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(1)

スターリング「認識論」の意味

今田正

1 はじめに

こんにち,会計は大きな転換期にある。会計認識は会計の基本問題であり,

これら会計認識領域の拡大等,認識論の新たな展開は,その基礎に現代会計 実務の新たな進展がある。それはリース会計,年金会計の進展であり,偶発 損失の計上実務のGAAP化であり,さらには,先物取引等の末履行契約の GAAP化にあたっての論理化という会計実務上の要請がその焦点をなして いる。

これら現代会計実務の特徴は伝統的取引価格による取引概念と実現概念か らなる認識の論理枠組みを超えた会計事象に基づく資産,負債の多様な計上 実務の進展である。

そうして,これら現代会計実務を論理的に支える概念枠組みのなかにあっ て,認識論の基礎を提供したのが,FASB「財務会計概念ステイトメント」

(1)

第6号における資産,負債の定義であった。同ステイトメントは資産,負債 を見積将来経済便益およびその犠牲として定義づけた。この定義のもとで,

「経済的資源」と呼ばれる資産とは便益であり,負債は責任である。資産の

特質は,(1)将来キャッシュ・インフローに貢献する見積将来経済便益であ

り,(2)特定の実体が当該便益を取得できること,(3)当該便益に対する実体の

権利ないし支配をもたらす取引ないし事象が発生していること,という3つ

の標識をもって規定された。また,負債の特質は,(1)それは特定の期日に資

産の将来的な移転ないし費消による決済をともなう他の実体に対する現在の

責任として現われるか,(2)それは特定の実体に対していささかの将来犠牲の

回避も許さない責任であり,(3)実体に債務を伴う取引ないし事象が発生して

(2)

いること,と規定された:)この財務諸表要素の定義,認識・測定の規準を満 たす項目が発生主義会計の手続を通じて財務諸表へ計上されるのである。発 生主義は現金の収支ではなく,実体にとってキャッシュ・コンシーカンスを もたらす取引,事象および環境の実体に対する財務的効果を記録せんとする ものである(4)会計認識は,実体の資産,負債に変動を及ぼす現実の事象に焦 点が置かれている。

このように,認識論の主要な項目に設定されているのは資産および負債で ある。すべての取引およびその他の事象,また環境は結局において資産およ び負債,およびその双方に変動をもたらすとされ,その他の持分,収益,費 用および包括的利益は,資産,負債の概念に依拠して定義されたのである。

では, r 認識」なる用語の意味はなにか。ジョンソン=ストリィーによっ ても規定されたごとく,一般に, r 認識とは,ある項目

(item)

をある実体 の財務諸表上に資産,負債,収益,費用,利得,損失,所有主への配分,所 有主による投資のどれかとして公式に記録し計上する過程である」。また,

「認識はある実体に及ぼす現実世界の事物および事象の効果を財務諸表上に 表示ないし表現せんとするものである」と,このような定義としてとらえる

ことができょう。

これはまた,

r

財務会計概念ステイトメント」第

5

号の認識の定義として 導入されたところである。それは,概念プロジェクトの重要な役割である財 務諸表の要素の定義,認識,および測定に関する問題領域に関係し,いかな る情報が財務諸表上に表示されるべきかということに他ならない。かくて,

「ステイトメント」第

5

号は,次のような極めて一般的な

4

つの認識基準を 示した。

定 義一会計項目が財務諸表の要素の定義に合致すること。

測定可能性ーー十分な信頼性をもって測定可能な適合的な属性をもつこと。

目的適合性一一それに関する情報は利用者の意思決定にとって差別化が可能である こと。

信頼性一情報が表示上の誠実性,検証可能性,かつ中立性を有すること。

これは,全体としてみれば,ある項目について,目的適合的かつ信頼性あ

(3)

スターリング「認識論」の意味

229 

る数量的な財務情報が得られるとすれば,それは財務諸表に含められるべき であるとするものである。したがって,後の二つの基準(目的適合性と信頼性) は第

2

の測定可能性の意味をくり返したにすぎない。その基準内容は極めて 広義であるが,表現すべき事物および事象を識別し定義づけた。だが,それ はいかなる属性をもって数字が表現されるべきかの問題についての方向性は 示されなかった。表現すべき属性の識別が明確にされねばならないと,認識

と測定の区分とその明確化が主張されたのである。

ここに,

R.

