平成 25年度修士論文
モノフラクタル理論による
河川水中イオン濃度時系列のモデル化
Modeling of river water ion concentration time series by mono fractal theory
目次
第0章 要旨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 第1章 研究背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 1-1,河川イオン濃度時系列のモデル化
1-2,フラクタルについて
1-3,ブラウン運動,非整数ブラウン運動,非整数レヴィ運動 1-3-1,ブラウン運動(Bm)
1-3-2,非整数ブラウン運動(fBm) 1-3-3,非整数レヴィ運動(fLm)
1-4,fLm,fBmの構成法 (フィルター法)
第2章 対象地域・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 第3章 過去の研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 3-1,Simulation of a Daily Precipitation Time Series Using a Stochastic Model with filtering Chieko Gomi, Yasuhisa Kuzuha Open Journal of Modern Hydrology, 2013,3,206-213
3-2,Stochastic modeling of climatic variability in dendrochronology Daniel Lavallée and Hugo Beltrami GEOPHYSICAL RESEARCH LETTERS,VOL,31,L15202, doi:10.1029/2004 GL020263, 2004
3-3,Stochastic modeling of spatial complexities for the 1979 Imperial Valley,California,earthquake Daniel Lavallée and Ralph J.Archuleta GEOPHYSICAL RESEARCH LETTERS, VOL,30, No.5, 1245, doi:10.1029/2002 GL015839, 2003
第4章 研究手法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 4-1,水質測定方法
4-2,モデル計算方法
第5章 結果・考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 5-1,解析結果 NO3-濃度時系列
5-1-1,NO3-濃度時系列のモノフラクタルモデルの適用性
5-1-2,fLm,fBmの選択
5-1-3,パワースペクトルの比較
5-1-4,スペクトルを一致させるために① 5-1-5,スペクトルを一致させるために② 5-1-6,スペクトルを一致させるために③ 5-2,解析結果 F-濃度時系列
5-3,解析結果 Cl-濃度時系列 5-4,解析結果 NO2-濃度時系列
5-5,解析結果 Br-濃度時系列 5-6,解析結果 SO42-濃度時系列 5-7,解析結果 Li+濃度時系列 5-8,解析結果 Na+濃度時系列 5-9,解析結果 K+濃度時系列 5-10,解析結果 Mg2+濃度時系列 5-11,解析結果 Ca+濃度時系列 5-12,解析結果 NH4+濃度時系列 5-13,解析結果 PO43-濃度時系列
第6章 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37 参考文献・参考資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38 修士論文審査会質問と回答・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39
第 0 章 要旨
種々の水処理施設の計画策定において,モンテカルロシミュレーション的なシミュレーションを行う ことを想定し,fBm,fLm(非整数ブラウン運動,非整数 Lévy 運動)などのモノフラクタルモデルの,
水質時系列を生成する確率統計モデルへの適用性について,Lavallée(2004)で提案されたフィルター法を 用いて検討を行った.志登茂川(三重県津市)のF-,Cl-,NO2-,Br-,NO3-,PO43-,SO42-,Li+,Na+,NH4+, K+,Mg2+,Ca2+の各イオン濃度時系列データ(約1年分)について,スペクトル解析の結果から,PO43-, NO2-を除いてモノフラクタルモデルで表現可能であることがわかった.観測値から得られたホワイトノ イズXに適当な確率分布を求めた結果,いずれのイオン濃度も,極値をうまく再現できていたLévy分 布を用いるのが適当であった.求めた確率分布で発生させた乱数Xtに様々な処理を行って求めたYtの スペクトルが観測値のスペクトルと一致した.以上のことから,河川水中イオン濃度時系列はfLmで再 現できることが分かった.
