生活習慣改善による男子中学生不登校への再登校援 助
著者 小野 昌彦, 大橋 勉, 城 律男
雑誌名 教育実践総合センター研究紀要
巻 11
ページ 97‑105
発行年 2002‑03‑31
その他のタイトル Shaping Going‑to‑school Behavior in a Junior
High School Student with Non‑attendance at
School by the limprovement of Life habit
URL http://hdl.handle.net/10105/4094
小 野 上.'. #
(奈良教育大学附属教育実践総合センター) 大 橋 勉・城 律 男
(明日香村立聖徳中学校)
Shaping Going‑to‑school Behavior in a Junior High School Student with Non‑attendance at School by the limprovement of Life habit
Masahiko ONO
(Center for Educational Research and Development, Nara University of Education)
Tutomu OHASHI・Norio JO
(Shoutoku Junior High School)
要旨:男子中学生の断続的不登校A (13歳)へ継続的再登校行動形成を目的とした援助を実施した。本事例は、不登 校に至る発現要因として、腹痛等の体調不良が考えられた。不登校誘発・維持要因としては、家庭における休ませ方 が考えられた。そして、家庭に滞留する行動が、母親の世話やきといった強化刺激が伴うことにより維持されてしまっ たと分析された。 Aへの援助として、自己記録法による生活習慣改善(運動、食事、排湛)、系統的脱感作法による 不安低減、段階的登校練習、家庭・学校へのAへの統一した対応のための助言を実施した。 2期(2ケ月間)の援助 の結果、継続的再登校行動が形成された。再登校後、 1年4ケ月間の予後良好であった。 Aの生活習慣改善と家庭、
学校が各役割を実施し有機的に連携したことが有効であった。身体的要因と関連が深い不登校の場合、日常生活の基 礎的な事柄のアセスメントの重要性が示唆された。
キーワード:不登校non‑attendance at school、生活習慣Iife habit、親指導Parents guidance
1.問題と目的
不登校とは、 「基本的には、家庭一学校一家庭とい う往復パターンが家庭で停滞し、断続してしまった状 態」 (小林ら、 1989)をさしている。
不登校の状態形成については、初期の研究において は回避行動モデル(小林ら、 1989)によって説明され ていたが、 1980年代以降は、不安・恐怖感が言語応答 や客観的尺度に現れないタイプ(上里、 1985 ;茨木、
1986)が報告されてきた(小野、 1997)。
したがって、 「臨床現場で登校拒否の治療教育を行 うためには単一の症状や形成メカニズムの解明だけで は不十分であり、系統的な行動アセスメントが要請さ れる」 (中林ら、 1989)ということになる。そこで、
小林ら(1989)は、いわゆる神経症発症メカニズムに よる不登校及び不安・恐怖感が言語応答や客観的尺度 に表れないタイプの不登校も視野に入れた行動アセス メントが必要であるとした。さらに社会的スキル要因、
身体的健康要因、家庭要因といった面にも注目する必 要のあることを提案した(小野・小林、 1993;小野・
豊田・川島・三好・小林、 1999 ;小野・小林、 2000)。
本研究では、身体的要因が不登校へ至る発現前要因 と考えられた男子中学生の断続的不登校への継続的再 登校援助の過程を整理する。
2.不登校の行動の7セスメントとトリートメントの 着眼点
2. 1.不登校の行動アセスメントの着眼点
不登校行動の行動アセスメントは、 「不登校状態を 形成し、それを維持している条件を明らかにし、再登 校行動のシェービングにあたって必要とされる情報を 収集することである」 (小林、 1988)と定義される。
