わが国中小工業の基本的問題
その他のタイトル The Fundamental Problems of Medium and Small Scale Industry in Japan
著者 松原 藤由
雑誌名 關西大學經済論集
巻 2
号 1
ページ 78‑105
発行年 1952‑02‑29
URL http://hdl.handle.net/10112/15866
︵ 一
︶
︵ ハ
︶
︵ 口
︶
中 小 工 業 の
' 概 念
︵ イ
︶
(‑︱︱)
中小工業問題の某礎理論 中小工業窮乏の原因
︵ 二
︶
︵ 一
︶
中小工業の概念 中小工業問題とその変遥 中小工業の存立條件
中小工業の経済性
中小工業とは何か︒この課題は明らかに大工業との関聯において中小工業の本質乃至実体を問うているのである︒
言うまでもなくかかる概念規定は研究の出発点ではなく研究の結果として可能なるものであるが︑行論の必要上一応
繰り返してみよう︒
中小工業とは大工業との関聯における中小工業の意味であるから︑それは西じく相対的概念である︒そこで通常大
松
わ が 國 中 小 工 業 の 基 本 的 問 題
原
藤 七八
由
わが國中小工業の某本的問題
小工業の概念規定を試みよう︒
七九 工業とは経営規模が比較的大である工業︑例えば製鉄業︑造船業︑軽金属工業︑自働車工業︑紡績工業︑人絹工業︑窒素工業︑人造石油工業︑麦酒工業等近代的大規模機械生産様式を採る工業部門であり︑これに反して中小工業とは経営規模が相対的に中小なる工業︑例えば織物工業︑漆器工業︑酒造業等︑所謂る固有工業であると言はれる︒もとより中小工業は固有工業のみでなく︑近代工業としての部品製造業及び修繕業等その他︑範囲は極めて広い︒ところで以上の定義には一応の妥当性は認められるが︑次の如く二つの点において疑問が生ずる︒この語点を端緒として中
先づ疑問の一っは︑現代の資本制社会では典型的な工業は企業としての工業であるから︑語義に郁すると大工業と
中小工業の識別は企業規模の﹁大きさ﹂を区分基準とすべきではないか︒この問題と関聯して大企業郡大経営の場合
は別であるが︑実際には大企業が幾つかの中小経営を分散的に所有している場合が多い︒この場合の中小経営とは経
営休︑すなわち工場または事業場を意味するから︑中小工場と言ってもよい0とするとこの場合︑企業規模と経営規
模とは必らずしもご叙するとは限らない︒しからば大工業と中小工業の区分基準は企業規模別とするのが適当か︑或
は経営規模別が適切であるかと言うことが疑問として生ずるであろう︒
その二は企業規模と称し︑経営規模と言うも︑規模は大きさ︑換言すれば大︒中︒小の一定の限界︑従つて本論で
は中小性の指標が問題であるから︑その限界乃至指糠を何処におくかが問題となる︒これは明らかに﹁大きさ﹂すな
わち数簸的概念であるが︑しかし現実の中小工業の姿態をみると︑最的規定のみでは問題の本質を把握し難い0何故
ならば︑わが國の中小工業は︑極めて異質的多様性に富む複雑な存在だからである︒すなわち質においても﹁多﹂で
中小性の指糠を企業規模と経営規模の何れにおくべきか︒ ︵一︶企業規模と経営規模の何れを対象として規定するか︒
一般に工業生産の規模を大工業と中小工業に大別し︑こ ある︒いま中小工業の質を﹁多﹂と観る時︑最的に︱つの中小工業を規定しても︑それは全ての中小工業を現はすものでないことは自明である︒そこで逆に中小工業の質を﹁こと観る時︑であろう︒この論理に従って︑われわれは異質的多様性に富む存在である現実の中小工業の生態から︑中小工業に固有な︱つの性質を抽出して中小工業の本質乃至実体を把握しなければならない︒ここに中小工業の質的規定の重要性が存在するのである︒しかしそれは数批的規定を意味あらしむべき質的規定であらねばならないことは言うまでもな
これを要するに中小工業の概念規定には︑先づ前提として企業規模と経営規模の何れを対象とするか°次に中小性
の指標を批的に如何に規定するか︒更に最的規定の重要性を意味あらしむべき質的規定を如何にするか︒これらのこ
とが問題となる︒以下はそれらの問題に対する若干の解答である︒
れを対立的の問題とするのは︑社会問題をしばらく除けば︑
はなく同時に質的問題として︑日本査本主義経済の構造的特異性の一現実形態をなしていること︑及び一般的問題と
しては大工業と中小工業が︑各た特異の経済性を発椰して存在し︑それぞれの優劣をもつているがためである︒この
後者の問題たる優劣は︑言うまでもなく工業の本質たる財貨の加工生産に基く価値造成上の能力に差があることによ
つて生ずるのである︒従つて大工業と中小工業の区別は帰するところ工業生産経営体の大きさ︑すなわち経営規模に ヽ
〇
し
わが國中小工業の基本的問題
わが固における中小工業の聘多性が︑単なる飛的問願で ﹁多﹂はその現象形態と考えることが可能
八〇
る ︒
中小工業の量的規定
八、
よって定めることが妥当であると考えられる0かかる考え方は資本主義社会のみならず社会主義機構の下においても
u 1 )
適用し得るのであり︑両種の社会組織に共通して大工業と中小工業を意味付けることが出来るのである︒
しかし資本主義を前提とすると︑企業は利潤の増殖を機能する独立の生産経済の所有単位であり︑資本の組織であ
る︒従って企業規模とは資本組織の規模であると言っても過言ではない0ところで資本主義にありては資本組織の大
なること自体が︑経営体の生産性目標の達成を有利にし︑諸稲の利盆を生む源泉となる︒従って大工業と中小工業の
区別は︑工場或は事業場単位の経営規模別のみにとどまらないで企業規模別をも考慮しなければならないことにな
︵二
︶︵
A )