スターリングは,

i

認識

J

なる用語を財務諸表に表示

(dis play)

される用語

(words)

および数

(numerals)

に関連づけて定義づけ,

彼は,その用語および数が表示する事物および事象とその大きさについて適 用される認識テストを示したのである。

従来,認識問題はもっぱら収益認識の概念と関係づけられ,それは何時に 収益が損益計算書上に計上されるべきかということに関係づけられてきた。

これに対して,スターリングは認識概念を広く,全ての財務諸表の要素を包 括する概念として設定したのである。

以下,スターリング認識論の内容とその論理の果す会計的意味を検討する。

(註)

( 1 )  

FASB, Statements 01 Financial Accounting Concepts No.6 ; Elements of Financial  Statements

, 

FASB

, 

December

, 

1985. r

財務会計概念ステイトメント」第

3

0980

年) は,この第

6

号によって改訂された。

(2)

昂 i d .

para.  26.  28.  36. 

( 3 )  

Ib

i d .

, para.  134.  (4)

昂 i d .

para.  139. 

(5)  Solomons

, 

D.

, 

M

ingAccounting Policy

, 

N. Y. : 

O x f

ord University Press.  1986

, 

p.  119. 

(6)  FASB. Statements 01 Financial Accounting CocepぉNo.6.para.  64. 

(7)(8)  ]ohson.  L. T. and Story.  R. K.

, 

Recognition in Financial Statements : Unde

r 1

ying  Concepts and Practical Conventions.  FASB. 1982, p.2. 

(9)  FASB, Statement 01 Financial Accounting Conα

1 J

ts  No. 5 Recognition and Measure

(4)

ment in Financial Statements of Business Enterprises

, 

FASB

, 

December

, 

1984

, 

para.  63. 

( 1 < > >  

Mi11er

, 

Paul B. W. and Redding

, 

R.].

, 

The FASB : The People

, 

the Process

, 

and  the Politics

, 

Second ed.

, 

Hoomewood

, 

I1linois; Irwin

, 

1988

, 

p.132. 

(高橋治彦訳『財務

会計基準審議会』同文舘,平成元年,

186‑187

頁。)

1)Solomon

, 

D.

, 

~ρ. cit.

, 

pp. 125127.

( 1 2 )  

Sterling

, 

R. R.

, 

An Essay on Recognition

, 

The University of Sydney Accounting  Research Centre

, 

1985

, 

p.2. 

認識論と意思決定有用性論理

)意思決定有用性論理

スターリングは,その認識論の展開にあたって, r 概念ステイトメント」

シリーズによる既開発の認識概念を抽出し,またその基準に依拠する。

「概念ステイトメント」第 1号は,会計の包括的目的が財務報告による投 資者,与信者,その他の合理的な投資,与信等の意思決定に有用な情報を提 供することにある。この場合,意思決定有用性が概念構造全体の基礎であり,

他のすべての概念はそれらの基礎の上に構築され,それらの目的に貢献すべ きものとした。「概念ステイトメント」第

2

号は,会計情報を有用たらしめ る資的特徴を規定した。また, r 概念ステイトメント」第

3

寄は意思決定有 用性の要素を定義した。スターリングは,ここに,意思決定に有用な事物お よび事象の認識および属性を提案するとし,意思決定有用性は全体としての 会計の目的であり,認識の基準であるとする。

( 2 

)既開発の認識概念

意思決定有用性目的を達成するためには,会計情報は一定の質を有しなけ ればならないが,それらは「概念ステイトメント」第

2

号に規定されたとこ ろである。

目的適合性と信頼性とは意思決定にとって会計情報を有用たらしめる第一

義的特質である。したがって,目的適合性と信頼性とは認識にとって第一義

(5)

スターリング「認識論」の意味

231 

的基準であるとされる。

目的適合性は投資者,与信者,その他が過去,現在,および将来事象の結 果を予測し,正確な期待を形成することを援助する情報の能力であり,前者 は「予測価値

J

,後者は「フィードパック価値」と呼ばれる。「適時性」およ び「比較可能性」もまた目的適合性を構成する。

信頼性の構成要素は「表示上の誠実性」と「検証可能性」である。特にス ターリングは「表示上の誠実性」についてつぎのように

L

、 ぅ 。

表示上の誠実性は言葉ないし数による表現

(depiction)

