芝浦工業大学工学部建築工学科 2012年度卒業論文・卒業設計梗概
研究指導:赤堀忍 教授
Satoshi MIYACHI壁の中の集落
Keywords
木造密集市街地 スラムクリアランス 地域コミュニティ
K09096宮地 悟史
防災 表出
1.はじめに
木造密集市街地では、スラムクリアランス型の手法が 行われており、東京都東部では市街地再開発事業によっ て町並みは大きく変わった。しかし、スラムクリアラン ス型の手法は、結果として、防災に必要不可欠なコミュ ニティを解体してしまっている。こうした教訓は、既に 数十年前から、欧米で指摘されており、日本でも兵庫県 真野地区に代表される地域コミュニティを防災に活かす 取り組みが行われてきた。しかしながら、東日本大震災 を受け、改めて、かつてのスラムクリアランス型の事業 を主軸に据えた不燃都市の建設が目指されている。
2.研究背景
2.1
木造密集市街地の危険性
木造密集市街地の危険性は「倒壊危険性」と「火災危 険性」とに分けられる。木造密集市街地内では、老朽化 した建物や既存不適格建築物が多いために、他の地域に 比べて倒壊危険性が高くなっている。また、細い路地が 多く、有事の際には倒壊した建築物で道路が寸断される 危険性もある。火災時には、隣棟間隔の狭さから延焼が 早く広がる危険性があり、狭隘道路によって迅速な消火 活動を行うことができない。
2.2
木造密集市街地の現状
木造密集市街地では、道路や公園等の都市基盤が不十 分であることに加え、居住者の高齢化による建替え意欲 の低下、狭隘道路のために接道条件を満たしていない、
狭小宅地などによって、建て替えが進んでいない。しか しながら兵庫県、真野地区のようにコミュニティを防災 面で活かす運動が行われており、実際に阪神淡路大震災 では近隣住民を率先して救出している姿が見られた。
3.
研究目的
これまでの数十年にわたって継続された、木造密集市 街地の空間性やコミュニティを維持、存続させ、活用す ることに因って、防災面の脆弱性を克服し、木密空間を 都市の中においてより安全でより魅力ある空間にしよう とする。
4.
敷地
東京都港区元麻布2丁目を本計画の敷地とする。
写真1 敷地航空写真
敷地周辺には、既に再開発事業が行われている地域が 多く、周囲とは階高の差が如実に現れている。また擁壁 に囲まれており、谷底にへばりつくようなかたちで小さ な木造密集市街地が広がっている。
写真2 敷地写真
4.1敷地現状
図1 敷地詳細図
芝浦工業大学工学部建築工学科 2012年度卒業論文・卒業設計梗概
敷地内には現在
63戸の住宅が存在し、うち
7戸が空き 家になっている。住人の高齢化が進んでおり、高齢者の 一人暮らしも多く見られる。そのため今後、空き家の増 加による地域コミュニティの急速な衰退が予想される。
図
1に示したとおり、狭隘道路の末端になるほど古い物 件が増え、袋路の先端では特に老朽化が深刻である。ま た、平屋、
2階建ての長屋が多く、それらの建て替えが 進んでいない状況にある。
本敷地にアクセスする幅員
4m以上の道路は南側から 伸びるだけである。北側には擁壁があり、狭い道路が続 いている。宮村児童遊園側では公園を通してアクセスで きるため、外に対して開かれている。西側では袋小路が 多く回遊性がないため、外に対して閉ざされている。
4.2
敷地分析
写真3 表出、あふれ出しの場
敷地内では、あふれ出しや表出を多く見ることができ る。バイクや自転車、室外機が道路にあふれ出しており、
植栽などは開口付近に表出することで道路からの視線を 遮り、プライバシーを確保しようとしているものもあっ た。椅子や机を軒下に置き、住人同士が屋外で談笑でき る工夫も見られた。通常の戸建住宅と比べ、収納スペー スの不足があふれ出しを起こし、狭小住宅が表出を起こ す原因と予想できる。個々の住宅としては「欠けた住 宅」であり、お互いに欠けた要素を補いあう事によって 地域として成り立っている。このことが通常の住宅街と 比べ生活感を強く感じ、領域化されている要因である。
5.
