技術科における科学的思考展開とその発想パターン : 電気分野を中心として
著者 河合 茂治, 広瀬 幸雄
雑誌名 教科教育研究 │ 金沢大学教育学部
巻 7
ページ 77‑92
発行年 1974‑07‑10
URL http://hdl.handle.net/2297/23569
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技術科における科学的思考展開と その発想パターン
(電気分野を中心として)
河合茂治・広瀬幸雄
なるが故に,その基礎的な知識として要求され る内容は,極めて広範に渡り,電気理論はもと より,広く物理的,化学的な基礎の上に構成さ れた綜合科学的性格を持つものが大半である。
そのため系統的学習は困難となり,ややもする とこれらの機器を直接教材とした学習内容は,
それが現代の文化生活を営む上に不可避の必需 品として,これを如何に効率的に,安全に使用 するか,分解,組立,調整等の過程を通して,
その原理を理解させるといった,いわば便利主 義的に応用科学における既成技術の習得に終始 する危険性が多分にあるように思われる。特に 電気分野においては理科における基礎的学習の 先行を条件とする面が極めて多いのであるが,
技術科と理科との関連は必ずしもスムースに行 われているとは限らず,勢い上述の如き指導法 に終始せざるを得ないのが現状のように思われ る。この点技術科と理科との相関性を強調した 教育課程の再編成を考究すべきであると考え
る。
もっとも科学技術の開発の多くは,現象の理 論的解決が未解決のまま,その外界に現われる 特性を利用して,実用機器の開発を見ることも 時には可能である。しかし乍ら教育課程として
一般化するためには基礎理論をふまえた応用科 学への道程を経るのが本命であろう。例えば理 科において電流の発熱作用を学習教材とした場合,発熱量と電気量との関係を数学的に表現す
る方法を主な学習内容とする。すなわちニクロ ム線に電流を流したとき発生する熱量を実験を 通して定量的に調べ,電圧と電流の積が電気エ ネルギーとして仕事に変わること,更に熱と仕 1はしかき近代における生活技術は,経験的あるいは伝 統的技術の域を脱して,科学的技術にまで発展 した。それは多くの科学者,技術者の発見,発 明によって創造された歴史でもある。すなわち 近代における生活技術は,自然科学の急速な発 展に伴う膨大な基礎理論に支えられて初めてそ の開花を見たのである。したがって技術という 言葉を広い意味で,ある目的を達するための手 段,方法と解釈すれば,近代技術は純粋科学
(物理,化学など)を特定の目的を達するため の手段,方法として直接生活に利用する技術学 あるいは応用科学,実践科学として位置付けら れよう。したがって今日の技術科の役割は単な る個性的創意工夫を基にした技能的学習に止ま ることなく,科学的創意工夫(純粋科学)を基 にした技術学の習得にあるといえよう。
このような意味において技術科電気分野の学 習過程を考えるとぎ,その最短の近道は,素材 として与えられる種々な電気現象およびそれを 応用した様々の電気機器を直接の対象として,
その中に潜んでいる純粋科学としての諸原理,
諸法則がどのような形で取り入れられ,どのよ うな発展過程を通して完成されたものであるか を,実験,実習を通して直接感性に訴えて理解
を容易ならしめ,その理解を基礎として科学的 計画性に基ずく実践的な態度,能力を養うと共
に,創造的な思考能力の育成を目指す所にあるということが出来る。
しかし乍ら,現在直接対象として与えられた 教材は近代科学の粋を結集して完成れさたもの
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事の関係から電熱に関するジュールの法則を実 験的に導き出すこと,つまり法則の成立過程に 主眼が置かれる。しかし技術科においては,同 じ電流による発熱作用の教材は,その実用的応 用機器としての電熱器具として与えられる。し たがってその学習内容は理科における学習の基 礎の上に,実用機器として体を為すための様々 な思考過程を系統的に学習する所に本命があ る。すなわちその学習内容として第一に理科で は発熱材料としてニクロム線を与えればよい が,技術科では発熱材料としてどのような材料 が最も適当であるか,長寿命で化学的機械的に 堅牢な発熱材料としてニクロム線などがどのよ うにして開発される仁至ったかの歴史的過程と その種類,長所,短所,第二に耐熱材料,断熱 材料の研究,第三に,電気絶縁電線,絶縁材料 についての研究,第四に実用機器としての安全 教育等その内容はきわめて広範囲におよび,
しかもそれら各領域,分野が一つの方向にイン テグレートされる所にその指導法の困難性があ るものと思われる。この様に技術科の指導内容 は理科的原理,法則を理解した上で,それを如 何にして実生活に適応させるかの方法,つまり 理学から工学へのアプローチ,或は技術開発に 至る過程を明かにすることが必要である。
このような意味において今後の技術科教育法 は,具体的事象を直接対象として,その物理的 化学的諸法則の学習を基礎に持ち乍ら,それを 如何に生活技術に適応させるかの方法論という
ことができよう。また過去における様含な技術 開発の歴史に散在する思考の過程を横観するこ とによって,その思考過程における類似性ある いは一貫した法則性,統一性を探索して,そこ に普遍的な科学的思考の発想パターンを認知す ることを目差すのである。そうしたことによっ て新しい事象に対処し得る能力を養い,今後益 々発展高度化して行く未来社会の科学技術に対 処し,余見し得るような学習過程とは何か,ま たその最も効果的な学習方法とは何かを模索 し,引いては創造学習にも発展し得る如き学習 指導の原理を見出すことが,今日の技術科教育
法に最も必要な課題であると考える。
