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「土砂災害防止法による区域指定の効果に関する研究」

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土砂災害防止法による区域指定の効果に関する研究

〈要旨〉 近年、全国各地で土砂災害被害が発生し土砂災害に対する危機意識が高まり つつある。国は土砂災害から土砂災害リスクの周知等のソフト対策を目的とし た土砂災害防止法を制定した。土砂災害防止法の制定をうけて行政は土砂災害 の危険区域の調査・把握を行い、土砂災害のおそれがあると明らかになった土 地について土砂災害警戒等区域の指定を行っている。区域指定により土地の抱 える災害リスクが明らかとなり、適切な土地価格の形成が促されると考えられ る。しかし、リスク周知のための土砂災害警戒等区域の指定が、地価を下落さ せる等の理由により住民等の反対があり、区域指定が進んでいない実態がある。 このため、本稿では土砂災害防止法による土砂災害警戒等区域の指定による 情報の非対称性の解消に着目し、政策実施により情報の非対称性が解消されて いるか、区域指定と構造規制等が地価を下落させているかについてヘドニック 法により実証分析を行った。そして区域指定と構造規制等がともに地価を下落 させていることを明らかにし、分析結果から土砂災害防止法による政策の今後 のあり方の提言を行った。 政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU14619 吉永 亜希

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目次

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1 1 1 1 はじめにはじめにはじめに ... 2はじめに 2 2 2 2 土砂法の概要土砂法の概要土砂法の概要 ... 3土砂法の概要 2.1 土砂法の背景と概要 ... 3 2.2 対象となる土砂災害 ... 3 2.3 イエロー・レッドゾーンの指定 ... 4 2.4 イエローゾーンの概要・指定基準 ... 4 2.5 レッドゾーンの概要・指定基準 ... 4 2.6 土砂災害警戒等区域指定の現状 ... 5 3 3 3 3 理論分析理論分析理論分析 ... 5理論分析 3.1 イエロー・レッドゾーンの指定による情報の非対称性の軽減 ... 5 3.2 レッドゾーンにおける構造規制等の効果 ... 6 4 4 4 4 実証分析(イエロー・レッドゾーンの指定による情報公開の効果)実証分析(イエロー・レッドゾーンの指定による情報公開の効果)実証分析(イエロー・レッドゾーンの指定による情報公開の効果) 実証分析(イエロー・レッドゾーンの指定による情報公開の効果)... 7 4.1 実証分析に使用するデータ(分析モデル1・2) ... 7 4.2 データ作成方法(分析モデル1・2) ... 8 4.3 実証分析1(パネルデータを用いた固定効果モデルによる推計) ... 9 4.3.1 推計モデル1(分析1) ... 9 4.3.2 推計結果・考察(分析1) ... 10 4.4 実証分析2(パネルデータを用いた固定効果モデルによる推計) ... 10 4.4.1 推計モデル2(分析2) ... 11 4.4.2 推計結果・考察(分析2) ... 12 5 5 5 5 実証分析(レッドゾーンの指定による規制の効果の定量的分析)実証分析(レッドゾーンの指定による規制の効果の定量的分析)実証分析(レッドゾーンの指定による規制の効果の定量的分析) 実証分析(レッドゾーンの指定による規制の効果の定量的分析)... 12 5.1 実証分析(クロスセクションデータを用いたOLSによる推計) ... 12 5.1.1 実証分析に使用するデータ ... 13 5.1.2 推計モデル(分析3) ... 13 5.1.3 実証分析手法の検討 ... 13 5.1.4 推計結果・考察(分析3) ... 15 5.1.5 ケーススタディ ... 16 6 6 6 6 政策提言政策提言政策提言 ... 17政策提言 7 7 7 7 おわりにおわりにおわりに ... 19おわりに

