ドイツ民法典制定過程における
所有権留保(1)
田村耕一
はじめに
第一章 BGB制定以前の状況 第一節 ローマ法及びその継受後 第二節 ラント法の規定 第二章 BGB制定過程
第一節 部分草案 一 総則法部分草案 二 物権法部分草案
第二節 部分草案の討議及びBGB第一草案 一 第一委員会での討議
二 第一草案 (以上本号)
第三節 鑑定意見 一 売買契約
二 停止条件付所有権移転 三 質権との関連
第四節 BGB第二草案一 債権法 二 物権法
第三章 小括及び検討
第一節 制定過程のまとめ
第二節 若干の検討
第三節 わが国への示唆
おわりに
は じ め に
売買契約では,売主が売買代金の完全な支払を受けたときに目的物の所有 権が移転するという特約が合意されることが多い。このような合意は,一般 に所有権留保と呼ばれている。これはドイツ語の
Eigentumsvorbehalt"の直訳であり, ドイツでは停止条件付所有権移転として構成され, ドイツ民 法典
(BurgerlichesGesetzbuch.以下
BGB)に解釈規定が設けられてい る ( 1 ) 。
ところが,わが国では,所有権留保に関する定義及び解釈規定は存在しな い。唯,割賦販売法第
7条において,政令で定める一定の商品に限り「・・
・所有権は,賦払金の全部の支払の義務が履行される時までは,割賦販売業 者に留保されたものと推定する」と定められるのみである。しかも,この条 文は単なる確認の意味しかない。したがって,推定が働かない場合において,
単に「所有権留保」とのみ合意されたときは,当事者がどの様な権利関係に なるのか,何も明らかにすることができない。すなわち,抵当権などと異な り定義自体が明らかではなく,さらに当事者間で合意内容の自由が認められ ていることから,
I所有権留保」と認定しただけでは,何も解決されないの である。
(1) BGB
第455 条:所有権留保
「①動産の売主が売買代金の支払を受けるまで所有権を留保した場合,疑わしいとき は,所有権は,売買代金の完済を停止条件として移転し,かつ,売主は,買主が支 払を遅滞したときは契約を解除することができるものとする。
②
買主が第三者,特に売主と密接な関係にある企業の債権を履行することに所有権 移転が依存する限り,所有権留保の合意は,無効とする。」
倒産法施行法によって1
999年1月1日からいわゆるコンツェルン留保を無効とする第 2項が追加された。倒産法制定を中心とする動向については,拙稿「ドイツにおける所
有権留保の横断的考察一実体法・手続法をめぐる最近の動向を中心に(1
)(2.完
)J広島法学2
1巻4号(1998年3月)2
45頁・
22巻l号(1
998年7月)
197頁において検討し
ている。
もっとも所有権留保といっても, [""買主の債権者に対する売主の保護が ーもし所有権留保の特約が無ければ引渡の時に消滅するはずであるのに 一代金の支払の時まで延長されていることを意味するにすぎない
(2)Jこ とからは,所有権移転という効果全体が延期されているわけではないことを 意識する必要があることが,既に指摘されている
(3)。そして,これまでの わが国の非典型担保に関する議論においては,担保として考察する際,端的 に担保「権」として把握する傾向がみられ,所有権留保については,譲渡担 保と同様のものとして統一的に考察される傾向にある
(4。 )
もちろん,これらの形式を利用する当事者の意思は,担保としての利用で あることは間違いない。しかし,同時履行の抗弁権や契約解除の際の現状回 復,さらには相殺についても担保であると認識されていることからは, [ " " 本 来は担保として用いられることが予定されていないが,その採用される形式 に内在する債権確保機能を利用する場合」について論じる際,それを担保「権」
として考えていくことは,可能か否か,また可能であるとしても適切なのか という疑問が生じる。
ところで,所有権留保の特約を要求するような売主には,民法第
322条に より法定担保物権である動産売買先取特権が認められることが考えられる。
( 2) H.G.Gottheiner
の見解として,太田知行『当事者間における所有権の移転一分析 哲学的方法による研究の試み一』勤草書房
(1963年1
2月)
74頁に紹介されている。
( 3
)米倉明「流通課程における所有権留保(1)
J法学協会雑誌
81巻5号(1