大︒中︒小の一定の限界︑中小性の指棚を如何にして規定するか0言うまでもなく数簸的概念を測定するには尺度 も数量的であり︑また共通の尺度でなければならない0そこで先づ尺度の標準が題問となる︒この場合の標準として一般に資本金額︑企業形態︑企業と生業︑生産高または販売額︑原動機使用の有無または容最︵馬力数︶従業員数等
( 2 )
が挙げられるが︑何れも一長一短があって絶対的なものはない︒最も普通に行われている従業員数︵わが醐では五人
未満を零細工業一二十人未満を小工業︑百人未満を中工業︑百人以上を大工業とするが︑論者には中工業と大工業の限
界を一ー百人とする者がある°今日としては︑この方が適切であろう︶の場合をみても︑従業員数は経営規模と一応の
函数関係に立つものであるが︑しかし実際界における同一工業部門においても生産技衛設備が異なり︑また企業にお
ける資本の有機的構成が同一でないし︑また異種工業部門︑例えば機械作業を中心とする工業と装置作業を中心とす
わが國中小工業の基本的問題
これは中小工業製品の市場的狭困︑原材料の特殊性︑努働力等の諸條件により大規模機械的生産の技術的條件に欠
けたるものを総括して中小工業と規定せんとするものである︒この見解は大工業と中小工業の差異が生産技術的原因
にあることを指適するとともに牧盆理論の貫徹が窺われるけれども︑最近における小型電動機︒簡易機械の発達将及
により中小工業も工場化しているから︑この規定も一面的であると言わねばなるまい︒
︵三︶中小工業存立の異質性に浩目して︑その具体的存立形態より規定せんとする見解 合︶生産技術的條件より中小工業を規定せんとする見解 る工業とでは︑従業員の充用程度が全く異なるから董的規定の一義的客観性が保証し難いのである︒これを要するに飛的規定には根本的な欠陥がある。それは大工業は別としても、特に中小工業の内容•性質に充分ふれていないことである︒しからば中小工業の質的規定とは如何゜︿
二︶
︵
B︶
中小工業の質的規定は︑既に諸学者によりて試みられている︒その主なるものは次の如き見解である︒
︵一︶中小工業における人的素因を重諷する見解
中小工業︑殊に小工業における個人主体的なる人的素因に着目して︑中小工業とは個人主体制と言う所有組織的外
皮を纏うことが大多数の例になっている最高段階の規模の限度内にある自己資本を基礎にし︑且つそれ自体が個人主
体制形態をもつている工業的生産的営業単位である︒この見解は小工業の概念規定として述べられたものであるか
ら透徹した理論でありながらも︑今日の中小工業の概念規定としては全面的には妥当するものとは考えられない︒ 中小工業の質的規定
わが國中小工業の某本的問題
) ¥ .
であ
る︒
( B )
中小工業の従属形態
︵口
︶︵
A
︶中小工業の独立形態 明を欠く欠点がある︒ かかる見解の最初のものは高橋亀吉著﹁現代中小商工業論﹂に窺われるが︑より進んだものとして次の如き三つの( 4
)
見解がある︒
( 3 )
工場制工業の発達の中に大工業と領城を分つて成立した近代的な問屋制工業
( 4 )
大工業の分散的形態としての下請制工業
( 5 )
︵内職︶家庭内職
この見解は中小工業の具体的存立形態の分析として高く評価さるべきも︑しかし各存立形態の内的必然的関聯の説
( 1 )
支配者が問屋或は商業資本︒輸出資本
0
百貨店資本等たる場合︵問屋制工業︶( a )
下請業者の生産が資本家的生産たらざるもの︵旧問屋制工業︶
( b )
下請業者の生産が一応資本家的生産の内容を備えているもの︵新問屋制工業︶
( 2 )
支配者が大工業或は工業資本たる場合︵下請制工業︶
この規定には細部に若干の疑問があるとは言え︑産業資本確立の醜点から成されたるものとして卓抜な代表的見解
^^︶支配者の資本家的性質ではな<‑従属する中小工業自体の生産工程の中に規定せんとする見解
わが國中小工業の某本的問題
︵イ
︶︵
1︶大工業へ発展する性質を持つ中小工業
i ¥ .
( 2 )
農村的家内工業から発達した問屋制工業
業の中心的問題であることの認識である︒ わが國中小工業の基本的問題
これは中小工業の現実の存立形態は︑すべて広義の商業資本家的支配の場合であって︑その意味においては小宮山
氏が摘出した範闘としての下請工業は︑問屋制工業として一括することも不可能でないとして中小工業を︑内職︑家
内工業︑下請工業の三形態であるとする見解である0中小工業の質的規定は概ね以上に盛きる︒
さて中小工業の具体的形態は上述の如く︑量的規定と質的規定により一応明らかとなったが︑なを若干の問題が残
つている︒それは以上に規定した中小工業を中小工業として意識する問題性と︑その問題性を生む基盤の明確なる把
握である︒このことこそ中小工業を中小工業たらしめる本質なのである0換言すれば中小工業を﹁一﹂たらしめ﹁多﹂
を現象形態たらしめあ核心なのである0しからばそれは何か°言うまでもなくそれは﹁窮乏﹂である︒すなわち︑し ばしば比喩的に︑中小工業とは﹁雑草﹂である0中小工業とは﹁雑軍的存在﹂である0中小工業とは﹁声なきもの﹂
であると言はれる如く︑中小工業が経済変動或は景気変動に際し︑または独立資本の圧迫によりて︑絶えず開業ー消
滅ー開業を繰り返している窮乏の事実である︒しかもより大切なことは︑資本主義を前提として大工業と中小工業と
を対立させて︑中小工業を意識し乃至把握せねばならないことの必要が︑中小工業窮乏の事実を生む基盤としての中
小工業の独立資本に対する﹁隷属性﹂であると言うことである︒中小工業の本質は正しくこの﹁隷属性﹂にある︒
もとより中小工業の窮乏は︑中小工業自体の経営内部的原因に基いて生じている場合も多い︒しかしより重要なこ