以下技術科電気分野の具体的項目,基礎的諸 現象の理論過程に共通する思考形式,および思 考の発想パターンを探ぐり,これらの思考過程 を通して発明,発見,技術開発などに至る道程 を明らかにしたい。
2科学技術における科学的思考展開の方法 最近の急速な科学技術の発展に伴う技術革新 は,我が国の産業構造の変化,更には社会構造 と生活様式の変化を余儀なくしている。また色 々な学問の進歩に伴い,情報理論,自動制御工 学,システムエ学,サイバネティクス,教育工 学など新しい学問分野が次戈に出現し,従来の 観念的人間観の承では最早将来の科学技術の進 歩および社会構造の変化に適応出来なくなるよ
うな様々の要素が生れつつある。さらにまた一 方において,近代科学技術は本来「善」なるも のの探求から発展したにもかかわらずその適用 を誤ったが故に,石油化学工業に見る大気汚染 を始め,重化学工業,原子力発電に見る水質汚 染,土壌汚染,放射能汚染など様々の環境汚染 を惹起し,果ては食品工業にまで拡大され,そ の弊害は逐いに地球全体の危機存亡に影響を与 えるまでに至っている。このように人類の進 歩,発展に寄与し,人類の幸福への探求から生 れたはずの科学技術が,遂に人類滅亡の凶器と なりつ上ある現実を直視し,こ上に,社会科学 の問題として考究するばかりではなく,自然科 学,人文科学などあらゆる学問を綜合して,新 らためて人間を見直し,人間性を基底に置いた 学問のあり方を問い直すべき時を迎えているも のと思われる。
こ上において今後の科学技術における思考の 場の構造は若干の修正を要するものと思われ る。すなわち従来の概念における科学的思考方 法のみに止どまらず,あらゆる学問分野の粋を 総合的に結集した新しい人間観の確立の下に,
未来社会の明るい発展に寄与し得べき教育哲学 を根底にすえた新しい科学的思考の方法論を展 開すべきであろう。
河合・広瀬:技術科における科学的思考展開とその発想パターン 79
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して行われる思考(これを環流思考と呼ぶこと こ上に科学的思考とは直接問題解決場面に応
じた具体的直観的思考を包含するが,それが,
基礎科学(物理,化学,数学など)を基礎とし た科学性との照合において展開される心の働き であり,その具体的方法として,「思考,知 識,対話,行動」の五機能に結びついて行われ る思考展開が最も基本的で,正しい思考を促す ことが出来るものと考えられている。しかし乍 ら筆者は科学技術における科学的思考の展開は 上記五機能の有機的結合はもとより,その根底 には常に人間性を目指し乍ら,相互に交流,フ
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イードバックする環流的思考展開においてこそ より正しい思考が出来るものと考える。すなわ ち「思考,記述」の二機能は主観的立場での思 考展開であるが,「対話,行動」によって客観 性を持つとぎ,客観的立場での思考展開が可能 となり,それらの思考に科学性を与える基本と して超時間的認識としての「知識」を必要とす る。こ上に「知識」とは先人の開拓した諸々の 科学の結果を正確に把握することである。しか し乍ら今日の如く高度に発達した科学技術革新 の時代において.すべての分野に渡って科学的 知識を得ることは困難であり,独断的早合点に 陥り易く,個人的限界に遭遇するであろう。そ こに専門家同志および専門分野を異にする研究 者間の「対話」が必要なのであり,対話の中か ら各分野の核心に触れた新しい知見が得られる であろう。かくしてこそその思考はより科学的 客観性を持ち,民主的,社会的思考にまで高め られると共に,個人的には全人的個性の確立,
育成が可能であると考えられよう。更に「記 述」ということは知識の総まとめであり,前三 者「知識,思考,対話」の結果により初めてよ り正しく綿密な計画性を与えられ,その実践は より正しい行為に発展することが可能となる。
しかしこれらの機能はあくまで固定的なもので はなく「行為」を通して絶えず修正さるべき性 質のものである。強行は多分に非科学的,非民 主的行為である。過去の諸原理,諸法則が常に 原点に戻って試行錯誤を繰り返し乍ら,真理に 到達した如く,絶えず原点に戻り,相互に交流
環流思考の構造図
にする)こそ個人と全体の人間性にまで高めら れた科学的思考となるであろう。したがって
「思考,知識,対話,記述,行動」の五機能に よる思考は直列的に展開されるものではなく,
部分的あるいは全体に渡ってフィードバックし 乍ら修正,推考されることが必然的,絶対的条 件であり,その根底において人間性を指向して こそ,初めて正しい科学的思考となるものと考 えられる。例えば今日に見られる諸種の公害問 題は,科学技術の成果を単に生産的,経済的発 展の糸を重視し誤用した思考展開の結果であ り,工学と医学,農学あるいは社会科学との対 話を忘れた典型的例である。また原子核エネル ギーの発見が原子爆弾を産んだように,人間性 を忘れた科学的思考は正しい思考とはいえない であろう。
以上に述べた如く科学技術における科学的思 考の場の構造は,あくまで人間性を主体とし,
これに至る過程として全人的個性の育成と民主 的社会性の育成を基本に据えた五機能の有機的 環流思考の展開がなさるべきであると考える。
したがってその構造は次図の如きしのとなろ う佇
80金沢大学教育学部教科教育研究 第7号昭和49年
科学技術における科学的思考 展開の構造
の類似的性質を適用させることによって,その 概念を推論する思考方法である。
電圧,電流の概念を水圧,水流というより判 断しやすい現象にたとえて類推するのはその好 例である。水が流れるためには水位の差(落
第一図水流と電流
ポンプ
3技術科電気分野における科学的思考の発想
