤

(1970),岡田・都築(1978),南出(1982)らによって,いろいろな語彙のレベル(受容語彙,理 解語彙,表現語彙)にっいての研究がなされてきている。これらの研究は,聴覚障害児は一般に健 聴児に比べて語彙量が劣っており,語彙の内容が貧弱で,獲得された語彙も正確さに欠けるが,加 齢にともない語彙量が増すことを明らかにしている。しかし,語彙量の増加率は加齢とともに低下 することも指摘されている。

ところで,川口・都築・板橋(1981)は,慣用句を用いた研究で,聴覚障害児は理解が困難と思 われる表現を易しい表現に置き換えて理解していることを指摘している。このことから,聴覚障害 児の語彙力の停滞の一因として,難しい言葉が易しい言葉に置き換えられて理解され,使用されて いることが考えられる。

そこで,本研究では難易度の異なる類義語を用いて,聴覚障害児の理解語彙について検討するこ とを目的とする。

方      法

1.被 検 査

検査語に対する理解力を考慮して,茨城県下の聾学校(2校)に在籍する重複障害を持たない小

*  茨城大学教育学部障害児教育学科

** 茨城県伊奈養護学校

(2)

学部4年生から高等部3年生までの聴覚障害児108名(Table 1)と,普通学校(2校)に在籍す る小学3年生から中学3年生までの健聴児239名(小3:21名,小4:27名,小5:42名,小6:

36名,中1:39名,中2:40名,中3:34名)を対象とした。

2.検 査 語

検査語作成にあたり,まず阪本(1958)のr教育基本話桑』から基本度段階A1段階の言葉を約 3,000語抽出し,それぞれの類義語を徳川・宮島(1983)のr類義語辞典』から選択した。さらに,

類義語が日常語と文章語の対になっているものを抽出した。日常語と文章語とは文体による違いを 示すものであり,類義語の難易の程度は,この文体による違いに基づいて,日常語をより易しい言葉,

文章語をより難しい言葉として規定した。

①検査1:基本度段階のAl段階に属する日常語30語。

②検査2:検査1で用いられた日常語の見本語それぞれに対して4語の選択語が設けられた(120 語,資料1)。選択語のうち1語は見本語として呈示された日常語に対応する類義語(文章語)で ある。選択語に含まれる類義語をすべてA1段階に統制することが困難であったため,Al段階10 語,B1段階10謡C1段階10語となった。なお,選択語の類義語は見本語と同じ品詞(名詞8語,

動詞12語,その他の品詞10語)であり,他の3語の選択語も原則として類義語と同じ品詞,基本度 段階とした。また,漢字による手がかりをなくすために見本語と同じ漢字を含まない語を選択語と

し,漢字にはすべてふりがなをっけた。

3,検査手続き

①検査1と2:両検査は1と2の順に同時に施行された。教示は以下の通りである。

「今から簡単なテストを行います。このテストは,国語の成績をみるためのものではありません、

よく考えて正直に答えて下さい。一枚目(検査1)の答え方を説明します。一枚目の紙には,30の 言葉が並んでいます。その30の言葉の中で,意味を知っている言葉は, ()の中にマルを書いて 下さい」(6題の例題を施行後に本検査を実施)。

次に,二枚目(検査2)の答え方を説明します。二枚目にも30の言葉が並んでいます。今度は番 号のついている言葉と同じような意味を持つ言葉を,下にある4つの言葉から1つ選んでマルでか

こんで下さい。同じような意味を持つ言葉がわからない時は,なにもっけません。時間は十分にあ るので,ゆっくりよく考えてまちがえのないように答えて下さい」(4題の例題を施行後に本検査

を実施)。

②検査3:各被検児の先行検査(検査1,2)の結果をもとに,検査1でマル印を付し,かっ検 査2で正しい類義語を選択した語の中から,類義語の5対(日常語5語,文章語5語)を抽出し,

あらかじめ検査者が検査用紙に記入して,次の教示を与えた。

「今から簡単なテストを行います。このテストは,国語の成績をみるためのものではありません が,よく考えて答えて下さい。テスト用紙を配りますから,自分のものかどうか確かめて下さい。

それでは説明します。一枚の用紙に10個の言葉が書いてあります。そのそれぞれの言葉を使って,

例文を書いて下さい。漢字で書くか,ひらがなで書くかは自由です。時間は十分にあるので,ゆっ くりよく考えてまちがえないように答えて下さい」(2題の例題を施行後に本検査を実施)。