とは独立資本の圧迫と︑それへの隷属性によりて生ずる中小工業の宿命的窮乏こそ︑國家政策の対象としての中小工
これを要するに中小工業の概念規定は極めて困難である︒この困難は︑わが國経済の資本主義的発展の後進性乃至 八四
わが國中小工業の基本的問題
特殊性に根ざす中小工業存在の量的優位と︑その質的多様性から生ずるものである︒
ところで︑この困難を解消せしめる方法として次の如き示唆に富む見解がある︒それは中小工業の概念を時処に超
6 5 )
越せざる問題性において把掘することである︒これを試みる方法に二つある︒
第一は中小工業問題の生起に応じ問題に即して問題の面から中小工業をとらえ︑従つて問題の解答たる中小工業政
策を樹立せんとする方法である︒
第二は抽象的に産業構造理論の全体の内部において中小工業の地位をとらえ︑これを質的に規定せんとする方法で
もとより第一の方法による場合には当面の対象となる部分の中小工業の分析に急にして︑ややもすれば均衡のとれ
た全般的な中小工業の質的把握を逸する危険性が多い︒しかるに第二の方法によるときは一般的理論乃至解明として
は興味あるも中小工業の有する性質のうちから中小工業たるべき根本的諸要因を逸する締いなしと言えない︒
このような見解から数えられることの意義は︑中小工業における中小性の決定は︑
本質的要因に求めなければならないが︑それは単に個別資本の企業規核別乃至経営規模別にのみ留まることなく︑他
面において総体経済としての︑わが國國民経済の現実的な産業構造の中小性に求めなければならないと言うこと︑換
言すれば個別経済的側面における中小工業自体の中小性のみならず︑國民経済的産業構造における中小性との統一的
把握が︑問題性に応じて行はれねばならないと言うことである︒かくて始めて中小工業の概念規定は理論的に充全た
るを得るであろう︒ あ
る︒
八五 一定の量と質を帯びた中小性の
一般に資本主義経済にあっては大企業は︑特殊の場合を除き大経営であるのを原則とする︒この場合には企業規模
と経営規模は︑
資本の巨大は県にそれだけで︑殊に合理的経営が︑それに伴う場合には競争社会における優越が保証せられて︑大工
業は中小工業を圧迫してゆく︒この結果︑中小工業が淡落して大工業が支配的となる傾同がある0端的に言えば中小
工業は資本主義の展関過程において︑やがては次第に浚落するのである︒かくの如き中小工業の敗退窮乏の理論は︑ で
ある
︒
山中篤太郎﹁中小工業の本質と展開﹂昭和二十三年.
中小工業問題の核心は︑大工業と中小工業との競争関係及び中小工業自体の濫立による共倒れ競争により︑中小エ
業が窮乏する問題に外ならない︒もとより本格的な問題は︑前者の場合である︒この場合の理論の大要は︑次の如く
( 5 )
︵ ハ
︶
︵ 口
︶
︵ 二
︶
目崎憲司﹁工業経済﹂昭和十七年.
( 4 )
︵ イ
︶
一九ーニー頁︒
︱‑
=‑
︱︱
ー一
三八
頁︒
大塚一朗﹁小工業経済論﹂昭和十七"四九ー五0
頁︒
森喜一﹁日本中小産業の機構﹂昭和十五年︑五四ー五五頁︒
小宮琢二﹁日本中小工業研究﹂昭和十六年︒七頁︒
山田文雄﹁中小工業経済論﹂昭和十八年.
中 小 工 業 問 題 と そ の 変 遷
ほぽ一致し経営規模の大︒中︒小性は企業規模の︑従って資本組織の大e
中.
︒小
性を
意味
する
から
︑
( 3 )
( 2 )
拙著﹁工業経済総説﹂昭和︱︱十六年`
( 1 )
わが國中小工業の韮本的問題
一七ー一八頁︒
10
ー一吾頁︒
八六
固有なる一般的にして重要な基本的問題であると考えられる︒
八七 マルクスが資本論において中小工業︵マJ一ュファクチャ︒手工業︒家内努働︶の大工業への移行と窮乏を指摘して以
来︑`一般にマルクス主義陣営から︑彼等の所謂る集中理論の肯定として提起されたことは周知の通りである︒もとよ
りこの理論は個別資本の集積︒集中︒独占過程における資本の自然的作用からみても︑これを否定し得ないし︑また
殊にヨーロッ︒^における如く産業革命が自生的民間資本によって典型的に行われ︑それによって資本制生産形態たる
手工業︑家内工業の多くを掃拭し︑工場制工業が支配的な工的経営の組織となった国文においては︑好むと好まざる
を問わず妥当するであろう0もつともわが国でも中小工業ほ︑査本主義の独占段階において敗退窮乏に直面し︑それ
が社会的経済的問題︑すなわち人口問題乃至努働問題︑中産階級問題︑生産性問題︑低賃銀問題︑隷属性問題等多く
の問題を意識乃至提起せしめたことは言うまでもない°けれどもわが国の明治維新以後︑今日に至る資本主義的国民
経済の展関過程において︑中小工業は大工業との競争関係から衰退滅亡の過程をたどり︑やがては大工業が中小工業
に代位すると言う現象は生起していないのである︒もつとも或る部門の工業における大工業の支配は︑これを否定し
得ない︑また中小工業窮乏の事態は︑全体としてみれば︑これを否定し難いが︑中小工業の量的優位は︑わが国工業
生産力構造の著しい特徴を示しているのである︒それは何故であるか0中小工業は仰故に窮乏するのであるか︒これ
に反して中小工業は如何なる理由乃至原因で存立するのであるか︒また存立する中小工業の利益は如何にして生じて
いるのであるか°言うまでもなく第一の課題は中小工業窮乏原因の探究であり︑第二の課題は中小工業存立條件の究
明である︒第三の課題は中小工業の経済性の解明である︒少なくとも以上の三つの課題は︑わが国中小工業にとつて
わが國中小工業の基本的問題
わが國中小工業の基本滴問題
ところで以上の三つの課題は︑わが国中小工業問題の発生乃至その意識化︑その変澤過程からみても︑極めて現実
的な課題であると考えられるのである︒