パターンとその思考展開電気諸現象特に技術科電気分野における関連 教材中の諸現象,諸法則の理論展開方法を大系 的に眺めると,その思考過程には幾くつかの発 想形式を見出すことが出来る,その主なものを 挙げると
1)類推的思考方法 2)数学的表現方法 3)理想化の方法 4)対応的思考の方法 5)等価変換的思考方法 6)B1ackbox的思考方法
7)独立相反事象の統一整合的思考方法 8)作用反作用の思考展開における法則性 等が考えられるが,一つの事象に対してこれら の諸方法は夫々単独に考えられるものではな く,理論をより真に近づけるためには,これら 諸方法を可能な限り,総合的に,思考展開に適 用することが肝要である。先づ現在教材として
取上げられているものを中心に夫々の思考展開
方法について述べる。水位一電位 水位差一電位差 水流一電流 (ポンプ)-(電池)
動カー電力
(海面基準)(大地基準)
水圧一電圧 原動車一起電力 水車一負荷
差,水圧)が必要であると同様に電流が流れる ためには電位差(電圧)が必要である。また水 車のなす仕事の量は落差と水量の積に比例する 如く,電気のなす仕事の量は電位差と電流との 積に比例する,さらに水流が単位時間にどれだ けの仕事をしたかを表わす動力の意味に対し,
電流が単位時間にどれだけの仕事をしたかを表 わす量として電力が定義される。この様に見る 事の出来ない電気現象の思考展開として既知現 象との対応において行なわれる類推的思考方法 はその概念的把握に極めて有効である。
2)数学的表現方法
実験的にある事象の相関関係を一般化して数 学的に表現することが現象の法則性を見出す最 良の方法であり,その式についての物理的意味 を考究することは,理学,工学における常套手 段である。例えばオーム法則に始まる電気抵抗 の学習は理科,技術科を問わず電気の最も基本 1)類推的思考方法
対象とする未知の諸現象に対して,既知現象
河合・広瀬:技術科における科学的思考展開とその発想パターン
的な性質として,その式の成立過程と,式の物 理的意味を十分徹底的に指導する必要がある。
このことは更に新しい未知の現象の発見,法則 化にも極めて有効な手立となる。
ある抵抗材料に色々な電圧を加えたとぎ,流 れる電流を測定して,横軸に電圧,縦軸に電流 をとって,グラフを画いたとき,第二図のよう にほぼ直線的関係が得られたとすれば,電圧,
電流の間には比例関係があると見散し得る。電
圧をE(v),電流をI(A)とするとられ,その結果
第三図抵抗と電流の関係 電流(A)
I
第二図電圧と電流の関係 -抵抗(Q)
G=告……(2)
電流(A)
1
の関係にあると考えられる(Gは抵抗のR(Q)の逆数でConductanceと呼ばれ単位をmho(U)
という)。すなわち後に(7)で述ぺる独立した二 つの相反事象GとRとが(2)式で示す如き統一的 整合性において成立つものと考えられる。かく
してI=÷……⑧すなわち電流は導体の
二点間に加わる電圧に比例し,その電気抵抗に 反比例する性質を有することになる。これが所 謂オームの法則であるが,ここにGの値あるい は電気抵抗Rの値は不変の一定値という仮定に 立っての話であり,材料の種類,長さ,断面積 によって定まるものである。
R=p一百・…..(4)
C(βは長さ,Sは断面積,Pは単位体積の 電気抵抗で固有抵抗あるいは比抵抗という)
しかしながら電流は電気を帯びた粒子(電荷)
の流れであることから電圧により力を受ければ 導体中の金属原子と衝突して絶えず運動を妨げ られ速度に変化を生ずるが,一定の強さの電圧
に対して電荷の速度は平均として一定の値を保 つことを条件に,全体として電圧と電流が比例 関係にあることを意味しているのであって厳密 には衝突が起れば当然熱の発生を伴い金属導体 の温度が上昇する結果となる。したがってオー ムの法則は,電圧を加えても温度は一定である という条件の下に成立する関係であるというこ ̄>電圧(V)
I=G・E(Gは比例定数)……(1) という関係式が得られる。ここに問題とされる のはGという比例定数が物理的にはどのような 意味を持つものであるかを考究することによっ てその抵抗材料の電気的性質が推論される。す なわちGの値が大きい物質ほど,同じ電圧を加 えても大きい電流が流れる,つまりGの大小は 物質における電流の流れやすさの度合を表わす ことになる。一方電気抵抗という概念は電流の 流れに逆う性質を意味するから,これをR(9)
の記号で表わせばRの大きい材料ほど電流は流 れにくくなるわけでRの大小は電流の流れにく さの度合を意味し,GとRとは正反対の性質を 有することになる。そこで実験により電圧を一
定に保ちながら抵抗値をいろいろに変えたとき
の電流を測定しRを横軸にIを縦軸にとってグ ラフを画くと第三図のような反比例の関係が得第7号昭和49年 82金沢大学教育学部教科教育研究
とが出来,現実的には存在し得ない理想的な材 料(電流が流れてもその抵抗値が変化しない)
として取扱われていることを注意せねばならな い。それならば電流が流れた結果温度が上昇し
たとき電気抵抗がどのように変化するか,という新しい命題「電気抵抗の温度による変化」を
調ぺる必然性に遭遇する。そこで実験の結果,温度を横軸に電気抵抗を 縦軸にとって両者の関係をグラフに画いたとぎ ほぼ第四図のような直線的関係が得られたとす る。
第四図抵抗と温度の関係
ここにα,=,急。t』でt1ocにおける抵抗の
温度係数を表わすものである。
上記の関係をグラフに画くと第四図のような 直線的関係が得られる。上述の如く(8)式は電気 抵抗の温度による関数関係として純粋な数学的 表現としての過程を述ぺたものであるが抵抗の 物理的意味として,当然材料の種類によって直 線の勾配の異なることが予想されるわけであ る。したがって種々の物質について調べる必要 を生じその結果一般金属では直線の勾配は正,
