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幼児における文字意識の発達と読字学習

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

幼児における文字意識の発達と読字学習

著者 今井 靖親, 塚原 佐和子

雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要

巻 23

ページ 45‑54

発行年 1987‑03‑01

その他のタイトル The Development of Print‑awareness and

Learning to Read in Young Children

URL http://hdl.handle.net/10105/6625

(2)

幼児における文字意識の発達と読字学習*

今 井 靖 親**・ 塚 原 佐和子榊*

 (心理学教室)     (生 駒 市)

要旨:本研究の目的は、3,4歳の幼児における「文字意識」の発達を調べ、

これと語彙カ、読手カおよび読字学習との関連を明らかにすることである。主 な結果は次のとおりである。ω「文字意識」の発達は既に3歳児で認められる が、4歳児においては、文字についての理解がより正確になる。12〕「文字意識」

と語彙カおよび読手カとの間には高い相関は認められなかった。13〕「文字意識」

の高い者のほうが低い者よりも読字学習の成績がよかった。

キーワード:文字意識、語彙カ、読字学習

 従来、r読み」はrそれぞれの文字に固有の音声を対応させる」ことから始まる、と考えられ てきた。Gibsonらコーネル学派の人々は、この「読み開始期」ともいえる時期を「綴字一音声 の対応の位相」として位置づけている(村田、1974)。

 ところが、近年、文字と固有の音声とを対応させることが可能となる以前の幼児においても、

文字というものが事物の名前やことばを表すはたらきを持っていること、すなわと文字の表象機 能に気付いている者は、環境的脈絡を手がかりとして単語のr読み」が可能なことが明らかにさ れている(Hiebert,1978;今井、1982b)。また、それ以前にSmithは、「子ども。たちは、

何らかの意味のある方法で文字に気付いた瞬間から、おそらく読み始めるのだろう」と述べてい る(Hiebert,1978)。こあように、文字というものの表象機能に気付き、文字に興味をもって いる幼児の意識を、Hiebert(1981)は「文字意識」(Print awareness)と呼んでいる。

 r文字意識」のような読み行動の背景にある意識について、総合的に接近を試みたのはMatt−

ingly(ユ972)であった。彼は「言語意識」(Li㎎uitic awareness)という概念を用いて、読 み行動を中心に、広く人間の言語行動や思考に共通する意識について考察している。いっぽう、

Ryanは、r言語意識」またはrメタ言語意識」を、r言語を単に意味が違ばれる伝達の手段と してみるよりも、言語自体の形態に注意を集中させてみる能力」ととらえており(Taylor and Taylor,1983)、この点でHiebert(1981)らのいう「文字意識」と類似した発想のものにな

っている。また、Downingらは、「読みのレディネスにおける言語意識テスト」 (Linguistic

** The Development of Print−awareness and Learning to Read in Young   Children

** Yasuchika Imai (De切〃me〃 o/鳥ツ。κo ogツ,〃〃。 σ〃m7∫〃ツ o/亙〃。o伽n,

   Mo〃  C〃ツ)

***Sawako Tsukahara(〃。mo C〃ツ)

(3)

Awareness in Reading Readiness test:LARR)を作成し、その信頼性・妥当性を検証し ようとしている(Downi㎎、1984)。このように、「文字意識」という概念は新しく、心理用 語としても十分に定着していないが、読みの発達における「文字意識」の存在とその重要性を指 摘する研究者は次第に増えてきている。

 ところで、幼児の日常生活は、話しことばと同様に、書きことばに取り囲まれている。といっ てもよいであろう。いわば「文字言語の海の中」(Taylor and Taylor,1983)にいるので ある。家庭においては、母親から読んでもらう絵本、父親の読んでいる新聞、テレビに映る番組 のタイトルやコマーシャルの商品名、葉子などの袋や箱に印刷されている商品名などを常に目に している。外出すると、駅や停留所の標識、会社や商店の看板やポスターなどが目に映る。幼稚 園などでは、今井・今井(1978)の調査からも明らかなように、名札、部屋、教材、作品など に名前が表示されており、ここでも文字が目に触れることになる。幼児がこのような文字環境に 興味・関心を持ち始めるのは3歳頃であろうといわれている(Hiebert,1981;今井、1982a)