周知の如くわが国の中小工業問題は︑明治維新におけるョーロッ゜公式工業の移殖導入に端緒をもつ日本産業革命の
展関過程において︑所謂る﹁小工業問題﹂として意識化された︒それは明治時代を通じてであったが︑明活の初期と
後期では問題の本質は異なる︒またヨーロッ︒^における小工業問題の意識化とも相異している︒例えばドイツにおい
ては資本制大工業の展関によって淘汰される手工業︑家内工業問題︑従って当初より資本制生産形態と前資本制生産
形態の代置関係︵大工業と小工業との競争関係︶としての小工業が問題化したが︑わが国では国家資本によりて移殖
せる大工業の成立は︑農村における農家の自給生産乃至手仕事を淘汰したが︑広く一般手工業︑家内工業の淘汰にお
( 1 )
いて小工業問題は発生したのではない0むしろ移殖せる外来工業の負担を荷負うて輸出品工業化ぜる固有工業︵織物︑
鍼器︑銅器︑漆器︑和紙等︶が︑国内工業としても生活様式の多様性のために個人的消費の確固たる基盤に立つにも
かかわらず︑明治政府の殖産興業政策︑すなわち大工業中心政策のために無視せられたることの不当が︑わが国小工
( 3
)
業問題の意識化の第一段階であった︒もとより大工業と小工業との競争関係から生ずる小工業の洵汰は存在したが︑
それは明治中期以降になって小工業問題として意識化されたのであって︑その問題意識化の程度は比較的稀薄であっ
たと言つてよい︒次いで大正時代に入り工場法の施行を契機として小工業は問題化したが︑これは海外︑殊に独英の
﹁模倣的論義﹂すなわちドイツの婦人問題︑努働問題︑イギリスの苦汗制度の問題等を基礎とするに過ぎず︑しかし
( 4 )
大工業対小工業問題として︑また社会政策上の問題として意識化されたところに特微があった0かかる小工業問題が
八
八
八九 中小工業問題に移行したのは︑言うまでもなく技術の進歩に基く小型電動機並びに簡易機械の普及と︑第一次批界大戦当時におけるわが国工業の好況が︑従来手工業的︑家肉工業的小経営であった多数の小工業をして勢い動力機︑作業機を郡入せしめて工場化したことによるのである°換言すれば従来職人的工業乃至生業としての小工業が︑外面的に工場制組織をもったことに原因するのである︒しかしより大切なことは明治維新より展関したわが国の資本主義化︒産業革命の進股︑従って他万︑資本の集中︒独占過程の進行が大工業と中小工業との対立を新しき問題として生起せしめたことである︒従って本格的に中小工業問題が社会的︑経済的問題として政策上の対象となったのは大正末期からであり︑殊に昭和五︒六年にかけての深刻な経済不況の下において︑それは中小工業の﹁窮乏問題﹂として登場した︒この窮乏問題は産業界一般におけると同様に合理化問題として股開した︒ところが昭和七︒八年頃︑低為替と低賃銀の波に乗るわが国産業の輸出における好調は︑中小工業にも殷賑をもたらし︑ここに結果として現われたる限りにおいては輸出中小工業の﹁繁栄問題﹂を提起したのである︒しかしこの中小工業の繁栄は輸出のみならず︑満洲事変以後における軍甜工業部門の下諮化によるものであって︑この後者の問題は昭和十二年頃に至って︑所胴る軍船工業部門の﹁下請制問題﹂として発辰し︑ここに資本関係によって大工業の支配を受けた中小工業の隷属性の面が露出
( 5 )
されるに至ったのである︒次いで日華事変を契機として輸出中小工業と下請工業の繁栄は︑事変下における輸出の停
滞︑輸出入品等臨時措置法による経済統制︵主としてここではそれに基く資材の入手雛を意味する︶の強化によって
急激に領挫した︒しかも当時の軍需工業生産力拡充の時代的必要は︑中小工業の軍需工業方面への転換を要請し︑か
くて中小工業の所謂る﹁転業問題﹂なるものが発生した0加うるに昭和十四年以降の物資動員計画の強化︑欧洲戦争
わが國中小工業の基本的問題
わが國中小工業の基本的問題
の勃発︑日米通商條約の失効︑日独伊三国同盟の成立等により︑日本経済の米英依存体制は必然的に離脱の止むなき
に至り︑且つわが国の工業は長期総力戦体制に切換えられたPこれとともに低能李︑非生産性の中小工業は総工業カ
発揮のため強いて洵汰を余儀なくせしめられ︑ここに中小工業の﹁盤理統合問題﹂が起ったが︑それとともに転失業
問題が深刻化した0ところが今次批界大戦後における中小工業の迅速なる濫立は︑大工業の生産再関︑大工業の中小
工業分野への進出︑日本経済の構造的危機等に拍車されて中小工業濫立︑共倒の再び窮乏問題を繰り返し提起するに
至ったのである︒
かようにわが国の中小工業問題乃至その意識化には幾多の変蓬があったが︑大工業と中小工業との競争関係が激化
し中小工業問題が本格化した以後︑その変湿過程に一貫して存在するものは︑中小工業の一時的繁栄にもかかわらず
中小工業窮乏の事実である︒この窮乏の事実は︑中小工業の隷属性に根ざすものであることについては既に述べた︒
もっとも中小工業には一時的繁栄はあったが︑しかしそれは輸出ダンピングの結果であり︑山中博士が言はれる如
く︑それは合理化期の窮乏窮迫に対して窮乏的生長であった︒その後の下請問題︑転業問題︑盤理統合問題において
は外面的な問題の性質は︑中小工業の利用或は洵汰と言うが如く異なるとは言え︑本質的には資本関係による中小工
業の隷属であって︑この隷属性こそは正しく中小工業窮乏の本質的要因なのである︒今次戦争直後における中小工業
の一時的繁栄も濡するところ大工業の生産再関が遅れたること︵財貨の極度の欠乏を一応除外して︶に基く資本の圧
迫と︑それに基く中小工業の隷属が稀薄であったことによるものである︒このように考えれば中小工業問題の核心
は︑中小工業の窮乏的生長︑生長的窮乏の過程に絶えず残る・﹁窮乏問題﹂であると言つて過言ではないのである︒し
九〇
( 5 )
( 4 )