半導体や電解質溶液,絶縁体などでは負という 事が判明した,ここにおいて更に半導体,溶液 などでは何故勾配が負になるか,という疑問 が,次の課題として提示される事になる。
また高温の場合や低温における場合,グラフ において直線が横軸と交わる点,すなわち絶対 温度0.Kでは電気抵抗が0という事が果して 起り得るか,という疑問を生じ,更にその検討 を迫られるわけだある。これは絶対温度0.K 近くでは極めて小さい電圧で大電流が得られる 事を意味し,超伝導現象という現在の電気物性 における未開拓の分野として学界注目の研究課 題でもある。
しかし電気抵抗の性質そのものに関して未解 決の問題が残されているとはいえ,その性質の 一部を具体的に実用に供することは可能であ る。すなわち抵抗の温度による変化という結果 を利用して,直接温度計では測定不可能な電動 機など捲線導体内の温度上昇を知ることが出来 る。と変形されるから,ここで電動機運転前の巻線
⑧式よりt2-t,‐Bi;器』
……(9)抵抗値R,(tloCは通常測定時の室温を測る)
を測定し次に数時間運転後の巻線抵抗値R2(そ のとぎの温度をt2oC)を測定すれば,その抵 抗値の変化から間接的に導体内部の温度測定が 可能となる。
以上に述べた如く現象を理論化するための最 端距離は,実験観測,測定などの手段により,
現象を数量的に把握し,これを数学的に解析す
)0-200-10C
--シ温度に)
0°C,t1oC,t2oCにおける抵抗値をそれぞ れRoR1R2(Q)とし,αoを0°Cにおい て温度が1°C上昇したときの抵抗変化の割合を 表わす(抵抗の温度係数)ものとすれば,R1-
Ro/Roは温度が0.CからtloCまで上昇した
ときのRoに対する抵抗増加の割合であり,R1-Ro/Roをtlで割った値は1.Cの温度上
昇に対する抵抗変化の割合を表わすことになる
から,
Rl-R・×告=a。……(5)
Ro上式のαoのことを0°Cにおける抵抗の温度係 数という。(5)式を変形して
R1=Ro(1+αotl)……(6) 同様にR2=Ro(1+a0t2)……(7)
⑥例弍よりR2=R」・}主芸:芸
=R』{'+,景山(t2-t1)}
=R1(1+α1(t2-tl)}……⑧
河合・広瀬:技術科における科学的思考展開とその発想パターン 83
る方法を学習する事であり,そのことが直接,未出すことが出来る。
知現象の真理探求への糸口ともなるのである。
4)対応的思考方法
3)理想化の方法自然現象の中には,`全く異質の現象に屯かか 実現困難な.また必然的に質的変化を伴う現わらずその存在には共通した普遍的形式が存在 象に対して必要最小限の理想的な対象物を仮想し,その概念規定には類推的思考は有効である することによって,概念あるいは法則としてのが,これを数量化して数学的表現により更に一 客観性を賦与することが出来る。般化し,法則にまで高めるためには,既に数量 実験式を求める場合や統計的処理を必要とす化された既知事象との対応関係において思考展 る場合,上述の電気抵抗におけるが如く,厳密開することが,現象の理論化を促進さす原動力 な意味において一定状態を得ることが困難な場となることが多い。
合が多く,更に測定には常に人的誤差,機械的次に示す諸例の如く各事象の間に対応的関係 誤差等不可避の要素がある。したがって複雑なの存在することは明かであろう。その一部を次 現象に対して或る程度これらの条件を無視して表に示す。
理想化するとぎ普遍的法則としての客観性を見
電荷量 電流
q(c) 流体量 流量
’一
山一趾
q(㎡)○1 dq
u=で耐
オームの法則E=R・i
(鰯度ニー電気鮒
R大なるほど流れにくい
フックの法則F=K・S
(鯛性急:ング率…承)
Kが大なるほど伸びにくい
、電流)
電気・磁気に関するクーロンの法則
F=kql・q2
r2F=kml・m2
r2万有引力の法則
F=GM1衾M2
抵抗の温度による変化
R2=R1{1+czl(t2-tl))
線膨脹
’2=’1(1+α(t2-tl))
E一十m
L:コイルのインダクタンス I:電流
E-弓l-CV,
c:コンデンサーの静電容量 V:電位差
E=十W
k:バネの定数 A:振巾E=一万一mv2
1m:質量 v:速度
電磁エネルギー 振動のエネルギー
静電エネルギー 運動のエネルギー
超伝導 0.Kでは電気抵抗=0 超流動 0.Kでは粘性-0
第7号昭和49年 84金沢大学教育学部教科教育研究
光電子放出 負荷の端子電圧
---1---0 1
「
EC
R蒜
遮源
_ffj
EC=Ei-d・e
Eo:光電子放出エネルギー(出力エネルギー)
(十mV2)
Ei:光量子の持つエネルギー(エネルギー源)
(Ei=h・ソh:ブランクの定数〃:振動数)
e:光電子の電荷
。:金属の仕事函数
(光電子の放出を押える働きをする)
V=E-r・I
V:負荷の端子電圧(出力電圧)
(R・I)
E:電源の起電力(エネルギー源)
R:負荷抵抗 I:電流 r:電源の内部抵抗
(負荷の端子電圧を下げる働きをする。)
電気振動 減衰振動
m帯+C器+kx-O
m:錘の質量
c:空気摩擦などの抵抗力に関す る比例定数
k:復元力に関する比例定数 x:変位
L誇冊器+÷。
LC =0
R:抗抵 L:インダクタンス C:静電容量
E
ついて述べる。先づ最も簡単な例としてポルタ 電池の電気回路素子としての等価変換過程につ いて考えて見よう。衆知の如くこれは銅板と亜 鉛板を希硫酸中に浸したときのイオン化により 銅板は正に,亜鉛板は負に帯電して,両板間に
電位差を生ずるものであるが,化学作用により
銅板上に水素の気泡が発生し,これがイオンの 移動つまり電流の流れを妨たげろ作用をするこ とから電池の内部には一種の電気抵抗(内部抵 抗)が存在するものと考える。かくして電池は本 来化学作用に基づく電位差の発生を利用したも のであるが,これと全く異質の電気回路素子と しての内部抵抗を内蔵した電源と等価であるとの考え方から第五図の如く電池を。-''-.
