平成
30年度(
2018年度) 学位論文(修士)
超小型衛星との相性の良い多用途の推進系 に関する研究開発
Research and Development of Microsatellite-Friendly Multi-Purpose (MFMP) Propulsion System
首都大学東京大学院
システムデザイン研究科 システムデザイン専攻 航空宇宙システム工学域 博士前期課程
学修番号
17891515氏名 小林 悠也
指導教員 佐原 宏典
教授平成
31年(
2019年)
1月
25日
摘要
1960 年代から国家主導のもと活発に続けられてきた宇宙開発は,2000 年代に入るとその担い手に民 間企業や大学などの教育機関が主体となって加わり始めた.これらの民間団体によって,技術実証や教 育ツールとして超小型衛星と呼ばれる100 kg以下程度の人工衛星の開発が盛んに行われ,現在において は,超小型衛星を開発し打上げるという技術実証の段階から超小型衛星を使った深宇宙探査やコンステ レーション構築,デブリ除去などの高度なミッションを目的とした段階へ発展し,宇宙開発の形態は宇 宙産業ビジネスに占める割合が高くなりつつある.このようなミッションの高度化に伴い,超小型衛星 が自ら姿勢制御や軌道変更を行う必要性が生じ,そのバス機能として推進系を搭載したいとの要求が高 まっている.しかし,従来から化学推進系として一般に用いられてきたヒドラジンは,人体に対する毒 性の高さから低コスト開発が望まれる超小型衛星にとっては扱いにくい推進剤であるため,ヒドラジン に代わる低毒な推進剤を用いた推進系の開発が世界各国で活発に行われている.
我々の研究チームにおいても,4つの研究ポリシー(Safety First, Border Free, Effetive COTS, Easy Scalbirity)のもと,超小型衛星と相性がよく,多用途な推進系(Microsatellite-Friendly Multi-Purpose
Propulsion System, MFMP-PROP)を提案し,60wt%過酸化水素水を推進剤とした一液式推進系およびエ
タノールを燃料として加えた二液式推進系の研究開発を進めてきた.一液式推進系については,既に 2 機の超小型衛星に搭載され,軌道上実証を果たしており,現在は応答性の改善やRCSとしての性能向上 に努めている段階である.二液式推進系は,安定した作動に未だ成功しておらず,主に点火機構の改良 若しくは再検討が必要な状況である.
本研究では,MFMP-PROPの早期実現を目指し,一液式推進系および二液式推進系における現状の技 術課題に対してそれぞれ解決に向けた取り組みを実施した.一液式推進系では,これまでにRCSとして 重要なデータである最小インパルスビットの取得ができていなかったため,パルス作動によるデータ取 得を行い,現状システムで実現可能な最小インパルスビットとその時の遅れ時間について評価を行った.
また,定常作動時の供給圧力の違いによる推進性能への影響を把握し,その応答性についても評価を行 った.二液式推進系については,従来までの点火方法であったスパークプラグを用いた方式を取りやめ,
新たな点火方法として燃焼室予熱による点火を採用し,その実現性を検証した.その結果,安定的な点 火に成功し,スラスタの定常作動を確認できた.引き続き基本性能の取得を行い,予熱温度と混合比に よるスラスタ性のへの影響について評価を行い,今後の課題を抽出した.
i
目次
第 1 章 序論 1
1. 1 世界の宇宙開発の動向 ...1
1. 2 宇宙機用化学推進系の現状 ...3
1. 3 低毒性推進剤を用いた推進系の開発 ...3
1. 3. 1 ADN系推進剤 ...4
1. 3. 2 HAN系推進剤 ...5
1. 3. 3 過酸化水素水 ...7
1. 4 超小型衛星用化学推進系の現状 ...8
1. 5 60wt%過酸化水素水を用いた推進系 ... 11
1. 5. 1 スラスタの作動原理 ... 11
1. 5. 2 研究開発のポリシー ...12
1. 5. 3 60wt%過酸化水素水の超小型衛星への適合性 ...13
1. 5. 4 MFMP-Propulsion Systemの提案...15
1. 6 現在の開発状況と技術課題 ...17
1. 6. 1 一液式推進系 ...17
1. 6. 2 二液式推進系 ...18
1. 7 本研究の目的 ...19
第 2 章 実験装置と計測装置 20 2. 1 実験装置 ...20
2. 1. 1 装置の基本設計 ...20
2. 1. 2 本研究における装置構成 ...21
2. 1. 3 推進剤供給システムと配管機器...22
2. 1. 4 電源装置と配管制御システム ...25
2. 2 測定機器と計測システム ...26
2. 2. 1 測定機器 ...26
2. 2. 2 計測システム ...29
第 3 章 一液式推進系の性能評価 31 3. 1 実験装置構成 ...31
3. 1. 1 一液式スラスタ ...31
3. 1. 2 推進剤配管系統 ...32
3. 2 定常作動実験 ...32
3. 2. 1 実験方法および作動条件 ...32
3. 2. 2 評価方法 ...33
3. 2. 3 結果と考察 ...35
3. 3 パルス作動実験 ...39
3. 3. 1 実験方法および作動条件 ...39
3. 3. 2 評価方法 ...40
3. 3. 3 結果と考察 ...41
ii
第 4 章 二液式推進系の点火と基本性能の取得 44
4. 1 点火方法の検討 ...44
4. 2 燃焼室予熱による点火実現性の検証 ...46
4. 2. 1 実験方法と装置構成 ...46
4. 2. 2 実験条件 ...47
4. 2. 3 評価方法 ...48
4. 2. 4 結果と考察 ...49
4. 3 最低点火予熱温度の探索 ...55
4. 3. 1 実験方法と装置構成 ...55
4. 3. 2 実験条件 ...56
4. 3. 3 評価方法 ...56
4. 3. 4 結果と考察 ...57
4. 4 予熱温度によるスラスタ性能への影響評価 ...62
4. 4. 1 実験方法と装置構成 ...62
4. 4. 2 実験条件 ...62
4. 4. 3 評価方法 ...62
4. 4. 4 結果と考察 ...63
4. 5 混合比による推進性能への影響 ...65
4. 5. 1 実験方法と装置構成 ...65
4. 5. 2 実験条件 ...65
4. 5. 3 評価方法 ...65
4. 5. 4 結果と考察 ...66
第 5 章 結論と今後の課題 69 5. 1 結論 ...69