とそれが表わそ うとする現象との合致である。財務諸表は事物および事象を表現せんとする ものであり,同様に事物の大きさおよび事象の効果の大きさを表現する。こ のように表示上の誠実性は言葉および数による表現の両方に適用される

と 。

「検証可能性」はそれによって表示上の誠実性について合意を達成する過 程である。その目標は表現とそれが表わそうとする現象との間に一致が存在 することを保証することである。検証可能性は事物および事象の存在および 大きさに関する経験的証拠が存在することを要求する。この場合,検証可能 性は独立した資格ある観察者間における数的表現とそれが表示せんとする現 象との合致についての合意である。その要件は合致が存在することであって,

けっして完全な合致ということではなし、。目的適合性は意思決定タイプの表 現された現象との結びつきであるから,その要件は,その表現が目的適合的 属性の表示であるべきで,その大きさが正確であるということではない,と

このようにいう。

このように,目的適合性は現象と意思決定との結びつきに関係づけられ,

信頼性は現象とその表示に関係づけられるものであり,意思決定有用性は目

的適合性と信頼性との両方の結合を要求する。すなわち,第一は,どの現象

(例えば,過去と現在の価値)が合理的な投資・与信といった意思決定に目

的適合的であるか。第二は,その適合的現象を見積り,測定し,検証するこ

とである。例えば,過去の現金交換という事象をもって測定された過去の価

格は現金交換を欠き見積りによらねばならない現在価格より正確であるよう

(6)

にみえよう。しかしながら,過去の価格は現在の価格の誠実な表示ではなく,

また現在の価格は過去の価格の誠実な表示ではない。かくて,過去または現 在価格のどちらがより信頼性があるかは抽象的には答えられない。それは数 字が如何なる現象を表示せんとしているかに依存している。

そうして,数字が何を表示せんとするかは如何なる現象が意思決定にとっ て適合的であるかに依存している,というように論理化されるのである。

つぎに,認識に関する構成要素である財務諸表の要素については「概念ス テイトメント」第

3

号において規定されたところである。スターリングはつ ぎのように要約する。

事物または事象の効果が要素としての資格を有するためにはある属性を特 定する定義を必要とする。したがって,諸要素の定義において特定された属 性は認識の基準である。

資産の本質的属性は,

a.

資産は将来のキャッシュ・フローに直接,間接に貢献する能力を包含する見積 将来経済便益を表わす。

b.

ある特定の企業がその便益を獲得し,他の者のそれへの接近を排除できる。

C.

企業をして便益についての権利または支配権を与える取引または事象が発生し ていること。

負債の本質的属性は,

a.

負債は,特定の事象の発生や要求に基づき,一つまたそれ以上の他の実体をし て,特定の,または定められた期日に資産の将来的な移転または使用によって決 済されることを必然、的に伴う現在の義務または責任を表わす。

b.

その義務または責任は将来犠牲を回避する裁量を企業に許さない強制的なもの である。

C.

企業を強制する取引または事象が発生していること。

財務変動要素一一包括的利益,所有主による投資およびそれに対する配当 ーに共通の本質的属性は,

a.

それらは資産または負債の変動である。

b.

それらは特定の実体の資産または負債に影響をもっ。

(7)

スターリング「認識論」の意味

233 

c.

その変動が発生していること。

以上のすべての属性は認識にとって必須のものであり,以下に提唱される 認識テストに包含されるものであるとされる。

いずれにしても,諸要素の定義は目的適合的な事物および事象の識別であ り , したがって,それは質的諸特徴の適用も意味する。スターリングは,意 思決定有用性論理から導きだされる資産,負債の定義とその質的特徴をその 認識論の基礎としたのである。

(註)

( 1 )  

FASB

, 

Statement 01 Financial Accounting Concepts No.l : Objectives of Financial  Reporting by Business Enterprises

, 

FASB

, 

1978. 

(2)  ASB

, 

Statement 01 Financial Accounting Concepts No. 2 Qualitative Characteristics  of Accounting Information

, 

FASB

, 

1980. 

(3)  ASB, Statement 01 Financial Accounting Concepts No. Elements of Financial  Statements of Business Enterprises

, 

FASB

, 

1980. 