965年
10月)
488頁注5。
( 4
)所有権留保は,債権者が担保のために所有権を有することから,確かに,譲渡担保 と同様の状態にあることが認められる。しかし, I 同じ状態」であることから「同じもの」
として取扱うことは適切なのであろうか。もちろん譲渡担保と「同じもの」としても譲 渡担保自体の検討が必要なことはいうまでもない。
但し,所有権留保の被担保債権を当該売買代金債権としなければならない必然性が理 論的には必ずしも存在しないことから,留保される所有権は当該売買から生じた代金債 権以外の別の債権を担保とすると合意された場合(し、わゆる拡大形式の所有権留保)な
どは,とりわけ譲渡担保との関係を意識する必要がある。
また,一連の最高裁判決を受け,動産売買先取特権,特にその転売債権に対 する物上代位について再評価がなされているのは周知のとおりである。そし て,この動向を基に考察を進めていくと,もう一つの疑問,すなわち「所有 権留保を担保的に理解するのが通説であるが,既に非占有の典型担保として 動産先取特権があるにもかかわらず,それとは異なる担保として認知する以 上,先取特権以上の効力をどの程度認めるのかが問題
(5)Jではないかとい
う疑問が生じる。
確かにこれまでは,所有権留保と先取特権は異なる担保として認知されて きた。しかし,そもそも両者の関係が明らかにされているとは言い難い。こ の点について興味深いのは,わが国が強い影響を受けた
BGBにおいて,所 有権留保に関する条文が設けられた一方,売買代金に関する先取特権の規定 が設けられなかったことである。
これまでわが国の学説は, ドイツ法の影響から,所有権留保を停止条件付 所有権移転として考えることを起点として展開されてきた。しかし,本稿は,
以上のような視角から,所有権留保がなぜ停止条件付所有権移転として
B G Bに規定されるに至ったのか,なぜ担保「権」として規定されなかったのか,
を分析するものである
(6)。すなわち,第一義的にはこれまで明らかにされ
( 5
)中舎寛樹「非占有動産担保制度」法学教室
165号(1994年6月)71頁。なお本稿の強 調部は,引用本文と同じである。
( 6
)本稿の内容は,これまでに公表された立法資料を反映するものであり,参照文献を 挙げておく。部分草案については, D i
e Vor 1
agen der Redaktoren fur die erste Kommis‑sion zur Ausarbeitung des Entwurfs eines Burgerlichen Gesetzbuches / hrsg. v. Werner Schubert
,
Allgemeiner Teil Teil2/ Verfasser,
Albert Gebhard,
1981,
S.223,
Sachenrecht Tei 1 1 ,
Allgemeine Bestimmungen,
Besitz und Eigentum / Verfasser,
Reinhold Jo‑ how, 1
982,
S.769‑786,
W.de Gruyter. (以下Redaktorenと記す)。第一委員会をはじめと
する議論については,
Die Beratung des Burgerlichen Gesetzbuchs : in systematischer Zusammenstellung der unveroffentlichten Quellen/ hrsg. v. Horst Heinrich Jakobs u. Werner Schubert,
Recht der Schuldverhaltnisse II,
1978,
S.l 1
lf.,
Sachenrecht 1,
1985,
S.586ff.,
Walter de Gruyter. (以下Beratungと記す)。第一草案理白書については,
ていなかった制定過程を辿ることが目的であるが,制定の経緯を通じて,
I所 有権留保とは何か」という性質・定義について再検討し,動産担保権の再構 成のための手がかりを得ょうとするものである。
ここで,
BGBの制定過程を概観しておく(7)。
具体的に所有権留保に関する条文は,基本的にはまずその懐疑から始り(総 則法部分草案第
55条,ドレスデン草案第
490条
(8),物権法部分草案第
127条),
他の理論との整合性から黙示的に承認され,第二草案の段階ではっきりしな