5. 2 今後の課題 ...69
参考文献 71
iii
図目次
図 1.1 SpaceX社のFalcon 9ロケット ... 1
図 1.2 Blue Orign社のNew Shepard ... 1
図 1.3 東京大学が開発した1U CubeSat「XI-IV」 ... 2
図 1.4 50 cm立方サイズのほどよし1号機 ... 2
図 1.5 Axelspaceが進める全地球観測網の構築に用いられる100 kg級衛星「GRUS」 ... 2
図 1.6 Rocket Labが開発した小型衛星用軌道投入機「Electron」 ... 2
図 1.7 ECAPS 1 N HPGP Thruster ... 4
図 1.8 ECAPS HPGP Module system ... 4
図 1.9 Aerojet GR-1 Protype model ... 5
図 1.10 Aerojet GR-22 Protype model ... 5
図 1.11 IHI Aerospace 4 N Thruster ... 6
図 1.12 IHI Aerospace MTH-2 Thruster ... 6
図 1.13 RAPIS-1に搭載されたGPRCS-FM ... 6
図 1.14 GPRCSのスラスタ(QTモデル)... 6
図 1.15 超小型衛星用推進系への適用が進められている推進剤と主な拠点 ... 9
図 1.16 60wt%H2O2を用いた一液式スラスタの作動原理 ...11
図 1.17 白金メタルハニカム触媒 外観...11
図 1.18 噴射器の外観とスプレーパターン ...11
図 1.19 60wt%H2O2とEthanolを用いた二液式スラスタの作動原理 ... 12
図 1.20 過酸化水素濃度による蒸発潜熱/分解熱の関係 ... 13
図 1.21 代表的な推進剤の急性毒性と密度比推力の比較 ... 13
図 1.22 ほどよし1号機への60wt%H2O2充填作業時の様子 ... 13
図 1.23 水星探査機「Bepi-Colombo」へのヒドラジン充填作業時の様子 ... 13
図 1.24 各国の射場および60wt%H2O2の入手可能拠点 ... 14
図 1.25 MFMP-PROPのシステム系統図 ... 15
図 1.26 モジュールの組み合わせによるMFMP-Propulsionの構成 ... 16
図 1.27 MFMP-PROP ミッションマーク ... 16
図 1.28 ほどよし3号機に搭載された一液式推進系 外観 ... 17
図 1.29 二液式スラスタ:BP-04の概要 ... 18
図 1.30 BP-04作動時の様子 ... 18
図 1.31 BP-04作動時の燃焼室温度・圧力履歴 ... 18
図 2.1 ベースフレーム外観 ... 20
図 2.2 本研究におけるユニット配置と外観図 ... 21
図 2.3 推進剤供給配管 系統図 ... 22
図 2.4 推進剤供給配管 外観図 ... 22
図 2.5 推進剤タンク 304L-HDF-400 外観図 ... 23
図 2.6 逆止弁 SS-2C-1 外観図 ... 23
図 2.7 フィルター SS-2F-2 外観図 ... 23
図 2.8 二方向電磁弁 USB3-6-1-M-DC12V ... 24
図 2.9 三方向電磁弁 AG31-01-1-N3AB-DC12V ... 24
図 2.10 直流安定化電源 KX-100L(左),KX-210L(右) 外観図 ... 25
iv
図 2.11 ファンクション・ジェネレータ FGX-2220 外観図... 25
図 2.12 電源供給系統図 ... 26
図 2.13 K型熱電対 外観図... 26
図 2.14 圧力センサ AP-V80シリーズ 外観図 ... 27
図 2.15 流量センサ FD-SS02 外観図 ... 27
図 2.16 NR-500シリーズ 外観図 ... 29
図 2.17 計測システム系統図および各測定機器のチャンネル割当 ... 30
図 3.1 一液式スラスタ:スラスタ概要 ... 31
図 3.2 一液式スラスタ:スラスタ周辺 外観 ... 31
図 3.3 一液式スラスタ:実験系統図 ... 32
図 3.4 一液式スラスタ:作動シークエンス... 33
図 3.5 定常作動時のチャンバ内圧力履歴とバルブ開閉タイミングの代表例 ... 33
図 3.6 定常作動実験:総推進剤使用量の定常区間におけるチャンバ内圧力平均値への影響 ... 35
図 3.7 定常作動実験:総推進剤使用量の定常区間におけるチャンバ内温度への影響 ... 35
図 3.8 定常作動実験:総推進剤使用量の定常区間における推進剤流量への影響 ... 36
図 3.9 定常作動実験:供給圧力の立上り時間への影響 ... 37
図 3.10 定常作動実験:供給圧力の立上り時間Aへの影響 ... 37
図 3.11 定常作動実験:供給圧力の立上り時間Bへの影響 ... 37
図 3.12 定常作動実験:供給圧力の定常区間における推力および比推力平均値への影響 ... 38
図 3.13 一液式スラスタ:作動時の様子... 38
図 3.14 パルス作動時のバルブ電圧履歴... 40
図 3.15 パルス作動時のチャンバ内圧力履歴およびバルブ開閉タイミングの代表例 ... 40
図 3.16 パルス作動実験:チャンバ圧力履歴 #2 供給圧力0.6 MPaA , 2.00 s On / 3.00 s Off cycle . 41 図 3.17 パルス作動実験:チャンバ圧力履歴 #3 供給圧力0.6 MPaA, 1.00 s On / 4.00 s Off cycle .. 41
図 3.18 パルス作動実験:チャンバ圧力履歴 #4 供給圧力0.6 MPaA, 0.50 s On / 4.50 s Off cycle .. 41
図 3.19 パルス作動実験:チャンバ圧力履歴 #6 供給圧力0.6 MPaA, 0.25 s On / 4.75 s Off cycle .. 41
図 3.20 パルス作動実験:チャンバ圧力履歴 #8 供給圧力0.6 MPaA, 0.20 s On / 4.80 s Off cycle .. 41
図 3.21 パルス作動実験:チャンバ圧力履歴 #7 供給圧力0.6 MPaA, 0.1 s On / 4.90 s Off cycle .... 41
図 3.22 パルス作動実験:On-time幅のインパルスビットの大きさへの影響... 42
図 3.23 パルス作動実験:On-time幅によるCentroid time delayへの影響 ... 43