第 1 章 研究背景
1-1,河川イオン濃度時系列のモデル化
水質の基準値超過を考えるにあたり,『どういうときに』基準値超過が起こるか,という観点が大切 な場合は,様々な自然現象を考慮して作成された物理モデルが適しており,『どのくらいの頻度で』基 準値超過が起こるかという観点が重要な場合は,確率統計モデルが適している.本研究では,種々の水 処理施設の計画策定において,限られた予算の中で最も効果的な処理を行うために,『どのくらいの頻 度の基準値超過を許すか』ということを考える際の材料を提供することを目的に,河川水イオン濃度時 系列を確率統計モデルで表すことを目標としている.確率統計モデルには様々な手法があるが,今回は,
Lavallée(2008)で提案されたスペクトル法を用い,スケーリング特性を利用したフラクタル確率過程モデ ルが適用できるかどうかについて検討を行った.過去の研究で,降水量の時系列変化,地震の滑り量等 の地球科学的な分野で,フラクタル理論を用いたモデル化が行われており(Lavallée(2008),Gomi and Kuzuha(2013)等),河川の水質の時系列変化に適用できるか検討を行った.
1-2,フラクタルについて
フラクタルは,Mandelbrot(1982)が提案した概念であり,Falconer(2003)によると,フラクタルの定義は 以下のようなものである.
定義:集合Fをフラクタルと称す時,以下の条件を満たすものを念頭に置く.
(1) Fには微細構造がある.つまり,いくら小さなスケールで観察しても細部がある.
(2) Fはとても不規則で,局所的にも大域的にも伝統的な幾何学の用語では記述できない.
(3) Fは何らかの(例えば近似的または統計的な)自己相似性をもつことが多い.
(4) 通常,Fの(なんらかの方法で定義される)「フラクタル次元」は位相次元より大きい.
(5) Fは,とても単純に(例えば再帰的に)定義される.
1-3,ブラウン運動,非整数ブラウン運動,非整数レヴィ運動 1-3-1,ブラウン運動(Bm)
ブラウン運動(Bm)の定義は,(Falconer, 2003)によると以下のようなものである.
(1) X(0)0
(2) 定常独立増分を持つ
ここで,H1/2の一般的な非整数ブラウン運動,fBmの場合,増分は独立ではない.H 1/2の時に は,過去にBH(t)が増加傾向にあれば,これからも増加傾向が続きやすい.逆にH 1/2の時には,過
去にBH(t)が増加傾向にあれば,これからは減少傾向が表れやすい,という性質がある.つまり,非整 数ブラウン運動は以下のような性質を持つ.
(1) X(0)0
(2) 定常独立でない増分を持つ.
(3) 増分X(th)X(t)はGauss分布 N(0, h2H) に従う.
(4) 連続な見本関数を持つ.
1-3-3,非整数レヴィ運動(fLm)
fBmの増分はGauss分布 N(0, h2H) に従っていたが,これが,Levy分布(安定分布)に従うものが
非整数Lévy運動(fLm)である.つまり,非整数レヴィ運動は以下のような性質を持つ.
(1) X(0)0
(2) 定常独立でない増分を持つ.
(3) 増分X(th)X(t)はLevy分布に従う.
(4) 連続な見本関数を持つ.
1.3,fLm,fBmの構成法 (フィルター法)
fLm,fBm の構成法として,ランダムウォーク法,ランダム中点変位法,フィルター法があるが,今
回は,Lavallée (2004) のフィルター法を用いて解析を行った.
ある時系列データYtが,フラクタルの性質を持つ場合,以下の式(2)が成り立つ.
) |[ ]| 2 υ
(
P =F Yt - …(2)
ここで,ω は角振動数,P(ω)はパワースペクトル,F[Yt] はフーリエ変換を意味する.つまり,
パワースペクトルP(ω)とωに関して,右下がりでlog-log-linearな関係である場合,Ytはフラクタル的 な性質を持っているといえる.
Lavalléeが提案している(1)式を変換した(3)式を用い,(2)式に従うフィルタリングを行うことでホワイト
ノイズXtを求める.
] / ) 1 )(
1 ( 2 exp[
] [
1 2
/ F X i t s N
Y t
N
s
t
…(1)
] ]
[ [
Xt Ft 1 F Yt /2
- …(3)
求めたホワイトノイズXtが従う確率分布がLévy分布の場合,fLm,正規分布の場合,fBmで生成で きるといえる.
第 2 章 対象地域
研究対象地域は,三重県津市を流れる二級河川の志登茂川(流域面積49.19km2)である.土地利用は,
市街地32%,水田28%,畑・荒地10%,山地27%,水域3% (※b)である.2013年4月26日から2013 年月8日9日まで志登茂川の平野防潮水門で採水し,8月10日以降は川北橋で採水を行った.観測期間 は2013年4月26日から2014年2月8日(現在)までである.
