生化学的視点からみた女子大学生の健康状態の 現状と改善について
(ミネラル成分を多く含有し炭水化物含有率を低くした食品の摂取による 生化学成分の変化)
吉 井 学,井 上 裕 貴,佐 田 愛 実,長 岡 ひかる,
野 口 のどか,橋 本 祥 子,藤 澤 綾 乃 活水女子大学 健康生活学部 食生活健康学科
State of health of female college students and its improvement from biochemical viewpoints
“Changes in biochemical parameters on a high-mineral, low-carbohydrate diet”
Manabu YOSHII, Yuki INOUE, Manami SADA, Hikaru NAGAOKA Nodoka NOGUCHI, Shouko HASHIMOTO, Ayano FUJISAWA
Kwassui Women's University Faculty of Wellness Studies
Abstract
A questionnaire survey of female college students about their state of health revealed high rates of those with complaints such as easy fatiguability, increased sensitivity to cold, and orthostatic dizziness. Detailed analysis of the results of general blood tests performed in April 2014 showed that the subjects were generally prone to anemia. Students suspected to have anemia based on the results of a red cell morphology study were put on a high-mineral, low-carbohydrate diet, and changes in parameters closely related to anemia were evaluated.
Ⅰ.緒 言
管理栄養士養成課程に在籍する女子大学生に対するアンケートを実施したところ,疲れやすい者,
冷え症の者,立ちくらみが起こると答えた者が多いことがわかった。そこで,2014年4月に血液一 般検査を行い,各検査項目について測定値が基準値以内でも中央値より高いか低いかの区域に分別 した。また,検査結果について詳細に解析した結果,全体的に貧血が起こり易い状態であることが わかった。さらに,血液の薄層塗抹標本を顕微鏡にて観察した赤血球が直径の1/3以上の窪みが ある赤血球が多いことがわかり,貧血が疑われる学生の存在が少なくなかった。この結果から貧血 が疑われる学生に「ミネラル成分を多く含有し炭水化物含有率を低くした食品」を一定期間摂食さ せて,貧血因子の体内成分の変化を調べた。
Ⅱ.方 法
対象者および解析項目と解析方法
本研究の対象者は,女子大学・管理栄養士養成課程に通う21〜24歳の大学4年生70名である。4 月の新学期が始まった時期に血液検査を実施し,その結果を生化学的に解析した。解析した検査項 目は脂質代謝系として,中性脂肪(TG),総コレステロール(T-cho),LDLコレステロール(LDL- cho),HDLコレステロール(HDL-cho),肝臓機能系として,アミノ酸変換酵素(AST,ALT),
血清アルブミン(ALB),尿酸(UA),ヘモグロビンA1c(HbA1c),総タンパク(TP),造血機能 系として,赤血球数(RBC),白血球数(WBC),血小板数(Pl),ヘモグロビン量(Hb),ヘマト クリット値(Ht),赤血球恒数(MCV,MCH,MCHC),フェリチン値,鉄結合能(UIBC),無機 質成分として鉄(Fe),銅(Cu),亜鉛(Zn),ナトリウム(Na),カリウム(K),クロール(Cl),
カルシウム(Ca)について血液中の濃度を測定した。さらに血液の薄層塗抹標本を作成しメイギ ムザ染色により赤血球と白血球の顕微鏡下での形態観察を行った。