図 3.24 パルス作動実験:On-time幅による1パルスごとの推進剤使用量への影響 ... 43
図 4.1 二液式スラスタの点火方式(左図:従来のプラグ挿入方式,右図:燃焼室予熱方式) ... 45
図 4.2 二液式スラスタ:予熱点火検証実験 系統図 ... 46
図 4.3 予熱点火検証実験:スラスタ周り 外観 ... 46
図 4.4 二液式スラスタ:作動シークエンス... 47
図 4.5 60wt%H2O2とエタノールの混合比の違いによる断熱火炎温度および比推力の計算結果(凍 結流,燃焼室圧力0.4 MPaA,ノズル開口比100) ... 48
図 4.6 燃焼室予熱点火検証実験:#1供給圧力0.5 MPaA,混合比5,使用触媒No.4 ... 49
図 4.7 燃焼室予熱点火検証実験:#2供給圧力0.5 MPaA,混合比5,使用触媒No.4 ... 49
図 4.8 燃焼室予熱点火検証実験:#3供給圧力0.5 MPaA,混合比5,使用触媒No.4 ... 50
図 4.9 燃焼室予熱点火検証実験:作動時の様子(上:実験番号#1 下:実験番号#2) ... 50
図 4.10 燃焼室予熱点火検証実験:#4供給圧力0.6 MPaA,混合比5,使用触媒No.4 ... 51
図 4.11 燃焼室予熱点火検証実験:#6供給圧力0.6 MPaA,混合比5,使用触媒No.4 ... 51
図 4.12 燃焼室予熱点火検証実験:#7供給圧力0.6 MPaA,混合比5,使用触媒No.4 ... 52
図 4.13 燃焼室予熱点火検証実験:作動時の様子(実験番号#7) ... 52
図 4.14 燃焼室予熱点火検証実験:定常区間における供給圧力の燃焼室圧力への影響 ... 53
v
図 4.15 燃焼室予熱点火検証実験:定常区間における供給圧力の燃焼室温度への影響 ... 53
図 4.16 燃焼室予熱点火検証実験:定常区間における供給圧力の推力への影響 ... 54
図 4.17 燃焼室予熱点火検証実験:定常区間における供給圧力の比推力への影響 ... 54
図 4.18 燃焼室予熱点火検証実験:定常区間における供給圧力のc*効率への影響 ... 54
図 4.19 最低点火予熱温度の探索実験:改修後のスラスタ計測ポート 断面図 ... 55
図 4.20 最低点火予熱温度の探索実験:スラスタ周り 外観 ... 55
図 4.21 最低点火予熱温度探索実験:総推進剤 使用量の1作動当りの推進剤使用量への影響 . 57 図 4.22 最低点火予熱温度探索実験:総推進剤使用量の定常区間における燃焼室圧力平均値への影 響 ... 57
図 4.23 最低点火予熱温度探索実験:#1 燃焼室予熱温度200 °C,混合比5,使用触媒No.12 ... 58
図 4.24 最低点火予熱温度探索実験:#2 燃焼室予熱温度250 °C,混合比5,使用触媒No.12 ... 58
図 4.25 最低点火予熱温度探索実験:#4 燃焼室予熱温度300 °C,混合比5,使用触媒No.12 ... 58
図 4.26 最低点火予熱温度探索実験:燃焼室予熱温度の定常区間における燃焼室温度平均値への影 響 ... 59
図 4.27 最低点火予熱温度探索実験:燃焼室予熱温度の定常区間における燃焼室圧力平均値への影 響 ... 59
図 4.28 最低点火予熱温度探索実験:#14 燃焼室予熱温度260 °C,混合比5,使用触媒No.12 ... 60
図 4.29 最低点火予熱温度探索実験:#13 燃焼室予熱温度270 °C,混合比5,使用触媒No.12 ... 60
図 4.30 最低点火予熱温度探索実験:#9 燃焼室予熱温度280 °C,混合比5,使用触媒No.12 ... 61
図 4.31 最低点火予熱温度探索実験:#8 燃焼室予熱温度290 °C,混合比5,使用触媒No.12 ... 61
図 4.32 予熱温度のスラスタ性能影響評価実験:総推進剤使用量の1作動当りの推進剤使用量への 影響 ... 63
図 4.33 予熱温度のスラスタ性能影響評価実験:総推進剤使用量の定常区間における燃焼室圧力平 均値への影響 ... 63
図 4.34 予熱温度のスラスタ性能影響評価実験:失火した場合の燃焼室温度・圧力履歴(#16 燃焼 室予熱温度310 °C,混合比5,使用触媒No.13)... 63
図 4.35 予熱温度のスラスタ性能影響評価実験:予熱温度の定常区間における燃焼室温度平均値へ の影響 ... 64
図 4.36 予熱温度のスラスタ性能影響評価実験:予熱温度の定常区間における燃焼室圧力平均値へ の影響 ... 64
図 4.37 予熱温度のスラスタ性能影響評価実験:予熱温度の定常区間における推力平均値への影響 ... 64
図 4.38 予熱温度のスラスタ性能影響評価実験:予熱温度の定常区間における比推力平均値への影 響 ... 64
図 4.39 混合比の推進性能影響評価実験:総推進剤使用量の定常区間における燃焼室温度平均値へ の影響 ... 66
図 4.40 混合比の推進性能影響評価実験:総推進剤使用量の定常区間における燃焼室圧力平均値へ の影響 ... 66
図 4.41 混合比の推進性能影響評価実験:混合比の定常区間における燃焼室温度平均値への影響 ... 67
図 4.42 混合比の推進性能影響評価実験:混合比の定常区間における燃焼室圧力平均値への影響 ... 67
図 4.43 混合比の推進性能影響評価実験:混合比の定常区間における理論推力平均値への影響 . 67 図 4.44 混合比の推進性能影響評価実験:混合比の定常区間における理論比推力平均値への影響 ... 67
図 4.45 混合比の推進性能影響評価実験:火炎を噴出している様子(混合比7) ... 68
vi
表目次
表 1.1 超小型衛星から推進系へのシステム要求項目 ... 9
表 1.2 超小型衛星への適用が進められている代表的な推進剤の諸元 ... 10
表 1.3 ほどよし3号機に搭載された一液式推進系の諸元 ... 17
表 1.4 MFMP-PROP 開発状況(TRL) ... 19
表 2.1 装置に使用したアルミフレームの諸元 ... 20
表 2.2 本研究におけるユニット構成 ... 21
表 2.3 推進剤タンク 304L-HDF-400 諸元 ... 23
表 2.4 逆止弁 SS-2C-1 諸元 ... 23
表 2.5 フィルター SS-2F-2 諸元 ... 23
表 2.6 二方向電磁弁USB3-1-M-DC12V 諸元 ... 24
表 2.7 三方向電磁弁 AG31-01-1-N3AB-DC12V 諸元 ... 24
表 2.8 高砂製作所 KX-100L,KX-210L 諸元 ... 25
