◎論説
中 国 の 刑 事 犯 罪 と 刑 法 改 正
儲椀植・楊書文・・⁝
中国の法律の歴史は︑はるか紀元前三千年前後までさか
ム のぼることができる︒それは︑幾多の紆余曲折をへながら
も受け継がれ︑連綿と絶えることなく︑長い歴史を持つき
わめて東洋的特徴をそなえた中華の法律の伝統を形成して
きたのである︒中華人民共和国成立の後も︑あらたな法律
制度の整備が模索され︑かつてひとたびは犯罪の予防︑抑
制に世界的にも卓絶した成果をあげるにいたった︒しかし︑
七〇年代以降︑犯罪は急増多発し︑中国の大地には残虐な
行ないが満ちあふれるにいたった︒重大な刑事事件の発生
率の急増︑犯罪の急速な知能化︑専門化︑また青少年犯罪︑
女性犯罪︑農民犯罪︑公職者の犯罪の深刻化︑さらには裏
社会での犯罪︑薬物犯罪︑金融犯罪の蔓延︒ために︑ある
識者は﹁中華人民共和国は成立以来もっとも深刻な犯罪の ム ピークを迎えている﹂と警句を発している︒この状況にた
いして︑犯罪とその﹁対応物﹂である刑法はすぐさまはげ
しく反応した︒中国は︑一九七〇年に﹃刑法﹄を定めたぼ
かりであったのだが︑急速な状況の変化はその修正を急務
としたのである︒一九八一年︑犯罪取り締まりの強化が打
ち出されて以来︑立法機関は二十余の単行刑法を前後して
公布︒死刑相当罪は五十余り増加し︑多くの犯罪に対して
非常に厳しい刑を定めた︒あわせて︑数次にわたる犯罪撲
滅キャンペーンが展開された︒しかし遺憾なことに︑こう
した大規模な刑法の強化は︑期待したほどの成果をあげる
ことはできなかったのである︒年々急増する刑事事件の発
生率を止めることはできず︑そればかりかかえって状況は
深刻化した︒罪と刑の問に生じたこのような矛盾は︑刑法
中国の刑事犯罪 と刑法 改正
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の全面的な改革によらなければ︑ はできないのである︒ 根本的な解決をうること
中国が直面している刑事犯罪の状況とその特徴
犯罪と刑法は表裏一体であり︑それらを分けて考えるこ
とはできない︒
中華人民共和国は建国後の長期間にわたって︑国内に対
してはきわめて厳しい計画経済体制を堅持し︑国外に対し
ては鎖国体制をとり︑欧米諸国家との交流を拒絶していた︒
この期間の犯罪発生率は︑政治的また経済的諸要因によっ
て幾度かの波はあったものの︑総体的に社会治安は比較的
安定しており︑犯罪発生率はきわめて低いものであった︒
もちろん︑この種の﹁安定﹂なるものは︑経済全体の発展
を犠牲にした代価としての社会的安定である︒
改革開放政策の進展にともない︑静止状態にあった社会
は激烈に変動しはじめる︒社会の利益構造には大きな変化
が生じ︑伝統的な道徳観念や価値観が崩壊しはじめたので
ある︒市場経済は人々の物欲を強く刺激し︑これが誘因と
なって犯罪は著しく増加した︒くわえて︑経済体制の転換
がもたらした価値観の真空状態は︑社会生活の各方面にお
ける管理においてその平衡を失わせたのである︒しかし︑ この状況に対して︑犯罪と相関関係にある刑事立法はすぐ
に適応することはできなかった︒犯罪発生率の著しい上昇
がその証左である︒ドイツの犯罪学研究者スルーリンガル
ム教授は述べている︒﹁経済発展の速度と犯罪発生率の増長
は必ずしも比例するものではないが︑しかし︑その発展の
速度は社会に激烈な変化を引き起こし︑ひいては犯罪発生
ムヨ 率の増長をもたらすのである﹂︒
中国が直面している刑事犯罪のおもな特徴は次のように
まとめられよう︒
H 重 大 事 件 の 発 生 率 の 高 潮 と 犯 罪 の 大 規 模 化
中国が直面している犯罪問題の重大性は︑たんに﹁犯罪
の量的な増加﹂にあらわれているだけではなく︑﹁犯罪の質
ム の悪化﹂にもあらわている︒近年︑故意による殺人︑強姦︑
拉致︑爆弾テロなどきわめて暴力的な犯罪が際だって増加
しており︑全国に衝撃をあたえるような大事件が時となく
発生している︒強奪犯罪は従来の押し込み強盗︑待ち伏せ
しての強盗︑昏睡強盗︑色情強盗などから︑その標的は金
融機関︑現金輸送車︑貴金属商などへと多様化している︒
統計が示しているところでは︑北京市の一九九五年の強盗
事件は一九六件︑実に二日に一件以上の割合で発生してい
ム るのである︒このほか︑組織的な麻薬販売︑人身売買を目
的とした婦女子の誘拐︑売春︑賭博など社会の醜悪な現象
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が氾濫蔓延し︑武器の密輸︑金融犯罪の悪質化は莫大な量
の金銭や物資にまで影響をおよぼしている︒また︑相当量
の銃器弾薬︑爆発物︑取り締まり対象の刀剣が社会に流入
し︑社会治安の形成にきわめて大きな脅威となっている︒
このような事件の発生は︑公民の人身と財産の安全に重大
な脅威をあたえており︑社会の全面的な進歩を阻害してい
る︒
(二)
犯罪手段の急速な現代化・知能化と
犯罪の集団化︑専門化