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1 1 1 1 はじめにはじめにはじめに はじめに 平成26年8月20日に発生した広島県での土砂災害では死者74名、負傷者44名、家屋全壊は 132戸に上るなどの甚大な被害がもたらされた。また、同年10月6日には台風18号の影響に より横浜市でがけ崩れによる死者が発生するなど、全国各地で土砂災害被害が発生し、土 砂災害に対する危機意識が高まりつつある。平成12年から平成26年の過去15年間の土砂災 害被害件数は、各年の気候状況によって大きく差があるものの、毎年約1000件程度の土砂 災害が発生している。 土砂災害防止法(正式名称は土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関 する法律(平成12年5月8日法律第57号)、以下「土砂法」という)は、土砂災害から国民 の生命を守るため、土砂災害のおそれのある区域について危険の周知、警戒避難態勢の整 備、住宅等の新規立地の抑制、既存住宅の移転促進等のソフト対策を推進するために制定 された。土砂法の制定を受けて行政は、土砂災害危険区域の調査を行い、調査の結果、土 砂災害の危険があると明らかになった区域について土砂災害警戒区域(以下「イエローゾ ーン」という)及び特別警戒区域(以下「レッドゾーン」という)の指定を行っている。 しかしながら、行政は調査を実施し土砂災害の危険を把握しているにもかかわらず、住民 等の反対によりイエロー・レッドゾーンの指定が進んでいない実態がある。住民が指定に 反対する理由として、平成23年に国土交通省が47都道府県にあてて行ったアンケート調査1) によると、①土地価格の低下を懸念していること、②構造規制に反対であることが挙げら れている。 これまでの先行研究では、西嶋(2009)が土砂災害等リスクの資産価値へ与える影響と資産 評価上の課題について整理し土地評価手法について検討を行っている。また、八木(2007) では、土砂災害に関する法規制について整理している。しかし、土砂法によるイエロー・ レッドゾーンの指定が土地取引市場の価格にどのような影響を及ぼしているのか実証分析 をしたものは見当たらない。 一般に、土地取引の売り手と買い手の間には、土地固有のリスクに関する情報の非対称 性が存在することが知られており、イエロー・レッドゾーンの指定により情報の非対称が 軽減されると土砂災害リスクが反映された土地価格が形成されると考えられる。また、レ ッドゾーンに指定されると建物の一部を鉄筋コンクリート造にすることや防護塀の設置等 の構造規制等が付加されることになるため、情報公開による土砂災害リスクが反映された 土地価格かつ規制の内容を加味した土地価格になると考えられる。本稿ではイエロー・レ ッドゾーンの指定による情報の非対称性の解消に着目し、政策実施により①区域指定によ り情報の非対称性が解消されているか②構造規制等の有効性(空振りの規制になっていな いか)についてヘドニック法による実証分析を行う。そして区域指定と構造規制等が地価 を下落させているか明らかにし、土砂法による政策の今後のあり方の提言を行う。 1) 国交省HP土砂災害防 法止 に基づく施策の取り組み状況 (http://www.mlit.go.jp/river/sabo/dosyahou_review/02/111031_shiryo1.pdf)

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2 2 2 2 土砂法の概要土砂法の概要土砂法の概要 土砂法の概要 本節では土砂法の背景と概要、イエロー・レッドゾーンの指定の流れ、イエロー・レッ ドゾーン内における規制の概要及び指定基準、区域指定の現状について述べる。 2.1 土砂法の背景と概要 平成11年6月29日広島県で発生した集中豪雨により325件の土砂災害が発生し、死者24 名、全壊家屋65棟の被害が生じた。この災害を契機に総合的な土砂災害対策のための法 制度の在り方について、平成12年2月3日に河川審議会から答申がなされ、土砂災害防止 に関し、国民一人一人が自分の生命・身体を自ら守るという考え方に立って判断し行動 することを念頭に、イエロー・レッドゾーンの指定及び警戒避難措置の充実、レッドゾ ーンにおける立地抑制策等の実施、土砂災害に関する基礎的な調査の実施、土砂災害防 止のための指針の作成の施策を講じる必要性があると提言された。この答申を踏まえ、 土砂法は平成12年5月8日公布、平成13年4月1日に施行された。その後、平成13年7月9日 に土砂災害防止対策基本指針が国土交通大臣により制定・公表され、現在各都道府県に おいて土砂法に基づく基礎調査が実施され、イエロー・レッドゾーンの指定を行ってい るところである。 図2-1 過去15年間の土砂災害被害件数の推移2) 2.2 対象となる土砂災害 対象となる土砂災害は、図2-2に掲げる急傾斜地の崩壊、土石流、地すべりである。 急傾斜地の崩壊とは、斜面の地表に近い部分の土地が雨水の浸透や地震等でゆるみ、 崩壊する自然現象のことで、崩れ落ちるまでの時間が短いため、人家や人家の近くで逃 げ遅れが発生し、人命を奪うことがある。土石流は山腹や川底の石、土砂が長雨や集中 豪雨などによって一気に下流へと押し流される自然現象で、時速20~40kmという速度で 一瞬のうちに人家や畑などを壊滅させることがある。地すべりは斜面の一部あるいは全 部が地下水の影響と重力によってゆっくりと斜面下方に移動する自然現象で、土塊の移 動量が大きいため甚大な被害が発生することがある。 2) 国交省HP 土砂災害発生事例より作成(http://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sabo/jirei.html)