検査1・2と3のインタバルは約1週間であり,検査3の10語の内容は各被験児の先行検査の結

果をもとにしているので,被験児によって異なっている。3検査とも集団式で,検査者1名と監督

(3)

者2名で施行した。時間制限を設けなかったが,検査に要した時間は約40分であった。なお,聴覚 障害児に対しては,口頭での説明に加えて,教示文を掲示し,検査手続きの理解の補助とした。

結      果

1.検査1(日常語)の結果

マル印が付された検査語の総数を語彙の既知度として,結果をt検定およびWelch s method

(tw)によって分析した。障害の有無では,健聴児の方が聴覚障害児よりも有意に既知度が高かっ た(tw=11.91, p〈.001),さらに,聴覚障害児においては,高等部の方が中学部より有意に既知度 が高くなっているが(tw=6.24, P<.001),健聴児では小一中間に有意な差はみられなかった

(Table 2)。学年間では,聴覚障害児において,小5より小6が(t=2.96, p<.Ol),中3より高 1が(tw=3.20, p〈.01),高1より高2が(t−4.05, p<.001),有意に既知度が高くなっている が,健聴児においては学年間に有意な差はみられなかった(Fig.1)。

以上の結果から,健聴児においては,検査語の基本度段階からも明らかなように,すでに小学生 の段階でほぼ95%以上の既知度を示しているために,小一中間に差異が認められなかった。しかし,

聴覚障害児においては,小・中学部でほぼ60%程度の既知度を示し,小一中間に差がないのに対し,

高等部では85%以上と有意に既知度が高くなっている。ただし,高等部は健聴児の小学生の既知度 のレベルには達していない。

なお,既知度を品詞別に検討するために,総数の分析で有意差のみられた群間にっいて,名詞(8 語)と動詞(12語)に対する既知度の検定を行った。聴覚障害児一健聴児間,聴覚障害児の中一高 間では両品詞に,聴覚障害児の小5−6間と中3一高1間では名詞に,先の結果と同じ方向で有意 な差がみられた(Table 4,5)

2.検査2(文章語)の結果

検査1でマル印を付した語にっいて正しい類義語が選択された場合,その語数を理解度として,

既知度と同様に分析を行った。障害の有無では,健聴児の方が聴覚障害児よりも有意に理解度が高 くなっている(t−20.31,p〈.001)。さらに聴覚障害児では,中一高間に有意な差がみられた

(tw=3.29, p〈.01)。また,健聴児においても小一中間に有意な差が認められた(t=5.44, p<.001,

Table 3)。学年別にみると,健聴児では小3より小4が(t=3.82, p〈.001), 小4より小5が

(t=2.20,p<.05),小5より小6が(t−4.24, pく001)有意に理解度が高くなっている(Fig.1)。

聴覚障害児では既知度とほぼ同様の結果を示し,高等部になって理解度が有意に高くなることが示 された。健聴児では既知度と異なり,小学生より中学生で有意に理解度が高くなることが示された。

さらに,理解度でも聴覚障害児の高等部は健聴児の小学生の段階に至っていない。また,聴覚障害 児群・健聴児群ともに既知度より理解度の方が有意に低くなっており(p<.001),既知度と理解度 に差異が認められた。

理解度についても,有意差のみられた群間について品詞別の分析を行った。聴覚障害児一健聴児間,

聴覚障害児の中一高間,健聴児の小一中間,健聴児の小3−4間と小5−6間では両品詞に,健聴

児の小4−5間では名詞に先の結果と同じ方向で有意な差がみられた(Table 4,5)。

(4)

Table 1 聴覚障害児の聴力レベル      Table 2 検査1(日常語)の結果(平均語数)

両耳平均聴力 聴覚障害児 健聴児

群 レベル(dB)      群

小  中  高 全体 小  中 全体 範 囲  (平均)

30    37   41    108

126 113 239

人数 小 4年(9名) 91.9−105.0(99.4)

@      平均

18.5  18.9  26.2  21.4 28.8 29.0 28.9

学 5年(9名) 71.5−105.0(82.8)

部 標準偏差

5.88  6.35  3.16  6.36 2.11 2.31 2.21

6年(12名) 7α0−103.8(8LO)

中学

1年(8名)

Q年(14名)

84.0−106.0(96.9)