現代科学技術の進歩は︑多くの人民に巨大な利益をもた
らすと同時に︑犯罪者にたいしても有益な道具︑方法を提
供した︒ますます多くの犯罪者が現代化された技術や設備
を利用し犯罪を実行しているのである︒犯罪の手段と実行
にいたるまでの準備はより狡猜なものとなり︑低次元の単
一的なものから複雑で多元的なものへ変化した︒犯罪は急
速に技巧化︑知能化し︑その破壊性︑狂気と恐怖はよりいっ
そう強烈なものとなっているのである︒同時に︑集団犯罪
や組織的犯罪も暫時増加しており︑日増しに専門化︑職業
化されている︒統計によれば︑一九九五年における中国の
集団犯罪事件数は一九九四年と比較して倍増︑四三万九五
〇〇件に達し︑全刑事事件の二六%を占めている︒この傾
向は沿海地域では際立っており︑ある地方では重大な刑事 事件の七〇ー八〇%が犯罪集団によるものであった︒さら
に青少年による犯罪事件では︑その七〇%前後が集団的な
ものである︒もちろん︑青少年の犯罪集団の組織構造は一
般的なそれと比べ分散的で︑その構成員もけっして多くは
なく突発的に集合離散するものである︒したがって︑集団
による事件ではあるものの︑強い組織力を持つ犯罪集団と
は明確に区別される︒厳密にいえば︑大多数の犯罪集団も
しっかりとした組織力を持っているわけではない︒しかし︑
そうした犯罪集団が幾多の変遷を経て︑ひいては裏社会の
犯罪組織を形成するのである︒現在のところ︑いくつかの
地方ではすでにきわめて悪質な暴力団的な性質を持った犯
罪集団が出現しており︑規模の拡大と相侯ってよりいっそ
う悪質なものとなっている︒集団犯罪の組織化とそれらに
よる組織的犯罪は︑かならずや中国の刑法の関心事の一つ
となるであろう︒
(一)
犯 罪 主 体 の 急 速 な 多 元 化 と 青 少 年 犯 罪 の 深 刻 な 社 会 問 題 化
犯罪主体の多元化という動向は︑おもに次にあげる事例
にあらわれている︒
第一に︑流動人口による犯罪が社会治安にとって日増し
に大きな脅威となっていることである︒統計によれば︑現
在の中国の流動人口は八千万余であり︑これらの人々は国
中国の刑事犯罪 と刑法改正
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家の経済発展︑とりわけ都市部での建設業に対して多大な
貢献をなすと同時に︑社会治安に対しても大きな災禍をも
たらしている︒流動人口による犯罪は多方面にわたってい
るが︑おもに財産型犯罪(窃盗︑強盗など)と暴力型犯罪
(殺人︑傷害︑強姦など)に集中している︒昨今︑流動人口
は密輸密売も手掛け︑よこしまな物品の販売︑賭博︑人身
売買を目的とした婦女子の誘拐や婦女子の拉致︑売春など
といった犯罪活動はますます悪質化している︒ある識者が
指摘しているところによれば︑流動人口による犯罪の脅威
フ はむこう二一世紀中頃まで続くであろう︒
第二に︑女性犯罪の大幅な増加がある︒女性犯罪の比率
は男性に比べ低いものであったが︑しかしここ最近︑女性
の社会的地位向上と社会活動へ参加機会の増加にともなっ
て︑女性犯罪の発生率はあきらかに上昇した︒また︑﹁女性
犯罪の男性化︑暴力化﹂の流れがみられる︒青少年犯罪事
件において︑一部の大都市の男女青少年が占める割合は欧
米先進国のそれよりはるかに高い︒女性が犯す犯罪は︑お
もに性犯罪︑詐欺罪︑窃盗罪︑人身売買目的の誘拐︑殺人
お などである︒
このほかに︑青少年犯罪の激増とその低年齢化がある︒
これは世界各国においても同様であり︑現在︑中国人の眼
前におかれた世紀の難題となっている︒青少年が犯す犯罪
の種類は︑すべての犯罪種の七〇%の高きに達しているが︑ おもに窃盗︑強盗︑傷害︑強姦および麻薬の嗜好的濫用や
販売などの数種類に集中している︒それらは集団性︑暴力
性︑突発性︑破壊性などの特徴を多く呈している︒青少年
犯罪の低年齢化の趨勢も同様の難事であり︑統計によれば︑
六〇年代と比較して昨今の青少年犯罪者の年齢は二︑三歳
ム 低くなっているという︒
直面している中国の刑事犯罪の状況をもたらした原因はムむ非常に複雑であるが︑刑事法律の不備ということが唯一絶
対の原因ではないまでも︑やはりきわめて重要な要因であ
る︒したがって︑犯罪の高潮を制御するために︑中国はこ
の二〇世紀の九〇年代において刑法を全面的に改正したの
である︒
この刑法改正が持つ重大な意義をより正しく理解するた
めには︑まず中国近代史上の数次にわたる法律改正の軌跡
を簡単に振り返らなければなるまい︒
二中国刑法の沿革および改正の背景
中華の法系統は刑法を重んじ民法を軽んじ︑刑法が中心
化することを最大の特徴とする︒二〇世紀以降︑中華の法
系統は中国の封建的な政治体制の解体と西洋文明の強い影
響という挑戦をうけた︒一九〇二年︑清朝政府は詔書を発
し︑法律の全面的改正を開始した︒この動きは︑日本の刑
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