博士論文要旨
レジスタンス運動・トレーニングに伴う糖代謝亢進 メカニズムの探索
立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科 スポーツ健康科学専攻博士課程後期課程
キド コウヘイ 木戸 康平
【背景】
近年、米国糖尿病学会は血糖コントロールの改善に向けて有酸素性運動とレジスタン ス運動の両運動様式の実施を推奨している。しかし、レジスタンス運動による血糖コン トロールについて検討した先行研究は、その現象を観察するに留まり、分子レベルでの 作用機序は未だ不明確である。
運動後の骨格筋における糖代謝の亢進は、単回運動によるインスリン非依存的な糖取 り込み(GU)の亢進と、慢性トレーニングによるインスリン感受性(IS)の亢進に大別 される。本研究では、単回レジスタンス運動(RE)及び慢性レジスタンストレーニング(RT) が糖代謝を亢進する分子メカニズムをそれぞれ検討することで、分子メカニズム解明に 取り組む。
【方法】
・研究課題 1:RE による糖取り込み亢進メカニズム-単回の有酸素性運動(AE)との比較 11 週齢の雄性 SD ラットを対象とし、腓腹筋に対する経皮電気刺激にて RE を、トレッ ドミルによる強制走運動にて AE を実施した。各運動条件終了直後、1、3 時間後に腓腹 筋を摘出し、GU に関わる因子の応答を測定した。
・研究課題 2:低インスリン濃度が RE 後の糖代謝に与える影響
11 週齢の雄性 SD ラットをコントロール群(CON)とストレプトゾトシンによる低イン スリン群(STZ)に分類した。STZ には、運動 3 日前にストレプトゾトシンを腹腔注射し
(55mg/kg)インスリンの分泌を低下させた。RE は、研究課題 1 と同様の方法で実施し、
GU に関わる因子の応答を測定した。
研究課題 3:RT によるインスリン感受性改善メカニズム
20 週齢の雄性 2 型糖尿病モデルラット(OLETF)とその対照の健常モデルラット(LETO)
に、週 3 回の RE(研究課題 1・2 と同方法)を 6 週間(計 18 回)実施した。18 回目の RE 終了から 72 時間以上後に、12 時間絶食状態にてインスリン刺激後に腓腹筋を摘出し、
APPL1 の発現量及びインスリンシグナルの応答を定量した。
【結果】
・研究課題 1
RE 後の IGF-1/Akt、AMPK シグナル活性及び細胞膜の GLUT4 発現量の増加は、AE より 長時間に渡って維持された。
・研究課題 2
安静時の AMPKα Ser485/491 のリン酸化(AMPK 活性の抑制因子)は、STZ 群で有意に 低値を示した。また、CON 群と比較して STZ 群は、RE による AMPK シグナル活性が有意に 高く、AMPK 活性依存的な PGC-1α mRNA 発現の増加も高かった。
・研究課題 3
インスリンによる Akt のリン酸化及びその制御因子である APPL1 の発現量は、LETO と比較して OLETF で有意に低値を示した。一方で、OLETF に対する RT は低下した両因子 の発現量を増加させ、それらの増加の程度は有意に正相関した。
【結論】
RE は、IGF-1/Akt 及び AMPK シグナルを長時間活性化することで、GU の亢進をより長 時間亢進する可能性が示唆された。さらに、低インスリン状態での RE は、AMPK シグナ ル活性を増大するが、IGF-1/Akt シグナルには影響を与えないことも明らかとなった。
また、RT による IS の亢進は、APPL1 の発現増加が関与している可能性が示唆された。