わが國中小工業の某本的問題
︵ 三
︶
中 小 工 業 問 題 の 基 礎 理 論
藤田敬︱‑]﹁中小工業の残存形態と下諮制﹂経済学雑誌. 祉会政策学会編﹁小工業問題﹂大正七年参照︒
( 3 )
同右
﹁同
'‑
( 2 )
( 1 )
る ︒
同 向坂逸郎訳﹁安本論﹂岩波文庫︑第一券第三分冊・︱︱七可頁ーニ八六頁︐山中篤太郎﹁中小
H
業の本質と屎開﹂昭和二十一一一年.七六頁︒九二頁︒
一巻二頁及びその他論文︒
九
からばわが国工業生産力構造における中小工業の批的優位と言う事実を前提として︑何故に中小工業は窮乏するので
あるか0それは独立資本の中小工業に対する圧迫と︑それへの隷属性にあるとは言え︑なを隷属性の周辺に存在する
多くの原因の探究が必要であることは言うまでもない︒次いでこの原因に関聯せしめて︑中小工業は窮乏するが如何
なる理由で︑かくも多抵に中小工業は存立するのであるか︒その存立條件の究明が必要であろう0更に存立する中小 工業は如何なる性賀の利盛を獲得しているのであるか0すなわち中小工業の経済性は何かの解明が必要である︒
これを要するに先に提起せる三つの課題は︑中小工業問題発生乃至その意識化︑その変造過程からみるも︑極めて
重要な現実的課題であることが理解されるのである0かくて中小工業問題における基本的な経済理論は︵イ︶中小エ
業窮乏原因の理論︿口︶中小工業存立條件の理論︵ハ︶中小工業経済性の理論となる︒これらの基本理論は︑また今
後における中小工業問題に対する政策狸論の基礎ともなるであろう°限られたる紙面の関係上︑以下はその概要であ
もとより中小工業窮乏の二様相のうち本質的なものは第一の場合である︒ 挙げ得ないのである︒ 中小工業の窮乏には二つの異なれる様相がある︒その︱つは同一生産分野に大工業と中小工業が並立競争し︑その結果︑中小工業が敗退し窮乏して行く場合である︒その二は同一生産分野に中小工業が濫立競争し︑その結果として共倒れして行く場合である︒乏の事実は資本主義の独占段階において急激に露出せられたものである︒
一般に資本主義経済の下では︑工業生産 第一の場合の窮乏は︑中小工業が主として大規模生産の利益を享受し得ない悪しき意味の中小性から生ずるのであ
る0すなわち中小工業が大工業と並立競争する場合には生産技術的︑経営管理的︑金融的︑市場的︑社会的に不利益
を受ける場合が比較的に多い︒これは結局︑牧益関係から中小工業が敗退し窮乏する場合である︒もつともかかる窮
第二の場合の窮乏は︑中小工業が小規模︑従って小資本で設立が容易であることから濫立し︑その結果として起る
ものである°共倒れはもとより大工業においても起り得る0しかし大工業は中小工業と異なり共倒れの蚕食的競争を
企業結合によって防止する︒しかるに中小工業は︑かかる手段を講じ得ないし︑また共倒れの危機は必らず経済不況
下に生ずるものであるから︑その程炭は深刻である︒この場合の中小工業においては転廃業による死亡率は高く全く
雑軍的存在たる様相を呈するのである︒もとよりかかる場合には協同組合化により或る程度の防止は可能なるも︑協
同組合化にも限度があるし︑また一般的に中小工業者の協同組合化意識の低調と無自覚的行動は完全に︑その成果を cィ︶中小工業窮乏の原因
わが國中小工業の某本的問題
九
は生産技術の進歩と資本の菩積が泄行するにつれて大規模の傾同をたどることは疑いもない事実であるから︑同一生
翠分野に並立競争する限り中小工業は︑特殊の場合を除き窮乏の過程をたどらねばならないであろう°要するに第一
の場合の窮乏は︑中小工業が大規模生度の利益を享受し得ないことに盛きるが︑これを少しく具体的に述べる意味に
おいて︑従来中小工業が共通的にもつ短所として指摘された点を振り返つてみよう0何故ならば︑それが第一の場合 の中小工業の窮乏に大きく作用するからである0中小工業の共通的短所は概ね次の如くである︒
^ィ︶機械設備が劣弱にして品質の不斉一︑技衛水準の拙劣︑大盤生産大最注文に応じられぬこと︵生産技術上の劣
^口︶小規模経営であるから優秀なる技術者と戦員を得維いこと︵生産管理上における人的能力の屈傭困難︶
^^︶信用が乏しく金融的に劣弱であること︵資金調達上の困難︶
^ l
‑
︶原材料の仕入が少訛であるため不利であること︵原材料調達上の市場経済的不利益︶
^ホ︶製品販売に有力な概関を設けることが出来ず︑販路の調査と情報が充分に得られないこと︵製品販売上におけ
る市場経済的不利益︶
^へ︶経営の内部構成を合理化することが容易でないこと︵経営合理化の困雑︶
しかし隷属性の周辺に存在する中小工業窮乏の原因は︑従来より右の如く指摘せられた中小工業の短所のみからで
( 1 )
はない︒いまあらゆる原因を要約されたと観られる山田文雄氏に従い︑これを図式化すれば概ね次の如くである︒
弱 ︶
わが國中小工業の基本的問題
九
ものではない︒ 中小工業窮乏の原因ー もとより以上の諸原因は不易のものではなく︑市場の状況や経済政策の性質及び国民経済の一般的状態の変化によ
りて異なるから︑如何なる條件の下においてもすべて︑同一の程度をもつて中小工業を窮乏に陥らしめる原因となる なを中小工業窮乏原因の探究に関聯して理解しておくべきことは︑末松教授が指摘される所謂る中小企業失敗の原
因︑すなわち外部的原因と内部的原因の究明である
0
教授は実休調査に基き経営失敗の原因を外部的原因と内部的原 因とに区別し︑それに基いて中小企業に対する基本的政策を決定することの必要を強調され次の如き原因を挙げられ
わが國中小工業の某本的問題
ー経済的原因ー
ー︵
中小
H
業なる
がた
め︶
大規模生産の利益を享受し得ざー構造的原因ーる故に敗退する場合の
[ 2
" .