(4)  Sterling

,  R . ,  

An Essay on Recognition

, 

op.  cit.

, 

p.8.  (5)

昂 i d . ,

p.18. 

(6)(7)

昂 i d . ,

p.24. 

( 8 )   J b i d ., 

p.25.

スターリングは,その例に監査基準をあげている。

(9)

帥 昂 i d .

p.29. 

(1l)昂 i d .

p.35. 

(l~

I b i d ., 

p.39. r

概念ステイトメント」第

3

号において規定された資産,負債の定義につ いては同ステイトメント改訂版たる「概念ステイトメント」第 6号にそのまま引き継が れている。

(l~ 昂id. ,p.40. 

スターリング認識論の展開

(  1  )認識の基礎概念

測定属性 以上では,スターリングに従って,

FASBi

概念ステイトメン

(8)

ト」において開発された認識に関する諸概念について検討した。では,スター リング認識論の展開はどのようなものであろうか。

まず,スターリングは,認識は用語と数による事物および事象の表現であ ると L 、ぅ。「概念ステイトメント」は用語が表現すべき事物および事象を識 別し,定義したが,数字がし、かなる属性をもって表現されるべきかの問題に ついては,その方向性は示されなかった。そこで,次は表現すべき属性の識 別が問題となるという。

彼は,合理的な投資,与信およびその他の意思決定に適合的な属性の識別 は数的表現にとって必要かつ十分条件を達成する前提である。なぜなら,用 語による表現にとって必要かっ十分な条件が数字による表現のそれと結びつ けられる場合,その結果は用語と数字による表現にとって必要かつ十分条件 の確立となる。つまり,この結合が認識にとって必要かつ十分条件を達成す ることになる, という。

ただし,スターリングは,その測定されるべき属性とはなにか,この定義 こそがその対象の認識と測定(属性の大きさ)の前提となる。すなわち,こ の定義こそが認識基準を提示することになる。たとえば,包括的利益とその 構成要素,すなわち,収益,費用,利得および損失に関してみれば,利得が 認識されるかいなかは,如何なる属性が測定されるかに依存しているとい

(3) 

フ 。

つぎに,スターリングは,認識に関する属性について,代替的属性が基本 的には実体が資源および債務を交換する場合の

(1

)二つの市場‑買収または売 却ー,また,

(2)

交換が行われる過去,現在,未来という三つの時点との組合

せによって

6

つの価格が存在するとする。

買収市場価格

(purchasingmarket prices)

は通常,原価

(cost)

と呼ばれ る。すなわち,過去ないし歴史的原価,現在ないしカレント原価,将来ない

し予定原価である。

売却市場価格

(sel1ingmarket prices)

は時としてエクシット・ヴァリュウ

と呼ばれる。過去のエクシット・ヴァリュウ,現在ないしカレント・エクシ

ット・ヴァリュウ,将来ないし期待エクシット・ヴァリュウである。)

(9)

スターリング「認識論」の意味

235 

これらは,

FASB

が選択可能なものとして提案した代替的属性に関する ごく一般的な規定である。その合理的選択の前提はなによりもまず,代替的 諸属性の定義であるという

(6

)しかし,スターリングは,種々の現在価値を考 察し,それをもって現在価値会計への転換を主張するのではない。彼は,こ こでは,歴史的原価属性のわずかな改革的な精敏化を示唆するものであると し 、 う 。

スターリングは,歴史的原価の検討にあたって,歴史的原価システムの構 造自体がいくつかの例で非原価属性を必要とするとし、ぅ。スターリングはい う。経済的資源の取得原価とは当該の経済的資源を取得するのに犠牲とされ た他の資源の大きさである。取得された資源の原価の大きさを測定する手続 は ,

(1)

取得資源と犠牲とされた資源とを関係づけ,また

(2)

犠牲とされた資源 の選択された属性の大きさを測定ないし見積ることである。このことは,貸 方金額が決定されれば借方は貸方と同額で設定されることになる。さらに,

この手続は交換をもって包括的利益を認識することを不可能とする。なぜな らば,取得資源は犠牲とされた資源と同額に設定されるから,この「原価」

の定義に従えばその差額はゼロとなることになる。もし歴史的原価の主要な 目的が包括的利益を報告するごとであるということが所与であるとすれば,

ある経済的資源について原価以外のものをもって表現されることを要求する ことになる。もし,すべての経済的資源が原価で表現されるとすればいかな る包括的利益も報告されないことになるであろうと。