Motive zu dem Entwurfe eines Burgerlischen Gesetzbuches fur das Deutsche Reich
,
Band II ,1888,
S.319.Band m,
1888,
337ff . , ]
.Guttentag.(以下
Motiveと記す)。鑑定意見については,
Zusammenstellung der gutachtlichen Aeuserungen zu dem Entwurf eines Bur‑ gerlichen Gesetzbuchs gefertigt im Reichs‑]ustizamt,
Band II ,1890,
S.224f.,
Band m,
1890,
S.160f,
380f.,
Band¥ I ,
1891,
S.371,
563,
OTTO ZELLER OSNABRUCK.(以下
Gutachtenと記す)。第二委員会については,D i
e gesammten Materialien zum Burger‑ lichen Gesetzbuch fur das Deutsche Reich /herausgegeben und bearbeitet von B. Mug‑dan
,
Band II ,1899,
S.1755ff.,
Band m,
1899,
S.3687ff.,
R.v.Decker.(以下
Protokolleと記す)。なお,
RedaktorenとProtokolleは原典の貢数を記しである。
わが国のこれまでの文献で
BGB以前の状況に言及するものとして,三瀦信三「所有 権留保論・ (承前)
J法学協会雑誌35巻
4号(1
917年4月)
1頁・
5号(1
917年5月)6
1頁,石田文次郎「捨保的作用より見たる所有権留保契約」法学新報4
1巻6号(1
931年
6月)
11頁,米倉・前掲4
95頁注
5がある。また,条件理論から
BGB制定過程を考察する ものとして,大島和夫「条件理論の歴史的考察(その
1)"'(その
4)J神戸外大論叢2
9 巻l号(1
978年6月)
89頁・同
4号(1
978年10月)
53頁・同3
0巻l号
(1979年6月)3
7頁・同
6号(1
979年12月)8
9頁がある。
(7)
BGB制定過程自体については,石部雅亮「外国法の学び方一一ドイツ法
11・12J法学セミナー2
40号(1
975年6月)
127頁・同2
42号(1
975年8月)
159頁,平田公夫「ラ スカ一法の成立と準備委員会の設置ードイツ民法典成立史に向けて(1)・
(2)J法早曾雑誌3
0巻
2号(1
980年
11月)2
3頁・同3
4巻
4号(1
985年
3月)
93頁,同「ドイツ民法典を 作った人々(1)",
(3・完)J岡山大学教育学部研究集録56号(1
981年1月)
63頁・同
58号(1
981年
10月)
23頁・同6
0号(1
982年
7月)
281頁,同「ドイツ民法典編築過程の諸 特徴」法早雑誌4
5巻4号(1
996年3月)
1011頁,石部雅亮編『ドイツ民法典の編纂と法 学 . n ( 1
999年
2月)九州大学出版会を参照した。
(8
)ドレスデン草案第4
90条
「売主が売買代金を担保するために売却物の所有権を留保するという売買に付加された
副次協議
(Ne benberedung)は,売買に付加された解除条件として効力を有する。」
い場合の解釈の必要性から規定が設けられるに至った(第二草案第
475条a
)。 その後の第二委員会の検討で文言の順序等が若干変更され,
Entwurf eines Burgerlischen Gesetzbuchs fur das Deutsche Reich.Zweite Lesung,1894, 1895 (2Entwurf)では~394,
Zweite Lesung,
1895 (Bundesratsvor1age)で
は~448,
Entwurf eines Burgerlischen Gesetzbuchs,
1896 (Reichstags‑ vor1age oder 3. Entwurf)では~449という経過をたどった。文言としては,
2 Entwurf
の時点で
BGB第
455条と同じものとなり,帝国議会で可決され た
(9)。BGB