@       Table U7.5−107.5(95.4) 3 検査2(文章語)の結果(平均語数)

部 3年(15名) 76石一133.0(1009)

聴覚障害児 健聴児

盲 1年(8名) 71.0−94.0(88.3)     群

小  中  高 全体 小  中 全体

等 2年(15名) 76。0−113.0(92。4)

部 3年(18名)        人数 V1.0−106.0(90.6)

30    37    41    108

126 113 239

6.4 7B  12.9 9.2

20.3 25.0 22β

平均

W準偏差

5.09  4.94  8.30  5.71 6.31 7.00 5.59

( 平 均 30 語 数

25

      一4       一  一

@ ノト、、        ,−4ンー

@!      、、「ン・一

  !

@1

20  

@7!!

15

 !

・      ノト㍉一一噂

1      !       !

10         @      

@      /ノト陶一一一へ       / 1       、、      ,

!       、        一脚げ

5 ノ

/    (●一一州● 聴覚障害児の日常語  ●……● 聴覚障害児の文章語○一一く) 健聴児の日常語    ○…一一〇 健聴児の文章語)

0 3    4     5    6    1    2    3    1    2    3

小   学      中   学        高   校    (学年)

Fig 1 日常語と文章語の平均語数の学年変化

(5)

Table 4 日常語と文章語の品詞別結果(平均語数)

聴 覚 障 害 児 健  聴  児 群

小   中   高   全 小   中   全 人   数

30      37      41      108

126   113   239 名詞 平  均

6.2      6.7      8.4      7.2 8.8   8.7   8.7

(標準偏差) (2.26)   (1.87)   (0.54)   (1.91) (0.64)   (0,68)   (0.66)

常缶

動詞 平  均

6.8       6β      10.1      8.1

1L6  1L7  11.6

口口 (標準偏差) i(2.76)    (3.12)    (2.10)    (3冶11) (0.95)   (1.02)    (0.98)

名詞 平  均

2.1      2。9      4.9      3.4 5.9   7.6   6.7

文立

(標準偏差) (2.04)   (2.09)   (1.80)   (2.29) (2.24)   (1.33)   (2.04)

早看五

動詞 平  均

2.5      2.8      4.6      3.4

&6  104   9.4

口口 (標準偏差) (2.19)   (1.97)   (2.70)   (2.51) (2.54)   (1.95)   (2.44)

Table 5 日常語と文章語の品詞別検定結果

既   知  度 理  解  度 群間

名 詞 動 詞 名 詞 動 詞 聴覚障害児一健聴児

tw=7.91*** tw=11.39*** t=13.38***

も=20.96 ***

聴覚障害児 中一高

tw=5.26***

tw=5。35*** t=4.48*唇* tw=3.34 **

小5−6 tw=3.31**

中3一高1 tw=2.66*

健聴児 小一中

t=7.19***

tw=6.15 ***

小3−4 t=3.62*** t=2.99 **

4−5 t=2.34*

5−6 tw=3.42**

t=4.44 ***

(*** :p〈,001,**:p〈.01, *:p〈.05)

3.検査3(日常語と文章語)の結果

あらかじめ5対の類義語を抽出できたものにっいてのみ分析の対象とした(聴覚障害児80名,健

聴児237名)。まず,見本語を用いて書かれた短文の数を表出数として分析した。聴覚障害児一健

(6)

Table 6 短文表出数の結果(平均短文数)

聴 覚 障 害 児 健 聴 児 群 小   中   高   全 小   中   全

人数

17       27       36       80

126   111   237

日常語 平  均

3.8      4.4     4.8      4.5

4.9   4.96  4,9

(標準偏差) (1.38)    (1.03)    (055)    (1.01) (0.39)    (0ユ9)    (0.31)

文章語 平均均

1β      2.3      2.4      2.2 3.4   4.7   4.0

(標準偏差) (137)   (1.94)   (1.34)   (1.60) (1.22)    (0.69)   (1.20)

Table 7 完全正答数の結果(平均完全正答数)

聴 覚 障 害 児 健 聴 児 群 小   中   高   全 小   中   全

人数 17    27   36    80 126   111   237 日常語 平  均

2.2       2.7      2.7       2.6 4.6   4.9   4.7

(標準偏差) (158)   (164)   (1.31)   (1.4 ) (α68)   (0.34)   (0,56)

