2013 年度博士論文
「乳がん患者の配偶者の役割認知を促す看護介入プログラムの開発と評価」
The development and evaluation of a nursing intervention program to promote the role
recognition of spouses of breast cancer patients
岩手県立大学大学院 看護学研究科
菅原 よしえ
- 目 次 -
第1章 序論
Ⅰ.研究背景と意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・ 1
Ⅱ.研究目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・ 2
第2章 文献検討
Ⅰ.乳がん患者と治療の特徴・
1.乳がんの特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・ 3 2.乳がんの診断および治療を受けている患者の困難・・・・・・・・・・・ ・ 4 3.乳がんの診断および治療を受けている患者への支援の現状・・・・・・・ ・ 6
Ⅱ.乳がん患者の配偶者に関するこれまでの研究・・・・・・・・・・・・・・・ 8
第3章 看護介入プログラムの開発
Ⅰ.看護介入プログラム開発の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・10
Ⅱ.乳がん患者の診断から初回治療終了までの配偶者の認識と対処行動
1.研究目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・10 2.研究方法
1)用語の定義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10 2)対象者・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・11 3)調査方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 4)分析方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・12 5)倫理的配慮・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・12 3.結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1)対象者の背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・12 2)乳がん患者の診断から初回治療終了までの配偶者の認識・・・・・・・ ・13 3)乳がん患者の診断から初回治療終了までの配偶者の対処行動・・・・・ ・17 4.考察
1)乳がん患者の診断から初回治療終了までの配偶者の認識と対処行動の特徴 19
2)配偶者に対する援助の必要性と方法・・・・・・・・・・・・・・・・ ・22
5.結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・23
Ⅲ.乳がん患者の配偶者に対する看護介入プログラムの概念枠組み・・・・・・ ・24 Ⅳ.介入プログラム
1.乳がん患者の配偶者の役割認知を促す看護介入プログラムモデルについて ・27 2.乳がん患者の配偶者の役割認知を促す看護介入プログラムの内容と介入方法 28
第4章 看護介入プログラムの評価
Ⅰ.研究目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・31
Ⅱ.研究方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1.用語の定義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・31 2.対象者・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・32 3.データ収集方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・32 4.分析方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・36 5.倫理的配慮・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・37
Ⅲ.結果
1.対象者の概要・ 39 2.看護介入の実際 41 3.POMS および自尊感情尺度・・・・ ・・ 41 4.乳がん患者の配偶者の状況及び役割に関する認識・・・・・・・・・・・ 48
1)非適用群の初回治療前における乳がん患者の配偶者の状況に対する認識 49 2)非適用群の初回治療前における乳がん患者の配偶者の役割に関する認識 50 3)適用群の初回治療前における乳がん患者の配偶者の状況に対する認識 52 4)適用群の初回治療前における乳がん患者の配偶者の役割に関する認識 55 5)非適用群の初回治療 1 か月後における乳がん患者の配偶者の状況に対
する認識 58 6)非適用群の初回治療 1 か月後における乳がん患者の配偶者の役割に関
する認識 59 7)適用群の初回治療 1 か月後(介入 1 か月後)における乳がん患者の配
偶者の状況に対する認識 62
8)適用群の初回治療 1 か月後(介入 1 か月後)における乳がん患者の配
偶者の役割に関する認識 63
Ⅳ.考察
1.非適用群における乳がん患者の配偶者の気分状態と自尊感情の経時的変化・ 64 2.適用群における乳がん患者の配偶者の気分状態と自尊感情の経時的変化・・ 66 3.気分状態および自尊感情の非適用群と適用群 2 群の比較による,看護
介入プログラムの評価・・・・ ・・・・ 67 4.乳がん患者の配偶者の役割認知について ・・・・・・・・・・・ 69 5.役割認知に関する看護介入プログラムの評価⊡ ・・・・・・・・・・ 70 Ⅴ.研究の限界と課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・74
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74
引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 75
第1章 序論
Ⅰ.研究背景と意義
がんは我が国の死亡原因の第1位であり(厚生労働省,2009), 2007 年 4 月にはがん 対策基本法が施行され,がん対策が強化されてきている(独立行政法人国立がん研究セン ターがん対策情報センター,2011).しかし,がん罹患率は増加の傾向にあり,女性のが ん罹患率の第 1 位は乳がんとなっている.乳がんの特徴として罹患率のピークが 45 歳か ら 49 歳にあること,手術の縮小化,化学療法,内分泌療法,放射線療法の進歩により治 療の選択肢が増えていることがあげられている(大内,2006).治療の進歩に伴い乳がん 患者はがん罹患に伴うショックによる精神的な負担を抱えながら治療選択の意思決定を迫 られる状況にある.乳がん患者が乳がん診断後の精神的な動揺に対処し治療選択などに取 り組むには,家族からの支援を得られることが重要である (国府,2008) (菅原,2012a).
特に,乳がんでは配偶者が家族の中心的なサポーターとして期待されている(福井,2002) (宮下,2004).乳がん患者を対象とした調査では,配偶者から受けるサポートの内容につ いて,情報収集,意思決定の支援,生活面の援助,患者の情緒的支援等があげられている (国府,2010).乳がん患者は多くの役割を配偶者の役割として捉え,配偶者をサポーター として重要な存在として期待していることが伺える.