が、一Steinberg(1982)は、2歳児に対して文字への興味を植えつけ、読字学習を行うことに成 功したと報告している。

 では、従来の読みのレディネスと「文字意識」とは、どのような関連性があるのだろうか。こ の点について言えば、従来の読みのレディネス・テストは、「読書」のレディネス・テストの色 彩が強く(大西、1971;阪本、1965;河本、1979)、「文字意識」を尺度にした読みのレデ ィネス・テストは見当らない。

 次に、 「文字意識」の発達はどのようにしてとらえられているのであろうか。Hiebert(1981)

は、3,4,5歳児について、読みの行動についての理解尺度と文字の目的・機能についての理 解尺度の2尺度を用いて調べ、3歳児よりも5歳児のほうが有意にr文字意識」が発達している 事実を実験的に検証した。Gibson and Levin(1975)によれば、Lavineは、文字と文字で ないものを弁別させる方法によって、「文字意識」をとらえることを試みている。その結果、3 歳において、既に身近な文字を「文字」として意識し、弁別が可能なことが明らかになった。今 井・今井(1980)、今井(1982a)は上記の方法を日本の幼児向けに改善し、r文字意識」の 発達と、「文字意識」と「読字力」との関係を調べている。その結果、「文字意識」が既に3歳

にみられることが明らかになったが、「文字意識」と「読手カ」の問には明確な関係は認められ なかった。

 以上の考察から、本研究では、「文字意識」の発達を文字に関する概念的な側面と経験的な側 面から総合的にとらえるとともに、「文字意識」と「語彙カ」、「読手カ」、さらに「文字意識」

と「読字学習」との関連について検討する。

方      法  1 語量カ調査

 被験者  保育園児112名(男児59名、女児53名)。年齢の範囲は3歳2か月から5歳1か月、

平均年齢は4歳2か月。

(4)

 材料  河井(1979)の「言語発達診断検査」の下位検査の一つである「語彙検査」の絵の 中から20枚を選んだ。これは12㎝x17.3㎝の白色の厚紙20枚に彩色画で描かれている。

 手僚き  調査は個別に行った。まず被験者に氏名、クラス、年齢などを尋ねた後、上記の20 枚の絵を順に提示し、rこれは何ですか」と質問した。

 2.読手カ調査

 被験者  語彙カ調査の被験者と同じである。

 材料  国立国語研究所(1972)のr調査文字力一ド(ひらがな)」と同じく、「調査文字力 一ド(カタカナ)」を使用した。平仮名は、清音45文字、擬音1文字の計46文字、片仮名は、読 字学習に使用する6文字(ク、ツ、サ、イ、キ、ネ)である。

 手続き  調査は個別に行った。各カードを1枚ずつ被験者に提示し、読めるかどうか調べ

た。

 3 文字意識テスト

 被験者  上記の語彙カ調査の被験者と同じである。

 材料  Lavine(Gibson and Levin,1975)、今井・今井(1980)、Hiebert(1981)、

今井(1982a)におけるr文字意識」の調査方法を参考にして、次の2種類のテストを作成

した。

 A.概念テスト  ω読みの行動についての理解尺度一2枚の絵と2冊の絵本を使用した。

絵①は女児が絵本を読んでいるところであり、絵②は男児が水槽内にいる金魚を見ているところ である。いずれも彩色画であるか、絵②は、「読む」ということはと行動とが意識されているか 否かを調べる絵①のディストラクターである。絵本は、ユ冊は文字のあるもの(安野光雅による

「さかさま」)、もう1冊は文字のないもの(同じ安野光雅の「ふしぎなえ」)である。

 12〕文字の目的・機能についての理解尺度一2枚の絵を使用した。絵③は立札に花の名前で書 かれた花壇の絵、絵④はプラットホームの立札に駅名が書かれている駅の絵である。

 B.経験テスト  32枚のカードを使用した。カードには見慣れた文字4種類(漢字、片仮名、

数字、アルファベット)と、見慣れない文字・非文字4種類(アラビア文字、ハングル文字、記 号、絵)のいずれかが書かれている。

 手続き  テストは個別に実施した。A.概念テ三トでは、絵や絵本を順に提示しながら表1−

1、表1−2のような質問を行った。B、経験テストでは、見慣れた文字と見慣れない文字・非文 字を区別させるため、32枚のカードを8枚ずつ、4回に分けて提示した。1回めと.3回めは、漢 字、数字、アラビア文字、絵のカードを各2枚ずつ、2回めと4回めは、片仮名、アルファベッ