情報収集は、 (1)発現前の発達状況、学習状況も含む 行動特性、 (2)発現から慢性化に至るまでの経過、 (3)坐 活状況、日中変動も含む全般的症状の変化、 (4)学校・
学習をめぐる状況、 (5)家庭をめぐる状況、 (6)その他 (不登校により生じた対人関係を含む生活全般的な乱 れ‑体力・学力の低下などを含む)といった項目を中 心に行われる(小林、 1988;中林ら、 1989)。
2. 2.トリートメントの着眼点
アセスメントで得られた情報を統合してトリートメ ントは進められる。基本的な考え方としては、 「不登 校状態を誘発し、持続させている要因の除去または軽 減と登校するという行動パターンの形成を如何に有効 に効率的に進めるかが問題となる」 (小林、 1980)と いえS」‑,
基本的な手順は、 (DA、家庭そして学校との援助関 係の設定、 (2)援助計画の予定表の設定、 (3)トリートメ
ント内容<1>として体力・学力の増強、社会的スキ ル訓練などの基礎的アプローチ、 (4)トリートメント内 容<2>として神経症的不安や再登校行動のシェービ
ング等の問題解決のための技法が選択される、 (5)トリー トメント<3>その他として登校安定化の為の介入や 再発時の再介入、追跡調査が組み込まれる(小林、 19 80;小林、 1988;小林ら、 1989 ;小林、 1984)。
3.事例研究
3. 1.対象:A.男子13歳(援助開始時、中学1年 生)
3. 2.主訴:体調不調による断続的欠席の改善。
3. 3.不登校をめぐる情報
(1)発現前の行動特性:幼少時からAは大変おとなしい 子であった。中学校では、担任が話しかけても首を 振るか、単語が1つ2つ返ってくる程度であった。
成績は主要教科は中程度であった。体育が苦手であっ m
(2)発現の経過:中学入学直前に転居してきた。発現前 には学校場面において特に変化はなかったという。
4月中旬から、朝、母親から体調がすぐれないと云 うことで担任へ連絡の電話があり、欠席が多くなっ た。 Table lに欠席状況を示す。
Tablel 欠席状況
月 4月 5月 6月 7月 授業目数 16 22 24 15 欠席目数 13
(3)全般的症状の変化: Aは、登校時にトイレに入り、
腹痛を訴えた。学校を休みそのまま家にいると不調 は訴えなくなった。欠席が続くと起床時問、トイレ の時間、食事時問が徐々に遅くなった。 7月末時点 では、起床時間は午前8時くらいとなっていた。
(4)学校・学習状況をめぐる状況:担任は、休みがちな 時期にはAに対して「はれ物にさわるよう」に対応 をしていたとのこと。友達とのかかわりはなく、学 習に関しても末学習部分が多くなってきた。
(5)家庭内外での行動: Aは、学校を休んで家に滞在し ている時は、不登校中の姉と遊んだりして、自由に 過ごしていた。家庭内では、 2人の子どものすべて が不登校となり緊張感があった。
(6)その他:家庭、学校は、 Aの再登校‑の援助に関し て協力的であった。
3. 4.行動アセスメントとしての情報統合
本事例は、不登校に至る発現要因として、体調不良 が考えられた。体調不良に対して対処がなされること なく家庭に滞在し、学校場面において学習理解困難な ど不快場面が増加し、学校を回避するようになった。
その家庭に滞留する行動が、姉との交流や母親の世話 やきといった強化刺激を受けることによって維持され ていると分析された。
3. 5.援助方針及び援助内容
本事例において、継続的登校行動を形成するための 援助方針としては、 A自身の体調を改善するための援 助を中心とすることとした。そして、このAの目標に 対し家庭と学校が連携しながら援助するために実践セ ンターが助言をすることとした。以下に主な援助内容 を記述する。これらの目標は、 Aから申請されたもの である。
(1)援助関係の設定: Aと実践センター来所の目的を話 し合い明確にする。 Aからの援助依頼を担当者(以 下Tと略す)が受諾するという手続きを試みる。