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図2-2 土砂災害の種類(左から急傾斜地の崩壊、土石流、地すべり)3) 2.3 イエロー・レッドゾーンの指定 イエロー・レッドゾーンの指定をするためには、数値地図という高さ情報を持った3次 元のデジタル地図を作成し、現地調査箇所を抽出、住民に現地調査を行う旨を周知後、 地形、植生、地質、降水等の状況の調査及び土地の利用の状況等の基礎調査を実施し、 基礎調査の結果、土砂災害による被害のおそれがある箇所又は著しい被害のおそれがあ る箇所だと明らかになった場合は、市町村長の意見を聴いたのちにイエロー・レッドゾ ーンに指定される。なお、平成26年12月末時点のイエロー・レッドゾーンの指定箇所数 はイエローゾーンが367,455件、レッドゾーンが214,633件4) となっている。 2.4 イエローゾーンの概要・指定基準 イエローゾーンの指定基準は、過去の土砂災害に関するデータに基づき土石等が到達 する区域を地形的基準で定めることとしており、土砂災害が発生した場合に、住民等の 生命又は身体に危害が生じるおそれがあると認められる区域である。イエローゾーンに 指定されると以下のことが求められる。 (1)市町村地域防災計画への記載 (2)災害時要援護者関連施設利用者のための警戒避難体制の整備 (3)土砂災害ハザードマップによる周知の徹底 (4)宅地建物取引業者の相手方等に対する重要事項説明 2.5 レッドゾーンの概要・指定基準 レッドゾーンの指定基準は、土砂災害が発生した場合に、建築物に損壊が生じ住民等 の生命又は身体に著しい危害が生ずるおそれがあると認められる区域であり、レッドゾ ーンに指定されるとイエローゾーンに要求される内容に加えてさらに以下のことが求め られる。 (1)住宅宅地の分譲や災害弱者利用施設の立地を目的とした土地の区画形質を変更す る行為の許可制度 (2)建物内部での人命の被害を防止するため、居室を有する建築物について、想定す る最大の土石等の力及び土石等の高さに対し耐えられる構造とすること (3)建築物の移転等の勧告及び支援措置 3) 国交省HP 土砂災害防止法の概要(http://www.mlit.go.jp/river/sabo/sinpoupdf/gaiyou.pdf) 4) 国交省HP 土砂災害警戒区域等の指定状況(http://www.mlit.go.jp/river/sabo/sinpoupdf/jyoukyou-141231.pdf)