いずれにしても,スターリングはいかなる属性が選択されるべきかという ことについて直接に主張するのではない。認識対象に関して,質的特徴の適 切な適用が原価か価格かあるいはその双方の選択へと導くことになると,こ のように目的適合的また信頼性ある属性の選択として論理化する。

モデルと連関性 スターリングは,財務諸表について,つぎのように定義 づけている。

財務諸表の意義と有用性は用語および数字が表示する事物および事象から

派生する。そしてその表示がモデルと呼ばれるものである。かくて,財務諸

表は事物および事象,またそれから両者の関係のモデルを構成する。貸借対

(10)

照表は所与の一時点における資産,負債,および持分を表示する。損益計算 書,キャッシュフロー計算書,所有主投資および配分計算書が一時点におけ る収益,費用,利得,損失,資金の調達と運用,所有主による投資とそれへ の配分を表示することになる。

かくして,スターリングは財務諸表の連関性

(articulation)

は事物と事象 との特定の関係を意味すると L 、ぅ。現在の事物は過去の事象の結果であり,

二つの時点における事物の差額は当該期間に発生した何らかの事象の発生を 意味している。すなわち,財務変動要素は事物に変動をもたらす発生した事 象の効果を表示し,貸借対照表要素は,いわば過去の累積的効果である事 物を表示するのである,と。このように財務諸表の連関性について規定す

る 。

この財務諸表の連関性と非連関性とに関して,スターリングは,それが未 解決の問題としながらも,要するに,連関性は選択された属性の加法性の問 題であると L 、ぅ。現象に関する連関性が得られれば,それが表示上の誠実性

を意味するという。

現象と表象の区分 スターリングは,その論理立ての基礎概念として現象 と表示の区分を説く。すなわち,表象

(symbo

l)が表示せんとする現象とモ デル上の表象とは区別されるべきであるというのである。

モデルのもつ有用性はその表象が適合的現象を誠実に表示することから生 れる。現象と表象とが混同されるとすればモデルのもつ有用性は壊れてしま う。会計人もこの混同から免れない。会計の概念と方法とによって生みださ れる用語と数字は現象の表示というより現象そのものであるととられがち である。表示と現象とが徹底して区分されるべきことが強調されるのであ る 。

たとえば, r 資産」は経済的資源、を述べたものであるか,または経済的資 源を表示している用語ないしは数を表わしたものであろうか。つまり,事物

(things)

は現象一般を意味し,また「経済的資源

J(economic resources)

お よび「債務

J(obligations)

は特定の種類の事物である。そうして, r 資産」

(assets)

また「負債

JOiabi1ities)

はより特殊であり,これらの用語は各々に

(11)

スターリング「認識論

J

の意味

237 

特定の実体に関して認識テストを満足する経済的資源および債務に関係づけ られたものである。

対照的に. r 表現

J(depictions)

あるいは「表示

J(representations)

は事 物および事象に照応する財務諸表上のインク・マーク

(inkmarks)

に関係 している。かくて. r 資産の認識

J(recognition of an asset)

とは認識テスト を満たす経済的資源の表示(インク・マーク)を意味する。このように,表象 とその表象が表示せんとするもの(現象)との区分の徹底を主張するのであ る 。

)資産・負債の認識基準

では,認識基準はどのように示されるであろうか。まず,スターリングは 資産,負債の認識過程を定義してし、う。資産および負債はある種の事物であ り,ある時点に存在するそれら事物のある属性の大きさである。かくて,認 識の過程はどの事物が資産および負債として言葉上の表現に適合するか,ま た,いかなる属性がそれら資産および負債の大きさを数的に表現するのに適 合的かを決定することに関係している。この過程の結果は,それが認識テス トを満せば貸借対照表上に資産あるいは負債として事物とその大きさを表現 することになる, と定義される。

では,スターリング認識テストとはどのようなものか。彼は,これが先に 上げた一般的認識基準と一体のものであり,それを拡張したものであるとい う。すなわち,認識の過程は事物が貸借対照表上資産および負債と認識され るための