表 2.9 ファンクション・ジェネレータ FGX-2220 諸元 ... 25
表 2.10 K型熱電対 諸元 ... 26
表 2.11 センサヘッド AP-13S 諸元 ... 27
表 2.12 アンプユニット AP-80V 諸元 ... 27
表 2.13 流量センサ FD-SS02 諸元 ... 28
表 2.14 インターフェースユニット NR-500 諸元 ... 29
表 2.15 高速アナログ計測ユニット NR-HA08 諸元 ... 29
表 2.16 温度・電圧計測ユニット NR-TH08 諸元 ... 29
表 2.17 ひずみ計測ユニット NR-ST04 諸元 ... 30
表 3.1 一液式スラスタ:定常作動時性能取得実験 作動条件 ... 32
表 3.2 定常作動実験:各測定値の定常区間における平均値および推進性能 ... 35
表 3.3 一液式スラスタ:定常作動時性能取得実験 作動条件 ... 39
表 3.4 パルス作動実験:On-timeによるインパルスビットおよびCTDの測定結果 ... 43
表 4.1 二液式スラスタ:予熱点火検証実験 作動条件 ... 47
表 4.2 燃焼室予熱点火検証実験:供給圧力 0.5 MPaA での定常区間における計測値および推進性 能 ... 50
表 4.3 燃焼室予熱点火検証実験:供給圧力 0.6 MPaA での定常区間における計測値および推進性 能 ... 51
表 4.4 燃焼室予熱点火検証実験:供給圧力 0.7 MPaA での定常区間における計測値および推進性 能 ... 52
表 4.5 二液式スラスタ:最低点火予熱温度の探索:作動条件 ... 56
表 4.6 二液式スラスタ:予熱温度のスラスタ性能影響評価実験 作動条件 ... 62
表 4.7 二液式スラスタ:混合比の推進性能影響評価実験 作動条件 ... 65
1
第 1 章 序論
第1章では,まず世界のこれまでの宇宙開発の動向から現在の宇宙開発の状況と超小型衛星登場まで の経緯を紹介する.その後,これまでの宇宙機に搭載されてきた推進系の問題点およびこれらの解決に 向けて開発が進められている低毒性推進剤について述べ,超小型衛星に適した推進系に求められる要求 について説明した後,本研究の概要と目的を述べる.
1. 1
世界の宇宙開発の動向
これまでの宇宙開発は国家が開発の主体となって行われてきた.これには,冷戦をはじめとした世界 情勢による影響で国家間競争に宇宙開発が利用されたという背景が大きく影響している.それに加えて,
宇宙開発には多くの技術的課題とそれを乗り越えるための莫大な予算と時間が必要であり,民間企業に とって成果に見合う利益がビジネスの観点から見いだせなかったという側面があった.しかし,2000年 代に入ると,このような宇宙開発の流れは大きく変わりつつあり,民間による宇宙開発が加速すること で宇宙産業が新たなビジネスとして大きく成長し始めている.
1960年代に米国が人類初の月面着陸を果たしてからは,それまでに培われた知見等を活かし,少しず つ民間企業による宇宙開発が開始され,1980年代の第一次宇宙ベンチャーブームと呼ばれる動きにつな がった.Orbital Sciences(同社は2015年2月にATKと合併してOrbital ATKを設立1),さらに2018年6
月にNorthrop Grummanに買収され,現在はNorthrop Grumman Innovation Systemsとして事業を継続して
いる2))はこの時期に創業された衛星の製造や打上げを行う民間の航空宇宙企業である.
1990年代に入るとソ連崩壊に伴う冷戦終結を受け,政治的にも経済的にも宇宙開発を取り巻く環境は 変化した.これまで主流だった衛星の大型化は,コストの増大と開発期間の長期化が問題視され,見直 されることとなった 3,4).同時に,IT 技術が大きく進歩し,これらの技術が宇宙開発においても有用で あることが認識された始めると,小型衛星でも大型衛星に引けを取らない性能を発揮することができる ようになり,開発コストを下げるべく,衛星の小型化が加速していった.この流れは,宇宙開発への民 間企業参入をより後押しすることになった.1990年代前半からは,大学での技術実証や開発を通じた実 践的な工学教育を目的として小型衛星の開発が開始された5).同時期,このような動きに敏感に反応し,
民間宇宙産業の発展を見込んだ一部の起業家は,2000年代初めに軌道上への物資輸送を生業とする宇宙 ベンチャーを相次いで立ち上げていった(第二次宇宙ベンチャーブーム).このときに創業したSpaceX
(Space Exploration Technologies)やBlue Originは現在までに独自にそれぞれ大型ロケットや有人カプセ
ルの開発(図 1.1および図 1.2参照)を進めており,将来の宇宙輸送産業を担う大企業に成長しつつあ る.
図 1.1 SpaceX社のFalcon 9ロケット6) 図 1.2 Blue Orign社のNew Shepard 7)
2
2000 年代に入ると,大学や企業によって技術実証や工学教育を目的に開発されてきた小型の衛星は,
超小型衛星(質量100 kg以下の小型衛星)と呼ばれるようになり,10 × 10 × 10 cm 程度の1U CubeSat
(図 1.3参照)や50 cm立方程度の衛星(図 1.4参照)などサイズや質量によって分類され8,9),大型ロ ケットの主衛星に相乗りするピギーバック方式によって打上げられた.超小型衛星は低コストかつ短期 間で開発ができるという特徴があるが,このような衛星でも実際に軌道上で動作できることが示され,
これが民間企業などの宇宙開発参入障壁を大きく下げることに繋がり,超小型衛星の開発が民間企業や 大学を中心にさらに加速していった.
図 1.3 東京大学が開発した1U CubeSat「XI-
IV」8)
図 1.4 50 cm立方サイズのほどよし1号機10)
2010年代に入ると,超小型衛星は基本的な技術実証の段階を脱し,深宇宙探査や地球観測,デブリ除 去など,実用的で高度なミッションを担った衛星の開発が開始され,宇宙利用のツールとして活用され 始めた.これを新たなビジネスチャンスと捉え,現在までに超小型衛星を使った軌道上サービス(図 1.5 参照)やこれらの超小型衛星を主衛星として打上げる宇宙輸送サービス(図 1.6参照)を軸に多くのベ ンチャー企業が立上り,多様なビジネスモデルを展開しつつある(第三次宇宙ベンチャーブーム).
このような背景のもと,近年の宇宙開発の担い手は国家主体のものだけでなく,新たに民間企業が加 わり宇宙産業ビジネスの発展が進んでおり,宇宙開発の様相は大きく移り変わりつつある.