内部抵抗を。----.の記号を用い て図解的表現方法をとり、電気回路の一部とし 5)等価変換的思考方法
電気回路理論における等価回路の概念は,類
推的思考方法,理想化の方法,対応的思考方法 等と相関連しながら,その理論を数学的思考に まで高めることによって整然とした理論大系を 築き上げた。一見解析困難と思われる事象も,
これを既知の諸法則を適用可能な形式に置き換 えて思考する方法は,現象の理論化の過程にお いて大なり小なりその根底には無意識的に等価
変換的思考方法が用いられているものと考えて
も過言ではない。市川亀久弥氏は電気系の承な らず理学,工学全般に渡ってその適用範囲を拡 張し,発見的思考方法としての等価変換的思 考方法の技術論的構造,認識論的根拠等につい て哲学的解明を与えているが,ここでは技術科 に関連深い二,三の例についてその思考過程に河合・広瀬:技術科における科学的思考展開とその発想パターン 85
て置換するわけである。このような等価変換法 によって初めてオームの法則が適用され,電池 を含む電気回路の理論化が可能となる。
第六図真空管増巾器回路図 ID+ip
 ̄T
Rep
台 --lL
第五図等価回路 I
pCmUや
~T
RV
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電「
VcVB
第七図真空管等価回路の求め方
IIIIL
池
すなわち負荷抵抗Rに流れる電流の大きさはオ
E ……⑩
-ムの法則よりI=r+R
⑩式を変形して1.R=E-I・r……⑪
⑪式においてI.Rは負荷抵抗R両端の電位差 (V)を表わし,Iorは電池の内部抵抗による電 圧降下分として起電力Eに逆う働きをなし而も その効果は電流が大きいほど著しくなる。その 結果電池の起電力は正規の値であっても負荷を 接続して電流を流せば実際に負荷に加わる電圧
(1.R)は減少することになるわけである。新 品の乾電池であっても化学反応は絶えず行なわ れており次第に内部抵抗は増加の一途をたどる ことから遂には使用不能に至る理由も等価変換 により得られた電気回路としての⑪式から明ら かとなろう。
次に真空管増巾器(中3教材)の例について その思考過程をたどって見よう。
三極真空管ではグリッド電圧の僅かな変化に よってプレート電流が大きく変化する性質を持 っている。そこでプレート電流の変化を電圧と
して取り,出すため,プレート回路に負荷抵抗R
を挿入し,Rの両端に現われる電圧降下の変化 として利用するわけである。第七図は真空管の Eg-IP静特性曲線である。第六図の如くグリ
ッドにはVcの直流負電圧,プレートにはVB
E
衿』E3-斗
の正電圧がかげてあるから,プレートには常時 IBなる直流電流が流れている。このときのプレ ートに加わる電圧EpはEp=VB-RIB=VBo である。すなわちPが動作点となる。いまグリ ッド電圧EgをVcからjEgだけ増したとぎ プレート電流IpはIBからJIpだけ増したとす ると,負荷Rには電圧降下jEpが起り⑫式の関 係が得られる。
jEp=R・JIp……⑫
プレート電圧EpはVBoよりR・jIpだけ減 少して第七図のQ点に相当する値となる。
Ep=VBo-R4Ip……⑥
したがってjEgの色々な値に対するEpを求 めてグラフを画くと点線のような曲線が得られ
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る。この曲線が動作特性曲線と呼ばれるもので あるが,ここでプレート電圧の減少分jEpをグ
リッド電圧に換算すると,JEpだけの減少と
この回路を定電圧等価回路と呼んでいる。この ように第六図の真空管回路では,グリッド回路 とプレート回路の二つの回路で構成されている が,第八図の如く真空管は内部抵抗rPを有す る電圧/Mgなる電源であると見散す等価変換 によって初めて一つの閉回路となり,ここにオ ームの法則が適用されることを示している。
以上のような思考過程は前例の電池が内部抵 抗rを持った起電力Eの電源として等価変換に より理論化された場合と同一形式であり,電池 と真空管という全く異質の事象にもかかわらず その根底においてその思考展開方法には統一的 類似性が見られ,ここに等価変換的思考方法そ れ自体に思考の普遍性,法則性が存在するもの
と思われる。
α
なる。そこでこの電圧変化がどれI承どのプレー ト電流変化になるかを考えて見ると,プレート 電流がJIpの変化をするためにはプレート電圧 を一定値VBoに保ったままとすれば,グリッ ド電圧をJEg′(PからTまで)だけ変化した 場合に相当する。したがって
岼譽麺』Eg'=g鰄(』Eg-`三p)
……⑭ となる。ただし9mは曲線の傾きを表はし9m=
鐙である。上式に⑫式および"=…の
関係を代入して計算すると
昨急驚……⑮
となる。したがって4Egの代りに正弦波交流
09を加えれば、プレート電流の変化分41pはiP で表わされる。すなわちルー鍔T……⑯
となる。上式においてMgは交流電圧,rp+R は合成抵抗に外ならぬから,電気回路として は,Mgの電源に(rp+R)の抵抗を接続した 場合と等価であると考えることが出来る。した がって第六図の真空管増巾器は直流電源をすべ
て省略し,増巾に関係ある交流分の承について の第八図の如き電気回路と見散すことが出来る壼亙l-l等価変竺的思考'一|霊
↓
統一的思考展開
6)B1ackBox的思考方法
電源を含まない一般電気回路網の性質を調べ る場合,例へぼある電気機器の内部構造が如何 に複雑なものであろうとも,この機器が外部と
2つの端子で接続されてるとぎ,この電気機器 の回路網を2端子回路網という。この場合機器 内部の構造が不明であるということからこの2 端子回路網をB1ackbox(暗箱)と考えるわけ である。