6

つの相互に関係づけられたテストから構成されるとされるのであ る 。

1の認識テストは,認識の対象となるべき事物の存在の発見である。こ れが認識の出発点であり必要条件である。

2

は,認識されるべき事物の種類を認識することである。その事物の種 類については既に経済的資源,または債務として先に決定された。その理由 はそれらが合理的投資,与信,その他意思決定に適合的であることによる。

したがって,経済的資源または債務という特質を有することが資産または負

(12)

債として認識される十分条件ではないとしても必要条件である。

経済的資源であることの必須の特質は事物が, (1)希少であり,

(2)

欲求があ るものであることである。事物がこれら二つの特質を有する場合それは価格 形成力を有することになる。経済的資源と非経済的資源との相違は,経済的 資源、はそれが所有されていない場合は価格をもってのみ取得され,それを所 有していない場合は価格をもってのみ売却されうることである。このように,

価格の存在が事物が経済的資源であることの決定的証拠である。事物が価格 支配力を有するということは個人あるいは企業が,それが将来経済的便益を 生みだすことを期待することを意味する。多くの事物は度々交換されるもの であるから,それらの価格の大きさは容易に予測することができるという。

また経済的債務は経済的資源の反対物と考えればよい。経済的資源が便益 であるのに対して経済的債務は責任である。

3

のテストは,経済的資源および債務と当該実体との必然、的な関係を識 別することである。すなわち,実体が経済的資源を支配することから得られ る便益は当該実体に帰属しなければならない。また,義務ないし責任は実体 にとってその債務を果たすうえで隔意性をもたないものである。いずれにし ても,このテストの目的は実体によって支配されるすべての経済的資源と実 体が負うすべての債務を含めることであるとされる。

この実体との関係テストの目的はどの実体が経済的資源に対する支配力を 有するかを識別し,そうして,その資源を貸借対照表上に資産として認識す ることである。また,このテストは, どの実体が義務を負うかを識別し,貸 借対照表上に経済的債務として認識しなければならないと,資産,負債の認 識にあたって特定の実体との関係が強調され,その関係づけの標識に支配力

と義務の概念が設定されたのである。

4

のテストは,選択されるべき属性の大きさを確かめることである。経 済的資源および債務について選択されるべき属性の大きさのみが認識の対象 となる。選択されるべき属性の零でない大きさのみが認識に関して適格であ る 。

5

のテストは,テストが満足される日を確定することである。すなわち,

(13)

スターリング「認識論」の意味

239 

事物が認識されるためにはすべてのテストはそれが適用される日に満足され ねばならない。すなわち,先に掲げたテストのすべてが貸借対照表上に認識 されるためにはその貸借対照表日に満されていなければならない。貸借対照 表日におけるすべてのテストの満足が事物が貸借対照表上に資産または負債

として認識されるための必要かっ十分条件である。

この時点の関連づけテストの目標は貸借対照表日にテストを満足するすべ ての事物を当該貸借対照表上に資産および負債として含めることにある。現 在ないし当期貸借対照表は現在ないし当期の資産および負債としての認識に 適合する経済的資源および債務,それらの選択されるべき属性の大きさを表 現せんとするものである。

6

のテストは検証可能性である。これは表現

(depictions)

が表示上誠 実であることを保証する能力である。用語および数字はそれらが表示せんと する現象を表示しなければならず,また資格ある観察者がそのことについて 同意に達することができるものでなければならない。

検証可能性は先のすべてのテストに適用される。すなわち,

(a)

事物の存 在 ,

(b)

経済的資源ないし債務であること,

(c)

それが当該実体の支配下にある か義務を負うものであること,

(d)

選択された属性の大きさが合理的に測定な いし見積られたものであること,

(e)

これらすべてのテストが貸借対照表日に 満足されること,これらに関する表示上の誠実性の保証が存在しなければな

らない, とされる。

意思決定有用性の全般的目的を達成するためには,表現は信頼性のあるも

の,すなわち,表示上の誠実性と検証可能なものでなければならないとする

のである。これらテストの目的は投資,与信その他の合理的意思決定にとっ

て適合的である事物およびその事物の属性を識別し,それらが誠実に表示さ

れていることを保証することである。誠実な表示の保証が信頼性を提供する

ことになる。かくて,この目的適合性と信頼性との結合が意思決定上の有用

性を提供することになる,とこのように論理化されるのである。

(14)