(2)登校時の腹痛の低減:登校時の腹痛の低減のために 以下の対応を実施する。 ①登校・学校場面における 不安低減:系統的脱感作法(Wolpe、 1958)の適用 を試みる。 ②生活習慣改善:自己記録法を適用し項 目としては、食べた野菜料理、縄跳びの回数、トイ
レの回数を記入する。
(3)将来像のイメージ化: Aから将来に関しての話題が 自発反応で出現したタイミングをとらえ具体的な将 来像をイメージ化できるように援助する。
(4)段階的登校練習: Aが登校して得た感触から登校計 画を立て実行を援助する。登校予定日の登校援助、
人に慣れる目的でのスタッフ増加、学習場面への参 加のための夏休みの宿題の実施、給食場面‑の参加 準備のための大学学食の利用も試みる。
(5)会話練習:隣の席の子と話す目的でTと好きな話題 で聞き役と話し役を作り会話の練習をする。
(6)センター援助と連携した形での家族とのコンタクト:
家族、 Aの場合は特に母親とは、援助期間中Aの状 況に関して継続的に報告、助言といったコンタクト
をとる。 Aの再登校前には、母親へ野菜中心の食事 への協力依頼、不安場面への対応についての助言、
Aの再登校後には、 Aの登校へ抵抗が強い場合の対 応、休ませ方、すなわち、 Aが身体的不調を訴えた 場合、母親が体温計で測定し、平熱の場合は、登校、
平熱以上の場合には、医師に連れていき、この時点 で学校に電話をいれる。医師の診断の結果をもとに 出・欠席の連絡を学校にする。また、早退、欠席の 場合は、家で静養させるように指導する(小野ら、
1999)、登校したE]の帰宅後の対応、登校時の対応 (脱感作と対応した登校援助)への助言を実施する。
また、今後の登校の見通し、母親の自発的な良い対 応に関する承認も行う。
(7)センター援助と連携した形での先生とのコンタクト:
担任とは、援助期間中Aの状況に関して継続的に報 告を受けたり助言をしたりといったコンタクトをと る。 Aの再登校後は、担任‑の登校計画の連絡、 A の状況を見ての学校で必要なものの情報連絡の依頼、
学校場面でAが身体的不調を訴えた場合の保健室の 活用に関する助言、終結時の今後の対応に関する助 言を実施する。
Figlに学校、家庭、実践センターの事例状況別 の連携システムを示す。
第Z期 不登校状態出現期
l 本人l
[車重⊃ [車重⊃
第Ⅱ期 登校行動形成期
t ,liii.'ォーlヨES3El持LBl
実践センター
< rL 相談・指導
<‑> 助言
Figl 事例の状浬別連携システム
3. 6.援助経過
以下にAの継続的登校行動の再形成経過を、その援 助内容から2期に分けて記述する。援助期間は、 7月 29日から9月30日までの約2ケ月(再登校までは1ケ 月)であった。援助スタッフは、 T、 1名、補助院生
1名(1回参加)であった。
3. 7.第I期(7月29日‑9月1日)
この時期は、 Aの継続登校行動形成を目的として基 本的に過2回、 1セッション1時間を基本として9セッ ションを実施した。また、登校訓練、家庭訪問、学校 訪問を各1回実施した。
第1回インテ‑ク面接(7月29H : 9:00‑10:30) A、父親、母親同席で実施した。 Aからは不登校の 経過等が述べられた。 Tからは援助方針を説明した。
Aから援助依頼があり、 Tは受諾した。 Aは、おとな しい感じのする子であった。学級内において話をする 人があまりいないこと、学校に行けなくなったのは、
登校時の朝の腹痛が原因であることが訴えられた。好 きなことは、読書、天体観測といったことも述べられ m
第2回セッション(8月7日 9:00‑ll:00) この回は、母親同伴で来所した。 Aから登校予定日 9月8日との申請があった。そして、カレンダーの9 月8日のところに○印をっけた。
また、 Aに体調改善について自分としてどのような ことが改善目標となるかを考えるように示唆した。す ると、 Aは、肉が好きで偏食であること、登校時の朝 に便秘もあり、お腹が痛かったことを話した。対応法 をAに考えさせたところ、偏食の問題に関しては、好 き嫌いをなくすこと、朝の腹痛の問題に関しては、特 に対応法が考えつかないということであった。そこで、