結果の解析については各検査項目について健常人基準値または参考値を基本として,基準域の値 であるか,基準外の値であるかを判定した。基準域内であっても上限値及び下限値から5%程度に ある値は境界域とした。これはトンクスの許容誤差を考慮した。また,各検査成分の健常者基準値 の上限値と下限値の間にある中央値を境として高値域と低値域の領域に区分し,検査成分毎に平均 値が高値域に入るか低値域に入るかを区分し比較した(平均値と中央値の比較)。これにより検査 数値が健常域の中でも高値域に傾くか,低値域に傾斜しているかを判断する。さらに,アンケート 調査及び4月の血液検査の結果において貧血等が疑われる女子大学生と疲労感を訴える学生,睡眠 不足が慢性化している学生,冷え症の症状やふらつき感を感じている学生の21名について体調改善 を目的として,独自に調整・製造した「ミネラル成分を多く含有し炭水化物含有率を低くした食品」
であるビスケット(以後これを調整食品と呼ぶことにする)を3週間・毎食前に20gを摂食しても らった。3週間後にヘモグロビン量,ヘマトクリット値,血清鉄,フェリチン値を測定するととも に血液の薄層塗抹標本の鏡検を行った。尚,2014年4月の血液検査については財団法人長崎県健康 事業団に依頼した。赤血球のメイギムザ染色による顕微鏡下での形態観察および摂食後のヘモグロ ビン濃度,ヘマトクリット値は本大学にて検査を行った。Hb量の測定はSahli-小宮法により,Ht量 の測定はヘマトクリット法により測定した。また、血液の薄層塗抹標本の作成は研究協力者本人に 指先から自己採血してもらい,その後に薄層塗抹した。さらに本研究は大学倫理委員会の承諾を得 て,ヘルシンキ宣言の精神の則り実施した。
Ⅲ.結果と考察
① 脂質系統
脂質系成分の測定結果を表1に示す。HDLコレステロールとLDLコレステロールの結果をみる と,HDLコレステロール実測値は平均65.7mg/dlで標準偏差(以下SD)11.5,最大値(以下MAX)
97mg/dl,最小値(以下MIN)41mg/dl,基準値40〜96mg/dlの低値より5%以内(42mg/dl未満)
である区域のものが3名(4.3%)存在した。また,LDLコレステロール実測値では平均96.3mg/dl,
SD19.2,MAX 138mg/dl,MIN55mg/dl,基準値60〜119mg/dlより高値が10名(14.3%)存在し,
その内10%以上高値であったものが8名(11.8%)存在した。HDLは末梢組織で不必要となった余 分なコレステロールを肝臓へ輸送する役割をもつため,一般的にはHDLコレステロールのことは 善玉コレステロールと呼ばれている。このことからもこの値が低下することは好ましくない。女子 大学生の年齢でHDLコレステロールが低いものが3名いることは動脈硬化の発症を誘発しやすい 可能性が4.3%存在すると考えられるであろう。また,LDLは肝臓から末梢組織にコレステロール
を輸送する血漿タンパクである。脂質異常症や動脈硬化の誘発に直接関与する重要な危険因子であ るため,一般的に悪玉コレステロールとも呼ばれる。LDLコレステロールの臨床的意義は,高値を 示す場合は家族性高コレステロール血症をはじめとする先天的異常や続発性脂質異常症としての糖 尿病や甲状腺機能低下症,ネフローゼ症候群,肥満などの診断に有用である1)。低値を示す場合は 先天性無βリポ蛋白血症や甲状腺機能亢進症,吸収不良,肝炎,肝硬変等の診断に有用である1)。 また,栄養素としての脂質の摂取過多の者が多いことを意味する結果であるとも考えられる。
総コレステロールの結果は平均184mg/dl,SD 27.4,MAX241mg/dl,MIN124mg/dl,であり基 準値219mg/dl以上は7名(10.0%),高値境界域が8名(11.4%),合わせると15名(21.4%),基準 値150mg/dl以下が6名(8.6%)低値境界域が7名(10%),合わせると13名(18.6%)であった。
この結果から28名(40%)の者が基準値外の結果である。しかし,基準外の程度は小さく最大でも 8%未満であった。基準値内であっても基準中央値以下のものが35名(50%)いる。コレステロー ルは食生活の影響を強く受ける。ステロイドホルモンや胆汁酸の前駆体や細胞膜の構成成分として 重要であるため低値とならないように食生活には注意が必要である。
中性脂肪(以下TG)は平均59.9mg/dl,SD28.8,MAX171mg/dl,MIN25mg/dl,基準値149mg/