乳がん患者の配偶者に焦点をあてた研究が始められてきているが,いまだ数が少な く,乳がん患者を対象にした調査において,配偶者をソーシャルサポートの一員としてと らえる研究(安達ら,2010)がある.山崎(2006)の報告では配偶者は妻に対して共感し寄り 添う気持ちを強くもっていることが明らかにされ,課題として配偶者に対する支援者が少 なく,医療者が配偶者に関わる時間が少ないことがあげられていた.乳がん患者の配偶者 を対象にした研究は,精神心理学領域で,精神専門医や心理士による調査が行われている (萬谷ら,2002)(Hinnen et al.,2009).乳腺外来に通院する患者とその家族の調査では,
患者の 35%,配偶者の 37%に軽度の抑うつが認められていた(萬谷ら,2002).乳がん患者の
配偶者が,妻に対してどのように対応しているかの調査では,配偶者が妻を刺激しないよ う見守る対応を多くとっており,患者である妻の苦痛が大きい場合には,妻に配偶者から のサポートが認識されていなかったことが報告されている(Hinnen et al.,2009).配偶者 が見守りを中心とした消極的な関わり方で接して,妻を十分に支えることができない状況 にあると考えられる.乳がん患者と配偶者のこの隔たりは,配偶者の戸惑いや疎外感を招 く可能性があると考えられる.がん患者と家族の心理的支援として,精神心理学領域の専 門家よるグループ療法が始められてきている(Lewis et al.,2008)(Winkel,2007).
2007 年には,がん診療連携拠点病院におけるがん患者の家族に対するサポートとして,
グループ療法を 2.3%の施設で行われていたが,専門スタッフがいない等による理由で十 分に普及していない状況である(森ら,2009).
以上のことから,乳がん患者の配偶者は患者の重要な支援者として期待され,配偶者 も患者である妻に対して寄り添う気持ちを持ち,支援したいと思っているのではないか と考えられる.そして,妻の乳がん罹患により配偶者にも心理的な負担が生じること や,配偶者に対する支援が少ないことが課題となっている.精神心理学領域の専門家に よるグループ療法での支援が始められてきているが,十分に普及できていない.乳がん 患者の配偶者におけるこれらの課題を解決するには,診断時期から治療経過に沿って関 わることができる看護師による配偶者への支援を開発することが必要である.
Ⅱ.研究目的
配偶者が乳がん患者である妻の支援に関わるためには,診断時期からの配偶者の心理
面の支援が必要である.さらに,治療上生じる影響や変化を考慮した配偶者に対する包括
的な支援を行い,乳がん患者の配偶者が戸惑いや疎外感を抱くことなく,妻である乳がん
患者をサポートができるような看護介入が必要である.本研究の目的は,乳がん患者の配
偶者の心理的安定を図るとともに,妻の乳がん治療において配偶者が役割を認識できるよ
うな看護介入を開発し,その有効性を評価することである.
第2章 文献検討
Ⅰ.乳がん患者と治療の特徴 1. 乳がんの特徴
2005 年の全国がん罹患推計では,女性におけるがんの年齢調整罹患率の第 1 位が乳が んであり,1975 年以降増加傾向が続いている(日本乳がん学会,2011b).年齢別にみた 女性の乳がん罹患率では 40 歳代後半から 50 歳代前半が最も高く,消化器系がんと肺がん が高齢になるほど罹患率が高くなることと比べ,乳がんでは壮年期の罹患率が高い特徴が ある(国立がん研究センターがん対策情報センター,2011).5 年相対生存率は 82.9%から 87.9 %と年齢別で大きな違いはなく高い割合を示す.がんの進行状況をあらわす病期別生 存率は,最も早期の段階であるⅠ期では 98.2%,Ⅱ期では 91.5 %,Ⅲ期では 67.8%,遠隔 転移のあるⅣ期では 30.4 %となっている.遠隔転移のない比較的早期の段階であるⅠ期 からⅢ期の病期では 5 年生存率が高いことも特徴である.そして,乳がん罹患者の 84.7%
が病期Ⅰ期からⅢ期を占める(日本乳がん学会,2011b).乳がんの分類は病期以外にも,リ ンパ節転移の数,腫瘍の病理組織の異型度,ホルモン感受性,HER2 感受性の検査結果に よって分けられている.検査結果により,乳がん細胞の特徴を把握し,手術療法,化学療 法,内分泌療法,放射線療法の適用の有無が検討される(大内,2006).乳がん医療の進歩 により治療の選択肢が増え,初回治療において手術のみで終了する事例が少なく,再発の リスク低減の視点から乳がん細胞の特徴にあわせた追加治療が行われるようになってき た.近年では,乳がんの標準的な初回治療期間は 1 から 6 年と長期に及ぶことが多い.
以上のことから,乳がんの特徴としては,壮年期の罹患率が高いこと,長期生存率が
高いこと,治療期間が 1 年から 6 年に及ぶことがあげられる.医療が進歩してきたこと
で,生存率が向上し外来通院での治療が可能になってきている.乳がん患者は治療法に伴
う有害事象などの心身の変化を繰り返えしながら,数年にわたって治療に伴う困難に取り
組まなければならない状況になってきている.乳がん患者の援助では,初回治療の時期か
ら長期の治療を見据えた援助が必要になってきていると言える.
2.乳がんの診断および治療を受けている患者の困難 治療経過にそった乳がん患者の困難について検討する.