第九図2端子回路網 第八図定電圧等価回路
「 ̄
真
空 Rp
管
L-
いま数個の異った電気機器があり,いづれも 2端子を有し外部から一定電圧を加えて流れる
記0弓9.02=1-
2端子 回路網
近源
河合・広瀬:技術科における科学的思考展開とその発想パターン 87
として求められる。したがってたとえ内部構造●●
不明の回路網であって4,,この四端子定数AB
●●
CDの値を実験的に求めることによって回路網
の特性を表現することが出来る。
なお別例として電気理論において重要な法則 鳳・テブナンの定理を挙げよう。
これは起電力を内蔵する任意の回路網があっ て2端子を有し、その端子間にあらわれる電位● 差をVab,内部構造は不明であるが,兎も角端 子abから回路網Aの全体を眺めたときの合成 抵抗(一般的にはコイルのインダクタンスや静● 電容量などを含むインピーダンス)をZabとす● ると端子cd間に別の抵抗(インピーダンス)Z● を接続しプヒニとぎ,このZ中を流れる電流Iは●
電流を測定した結果いずれも同一の値が得られ たとすれば,これらの機器は電気回路網として は全く同一の性質(等価である)を有するもの と考えられる。
またある電気機器あるいは電気回路網に入力 端子と出力端子とがあり,入力端子にある電圧
を加えたとぎ出力端子からどのような電圧が得 られるかを調べることによっても同様にその機 器あるいは電気回路網の特性を知ることが出来 る。例えば第十図において,入力端子abに電
第十図4端子回路網
11 a C Iヮ
4端子回路網 Z`) ̄
の V,
VI
i=.Va、
……③Zab+Z
として求まるというものであるが(証明省略)
その思考の基本的発想パターンは,明らかに B1ackBox的思考方法によるものである。
b 。
圧v,を加えたとき流入する電流をi,,この
とき出力端子cdにあらわれる電圧をV2,負 荷Z2に流れ電流を12とする。このときの電 圧,電流の応答は四端子回路網の内部構造によ って異なった値をとるものであるが,一般に次 の関係が得られる。(厳密な数学的証明は本稿
の目的ではないので省略する)V1=AV2+BI2……⑰
.i,.=こ▽’+らi,……⑱
ここにABCDは四端子定数と呼ばれるもので
出力端子cdを開放した場合は12=Oである
から
⑰式M=(鶚)M……⑲
⑱式よ'と薑(肴ルーr⑳
第十一図鳳一テブナンの定理
ヱ
以上のようにこの方法は内部構造不明の機器 あるいは電気回路網などの性質解明に極めて有 効な手段であり,送電線や通信回路,フィルタ ーや減衰器,真空管回路,トランジスタ回路等 の理論解析に応く適用されているものである。
●
次に出力端子を短絡するとV2二=Oとなるから 7)独立相反事象の統一整合的思考方法 自然現象特に電気現象には,互いに正反対の 対立的性質を持った事象が共存していて,互い に他を補いつつ,その統一的整合性において平 衡状態を保つ事例が極めて多い。例えば電気諸 現象研究の発端は紀元前600年前にさかのぼる
●
V1
11 11
●
⑰式よりB=二 ● ……⑪ V2=0
●
12
●
11
●
(、)式よりD= ● ……⑫ V2=0
●
12
a
 ̄
 ̄iubf1
-8
b 冠源を
含む回 路綱
0
88金沢大学教育学部教科教育研究 第7号昭和49年
タレスの摩擦電気の発見であろう。異種の物質 に摩擦という外部的エネルギーを与えると,そ の物質は軽い物体を吸引あるいは反擁するよう になる。種戈の物質について外界に現われるこ れらの性質を調べた結果,物質には本来正負反 対の性質を持った電荷(電気を帯びた粒子)が 均等に調和的共存を保っているものであるが,
これが他の物質によって摩擦という異状な外部 エネルギーを与えられると同一の性質を有する しの同志が相集る性質があり一方の物質には正 の電荷が,他方の物質には負の電荷が集って,
帯電するものである。したがって正あるいは,
負に帯電した物体は,本性としては不安定な状 態(励起状態)にあり,出来得れば正負等量の 電荷が互いに中和し合って正常な平衡状態を保 とうとして,両者の間には必然的に吸引力を生 ずる性質が自然に備っているものであると考え られる。後にクーロンはこれを静電誘導現象の 説明に適用した。すなわち正あるいは負に帯電 されたA物体を帯電されていない安定状態の物 体Bに近づけると,B物体は外部エネルギーを 受けて,その内部に等量含まれていた正,負の 電荷に力を及ぼし,外部エネルギーを受けてい る間,A物体に近い方には異種の電荷が,遠い 方には同種の電荷が集まる。この異種電荷間の 吸引力,同種電荷間の反携力に関して,クーロ
ンは実験により定量的に調べ,これらの力は正 負電荷量の相乗積に比例し,両者間の距離の自 乗に反比例するとの数学的表現にまで高め,真 空中の承ならず媒質中においても成立するとい う一般化,普遍化によって遂いに静電気に関す る法則を発見したのである。
F=kQ1Q2
r2このように自然界における諸現象はそれ自体互 いに相反する事象の統一的整合性において均衡 を保ち安定な定常状態を維持するものであると の考え方が成立するであろう。今日の原子物理 学における原子構造の基本的概念も,その思考 の発想パターンはこの思考展開によるものと思 われる。
次にこの相反事象の統一整合的思考方法が具 体的に科学技術の開発に適用されている例を中 三教材の蛍光放電灯について考察しよう。
蛍光放電管は熱陰極を持った低蒸気圧水銀灯 の一種であるが,その電圧・電流特性は管電流 が増すと管電圧が低下し,電流が益を増加する 傾向がある。
第十二図熱陰極放電管
一
. 〆一一 ●の →M、一
●① → +●=>
●-
●ilML子o水釧i仏子④水jllイオン
一般にガス放電管は点灯前であっても大気中 の放射線等の影響により僅かながら水銀蒸気は イオン化している。いまフィラメントを熱し,