dl以上は2名(2.9%),高値境界域は1名(1.4%)合わせて3名(4.3%),基準値50mg/dl以下は31 名(44.3%),低値境界域は11名(15.7%),合わせて42名(60%)であった。TGは3価アルコール のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合したものであり,生体のエネルギー源である食事 として摂取される脂肪の大部分がこのTGであるから,TGの低値は栄養不足を意味しており,病的 なものとしては無βリポ蛋白血症や甲状腺機能亢進症,吸収不良症候群,肝疾患,アジソン病など がある2)。近年は若年女性の甲状腺機能亢進症が増加しているがTG摂取の低下との関連は未だ不 明である。TGが高値を示した場合は食事性高TG血症をはじめとして,糖尿病,肥満症,ネフロー ゼ症候群,尿毒症,家族性脂質異常症などがある2),今回の結果では約60%の女子大学生が低値を 示している。これは若い女性が体躯を気にしているものが多く,食事量を減少させたり朝食を欠食 したりしている可能性が大きいことが推察される。また,全体的にみると91%の人が中性脂肪が低 値域であり61%の人がLDLコレステロールが高値域であり,やせ形の体躯で脂質が高めであるとい える。
② 肝臓機能系
肝臓機能系成分の測定結果を表2に示す。アミノ酸変換酵素(AST,ALT),血清アルブミン
(Alb),尿酸,ヘモグロビンA1cおよび総タンパク(TP)の項目を検査したところ,トランスアミ ナーゼのAST(旧GOT)は平均16.9U/l,SD4.0,MAX 39U/l,MIN11U/l,であり基準値30U/l 以 上は1名(1.4%),であった。ALT(旧GPT)は平均13.7U/l,SD 7.3,MAX 64U/l,MIN7U/l,
基準30U/l以上は1名であり,ASTの基準値以上のものと同一人物であった。血清アルブミンでは 平均4.7g/dl,SD0.3,MAX5.3g/dl,MIN3.8g/dl,基準値3.8〜5.2g/dlを外れるものは居なかった。
尿酸は平均4.3mg/dl,SD0.7,MAX5.7mg/dl,MIN2.1mg/dl,基準値2.5〜7mg/dlを外れるものは 居なかった。ヘモグロビンA1cは平均5.0%,SD0.2,MAX5.5%,MIN4.7%,基準値4.6〜5.5%を外 れるものは居なかった。総タンパクは平均7.3g/dl,SD 0.4,MAX 8.2g/dl,MIN 6.6g/dl,基準値6.7
〜8.3g/dlを外れるものは無かった。肝臓機能系の検査においては1名を除いて特筆すべきことは 無かった。全体的なものとしてはアルブミンの結果をみると栄養不足の学生はいないと思われる。
③ 造血機能系
造血機能系成分の測定結果を表3および表5に示す。赤血球数(RBC),白血球数(WBC),血 小 板 数(pl), ヘ モ グ ロ ビ ン 量(Hb), ヘ マ ト ク リ ッ ト 値(Ht), 赤 血 球 恒 数(MCV,MCH,
MCHC),フェリチン値,鉄結合能(UIBC)について,まず赤血球数について平均値446万/μl,
SD 27.9,MAX506万/μl ,MIN391万/μl,赤血球数基準値376〜500万/μl を外れる異常値は居な かった。白血球数は平均6030/μl,SD1739,MAX 10700 /μl,MIN 2900/μl,基準値3500〜9100 万/μl 以上は5名(7.1%)いた。この5名は何らかの炎症があったと推察される。基準以下は4 名(5.7%)であった。この4名は病原体に対する防御作用が低下している可能性があると考えられ る。ただし,白血球数は年齢や精神的ストレスなどの生理的変動が大きい2),また,採血部位や採 血条件等の環境的要因による影響も受けやすい1)。血小板数は平均26.2/μl,SD4.6,MAX39.3/μl,
MIN 17.3/μl,基準値範囲13〜36.9万/mm3から外れるものは居なかった。Hb量は平均13.2g/dl,
SD 0.9,MAX15g/dl,MIN11g/dl,基準値12.1〜15.2g/dl以下が4名(5.7%),低値境界域が5名(7.1%)
合わせて9名(12.9%)であった。Ht値は平均40.4%,SD2.1,MAX45%,MIN35%,基準値33.4
〜4.9%に対して低値境界域が1名(1.4%)であった。
