気体の学習についての一考察
森 下 浩 史*
(昭和58年10月31日受理)
A Study for the Formation of Gaseous Concepts in Chemical Education
Hirofumi MORISHITA
(Received October31,1983)
1 はじめに
昭和52年に告示された現行の学習指導要領は,小学校,中学校ではすでに全面実施され ており,高等学校理科では理科1に引続いて,今年度より選択理科(物理,化学,生物,
地学)が実施されている。今回の理科学習指導要領では,観察や実験を重視しながら,ま た,ゆとりを持たせながら,学習の一貫性を教育目標として強調しているとのことである が,物質を主に取り扱う化学教育の分野でも,それらの目標に十分な配慮がなされている のであろうか。
物質概念は化学教育における最も基本的な概念である。物質について多くの体験を得さ せた上で,それらについて微視的な粒子モデルで理解させようとする提案は多数報告され ているが,その具体的なものや技能との関連においての組織だった研究は少ない。これら の研究は,子供たちに物質概念を確実に定着させるためには,欠かせないものであると考 える。本研究では,物質概念の発達に応じて,気体についての学習が一貫性をもって,系 統的に実施されているかどうかを組織的に調べてみた。また,気体としての性質を統一的 に理解させることができるボイル・シャルルの法則等について,どの程度の認識を持って いるのか調査してみた。これらのことから気体についての具体的な学習事項を考察してみ
た。
II 気体についての学習内容
物質概念を形成させるためには,巨視的な物の見方と,微視的な物の見方とを互いに関 連を持たせながら,子供たちに学習させなければならない。その関連1生を結びつける手段
として,物質がふるまういろいろな現象を,物のもつ重さという属性での追求を通して,
学習させていく方法が一般にはとられる。また,その方法を用いるにあたり,物質にっい ての認識を直接感性的(感覚,知覚)に把えさせ,その関連性に注目させることができる
*長崎大学教育学部理科教室
現象としては,「物質の状態変化」「物質の溶解」「物質の反応」等であろう。これらの現象 についての注意深い観察を通して,物質概念についての認識が深められるものと考えられ
る1)。
気体の重さについての取扱は,小学5年で 物が燃えるときの空気の変化を調べたり,
酸素や二酸化炭素をつくって,その性質を調べたりして,物が燃えるときの空気のはたら きを理解させる という学習内容の中で 二酸化炭素は空気よりも重く,石灰水を白く濁 らせること 2)。中学1年で 気体を発生する化学変化 の中で 気体は,その種類によっ て,重さや化学的性質がそれぞれ異なること 3)として学習するようになっている。そし て,これらの気体の重さとは,あくまでも空気との相対的な重さの比較をさせる程度にと どめるとされている。しかし,ここでは気体の重さについて,厳密に定量的にその重さ(密 度)を求めさせることはできないにしても,空気との重さの比較だけにとどまらず,定性 的にでも,それぞれの気体の問での重さの比較や,固体や液体の物質との重さの比較につ いても,是非とも学習させる必要があると考える。次に,高等学校では理科1のN物質の 構造と変化 の中で 化学変化とその量的関係 について,化学量論的に固体,液体,気 体に共通するモルの概念を発展させる学習がなされる。その後に,高校化学の 物質の状 態 の中で 純物質(気体,液体,固体) ,高等物理のN物と運動 の中でN 気体分子の 運動(気体の法則,気体分子の運動) を気体についての総括として,それぞれ学習するよ うになっている。現在行なわれている高等学校での気体についての学習内容は,その学習 内容の程度に違いがあるとは言えども,旧学習指導要領に於ては,すべて中学校段階で取 り扱うようになっていた内容のものである。従って,旧課程と比較すると,現行では復数 の教科で取り扱われることから,カリキュラム上では煩雑さが増加することになった。こ の点については,物質概念を発展させるという方針を保ちながら,系統性のある学習が実 施されるように十分配慮しなければならない。