Fig1,志登茂川流域の土地利用図
※土地利用
濃緑:森林,黄緑:田,緑:畑,赤:ゴルフ場 白:住宅等,濃青:海,青:河川,黒:その他
第 3 章 過去の研究
3-1) Simulation of a Daily Precipitation Time Series Using a Stochastic Model with filtering Chieko Gomi, Yasuhisa Kuzuha Open Journal of Modern Hydrology, 2013,3,206-213
日本における100年以上の時系列データが存在する51地点の,1901年~2011年までのデータを用い て日降水量時系列の確率統計モデルを適用し,再現を行った.日降水量の5 日間移動平均と観測データ の偏差を用いてスペクトル解析を行い,フィルターの確認を行ったところ,スペクトルは減数指数関数 で最もよく表された.べき乗側に従って減衰するスペクトルで特徴づけられた確率モデルは極端な降水 をモデル化するために使うことができないことから,そのスペクトルを適切に再現する新しいモデルで
あるe-modelを導入した.指数フィルターを用いることで相関係数(-0.92)と高い相関が得られ,再現が
できた.また,極端な降水イベントはLévy分布で最も良く表され,正規分布では説明できないことが 示された.生成した日降水量偏差のスペクトルは,オリジナルのスペクトルと比較し,非常に小さい値 となったため,比例係数kを算出し,生成した日降水量偏差に掛けることでスペクトル解析を行った結 果オリジナルの日降水量偏差とほぼ一致したことから比例係数kを用いたe-modelによって,日降水量 偏差が再現可能であることが分かった.
3-2) Stochastic modeling of climatic variability in dendrochronology Daniel Lavallée and Hugo Beltrami GEOPHYSICAL RESEARCH LETTERS,VOL,31,L15202, doi:10.1029/2004 GL020263, 2004
長期間のデータがある4つの年輪記録を用い,過去の極値の気候のイベントの発生頻度のモデル化を 行った.モデル化の手法として,以下の3式を用いる手法を提案している.
] / ) 1 )(
1 ( 2 exp[
] [
1 2
/ F X i t s N
Y t
N
s
t
…(1)
) |[ ]| 2 υ
(
P =F Yt - …(2)
] ]
[ [
Xt Ft 1 F Yt /2
- …(3)
年輪の時系列データYtを用い,(2)式からν値が計算される.ν値と(3)式を用いてホワイトノイズXt が求められる。求めたXtに最も一致する分布形を求めるため,3つの分布(正規分布,Lévy分布,Cauchy 分布)を候補に,フィッティングを行い,それぞれ最適のパラメータを求めた.それぞれの分布形のホ ワイトノイズを用いて Yt を再現した結果,大きな変動を含む年輪に記録された気候変動の主な特徴を 再現するために,Lévy分布を用いた確率モデルが最適であることが示された.この手法は一般的なもの であり,原理的には,氷床コアデータなど,他の古気候時系列にも適用することができる.
3-3) Stochastic modeling of spatial complexities for the 1979 Imperial Valley,California,earthquake Daniel Lavallée and Ralph J.Archuleta GEOPHYSICAL RESEARCH LETTERS,VOL,30,No.5,1245,
doi:10.1029/2002 GL015839, 2003
有限断層の逆解析によって,地震すべりの空間的複雑さと断層面状のプレストレス分布を明らかにし た.この研究では, 1979年に起こったインペリアルバレー地震のすべり分布の空間的な変動性を詳細 に調べている.破壊伝搬の数値計算という共通の手順を用いて,擬似的に長いレンジの空間的相関を導 入し,空間的すべり分布の補完を行った.すべりの大きな値の存在を含んだ主な滑りの空間的特徴を再
現することができる, Lévy分布を提案した.インペリアルバレーの不均質な空間的すべり分布は,一 つの確率モデルでの実現例であると考えられる.これは,地震の統計的性質を記述することで,同等の シナリオ地震のための基礎を築くことができることを意味する.つまり,同じ固有の統計的性質を持つ すべての地震の地震動の計算が可能になることを示した.