前述したように赤血球数の異常は認められなかったが,血液の薄層塗抹標本のメイギムザ染色後 による赤血球の顕微鏡観察の結果では21名(30.0%)が赤血球の窪みの部分が赤血球直径の1/3 以上に拡大したものであり,貧血を疑わせる赤血球であった。これは赤血球数としては計測される ため数値に異常とは見なされないが,機能低下状態になることが予想される。赤血球は中央が薄く なっているためヘモグロビン(以下Hb)量が少なく明るく見える3)。臨床検査においては一定体 積中の赤血球の数及びヘモグロビンの量がそれぞれ赤血球数及びHb量として計測される1)。赤血 球の主な役割は酸素の運搬であるが,それはHbによって行われる。酸素を組織に供給した後,組 織で産生された二酸化炭素(CO2)は赤血球に取り込まれて重炭酸イオン(HCO3−)に変換され血 漿中に移動する4)。その後,肺胞付近でHCO3−は再び赤血球内でCO2に変換され呼気中に排出され る4)。酸素供給の際,1個のHbは4個の酸素分子と結合して輸送される。このとき酸素が結合す るのはHb中の二価鉄(Fe2+)である4)。組織ではこの酸素の供給を受けて細胞内代謝が行われる4)。 鉄分が不足するとヘムの構造に変化をきたしHbのサブユニット構造が不充分な構造に変化し酸素 結合能が低下する。その結果として組織への酸素供給率が低下することになる。その状態になれば 末梢血中のHb濃度が基準以下に低下した状態」いわゆる貧血を呈することになる3)。WHOによる 基準値では成人女性は12g/dl未満を貧血と定義している。貧血は赤血球の産生量より消失量が大き くなった状態である3)。貧血における主な症状は組織の酸素欠乏によるものが多く,脳における頭 痛,めまい,失神発作,耳鳴りなどであり,骨格筋では易疲労感,倦怠感,脱力感等の症状が現れ る2)。
赤血球の容積の割合をHt値と呼ぶ。成人女性の基準値は約40%程度であるが,貧血で低下し脱 水状態で上昇する1)。また,Ht値とHb量の結果より算出される赤血球恒数を平均赤血球ヘモグロ ビン濃度(以下MCHC)という。これは30.7〜36.6g/dlが基準値である1)。今回の結果では平均 32.8g/dl,SD 0.8,MAX 34.3g/dl,MIN30.4g/dlであった。基準値以下が17名(24.3%)いた。こ の17名は小球性低色素性貧血の区分に分類されると考えられる。ここに区分される貧血は鉄欠乏性 貧血,鉄芽球性貧血,サラセミア等がある1)。今回の全体的な結果はヘモグロビンは低値域である がヘマトクリットは高値域であった。これは赤血球としては数量的に満足できるが,酸素運搬能力 は低下しているということであろう。
ヘモグロビンが低値であることの影響は赤血球の生成に大きく関与する。それは骨髄における赤 血球の生成には栄養素に加えて腎臓で合成されるエリスロポエチンというホルモンが不可欠である
4)。生体において酸素不足が数日続くとエリスロポエチンの分泌が増加する7)。さらに,ビタミン B12や葉酸は抗貧血ビタミンと呼ばれ5),これらも赤血球合成の必須の成分である。Hbの成分であ る2価鉄(Fe2+)は女性では月経による出血や分娩時の出血,胎児への鉄の補給,さらには授乳 でも多量の鉄の喪失がある6)。女性は恒常的に鉄の補給を必要としていると考えられる。人体に必 要な鉄は緑黄色野菜や豆類,レバー等の食品から摂取される5)が,摂取後ビタミンCなどの還元 作用により2価鉄で小腸上部で吸収される。しかし,血中に吸収されるのは食品から摂取した鉄の
10%程度が吸収されるにすぎない7)。吸収された2価鉄は粘膜細胞で3価鉄となり一部は貯蔵鉄で あるフェリチンになるが,他は血漿タンパク質のトランスフェリンとなり血中を輸送される4)。各 組織において鉄はヘモグロビン,ミオグロブリン,カタラーゼ,シトクロームCの生成に使われる
4)。人体に含まれる鉄は3〜4gでありタンパク質と結合して存在している。分布は機能鉄として 80%,その内66%はHbとして赤血球に含有され,ミオグロビンとして筋に5%,ヘム酵素1%,
非ヘム鉄8%であり,フェリチンとして20%,輸送鉄は0.1%である8)。
④ 無機質成分
無機質成分の測定結果を表4に示す。ナトリウム(Na),カリウム(K),クロール(Cl),カル シウム(Ca),銅(Cu),亜鉛(Zn),鉄(Fe),について検討した。結果はNa,K,Cl,Caについ ては異常値または注意を要する値は見当たらなかった。