では最終的に停止条件付所有権移転としての解釈が採用されたこと から,制定過程において言及される可能性がある部分としては,総則の条件 理論,債務法各論の売買,及び物権法の所有権移転に関する部分が考えられ る。また非占有質との関連から,質権の規定を設ける際にも何らかの言及が なされていることも予想される。したがって,本稿ではこれらの点を中心に 述べていく。
( 9
)帝国議会第
12委員会において,
Grδberによって,所有権留保を規定する第4
49条に 関連して,第4
99条a が提案された。その内容は,
I売主の営業する場所において買主に出 されたアルコール飲料の売買に基づく請求は,買主が飲物の提供の時までに同種の以前 の債務をその債権者に未だ支払っていないときは,司法上有効なものとなし得ない。こ のような訴えることのできない請求を履行させる目的の合意,特に債務承認,質及び保 証契約は,拘束力の根拠とはならない」というもので、あった。
1896
年
3月
4日の
Hellerによる報告では,この
Grぬerの提案した第4
49条a は,アル コール中毒の止めどのない広がりを民法の範囲で押えるという必要性に基づくものであ ると説明された。すなわち,前の飲代が未払のときは,売主(庖)側に新たな飲代の請 求を認めず,またその債権の担保及び保証も司法上認めないという圧力をかけることで,
売主に各債権の即事回収を要求するのである。したがって掛売は不可能となり,ひいて
は無制限の飲酒の可能性が減少し,アルコール中毒者が減るということを考えたのでは
ないかと思われる。また,この提案は有益な効果を持つオーストリア法を模倣したもの
であるとされ,
Struckmanは,この提案の根拠は承認すべきであると認めていた。しか
しこの提案は多数で否決された。その根拠は,提案された規定は実際には実行できない
であろうということ,及び他の規定,特に営業取締の種類で補われる方が適切であると
の判断がなされたようである
(Beratung,
Schuldverhaltnisse,
S.112)。
ところで,所有権留保の目的物については,理論的には不動産も可能であ り,実際に
BGB制定過程において不動産に関する記述もみられる(1
0)。し かし
BGBでは不動産の
Auflassungに条件を付けることが禁止されたた め,所有権留保が問題になるのは登記・登録のない動産である。したがって,
(10)
不動産に関して,その経過を若干説明しておく。
まず,部分草案では不動産の所有権移転のためには
Auflassung及びその登記が必要で あると規定されていたが,条件又は期限が定められた
Auf 1
assungは,認められていなか った。但し,
Auf 1
assungの権利として仮登記するということが考えられていた。
第一草案では,停止条件付
Auflassungは承認されなかったが,解除条件付
Au日
as‑ sungは承認されることになった。停止条件付
Auflassungが認められなかった大きな理 由として,登記原則と一致しないことが挙げられる。すなわち,草案が前提とする登記 システムでは,総ての法律行為が登記されない限り,停止条件付
Auflassungの場合の正 当な所有権という情報を登記簿に保証し得なし、からである。この必要とされる登記につ いては,具体的には「所有権の移転」というものになる。しかし,
Auflassungに停止条 件又は始期が定められている場合は,所有権は条件の成就又は期限の到来により移転す る(又はそれまでは移転しなし、)ということであり,
Auflassungの時点では「所有権の 移転」ということにはならない。すなわち, r 所有権の移転」の登記と停止条件付又は始 期が定められた
Auflassungは,整合性を保つことができないのである。また,この場合 の仮登記の利用もできないとされていた。
第一草案第
871条は,物権法部分草案第
117条を修正し,解除条件付
Auflassungは有効 としている。第一草案では,第
129条が解除条件に明確に物権効を授けていることからも,
解除条件としての不動産所有権留保が認められている。この場合は停止条件付
Auflas‑ sungと異なり,登記簿上も譲受人が所有者として登記されることになり,実体法に合致 することから承認されたようである。また委員会は,第三者の保護について,登記簿の 所定の場所に解除権を負担として登記することで図ることができるとしている