Tが、登校時の腹痛は、過度の緊張・不安と便秘とい う2つの可能性から生じていることを説明した。する と、 Aから対応法に関して教えてほしいとの発言があっ た。 Tは最初に不安低減のための方法(系統的脱感作 法、逆制止の原理等)をAが理解可能なレベルで説明 した。 Aが、その方法を試みることを意思表示したこ とから、筋弛緩訓練(1回目)を実施した。また、便 秘による腹痛の可能性への対応法としては、先にAの 挙げた偏食への対応と関連することを説明した。便秘
に関しては、食物の好き嫌いをなくすことも目標とし て、食物繊維の多いものを取ることが必要であること、
規則正しい生活と運動で体調を整えることの重要性を 説明した。
Aは、自分の食事に関しては、野菜を使った料理が 必要であることに気づいたとの発言があった。また、
運動不足を改善することも必要との発言もあった。
そこで、 Tと話し合いを実施し、この間題に関する Aの目標行動として、野菜をたくさん食べること、縄
跳びをなるべく毎日することすることを設定した。野 菜に関しては、母親に野菜を多くした料理を作っても
らうように協力を要請し承諾を得た。
そして、これらの課題を本日から実行することとし た。方法としては、 A本人からの申請項目であること から自己記録法を適用することをTから提案した。 A は、自己記録法の説明を受けて承諾した。貝体的には、
課題の実行状況をA、母親が記入する健康チェック表 を作成することとした。 Aが記入する項目は、縄跳び の実行回数、トイレの回数とした。母親が、記入する 項目は、 Aが食べた食事内容とした。
母親からは、援助機関との統一した対応に関する質 問があった。 Aへの対応に関しては、実践センタ‑に おいてAの不安低減への対処を実施した後、不安がイ
メージ上、低減した状況については家庭に連絡をし、
その状況においては、家庭においても回避させるので はなく段階を踏むなどして徐々に慣れさせるように対 処してもらうと効率的であることを伝えた。母親から は、承諾した旨の発言があった。
第3回セッション(8月11日: 9:00‑10:50) この回は、 A単独で来所した(この回以降は、特に 必要がない限りは単独適所とした)。前回、設定した 課題の進行状況についてAから報告があった。 Aが持 参した健康チェック表(Table2‑1‑2参照)をT に示しながら、母親が作ってくれた苦手なレタス、セ ロリなどを入れた鮫子をたくさん食べているという報 告があった。好きな鮫子に入れてもらうと野菜の臭み が気にならなくてよいとのことであった。縄跳びは、
1日100回しているとのことであった。
その他にAから将来像は「童話作家」との話があっ た。モデルとなっていた作家のホ‑ムページをTが検 索し、その資料をAに渡すと、その作家のどういう点 が良いかを説明した。
その後、筋弛緩訓練(2回目)とY‑G性格検査を 実施してセッションを終了した。 Y‑G性格検査の結 果は、 C型(安定消極型)であった。
第4回セッション(8月14日: 9:00‑10:30)
Aから課題の遂行状況が健康チェック表を基に報告 された。特に苦手であったほうれん草入りの鮫子を食 べることができたと少し恥ずかしそうに報告した。 T が、 「食べれたらどうでしたか」と聞くと「やればで きる」という旨の発言が返ってきた。他の課題も順調 に進行していた。その後、筋弛緩訓練(3回目)と不 安階層表の作成を実施した。 Aが作成した不安階層表 をTable3に示す SUDとは、自覚的障害単位のこ とである。具体的には、 Aが経験する最強度の不安・
恐怖を100点とし、全く不安を感じない平静な状態を 0点とする。これらを基準として、 Aが主に学校場面 で経験する不安・恐怖の程度を5点から10点間隔で数 値化したものである。そして、この数値の高い項目か
ら低い項目の順番で並べたものが不安階層表である。
Aの作成した不安階層表からは、教室に入る前に関す る項目と休み時間の項目においてSUD得点が高く、
不安が高いことが窺われた。
第5回セッション(8月18日: 9:00‑10:20) Aから健康チェック表を基に課題の遂行状況が報告 された。ほぼ課題は遂行されていた。縄跳び100回が 大分早くできるようになったこと、野菜をたくさん食 べるようになったからか便通の調子がいいことが報告 された。 Tからは、 Aが自ら努力して自分を変えよう としていることが、結果となっていることを褒めた。