文章語 平  均

0.4      1.2      1.2      1.0 2.6   4.0   3.3

(標準偏差) (0,49)   (1.50)   (1.14)   (1.22) (1.07)    (0.88)    (1.19)

Table 8 準正答数の結果(平均準正答数)

聴 覚 障 害 児 健 聴 児 群 小   中   高   全 小   中   全

人 数

17       27       36       80

126   111   237

日常語 平  均 1.0   1.0   1.3   1.1 0.03   0.05  0.04

(標準偏差) (0。91)   (1.04)   (0.95)   (098)

(0,18) (0.23) (0.20)

文章語 平  均

0.4      0.4      0.4      0.4

0.06  0.10  0.08

(標準偏差) (0.68)   (0.73)   (0』54)   (0.64) (0.24)   (0.30)   (0.27)

聴児間では,日常語(tw−3.47),文章語(tw=9.17)のいずれにおいても健聴児の方が聴覚障害 児よりも有意に表出数が多くなっている(p〈.001)。健聴児の小一中間では,文章語で中学生の方 が小学生よりも有意に表出数揮多くなっている(tw−10.2軌p<.001, Table 6)。

次に,書かれた短文が意味的,文法的に正しいものを完全正答として,その数を分析した。聴覚 障害児一健聴児間では,日常語(tw=12.65),文章語(t=14.81)のいずれにおいても,健聴児の方 が聴覚障害児よりも有意に正答数が多くなっている(p〈.001)。また聴覚障害児の小一中間では,

文章語で中学部の方が小学部よりも有意に(tw−2.51, p<.05),健聴児の小一中間では,日常語

(tw=4.35),文章語(tw=11.00)ともに中学生の方が小学生よりも有意に正答数が多くなって いる (p〈.001, Table 7)。

さらに,書かれた短文が意味的にはほぼ正しいが,助詞の誤りや動詞の形態の誤りなど文法的に

(7)

不適切なものを準正答として,完全正答とは別に分析した。聴覚障害児一健聴児間では,日常語

(tw=9.55),文章語(tw=4.32)のいずれにおいても,健聴児よりも聴覚障害児の方が有意に準正 答が多くなっている(p〈.001,Table 8)。

考     察

1.日常語について

これまでの先行研究と同様に,本研究でも聴覚障害児は健聴児よりも語彙量が劣っていることが 示された。しかも,聴覚障害児の高等部3年は健聴児の小学3年のレベルにも達していないことが 明らかにされ,塚田(1968),伊藤(1970)らの結果と同様に,健聴児との語彙量の差が著しいこと が示された。また,健聴児の場合は,検査語の基本度段階がA1段階の日常語であったために,小・

中学生ともに95%以上の既知度を示し,両群間に有意な差異は認められなかったが,聴覚障害児の 場合は,中学部から高等部へと有意に語彙量の増加がみられた。学年別でみると,健聴児では有意 な変化はみられないが,聴覚障害児では,小学部5年から6年にかけてと,中学部3年から高等部2 年にかけて有意に語彙が増加している。っまり,聴覚障害児の中学部から高等部への語彙の増加は,

中学3年から高等部2年の変化を反映したものと考えられる。

ところで,語彙量の変化を品詞別にみてみると,聴覚障害児一健聴児間,聴覚障害児の中一高間 では名詞,動詞ともに語彙量が増加しており,品詞による差異は認められない。それに対して,聴覚 障害児の小5−6間,中3一高1間では名詞にのみ有意な差異がみられ,聴覚障害児の中一高間の 語彙量の変化は,おもに名詞の語彙の増加を反映していることが推察された。語彙の中で名詞が動詞 よりも優位であるという結果は,伊藤(1970),岡田・都築(1978),南出(1982)らの結果に一致 するものである。

2.文章語について

日常語と同様文章語においても,聴覚障害児は健聴児よりも語彙量が著しく劣っており,しかも 聴覚障害児の高等部3年は健聴児の小学3年のレベルにも達していないことが示された。また,聴 覚障害児では,日常語と同様に中学部よりも高等部の方が有意に語彙が増加し,健聴児でも小学生よ

り中学生の方が有意に語彙が増加していることが示された。さらに,学年別の変化をみてみると,

健聴児では小学3年から6年にかけて有意に語彙量が増加しており,小学生の段階ですでに文章語 に関する語彙が学年ごとに増加していることが認められる。

ところで,品詞別の語彙量の変化をみてみると,聴覚障害児一健聴児間,聴覚障害児の中一高間,

健聴児の小一中間では両品詞に有意な増加がみられ,学年別の変化でも,健聴児の小4−5間で名 詞に,小3−4間と5−6間では両品詞に有意な語彙の増加が認められた。っまり,文章語に関し