血清銅(Cu)の結果は平均102.3μg/dl,SD 14.2,MAX 175μg/dl,MIN 72μg/dl,基準値は 68〜128μg/dlである。Cuの高値を示すものが2名(2.9%)高値境界域のものが2名(2.9%)合わ せて4名(5.7%)低値境界域が1名(1.4%)いた。銅は造血代謝をはじめとして骨代謝,結合組織 代謝など種々の代謝反応における触媒作用を行っている8)。特にコラーゲンの合成・架橋や抗酸化 作用には不可欠な成分である8)。血漿中ではCu2+とα2グロブリンが錯体を形成しセルロプラスミ ンとして存在している。セルロプラスミンはフェロオキシダーゼであり血漿中の95%がこの型で存 在している4)8)。また,骨髄や肝臓,脾臓などの鉄貯蔵臓器から鉄を動員する作用をもつ。さらに 2価鉄を3価鉄に変化させるだけでなく,活性酸素の一種であるO2−をH2O(水)に変える反応を 触媒する4)。そのため全身の組織に広く微量で存在する8)。Cuが欠乏すると鉄代謝が障害されると ともにトランスフェリンの生成が妨げられる8)。Cuの高値を示すのは病的には閉塞性黄疸などが あるが,今回2名の学生が高値を示した理由は血清ビリルビンを測定していないこと並びに肝機能 系項目の測定値は健常値であるため不明である。
亜鉛(Zn)の結果は平均85.2μg/dl,SD 11.6,MAX 130μg/dl,MIN 57μg/dl,基準値65〜
110μg/dlを超過したものが1名(1.4%)で,基準値以下が3名(4.3%)いた。ヒトにおいて亜鉛 は鉄に次いで多い成分である8)。バランスの良い食事を摂取していれば不足は起こらないとされる が,植物性食品中のフィチン酸が多い場合は胃内でZnと結合するのでZn2+の吸収が抑制されるこ とがある8)。Zn2+は生体内ではスーパーオキシドムターゼに含まれ活性酸素であるO2−を不活化 する働きをもつ4)。さらに赤血球や尿細管細胞中に存在し血液のpHの調節に関わる炭酸デヒドラ ターゼやエタノールをアルデヒドに変換するアルコール脱水素酵素,タンパク質のN末端での加水 分解を作用とするロイシンアミノぺプチターゼ(LAP),タンパク質のC末端での加水分解を起こ すカルボキシぺプチターゼ等にもZn2+が含まれている8)。亜鉛が欠乏すると脱毛や味覚障害が起 こる可能性が高い4)ので必要不可欠な栄養素である。特に栄養士や調理に携わる人々にとっては 調理時の味付けに深く関与する重要な物質である。
血清鉄(Fe)の今回の結果では平均83.9μg/dl ,SD 45.7,MAX 235μg/dl,MIN 12.2μg/dl,
基準値48〜154μg/dlを超過したものが6名(8.6%),基準値未満のものが19名(27.1%)であり,
低値境界域の者が5名(7.1%)であった。低値の者を合わせると24名(34.3%)が貧血傾向である と考えられる。また,平均の83.9μg/dlは健常者基準値の中央値101μg/dlより低い値であり,SD が45.7とは全体的に低い値の者が広域に存在すると思われる。このことは鉄欠乏性の貧血が起こり 易いグループであるといえる。貧血状態か否かは個人の症状や徴候により発見されることであるが,
症状が表面化する前段階における体内の鉄の低下状態は生体内代謝に大きな不都合が生じる。鉄は Hbの構成成分ではあるが,生体内代謝においては細胞内ミトコンドリアで鉄を含有するヘム蛋白 であるシトクロームCが電子の伝達体として電子伝達系(呼吸鎖)代謝に深く関与する3)。簡単に 言い換えると鉄がなければヒトのエネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)が生成できな
いということである。ゆえに摂取栄養素のなかに鉄が不足してしまうと生体内の代謝に歪みが起 こってしまうことになる。生体代謝に小さな歪みが起こっても,他の代謝に大きな影響をもたらす ことになると考えられる7)。
Ⅱ.調整食品摂食後の結果
① 貧血が疑われる学生に独自調整食品を3週間摂食させた後の貧血因子の変化
前述したように赤血球数の異常は認められなかったが,造血機能系の成分測定結果と平均赤血球 ヘモグロビン濃度(MCHC)および血球の薄層塗抹検査の形態観察の結果により,貧血が疑われ た21名について,生体への機能性をもたせるために,管理栄養士を目指す大学生が独自に調整・製 造した調整食品「ミネラル成分を多く含有し炭水化物含有率を低くしたビスケット」を3週間・毎 日毎食時に20gを摂食させた後に,貧血の状態を反映する生化学成分を測定した。その変化につい ての比較を表5及び図1に示す。さらに,薄層塗抹による赤血球形態の4月時点の調整食品摂取前 の赤血球の状態を図3,調整食品を摂食後3週間後の6月時点の状態を図4に示す。