図 1.5 Axelspaceが進める全地球観測網の構築
に用いられる100 kg級衛星「GRUS」11)
図 1.6 Rocket Labが開発した小型衛星用軌道投
入機「Electron」12)
3
1. 2
宇宙機用化学推進系の現状
地球観測衛星や惑星探査機,ISS(International Space Station)物資輸送機など多くの宇宙機には,軌道 の変更や姿勢制御用(Reaction Control System, RCS)のアクチュエータとして化学推進剤を用いた小型の ロケットエンジン(以下,スラスタ)が搭載されている.このようなRCSスラスタの推力レベルは0.1
Nから500 N程度まで幅広いラインナップがあり13,37),宇宙機のサイズやミッションによって使い分け
られている.これらの宇宙機用スラスタは,一種類の推進剤のみを用いた一液式スラスタと二種類の推 進剤を用いた二液式スラスタの2つに大別することができる14).そして,宇宙機用スラスタの推進剤に は,1949年に登場しこれまでの数多くの軌道上実績と長い研究開発の成果により高い信頼性を示すヒド ラジン系推進剤が一般的に用いられてきた15,16).
一液式スラスタでは一種類の推進剤を触媒などの反応促進機構を用いて分解し,このときに生じる熱 エネルギーを使って推進力を得ている.ヒドラジンを用いた一液式スラスタの場合は,白金やイリジウ ムの固体触媒が用いられており,その代表的な触媒としてShell 405(2002年に製造が中止された)や現 在も一般的に用いられているS405が挙げられる17-19). 二液式スラスタでは,燃料と酸化剤を別々に貯 蔵し,点火機構を用いることで燃焼させて推進力を得ている.一液式スラスタよりも多くの熱エネルギ ーを取り出すことができるため,推進性能を向上させることができる.ヒドラジンを用いた二液式スラ スタでは,主にヒドラジンの液体有機化合物であるモノメチルヒドラジン(Mono-methyl hydrazine, MMH)
を燃料とし,四酸化二窒素(Nitrogen tetra-oxide, NTO)を酸化剤とする場合が多く,この組み合わせを 用いた推進剤は自己着火性を持つために点火機構が不要となる.そのため,ヒドラジンを用いた二液式 スラスタは作動時の信頼性が高く,これまでに多くの宇宙機に搭載された実績を持つ20).
しかし,ヒドラジン系推進剤には急性毒性があり,飲み込みや蒸気の吸い込み,長時間の皮膚への接 触は人体に有害な影響を与えるほか,ラットを使った経口投与試験において発癌性があることも報告さ
れている21,22).これにより,開発段階から宇宙機への搭載に至る全行程においてヒドラジン系推進剤の
取扱い時にはSelf-Contained Atmospheric Protective Ensemble (SCAPE)スーツを着用し23,24),輸送時やタン クへの推進剤充填時には専用の装置を用いる必要がある 25). そのため,ヒドラジン推進系の運用にお いては,人体への安全を担保するために多額のコストがかかるといった問題を抱えている23,25).また,
このような毒性から2011年には欧州における化学物質の製造,使用についての法規制であるREACH規 制(Registration, Evaluation, Authorisation, Restriction and Chemicals, REACH)において,使用に際してESA 当局に認可が必要となる高懸念物質(Substance of very high concern, SVHC)の候補リストに登録された
26).これにより,今後,推進剤としてヒドラジンの使用が難しくなることが懸念されており,ESA
(European Space Agency)およびNASA(National Aeronautics and Space Administration)は,ヒドラジン の代替となる推進剤の選定をより加速させている27).
1. 3
低毒性推進剤を用いた推進系の開発
ヒドラジン系推進剤は高い推進性能と信頼性を持つ反面,人体に対して高い毒性を持っており,多額 の運用コストがかかる.この問題に対し,ヒドラジンと比べてより人体に対する毒性が低く,より安全 で運用コストを下げることが可能な低毒性一液式推進剤の開発が1970年代から進められてきた20).本 節では,これまでに活発に開発が進められてきた代表的な低毒性推進剤の歴史とその開発状況について 述べる.
4
1. 3. 1 ADN系推進剤
ADN(Ammonium Dinitramide, NH4N(NO2)2 )は,1970年代にモスクワにあるZelinsky Institute of Organic
Chemistryで最初に合成された.その後もロシアにて ADN系推進剤の生産が開始され,Topol-M大陸間
弾道ミサイルで使用された実績がある 28).1997 年からは Swedish Space Corporation(SSC),Defence Research Establishment(FOA)およびChalmers University of Technologyによって宇宙機用推進剤としての 研究開発が開始された29).2002年までにSSCによってLMP-101X(ADN / Glycerol / Water),LMP-102
(ADN / Glycine / Water),LMP-103X(ADN / Methanol / Water)の3種類のADN系推進剤が開発され,
スラスタによる作動試験が行われた 30).その後もさらに改良が行われ,LMP-103S(ADN = 63.0 wt% / Methanol = 18.4 wt% / Ammonia = 4.6 wt% / Water = 14.0 wt%)が開発された31).2000年には,ADN系推 進剤を用いたスラスタの技術開発と市場開拓のため,SSC と Volvo Aero Corporation によって ECAPS
(2017年7月に宇宙システム機器を開発・販売するBradford社に買収され,Bradford ECAPSとなって いる)が設立された32).ECAPSはSSCと共にHPGP(High Performance Green Propellant)プログラムを 立ち上げ,LMP-103Sを推進剤とした1 N級スラスタ(1 N HPGP Thruster, 図 1.7参照)をSSCが開発 を進めていた衛星であるPRISMAに搭載した32).PRISMAは2010年にDnepr-1によって打上げられ,
軌道上で親衛星 Mango と子衛星 Tango に分離しフォーメーションフライトを行ったが,このときにヒ ドラジンスラスタと1 N HPGP Thrusterの並行運用を行い,ADN系スラスタの宇宙実証に成功した33-35).
1 N HPGPスラスタの作動には触媒を340~360 °Cまで予熱する必要があることが報告されている36,37).
2012年には,Skybox Imaging(後にTerra Bellaに社名変更,2017年12月からはPlanet Labの傘下)の地 球観測衛星SkyBoxの推進系として採用された38).Skybox Imagingは,26機の100 kg級超小型衛星によ るコンステレーションによって高頻度かつ高分解能な衛星画像の提供を計画しており,2013年から順次 打上げが開始されている39).ECAPSの推進系の搭載は3機目の衛星であるSkyBox-3からで,1機あた
り4台の1 N HPGP Thruster が搭載されており,2016年から打上げが開始された39).2017年にはSkyBox-
8から-13がOrbital ATKのMinotaur-Cによって同時に打上げられ,SkyBox-3から-13の全ての衛星にお
いて軌道上でのノミナル運用(打上げ後の位相遷移,∆V マヌーバ,軌道補償)に成功している 39-41).