第 4 章 研究手法
4-1,水質測定方法
2013年4月26日から2014年2月8日まで,対象地域である志登茂川で毎日採取した河川水を,イオ ンクロマトグラフ(島津製作所製:Prominence HIC-SP/NS)を用いて分析し,F-,Cl-,NO2-,NO3-,Br-, PO42-,SO42-,Li+,Na+,NH4+,K+,Mg2+,Ca2+濃度の各データを得た.標準液には,陽イオン混合標 準液Ⅱ(関東化学),陰イオン混合標準液Ⅳ(関東化学)を使用した.
また,水温,電気伝導度は,電気伝導度計(東亜DKK:ポータブル電気伝導度計CM-31P)を,pHは,
pH計(東亜DKK:pH METER HM-21P)を用いて測定した.
Fig.2,イオンクロマトグラフ Fig.3,pH計
Table.1,イオンクロマトグラフの分析条件
カラム 移動相 温度 流量
陰イオン分析 IC-SA2 12mM NaHCO3
0.6mM Na2CO3 30℃ 1ml/min 陽イオン分析 IC-C4 2.5mM (COOH)2・2H2O 30℃ 1ml/min
4-2,モデル計算方法(Lavalléeのスペクトル法)
fLm ,fBmの構成法として,ランダム中点変位法やフィルターによる方法などがあるが,本研究でモ ノフラクタルモデルを作成するにあたって,Lavallée (2008) で提案されたスペクトル法を用いて計算を 行った.Lavallée(2008)で提案されている式は,以下のようなものである.
] / ) 1 )(
1 ( 2 exp[
] [
1 2
/ F X i t s N
Y t
N
s
t
…(1)
) |[ ]| 2 υ
(
P =F Yt - …(2)
] ]
[ [
Xt Ft 1 F Yt /2
- …(3)
(1)式は,ホワイトノイズXtをフーリエ変換し,ω-ν/2というフィルターを掛けて逆フーリエ変換を行
い,カラードノイズであるYtを求める式である.(3)式は,(1)式の式変換を行ったものであり,カラー ドノイズ Ytを,ω-ν/2というフィルターを掛けて,ホワイトノイズ Xtを求めるものである.(2)式は,
観測値 Ytoから求めたパワースペクトルが,両辺対数を取ったときに右下がりの直線になっている,と いうことを表した式で,この式が成立している場合,Yto はモノフラクタルモデルで再現できるといえ る.つまり,(2)式で,観測値Ytoがモノフラクタルモデルで再現できるかどうかの確認を行い,再現可 能であった場合,(3)式で観測値のホワイトノイズを求め,そのホワイトノイズに適した分布形を決定,
(1)式からモデル値Ytmを求める,という手順で計算を行ってモデルを作成する.ここで,ホワイトノイ
ズとは,全ての周波数で同じ強度となるノイズのことで,カラードノイズとは,周波数ごとに異なる強 度となるノイズのことである.
第 5 章 結果・考察
5-1,解析結果 NO3-濃度時系列
5-1-1,NO3-濃度時系列のモノフラクタルモデルの適用性
観測で得られたNO3-濃度時系列データであるYtoがモノフラクタルモデルで再現可能かどうか検討を 行った.モノフラクタルモデルで再現可能な条件は,以下の式(2)が成り立つことである.
) |[ ]| 2 υ
(
P =F Yt - …(2)
つまり,横軸にωを,縦軸にOP(ω)を取ったグラフが,右下がりでlog-log-linearな関係であった場合,
モノフラクタルモデルで再現できるといえる.OP(ω)とωに関して,それぞれ対数を取ってプロットし たグラフがFig.4である.
Fig.4,パワースペクトルP(ω) (NO3 -)
Fig.4から,右下がりの直線になっていることから,河川水中の NO3-濃度時系列はモノフラクタルモ
デルで表すことができることが分かった.また,このとき,傾きνは-1.55であり,相関係数は-0.76で あった.
5-1-2, fLm,fBmの選択
5-1-1 で,NO3-濃度時系列データはモノフラクタルモデルで再現可能であることが分かった.モノ
フラクタルモデルには,fLmやfBmなどいくつかの種類があり,いずれのモデルで表現するのが最適で あるか検討を行った.