ト、ハングル文字、記号の書かれているカードを各2枚ずつ提示し、rこの中で字が書いてある

のはどれですか。3つ渡してください」と教示を与えた。なお、カード提示の際、横に並べた2

枚は同一種類のもの、縦に並べた4枚は同一個数の文字・非文字のものとし、この範囲における

個々のカードの並べ方はランダムであった。

(5)

表1−1.概念テストの質問と正答(1)

 ①読みの行動についての理解尺度

問題番号 材  料 質   問(再 質 問) 正  答

問1 絵  1 「この人は何をしていますか。」 (本を)読んで

(絵中の本を指し、「これは何ですか。」と尋ねた後、 いる。

「この人は何をしていますか。」)

問2 絵  2 「この人は何をしていますか。」 (金魚を)見て

(絵中の金魚を指し、「これは何ですか。」と尋ねた後、 いる。

「この人は何をしていますか。」)

問3 絵本2冊 それぞれ頁をめくり、全体を短時間見せたうえで、 字ありの絵本 両方の絵本の絵の構成の似た頁をあけ、「お母さんや を指す。

先生に読んでもらえるのはどちらの絵本ですか。」

問4 絵  本 。問3で字ありの絵本を指した被験児には「お母さん 絵本の中の字

(字あり) や先生は、この絵本を読んでくれる時どこを見てい を指す。

ますか。」

。問3で手なしの絵本を指した被験児には字ありの絵 本を見せ、「もしお母さんや先生が『今日はこちら の絵本を読んであげましょう」と言って読んでくれ

るなら、その時どこを見ていますか。

表1−2.概念テストの質問と正答(2)

②文字の目的・機能についての理解尺度

問題番号 材  料 質   問(再 質 問) 正  答

問5 絵  3 「ここはどこですか。」と尋ね、花壇(お花畑)につい 花壇の中にあ て思い起こさせたうえで、「でも何のお花が咲いでい る立て札を指 るかわかりませんね。どこを見たらわかりますか。」

す。

(rお花の名前はどこに書いてありますか。」)

問6 絵  4 「ここはどこですか。」と尋ね、駅について思い起こさ 駅名の表示さ せたうえで、「でも何という駅なのかわかりません札 れた札を指す。

どこを見たらわかりますか。」

(「駅の名前はどこに書いてありますか。」)

(6)

 4.読字学習

 被験者  読手カ調査で選ばれた、読手カが低く、学習材料の片仮名が読めない保育園児68名

(男児ω名、女児28名)で、年齢の範囲は3歳3か月から5歳1か月、平均年齢は4歳2か月で

ある。

 材料  予備調査のr単語の熟知度調査」によって選定された次の3単語である。「クツ」(高 熟知語)、rサイ」(中程度の熟知度の単語)、「キネ」(低熟知語)。このほかに、再認テスト 時のディストラクターとして、「コル」と「トラ」の2単語を使用した。

 手続き  実験は個別に行われた。読字学習は、カードを提示する際に、まず「よく見ていて ください」と注意を促したうえで、文字を指し示しながら明瞭に読み、被験児に模倣させた。例 えば、「これは『クツ』と読みます。言ってみてください」のようである。これ季3単語につい て行い、学習1試行とした。単語の提示順はランダムであった。その後で、単語カードをランダ ムに提示し、rこれは何と読みますか」と尋ねた。これを3単語について行い、テスト1試行と した。このような学習一テスト試行が交互に5回行われた。5回めのテスト試行が終了した時 に、rコル」、「トラ」を含む5単語を提示し、再認テストを実施した。例えば、「この中でrク

ツ」と読むのはどれですか」のようである。これを3単語について行った。

結      果  1 語量カ鴎査

 正しく単語の名前が言えた場合、あるいは再質問によって正しく言えた場合に1点を与えた。

幼児語(例えば、r鶏」にrコケコッコー」)や下位概念(例えば、r鶏」に「メンドリ」)で答 えた場合には点を与えなかった。全部を正答の場合、満点は20である。図1には、本調査におけ る被験者の得点分布を示した。

人 数

一5

1 O

1口      15      1O

図1.語菓カ調査の得点分布

(7)

2.

