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意思決定の適応モデル: 進化的計算による視点

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埼玉大学紀要(教養学部)第43巻第2号 2007年

1 はじめに 1. 1 合理的選択論

 人間行動に基礎を置きながら社会現象を説 明するモデルを構築しようとするとき,選択肢 として最も有力なのは合理的選択論(Rational Choice Theory)である(Abell,1991; Elster, 1989).合理的選択論の要件を何と定めるかは 理論家によって変異があり得る.が,基本的 にはミクロ経済学と同様に,行為主体が状況 を一定の評価関数(効用関数など)によって 評価し,その評価結果によって行為の選択肢 を一意に選ぶ,と考えることになる.人間の 行為のメカニズムの関する社会科学上の主張 はいろいろあるにせよ,社会現象を説明する 演繹体系の中で用いることができる理論装置 は,合理的選択論をおいて他にない.合理的 選択論の隆盛は,20世紀後半以降ゲーム理論 が進展し,普及したことを背景とするといえ るだろう.

 むろん合理的選択論の評価は,社会科学の

中でさまざまである(e.g., 盛山, 1997).一 方では合理的選択論の機械的な人間観に対す る文学的な嫌悪の表明もあれば,効用を公理 体系と見たときの不備の指摘もある.実際,

効用系に対する反例,逆理の存在の指摘の歴 史は古い(酒井, 1982).

 こうした負の評価の存在にもかかわらず合 理的選択論の魅力が持続するのは,合理的選 択論が位置する社会科学の課題特性に故があ ると見るべきだろう.社会科学の課題は社会 現象を説明することにあり,行為の選択その ものはそのための前提に過ぎない.その前提 の妥当性は,合理的選択を前提としたときの 社会レヴェルの帰結(予測)に対する評価に 基づくのが原則である.すなわち,前提自体 の良し悪しや好み,現実性を議論するのは本 筋ではない,という事情である.社会科学の 演繹体系に組み込める,合理的選択論に代わ る選択肢は見当たらない.

 しかし,人間行動そのものの説明に関心を 向けたとき,合理的選択論,ないしその背後 の効用系に対する不満は正当性を帯びて来る.

意思決定の適応モデル:

進化的計算による視点

高 木 英 至*

* たかぎ・えいじ

 埼玉大学教養学部教授、社会心理学

 ミクロ経済学ないしミクロ経済学に基礎を置く合理的選択論は,行為主体が一定の固定的な評価関数(効 用関数など)を持って状況の中で一意な選択をなすと仮定する.プロスペクト理論/行動経済学はその評価 関数を実際の人間行動により適合したものに修正している.本稿ではさらに,プロスペクト理論の評価関数

(効用関数,確率重みづけ関数)が「進化」ないし「適応」の観点から生成されるというアイディアを述べる.

単純な計算機実験の結果を示すことにより,適応の視点から多様な効用関数が出現できること,確率評定の 仕方が変異し得ることをデモンストレイトする.

キーワード:効用関数,プロスペクト理論,進化的計算

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1. 2 プロスペクト理論

 不確実性下の意思決定事態を考えたとき,効 用系による合理的選択の処理は,単純化すれ ば次のようになる.行為主体は結果に対する 基数的(数量的)効用関数を持つと考え,そ の効用の値と(その値の結果が生じる)主観 確率の積和(期待効用)を最大化する選択肢 を行為主体は選ぶ,と考える(期待効用仮説). 効用関数の典型的な形状は図1のごとくであ る.上側に凸な効用関数(a)は危険回避的であ り(限界代替率ないし限界効用の逓減),下側 に凸な関数(b)は危険選好的である.

 Kahneman と Tversky らによるプロスペクト 理論(ないし行動経済学)は,上記のような 古典的な経済学ないし合理的選択論の定式化 に対して重要な挑戦を提起している(Kahneman

& Tversky, 1979; Maital, 2007).古典的な 経済学では,行為者は自己の効用関数から総 資産の評価を行い,その総資産の評価から選 択が生じると仮定する.その評価は行為者に 固有の効用関数に基づき,効用関数はしばし ば図1(a)のような上方に凸の(危険回避的な)

形態であることが仮定される.対してプロス ペクト理論は,大まかにいえば,次の前提に よって古典的経済学理論に対峙している.①

ら見た gain であるか loss であるかによっ て効用関数の反応が異なる.概して人はloss に対してより敏感である.③不確実性が導入 される選択事態では,確率も重み付け評価の 関数によって評価される.

 効用関数として次のような関数が例示され ることもある.