)持分の認識基準

つぎに,スターリングは持分の認識についていう。持分はある実体の資産 から負債を差ヲ│いたのちに残る残余持分である。先に示されたテストは持分 には適用されない。何故なら,それは計算上の残余である。持分は負債を差 引し、てなお資産が存在する場合のみ存在するのであるから,持分に関して個 別のテストは存在しない,という。すなわち,持分の数的表現は従属変数で ある。経済的資源および債務は独立変数であって,これによって持分が計算 されるのである。すなわち,持分は特定の実体に関連づけられねばならない が,このテストは経済的資源、および債務と実体との関連性によって達成され る。また,持分は特定の時点と関連しているが,しかし,時点の関連性のテ ストは経済的資源および債務を時点と関連づけることによって達成される。

持分の数的表現は選択されるべき属性の大きさではなく,測定されるべき属 性の加算と減算による大きさから導きだされた額であるという。

そこで,持分の必須の特質の一つは所有権

(ownershipright)

である。債 務と所有権との区分こそが経済的資源に対する請求権をより狭義に負債およ び持分として区分するのに役立つという。この所有権という特質こそが経済 的資源についての独自の請求を表示するうえでの必要かつ十分条件となると いうのである。かくして,認識問題は結局,資産,負債の貸借対照表計上に かかわる概念を意味している。

)事象の認識

財務諸表の連関性から,事象の効果の認識(テスト)は事物の認識のそれ と似たものとなる。財務変動要素は「概念ステイトメント」第

3

号において も資産・負債に関連づけて規定されたのであり,それらは資産・負債の定義 を前提とし,またこれに依存していると,される。

(a) 

発生したか,また発見されたすべての事象が認識の対象となる。

( b ) 実体によって支配ないし所有された経済的資源および債務の実質 (sub‑

stance)

に変化をもたらす全ての事象は当該実体によって認識されねばならな L 。 、

数的表現は選択されるべき属性の大きさに変動を及ぼす,たとえば,価値が付加さ

(15)

スターリング「認識論」の意味 241 

れた否かに依存している。

(c)  経済的資源あるいは債務を支配し負担するその実体の変化をもたらす全ての 事象が,その資源に対する支配力を取得するか,犠牲とするか,債務が発生するか,

決済を行う実体によって認識されねばならない。たとえば,交換 (exchanges)は経 済的資源を支配する実体に対して,その実質に変動をもたらすことなく,変動を与 える。

( d )  

ある実体によって支配または負担される経済的資源および債務について選択 されるべき属性の大きさに変動を及ぼす全ての事象が当該実体によって認識されね ばならない。物価変動あるいは利子率の変動がそれらの事象の例である。それらは 経済的資源および債務について,その実質に変動を与えることなく,その測定され

るべき属性の大きさに変動を及ぼす。

(e)  実体の経済的資源および債務に変動を及ぼす事象は期間によって分割され る。財務変動計算書(financialchange statements)に包含される会計期間における,

実体によって支配ないし負担される経済的資源および債務の実質および大きさに変 動を及ぼす事象のみが当該期間に認識できる。

(0  独立した,資格ある観察者間で先のテストが満されたということについて合 意に達することが出来なければならな

L

以 上 の よ う に , あ る 実 体 に 支 配 ま た は 負 担 さ れ る 経 済 的 資 源 お よ び 債 務 の 実 質 お よ び 選 択 さ れ る べ き 属 性 に 変 動 を 及 ぼ す 事 象 も あ れ ば , ま た 経 済 的 資 源 お よ び 債 務 を 支 配 な い し 負 担 す る 実 体 自 体 に 変 動 を 及 ぼ す か , そ の 結 合 し た 事 象 も あ る 。 こ れ ら す べ て の 事 象 が 貸 借 対 照 表 要 素 (financialposition  elements)の変動として認識されねばならないとされる。

他 方 , 財 務 変 動 要 素 (financialchange elements)ー包括的利益(収益,費 用,利得および損失),所有主による投資,所有主への配分,資金の源泉と運 用 ー に つ い て は ど う か 。 財 務 変 動 要 素 は 一 会 計 年 度 に 生 じ た あ る 種 の 事 象 の 個別の効果の表示である。