5-1-1で求めたν値と観測値Ytoから,(3)式を用いて観測値のホワイトノイズであるXtoを求めた.
] ]
[ [
Xt Ft 1 F Yt /2
- …(3)
Xtoをモデルで再現するため,正規分布,Cauchy分布,Lévy分布の3つの分布形を候補に,それぞれ 最適なパラメータを求め,いずれの分布形で最もよく Xtoを再現できるかについて考察を行った.分布 形のパラメータは以下のようになった.
) P(
log
log
正規分布:μ=-1.76×10-16,σ=1.45 Cauchy分布:a= 0.10,b = 0.76
Lévy分布:α=1.68,β=-0.15,μ=0.02,σ=0.86
求めた分布形の確率密度関数のグラフと観測値のホワイトノイズXtoのヒストグラムをFig.5に,その 両辺対数をとったグラフをFig.6に示した.
Fig.5,各分布と測定値の比較(NO3-) Fig.6,各分布と測定値の比較(裾)
Fig.5から,正規分布では,実際の値よりも,0付近は過小評価,-5~-2,2~5付近は過大評価され
ていることが分かる.また,Fig.6から,正規分布を用いた場合,測定値のXtoで実際に発生している値 を全く再現できないなど,極値の再現がうまくできない可能性があることがわかる.以上のことから,
NO3-濃度の時系列変化は, Xtの分布形として,正規分布を用いることは不適で,Lévy分布,もしくは
Cauchy 分布を用いることが適当であることが分かった.すなわち,ホワイトノイズXtにLévy分布を
用いることから,fLmで再現できることが分かった.
5-1-3,パワースペクトルの比較
求めたLévy 分布のパラメータで発生させたホワイトノイズXtm(モデルのXt)を用いることで,観 測値Ytoが再現できるか確認を行った.観測値のスペクトルと,Lévy分布のパラメータで発生させた乱 数Xtmを用いて求めたモデル値のスペクトルが一致していれば,再現できていることになる.
Lévy分布のパラメータで発生させた乱数Xtm から,(1)式を用いてYtmを求め,それを用いて(2)式か らPm(ω)を求めた.
] / ) 1 )(
1 ( 2 exp[
] [
1 2
/ F X i t s N
Y t
N
s
t
…(1)
Fig.7,観測値Po(ω)とモデル値Pm(ω)のパワースペクトルの比較
Fig7より,観測値とモデル値のスペクトルは,両辺対数を取ったとき,以下のような回帰直線で表さ れた.
オリジナルデータの回帰直線:1.26-1.55 x モデルデータの回帰直線 :3.57-1.55 x
つまり,回帰直線の傾きは同じで切片が異なるという結果が得られた.傾きが一致していることから (2)式が成り立ち,モノフラクタルモデルで再現可能ではあるが,以上の操作のみでは再現できていない ことが分かる.また,NO3-濃度時系列の観測値, Ytmの例をFig.8に示した.
Fig.8,NO3-濃度時系列(左:観測値OYt,右:モデル値Ytm)
5-1-4,スペクトルを一致させるために①
Fig.8とFig.9を比較し,モデル化するには以下の3つの問題点があることが分かった.
1) 極端すぎる変動をする場合がある 2) 0以下の値が発生している
3) 0を中心に変動する
まず,「極端すぎる変動をする場合がある」という問題を解決する.Fig.9に示したように,発生させ たLévy乱数Xtmは,実際の測定値よりも極端に大きい値を取る可能性がある.
Fig.9,発生させた乱数の裾
そこで,Lévy 乱数でホワイトノイズ Xtmを発生させる際に,観測値を参考に,発生値を-15 以上 15 以下に制限し,ホワイトノイズXtmn(以下,発生値制限を行ったXtmをXtmnとする)を求めた.求めた Ytmnを用いて,(1)式からYtmn(以下,発生値制限を行ったXtmを用いて求めたYtをYtmnとする)を求 めた.