両極間に電圧を加えると,フィラメントからの 熱電子は+電極へ加速され,移動の途中水銀粒 子に衝突して,これをイオン化すると共に新た に電子を放出する。この電子は更に他の水銀 粒子と衝突して+イオンと電子に分れ飛躍的 に電子が増加する。その結果管内は次第に溥電 性を増し管内の抵抗性は減少する。一方水銀の
+イオンは負電極へ移動すると共に管内電子の 負電荷を中和して管内電圧降下を防ぐことにな るが,フライメントに衝突して電極を熱し熱電 子の放出を助長する結果となり増食管内電子の
第十三図放電管の負特性
↑電圧
db
I
1011
C
定供給電圧
1100
1.1
工◎工0
一>電流河合・広瀬:技術科における科学的思考展開とその発想パターン 89
増加を来す(電流増加),このようにして電子
が増えれば益を導電性が増して放電に必要な電 圧は減少することになるから一定電圧印加の下
では急速に電流増加を来たし逐いには放電管を破壊する結果となる。
すなわち第十三図においてa点で一定の供給 電圧と放電に必電な電圧とが平衡して電流10が 流れているが,管内電子の増加により電流が少 しでも増加して11となれば,11なる電流が流 れるために必要な電圧は放電管の負特性により cdに減少し,電源電圧は一定電圧bdである からbcだけ過剰の電圧が加わる結果となり電 流は増加の一途を辿ることになる。逆に電流が 10より減少すれば放電に必要な電圧は不足する ことになるから電流は急速に流れなくなる。し たがってa点における平衡状態は極めて不安定 である。この負特性に対して何等かの方法を講 じなければ放電を維持し,長時間照明という照 明本来の目的は達せられずその実用化は不可能
である。そこでこの電圧電流の負特性に対する相反事 象として電流増加を妨げるような正特性を有す る電気素子は何かということから,抵抗あるい はインダクタンスコイルが想起されて来よう。
したがって放電管に直列に抵抗またはコイル
(このような目的のコイルを安定器と呼ぶ)を 挿入すれば,その電圧電流特性は正特性である
第十四図安定放電説明図
することになる。すなわちb点では電流がIbを 越せば放電に必要な電圧は不足することになり 電流は減少しようとする。次に電流がIbより小 さくなれば放電に必要な電圧は電源電圧より少
<なり再び電流を増加するように働き,最終的 には自動的にIbなる一定電流で安定な放電を持 続することになる。
上例と同様な思考展開は発電機,電動機の負 荷運転等に対しても適用され,相反事象の統一 的整合性の思考展開における適用は電気事象に 限らず科学技術の開発に占める役割は極めて大 きいものといえよう。
8)作用反作用の思考展開における法則性
(単一事象における相反事象の統一整合性)
力の場における単一事象の理論解析に当りそ の思考展開としてニュートンの作用反作用の法 則を適用して成功した例は極めて多い。電気現 象に関する最も簡単な例として再びオームの法 則を取り上げよう。巨視的立場で,ある物質に電 流を流すには外部的エネルギーの供給が必要で あるが,物質の種類によってその大きさに違い の生ずることが直ちに経験される。したがって 物質の電気的性質を調べる第一の方法は,種々 の物質について電流の流れやすさの度合(電気 伝導度)を調べることである。オームは種々の
物質について電圧と電流の間の定量的関係を調
べ,凡ての物質に共通した統一的法則を見出し たわけであるが,この法則を物質の電気抵抗と いう概念的立場から考察を加えよう。ある物質に電圧を加えて電流を流そうとすれ ば,電流は電荷を帯びた粒子の流れであること から必ずこれに抗らう力(衝突による抵抗力)
を生じ,その力の方向は加えた電圧とは逆方向 に働き,これら二つの相反する力は常に相伴っ て発生し,均衡を保って定常流としての電流が 流れる。つまりRなる電気抵抗を持った物質に 加える電圧の方向を矢印の方向とすれば,抵抗 Rには加えられた電気的圧力に応じた否定的反 抗力が発生しその大きさは等しく方向反対であ る,つまり抵抗Rの両端子間には逆起電力E'
↑
(3)綜合将性近
圧 OL b
(2)抵抗、
などのインダクタス llL特性
(1)放祗管の 負特性
一三一砿減
エOL
から,総合特性は(3)のような曲線となり,一定
の電源電圧に対してa点では不安定で直ちに電 流は増加するがb点に至って安定な放電を持続第7号昭和49年 9O 金沢大学教育学部教科教育研究
回路を接断してもその瞬間同様の現象が起る。
而も検流計の振れは磁石の出入れ,回路の接断 によりその方向に違いを生ずるというものであ
る。
このような現象の説明としてFaradayは右ネ ジの法則を基礎として「コイルに発生する起電 力は,コイルを貫く磁束数の変化の割合に比例 する」ことを発見した。すなわち第十六図で磁 石のN極をコイルに挿入することはコイルを貫 く磁束数の増加という作用を意味し,この時必 ずその反作用としてコイルの上端がN極となっ て磁石の接近を妨げるような逆方向の磁束の′
が発生する。また逆に磁石を引き出す時は磁束
が発生して初めてこの回路は均衡を保つものと
考えられ次式が成立する。
E+E'=O……⑭
第十五図起電力と逆起電力
工
EI _R
 ̄ △ハーーーーーー 亡」 ノところでこのE′なる力は電流Iの大きさに比 第十六図
例し且つ電流の流れに抗う力であるから
E'=-1.R……⑮
したがってE+(-1.R)=O……⑯ すなわちE=1.R……⑰
となりオーム法則が導かれたことになる。
ただし印加電圧の前後において温度は不変と いう条件が含まれていることは2)の数学的 表現方法の項において述べた通りである。
このように電流を流そうとする起電力(原動