3週間の調整食品摂食後,ヘモグロビン(Hb)濃度の平均値が13.1g/dlから12.8g/dlへと変化した。
ヘマトクリット(Ht)値は40.4%から40.7%へと変化した。MCHCは32.4%から31.4%へと変化した。
血清鉄は76.6μg/dlから78.4μg/dlへと変化し,貯蔵鉄であるフェリチンは16.8ng/mlから18.5ng/
mlへと変化した。赤血球の形態変化では代表的な顕微鏡観察結果を図3,4に示すように4月の時 点では21名全員が赤血球の中央部の窪み部分が1/3以上に拡大していたのが,摂食3週間後の6 月の時点では1/3未満に縮小していた。これは鉄不足の赤血球が鉄の補給により機能性が上昇し た赤血球に戻ったことが窺われる。独自調整食品を3週間摂食させた結果としてヘモグロビン濃度 は若干の減少があったが,ヘマトクリット値がわずかに上昇しただけで貧血の改善までは証明でき ないが、血清鉄が2.3%上昇し,貯蔵鉄が10.1%上昇したという結果と赤血球形態が本来の満足な形 態へと変化したことは貧血の改善が開始されたことと推察される。今回の補食は3週間という短期 間であったため十分な結果は得られなかったが、貧血改善の糸口は見つけられた。また、今後は貧 血改善のための調整食品を手軽に摂食できるように改善するとともに,女性の月経周期を考慮して 摂食期間を長くする検討が必要である。
② 女子大学生の食事の採り方
平成23年度国民栄養調査9)の結果をみると20〜29歳の年齢層においての1日の食事構成比(性・
年齢階級別)では朝食の欠食率が男性34.1%,女性28.8%,さらに外食率がそれぞれ男性3.4%,女 性1.5%,調理済食品の摂取は男性7.5%,女性7.5%である1)。この数値は平成19年に比して上昇し ている。朝食の欠食率が4年間で男性が3.5%,女性が6.2%上昇した。男性よりも女性の欠食率の 増加著しい。また,20〜29歳の年齢層で女性の昼食では外食24.6%,調理済食品の摂取6.9%,欠食 4.5%,夕食では外食9.6%,調理済食品の摂取5.7%,欠食2.4%である。さらに,一人世帯の食事構 成比をみると朝食41.4%,昼食3.4%,夕食6.9%が欠食である。外食または加工調理済み食品での 食事が朝食13.8%,昼食37.9%,夕食24.1%であり,家庭で自炊にて食事するのは朝食44.8%,昼食 41.4%,夕食69.0%である。大学生も一人世帯が多く,これらの学生は朝のエネルギー源摂取が出 来ない生活が長期間に亘ると,生体細胞内代謝に重大な欠陥をもたらす可能性が大きいと考えられ る。また,前述したように栄養成分には其々に役割がありバランスを保つことが病気にならない未 病生活の基本である。したがって食生活の改善が必要であり,例えば朝食としては調整食品のよう な食物を摂食するのも一方法であろう。
T−Cho HDL−cho LDL−cho TG
基準値max 219 96 119 149
基準値min 150 40 60 50
平均 184 65.7 96.3 59.9
SD 27.4 11.5 19.2 28.8
max 241 97.0 138 171
min 124 41.0 55 25
上限−下限 69 56 59 99
中央値 184.5 68.0 89.5 99.5
中央値以下の人数 35 39 27 64
中央値以下の割合(%) 50.0 55.7 38.6 91.4
表1.脂質系成分の測定結果
*検査項目については方法の項参照
AST ALT ALB 尿酸 HbA1c TP
基準値max 30 30 5.2 7 5.5 8.3
基準値min 10 5 3.8 2.5 4.6 6.7
平均 16.9 13.7 4.7 4.3 5 7.3
SD 4.0 7.3 0.3 0.7 0.2 0.4
max 39 64 5.3 5.7 5.5 8.2
min 11 7 3.8 2.1 4.7 6.6
上限−下限 20 25 1.4 4.5 0.9 1.6
中央値 20.0 17.5 4.5 4.8 5.1 7.5
中央値以下の人数 55 60 13 49 40 47