筋弛緩訓練(4回目)を実施した。 Aから「だんだ んリラックスできるようになってきた」と報告された。
第6回セッション(8月21日: 9:30‑10:40) Aから家庭での課題遂行状況が報告された。継続し て課題が遂行されていた。お腹の調子は「まあまあ」
であるとの報告があった。
筋弛緩訓練5回目から不安浩抗提示を実施した。
「教室に入る時」の項目がSUDIO点まで低下したと ころで終了した。
TとAの話し合いの中で、再登校に向けてAのかか わる人数を徐々に増やすことが重要であるとの結論に 至った。そこで、 Tから次回から再登校に向けてかか わる人数を増加していくために男子大学院生の援助を 依頼する案を提案するとAは了承した。
第7回セッション(8月25日: 9:00‑10:05) この回からスタッフとして男子大学院生1名の参加 で実施した。 Aは、このスタッフとどんなことが好き か、どんなバイトをしているか等の話題で話をした。
また、 Aから家庭内での課題は順調に遂行されてい ることが報告された。特に縄跳び100回を毎日実施し ていた。さらに不安括抗提示を不安階層表の3項目を SUDが0点になるまで実施した。
第8回セッション(8月28日: 9:15‑10:35) Aから健康チェック表に関する報告があった。順調 に課題を遂行しているとのことであった。系統的脱感 作法の不安浩抗提示を実施し、不安階層表の全項目を 終了した。また、不安状態を評価するため田研式GA T (不安傾向診断テスト)を実施した。結果は、総不 安偏差値50で個別援助を特に必要としない状態であっ m
第9回セッション(8月30日:18:00‑19:00) 登校練習に関する打ち合わせを行うため、 18時に母 親同伴で来室した。 9月1日から段階的登校とし9月
8 []から継続登校することをAと確認した。
母親へは、登校練習開始からのAへの対応法を助言 した。内容は、 9月1日朝にTが家庭訪問し必要があ れば援助・助言すること、 Aが登校に抵抗が強い場合 は、実践センターへの来所を勧め、課題設定について 話し合うこと、病気の際には必ず医者に行き指示を仰
Table3 不安階層表
項 目 SUD
玄関まで歩いている時(自転車置き場から)
朝起きた時(学校に行く日) 休み時間(いすに座っている時) 学校に着いた時(自転車置き場) 靴箱の前
教室にはいる時(前のとびら)
100 90 85 80 70 65
ぐこと、登校して帰宅後はゆっくり休ませることであっ た。
第1回登校訓練(家庭訪問) ・第1回学校訪問(9月
11[] : 7:40‑ll:30)
Tが午前7時40分に家庭訪問をすると、 Aは制服に 着替えておらず、体をぶらぶらさせながら、 「体がだ るい」と言っていた。 Aは、トイレに入り8:05まで 入っていた。 Tが「先生もトイレに行きたいから」と 言うと、 Aはトイレから出てきた。 2階の自室で着替
えをするが、学校でしんどいことがあったと言って、
なかなか着替えが進まなかった。 Tと母親、 Aで話し 合いを行った。 Tが、 A‑体調について尋ねると、 A は、腹痛はないということであった。系統的脱感作法 により登校時の朝の場面に関しては、イメージの上で は、不安低減が終了していたこと、 Aの場合、不安階 層表等からこの場面を乗り切るのがポイントであると 考えられたことから以下のような話をした。すなわち、
何か困難があった場合は、家にいても解決しないので、
とりあえず登校してみること、学校場面で腹痛が起き た場合は、保健室等で対処してもらうこと、どうして も登校が困難な場合は実践センタ‑で話し合いを行う ことを伝えた。すると、 Aはズボン、靴下を履き始め た。 Aは母親の車に乗って正門の前まで行き、車から 降りてからTと職員室に行った。職員室で担任にAが 体調不良を訴えた場合に保健室等で学校内で対応する ように伝えた。 Aは、始業式など全日程に参加可能で
*3Bm
3. 8.第Il期(9月2日‑9月30日)