SkyBoxシリーズの打上げは4カ国の射場から行われており,LMP-103Sは既に航空機による輸送・輸出
実績も有する推進剤となっている41,42).ECAPSはSkyBoxへの搭載に向けて既に超小型衛星向けのシス テムのモジュール化(図 1.8参照)を完了しており39),販売体制も整えつつある.PRISMAやSkyBox での実績により既にいくつかの低軌道/静止軌道ミッションで使用されることが決まっており,そこには 欧州だけでなく米国や日本で計画されているものも含まれている 41).ECAPS は搭載可能な衛星の幅を 広げるため,CubeSat向けの100 mN級スラスタから100 kg級衛星向けの220 N級スラスタまでの推力 レンジでの製品化を目指しており,VACCO,Orbital ATK,Airbus Defence and Space,GSFC(NASA Goddard
Space Flight Center)と協力して開発を進めている37,41,43,44).また,欧州では大学・研究機関連合によって
一液式スラスタをヒドラジンから ADN 系推進剤に置換すること目指した RHEFORM(Replacement of hydrazine for orbital and launcher propulsion systems)プログラムが2015年から2017年にかけて実施され,
LMP-103Sと燃料成分をMethanolからMMF(Monomethylformamide)に変更したFLP-106をベースとし
た20 N級および200 N級スラスタの実用化に向けた開発が精力的に行われた27,45-47).現在も新規触媒
や3D造形スラスタなどの開発が進行中である.
図 1.7 ECAPS 1 N HPGP Thruster39) 図 1.8 ECAPS HPGP Module system39)
5
1. 3. 2 HAN系推進剤
HAN(Hydroxyl Ammonium Nitrate, NH3OHNO3)を用いた推進剤は,1980年代にハイブリッドロケッ
トの酸化剤として検討されていた48).また,1980年代後半には,U. S. Army Ballistics Research Laboratories によって砲弾用の推進剤(Liquid Gun Propellant, LGP)として開発が進められ,燃料として TEAN
(Triethanol Ammonium Nitrate)を用いたLGP1846およびLGP1845が開発された49).HANは1990年代 に入ると,これらの推進剤をベースに航空宇宙分野への転用に向けてU. S. Air ForceやNASAなどを中 心に開発が開始された50).1995年には,ヒドラジンに代わる一液式推進剤としてHAN系推進剤の実用 的な研究開発を行うため,U.S. Air Force, U.S. Navy, NASA, Missile Defense Agency, Atlantic Research Corporation, General Dynamics, AMPAC, Aerojet RocketdyneのグループによってIHPRPT(Integrated High
Payoff Rocket Prupulsion Technology)プログラムの一環として研究開発が開始された51-53).IHPRPTプロ
グラムでは,HAN系推進剤の触媒作動を目指してPACなどでLCH-210, LCH-227等の触媒の開発が活 発に進められた50).1998年には,U.S. Air Force Laboratory Research(AFRL)によって,HAN系推進剤
であるRK-315-E, RK-618-A, RK-315-Aが開発された54).AFRLはこの推進剤を基にして,燃料にHEAN
(Hydroxyethylhydrazinium Nitrate)を用いたAF-M315E(HAN = 44.5 wt% / HEAN = 44.5 wt% / Water =
11.0 wt%)を1998年頃に開発し,2001年に報告された52,55,56).2012年には,AF-M315E向け触媒である
LCH-237,LCH-239,LCH-240,およびLCH-241が開発され,1 N級ヒドラジンスラスタ(Aerojet製 MR-
103G)とLCH-241を用いた燃焼試験において11.5時間の作動に成功したことが報告された55).この結
果を受け,HPRPTプログラムでは,Phase-IIとしてAF-M315Eを用いたスラスタの宇宙実証を行うミッ ションを立案し,GPIM(Green Propellant Infusion Mission)が開始された44,57,58).AF-M315Eのスラスタ
開発は Aerojet Rocketdyne によって進められており,小型衛星への搭載を目的とし,その推力レベルの
トレンドが1 ~ 22 N程度にあることから58),1 N級スラスタであるGR-1(図 1.9参照)および22 N級 スラスタであるGR-22(図 1.10参照)の開発が進められている58).これらのスラスタは,2016年まで にプロトタイプモデルの地上試験とGPIM向けのスラスタモジュール(GR-1 × 4,GR-22 × 1のクラス タ)の試作が実施されている59-61).これらのスラスタの作動には,触媒をノミナルで315 °Cまで予熱す る必要があることが報告されている62).また,このスラスタモジュールは,Ball Aerospaceによって開発 が行われている200 kg級衛星バスであるBCP-100に搭載される予定である60,61).GPIMはDoD(United States Department of Defence)が主導するSTP-2(Space Test Program)の1つとして,当初は2016年に
SpaceXのFalcon Heavy初号機での打上げが予定されていたが62),その後延期され,2019年4月に予定
されているFalcon Heavy 3号機による打上げが予定されている63).
図 1.9 Aerojet GR-1 Protype model 59) 図 1.10 Aerojet GR-22 Protype model 59)
日本においてもHAN系推進剤の開発が進められており,JAXA(Japan Aerospace Exploration Agency)
およびIHI AerospaceのHAN/HN(Hydrazine Nitrate)系推進剤と,JAXAおよび三菱重工業のHAN/AN
系推進剤に分けられる.IHI AerospaceおよびJAXAは2000年からHAN/HN系推進剤(HAN/HN based
Green Propellant, HNP)の開発を進めている64).HNPは爆轟性の抑制と着火性向上のためにHN(Hydrazine
nitrate, N2H4・HNO3) を 混 合 さ せ , 燃 焼 成 分 と し て Methanol を 用 い た 推 進 剤 で あ り 64),
HAN/HN/Methanol/Water の組成でその割合の異なる HNP2XX シリーズの推進剤と同推進剤向けの国産
6
粒状触媒であるIC-20-Xシリーズおよびこれらに対応した100 mN から1 N級の3D造形スラスタ(MTH シリーズ)の開発が進められている65-67).HNPシリーズでは,高比推力化を狙ったタイプのものと断熱 火炎温度を低く抑えたタイプの推進剤が存在しており,それぞれスラスタによる作動試験が実施されて いる.2018年には,ヒドラジンと比較して高い比推力を狙った推進剤であるHNP208について,断熱火 炎温度が高いため,これに対応して製作された内部に特殊な白金コーティングを施した4 N級スラスタ
(図 1.11 参照)による作動試験について報告された67).また,断熱火炎温度をヒドラジンよりも低く
抑えたHNP225についても,3D造形技術により製作された低コスト化200 mN級スラスタ(MTH-2,図
1.12参照)による作動試験結果が同様に報告された68).これらのスラスタでは,触媒をノミナルで300 °C まで予熱する必要があるが,200 °Cの予熱でも点火に成功したことが報告されている66,67).HNPシリー ズを用いたスラスタは,JAXAによる革新的衛星技術実証衛星2号機への搭載コンポーネントとして採 択され69),2020年度以降に同衛星を使った軌道上作動が行われる予定である70).
