奈良教育大学学術リポジトリNEAR
演示実験による教育方法の改善
著者 吉田 武尚, 福田 和悟
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 8
ページ 39‑46
発行年 1972‑03‑15
その他のタイトル Improvement of a Teaching Method by Using a Demonstrating Experiment.
URL http://hdl.handle.net/10105/6247
演示実験による教育方法の改善*
吉 田 武 尚
(技 術教 室)
福 田 和 悟**
(大阪産業大学)
1. ま え が き
近年 ティチング.マンソ を中心とした教育機器による教育技術の研究が進められている。教
育機器には,スライドプロジェクタ,VTR,CC TV,I TV,.シュミレータ,テレメール応用,
およびこれらに関連したアナライザ等がある。そしてこれら各種の機器を用いた教育技術の展開が行 なわれているが,教示と演示実験を結びつけた実践報告はあまワされていない。
筆者等は,学習者に嫌悪的刺激を与えることなく,学習者自ら興味を持って新しい目標に向ってい く動機づけを与え,学習者が教示(数式などによる抽象的表現)と演示実験(自然現象の具体化)を 自ら具体的に結びつけ把握することを目的とした授業展開を試み,学習者が授業展開において演示実
験を通して強化されていく過程について述べ乱ここで演示実験の目的は次の3点をあげることがで
きる。
1、柳上に現象を展開する。
2.演示実験によって学習者に興味をもたせ飢
3. 1,2によリ学習者の自発的学習を可能にする。2.演示実験の授業展開
進学や他人との比較など本来あまりかかわりのない条件(嫌悪的刺激)によって学習者が学習を強 制されていることを充分考慮しなければならない三)もちろん,この種の条件づけを強化することによ って学習者の成績そのもののみを効果的に上昇させうることは可能である於 この嫌悪的刺激を除い た自主的学習を可能にするための種々の教育機器の導入による授業展開が種々工夫されている。最近
工学系大学においてはTV,VTRばかりでなく,シュミレータの導入が考えられ,アナライザを通 った後に学習者,教師へのフィードバックが行なうことのできる演習実験,実習の実施方法を改善 2)
されている。そしてこれらの授業展開は,教育機器を含めた1つのシステムとして統一化され、各段 階で学習者に適切な情報が与えられ,充分考慮された上でのフィードバックであらねばならない。ま た教師の演示実験に用いられる実験装置,器具などの教育機器の場合も同様である。員口ち演示実験を 含めた1つのシステムとして充分に方針を立てる必要がある。例えば,図,1.に示すようなシステム
} ㎞Provement of a Teaching Method by Us ing a Demons trat ing Experiment.
淋Takehisa Yoshida (Department o{Technology,Nara University of Edu−
cation,Nara)
Yasunor i Hukuda (Depar tment of Phys ics,0saka Industri a−Univers i ty,
0saka)
演
示 実験
吟
1問一
iギ
→検1 H
旦
一1演示実剛一一
に
図,1
である。図、1において,演示実験Aは学
習者に問題提起をすると共に興味を持たせ ることを意図している。学習者に学習意欲 を持たせて新しい目標に進む準備をさせ,この段階をへて、提起された問題の分析に 人ワ,次いで個々の学習者からでた意見を まとめ,仮説設定の段階に入る。その後検 証の段階に移行するわけであるが,この段 階において予期せぬ結果が出た場合は演示
実験Bを通して最初の問題分析の段階にフ