「物質の状態変化」や「物質の反応」の現象は,次に示されるような学習内容の箇所で 取り扱われるようになっている。小学4年で 水は,温度によって水蒸気や氷に変わるこ
と (状態変化)。小学5年でN 植物体が燃えるときには,酸素が使われ,二酸化炭素がで きること (反応)。黛二酸化炭素は,空気よりも重く,石灰水を白く濁らせること (反 応)。小学6年で 人は肺で酸素を取り入れ,二酸化炭素を出すこと (反応)。黛水溶液に
は気体が溶けているものがあること (溶解)。中学1年で 物質の様子 (溶解)。 加熱と 燃焼 (状態変化,反応)。 気体を発生する化学変化 (溶解,反応)。中学2年で 純物質
と混合物 (状態変化)。 大気中の水 (状態変化)。そして,高校化学でこれらの現象をま とめた教材として物質の状態 が取り扱われる。
気体に関連したその他の学習内容を次に示す。小学1年で 風によって物が動くことに 気づかせる 。小学2年で 空気の存在に気づかせる 。小学3年で 閉じ込めた空気に力
を加えたときの様子を調べ,空気には弾i生があることを理解させる 。小学4年でN 空気及
び水は,温度が変わると体積が変わるが,その程度に違いがあること 。小学5年で 炎は
気体が燃えるときにできること 。小学6年でN物は,温度によって体積は変わるが,全体
の重さは変わらないこと 。中学1年で洞じ気体は,発生の方法が異なっても同じ性質を
示すこと 。そして,中学2年でN 大気圧と風の吹き方 などがあげられる。ここでは,物
の属性の一つである体積に関連する項目が多く掲げられているように,気体を物として認
識させるために,まずこの属性に注目させる学習を展開する必要があることから自明のこ とであろう。
以上,学習指導要領の中から,気体についての学習項目を拾い上げてみたが,固体や液 体と比べてみると,気体の共通な性質についての総括的な学習が,高校化学,または高校 物理の段階まで,後方に押しやられていることに注目させられる。固体や液体については,
中学1年 物質の様子 の中で 物質の量には,体積があり,これらはいろいろな方法で 測れること , 物質の単位面積当たりの重さは,物質の種類によって決まっていること
として,物がもっ一般的な属性で明快な定義が与えられている。これに対しまだこの段階 において,気態の物体については,固体や液体と同じく物であるという認識にまで深めら れておらない。それは空気とそれぞれの気体との関係,それぞれの気体の性質や気体間の 関係,状態変化についての系統だった学習がなされてないからである。従って,中学校段 階での気体の取扱は,物質が示す巨視的な現象を観察させることが主体にならざるを得な い。物質の認識を深めるためには,巨視的な立場からと微視的な立場からの見方を育成し なければならないが,固体や液体と異なって気体については,そのような見方が不十分で あり,物質概念を形成させる上で一つの障害になっていると考えられる。その理由として は,物体としての非存在感,つまり,気体は透明で,接触感が無く,物として認識され難 いためであると考えられがちだが,それよりも,気体の重さを相対的にでも正しく認識さ せていないことの方が,大きいのではないだろうか。気体の重さを正しく子供たちに認識 させることができるならば,中学校段階でもバランスのとれた物質概念を形成させること ができるものと考えられる。
理科1では主に化学量論を取り扱うようになっており,ここではいろいろな現象につい ての説明を与えることが中心になるが,その前に,物に即した物質についての認識を深め させるのが先決であろう(特に気体では)。物質概念の一貫性のある発達を考える場合,巨 視的な物質観と微視的な物質観がある程度でき上り,それらの相互の関連性が確立した上 で,化学量論的な学習内容について取り扱われるべきである。先にも述べたように,中学 校段階までの気体の取扱は,物質概念形成において不備な点を有している。この点を補う
ためには,気体の共通な性質について十分学習させなければならない。
皿 アンケートの調査方法
(1)調査問題と解答方法
別掲の調査問題と解答用紙を配布し,各問とも5個の選択肢の中から一つを選ばせる選 択肢形式によった。解答の所要時間は約20分,解答用紙に解答をマークさせたものを回収
した。
(2)調査期間,調査対象 ○昭和57年4月