患者は乳がんを診断されることで生命の期間を意識し,治療の選択に際して生命の維 持を第 1 に重視して考える(内山,2011).この時期の乳がん患者は,命と治療を自己決定 する重みに圧倒されながら,自分の状況を正確にイメージできないことや揺れ動く感情に 戸惑い冷静に考えられない困難を抱えている(国府,2008).乳がん診断の時期には,心理 的支援と治療の選択に関する意思決定の支援が必要である.治療選択における支援とし て,必要な情報を提供する支援,揺れ動く感情に対する心理的支援,生活上の負担を軽く する支援が必要であり,これら支援を行う者は医師,看護師,同病者,配偶者や家族であ る.特に,そばで見守ってくれることや生活上の負担を軽くする支援においては,医師,
看護師ではなく配偶者のみがおこなっている支援である(国府,2010).配偶者による心 理的支援の重要性について,赤嶺(2001),安達ら(2010)も日々の生活の中で患者のそ ばにいて共に悩み支える存在としてあげている.しかし,同時に,配偶者から孤独感や不 安を招く支援を受けることもあると国府(2010)により報告されている.家族の愛情がある からこそ,思いや感情がぶつかりジレンマを生じる.この状況に対して医療者は,乳がん 診断から治療の意思決定期間において,家族間の相互理解を促しながら家族が患者をサポ ートできるように支援する必要がある(国府,2010).
乳がんⅠ期からⅢ期における初回の治療は,手術療法から開始されることが多い(日本
乳がん学会,2011a).手術療法に伴い乳がん患者の QOL に影響が生じる.手術前から手術
後 1 年までの Quality of life(以下 QOL)に関する若崎ら(2010)の調査では,手術前と手
術後 1 年では QOL の差はなかったとの報告がある.手術後 2 年にわたる尾倉ら(2009)の調
査においても QOL が低下したのは術後 3 カ月頃でその後,時間的経過とともに乳がん患者
の QOL は改善している.しかし,手術前では高うつ群の QOL が低く,リンパ節を郭清した
患者では手術後早期に活動性が低下していた(若崎,2010). また,手術後の QOL に影響す
る要因として,疼痛等の身体症状や創のつれ感,腕が挙上しにくい等の上肢機能の障害が
報告されている(番所,2010).乳がん患者の手術に伴う課題は手術後の時間経過とともに 改善するが,患者の精神的落ち込みや疼痛,上肢機能の障害などの身体的苦痛を伴う場合 には一時的に QOL の低下を招く.精神的な落ち込みの要因には乳房切除による喪失感や違 和感を患者自身が受け入れられないことや周囲に伝えられないことで疎外感を生じること がある(内山,2011).
手術に引き続く放射線治療において,乳がん患者は,手術創の痛みやつれ感,上肢機 能の障害が残る中,転移・再発に対する潜在的な不安を持ちつつ,通院による治療を続け て自宅での生活を行う(赤石,2005).この時期の生活上の困難な状況は,放射線治療によ る皮膚の局所症状,毎日の通院に伴う疲労,などにより,家事や仕事,子育てが発病前と 同じようにできないことがあげられる.そのため,家庭内での活動や通院に関して周囲の 協力を得る必要がある(近藤,2004).
化学療法は,手術後の補助療法として病期Ⅰ期からⅢ期で行われる.Ⅱ期、Ⅲ期では 手術での切除範囲を小さくするために,手術前に化学療法を行い腫瘍の縮小を図る.原発 性乳がんにおいて推奨されている化学療法で使用される抗がん剤の有害事象では骨髄抑 制,悪心,脱毛の出現率が高い(日本乳がん学会編,2011a) (Polovich et al.,2005).
それぞれの有害事象の出現時期は異なる.悪心については抗がん剤の投与日から投与後 3 日程度で出現するため,前投薬として制吐剤を使用し予防が可能である.骨髄抑制につい ては抗がん剤投与後 7 日から 14 日程度で出現するため,定期的な採血を行いモニタリン グすることで重症化を予防しながら治療が進められる.これらの有害事象は抗がん剤の投 与スケジュールにあわせて数週間毎に繰り返し,体調変化の波が生じる.脱毛については 予防策がなく,カツラや帽子のよる対処が必要とされる.脱毛は,脱毛すること自体が心 理的衝撃であり,外見が変化することで外出や仕事を控えるなどボディイメージの変化に よる生活や活動への影響を受ける(Polovich et al.,2005).外来化学療法を受ける患者 が苦痛として自覚することでは,患者の約 75 %が倦怠感をあげ,約 70 %が脱毛をあげて いる.身体的苦痛以外では,患者の約 85 %が治療に行かなければならないことをあげ,
約 70%が仕事や家事への影響をあげている(斉田,2009).化学療法の副作用に対する支持
療法が進歩し外来通院で行われるが,生活への影響は避けられず,家族の理解と協力が必 要である.
ホルモン療法は,腫瘍の病理検査においてホルモンレセプターが陽性を示した患者に 行われる.乳がん患者の 70%から 80%がホルモン療法の対象者となる.ホルモン療法では 1 カ月または 3 カ月毎の外来通院となり,5 年間の継続治療が推奨されている(日本乳が ん学会編,2012).患者は,ホルモン療法に対して再発のリスクを下げる治療として期待す ると同時に,拭いきれないがんへの不安や内服の煩わしさを感じている(中山,2009).
また,更年期症状と同様のホットフラッシュや頭痛,気分の落ち込み等の自覚症状による 苦痛を抱えることがある(日本乳がん学会編,2012)(内山,2011).
以上のことから,乳がん患者の困難は,乳がん診断直後では精神的な動揺を抱える中 での治療の意思決定があり,治療開始後では治療に伴う有害事象の対応であり,治療期間 を通して,再発への不安,生活への支障が生じていることである.これらは,患者 1 人で 対応することは難しく診断から治療期間の全経過において家族の協力や医療者の支援が必 要である.
3.乳がんの診断および治療受けている患者への支援の現状
乳がん患者の支援については多くの研究から,治療経過に沿った看護支援が示されて おり、その現状について検討する.