ては,ほぼ品詞の区別なく語彙量が変化していることが示された。

以上の日常語と文章語の結果を相互に検討してみると,Fig.1からも明らかなように,健聴児で は学年進行とともに日常語と文章語の語彙量の差が縮まり,特に小学生の語彙の増加を背景として」

文章語が日常語の語彙量のレベルに漸近していくが,聴覚障害児ではほぼ平行状態で,日常語と文

章語の差は学年が進行しても縮まらない。っまり,聴覚障害児の場合,より易しいと考えられる日

(8)

常語の語彙理解は,文章語の語彙理解よりも優位ではあるが,日常語と文章語の差は学年進行して も減少しないことを示している。南出(1982)は,理解語彙に関する研究で,小・中・高学部のい ずれにおいても,理解しやすい語としにくい語が共通していて,理解しやすい語はすでに小学部に おいて理解していることを指摘しているが,本研究結果も,聴覚障害児の易しい言葉と難しい言葉 の理解に分離がみられることを示したといえる。

しかし,聴覚障害児の中一高間の語彙量の増加は,日常語でも文章語でもみられ,聴覚障害児の 緩慢な語彙の増加の中でも,中学部から高等部にかけては,言葉の難易にかかわらず有意な語彙の 増加がみられたことになる。南出(1982)は,小学部6年生から中学部2年生にかけて理解語彙が 急速に増加する結果を示しているが,検査方法の違いを考慮しても,中学部とその前後が語彙量の 増加する時期として共通しているといえる。

3.短文表現について

まず,短文表出数にっいてみてみると,日常語と文章語の区別なく健聴児の方が聴覚障害児より も有意に短文表出数が多くなっている。また,健聴児においては,日常語で小・中学生ともにほぼ 100%近い表出数を示しており,文章語では中学生の方が小学生よりも有意に表出数が増加してい る。それに対して,聴覚障害児では,日常語においてかなり高い表出数を示しながらも,文章語で はいずれの学部でも50%を越える表出数は示されていない。聴覚障害児にとって,文章語を用いた 短文表現が日常語よりもかなり難しいことが示された。

次に,完全正答数についてみてみると,日常語と文章語の区別なく聴覚障害児よりも健聴児の方 が,健聴児では小学生よりも中学生の方が有意に正答数が多く,聴覚障害児では文章語で小学部生 よりも中学部生の方が有意に正答数が多くなっている。健聴児の場合は書かれた短文がほぼ正答で あるのに対して,聴覚障害児では,表出数に比べて正答数が一様に低下している。また,聴覚障害 児では,日常語でも文章語でも正答数は中一高間に変化はみられない。っまり,聴覚障害児は健聴児 に比べて,日常語では表出数にそれほど差異は認められないが,文章語では表出数が低下し,なお かっ正答数も低下していることが示されている。しかし,聴覚障害児の中学生が,文章語で小学部よ りも正答数が多いことは,語彙量の有意な増加の結果と考えあわせると,中学部生での言語能力の 進展を示唆するものといえる。ただし,聴覚障害児において,日常語でも文章語でも中一高間に有 意に語彙が増加しているにもかかわらず,正答数が中一高間で変化がみられなかったことは,健聴 児に比べて聴覚障害児では,語彙の理解の促進が必ずしも語彙の使用,特に文章表現に結びついて いないことを示している。

最後に,準正答にっいてみてみると,聴覚障害児の方が健聴児よりも,準正答数が日常語でも文章 語でも有意に多くなっている。これは,健聴児においては表出された短文がほぼ完全正答であるの に対して,聴覚障害児では助詞の誤りや動詞の形態の誤りが多くみられることを意味している。助 詞に関しては,荒川(1954)が聴覚障害児の高等部生が健聴児の中学1年生の段階より劣っている

ことを示しており,Steinbergら(1977)もすべての格助詞において聴覚障害児が健聴児よりも多く

の誤りを示すとしているが,本研究結果もこれを支持するものであった。また,このことは聴覚障

害児の語彙力が書く力を規定する重要な要因の1っであることを示唆している。

(9)

〈謝辞〉

本研究に御協力頂いた聾学校の諸先生方,並びに児童・生徒の皆さんに感謝致します。

引   用   文   献

荒川 勇 1954「ろう生徒の「助詞」「助動詞」に対する能力」『教育心理学研究』2,51−60.