ス タ ー リ ン グ は , こ れ ら 各 々 の 財 務 変 動 要 素 に つ い て , い か な る 事 象 が 認 識基準に適合するかを決定する追加的認識基準を,つぎのごとく示している。

l

は,特定の経済的資源、ないし債務,あるいはそれらの特定のクーループ

(16)

に変動を及ぼす事象は,財務変動要素あるいは下位要素として事象の効果を 個別に識別するために用いられる。これは資金の源泉と使途に関する計算書

(Statements of Sources and Uses of Funds)

の作成にあたって第一義的に用いら れるテストである。

2

は,特定の人のグループまたは実体との取引の結果に基づく経済的資 源および債務に変動を及ぼす事象は,財務変動要素あるいは下位の財務変動 要素として事象の効果を個別に認識するために用いられる。これは所有主投 資および配分に関する計算書

(Statementof Owner Investment and Distribution) 

の作成にあたって第一義的に用いられるテストである。

3

に,一定の活動の結果による事象の効果は,財務諸表要素あるいは小 区分を行うための事象の効果を個別に認識するために用いられる。これは,

たとえば,セグメント報告書

(segmentreporting)

に第一義的に用いられる テストである。このテストのもう一つの利用法は実体の主たる営業活動の結 果もたらされる経済的資源および債務の変動,すなわち,収益,費用となる ものと,その他の活動の結果からもたらされる経済的資源および債務におけ る変動,すなわち,収益,費用とならないものを区別することである。

4

に,連関性は一会計期間のすべての事象の個別の効果の合計は関連す る経済的資源および債務の大きさの期首と期末における変動分に等しいこと を要求する。もし両者が等しくないとすれば,それは当該期間に発生し,未 だ認識されない追加的事象が存在することの決定的証拠である。その差額が 財務諸表の発表以前に認識されねばならない。

このテストは当該会計期間に実体によって支配ないし負担されるすべての 経済的資源および債務に適用される。たとえば,資金の源泉と運用がキャッ シュ・フロー計算書

(Statementof Cash Flows)

に表示されるが,その目的は 当該財務諸表が表示する会計年度中における資金に変動を及ぼす事象の効 果,および源泉と運用の差額は当該会計期間の期首と期末における資金の大 きさの差額に等しくなければならないということを説明することにある。つ まり,キャッシュ・フロー計算書は現金の大きさの変動と連関性を有しなけ

/1

ればならない。連関性テストは一会計期間中における資金に効果を及ぼすす

(17)

スターリング「認識論」の意味

243 

べての事象は当該期間のキャッシュ・フロー計算書上で認識されることにな る 。

最後に,実体によって支配ないし負担される経済的資源や債務の一定期間 におけるすべての純変動額は当該期間の残余持分の変動である。そうして,

残余持分の変動は包括的利益の合計および所有主の投資とそれへの配当額に 連関性を有しなければならない。

もし,それら二つの計算書に認識された事象の個別的効果の合計額が残余 持分の変動と等しくない場合,その差額は以前に認識されなかった事象の結 合した効果によると仮定され,それは包括的利益計算書

(Statementof Com‑

prehensive Income)

上に利得または損失として認識されねばならない。なぜな ら,包括的利益はそのような変動のすべてを含むものとして定義されている からである。

以上にみるごとく,事象に関する認識もまた極めて広義に規定された。経 済的資源の実質や債務,あるいは実体それ自体の変動を及ぼすすべての事象 を認識するとし,いわゆる財務変動要素はすべて資産・負債の変動要素とし て規定され,その連関性が強調されるのである。資産,負債に変動を及ぼす すべての事象の認識が包括的に規定されたのである。

(詰)

(1)(2)  Sterling

, 

R.

, 

op.  cit.

, 

p.43. Statement 01 Financial Accounting Conc

tsNo. 5

, 

para.  70. 

(3)

昂 i d . ,

p.46.  (4)

昂 i d .

p.47. 

( 5 )  

Ib

i d ., 

pp.4748.  (6)(7)

昂 i d .

p.48. 

( 8 )  

Ib

i d .

, p.49.  (9)

昂 i d .

p. 54. 

(

l

Q Ib

i d .

, p.56. 

(

l

1)

( l : ? ) 昂 i d .

p.57. 

(1~ Ib

i d .

, pp.60‑6

1 .  

参照

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