上記の関数は図2のような形状となる.図2 (a)は極端に描いた場合であり,しばしば例示 されるパラメータの値(α = β = 0.88, λ

= 2.25)を使うと図2(b)のようになる.

1. 3 意思決定の適応理論

 上記のようなプロスペクト理論は,人間に よる選択の説明の観点からは大きな進歩とい える.プロスペクト理論ないし行動経済学の 名によって進められた多くの経験的知見は,

古典的な定式化による以上に,プロスペクト 理論の定式化が説明力を持つことを示してき た(多田, 2003 ; 友野, 2006).

 本研究の目的は,そのプロスペクト理論に 対し,さらに適応モデル,つまり進化的な適 応の観点を導入することにある.この適応モ デルは次のアイディアから出発する.すなわ ち,これまで提起されてきた評価関数,例え

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(3)

-37-

ば効用関数は,進化的な,ないし適応上の根 拠によって生成されるのではないか,という 点である.判断事態が量的(金額や確率など)

に表現されるなら,人はプロスペクト理論が 仮定するように,結果の価値の評価(効用関数)

や可能性の評価(確率の重みづけ関数)を用 いて判断するだろう.しかしそれらの関数は 行為者に固有に備わっているというより,行 為者が適応反応として獲得し(あるいは進化 の過程で遺伝的に獲得し),状況に応じて使い 分けていると見るべきものだろう.例えばプ ロスペクト理論では,効用関数の仮定によっ て,ある額の獲得より同じ額の喪失の回避の 方が行為者にとって重要となる.が,こうし た損失回避反応は,損失によって行為者の生 存が危うくなる事情に基づく適応的な戦略と 見ることができるだろう.

 適応モデルの概念図を描けば図3のように なる.行為主体が状況(選択肢群を含む)に 対して適用する認知の中に,選択肢がもたら す結果を評価する関数,確率推定機能,が含 まれているだろう.従来の理論では,プロス ペクト理論を含め,この認知の機能が固定的 な与件として存在すると考えていた.しかし この認知は,実は条件依存的と考えることが できる.この認知に基づいて行為主体が意思 決定し,その結果が生じる.その結果に応じ

た適応が生じ,認知自体が,少なくとも長い 目で見れば適応的に選択されるであろう,と 考える.

 言い換えれば,この適用モデルは,合理的 な意思決定そのものが,適応/進化というメ タ原理の下で生成されると考えるのである.

 こうした適応モデルの考えを概念上テスト する単純な方法は,仮想の意思決定事態を計 算上で生成し,進化計算によってどのような 認知様式が形成されるかを確認することであ る.ここでは特に,プロスペクト理論の効用 関数の形状などが進化的に生成されるか否か を,計算機実験によって評価しようとする.

2.シミュレーション1:生き残り基準の作 動

2. 1 生き残り基準

 適応の考え方からすれば,危険回避的な効 用関数が生じる場合を考えることは容易だろ う.人は日々利得を得て生きてゆくとしよう.

このとき,利得自体の期待値は同じであって も,利得のバラツキがあるとき,不運にして利 得があまり得られない期間ができる可能性は 高まる.この不運な期間があれば,全期間で 得られる利得の総量ないし期待値が同じでも,

生き残る可能性は減るだろう.つまり,危険 回避的な効用関数とは,こうした不運な期間 が生じることを回避する機能を果たすと見る ことができる.人がこの状況に適応するとす れば,危険回避的な評価関数(効用関数)を持っ た方が適応的であることになる.

 このアイディアが働く状況を次のように計 算モデルとして操作化する.

2. 2 判断事態

 以下の計算機実験では計算上のエージェン トに次のような選択肢を複数提示する.

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(4)

-38-

得の a と –b はエージェントの効用関数に よって評価される(u(a), u(-b)).また,pと 1-p もエージェントの重みづけ関数 w によっ て評価されると考える(w(p), w(1-p). ただし プロスペクト理論に従い, w(p) + w(1-p) = 1 という制約はない).

 エージェントには1回のラウンドで10個の 選 択 肢 が 提 示 さ れ, 自 己 の 判 断 基 準(uとw)

に従って1つを選ぶ.選んだ選択肢の p の値 をそのまま用いて結果が a か –b かが決まる.

出た結果の値がエージェントの,そのラウン ドでの利得となる.

 p は [0, 15/15] を一様乱数に従って選ぶ

(可能な値は16個).a は[0, 12.0],b は[0, 10.0]の一様乱数で決める.なお,10個の選択 肢のうち1つは [3, 14/15; -3, 1/15]である.