診断の時期における心理面へのケアでは,危機に対する乳がん患者の自然な反応を理解
し,衝撃を緩和する支持的精神療法を行うこと(阿部ら,2006).治療の選択・意思決定に
おいては,精神的な支援とあわせて治療選択に必要な情報を提供し,患者が情報を整理で
きるよう促す(阿部ら,2006) (福井,2002) (国府,2010).診断時期における家族からの支
援では,患者は家族に乳がんについて話し相手になってもらい,患者の意思を尊重される
ことで治療の意思を明確していく過程の支えになることや生活上の負担を軽くすることが
患者の支援につながっている(国府,2010) (菅原,2012a).乳がんの診断から初回治療開始
までの時期は,専門的な立場の医師や看護師と共に,家族からの支援も不可欠である.特 に配偶者からの精神的な支援,日常生活上の支援は乳がん患者の支援として大きな位置を 占めていると考えられた.
治療開始後,各治療に伴う有害事象に対する予防方法,対処方法の指導について研究 報告がされており (佐藤,2009) (中山,2009),学会等からガイドラインが示されている (Polovich et al.,2005) (阿部ら,2006).乳がん患者の治療は,手術,化学療法,内分泌 療法,放射線療法を組み合わせて行われ,Ⅰ期からⅢ期であっても初回治療開始から標準 的治療のすべてを終了するまで 1 年から 6 年を要する場合が珍しくない(日本乳がん学会 編,2011a).治療中であっても治療に前向きに取り組み QOL を高めて生の充実を図るため の援助として,診断後早期から乳がんに罹患したことの衝撃を緩和し,病気や治療の理解 を促す認知的・情緒的側面の援助の必要性が示されている(鈴木,2005).以上のように乳 がん患者の治療期間中の有害事象の予防方法や対策について患者への指導や,診断時期の 早期から看護介入を行う支援方法が示されてきている.このように乳がん患者は,治療の 経過に沿って専門的な立場の医師や看護師の支援を繰り返し受けながら闘病し,繰り返す 自分の心身の変化を体験しながら,治療や乳がんとの付き合い方を受け入れていく.
医療の進歩により乳がん治療のほとんどが外来通院で行われ,日常生活を維持しなが
らの治療となる.外来通院治療を受けながらも,乳がん患者は日常生活行動が自立し、患
者なりに心身の変化を受け入れ、対処を身につけていけるような支援が実施されてきてい
る.それでもなお,乳がん患者は有害事象が出現する数日間は家事ができなくなることや
家族へ負担をかけることを気にかけている(斉田ら,2009).乳がん患者は,治療に取り組
む患者としての存在だけでなく,個々の生活や家族の一員としての存在でもあり,生活者
としての立場も同時に持っている.治療期間中であっても,家族の理解と協力が重要であ
り,患者本人だけでなく家族の支援もあわせて行われる必要があると考えられる.
Ⅱ.乳がん患者の配偶者に関するこれまでの研究
乳がん患者の配偶者は,妻である患者からもっとも身近な支援者として期待されていた (福井,2002) (宮下,2004).乳がん患者の配偶者に焦点をあてた研究では,乳腺外来通 院者の配偶者を対象にした調査によると,配偶者の 37%に軽度の抑うつが認められたとの 報告があり,抑うつが患者だけでなく配偶者にも同等の割合で認められることが指摘され ている(萬谷ら,2002) (佐伯ら,2003).この調査は乳がん診断後に外来通院している患者 とその家族を対象として,診断後の期間を限定しない調査であり,診断直後から数年経過 した対象者も含まれている.乳がん診断後の時間経過を考慮した調査では,乳がん診断後 3 か月後に適応段階にあった配偶者は 54%であり,妻の乳がん診断後 3 か月後にあっても 約半数の配偶者は通常と異なる精神状態にあり支援の必要性が指摘されている(DaltonⅢ et al.,2007).これらのことから,乳がん患者の配偶者には抑うつ傾向の心理的負担が生 じ,3 か月程度の期間を経ても軽減していないことがわかる.がん患者の場合,がん告知 などの悪い知らせの直後には強い抑うつ状態から日常生活に支障が生じるが,一般的には およそ 2 週間程度で回復すると言われている.しかしながら,2 週間を経過しても回復し ない場合には適切なスクリーニングによって精神科へつなぐことが必要であるとされてい る(内富,2011).乳がん患者の配偶者に対しても,乳がん診断直後から自然な心理反応の 範囲にあるかを見極めて支援を行うことが必要と思われる.
乳がん患者の配偶者が,ストレス状況においてどのように対処しているかに焦点をあ
てた研究報告がある.Hinnen ら(2009)の報告によると,乳がん患者の配偶者は刺激しな
いよう見守る対応をとることで乳がん患者である妻を支援していると認識していた.しか
し,この対応は患者である妻の苦痛が大きい場合に,妻には配偶者からの支援として認識
されていなかったことの報告がされている.また,山崎(2006)の報告では,配偶者は妻に
対して手術前より手術後の方が共感し寄り添う気持ちを強くもっているが,配偶者自身の
感情を発散する方法を十分に持っていないことが明らかにされている.乳がん患者の配偶
者は自分自身の心理的負担に十分に対処できないままでいながら,妻を支援したいと思い
模索していると考えられた.
乳がん患者の配偶者を対象に心理面の支援に焦点をあてた精神心理学領域の専門家に よるグループ療法での介入研究の報告がいくつかある(Lewis et al.,2008)(Winkel,
2007) (森ら,2009).Lewis ら(2008)の報告は,乳がん診断後約 4 カ月の配偶者を対象 に,個別の教育的相談による介入を行い,介入前後において配偶者の抑うつ気分,不安,
自己効力感の改善がみられた.介入内容は,配偶者の心理的変化を記述させること,妻の 思いを聴く技術を指導すること等について 2 週間ごとに 5 回の面談を行うものである.