人 数

 60

50

40

30

20

10

5     IO     I5    20     25    30     35

40

文字数

図2.平仮名読手カの分布 2 読字力調査

図2に平仮名46文字の読手カ分布を示した。

 3 文字意識アスト

 A概念テストー読みの行動についての理解尺度においては、問1〜問4に正しく答えた場合 に、それぞれ1点を与え、文字の目的機能についての理解尺度においては、問5、問6に正しく 答えた場合に、それぞれ2点を与え、再質問によって正しく答えた場合には1点のみを与えた。

従って、両尺度とも各4点満点、合計で8点満点であ乱

 B経験テストー見慣れた文字を1つ選んだ場合に1点を与えた。1試行が3点満点、4試行 では12点満点である。

 文字意識テスト全体では20点満点である。文字意識テストの成績を表2に示した。これをもと

に、3歳児と4歳児の得点差をオ検定により検定してみたところ、4歳児のほうが3歳児よりも

有意に成績がよかった(サ=3.87,d∫=l10、カく.001)。 さらに、これを概念テスト、経験

(8)

テストに分けて年齢別の得点差を検定してみたところ、同じく4歳児のほうが3歳児よりも成績 がよかった(概念テスト

カく.01)。

ゴニ2185、〃=110、力く.01 経験テスト サ=3.06、〃=l10、

表2.文字意識テストの平均点と標準偏差

)内は標準偏差

全 体 概念テスト 経験テスト

3 歳 (2.81) 9.73 (1.65) 3.62 (2.12) 6.11

4 歳 (2.67) 11.75 (1.55) 4.49 (1.81) 7.26

全 体 (2.92) 10.75 (1.65) 4.06 (2.05) 6.70

)内は標準偏差

 次に、文字意識テスト、語彙カテスト、平仮名読字能力との間の相関をスピアマンの順位相関 係数によって求めたところ、文字意識と読手カとの問に.574、語彙カと読字力との間に.492 の相関が認められた。さらに、3変量のうちの2変量の相関をみるために、他の1変量を一定に

した場合の偏相関を、ピアスンの偏相関係数の求め方に準じて求めてみたところ、表3のような 結果が得られた。ここでは、文字意識と読手カとの相関が、文字意識と語彙カとの相関よりも高 い傾向が認められた( =1,74、〃=109、.5く力<.1O)。

表3.文字意識・語暴力・読手カにおける偏相関

(N=112)

1 2 3

1.文字意識

Q、語彙カ R.読手カ

.245

D451 .315

 また、文字意識テストにおける読手カ高・低両群として各25%ずつを選び、それぞれの概念テ ストと経験テストの結果を比較検討したものか表4である。両群の平均点には有意差は認められ

表4.読手カ島群・低群における平均点と標準偏差

読 字 カ 高 群

(平均読字数39.7字)

読 字 カ 低 群

(全員1文字も読めない)

全   体  12.14  (2.85)

1O.62

(3.05)

概念テスト  4.68

 (1.60)

3.96

(1.70)

経験テスト  7.25

 (1.84)

6.65

(1.92)

(9)

なかった。

 4.読字学習

 結果の処理は次のように行った。再生テストで1つの単語を正しく読めた場合に1点を与えた。

テスト1試行で3点満点、5試行では15点満点である。再認テストでは、1つの単語について正 答が得られた場合に1点を与えた。合計18点滴点である。

表5.各群の平均得点と標準偏差

平均得点   標準偏差

3歳児・文字意識高群 6,750    .4.323 3歳児・文字意識低群 3.526       3.101

4歳児・文字意識高群 6.667       3.399

4歳児・文字意識低群 3.400      1.497

 文字意識テストにおいて12点以上を取れた者を文字意識高群、9点以下の者を文字意識低群と して、読字学習における各群の平均得点と標準偏差を表5に示した。これをもとにして、文字意 識の高低と年齢とを被験者間の要因とする2×2の分散分析を行ったところ、文字意識の主効果 がF(1,40)=7.58、カ<.01で有意であった。しかし、年齢の主効果、文字意識と年齢との 交互作用は有意ではなかった。

議      論  1 文字意識の発達について

 Hiebert(1981)は、「文字意識は3歳で既に見られ、文字に関する知識は就学期まで有意に 増え続ける」と述べているが、本実験においても、文字意識テストの得点に、3歳児と4歳児の 差が明瞭に現われた。これは、Lavine(Gibson and Levin,1975)、今井・今井(1980)、