○長崎県内中学校6校(市部校,郡部校,離島校,各2校)2年生223名(男121名,女 102名),3年生898名(男481名,女417名)
IV調査問題
1−1)
1−2)
A C E
2−1)
2−2)
A C E
3−1)
3−2)
E
4−1)
ACE︶ 2 4
さか立ちした時,指1本にかかる圧力は,どの場合が一番大きいか。○をつ けよ。
また,圧力が一番小さいのは,どの場合か。□をつけよ。
10本の指でさか立ちした場合 B 8本の指でさか立ちした場合 6本の指でさか立ちした場合 D 4本の指でさか立ちした場合 2本の指でさか立ちした場合
水にもぐった時,身体にかかる圧力は,どの場合が一番大きいか。○をつけ
よ。
また,圧力が一番小さいのは,どの場合か。□をつけよ。
100mもぐった場合 B 10mもぐった場合 5mもぐった場合 D 2mもぐった場合 1mもぐった場合
水で満たされた試験管の口を指でふさぎ,つぎに,その口を水そうの水の中 に入れ,指を離して図1のようにすると,試験管の中はどのようになるか。正 しいと思うものに○をつけよ。ただし,試験管の長さは18cm。
上で用いた試験管の先端部に穴があった場合, 先端部 その試験管の中はどのようになるか。正しいと思
うものに□をつけよ。
空気がはいっている
真空である(わずかに水蒸気を含む)
水がはいっている
水が下半分にはいっており,上半分は真空であ
る(わずかに水蒸気を含む) 水(水銀)
酸素と水素からなる気体がはいっている 図1
3−1)と同様に,水銀そう中に,水銀で満たされた長さ18cmの試験管を入 れ,図1のようにした場合,この試験管の中はどのようになるか。正しいと思 うものに○をつけよ。
空気がはいっている B 真空である(わずかに水銀蒸気を含む)
水銀がはいっている D 酸素と水素からなる気体がはいっている 水銀が下半分にはいっており,上半分は真空である
長さ90cmと100cmの試験管を用いたところ図2 のようになった。これらの試験管はこのまま固定 し,水銀のはいった水そうだけを10cm上方に持ち 上げると,水銀面からの水銀柱の高さはどのよう になるか。正しいと思うものに○をつけよ。
両方の水銀柱はともに66cmになる 両方の水銀柱はともに76cmになる 両方の水銀柱はともに86cmになる
片方は66cm,他方は76cmになる 水銀 片方は76cm,他方は86cmになる 図2
A B C D
A B C D E
試験管
m→翫 7
5)圧力の単位として適当なものはどれか。○をつけよ。
A cm B cm2 C cm3 D グラム重/cm2 E グラム重/cm3
6−1)海面下100mの所から空気のあわを1個放出した。そのあわの大きさはどこで 一番大きくなるか。正しいと思うものに○をつけよ。ただし,水温はどこでも 一定とする。
6−2) ゴムまりを海水中に沈めた場合,このゴムまりはどこで一番大きくなるか。
正しいと思うものに□をつけよ。ただし,水温はどこでも一定とする。
A 海面下1m B 海面下2m C 海面下5m D 海面下10m E 海面下100m
7−1)ボイルの法則PV=kを示すグラフはどれか。正しいと思うものに○をつけ よ。ただし,Pは圧力,Vは体積,kは定数を表わす。横軸にP,縦軸にVを とるものとする。
こ
7−2)ボイルの法則を正しく記述したものはどれか。正しいと思うものに○をっけ よ。
A 圧力が増せば体積は大きくなる B 圧力が増せば体積は小さくなる C 温度が一定のとき,圧力が増せば体積は大きくなる
D 温度が一定のとき,圧力が増せば体積は小さくなる
E 温度が一定のとき,圧力も体積もともに一定の値をとり,圧力の変化も体積 の変化もできない
8−1) シャルルの法則V/丁二k を示すグラフはどれか。正しいと思うものに○を つけよ。ただし,Tは温度,Vは体積,k〆は定数を表わす。横軸にT,縦軸にVを とるものとする。
8−2) シャルルの法則を正しく記述したものはどれか。正しいと思うものに○をっ けよ。
A 温度が高くなれば体積は増す B 温度が高くなれば体積は減る C 圧力が一定のとき,温度が高くなれば体積は増す
D 圧力が一定のとき,温度が高くなれば体積は減る
E 圧力が一定のとき,温度も体積もともに一定の値をとり,温度の変化も体積
の変化もできない。
9)