CMotive, B a n
drn,
S.318ff.)。
第二草案においては,重要な変更がなされた。委員会では詳細な検討がなされたよう
であるが,停止条件の内容を解除条件として約定し得るという委員会の判断から,結論
としては物権効を持つ不動産所有権留保は承認されないとされたのである。但し,債権
的請求権を保護するために再び仮登記が導入されることとなった。したがって,
Ubereig‑ nungに関する人的請求の仮登記により十分担保されるので,買主は解除条件に基づいて
即時に登記しておく必要がなくなった。さらに委員会では,売主は,
Auflassungを売買
代金が担保された後にすればよいとも考えていた
CProtokolle,
Bandrn,
S.3618ff.)。
本稿ではこれらを中心に言及する。
第一章 8GB制定以前の状況
第一節 口ーマ法及びその継受後
ローマにおいては,いわゆる所有権留保は存在しなかったとされている。
なぜならば,所有権の移転は,売買代金の支払が要件となっていたからであ る
(11)。言換えれば,総ての売買が所有権留保の下にあったともいえよう。
この点から,
gesetzlicheEigentumsvorbeha1t"とも評されている(1
2)。 もっとも,ローマにおいても代金が完済される以前に目的物が買主に引渡 される場合があった。この場合,残代金債権が存在し,売主に所有権が帰属 し,かつ目的物の占有が買主に帰属することから,現代の所有権留保と同様 の「状態」であることが指摘されている。そして,このような場合として,
賃貸借Cl
ocatio)と結合した売買,及び容俵占有
(precarium)と結合した 売買が,挙げられている(1
3)。
しかしながら,何をもって所有権留保と捉えるかがやはり問題となること から,これらを所有権留保として考えるか否かは,今日のドイツにおいても なお争われているようである(1
4)。
( 1 1 )
]USTINIAN,
Institutionen2,
1,
41.を根拠としている
CHeinrichHonsell, ] .
von Staudingers Kommentar zum Burger1 i
chen Gesetzbuch mit Einfuhrungsgesetz und Ne‑ bengesetzen 2.Buc.,
Auil.13,
1995,
S.268,
].SchweitzerJ。また,ローマ法では売買され引 渡された物の所有権は代金の支払によって買主に移転していたことが,制定過程におい ても認識されていた
CMotive,
Sachenrecht,
S.336.)。
( 1
2) Egbert Sandmann,
Zur Geschichte des Eigentumsvorbehalts in Deutschland‑Ein Beitrag zur Rechtsgeschichte moderner Warenkreditsicherungsmittel,
diss., 1
972,
S.5.( 1
3)石田・前掲げ頁。
( 1
4)ローマの所有権留保について研究したものとして,
Anton Meinhart,
Dogmen‑geschich
t 1
iches und Dogmatisches zum Eigentumsvorbehat ,ZRG Rom.Abt 1 ,
1988,
S.729;Kar 1
hainz Misera,
Zum Eigentumsvorbehalt im klassischen romischen Recht,
Festschrft fur Rolf Serik zum 70.Geburtstag,
S275,
Recht und Wirtschaftrecht.などがある。
ローマ法継受後,
pactumreservati dominii"というものが利用された。
これは,
I留保された所有権の契約」という意味であり,一般に今日の所有 権留保に相当すると解されている(1
5)。
17
世紀では,商品信用の法形成において停止条件ではなく解除条件が一般 に用いられ,パンデ、クテンの現代的慣用においては,
1excommissoria( 失 権約款)"について,条件未定の聞は買主が所有権者であるとするのが通説 であったとされている(1
6)。さらに,非占有の動産抵当が盛んになり,フラ ンクフルトにおいては,