ィードハックさせ再度各々の段階を進行するか,直ちに初期の段階ヘフ!一ドパックする。ここで演示実験Bはヒントを与える実験である。演示実験Bを通して問題分析仮説設定といった段階へのフ
ィードハックと状況に応じた状態へのフィードハックであらねばならないし,その段階で学習者自身 失敗の原因を考えるものであれば教育効果は非常に大きい。
次に教師と学習者との対応したシステムを図2−1に展開する。ここでS Fは学習者へのフィード ハック,TFは教師へのフィードハックである。一般には,図2−2のようなシステムでの教育であ
る。即ち学習者は教師から与えられる情報(言葉,数式で表示する法則等)に演示実黙スライド,8腸フィルムなどの具体的情報を加えて理解し,概念として把握し一般化する。理解に困難を伴なう 場合,この具体的情報にとぼしいことが考えられるため,演示実験をできる限りの範囲で導入するこ
とが必要である。これを学習者側からみると図2−2のようになる。従って,情報不足,更には種々
べ呈4+高、
↑↑…
㍗ド」高。
教 示1一
図,2−1
一 般 化
図,2−2
の条件でもって理解を強制する ことは教育効果を損失の方向に 向うことになる。情報不足か否 かは,学習者のいる段階と教育 目標との問のへだたワの犬小に 依存する。この個人差のあるへ だたワを出来る限リなくするた めに,個々の教育的システムで 教育したけれぱならない。それ に電子計算機を用いた教育シス テムがこの目的の為に導入され つつある。コンピュータによる
教育特徴の1つは,学習者の能
力に応じた適切なフィードハックを考えなければならないことである。コノビュータを用いない教育 においては,このフィードハックを行なう場合に学習に興味を失なわせないことが大切であるところ から演示実験の必要性がわかる。一40一
3.教示と演示実験
不 甲
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l A・
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1・1
丁
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凧]
Lr 少←土
図,3−1 Fl owchart
プロツク図演示実験において,1)学習者が実験をす
るまでもない,2)授業時間数の制約のため 学習者が実験出来ないなどでは,教師によワ 演示実験を行なうものと十れぱできるかぎリ 簡単な装置,器具での演示効果の犬だるもの であらねばならない。また演示実験を行ないがたき題材には8第フィルム,TV,スライ
ドプロジェクタ,オーバヘッドなどを使用す れば学習者は直接,間接的に現象を経験する ことになる。この演示実験に用いる教育機器 は,市販機器を用いた場合もあれば教師自作 のものを使う場合もありうる。以下電気科目,
理科の物理分野の某礎となる抵抗の並列接続 について学習を進めたものであり,筆者等が 行なった教育技術の展開である。
A
(パターン)
(音声)
では只今から
抵抗の並列接続について
学びます。回路は抵抗R1,R2を並
列に接続し,電池Eをつ
ないだ回路で考えます。この回路で電圧をV,I1 RとVからはオームの
1 法則よリ V V
I二一 I=一
1 R ・ 2 R1 2
I2も1一と同じようにな
ワます。
ここで
I+I=I
1 2
であるから次のようだ式
となります。(パターン) (音 声)
A3
I=I +I 1 2 V V =一十一 R R
− 2
1 1
:V(一十一)
R R 1 2
即ち,IlとI2の和とな
るわけですからVでくく
ワ出しますと1 1
V(百十亙)
1 2 となるわけです。
A2
㌔
上丁 I
llい、↓
I/ ㌔R・≦R。く
@ .
A4
1 .
V=I(1 1)
一十一 R R
1 2
.