従ってどのような選択肢が並ぼうと,判断基 準が適切であれば,1ラウンド当たり期待値 2.6 の利得は確保することができる.

2. 3 戦略

 エージェントの戦略は88の2進数の次元か ら成り立つ.効用関数には上式をそのまま用 い,α,β,λのためにそれぞれ8次元を使う.

確率は[0.0, 1.0]で1/15刻みで生じ,その間 の16の値に対するwの値も4次元の2進数で決 まる.

2. 4 計算手順

 100のエージェントを仮定する.1つのラウ ンドで各エージェントは1回の選択を行い,

1世代で500ラウンドを繰り返す.500ラウン ドの利得の合計がエージェントのその世代で の利得である.「生き残り基準」がある条件で は(後述),生き残り基準を充たせなかったエー ジェントは「死ぬ」.

交差後,新エージェントの戦略の各次元に突 然変異を施す.

2. 5 実験計画

 先の適応性のアイディアを検証するため,

「生き残り基準」のある条件とない条件を導入 した.生き残り基準を充たせぬ場合とは,過 去10ラウンドの利得合計が基準(合計10)に 達さないことである.生き残り基準のある条件 では,生き残り基準を充たせなければ次世代 の「親」にはならない.各条件につき,1000 世代までの試行を20回繰り返した.

2. 6 結果

 この計算では課題自体が確率的であるため,

1000世代を経てもエージェント間でパラメー タの値にある程度の変異がある.エージェン トの最終のパラメータ値の平均をとり,その 平均値が条件ごとにどの範囲にあるかを計算 した.結果を表1に示す.計算された値はプ ロスペクト理論の想定に近いが,生き残り基 準あり条件でβの値が,生き残りなし条件で αの値が,それぞれ 1.0 を超えている点が想

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(5)

-39-

定とは異なる.

 まず生き残り基準がなく単純に進化計算さ せた場合の平均的な効用関数と確率重みづけ の結果を,それぞれ,図4と図5に示す.効 用関数は直線に近く,あえていえば正の結果 の範囲では危険選好の傾向がある.確率評価 については,低い確率値の範囲で重みづけが 確率値より高く,高い確率値では重みづけが 低くなっている点で,プロスペクト理論の想 定を再現している.

 生き残り基準を導入した条件での結果は図

6と図7である.一見して分かるように,生 き残り基準の導入は効用関数を危険回避的に している.図6の関数形状は古典的理論にお ける危険回避的な(上方に凸な)効用関数に 近い.また,確率重みづけ関数をより鋭敏に

(傾きを高く)する効果を持った.低い(高い)

確率値の範囲で重みづけが確率値より高い(低 い)点ではプロスペクト理論の想定の通りで ある.

2. 7 考察

 このシミュレーション1は既述の適応理論 のアイディアの想定の範囲内の結果になった といえる.まず,単純に進化計算させた場合 は危険中立的か危険選好的な効用関数となる のに,生き残り要因が作用する条件では危険 回避的な効用関数が生成されている.図6の 結果を眺めるなら,プロスペクト理論の主張

(図2)にもかかわらず,行為者には古典的な 危険回避型の効用関数を仮定してもよさそう に思えるほどである.

 計算上生まれた確率重みづけ関数の形状は,

大まかにはプロスペクト理論の議論を再現し ているように見える.しかし,プロスペクト 理論の想定も図5,図7の結果も,客観的な 生起確率の変動に対する主観的な確率の感応 度が鈍いことの結果に過ぎないかも知れない.

3.シミュレーション2:確率評価の分離 3. 1 確率評価の変異可能性

 プロスペクト理論では判断に確率を利用す ると仮定する.その確率の重みづけ関数は,

生起する事象にかかわらず同一と考えている.

しかしここで,事象によって確率の評価が異 なる,例えば,正の結果が生じる確率と負の 結果が生じる確率が別様に重みづけられると したらどうであろうか? 通常,行為者の危 険への態度は効用関数によって決まると考え 5

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(6)

るが,負の結果は正の結果より生じやすいと 推定することによって,危険回避性が作用す る可能性もあるだろう.

 認知的な社会心理学では,人間には基本的 にoptimismが備わっていて,物事はうまく行 く,という方向にバイアスがかかるという議 論がある(e.g., Baron, Byrne & Branscombe, 2006).Planning fallacy などである.他方 で,別の側面では人には一種のpessimism が 備わっている可能性もある.こうした傾向が この文脈で計算上再現されるか否かは1つの 興味といってよい.