図 1.11 IHI Aerospace 4 N Thruster 67) 図 1.12 IHI Aerospace MTH-2 Thruster 68) JAXAおよび三菱重工業においても2000年からHAN/AN系推進剤(SHPシリーズ)の開発が進めら れている71).SHPシリーズは,爆轟性抑制のためにAN(Ammonium Nitrate, NH4NO3)を混合させ,燃 料成分としてMethanolを用いた推進剤で,HAN/AN/Methanol/Waterの組成でその割合が異なるSHPXXX シリーズの開発が進められている72-74).これまでに SHP069,SHP163,SHP265 など様々な組成の推進 剤が開発され73,74),爆轟性と貯蔵性,燃焼速度に優れたSHP163(HAN = 73.6 wt% / AN = 3.9 wt% / Methanol
= 16.3 wt% / Water = 6.2 wt%)が軌道上実証に向けて選定された75).三菱重工業によってSHP163を用い
た1 N級スラスタ(Green Propulsion Reaction Control System, GPRCS)の開発が進められ73,75),民生部品 および技術を採用し衛星の低価格化目指したプロジェクトであるSERVIS(Space Environment Reliability
Verification Integrated System)衛星の3号機に搭載され,軌道上実証が行われる予定だった75).その後,
JAXAによる革新的衛星技術実証衛星1号機(Rapid Innovative payload demonstration Satellite 1, RAPIS-1) への搭載コンポーネントとして採択され76,77),搭載に向けてスラスタを1基搭載した推進系(図 1.13参 照)の開発が進められた78,79).GPRCSは,燃焼温度を低く抑えたSTEP1と耐熱性触媒およびスラスタ の使用により高比推力化を目指すSTEP2の2段階で開発が進められており79),RAPIS-1に搭載される
GPRCSスラスタはSTEP1の成果を軌道上で実証することを目的としており,2017年にFM(Flight Model)
(図 1.14参照)の開発が完了している79,80).RAPIS-1は,2019年1月にイプシロンロケット4号機に よって打ち上げられており,2019年度中にも軌道上での作動が行われる予定である77).
図 1.13 RAPIS-1に搭載されたGPRCS-FM 80) 図 1.14 GPRCSのスラスタ(QTモデル)80)
7
1. 3. 3 過酸化水素水
過酸化水素(Hydrogen Peroxide, H2O2)は,ナポレオンの電池開発事業に取り組んでいたフランスの化 学者である Louis J. Thenard によって 1818 年に発見され,当初は”Oxygenated water”と表現されていた
81,82).その後,H2O2の漂白作用や強力な酸化剤であるなど,その有用性から H2O2の製造方法や濃縮方
法が徐々に確立されていき,1925年以降からは工業用薬品として主に繊維産業,製紙用パルプ産業にお いて使用が開始された82).
1933年から1936年の間には,ドイツ政府が80~82wt%の高濃度H2O2の安全な濃縮方法の開発に成功 し,これを機にH2O2の軍事利用が始まった82).最初の推進剤としての使用は1933年にドイツのHellmuth
Walter が開発したWalter機関と呼ばれる高濃度H2O2を用いた熱機関であり,その最初の実用例は灯油
を燃料とした潜水艦用のATOエンジン(RATOとも呼ばれる)である82,83).その後,Walter機関はドイ ツ軍によって多くの軍事兵器の動力として用いられ,ドイツ空軍が開発した実用された世界唯一のロケ ット推進戦闘機であるメッサーシュミットMe163にもWalter式ロケットエンジンであるHWK-R1が搭 載された.また,第二次世界大戦中にWernher Von Braun らが開発した液体燃料ロケットであるV-2ロ ケットにもターボポンプ駆動用のガス発生器の推進剤として80wt%H2O2が用いられた82,83).V-2ロケッ トは戦時中に弾道ミサイルとして英国に向けて発射され,V-2 ロケットの開発とその実用によりロケッ ト推進剤として高濃度H2O2が有用であることが示された.
1955年には英国のArmstrong Siddeley Motorsによって酸化剤にH2O2,燃料にケロシンを用いたGamma エンジンが開発され,このエンジンを搭載した単段式の Black Knight ロケットが開発された 82,84,85).
Black Knightは1958年から1965年にかけてオーストラリアのウーメラ射場にて22回の打ち上げが実施
された84).その後,英国は軌道投入機の保有を目指してBlack Knightを三段式にしたBlack Arrowロケ ットの開発を進めた85).Black Arrowロケットは合計5回の打ち上げが計画され,そのうち4回が実施 され,2 回が打上げに成功している.4 回目の打ち上げ時にペイロードとして搭載されていた衛星の軌 道投入に成功し82),英国は世界で6番目の軌道投入機保有国となった.
自己分解作用を持つ H2O2は,触媒を用いることでより激しく分解し燃料と混合させることで自己着 火性を持たせることが可能で,他の推進剤において必要となる点火機構が不要となるハイパーゴリック 推進剤であり,システムの簡素化と応答が速いRCSの開発が期待できる.そのため,1950年代には,
ドイツから亡命したWernher Von Braunらが持ち込んだ技術を基に,米国においてもH2O2を用いた推進 系の開発が進められた82).代表的なものとしては,ロケット推進を用いた高高度超音速航空機(X-1シ リーズおよびX-15)の姿勢制御用スラスタや86,87),ハイブリッドロケット,宇宙機用一液式スラスタお よび二液式スラスタの酸化剤としての利用などが挙げられる82,88,89).しかし,その後の米ソ冷戦による 急速な宇宙開発の進展により,宇宙機用スラスタとして高い推進性能を持つ推進剤が望まれたが,これ には推進剤の長期保存や取扱性の良さを併せ持つ必要があり,自己分解作用をもつ高濃度 H2O2はこれ らの要求を満たさなかった23).一方で,保存性がよく推進性能が高いヒドラジンが推進剤として有望で あることが分かると H2O2用いた推進系の研究開発は徐々に廃止されていき,ヒドラジンが主たる推進 剤として用いられるようになった15,82).