D合成抵抗
1
R= 一一
1派十1派
1 2
この式を
V=にかきかえますと
電圧二電流X抵抗(V= I x R)
の形になっていますから 合成抵抗
1 R= 1々十1派
1 2
(パターン)
A5 問題
「・Ω!・Ω/ l l _」
■ I o
(音声〕 (パターン) (音声)
では次の問題を考え計算 して下さい。時間は3分 間です。後程計算用紙の 計算結果も資料になりま すから必らず用紙に計算
をして下さい。
はいやめて,今から私の
言う適ワに進んで下さい。では言十算用紙の計算値と 同じ値で左に言十算結果と して書かれている⑦,②
θのうちの相当するもの を横線を引いて消して下
さい。
やめて,⑦に印をつけた
人は手を上げて下さい。その人は自分の用紙をも
ってとなワの教室に入っ
て下さい。はいやめて
さきにやった方法と同じ ように左の2の①,◎に
印をつけて下さい。㊥に印をつけた人以外は 退出してとなワの部屋に
入って下さい。1 1 1
τ十万=万と計算で
きますね。
1
R= 一です
{十h
1 2
1
から万の逆数をとらな ければなりません。A4−2
l
拍十%
R=
1 2 =2({))
⑦2(Ω),
◎X, θX,
R:2Ωとなります。
こんどはできたでしょう。
ではとなワの部屋に入っ
て下さい。A3−1 1
R=
竹十冷I
Rl=6Ω R2=3Ω
今,ここにいる人は㊥,
◎に印をつけた入です。
前に述べた 1 R=
巧十%1 2
の式を思い出して下さい。
R2二3Ω,R1=6Ω
を代入して計算して下さ い。計算は言十算用紙に。
D1−1
使用器具電 池
電圧計
電流計
低 抗 リード線
1.5〜)X2 10σ)X1 2体)x3 6Ω,3Ω 適 当
今,正解においては2Ω
となりましたが これよ り抵抗を流れる電流値で実験してみることにしま
す。
使用器具は画面にでてい
るものを使用します。一42一
(パターン)
Dl−2 V Vまず
I =一 I =一
1 R1 2 R
1 2 3 3
6 3
=0.5紅):1体)
I=1.5(A)
I=I +I
1 2(音声)
まず,I l,I2の値を求
めてみると今スライドされ
ている値になワます。(パター1/)
D2−1
圷
㌧一
3Ω(音声)
回路計を用いて測定して みますと実際に2Ωをさ
していますね。
回路はこのように結線して
います。実際に電流計の振れが I=1.5紅)
1、=0.5体)
I。=1.O㈹
をさせばこの並列接続が計
算されたわけです。図 3−2
F1owchartI 1① 2Ω 2◎一Ω
(∂ わかりません
計算用紙
図,3−3
教示(パター:/)を図3−1,図3−2にフロー チャートで示す。ここで筆者等が行なった目的
は上に論じた過程とはすこし異なるが今後進めて行く資料として行なったものである。この目的としては
1.抵抗の並列接続の合成抵抗を求める場合,教示のみで教育効果があるか。
2.1に於て実際にそのような結果として現われ学習者が実際面で経験することにより1の
効果をよワ強化し得ることができるか。3.今後上述のことを進めるにあたワ教示(バターン),演示実験が資料となるか。
である。対称は本学附属中学校3年生男子,1,2組を第1組,3,4組を第2組として実施した。
第1組には筆者の1人が教示(板書を用いる)のみにより説明を行ない,設問を2題与え計算式と共 に解答を求めた。第2組には筆者の1人が第1教室でスライドによる教示を与え,第2教室では演示
実験を行なうための教示をスライドで行ない実際に教示通ワ並列抵抗の合成抵抗を求める方法を演示し,第1組と同じ設問を与えている。そして学習者が自ら演示を行なう場もわずかな時間ながらも与 えた。その結果を図4.に示す。図4.は問題,設問の正解者数の%表示である。
授業展開でまず最初に次のような質問をしている。
①オームの法則を知っているか・………・・…………一・・………知っている(全員)
②抵抗の並列接続の合成抵抗を求めたことがあるか………・・・………ある(全員)
③回路計,電流値よワ並列合成抵抗を測定したことがあるか…・…・…・回路計測定(1名)
第1組に適応した時間は教示のみ25分計算時間計10分,第2組においては教示に15分,計算時 間計10分,演示に10分と時問的な相異がある。
図3.においてA1→Aが主流をなし,A3−1→A3−2.A4−1一・A4−2→Aが支流と考えるがこれは あくまでもフィードハックを考慮した上でのフロー・チャートである。A6では計算結果として示し