力)と電流の流れに抗う物質の抵抗作用はニュ ートンの作用反作用の概念に他ならず,この法 則の思考展開における法則性が窺えるのであ る。次に電磁誘導の現象を例として更にその法 則性について調べよう。技術科電気分野の学習 内容は殆んど交流現象の応用であり,インダク
タンスを含む回路は勿論,小はブサー,マイク ロホンから大は発電機,電動機,変圧器,ライジ送受信機等殆んど凡ゆる電気機器は,電磁誘 導現象を根幹とした思考展開の結果,今日の如 き広範な技術開発に至ったものである。したが
ってこの現象の概念的,理論的把握は本教科の 大黒柱とい、えよう。電磁誘導現象は第十六回のように一個のコイ ルに検流計を接続し,磁石を出入するとその瞬 間だけ電流が流れる。また第十七図の如く磁石 の代りに,他の独立したコイルに電池をつなぎ
■
O↓
■■■■■』■国■■■■■り
の
第十七図
: 中
河合・広瀬:技術科における科学的思考展開とその発想パターン 91
減少という作用に対してこれを補う様にコイル 上端がS極となる如き磁束が反作用として発生 する。磁束発生の原因はコイルに電流が流れる ことであり,電流が流れるためにはコイルの両
端に電位差(電圧)がなければならぬ。この様 な作用反作用の考えを導入してレンツは「電磁 誘導によって生ずる起電力は,磁束の変化を妨 げるような向きに発生する」と表現した。
次にこの時発生する起電力の大きさを数学的 に表現したのがノイマンの法則である。すなわ ち磁束の4t時間に起った磁束の変化量を⑩ とすると磁束増加という作用に対し,その反作 用として磁束減少という新たな力(起電力e')
が発生しその大きさはコイルの巻数を、として
次式が得られる。。'=-N一笑L……⑳
上式のe'のことを逆起電力と呼ぶ。
負号は磁束増加という原因に対して磁束を減 少させるような逆方向の磁束を新たに作るため に起電力が発生するという意味である。更に磁 束発生の原因は電流であり,電流が大きいほど 磁束数も多くなる。すなわち磁束数は電流に比
例することから比例定数をLとしてN・」の=L・」i……⑳
したがって。'一L美……`,
ここにLはコイルの構造によって定まる定数で コイルのインダクタンスと呼び,ヘンリーの単 位を用いる。つまり1ヘンリーとは1秒間に1 アンペアの電流変化を生じたとぎ1ボルトの逆
起電力を発生するようなコイルのインダクタンスのことである。
このような思考方法はオームの法則における 抵抗の概念と同一形式であり,加えた交流電圧
eに対して,e'なる逆起電力がコイル両端に発 生して,両者は統一的整合性を保つものと考え
られる。
e+e'=0……(31)
。+(-L-;;_)=O……鯛
。=L-i;÷……㈹
かくしてコイルは交流に対して抵抗の働きを有 するものであることが理解されよう。
第十八図
トel
且SIIIlIII o』 〃E
E:直流電源電圧L:交流電源電圧 E′:逆起電力e′:逆起電力 R:抵抗L:インダクタンス 以上に述べた如く,自然な安定状態に置かれ たコイルが,磁束変化という異状な外部エネル ギーを与えられた時,自ら安定な状態に戻ろう として,コイル自身の中に磁束の変化を補うよ うに逆方向の磁束をいわば自己防衛的に発生す るのは自然の姿であると思われる。
このようなコイルという単一事象の中に,磁 束増加と磁束減少という二つの相反事象が相伴 って起り,而もこれは切り離して考えることは 出来ない。ここに二相反事象の統一的整合性の 科学的思考展開における法則性が存在するもの
と思われる。
4むすび
技術科特に電気分野の学習内容は応用科学と
しての技術学であり,2年では電力応用工学の分野を,3年では電子応用工学の分野を取扱う
等比較的新しい総合科学的電気機器を直接対象とするためその学習には物理化学的内容から工
学的内容に渡る広範な知識を必要とし,而も時 間的制約から勢い基礎的理論の系統学習は理科
に依存し,応用工学的内容を主とせざるを得な い。しかしながら現状は理科と技術との関連は必 ずしもスムーズには行かず,学習単元や時間的 配慮等に困難性があり,系統的学習迄には至っ
第7号昭和49年 92金沢大学教育学部教科教育研究
ていない。例えば電力応用系では数種の電気機 器を題材に分解,組立,使用法といった機器の 保守管理的傾向が強く,また電子応用工学系で は,真空管,トランジスタを主とした増巾器な どを扱い総合機器としてのラジオ受信機やトラ ンジスを用いたインターホンなどを教材として いるが,これらはかなり高度な理論的内容を有 するに屯抱わらず系統的学習の困難性から兎角
市販の実習用教材キットによるプラモデル的学
習に追い込まれているのが実態のようである。この様な学過程からは技術科に課せられた本来
の目標は達せられず,駄らに技能的学習に終始 する危険性を孕んでいる。ここにおいて技術科教育過程の再編成と学習 の系統化により,その指導理念をより明確にす る必要があると思われる。
本稿では広く人間性を主体とした科学技術に 対する基本的な考え方を出発点として.電気分 野を中心に,その科学的思考の発想パターンと,
その思考展開を,主として古典力学的立場(マ
クロ的観察)から考察を加えたが,夫々2,3 の例に止まり未だ舌足らずの感が深い。今後は 更に量子力学的立場(ミクロ的観察)からの考 察と合せて純粋科学から現代科学技術への工学 的アプローチとしての思考展開法を探求し,技 術科教育法の教育学的学問大系への位置づけと 実践的学習指導法の確立を期したい。
おりに本論文の査読をお願いし,御懇切なる 御助言をいただいた本学部水越敏行助教授に対
し深く謝意を表します。
参考文献
1湯川秀樹:現代科学と人間岩波書店 2中谷宇吉郎:科学の方法岩波新書 3市川亀久爾:独創的研究の方法論三和書店 4山本勇:電気磁気学オーム社 5電気学会編:電気磁気学電気学会 6後藤良:電気工学の創造学習オーム社 7文部省:改訂学習指導要領
8技術科教育研究協議会編:技術科教育論 文理書院