[ 9
の事情
ー
1"
賽金関係
2.労懺関係3︑原料関係4`販喪関係 ー摩擦的原因ー
5︑企業知識の欠乏
ー
6 6 會租税上の不利盆
i ~
I I
4 3 2 1
• • • •
代 需 国 戦 用 要 家 争 品 の 政 勃 の 変 策 発
軋 遷
九四
九五
( 1
>
資金不足( 2 )
税負担の増加
( 3 )
問屋乃至親工場の支彿遅延
( 4 )
有効需要の不足と市場の狭麿
( 1 )
企業者の能力経験の不足と性格上の欠点
( 2 )
規模の不適正
( 3 )
技術の劣悪
( 4 )
自己資本の不足
( 5 )
財務管理の不適当
C 6
>
企業の組織︑努務管理の欠陥( 7 )
販売購入技術の拙劣
( 8 )
事業外投機の失敗
かかる指摘は︑もとより中小工業の短所乃至中小工業窮乏の原因として述べたところと共通するものがあるが︑し
かし中小企業自体の立場において経営失敗の原因を外部的原因と内部的原因に区別して究明し︑それを基本的な中小
工業対策の樹立︑或は経営対策の決定に資さんとする考え方は︑極めて現実的な価値ある研究の一っと認められるで
あろう︒なを中小工業窮乏原因の探究にとつても︑中小工業失敗の内部的原因が︑しばしば中小工業の窮乏を拍車せ
これを要するに中小工業の窺乏は︑独立資本の圧迫と︑それへの隷属性の周辺に生ずる経済的︑経済外的及び経営
中小工業窮乏の本質的な原因は以上の如くであるとして︑しからば最近のわが国中小工業窮乏の原因は何か0例挙 すれば先づ第一に生産技術的原因で物的技衛手段の利用︑換言すれば機械化設備の利用が困難であること0第二は経
わが國中小工業の某本的問題 的諸原因によって起るものである︒ しめている大きな原因であることを忘れてはならないのである︒
( B )
中小企業失敗の内部的原因
( 5
>
資材の不適当及び不足で6)
共倒れ競争
^ A )
中小企業失敗の外部的原因 (2)
てい
る︒
︵口︶中小工業の存立條件
( 2 )
( 1 )
山田文雄﹁中小工業の経済理論﹂昭和十八年`三四頁以下
経営存立の基準條件の合理化︑すなわち製品品質の専問化または加工工程の特殊化が不充分であ
第三は資金の調逹融通が困難であること︒第四は原材料獲得が困難であること︒第五は租税及び国家政策上
営不利益が存すること︒第六は大工業或は問屋の中小工業に対する危瞼の転嫁が存すること等である︒もつとも以上
の原因のうち特に第三・五・六は当面する直接の窮乏原因として意識されている現象形態である︒しかし今日窮乏す
一部分の工業の一時的殷賑を除いて︑大工業たりとも︑その例外ではない︒これは正
しく資本の正常なる価値増殖運動を継続し得ざる自立性なき日本経済再生産過程における構造的危機に基くものであ
る°従ってかかる危機に濫立する中小工業が一方においては大工業の進出と競争︑他方においては中小工業自体の共
倒れ競争︑それに以上に指摘した如き諸原因が加重して中小工業を窮乏せしみているのである︒この意味では中小エ
業の窮乏問題は︑わが国の資本主義的国民経済構造上の問題に根ざすものであると言えるであろう︒ここでは先に断
った如く独立資本の中小工業に対する圧迫と︑それへの隷属性の周辺に存在する窮乏原因を若干指摘したに過ぎない︒
末松玄六﹁中小企業失敗の原因と緑営対策﹂昭利二十六年︑五一ニー七写頁︒
中小工業の広範な批的優位と︑それに対する依存度の大きいことは︑わが國経済及び工業生産力構造の著しい特徴
であり︑その最的地位は昭和六︒七年以降︑現在に至るまで殆んど変化していない︒しからばわが國の多而的な中小
工業の批的優位は如何して生じ︑しかも理論的にも現実的にも窮乏すべき筈の中小工業が︑何故かくも多盤に存続す るのは中小工業のみではない︒
) と ︒
合理化の不完全︑
わが國中小工業の甚本的問題
九六
九七 るのであろうか°すなわち広い意味での中小工業存立の條件は如何︑もとよりこの問題は輩純ではない0何故ならば
わが國における中小工業の存立形態は内職︑家内工業︑新問屋制工業︑下請制工業等独立資本の下に隷属する異質的
多様性に富む存在であるだけに︑それぞれの形態の存立を可能ならしめている事情乃至條件には多少の相異が存在す
るからである︒すなわちわが國の中小工業は國民経済構造的関聯において成立しているものがあるし︑市場経済的関
聯において成立しているものもある°或は生産技術的事情から成立しているものもあり︑また経営的事情に依存して
成立しているものもある︒従って存立條件の一元的把握には無理が生ずるのである︒しかしここではこれらの問題に
比較的重要と考えられるものを二︑三挙げ︑中小工業の存立條件を明らかにしてみよう︒
わが国における中小工業の存在が董的に優勢である理由乃至條件として︑先づ高橋亀吉氏は次の諸点を挙げられ
^ こ ︒
1)
わが国の人口過測が低廉なる努力を豊富に︑しかも容易に使用し得たこと︒
C 2 )資源の貧弱及び本業牧入不足のためこ般に補充的牧入を要したこと︒
A 3 )
工場法︵旧︶の適用が免除された︵常時使用職工十人以上の工場に適用但し特殊産業は例外︶ために原因する
わが國中小工業の某本的問題 ︵口>都市生活における家計補充的牧入努働乃至内職の必要 ︵イ︶農閑期における農村努働力利用の仕事の必要 さてわが国中小工業の異質的多様性を認めながらも︑ は深く立ち入らない︒
一般的な存立條件を論じたものは少くない0それらのうち︑
( 2 )
技衛推進と工業化の展開による小規模工場生産の可能 ?︶中小工業は固定資産が比較的に僅少なるため営利生産上︑需要の増減に応じて有利に生産を調節し得たこと︒
(
5
業主は努働者と共に働き︑もつて低廉なる努働者が一層容易に使用し得たこと︒
>
︵イ︶努働争議が少く︑また努働條件が大工業に比し低劣であること︒
(^)家族努働を利用して総動員で働き得たこと︒
これはわが国中小工業盛行の主要原因を列挙したものであるだけ︑極めて包括的ではあるが︑合理的存立條件と非