1495年から真正の動産抵当が可能であった(1
7)。動 産抵当が不便なところでは,前述の
pactumreservati dominiiが利用され,
クールザクセンの
1622年の訴訟法では,優先質権と同様に扱われていた(1
8)。
18世紀の初期には,抵当権設定の裁判上の煩雑な手続や,抵当権に要求さ れた登記のための高額な税金を回避するため,不動産売買において所有権留 保の契約が相当行われていた。その後,占有質
(FaustPfand)原則の再生 と所有権移転における厳格な引渡
(Tradition)原則の実行が行われるよう になったことから,この
pactumreservati dominiiにおいても目的物の引渡 が要求されるようになった(1
9)。しかし,質権類似の担保権設定ではなく,
売買契約自体の条件として解される可能性もあったことから,
1ex commis‑soria
と重なるようになった。そしてこのことは
pactumreservati dominii( 1
5) Cohen,
Die geschichtliche Entwicklung des Eigentumsvorbehalts,
GrunhutsZ Bd.21,
1894,
S.559が
BGB以前の状況を検討しており,三瀦及び石田・前掲両論文もこ れを参考にしている。また,今日の
Eigentumsvorbehaltは
pactumreservati dominiiか ら継続して発展したものではなく,ローマ法ではなく中世イタリアの解釈によって発展 したとの見解がある
CGottfriedSchiemann,
Uber die Funktion des pactum reservati dominii wahrend der Rezeptionen des romischen Rechts in ltalien und乱1itteleuropa,
ZRG Rom.Abt,
1976,
S.164)。
( 1
6) Gottfied Schiemann,
Pendenz und Ruckwirkung der Bedingung,
1973,
S.73,
Bohlau(以下
Pendenzと記す).大島・前掲(その
2) 61頁 。
( 1 7 )
Gottfied Schiemann,
Pendenz,
S.73,
Fn59.大島・前掲(その
2) 62頁注目。
( 1
8) Gottfied Schiemann,
Pendenz,
S.75.大島・前掲(その
2) 63頁 。
( 1
9) Gottfied Schiemann,
Pendenz,
S.83.大島・前掲(その
3) 38頁 。
を売買契約の条件として解する場合,停止条件ではなく解除条件とする解釈 を認めることを意味していた
(20)。
なお,支配的見解としては,普通法においては,解除又は停止条件の付加 のいずれにおいても物権的効力があったとされている
(2。 1 )
19
世紀の初めには,非占有抵当権の増大から,買主破産においての優先権 はもはや実現困難となり,目的物返還請求権との関係から停止条件としての 所有権留保が注目され,盛んに利用されるに至った
(22)。しかしながら,法 的効果については争いが続いていたため,買主は所有権者ではないという明 示の合意が
1851年以前から契約においてなされていた
(23)。もっとも,利益 衝突を避けるため,例えばオルデンブルク上級控訴院は,
1869年の判決で,
「売主の過剰担保においては,売主(留保所有権者)の取戻は,質権類似の 担保であることを理由として未回収の債権額に限定され,取戻した物の価値 が残代金を越えるときは返還しなければならない」と判示していた
(24)。
また,抵当に関して公示主義が採用されたことから,不動産に関する所有 権留保の存在理由がなくなったが,経済の発達から重要な意義を有するよう
になった動産取引において利用されるに至った。この点に関して,ローマ法 以来動産抵当は認められず,動産の占有を債権者に移す占有質の制度のみで あったことが,動産売買において所有権留保が利用されるようになった大き な要因であるとされている
(25)。
さらに
19世紀中頃になると,産業革命により,それまでみられなかった賃
(20) Gottfied Schiemann
,
Pendenz,
S.83.大島・前掲(その
3).39頁 。
(2