この時期は、 Aの継続的登校行動形成の目的で実践 センター適所援助と中学校登校練習を並行して実施し た。徐々にAの中学校登校時聞及び担任、親のかかわ りを増加させ実践センターの援助を減少させるように 試みた。 4セッション、家庭への電話指導8回、担任 との電話によるコンタクト3回、学校訪問1回を実施 した。
第10回セッション(9月2日:14:30‑16:00)
土曜日であったのでAは、午前中登校した後、実践 センターへ来所した。 9月1日に登校して、 Aが得た 感触も考慮に入れて登校計画を話し合った。 Aは、登 校に関しては、 「学校に入ってしまえば何ともなかっ
た」とのことであった。 Aは、 9月4日実践センター、
5日中学校、 6日実践センター、 7日中学校という計 画を提案した。また、無理なく登校するための準備に ついて話し合ったところ、 Aは「隣の人から話しかけ られた時にどうしていいかわからない」との発言があっ た。そこで、 Tは、 Aの好きな話題(かに、童話)の 話をすると、多様な会話レパートリ‑が確認された。
そこで、 TからAに「まだ慣れていないので、こうい う風な会話レパートリーが使えていないだけで、慣れ ればきっと大丈夫だから」と励ました。
その後、健康チェック表を基に家庭での課題遂行状 況が報告され、順調に遂行していたことが確認された。
また、 Aの立案した計画を担任に連絡した。
第11回セッション(9月4日: 9: 41:30)
Aと登校に関する話し合いを実施した。無理なく学 校に一人で行けるために、どのように自分が努力した らよいかをテーマに話し合った。そこで、 Aから隣に 座っている友達と話をするために話の練習をしたいと
の希望が出された。そこで、 Tと一対一の話し方の練 習を行った。夏休みの宿題のこと、遊びに行ったこと (遊園地、肝試し、旅行)などをTと話した。また、
AからTに同じ内容のことを聞く役割も練習した。
また、夏休みの宿題で終了していなかった漢字練習 (ワークブック)とことわざの暗記を実施した。昼食 は、多人数の状況に慣れるために大学の学食でとった (中学校は、生徒全員でランチルームでランチをとる 形式)。
第1回電話指導(9月5日 :10‑8:15)
朝8:10にTがAの自宅に電話を入れた。 Aが電話 に出て、 「今これから出ます」とのことであった。母 親からは、朝食の食事量が昨日よりも増えていたこと、
体温は平熱であったことが報告された。
第12回セッション(9月6[] : 9:00‑ll:30) Aから学校での昨日の状況報告があった。 1、 2限 は教室、 3限は保健室で過ごしたとのこと、給食は牛 井を半分食べ、他のおかずは全部食べたとのことであっ た。腹痛は、楽になったこと、友人と宿題が終わった かどうかの話もできたとのことであった。
夏休みの宿題の残りの慣用句の暗記、作文(平和に ついて)を実施した。また、将来のこととして、かに 作家になっていろいろな所を旅行したいという話をし
て楽しそうにしていた。
第1回担任からの電話報告(9月7 [] : 15:00‑15:20) 担任からの電話があり、本E=ま通常時間割で全て授 業参加できたこと、給食もほとんど食べることができ た旨報告があった。
Tから担任への助言として順調な経過は、担任の対 応が適切であることの現れであることを伝えた。今後
の留意点としては、段階的に登校に際して必要な情報 (準備していくもの等)を伝えること、集団参加の目 標で係活動への参加を助言した。
第2回電話指導(9月8日 8:20‑8:40)
Tが、朝8:20に電話を入れる。母親によるとAは 8:10に友達と自転車で登校したとのことであった。
朝食は、おかゆは食べられなかったが、牛乳とヨーグ ルトを食べたこと、昨日は下校後は家の中で久しぶり に明るかったことが報告された。
第3回電話指導・第2回担任からの電話報告(9月11 日:10:10‑10:20: 9:00‑9 :10)
母親からの報告によるとAは、 8 :08に自転車で登 校したとのこと、朝食は、サンドウィッチと牛乳、ヨー
グルトを食べたとのこと、玄関を出る時は、 「にっこ り」として行ったとのことであった。