中央値以下の割合(%) 78.6 85.7 18.6 70.0 57.1 67.1
*検査項目については方法の項参照 表2.肝臓機能系成分の測定結果
RBC WBC PL MCV MCH MCHC Hb 4月 Ht 4月 Hb 6月 Ht 6月 基準値max 500 9100 36.9 100 34.3 36.6 15.2 44.9 15.2 44.9 基準値min 376 3500 13 79 26.3 30.7 12.1 33.4 12.1 33.4 平均 446 6030 26.2 90.7 29.6 32.8 13.2 40.4 11.4 40.7
SD 27.9 1739 4.6 4.2 1.7 0.8 0.9 2.1 1.6 5.0
max 506 10700 39.3 101 33.7 34.3 15 45 15.6 50.0
min 391 2900 17.3 76.5 23.3 30.4 11 35 8.4 25.0
上限−下限 124 5600 23.9 21 8 5.9 3.1 11.5 3.1 11.5
中央値 438.0 6300 25.0 89.5 30.3 33.7 13.7 39.2 13.7 39.2
中央値以下の人数 28 41 29 25 39 62 48 17 56 19
中央値以下の割合(%) 40.0 58.6 41.4 35.7 55.7 88.6 68.6 24.3 80.0 27.1 表3.造血系成分の測定結果
*検査項目については方法の項参照
*検査項目については方法の項参照
Na K Cl Ca Cu Zn Fe
基準値max 147 5 109 10.2 128 110 154
基準値min 136 3.6 98 8.5 68 65 48
平均 140.4 4.2 104 9.5 102.3 85.2 83.9
SD 1.1 0.3 1.5 0.3 14.2 11.6 45.7
max 144 5.4 108 10 175 130 235
min 138 3.5 101 8.6 72.0 57 12.2
上限−下限 11 1.4 11 1.7 60 45 106
中央値 152.5 5.7 114.5 11.1 158.0 132.5 101
中央値以下の人数 59 50 18 23 28 39 48
中央値以下の割合 84.3 71.4 25.7 32.9 40.0 55.7 68.6
表4.無機質成分の測定結果
*検査項目については方法の項参照
調整食摂食前・4月 調整食摂食後・6月
比較 MCHC Hb Ht 血清鉄 フェリチン Hb Ht 血清鉄 フェリチン
基準値 Max 36.6 15.2 44.9 154 114 15.2 44.9 154 114
Min 30.7 12.1 33.4 48 3.6 12.1 33.4 48 3.6
健常グループ 平均 32.8 13.3 40.5 88.6 27.3 ― ― ― ―
SD 0.8 0.8 2.0 48.8 18.8 ― ― ― ―
補食グループ 平均 32.4 13.1 40.4 76.6 16.8 12.8 40.7 78.4 18.5
SD 0.9 0.9 2.4 36.8 22.9 1.8 6 34.4 23.7
表5.補食グループと健常グループの比較
*検査項目については方法の項参照
図1.摂食グループの4月と6月の結果(比較)
図2.中央値と測定平均値の比較
図3.調整食品摂食前の赤血球薄層塗抹標本(学生Mの4月時点)
図4.調整食品を摂食後の赤血球薄層塗抹標本(学生Mの6月時点)
引用文献
1)金井正光:臨床検査法提要改訂第30版,金原出版,東京,1993.
2)奈良信雄:看護・栄養指導のための臨床検査ハンドブック,医歯薬出版,東京,2014.
3)土屋達行,松田 晃:病気が見える,Vol5,血液,メディックメディア,東京,2014.
4)毎田徹夫:管理栄養士を目指す学生のための生化学テキスト,文光堂,東京,2012.
5)佐藤昭夫,佐伯由香:人体の構造と機能,医歯薬出版,東京,2002.
6)渡辺優奈,善方裕美,石田裕美,上西一弘:妊婦の鉄代謝と鉄栄養状態の縦断的検討,栄養学 雑誌,Vol71,926−937,2013.
7)河合 忠,屋形 稔,伊藤喜久:異常値の出るメカニズム,医学書院,東京,2001.
8)中野 稔,戸恒博子,手老省三,池上雄作:元素からみた生化学,金芳堂,京都,2011.
9)平成23年国民健康・栄養調査結果の概要,厚生労働省