] / ) 1 )(
1 ( 2 exp[
] [
1 2
/ F X i t s N
Y t
N
s
t
…(1)
) |[ ]| 2 υ
(
P =F Yt - …(2)
求めたYtmnから,(2)式を用いて,パワースペクトルPmn(ω)を求め,観測値のパワースペクトルPo(ω) と比較した.(Fig.10)
Fig.10,観測値Po(ω)とモデル値Pnm(ω)のパワースペクトルの比較
の傾きがほぼ変わらないことから,この操作を行っても問題がないと考えられる.つまり,以上の操作 を行うことで,極端すぎる変動をする場合があるという問題点は解決することが分かった.
また,この時のモデルのNO3-濃度時系列のグラフ例は,Fig.11のようになった.
Fig.11,NO3-濃度時系列(モデル値Ytm)
5-1-5,スペクトルを一致させるために②
次に,パワースペクトルを一致させる.パワースペクトルを求める式である(2)式について,ωとP(ω) の関係が,「=」ではなく「∝」であることから,P(ω) とωは比例関係にあり,P(ω)に定数を掛けても この式は成立する.
) |[ ]| 2 υ
(
P =F Yt - …(2)
そこで, 任意のωの点,ω1における観測値のパワースペクトルをPo(ω1),モデル値のパワースペク
トルをPm(ω1)とすると,観測値とモデルのパワースペクトルの傾きが一致していることから,スペクト
ルを一致させるために以下の操作を行うことができる.
) 1 ( ) 1 ( )
( )
( P
Log m =LogPo Pm Po …(6) (6)式を変形すると,(6.1)式になる.
) 1 (
) 1 (
o exp
* exp ) ( ) (
P
=Pm PmPo …(6.1)
(2)式から,(6.1)式は以下のように変形できる.
) 1 (
) 1 ( 2
2
exp
| exp
] [
| | ] [
| o m
Pm
Po
Y F Y
F t = t …(6.2)
) 1 (
) 1 (
exp exp
Pm Po
m
m Y
Yt = t …(6.3)
つまり,求めたYtmに
) 1 (
) 1 (
exp exp
Pm Po
を掛ける(以下,Yt2mnとする)ことで,元の観測値であるYtoを再
現できると考えられる.以上を図にすると,Fig.12になる.この操作を行った後のPo(ω)とPmn (ω)の 関 係を表したものが以下のFig.13である.
Fig.12,スペクトルを一致させる計算 Fig.13,観測値Po(ω)とモデル値Pmn(ω)の比較
Fig.13より,Yt2mnを用いることで,モデル値のPm(ω)と観測値のスペクトルPo(ω)が一致することが確
認できた.
5-1-6,スペクトルを一致させるために③
次に,「0以下の値が発生」という問題と「0を中心に変動する」という残りの問題を解決するた めに, Yt2mnのすべての値に平均値を足し,濃度を表現するために不適な0 以下を 0 として求めたYt
(以下,Yt3mnとする)を作成し,そのモデル例を,以下のFig.14で示した.Fig.14から,「平均値を足 す」ことや「0以下を0とする」ことを行うと,観測値を再現できているように見えるが,この操作を 行う可否は不明である.そこで,求めた Yt3mnから,Yt3mnから求めたパワースペクトルである P(ω)3Mn
を求め,観測値のパワースペクトルと比較を行った.(Fig.15) Pm(ω1
) Po(ω1)
ら,F-濃度時系列のパワースペクトルP(ω)と ω の関係がlog-log-linear の関係になっている(相関係数:
0.68)ことから,(2)式が成り立ち,モノフラクタルモデルで表現できることが分かった.
Fig.16,F-濃度時系列のパワースペクトル
次に観測値の Xt を求め,最も観測値 Xt の再現に適した分布・パラメータを求める.Fig.17,Fig.18 から,Lévy 分布(パラメータ:α=1.36,β=0.39,μ=-0.001,σ=0.003)が適していることが分かる.以上の ことからfLmで再現できることが分かった.