担任からの電話による報告によると休み時間、職員 室の前を行ったり来たりしていたが、しばらくしたら 教室に上がって行ったとのことであった。
第4回電話指導(9月13日: 9 :54‑10:05) 母親からの報告によると学校に関しては、昨日は、
通常通り友達と登校し、午後から体育館でのミュージ カル見学に参加した。参加の前にお腹が痛くなり保健 室で休んでから体育館に行ったとのこと、他の時間は、
教室にいることができたこと、本日は、 7時55分に登 校したことが報告された。
帰宅後の様子については、明るい感じでAが帰宅し たこと、ミュージカルがおもしろかったといっていた こと、父親へ自分から話しかけるようになったこと、
夕食の量も増えたこと、朝検温をする事がなくなって きたこと、朝食も出されたものを全部食べたこと、母 親の感じでは、 Aの学校に行く感じが明るくなったこ
とが報告された。
Tは、母親へ、今後この子にとって新しい場面に直 面した時に何らかの症状、訴えが生じることが予測さ れるが、保健室を活用するなどして徐々に慣れさせる ことが重要であると助言した。そして、達成できたこ とに関して大いに認めてあげることが重要であると助 言した。また、学校でAがおもしろいと感じることが あり、登校開始から2週間近く経過し登校時刻も早く
なり、体調も慣れてきたので、 「これからは楽になり ますよ」と伝えた。
第5回電話指導・第13回セッション(9月16日:ll:
25‑35 : 14:20‑15 :30)
母親からの電話報告によると本日は、 Aは7 :45か ら家の外に出て友達を来るのを待って一緒に登校した とのこと、昨夜は宿題をし、夕食も全部食べたことが 報告された。
Tから母親へは、経過は順調であるので午後からの Aとの面接で、様子を聞いて問題がないようであれば 終結とすることを伝えた。
セッションにおいては、 Aは、学校生活は「なんと もない」、 「腹痛もなくなった」と報告した。 Aの感想 として、 「以前より力が抜けるようになった」とのこ
と。学校場面で緊張するような場面では、実践センター で実施した筋弛緩状態を思い出して力を抜くように助 言した。
また、登校の経過が良好であること、 Aも「大丈夫 そう」と言っていることから9月30日に終結面接を学 校で行うことを提案したところAは了解した。
第6回電話指導(9月19日:10:30‑10:40) 母親から、昨日、本日共に友達と7 :45に家の外で 待ち合わせをして登校したこと、宿題をし、食事も全 部食べたことが報告された。母親から、うちの子は朝 はご飯が食べやすいことを発見した旨報告があった。
Tは、このように子どもへの対応をいろいろと工夫し、
子供にあった対応を考えていく姿勢が大変良いことを (^K‑^。
第7回電話指導(9月20日:ll:30‑50)
母親から、本日は、 7 :48に友達と登校したこと、
母親から見て表情が、よくなってきたこと、昨日は、
Aが「理科の授業がおもしろかった」と言っていたこ とが報告された。
Tから母親へ経過が良好であることからTによる援 助の間隔を徐々にあけ、対応を家庭で考えながら行う 部分を多くすることを伝えた。母親は了解し、緊急に 対応しなければならない事態の時以外は、来週の水曜
日に電話指導を実施することとした。
第8回電話指導(9月27日:10:00‑10:10) 母親からAが継続して登校していること、苦手だっ た体育祭の練習にも参加し、日焼けして健康そうになっ たことが報告された。
第2回学校訪問(9月30日: 9 :30‑10:30) 校長室においてA、校長、担任、母親、父親、 Tで 終結面接を実施した。 Aは、休み時間中に出席した。
Aは、腹痛が楽になったこと、友達も何人かできたこ と、実践センターでいろいろと自分と挑戦し学んだこ とを話した。
Tからは、見るからに健康そうになったこと、本日 までのAのがんばりを賞賛した。担任からは、休み時 間に職員室にあまり釆なくなり、教室で過ごす時間が 増えたこと、学級のみんなの前で大きな声で発言でき るようになったこと、係り活動を毎日していることが 報告された。