Winkel(2007)は,早期乳がんで手術後 6 か月以内のカップルを対象に,感情の表出を促 し,がん患者における自然な感情状態の変化について理解を深めるなどの介入を行ってい る.この研究報告では,グループセッションが,乳がん患者のカップルの情緒的対処方法 として効果があると報告している.これらの報告から,乳がん診断に伴う心理的変化につ いて教育的に関わることは乳がん患者および配偶者の気分状態の改善に効果があると思わ れる.これまでの報告は初回治療が開始され数か月経過した時期での介入であり,配偶者 の心理的負担が大きい乳がん診断直後からの支援を検討する必要があると思われる.日本 においては,がん診療連携拠点病院におけるがん患者の家族に対するサポートとして,グ ループ療法の実施が 2.3%の施設で行われていたが,専門スタッフがいない等による理由 で普及が待たれる状況である(森ら,2009).
以上のことから,乳がん患者の配偶者は患者の重要な支援者とし期待され,グループ
療法等による教育的介入方法の検討が始められているが,十分に普及していない.乳が
ん患者の診療や治療経過に沿って,患者および配偶者のストレスが高い診断時期から治
療経過に沿ってタイムリーに配偶者を支援することができる看護師による配偶者への支
援を開発する必要があると考える.
第3章 看護介入プログラムの開発
Ⅰ.看護介入プログラムの開発の目的
乳がん患者の配偶者に対する看護介入プログラムの開発のために,まず,乳がん患者 の配偶者が,妻の乳がん診断と治療を受ける状況に対してどのような認識を持ち,対処し ているかを明らかにし,必要な看護介入の内容を検討する.妻の診断時期における配偶者 の認識や対処の状況を明確にすることで,配偶者の心理面だけでなく配偶者の取り組みを 支援する内容を明らかにする. 次に,配偶者の認識と対処をもとに,先行研究および文献 を参考に看護介入プログラムを開発する.
Ⅱ.乳がん患者の診断から初回治療終了までの配偶者の認識と対処行動 1.研究目的
乳がん患者の診断から初回治療終了までの配偶者の認識と対処行動を明らかにし,乳 がん患者の配偶者の支援の必要性と方法を検討する.
2.研究方法 1)用語の定義
初回治療:原発性乳がんで,初めて受ける治療のことで,手術療法と放射線療法,化 学療法,内分泌療法を適切に組み合わせて行われた治療.
認識:乳がん患者の配偶者が妻の乳がん診断時における思いと,初回治療終了までに 配偶者が妻や乳がんという病気,治療に対して考え,感じたこと.
対処行動:乳がん患者の配偶者が妻の乳がん診断時から初回治療終了までに考え,感
じたことに対してとった行動.
3)対象者
乳がん罹患に伴う乳がん患者の課題は発症年齢や初発時の病期によって異なる.乳が んの発症は 40 歳から 50 歳が最も多いこと,30 歳代で発症する患者は若年性乳がんと呼 ばれ妊娠出産の課題を持ち 40 歳以降の患者とは異なる問題を抱えることが多い.また,
乳がんは病期によって初回治療の組み合わせが異なる.このため,対象者の選定において 乳がんの罹患年齢と成人期の発達課題,および病期を考慮し,研究への参加で精神的負担 を生じない倫理的配慮をふまえた対象範囲とした.本研究の対象は,以下の条件を満た し,研究に同意の得られた乳がん患者の配偶者とした.
・患者および配偶者の年齢が 40 歳から 60 歳代であること
・がん診療連携拠点病院にて、乳がんⅠ期,Ⅱ期の診断を受けた患者の配偶者である こと
・患者および配偶者に精神疾患の既往がないこと 4)調査方法
半構成的な質問による面接法を用いて行った.面接内容は,①患者が乳がんと診断さ れた時の配偶者の認識と対処行動,②患者が乳がんと診断されてから初回治療終了までの 配偶者の認識と対処行動について半構成的質問を用いて面接を行った.面接時間は 1 回,
約 30 分から 60 分で,プライバシーの保たれる個室にて配偶者と研究者の対面で行った.
研究対象者の許可を得られた場合に IC レコーダーに録音した.面接で得られた語りは逐
語録を作成し,データとした.録音許可を得られない場合には,同意を得たうえでその場
で筆記にて記録し,面談直後に逐語録を作成した.対象者の背景(年齢,職業,患者の年
齢,病期,治療,診断後の期間)について自記式質問紙を作成し,面談前に対象者が記述
した.
5)分析方法
得られた質的データについては逐語録を作成し,半構成的な質問①②の内容について 内容分析を行った.分析の手順は,逐語録を繰り返し読み,意味単位毎に単位化した文を コードとして抽出した.コードを抽出する際には,対象者の背景や文脈を考慮して本質的 な意味から外れないよう留意して行った.次に,同じ意味内容のコードをまとめてサブカ テゴリー化,カテゴリー化を行った.分析の全過程において,がん看護分野の専門的知識 を持つ研究者のスーパーバイズを受け,逐語録,コードを何度も読み返して解釈が研究者 間で一致するまで繰り返し吟味し,信憑性,真実性の確保に努めた.
6)倫理的配慮
研究者の所属施設の倫理委員会(宮城大学看護学部倫理審査委員会)の審査を受け承認 を得た.また,協力組織に研究計画書を提出し承認を得た.研究協力者の選定において は,協力組織において対象者の条件を満たす方の選定して頂いた.対象者の条件を満たす 方に対して,研究者が研究内容と協力依頼について書面及び口頭で説明を行い,同意の得 られた方に研究協力を頂いた.