3. 2 戦略の定義と実験計画

 以上の考えのもとに,シミュレーション2 では,確率重みづけ関数wに対応する戦略次元 を64(4次元×16個)増やし,152次元で計算 することにした.確率重みづけ関数は,正の 結果用と負の結果用の2種類ある,と考える.

シミュレーション1と同様に,生き残り基準 あり/なしの1要因(2水準)を導入し,各 条件で20試行を繰り返す.他のシミュレーショ ンの設定はシミュレーション1と同じである.

3. 3 結果

 2.6と同様に,試行ごとにエージェントの 最終のパラメータα,β,λの値の平均をとり,

その平均値が条件ごとにどの範囲にあるかを 計算した.結果を表2に示す.パラメータの 値はシミュレーション1とは異なるが,効用 関数の大まかなパタンはシミュレーション1 と同じであると見てよい.ただし生き残り基 準なし条件で,負の領域における効用関数が 下側に凸に傾いている.

 シミュレーション2での確率重みづけ関数 を図示したのが図8(a),(b)である.一見し て分かるのは,図に示す値が平均値であるに もかかわらず曲線が平滑的でない(安定しな い)ことである.この点は,重みづけ関数を 2つにすることによって関数を形成するため に入力数が半減し,十分な計測ができなかっ た結果であるかも知れない.

 しかし図8でも一定の傾向を見てとること ができる.

 第1に,正の結果に対する重みづけのパタ ン は 単 一 の 重 み づ け 関 数 を 仮 定 し た シ ミ ュ レーション1(図5,図7)の場合に似ている.

傾きが45度線より緩くなっているのは反応感

(7)

-41-

度の鈍さを表しているかも知れない.

 第2に,しかし負の結果に対する重みづけは いくぶんパタンが異なっている.小さな確率 のときに生き残り基準あり条件で重みづけが 低くなる点を除けば,多くの確率の値の範囲 で,負の結果の生起確率はほぼ等しいと評価 される点である.つまり負の結果が生じる確 率に関しては,その確率が特に低いと分から ない限りは,ほぼ等しく「起きるかもしれない」

と判断する傾向があるということになる.

 第3に,多くの確率の範囲で,生き残り基 準が存在して生き残りへの考慮が働く条件で は,正の結果が生じる可能性をより低く,負 の結果が生じる確率をより高く評価する傾向 があるように見える.つまり生き残り基準の もとでは,行為者はよりpessimisticに判断す る,という結果になっている.

3. 4 考察

 正と負の結果に対する確率重みづけ関数を 分けてシミュレーションを実施してみた.効 用関数についてはシミュレーション1の結果 とはさほど変わらないが,確率重みづけにつ いては,正の結果に比べて負の結果を起きや すいと推定する傾向が見られる.生き残り基 準が働く条件ではその傾向がより明確になる 傾向がある.

 危険回避の傾向は,通常は効用関数の形状 によって説明される.しかしこのシミュレー ションのように,結果に応じて推定される確 率が異なることが許された場合,確率推定に よって危険回避傾向を発達させることも,行 為者の側にとっては可能である.現実の人間 の危険回避傾向が結果の評価(効用関数)に 基づくのか,確率推定に基づくのかは,興味 ある経験的課題になるかも知れない.

 このシミュレーション2では,確率重みづ けが結果の正負だけで異なるというモデルを

採用した.しかし正負で区分するなら,より 一般的には,重みづけが予想する結果の効用 値の関数と見るべきかも知れない.

4 シミュレーション3:競争志向の導入 4. 1 競争志向

 ここまでのシミュレーションで出現した効 用関数の形状は,基本的には図4と図6のパ タンである.図6は明確に危険回避的であり,

図4は危険中立的,ないしいくぶん危険選好 的ともいえる.ただ,ここまではまだ,明確 に危険選好的な効用関数,つまり図1(b)のよ うな形状の効用関数は現れていない.本稿が 提起している適応理論の観点からは,危険選 好的な効用関数を含めて,いろんなタイプの 効用関数が条件に応じて生成されると都合が よい.

 では明確に危険選好的な効用関数はどのよ うな場合に出現するであろうか?

 思いついた1つのアイディアは次の点であ る.普通に進化的計算をするだけでは,効用関 数は直線に近くなるだけのはずである.生き 残り基準がある場合は危険回避的になる.危 険選好的な効用関数が進化する場合とは,普 通に生き残ることに意味がない,よほど高利 得を獲得しない限り,途中で消えるのと同じ,

という場合ではないか?つまり行為者間で強 い競争関係があり,その競争に偶々勝ち残れ るほどの高得点をあげたときにだけ生き残る ような場合ではないか? この強い競争関係 の中で危険選好的である行為者は,多くの場 合,失敗して消え去るだろう.しかし一部の 者だけが残って子孫を作るとすれば,多くは 消え去っても,一部が残ればいよい.とすれば,

強い競争関係があるときに危険選好的な効用 関数を持つ戦略(遺伝子)は生き残って繁殖 するかも知れない.