1)物権法部分草案において
Windscheidの見解として引用されていた
(Redaktoren,
Sachenrecht,
S.770.)。
(22) Gottfied Schiemann
,
Pendenz,
S.84.大島・前掲(その
3)39頁 。
(23) Gottfied Schiemann,
Pendenz,
S.133.大島・前掲(その
4) 98頁 。
(24) Gottfied Schiemann,
Pendenz,
S.134.大島・前掲(その
4) 99頁 。
(25)
以上の見解は,石田・前掲
19頁以下による。なお三瀦博士は,ローマでは動産抵当
があったとされている(三瀦・前掲
17頁 ) 。
金労働者が生じた。彼達は,農耕者などと異なり,月々決った額の賃金を得 ることで生計を立てていた。この賃金労働者階級の出現により,月々の支払 額を定めて物を購入する割賦売買が可能となり,広く普及していったのであ
る 。
ところが割賦販売においては,目的物を買主に賃貸し賃料が売買代金に達 した場合に所有権が移転するという
Mobelleihvertrag(買取賃貸借)"の形 式が採られ,所有権留保は利用されていなかった。もっとも
1880年代末には,
既にこのような割賦販売における買主保護の要請が強力になされ, ドイツ法 曹大会においてもしばしば論じられていた。その結果,
BGB成立前
lこ割賦 販売法
(Gesetzbetreffend die Abzahlungsgeschafte)が制定されるに至っ たのである。
所有権留保の合意がなされた売買契約に割賦販売法が適用された場合の影 響は,端的には債権的効力と物権的効力の統ーであると考えられる
(26)。具 体的には,解除権が留保されている場合にはこれまでに受取ったものを双方 が返還しなければならないこと(第 l条),解除による給付の返還は同時履 行であること(第
3条),目的物の取戻は売買契約解除とみなされること(第
5条)と規定されていた。また,割賦販売法は実質的には売買であるものに 対して適用されたので,
Mobelleihvertragは,割賦販売法により終止符が 打たれることになった。
第二節 ラン卜法の規定
では,各ラント法典においては,所有権留保に関してどのように規定され ていたのであろうか。
具体的な規定内容としては,解除条件とするもの(プロイセン,バイエル ン,ヘッセン),質権の留保とするもの(ザクセン,アンハルト)もあるが,
(26)
割賦販売法及びそれを改正した消費者信用法が当事者の実体的権利に与える影響に
ついては,拙稿・前掲
(1)において検討している。
多くは所有権留保の合意は無効であると定めていた(ヴェルテンベルク,ブ ラウンシュバイク,オルテンブルク,プレーメン,ワイマール)。
これらにおいて特徴的なのは,所有権留保の合意にも関わらず,所有権が 買主に移転することである。その上で,解除条件や質権としての効力が考え られていた。もっとも,これらの規定の根本的な理由は,所有権留保の性質 から生じるというよりは,むしろ前提の理論との関係であったと考えられる。
すなわち,所有権移転過程において如何なるシステムが採用されているのか,
その中で条件の付加が承認されているのか否か,承認されているとしてもど の様な効力,特に物権効が認められているのかということを踏まえておく必 要があろう。
これらラント法の規定を参考にして
BGBの部分草案が作成されたのであ るが,本稿では主に条件付所有権移転について検討することから,各ラント 法典において条件の付加についてどの様な対応がなされていたのかを基準と
して分類する
(27)。
①
目的別規制 債権担保のための所有権留保には効力を与えないという ことである。これは,条件の種類ではなく,一定内容のもの(所有権留保 又は所有権移転の延長)については,その効力を否定し,解除権の留保と して考えるというものである。条件の付加を承認するか否かは,債権担保 か否かという目的自体で判断されるのである(ヴェルテンベルク・アンハ ルト・ブラウンシュヴァイク・オルデンブルク・ザクセン)。
② 条 件 の 物 権 効 否 認 所有権移転への条件付加については,停止条件で あれ解除条件であれ,債権的効力以外は付与しないというものである(ブ
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