研究協力者へ説明した内容は,研究の目的および方法,研究参加は自由意思であり途 中中断が可能であること,研究参加の有無により不利益を被らないこと,匿名性やプライ バシーを保護すること,研究結果は個人が特定できないようデータを処理してまとめた後 に学術学会おいて公表することを書面及び口頭にて説明した.また,面接時には研究に参 加することでストレスや不快感,疲労感が増大しないよう配慮した.
3.結果
1)対象者の背景(表1)
対象者は 6 名で,年齢 50 歳から 60 歳代,職業についている者 4 名,定年退職した者 2
名であった.乳がん患者である妻の年齢 40 から 60 歳代,病期Ⅰ期 4 名,Ⅱ期 2 名,診断
から面接までの期間 1 から 116 カ月であった.妻が受けた治療は,手術療法 6 名,放射線 療法 5 名,化学療法 3 名,ホルモン療法 4 名であった.
2)乳がん患者の診断から初回療終了までの配偶者の認識(表2)
コード「」,サブカテゴリー〈〉,カテゴリー《》であらわす.
妻の乳がん診断から初回治療終了までの配偶者の認識に関して 64 コード,24 サブカテ ゴリー,《乳がん診断は思いがけないショックなできごと》,《乳がんは,病状が初期で 治療可能ならば深刻に考えない》,《乳がんは再発や転移が心配であり,医師による専門 的な治療が必要である》,《病気や治療による妻への影響が心配である》,《妻の体調が 夫の気持ちに影響する》,《診断治療において妻の心理面の負担が心配である》,《乳が んによる女性特有のことについて夫は話しにくい》,《妻の乳がん罹患により,これまで の生活のあり方では対応できないことがある》の 8 カテゴリーが抽出された.
《乳がん診断は思いがけないショックなできごと》には,配偶者が初めて妻の乳がん診 断を聞いた時に衝撃を受けて〈乳がんの診断はショックなできごと〉と認識されていた.
ショックとは,〈乳がんの診断は想定していなかった妻の死を意識させられた〉できごと であり,その意識の中で〈最悪の場合妻がなくなるという恐怖心を感じた〉ことが含まれ
歳代 職業 歳代 病期 治療 診断から面接まで
の期間(M) A 60 公務員 50 Ⅰ期 乳房部分切除、放射線療法、ホルモン療法 64
B 60 元会社員 60 Ⅰ期 乳房部分切除、放射線療法 1
C 50 会社員 60 Ⅰ期 乳房部分切除、放射線療法、ホルモン療法 2 D 50 自営業 40 Ⅱ期 乳房全摘術、化学療法、ホルモン療法 116 E 50 公務員 50 Ⅰ期 乳房部分切除、放射線療法、化学療法、ホルモン療法 49 F 60 元会社員 50 Ⅱa期 乳房部分切除、放射線療法、化学療法 2
表1 対象者の背景
対象者(夫) 患者(妻)
た.配偶者は妻の乳がん診断を思いがけずに妻の死を突きつけられたショックなできごと と認識していた.しかし,《乳がんは,病状が初期で治療可能ならば深刻に考えない》と 気持ちを切り替えていた.このカテゴリーには〈病状が初期の段階であれば深刻に考えな い〉,〈治療できる病状であれば深刻に考えない〉が含まれた.この中には,「診断がつ いて初期とわかり治療できると思ったら安心した」,「本人や自分としてはね,がんにな ってしまったのはしょうがない,でも,ちゃんと説明されて治療して大丈夫って認識を持 って,深刻には考えていない」のコードが含まれ,配偶者は病期や治療が可能であるかど うかを,乳がんの深刻さの程度として評価していた.病期の意味や治療の可能性を知るこ とを契機に配偶者は精神的なショックから気持ちを切り替えていた.病状の進行度と照ら し合わせた状況の認識に加えて,《乳がんは再発や転移が心配であり,医師による専門的 な治療が必要である》と乳がんという問題に取り組む認識を持っていた.このカテゴリー には,配偶者は妻の乳がんを〈再発が心配な病気である〉,〈転移が心配な病気である〉
という理解をし,妻の病期がⅠ,Ⅱ期であり現時点で転移がなくても,再発や転移による 進行の可能性が心配であることが含まれた.そして,進行の可能性を認識することから
〈医師による専門的な治療が必要である〉と意識していた.配偶者は妻の乳がん罹患に伴 う思いがけなく妻の死を意識させられるできごとに対して,病状の進行度と治療の可能性 を見据えて事実をとらえようとしていた.
《病気や治療による妻への影響が心配である》には,思いがけない妻の乳がん罹患に 際して,〈乳がんの原因やどんな病気であるのかわからない〉,〈乳がんに関する情報を 得る方法がわからない〉が含まれた.配偶者は想定していなかった妻の乳がん診断直後 は,状況をどのようにとらえてよいのかわからずにいた.また,状況を理解するための情 報をどのように集めればよいかについても戸惑っていた.初回治療中においては,〈治療 経過で妻にどんな影響が生じるのか気になる〉と治療に伴う妻の変化を心配し,〈仕事が 妻の病気にどんな影響があるのかわからない〉と仕事など治療以外のことが妻にどのよう な影響があるかも気にかけていた.配偶者は,乳がんに罹患し治療にのぞむ妻を理解する ための情報を必要とし,治療がすすむ中で妻に生じる影響がわからないと認識していた.