伊藤浩子 1970「ろう児の語彙の発達」 『ろう教育科学』 12,18−25.

川口博・都築繁幸・板橋安人 1981「聴覚障害生徒の慣用句表現の理解について」 『聴覚障害』 36,4−10.

南出好史 1982「聾学校生徒の理解語彙の評価に関する研究」『特殊教育学研究』 20,9−16.

岡田明・都築繁幸 1978「ろう幼児の語彙の研究」『心身障害学研究』 2,57−65.

阪本一郎 1958『教育基本語彙』牧書店.

Steinberg, D. D.・山田純・竹本伸介 1977「聾学校児童生徒の言語習得」『聴覚言語障害』6,117一

125.

住宏平 1959「ろう・唖」波多野完治・依田新(編)『児童心理学ハンドブック』金子書房,707−749,

徳川宗賢・宮島達夫 1983『類義語辞典』東京堂出版.

塚田規久 1968「ろう児童生徒の語彙量について」『ろう教育科学』 10,45−55.

資料1 理解認彙検査の検査語一覧

1.まぶしい   6.奇麗     11.あわてる   16.きのう   21.怒る    26.迷う まばゆい   悔しい     ぬくもる    あさって   燃す     惑う 明るい     おとなしい    うろたえる   昨日     酔う     もたれる かわいい   美しい     ゆわえる    正面     憤る     濁る めでたい   新しい      くぐる     るす     呼ぶ     きらう 2.普段     7.聞く     12もっと    17.同じ    22断わる   27.ちょうど

生活     問う      まことに    難しい    拒む     いっそう 平生     比べる     さっそく    浅い     休む     確か 調子     捨てる     さらに     等しい    渡る     あたかも 平気     習う      やがて     楽しい    譲る     あいにく 3無くす    &かぶせる   13ほめる    18.いつも   23.だます   2&心配

願う     うずくまる   たたえる    常に     許す     覚悟 熟する    なでる     かつぐ     おおよそ   欺く     懸念 腐る     覆う      ごまかす     こっそり    もらう    愉快 失う     すする     たたく     のどかに    もどす    万歳 4.空      9.降りる    14.大切     19.言う    24.回り    29.沈む

天      浴びる     競争      握る     付録     没する 模様      下る       発展       語る      深み      消す 天気     くぐる     誕生      めぐる    勝手     切る 雲       しぼむ     重要       いじる     周辺      通う 5,盛ん    10.うるさい   15.すぐ     20.あした   25違い    30.感心

喜び     暖かい     なるべく    あなた    無理     掲示

活発      なっかしい    ようやく    一生     負け     服装

発表     恐ろしい     ゆるやかに    みさき    差異     合図

注意      騒しい      直ちに      明日     便利      敬服

Table 1 聴覚障害児の聴力レベル      Table 2 検査1(日常語)の結果(平均語数) 両耳平均聴力 聴覚障害児 健聴児 群 レベル(dB)      群 小  中  高 全体 小  中 全体 範 囲  (平均) 30    37   41    108 126 113 239人数 小 4年(9名) 91.9−105.0(99.4) @            平均 18.5  18.9  26.2  21.4 28.8 29.0 28.9 学 5年(9名) 71.5−105.0(82.8) 部
Table 4 日常語と文章語の品詞別結果(平均語数) 聴 覚 障 害 児 健  聴  児 群 小   中   高   全 小   中   全 人   数 30      37      41      108 126   113   239 名詞 平  均 6.2      6.7      8.4      7.2 8.8   8.7   8.7 日 (標準偏差) (2.26)   (1.87)   (0.54)   (1.91) (0.64)   (0,68)   (0.66) 常缶 動詞 平  均
Table 6 短文表出数の結果(平均短文数) 聴 覚 障 害 児 健 聴 児 群 小   中   高   全 小   中   全 人数 17       27       36       80 126   111   237 日常語 平  均 3.8      4.4     4.8      4.5 4.9   4.96  4,9 (標準偏差) (1.38)    (1.03)    (055)    (1.01) (0.39)    (0ユ9)    (0.31) 文章語 平均均 1β      2

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