合理的存立條件の漉在が認められる︒これを更に一歩進め本質的な條件を規定したものに︑経済学的観点及び経営学
的観的から考察したものがある°経済学的観点とは︑存立條件を国民経済構造との関聯において考察するものであ り︑経営学的観点とは︑経営内部或は中小工業自体の立場から考察することを意味するのである0中小工業存立條件
の究明はこの二側而の適切なる統一的考察から明らかとなるであろう︒
^‑︶中小工業存立條件の経済学的考察
( 1
)
C A )後進資本主義国としての一般的性格のため︒
( 1 )
産業資本の不足 ^6)副業的︑内職的努働を極めて低厭に使用し得たこと︒ ^口︶努働者に対する顧利施設を要せざること︒ 極少工場の活動が容易であったこと︒ わが國中小工業の基本的問題九八
ないと同じく︑
( B )
日本経済の特殊的性格より
( 1 )
封鎖的な努働力再生産循環と︑それに依存する輸出化在来産業乃至輸入基礎工業の相互補完的展開
( 3 )
独占性に近づき得ない資本的経営が︑社会経済的に中小工業的被支配化を余鍛なくされたこと︒
一般的存立條件
( 1 )
生産技術的限界
( 4 )
経営管理上の限界
( B )
特殊的存立條件
C 1 )
外部節約の発達
( 5 )
動力の利用
中小工業の存立條件は︑
( A )
( 2 )
需要の変動
A 5 )
不完全競争市場の存在
C 2 )
生活様式の多様性
( 6 )
低賃銀の利用
九九
( 3 )
新問屋工業の成立
→
4>手先の器用ほぽ以上の二つの考察に盛きるであろう︒もとより経済的條件と経営的條件は無関係では
一般的條件と特殊的條件にも密接な関係があることは言うまでもない0殊に特殊的條件は一般的條件
の一特殊的形態であって︑それ自体︑自己完了的條件ではない︒かくて以上の二側面よりする考察の統一的理解によ
つて中小工業の存立條件が明確となるであろう0なを二︑三補足したいことがある︒
そのーは︑以上の諸説から判断しても︑中小工業の存立條件は︵一︶経済的條件︵二︶経営的條件︵三︶生産技術
わが國中小工業の某本的問題 (=‑︶中小工業存立條件の経営学的考察
( 2 )
( 2 )
資本不足により生産財生産部門の下請制工業の発達
令)中小工業助成政策 (
6 )
投資︑機械化︑雇傭との間に生ずる矛盾
( 3 )
綜合工業における生産工程の垂直的分化
( 2 )
( 1 )
的條件︵四︶社会的條件等に求めなければならないことである︒
その二は︑中小工業の異質的多様性により︑中小工業の存立條件は︑それぞれ異なるから厳密には中小工業を類型
的に把据し︑その範囲内における存立條伴の一般性と特殊性を具体的に考察しなければならないことである
0例えば
内職と家内工業と下請工業との間に︑或は織物工業と雑貨工業と陶磁器工業との間における一般性と特殊性の如きで
その三は︑中小工業の存立條件は時処を超えて不変ではなく︑不安定的なものであると言うことである
0例えば資
本主諦経済であつても︑それが自由経済の支配的な段階であるが︑統制経済の段階であるか°或は平時経済であるか︑
または戦時経済であるかによって存立條件は異なるであろう
0換言すれば批界経済や国民経済構造の変動が中小工業
の存立條件に著しい動描を与えると言うことである︒
なを設後に注意すべきことは︑中小工業の存立條件の究明に際して︑これを合理的存立條件と非合理的存立條件と を明確に識別することである°何故ならば後述するが如く︑今後の中小工業は少くとも合理的存立條件の基盤に立つ ものでなければならないからである
0
隷属性の故に一般的に窮乏する中小工業が︑僅に独自の存在性を保持してゆけ
るのは︑合理的存立條件の基盤に立つ中小工業のみである︒このことの認識は為政者にとつても︑中小工業者にとつ
ても重要なことである︒ あ
る︒
高橋魏吉﹁現代中小商工業論﹂昭和十一年・四一ー四三頁︒
山中篤太郎﹁中小工業論の某本問題﹂昭和1一
十一
年・
経営
評論
掲載
論文
︒
わが國中小工業の基本的問題
1 0
0
わが國中小工業の基本的問題
言ではない︒ 末松玄六﹁最適工業経営論﹂昭和十八年.︱︱一九ーニニー頁︐
わが国の中小工業の多くが︑必らずしも合理的存立條件の基盤に立つもののみではない°従って大部分の中小工業
は隷属性と︑その周辺に存在する窮乏原因の加重によって絶えず窮乏的生長︒生長的窺乏をを遂げて来たのである︒
しからばこれらの多くの中小工業は︑大工業との競争及び中小工業相互の共倒れ的競争において︑殊に前者の競争関
係において︑如何なる経済性を発揮して来たのであるか︒また今後のあるべき中小工業の経済性は如何なる性質のも
のでなければならないか︒以下はこれらの課題に対する若干の私見である︒
10
所謂る中小工業の多く
一般に従来の中小工業の多くは︑端的に言って手工的技術︑長時間努働︑低賃銀︑不潔な職場︑家族努働の利用等
全体としてみれば︑劣悪努働條件を武器とし︑資本的従属関係を盾としてのみ︑その存続を維持して来たと言って過
一口に言へば︑中小工業の経済性はこれら劣悪條件の存在を前提として発揮されていたのである︒若 しさうであったならば︑これらの中小工業は正しき経済性を発揮したものでなく︑従つてそれは努働力を消耗せし
め︑技能の向上を阻害し︑近代の機械的生産力の発展を窒息せしめる有害なる存在として︑国民経済上または一般社
会政策上の見地から観ても決して望ましき存在ではなかったのである︒もとよりわが国工業生産力構造における中小
工業の地位を軽視するものではないが︑ ︵ハ︶中小工業の経済性
( 3 )
しかしこのような劣悪努働條件の中小工業の多くの存在は︑わが国工業生産
力構造の脆弱性を現わすものであったと言ってよい0もつともこのような劣悪條件の中小工業は︑近代化されざる中
小工業︑わけても小工業及び零細工業に多かった︒しかし外面的にほ工場制組織を装える︑