治療にのぞむ妻の状態を探りながら見守っていることは,《妻の体調が夫の気持ちに影響
する》ことにつながっていた.現時点で妻が一見元気であっても,〈手遅れにならないよ うにと気がせいた〉と焦りを感じ,〈妻がつらそうでなければ,夫も気持ちが落ち込まな い〉と妻の反応に影響されて配偶者の気持ちが揺れ動くことが含まれていた.そのような 中で配偶者は〈元気にしている乳がん経験者を知っていたので気持ちが楽であった〉と妻 以外の乳がん経験者の情報をたよりに気持ちを整えていた.また,〈診断まで3年あった ことと進行していないことで,夫の気持ちの免疫がついた〉では,乳房の異常を指摘され てから悪性が確定するまで3年間の期間があった事例において,3年の間に配偶者は気持 ちの揺れに対する免疫がついたと認識していた.配偶者は,妻の病状や反応により配偶者 自身の気持ちも揺れ動き,その気持ちの揺れには他の体験者の状況や期間が影響すると認 識していた.治療にのぞむ妻の状態がわからないと感じ,配偶者が気にかけていたことの 一つは,《診断治療において妻の心理面の負担が心配である》という妻の心理面ついてで ある.このカテゴリーには〈病気のことを隠しだてすると,本人も家族も苦しい〉が含ま れ,配偶者自身の心理面だけでなく妻の心理面に対しても気を配っていた.そして,〈病 状が進行している場合は患者の心理的負担が大きい〉と病状進行状況が妻の心理的負担の 程度に影響すると考えていた.〈治療経過において妻の心理面の変化や影響が心配であ る〉には「妻はしばらくの間,検査で値が悪いと落ち込んだり,大丈夫だと落ち着いたり の繰り返しだった」のコードが含まれ,妻の心理負担や治療に伴う心理的影響を配偶者は 気にかけていた.そして,〈妻は悩みを表に出したくない時があると思う〉と妻の様子か ら察し,〈妻の受診時に同行し心理的サポートが必要である〉と,心理的サポートの必要 性を認識していた.治療にのぞむ妻の状態がわからないと感じ,配偶者が気にかけていた ことのもう一つのことは,《乳がんによる女性特有のことについて夫は話しにくい》と言 うことであった.このカテゴリーには,〈女性としての変化について,妻は気にかけてい ないように見える〉が含まれた.配偶者は,「部分切除で乳房が残っており,本人が女性 としての変化を気にかけていないようなので,夫として特に気にかけることはない」,
「女性としての関わり方についてはあまり意識していないが変わりない」のコードが含ま れ,配偶者が女性特有と感じることについて積極的に関わるものではないと感じていた.
しかし,〈女性としての変化について,女同志であれば話しやすいようだ〉のサブカテゴ
リーには,「娘と妻の女同士で通じることがあるかも知れないが,自分は詳しくはわから
ない」,「髪の毛のことなど女性特有のことは夫婦でも相談しにくい面があるようで同性 の友達に相談している」のコードが含まれていた.これは,男性である配偶者は関わりに くいが,家族内の女性同志や妻の女友達と話すなど同性のサポートが必要であることを認 めるものであった.
《妻の乳がん罹患により,これまでの生活のあり方では対応できないことがある》に は,〈手術のとき就職していない子どもの対応が頭をよぎった〉,〈妻が入院中の自分の 食事の支度が大変と思った〉が含まれた.配偶者は,妻の乳がん罹患によって日々の生活 を変えなければ対応できないことがあると認識していた.また,〈妻が乳がんになり人生 設計が変わると思った〉,〈大きな手術をした妻を夫が支えて行かなければならないと感 じた〉が含まれ,今後の人生のあり方や妻への関わり方を変化させるできごとであるとも 感じていた.
以上のことから,配偶者は妻の乳がん診断に対して命に関わる重大なできごとと認識
し,衝撃を受けていた.この衝撃は,病状の進行の程度や治療の可能性を知ることで深刻
に考えないでも大丈夫なものと捉えなおしをして配偶者の気持ちを切り替えていた.しか
し,乳がんは進行の可能性があり軽視できない病気と認識し,専門的な治療をきちんと受
けてほしいと考えていた.そして,重大なできごとで衝撃的である乳がんに罹患した妻へ
の心理的な影響や情緒反応を気にかけており,サポートの必要性を認識していた.その一
方,その妻の反応により配偶者自身の気持ちも影響され,女性の特徴である乳房に関わる
妻の思いはさっしきれないところがあると認識していることが明らかになった.
3)乳がん患者の診断から初回療終了までの配偶者の対処行動(表3)
コード「」,サブカテゴリー〈〉,カテゴリー《》であらわす.
妻の乳がん診断から初回療終了までの配偶者の対処行動に関して,26 コード,11 サブ カテゴリー,《病気に関する情報収集をする》,《妻の気持ちを安定させるために努力す る》,《親や親せきの心理的負担を考慮して乳がん罹患について伝える》,《周囲の支援 を活用して妻の役割負担を軽減する》の 4 カテゴリーが抽出された.