Hiebert(1981)、今井(1982a)の結果と一致している。これを下位検査の分析結果からみる と、まず、Aの概念テストでは、言売みの行動についての理解尺度における問4の正答者の増加と 文字の目的・機能についての理解尺度における2点の得点者の増加とが目立った。これらは、被験 児たちが既に首藤(1975)のいうr読んでもらう読み」を十分に経験しているので正答しやすい こと、4歳児になると文字の目的・機能をかなり正確に把握できていることを示している。次に Bの経験テストでは、選択された文字の種類には統計的な差は認められなかったが、4歳児にな ると、見慣れた文字の漢字と片仮名の選択が増加し、非文字の記号や絵の選択が減少している。

しかし、いっぽうでは、4歳児においても、見慣れない文字であるはずのアラビア文字やハング ル文字も依然として多く選択されている。これに対して、Lavine(Gibson and Levin,1975)

の実験では、被験児はアルファベットに似た形の人工文字を文字として選択するが、見慣れない

文字の漢字はほとんど選択していない。これは、アメリカでは、普通アルファベットが文字とし

(10)

て使用されるので、文字に対する形態的イメージが、比較的早期に確立しやすいのではないか。

これに対して、日本では漢字・平仮名・片仮名・アルファベットの4種類の文字が使われている。

このような「複雑な文字体系の存在」(今井・福沢、1980)が、文字の形態的イメージの形成を 混乱させ、見慣れない文字までも選択させてしまうと思われる。

 ところで、 「文字意識」の測定方法は研究者によって異なり、さまさIまな基準や尺度が用いら れているが、従来の研究において、いずれも年齢差(特に3歳と5歳の差)が生じていることか

ら、「文字意識」が年齢とともに発達することは明白な事実としてとらえてよいであろう。これ に対して、語彙力との相関は、かなり低かったことから、文字意識は語彙そのものの量的、質的 な発達とは、あまり関係がないと言えるであろ九このことに関して、村田(1983)は、語彙成 長の要因の1つに言語記号の象徴性の理解と利用の増大をあげているが、それは、あくまでも「話

しごとば」についての指摘である点に注意したい。

 2 文字意識と読字学習の関係について

 読字学習は、いうまでもなく学習の一種であるから、読字学習のレディネスに依存しているは ずである。しかし、単にそうしたレディネスが存在するというだけでは、幼児の読手カは身につ かないのではなかろうか。国立国語研究所(1972)などの調査結果によると、幼児の平仮名読手 カは、横軸に読字数、縦軸に人数をとってグラフに描いたときに、U字分布またはJ字分布を示 す。これは、文字をほとんど読めない幼児が、日常生活の中で、いったん平仮名を学習する場を 与えられると、それを契機として、極めて短期問に読みを習得しうることを示唆している。ここ でいう学習契機とは、浜中(村田、1974)の例では、「これなんて読むの」という幼児の問いか けに対する大人の丁寧な応答であり、時には大人とのカルタ遊びである。この観点に立てば、本 研究では、読字学習の実験自体が幼児に読みの学習契機を与えたと言えよう。そして、年齢差(3 歳と4歳)に関係なく、r文字意識」の高い者のほうが低い者よりも成績がよい、という結果が 得られたことは、「文字意識」が読字学習のレディネスとみなしうる可能性のあることを示唆し ている。大西(1971)も指摘しているように、読みのレディネスは、単に形や音の区別ができれ ばよい、というものではなく、上述のr文字意識」の形成なども、重要な構成要素として考慮す べきであろう。本実験の結果から、少なくとも、幼児の生活年齢における1〜2歳の差よりも、

文字意識の高低のほうが、より大きく読字学習に影響を及ぼしていると考えられる。

 以上のように、本研究において、読字学習一に及ぼす「文字意識」の影響を実験的に調べたとこ ろ、「文字意識」の高い者は、読手カが低くても読字学習の成績がよいことがわかった。また、

r文字意識」は語稟カとはあまり関係がなく、年齢とともに発達していくことが明らかにされた。

しかしながら、本実験には、まだ究明されるべき点も多く残されている。今後は、「文字意識」

の査定方法の検討も含めて、r文字意識」の読みのレディネスとしての特性、r文字意識」と他

のレディネスとの関係などについて、より総合的な検討を行うことが必要であろう。

(11)

       引 用 文 献

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<付 記> 本研究の実験には、いこま保育園の先生方と園児の皆さんのご協力をいただきましね

     心から感謝します。

参照

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