性は如何にして成立するか︒ わが國中小工業の基本的問題
も︑以上の例外ではなかったことは否定し難い事実であった︒しかるに今日劣悪努働條件による中小工業の経済性
は︑わが国経済の民主化︑経済計画の進展からみても望まるべきものではない︒しからば今後のあるべき中小工業の
経済性は如何なる性質のものであるべきか︒またあらねばならないか︒
さて前後するが︑ここに経済性とは︑工業の経営において︑生産に要した費用と生産によって作出された給付を比
較秤最する場合の概念であって︑この場合には牧益性と称してもよい0言うまでもなく経済性は経済原則︑すなわち
最少の費用をもつて最大の効果を挙げることを指導原理として生産経営が管理される場合に発揮されるものであり︑
それは正確な会計上乃至簿記的記帳による経済計算によってのみ明確となるものである︒このような個別経済上の経
済性に対して国民経済上の経済性が考えられる︒もとより後者は今日のところ︑わが国では概念上成立するに過ぎな
い︒しかしながら国民経済全体の立場に立つて経済行為の経済性を計算することは︑今後益々必要となるのであろう︒
さて個別経済上の経済性は︑大工業においては主として大規模生産の利益を享受すること︑すなわち生産技術的︑
経営管理的︑金融的︑市場的︑社会的要因が有効に作用することによって生産物単位当りの生産費が低廉となること
によって成立する︒これは明らかに組織による節約の法則
である︒なお大量生産が可能なる工業生産分野においては経済性の発輝は更に顕著である︒しからば中小工業の経済
少くなくとも中小工業が経済性を発揮するには次の二つのことが前提條件となるであろう︒その第一は中小工業が
合理的存立條件の基盤︑殊に適正な生産分野に成立していること0第二は最適経営規模による合狸的経営が実現して
( l a w o f e c
o n o m y i n o r g a n i z a t i o n )
IO
の作用する結果
先に述べた如く中小工業の存立條件は不変でなく不安定的なものであり︑また存立條件として数えられるものの中 には非合理的な條件も含まれている0従って中小工業は先づ合理的な存立條件の基盤︑殊に適正な生産分野に成立し ておらねばならない0適正な生産分野とは︑単に大工業が棄て顧みない修結加工業や部品の下諮生産業とかの分野で
はなく︑抽象的に言えば︑それは大工業の適しない分野を意味するのである︒大工業の適しない分野とは︑大規模生
産や大量生産が不可能または不利益な分野であり︑かかる分野に中小工業の存立し得る適正分野があるのである︒も
とよりこの分野の決定は困難である︒またこの分野は経済状勢の如何に対応して変動するものであるけれども︑中小
工業は中小工業に適した生産分野に立つ努力が必要である︒このことは中小工業者にとつて重要なことである︒
次に最適経営規模による合理的経営の実現とは︑かのロビンスン
( E
A .
. G
.
R o b i n s o n )
が指適する如く︑現在の
の結
果で
あり
︑
技術及び経営方法をもつて通常の操業度で操業する場合︑単位当り平均生産費用が最少なる規模による経営の実現で
( 1 )
ある
0かかる最適規模の設定は一部分は如何にして最も有利に資産を投資し得るかを考えている企業家の意識的決定
( 2
)
一部分は非能率的なものを取除き能李的なるものを奨励する競争力の結果である︒もとより中小工業
の最適規模は︑実際の問題としては極めて複雑なる條件を考慮しなければ断定し得ないけれども︑経営に用いらるべ
き機械力︑努力︑費用︑その他一切の経営諸要因間の均衡が維持せられる時は︑経営目的G生産性の昂揚︶の最高の
実現が保障せられる︒これは勿論︑経営の種類毎に個別のものが存在し︑また同一稲類の経営においても︑その所在
或は対応する市場を異にすることにより︑それぞれ別個の度合が存するものである0故に経営は常に適限経営が如何
わが國中小工業の某本的問題 いることである︒これを適限経営と称してもよい︒
I O
‑
︱ ︱わが國中小工業の基本的問題
10
四
( 3 )
なるものであるかを求めて︑これが実現を意図するは事業経営上の根本的要諦でなくてはならない︒もとより適限経
営の必要は中小工業にのみ固有なのではなく︑大工業とても︑この例外ではない︒しかし適限経営乃至最適経営規模
による合理的経営の実現は︑中小工業の現実の姿態からみて特に必要なのである︒
これを要するに中小工業が合理的存立條件の基盤︑殊に中小工業に適した生産分野において最適規模による合理的
経営を実現するならば︑換言すれば中小工業に組織合狸性が郡入されるならば︑中小工業と雖も大工業の経済性に該
当する中小工業の経済性を発揮し得る筈である0すなわち非合理性を追放した経済性︑これこそあるべき中小工業の 経済性であり︑またあらねばならない経済性である0従来の低努賃︑長時間労働の如きは今後の中小工業の経済性発
しかしがなら中小工業が正しき経済性を発揮するために必要な組織合理性の導入は︑言い易くして実行し難い︒ま
た大工業における場合よりも一更困難である0けれども組織合理性の導入は︑今後のわが国経済の歴史的動向が︑綿
密なる経済計画と生産力構造︑なかんづく工業生産力構造の高度化を要求する性格をもつものである限り︑必然化す
るであろう°言うまでもなく工業生産力構造の高度化は大工業の組織合理性のより一更の実現︑従って経済性の発揮
であるから︑大工業と中小工業との相互制約的依存関係にある中小工業も︑また一般の中小工業も︑それにつれて組
織合理性の実現︑従って経済性の発揮が要請せられることになることほ当然である︒またわが国経済計画の進展は︑
如何なる部門の中小工業を保護し︑或は如何なる中小工業を廃するか︑また合理化するか等の問題を策定するに到ら
しめるであろう︒このような場合には中小工業の個別経済上における経済性のみならず︑その国民経済上における経 揮の基盤であってはならない︒