サブカテゴリ― カテゴリ―
乳がんの診断はショックなできごと
乳がんの診断は想定していなかった妻の死を意識させられた 最悪の場合妻がなくなるという恐怖心を感じた
病状が初期の段階であれば深刻に考えない 治療できる病状であれば深刻に考えない 再発が心配な病気である
転移が心配な病気である
医師による専門的な治療が必要である
乳がんの原因やどんな病気であるのかわからない 乳がんに関する情報を得る方法がわからない 治療経過で妻にどんな影響が生じるのか気になる 仕事が妻の病気にどんな影響があるのかわからない 手遅れにならないようにと気がせいた
妻がつらそうでなければ、夫も気持ちが落ち込まない 元気にしている乳がん経験者を知っていたので気持ちが楽で あった
診断まで3年あったことと進行していないことで、夫の気持ちの 免疫がついた
病気のことを隠しだてすると、本人も家族も苦しい 病状が進行している場合は患者の心理的負担が大きい 治療経過において妻の心理面の変化や影響が心配である 妻は悩みを表に出したくない時があると思う
妻の受診時に同行し心理的サポートが必要である
女性としての変化について、妻は気にかけていないように見え る
女性としての変化について、女同志であれば話しやすいようだ 手術のとき就職していない子どもの対応が頭をよぎった 妻が入院中の自分の食事の支度が大変と思った 妻が乳がんになり人生設計が変わると思った
大きな手術をした妻を夫が支えて行かなければならないと感じた
表2 乳がん患者の診断から初回治療終了までの配偶者の認識
診断治療において妻の心理面の負担が心配である
乳がんによる女性特有のことについて夫は話しにくい
妻の乳がん罹患により、これまでの生活のあり方では対応できな いことがある
乳がんの診断は思いがけないショックなできごと
乳がんは、病状が初期で治療可能ならば深刻に考えない
乳がんは再発や転移が心配であり、医師による専門的な治療が 必要である
病気や治療による妻への影響が心配である
妻の体調が夫の気持ちに影響する
《病気に関する情報収集をする》の対処行動には,〈病気に関する情報は妻から説明 を聞く〉,〈病気に関する情報は本やインターネットで得る〉が含まれていた.配偶者は 乳がんの進行の程度や治療の可能性に関する情報について妻を通して病院から得て,ショ ックを受けていた.病院からの得られる診断や治療に関する情報で事実は伝えられるが,
情報の意味や妻への影響など具体的な事は理解できないためインターネットや本を利用し て配偶者が情報を求め収集して,妻の状況を理解しようとしていた.
《妻の気持ちを安定させるために努力する》の対処行動に含まれた〈妻の求めや思い を沿う〉では,「医師の話しを妻と一緒に聞き,信頼できると感じて,妻の手術決断に沿 った」のように治療選択において妻の意向を後押しすることや,「万が一を考えて,妻が やりたいようにやらしてあげたいと思い,妻が遊びに行きたいと言うことには断らずに付 き合った」のように,妻の希望を聞き妻の思いに配偶者が従う行動をとっていた.また,
配偶者は〈普段と変わりなく接する〉ことで,これまでの生活と異なる心理的な緊張感を やわらげ,〈妻に心理的負担をかけないよう気を使う〉対処行動をとっていた.配偶者の 妻に対する接し方としては〈妻に心理的負担になるような夫の気持ちは表現しない〉が含 まれて,「乳房切除後の外見について,夫から言うと妻の負担になると思い,言わないよ うにしている」のように,配偶者の気持ちを抑えることで妻を刺激しない対処行動がとら れていた.また,妻の気持ちを刺激しないこととして手術で乳房を切除することについて
〈子供が妻へ心理的負担をかけないように夫が子供へ説明する〉対処行動をとっていた.
配偶者は,妻の心理面を気にかけて,妻の気持ちに負担をかけないため刺激しないことを
心がけた行動をとっていた.《親や親せきの心理的負担を考慮して乳がん罹患について伝
える》の行動には,〈親の心理的負担を配慮して乳がん罹患のことを伝える〉,〈親せき
にはタイミングをはかって乳がん罹患のことを伝える〉が含まれていた.本研究の協力者
は 40 から 60 歳代であり,親世代は健在であっても,兄弟や親せきにおいてがん罹患や亡
くなっている方がいた.がん罹患や他界は親世代,親戚にとっても心理的負担があること
を考慮して乳がん罹患について,親や親せきへ伝えるタイミングをはかる行動をとってい
た.乳がん罹患や治療に伴う心理面の負担については,妻だけでなく,親や親せきに対し
ても配慮した対処行動が取られていた.
《周囲の支援を活用して妻の役割負担を軽減する》の行動には,〈子育てに父母の協 力をもらう〉,〈夫が家事を手伝う〉が含まれていた.これまで妻が行っていた子育てや 家事などの家のことについて,入院や治療によって妻ができなくなることに対して,同居 家族や身近な親戚の助けをもらうなどして対応していた.
以上のことから,配偶者は情報を集めて乳がんや乳がんに罹患した妻を理解すること に努力し,妻の心理面を気にかけ,刺激しないことで心理的負担をかけないよう努力して いた.そして,心理的負担をかけないことは親や親せきに対しても配慮され,これまで妻 が行っていた家での役割を同居家族や身近な親戚の助けをかりる対処行動がとられてい た.
4.考察
1)乳がん患者の診断から初回治療終了までの配偶者の認識と対処行動の特徴
カテゴリー間の関係を診断から初回治療終了までの経過をふまえて検討し,配偶者の 認識と対処行動の特徴を述べる.
サブカテゴリ― カテゴリ―
病気に関する情報は妻から説明を聞く 病気に関する情報は本やインターネットで得る 妻の求めや思いを沿う
普段と変わりなく接する
妻に心理的負担をかけないよう気を使う
妻に心理的負担になるような夫の気持ちは表現しない 子供が妻へ心理的負担をかけないように夫が子供へ説 明する
親の心理的負担を配慮して乳がん罹患のことを伝える 親せきにはタイミングをはかって乳がん罹患のことを伝え る
子育てに父母の協力をもらう 夫が家事を手伝う
表3 乳がん患者の診断から初回治療終了までの配偶者の対処行動
病気に関する情報収集をする
妻の気持ちを安定させるために努力する
親や親せきの心理的負担を考慮して乳がん罹患につい て伝える
周囲の支援を活用して妻の役割負担を軽減する