Fig.17,各分布と測定値の比較(F-) Fig.18,各分布と測定値の裾の比較(F-)
次に,求めたモデル値Xtmの裾を(-0.1~0.1の範囲で)切り,YtmにYtm expPo(1) expPm(1) という操作 を行い,Ytm expPo(1) expPm(1)に平均値を足し,0以下を0にするという,5-1-4,5-1-5,5-1-6章と同 様の操作を行って,求めた Ytmn値のシミュレーションを行った結果が Fig.20 である.また,観測値を
Fig.21に示した.Fig.20,Fig.21から,実際の変動と同じ変動をしているように見える.求めた Ytmnの
スペクトルを求め,観測値のそれと比較した結果,モデルと観測値が一致することから,以上の操作を 行ったモデルで観測値を再現できることが分かった.(Fig.22)
Fig.20,F-濃度時系列(モデル値) Fig.21,F-濃度時系列(観測値)
Fig.22,モデル値と観測値のパワースペクトル(F-)
5-3,解析結果 Cl-濃度時系列
河川水中のCl-濃度時系列に関して,5-1章で示したNO3
-濃度時系列と同様の解析を行った.Fig.23か ら,Cl-濃度時系列のパワースペクトルP(ω)とωの関係がlog-log-linearの関係になっている(相関係数:
0.58)ことから,(2)式が成り立ち,モノフラクタルモデルで表現できることが分かった.
Fig.24,各分布と測定値の比較(Cl-) Fig.25,各分布と測定値の裾の比較(Cl-)
次に,求めたモデル値Xtmの裾を(-15~15の範囲で)切り,YtmにYtm expPo(1) expPm(1) という操作を 行い,Ytm expPo(1) expPm(1) に平均値を足し,0以下を0にするという,5-1-4,5-1-5,5-1-6章と同様 の操作を行って,求めたYtmn値のシミュレーションを行った結果がFig.26である.また,観測値をFig.27 に示した.Fig.26,Fig.27から,実際の変動と同じ変動をしているように見える.求めた Ytmnのスペク トルを求め,観測値のそれと比較した結果,モデルと観測値が一致することから,以上の操作を行った モデルで観測値を再現できることが分かった.(Fig.28)
Fig.26,Cl-濃度時系列(モデル値) Fig.27,Cl-濃度時系列(観測値)
Fig.28,モデル値と観測値のパワースペクトル(Cl-)
5-4,解析結果 NO2-濃度時系列
河川水中のNO2--濃度時系列に関して,5-1章で示したNO3-濃度時系列と同様の解析を行った.Fig.23 から,NO2-濃度時系列のパワースペクトルP(ω)とω の関係がlog-log-linearの関係になっている(相関係 数:0.49)ことから,(2)式が成り立ち,モノフラクタルモデルで表現できることが分かった.
Fig.29,NO2-濃度時系列のパワースペクトル
次に観測値のXtを求め,最も観測値Xtの再現に適した分布・パラメータを求める.Fig.30,Fig.31 から,Lévy分布(パラメータ:α=1.86,β=1,μ=-0.008,σ=0.04)が適していることが分かる.以上のこと からfLmで再現できることが分かった.
Fig.30,各分布と測定値の比較(NO2-) Fig.31,各分布と測定値の裾の比較(NO2-)
次に,求めたモデル値Xtmの裾を(-0.5~0.5の範囲で)切り,YtmにYtm expPo(1) expPm(1) という操作 を行い,Yt expPo(1) expPm(1)に平均値を足し,0以下を0にするという,5-1-4,5-1-5,5-1-6章と同
Fig.32,NO2-濃度時系列(モデル値) Fig.33,NO2-濃度時系列(観測値)
Fig.34,モデル値と観測値のパワースペクトル(NO2-)
5-5,解析結果 Br-濃度時系列
河川水中の Br--濃度時系列に関して,5-1 章で示した NO3
-濃度時系列と同様の解析を行った.Fig.35 から,Br-濃度時系列のパワースペクトルP(ω)とωの関係がlog-log-linearの関係になっている(相関係数:
0. 66)ことから,(2)式が成り立ち,モノフラクタルモデルで表現できることが分かった.
Fig.35,Br-濃度時系列のパワースペクトル
次に観測値のXtを求め,最も観測値Xtの再現に適した分布・パラメータを求める.Fig.36,Fig.37 から,Lévy 分布(パラメータ:α=1.54,β=-0.50,μ=0.003,σ=0.006)が適していることが分かる.以上の ことからfLmで再現できることが分かった.