(8)

-42-

孫を作れる,という条件で,シミュレーショ ン1と同じ計算機実験をすることである.こ の条件で同じく20試行を繰り返した.

4. 3 結果

 シミュレーション3で生じた平均的な確率 重みづけ関数を図9に示す.形状は図5に似 ているが,より45度線に沿っている.

 効用関数を決めるα,β,λの値の試行ご との平均値は試行によって大きな変異があり,

全体が1つのクラスタをなすとは見えにくい.

子孫の親となれるエージェントを上位の10に 限ったことから,試行によって偏った「進化」

が生じやすかったためかも知れない.3つの パラメータの平均値を標準化して試行間の距 離をとり,階層的クラスタ分析を適用すると 大 ま か に 2 つ の ク ラ ス タ に 分 か れ た. 第 1

躍的に変化することで負の利得を忌避する格 好になっている.第2のクラスタ(N=6,タイ プB)ではパラメータの平均値はα=1.32,β

=1.22,λ=2.66となる(図10(b)).図10(b)の 形状は正の利得の領域で危険選好的である点 で図4(シミュレーション1,生き残り基準 なし)に近い.

4. 4 考察

 シミュレーション3ではシミュレーション 1とはいくぶん異なった計算結果を示したも のの,シミュレーション1とは明確に異なる 効用関数,確率重みづけを見出すことはでき なかった.親となるエージェントを上位に限 定したために,試行ごとの結果の一貫性も低 かった.もともとシミュレーション1の場合 でも相対的に利得が高いほど親に選ばれやす いので,シミュレーション3がシミュレーショ ン1と明確に異なる結果を生み出すことはな かったかも知れない.

5 まとめ

 本稿では,意思決定の判断基準が適応的に 生成されるという視点から,仮想の意思決定 事態を用いた3つの探索的な計算機実験(シ ミュレーション)の結果を報告した.これら のシミュレーション結果は全体として次の点 を例示できたと思う.第1は,適応のアイディ アに基づき,多様な形態の効用関数を生成で きることが示せたことでる.第2は,事象の確 率評定の仕方が適応の考慮から変異し得るこ とを例示することができたことである.

 ここまでの分析には限界もある.第1に,計 算結果は意思決定課題の構成によって変わる ことは容易に想像できる.本稿で用いた課題 㧠 ࠪࡒࡘ࡟࡯࡚ࠪࡦ㧟㧦┹੎ᔒะߩዉ౉

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(9)

-43-

は特殊であるため,結果の一般性を主張する ことに限界があるだろう.第2に,ここまで の計算試行では,どのような形態の効用関数 でも出現させることができた訳ではない.例 えば単純な危険選好的な効用関数はここまで の試行では出現していない.出現し得る効用 関数の形状については多くの検討の余地があ る.1

参考文献

Abell, P. (Ed.) 1991 Rational Choice Theory. Edward Elgar.

Baron, R.A., Byrne, D., & Branscombe, N.R. 2006 Social Psychology (11th edition). Boston: Allyn & Bacon.

Elster, J. 1989 The Nuts and Bolts for the Social Sciences.

London :Cambridge Univ. Press, えエルスター 1997

『社会科学の道具箱―合理的選択理論入門―』,海 野道郎(訳),ハーベスト社.

Kahneman, D. & Tversky, A. 1979 Prospect theory: An analysis of decision under risk. Econometrica, 47, 263–291.

Maital, S. (Ed.) 2007 Recent Developments in Behavioral Economics. Cheltenham: Edward Elgar.

酒井泰弘 1982 『不確実性の経済学』,有斐閣.

盛山和夫 1997 合理的選択理論,井上俊他(編)『現代社 会学 別巻 現代社会学の理論と方法』,岩波書店, 137-156.

高木英至 2007 効用関数の進化的基盤:進化的計算によ る分析,『日本シミュレーション&ゲーミング学 会全国大会論文報告集 2007年秋号』,13-14.

多田洋介 2003 『行動経済学入門』,日本経済新聞社.

友野典男 2006 『行動経済学』,光文社(新書).

1 シミュレーション1の結果は最初に高木(2007)で報告さ れた.本稿は高木(2007)の結果にシミュレーション2,3 の結果を含めて報告するものである.

参照

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