別に解答用紙と計算用紙をもうけている(図3−3)。この調査では学校の展開されているカリキュラムでの進行において一度,並列接続の合成抵抗の求 めカの講議がすでに行なわれていたため,教示を必要としないが教示問題を教示通ワに解かせること によワ以前に行なわれている講議の理解がだされているかを見るためにも行なったもので計算用紙の
結果よワ約2割の生徒が理解していないように思われる。それにつづき設問①では4割が何らかの形
でまちがっている。これはオームの法則よワ合成抵抗の求め方を理解していないと考える。それに一 応正解とされる内にもうたがわしき答え方が一割含まれている。次に設問②では設問①よりすこし応 用間題的となっているがこれに対する正解はO.02%,4.4%と図4.のようである。演示実験を実施した組にお 84%(第1組)
教示問題・ いては、時間の関係から充分 .185%(第2組) な形にならなかったが,演示 r (第1組) 実験の後の筆者の実験でも教 設 問・
矛の正解と同じ値になったこ ① ≡. 177.5弱 (第2組)
とがわかワましたねといった
r (第1組)
設問1 言葉に対して・なる程よくわ ②1 (第2組)かったと答えているものが犬
部分であった。また設問2,
図、4 問題,設間の正解者数
3における第2組の正解者数
よワ演示を含めた目的が大きいといえる。これよワ教示のみで電気現象を説明することは不十分であ
一44一
リ,教示現象を同時に行なうことにより学習者の学習が強化されることが証明される。時間の関
係から適応条件が異なったが次にかかげる点が今後の教育技術としての利点としてあげることができる。
1.教示演示をフロー チャート通り行なうことによワ,学習強化を充分示し得る。
2.電気科目ではかならず演示実験をかみせねばならない。
3.学習教材の時間短縮と確実性が大きい。
4、学習者への興味が大きい。
5.バターンの組方によワ大学高旗中学へと充分に使い得ることができる。
最後に本報告で示したパターンは大学における講議実験内容の展開である。
4.む す ぴ
上述のように,授業は教師と学習者間の相互作用による展開である。教師は学習者が出す意見を 授業展開の中に含めて進める必要がある。また実験観察についても同様た方向で実践されている。
近時行なわれているものはシステム化された中での教示,実験ではなく,その一部の教示,実験で あるように思う。また一方では,実験は視覚からの記憶による効果,即ち忘れにくいということで 単なる手段として考えられがちということもある。しかし実験は現象を経験か一ら抽出する科学教育 であることからシステム化されたプログラムの申で考えられ,さらには個々の教育目標の中でシス テム化されたものを考えるべきである。
図,3に示すフロー チャートは1つの小さたシステムであって,これを含めた大きなフロー.
チャートが存在する。フロー・チャートで統一化すれば演示実験の置かれるべき段階も明確になる。
演示実験といっても教師自ら行なう実験ばかワでなく,VTR,テレメール応用,TV,8殊ス
ライドプロジェクタも含めた学習者自らの演示も含んでいる。筆者等は大きなシステムを前提として今回報告した教示と演示はその中の小さた面ではあるが今 後の教育技術として取ワ上げ発展させていく上での資料として充分価値あるものである。また教育
技術の利点としてあげた5番目のパターンによる方法で中学,高校,大学と1つのシステム化を行
なうことができる。演示実験は学習を強化する手段ではあるが,新しい教育機器が次から次えと考 え出されている中で,いろいろな制約によって教師の演示実験にのみに用いられるものも多いと考 える。そこで現象に興味を持った上で学習意欲を抱かせるような適切な実験を選ばねばならない。このためには全般的なシステム化と,学習強化の演示実験を教育方法の改善という点から考えねば ならない。そして教育機器にコンピューターを導入されつつある中では,もう一度教育方法につい て考える必要がある。
最後に,この調査のためにだいじな授業をさいて時間を与えて下さった本学附属中学校教既小
西鶴治先生 ならびにこの調査に関しお手伝い下さった本学学生諸君,今後の大学での教育方法等にご検討いただいた本学助教授,石井文雄先隼またこの撮告に関しご意見をたまわった大阪産業
犬学教授,岡崎良吉先生に深く感謝します。1)
ii)
iii)