Fig.36,各分布と測定値の比較(Br-) Fig.37,各分布と測定値の裾の比較(Br-)
次に,求めたモデル値Xtmの裾を(-0.1~0.05の範囲で)切り,YtmにYtm expPo(1) expPm(1) という操作 を行い,Ytm expPo(1) expPm(1)に平均値を足し,0以下を0にするという,5-1-4,5-1-5,5-1-6章と同 様の操作を行って,求めた Ytmn値のシミュレーションを行った結果が Fig.38 である.また,観測値を
Fig.39に示した.Fig.38,Fig.39から,実際の変動と同じ変動をしているように見える.求めた Ytmnの
スペクトルを求め,観測値のそれと比較した結果,モデルと観測値が一致することから,以上の操作を 行ったモデルで観測値を再現できることが分かった.(Fig.40)
Fig.38,Br-濃度時系列(モデル値) Fig.39,Br-濃度時系列(観測値)
5-6,解析結果 SO42-濃度時系列
河川水中のSO42--濃度時系列に関して,5-1章で示したNO3-濃度時系列と同様の解析を行った.Fig.41 から,SO42-濃度時系列のパワースペクトルP(ω)とωの関係がlog-log-linearの関係になっている(相関係 数:0.61)ことから,(2)式が成り立ち,モノフラクタルモデルで表現できることが分かった.
Fig.41,SO42-濃度時系列のパワースペクトル
次に観測値のXtを求め,最も観測値Xtの再現に適した分布・パラメータを求める.Fig.42,Fig.43 から,Lévy 分布(パラメータ:α=1.41,β=-0.02,μ=0.11,σ=2.72)が適していることが分かる.以上のこ とからfLmで再現できることが分かった.
Fig.42,各分布と測定値の比較(SO42-) Fig.43,各分布と測定値の裾の比較(SO42-) 次に,求めたモデル値Xtmの裾を(-25 ~20の範囲で)切り,YtmにYtm expPo(1) expPm(1) という操作 を行い,Ytm expPo(1) expPm(1)に平均値を足し,0以下を0にするという,5-1-4,5-1-5,5-1-6章と同 様の操作を行って,求めた Ytmn値のシミュレーションを行った結果が Fig.44 である.また,観測値を
Fig.45に示した.Fig.43,Fig.44から,実際の変動と同じ変動をしているように見える.求めた Ytmnの
スペクトルを求め,観測値のそれと比較した結果,モデルと観測値が一致することから,以上の操作を 行ったモデルで観測値を再現できることが分かった.(Fig.45)
Fig.44,SO42-濃度時系列(モデル値) Fig.45,SO42-濃度時系列(観測値)
Fig.46,モデル値と観測値のパワースペクトル(SO42-)
5-7,解析結果 Li+濃度時系列
河川水中のSO4
2--濃度時系列に関して,5-1章で示したNO3
-濃度時系列と同様の解析を行った.Fig.47 から,SO42-濃度時系列のパワースペクトルP(ω)とωの関係がlog-log-linearの関係になっている(相関係 数:0.45)ことから,(2)式が成り立ち,モノフラクタルモデルで表現できることが分かった.
Fig.48,各分布と測定値の比較(Li+) Fig.49,各分布と測定値の裾の比較(Li+)
次に,求めたモデル値Xtmの裾を(-0.002 ~0.007の範囲で)切り,YtmにYtm expPo(1) expPm(1) という 操作を行い,Ytm expPo(1) expPm(1) に平均値を足し,0 以下を 0 にするという,5-1-4,5-1-5,5-1-6 章と同様の操作を行って,求めたYtmn値のシミュレーションを行った結果がFig.50である.また,観測
値をFig.51に示した.Fig.50,Fig.51から,実際の変動と同じ変動をしているように見える.求めたYtmn
のスペクトルを求め,観測値のそれと比較した結果,モデルと観測値が一致することから,以上の操作 を行ったモデルで観測値を再現できることが分かった.(Fig.52)
Fig.50,Li+濃度時系列(モデル値) Fig.51,Li+-濃度時系列(観測値)
Fig.52,モデル値と観測値のパワースペクトル(Li+)