家庭に於いては、父親からAと母親が明るくなった こと、 Aが父親に話しかけるようになったこと等が報 告され、 Aの再登校の援助に関して感謝の言葉があっ
た。学校長から、今後も学校において適切に対応して いきたい旨の発言があった。
Aは、休み時間が終わると「ありがとうございまし た」と言って退室した。その後、学校・家庭で現在の 方針を再確認して今後も同様の協力体制を実施するこ
ととした。
3. 9.予後状況
担任からの報告によると、再登校以降、 1年間4ケ 月間で欠席は風邪による1日のみであったとのこと。
得意の理科を中心に学力が向上していること、友達が 増えたこと、苦手だった体育関係も積極的に頑張って いること、みんなの前で大きな声を出して発表ができ ていることが担任より報告された。
また、再登校後1ケ月後の9月下旬に実施したY‑
G性格検査はA'型(平均型)であった。
4.考 察 1.不登校状態の形成について
本事例は、不登校に至る発現要因として、転居等の 環境の変化による腹痛等の体調不良が考えられた。体 調不良に対して適切な対処がなされることなく家庭に 滞在し、学校場面において学習理解困難など不快場面 が増加し、学校を回避するようになった。そして、徐々 に予期的不安が生じてきた。家庭に滞留する行動が、
母親の世話やきといった強化刺激を受けることによっ て維持されていると分析された。
したがって、本事例は典型的な神経症発症メカニズ ム(Johnson,et, al., 1941)とは異なるタイプと考え られる。すなわち、基本的には、不安・恐怖感が言語 応答や客観的尺度に明白に現れないタイプ(上里、 19 85;茨木、 1986)に対応するといえよう。
4. 2.登校行動の再形成をめぐって
本事例への継続的登校行動形成の援助は、腹痛の低 減のための生活習慣改善を中心として、家庭、学校へ の援助を実施した。学校場面における不安の可能性へ も対応し腹痛が低減したことが継続的登校に有効であっ たといえよう。
また、 Aの再登校以降、学校内の保健室、家庭にお ける休ませ方を改善し断続的不登校誘発・維持要因を 除去し、登校行動が強化刺激を受けるようになったこ
とが促進要因と考えられる。
以上、自己記録法によるA自身の体調改善と実践セ ンター、家庭、学校が統一した方針の基に綿密に連携 したことが早期解決に有効であったといえよう。
本事例の治療教育全体の構成は、小林(1980)、中 林ら(1989)、小野・小林(1993)、小野ら(1999)と
同様に総合的なアプローチであるといえよう。
本事例のように身体的要因と関連が深い不登校の場 合、食事等の日常生活における基礎的な情報を収集す
ることの重要性が示唆された。
謝 辞
論文発表をご承諾くださいましたご両親に感謝いた します。また、本臨床活動実施において、明日香村立 聖徳中学校教職員の皆様、奈良教育大学大学院教育心 理学専修(当時)の岡村李光氏のご協力を得ました。
厚く御礼申し上げます。
引用・参考文献
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Johnson, A. M., Falstein, E. I., Szurek, S. A., and Svendsen. M : School phobia, American Journal of Ortho‑psychiatry, ll, 702‑711, 1941
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小林重雄: 「登校拒否の行動論的アプローチ‑再登校 行動のシェービング法‑」、 『E]本心理学会第52回 大会発表論文集』、 36、 6‑1、 1988
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Wolpe, J∴ Psychotherapy by Reciprocal Inhibition,
Stanford Univ. Press, 1958 金久卓也監訳
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