設計趣旨
木造密集市街地をスラムクリアランス型の手法で解く のではなく、既存の住宅同士の密な関係性で生まれてい る空間性や、コミュニティを存続出来るようなかたちを 目指す。延焼の防止と、避難経路を新たに取り入れ、防 災面の脆弱性を克服することを目的とし、コミュニティ の持つ防災性とハードの防災性の両立を図る。
6.
プログラム
住宅と共に、地域の人々が活用できるシェアルームを 作り出す。具体的には、アトリエやスタジオ、レクチャ
ールーム、会議室、書斎、ゲストルームなどで、狭小住 宅のために「欠けた」要素を補う場として使われる。
7.
設計手法
既存住戸に防火区画に準じた防火壁と避難経路を挿入 していく。地域を細かくガワとアンコの関係性を築いて いき、延焼の防止と二方向避難を可能とさせる。
従来の防火区画、避難経路では日常的に使われる空間 にはなりづらい状態であったが、あえてそこに向けて住 宅を開いていくことによって、新たな路地空間を創りだ し、コミュニティを強める空間となる。
8.
おわりに
防災のための空間が日常生活を支える。日常の生活が 防災を強める。ここに住む人々は、防火壁を従来の防火 壁とは思わずに使っていくことになるだろう。それは、
ハードとしての防災性を高めていくにしたがって、人間 の生活から離れてしまっていった防災のための空間を、
もう一度人間の手に取り戻すことに繋がるのではないか。
人間の手に取り戻した時、それまでとは違った、木造密 集市街地の解消の仕方が見えてくるはずである。
参考文献
1) 東 京 都 「 木 密 地 域 不 燃 化 10 年 プ ロ ジ ェ ク ト 」 実 施 方 針 http://www.metro.tokyo.jp 2013年1月17日現在
2) 次世代街区への提案「安全で環境にやさしい街づくり」三宅理 一、林明夫著 鹿島出版会 1998
3) それでも「木密」に住み続けたい! 後藤治・関澤愛・三浦卓 也・村上正浩著 彰国社 2009
4) 空間管理社会 監視と自由のパラドックス 阿部潔・成実弘至 著 新曜社 2006
5) 都 市 化 と コ ミ ュ ニ テ ィ の 社 会 学 金 子 勇 ・ 森 岡 清 志 編 著 ミネルヴァ書房 2001
6)空間のために 偏在化するスラム的世界の中で 篠原雅武著
以文社 2011
7)密集市街地整備法の解説 建設省都市局・住宅局監修 密集市 街地整備研究会編集 大成出版社 1997
8) 路地からのまちづくり 西村幸夫編著 学芸出版社 2006
01 ダイアグラム
02 全体計画
防火壁 避難経路
防火壁 避難経路
既存住戸の構造、開口を生かしつつ、
防火壁と避難経路を挿入する。
老朽化した既存住戸に、 構造補強され、上部へと伸びる。 防火壁、避難経路は住戸と密接し
た関係を築き、外に開かれた住戸 から生活感が溢れ出す。
既存住戸との間な どに防火壁を挿入 していく。
既存住戸と挿入さ れる住宅とでガワ とアンコを形成す ると共に、壁を操 作することによっ て表出を促す。
避難経路が挿入さ れていくことに よって、回遊性が 生まれるだけでは なく、様々な空間 体験のできる路地 となる。
避難経路、動線、敷地 の現状などを頼りに ゾーニングを行う。
高齢単身者向け 住居群
単身者向け 住居群
家族向け 住居群
Private public
03 詳細〜高齢単身者向け住宅群〜
0 4 シークエンス
S=1/300 一階平面図
S=1/300 断面図
外観写真 新規増築部
S=1/300 2 階平面図
避難経路によって生まれる隙間 既存の長屋の 1 室が取り壊され、地域の中庭になる。 防火壁に沿うように育まれるコミュニティ 高齢者の単身住まいの人のための住居を用意する。閉じられた住宅では、なかなか外部と接することができ
ずに、家に引きこもりがちになるが、避難経路に向かって居間を開くことによって、外とのつながりを容易 に行えるようになる。縁側のように腰を掛けて話せるようにしたり、防火壁にあふれ出しを許容する操作を することにより豊かなコミュニティが育まれる。
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