その後,1990年代に入ると,環境保護や人体への高い毒性を持つ化学物質への配慮が進み,ヒドラジ ンの毒性が問題視されるようになると 26,27),推進剤としての H2O2への関心が再び高まり,宇宙機用推 進剤として高濃度H2O2を使った推進系の開発が活発に行われるようになった82).高濃度H2O2は,ヒド ラジンと比較して低凝固点,高密度,低毒であり,貯蔵性の問題を除けば環境および人体に対して親和 性の高い推進剤である 90).1990 年代後半から 2000 年代にかけて,主に小型衛星をターゲットにした RCSおよび軌道制御エンジンの開発が開始され91-94),現在も1~500 N級のスラスタの開発が各国で続け られている 95-100).いずれの推進系も70~98wt%の高濃度 H2O2を用いたものであり,軌道打上げ機より 設計寿命が大幅に長い衛星,探査機等にも対応できるよう高濃度H2O2の長期保存に関する研究101)も行 われているが,現在までにこれらの宇宙機に対して高濃度H2O2の適用は実現されていない.
8
1. 4
超小型衛星用化学推進系の現状
超小型衛星は2000年代から活発に開発が進められ,2010年代に入るとこれらの超小型衛星を用いた 宇宙利用の幅が広がり,その規模も急速に拡大した 102,103).既に超小型衛星のバス部の開発や運用の技 術は成熟しつつあり 104),複数衛星によるコンステレーション構築や惑星探査,デブリ除去などの高度 なミッションが計画され,既に打上げが開始されているものもある.このような高度な姿勢制御や衛星 自身による軌道変更が伴うミッションの遂行には推進系の搭載が必要不可欠である.しかし,超小型衛 星が持つ構造的な特性やシステムの規模,開発コスト・期間などの制約から,中型・大型衛星に対して 供給されてきたヒドラジンを用いた推進系を搭載することは困難である.そのため,超小型衛星のシス テムに適合した推進系の供給が望まれており 104),世界的に超小型衛星用の推進系の研究開発が進めら れている状況である.図 1.15 に現在,超小型衛星向けに開発が進められている推進系および超小型衛 星への適用が進められている推進剤とその代表的な拠点を示す.また,超小型衛星製造メーカからの具 体的な推進系へのシステム要求項目をまとめたものを表 1.1に示す.超小型衛星の開発は,短期間・低 コストでの開発を原則として行われるため,推進系への要求は必要機器の調達からインテグレーション,
射場作業,運用に至るまでに要するコストに関する制約が強く反映される.そのため,推進剤が低毒で あるだけではなく,表 1.1の項目すべてに対して可能な限り適合している推進系が超小型衛星に適した 推進系といえる.
また,ヒドラジンおよび図 1.15 に示した拠点において開発が進められている代表的な推進剤の諸元 と取扱時の規制状況を比較したものを次項の表 1.2に示す.ヒドラジンを除くどの推進剤も急性毒性を
表すLD50 (Medium lethal does, LD50)値は高い値であり,いずれも低毒な推進剤である.
ADN系やHAN系のいわゆる高性能予混合一液式推進剤は,代替ヒドラジンとして開発された経緯が ある.そのため,比推力が高く密度比推力および凝固点もヒドラジンに対して有利であり,低毒かつ高 性能でありながら軌道上での輸送性や貯蔵性が優れている推進剤である.しかしその反面,各拠点にて 独自に研究開発が進められてきた推進剤であるため,その製造方法や触媒の材料,その他ノウハウ関わ る多くの情報に対する秘匿性が高くなっており,推進剤自体の価格や輸送性,運用コスト等が未だ広く 開示されていない.そのため,ユーザである超小型衛星メーカ側にとっては現段階では手軽に使用を検 討できる推進系とは言い難く,使いにくいものとなっている.また,これらの高性能予混合推進剤は燃 焼温度が高いものが多く,触媒の劣化やスラスタの材質選定が困難であることが課題となっている 74). また,これらの課題を解決できた場合でも熱設計における制約が厳しい超小型衛星においては,熱的リ ソースおよびその制御のためにある程度の設計リソースを割く必要があるために36),取扱性については 向上できない.このほかにも.これらの推進剤の輸送に関しては,輸送規制が厳しくないものもあり推 進剤自体の航空輸送実績はあるものの41),推進剤使用時のライセンスなどの問題から充填時の設備やそ の作業者も共に現地へ輸送・派遣する必要があり 108),超小型衛星メーカにとっては少額ではない輸送 コストがかかることが見込まれる.
高濃度H2O2を使った推進系の1930年代から行われているが,高濃度H2O2特有の自己加速分解性が 輸送や貯蔵時の大きな問題となるほか,推進系に用いられるRGHP(Rocket Grade Hydrogen Peroxide)は 入手性が著しく悪く,こちらも同様に超小型衛星メーカにとっては使いにくい推進剤である.
超小型衛星メーカ側の主張としては,ヒドラジンのもつ高い推進性能を追い求めた推進剤よりも,表 1.1 に示したように設計開発や射場作業および運用までの全工程におけるコストの低減が重視される傾 向にあり 104),推進性能はヒドラジンと同程度かそれ以下であっても,要求値を満たしてさえいれば良 く,前述した推進剤は現段階では超小型衛星のシステム要求に良好に合致してはいない.
我々の研究チームでは,こうした超小型衛星メーカからの要求にできる限り応えるべく,上記のシス テム要求を満たす超小型衛星に適合した相性の良い推進系の研究開発を進めており,推進剤として
60wt%H2O2を用いた一液式推進系とそこに燃料としてエタノール(C2H5OH, EtOH)を加えた二液式推進
系の開発を行っている.
9
図 1.15 超小型衛星用推進系への適用が進められている推進剤と主な拠点41,44,62,74,80,94,97,100,105-107)
表 1.1 超小型衛星から推進系へのシステム要求項目104)
分類 要求項目
1. 推進剤の取扱性と入手性 a) 人体に対する毒性が低いこと b) 輸送に関する制限が厳しくないこと c) 入手経路が煩雑でないこと
2. 推進系のシステム構成 a) 各構成機器の価格,入手性が良好であること b) 超小型衛星へのインテグレーションがしやすいこと c) 配管レイアウトが容易であること
3. 打上げに係るコスト a) 推進剤の価格が低いこと b) 射場作業時のコストが低いこと
4. 衛星運用時の推進系による制約 a) 定常時に必要となる衛星側リソースが小さいこと b) 推進系作動時に必要となる衛星側リソースが小さいこと