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2.6 土砂災害警戒等区域指定の現状 平成23年10月31日に開催された土砂法に関する政策レビュー委員会での資料5)による と、基礎調査実施済みにも関わらず、イエローゾーンでは約70,000箇所、レッドゾーンで は約78,000箇所が区域指定されていない状況となっている。未指定の理由として、イエロ ーゾーンでは一定の地区単位で指定を行うよう市町村から要望されていることや住民へ の説明に時間を要することが挙げられている。レッドゾーンでは市町村の反対への対応 に時間を要すること、一定の地区単位で指定を行うよう要望されていることが挙げられ ている。市町村が反対する理由として、住民が反対していることを挙げており、住民が 反対する理由として、土地の価格低下を懸念していること、建築物の構造規制に不満が あることが上位に挙げられている。 3 3 3 3 理論分析理論分析理論分析 理論分析 3.1 イエロー・レッドゾーンの指定による情報の非対称性の軽減 資本化仮説とは、一定の条件下で地方政府の活動がもたらすメリット・デメリットは 地代・地価に反映され、土地所有者に帰着するという理論である。イエロー・レッドゾ ーンの指定により土地取引における売り手と買い手の間の情報の非対称性が軽減される と、土砂災害リスクに応じた土地価格が形成されると考えられる。 表3-1に情報公開前後の土地取引の市場の変化を表す。 情報公開前後で地価の変化がある場合(表3-1の①・③)、情報の非対称性は軽減され たと考えられる。情報公開前後で地価が上がる場合(表3-1の①)は、土砂災害リスクを 過大に評価していたためであると考えられ、情報公開前後で地価が下がる場合(表3-1の ③)は、土砂災害リスクを知らなかった又は予想を超えるリスクがあると分かった場合 であると考えられる。 情報公開前後で地価が変化しない場合(表3-1の②)、情報の非対称性は無かったもし くは情報が認識されておらず、情報の非対称性は軽減されていなかったと考えられる。 また、情報公開前の土砂災害リスクの認識度に応じて地価の変化率が異なり、土砂災 害リスクの認識度の低い土地(表3-1の④)ほど地価が下落し、リスクの認識度の高い土 地(表3-1の⑤)ほど地価の下落が小さいと考えられる。 以上の考察をふまえ、以下の(1)~(3)の仮説について資本化仮説が成立すると仮定し、4 節にて特定の地域を対象とした実証分析を行う。 (1) イエロー・レッドゾーンに指定されると地価が下がる。 (2) レッドゾーンの方がイエローゾーンに比べ地価の下がり幅が大きい。 (3) 事前のリスク認識が高い土地ほど、下がり幅は小さい。 5) 国交省HP 土砂災害防止法に関する政策レビュー委員会 配布資料 (http://www.mlit.go.jp/river/sabo/dosyahou_review/03/120130_shiryo1.pdf)

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表3-1 情報公開前後の土地市場の変化 情報公開前の土地市場 情報公開後の土地市場 イエローゾーンの指定 レッドゾーンの指定 前後で地価が上がる場合 ① 前後で地価が変化しない 場合② 前後で地価が下がる場合 ③ 前後で地価が下がる場合 ③ 情報公開前の 危険性の認識度が 低い 低い低い 低い場合 ④ 正しく危険性を認識して いた又は公開後も危険性 を認識していない(情報 の非対称性は無かった又 は情報の非対称性は軽減 されなかった) 危 険 性 を 知 ら な か っ た (情報の非対称性が軽減 された) 危 険 性 を 知 ら な か っ た (情報の非対称性軽減+ 規制の効果) 情報公開前の 危険性の認識度が 高い 高い高い 高い場合 ⑤ 余計に危険だと判断して いた(情報の非対称性が 軽減された) 正しく危険性を認識して いた又は公開後も危険性 を認識していない(情報 の非対称性は無かった又 は情報の非対称性は軽減 されなかった) 危険性を正確に知らなか った(情報の非対称性が 軽減された) 危険性を正確に知らなか った(情報の非対称性軽 減+規制の効果) 3.2 レッドゾーンにおける構造規制等の効果 イエローゾーンとレッドゾーンの違いは危険度による違いはもちろんのこと、開発許可 制度や構造規制等が付加されることによりさらに地価が下落することが予測される(図3-1 参照)。 土砂災害による損害費用の最適な予防水準を図3-2に示す。予防費用とは、事前に土砂災 害対策を行うことによる費用で、事故費用とは、土砂災害が発生した際にかかる救援費用 や災害復興にかかる費用である。予防費用と事故費用を足し合わせたものが社会的総費用 であり、Y1が社会的総費用の最小値である。 ここで、土地所有者が災害時の政府の救援を見込み、リスクに応じた土砂災害対策を怠 っている可能性について考える。政府の負担による救援がない場合の事故費用の予防水準 は、社会的総費用が最小化するX2の水準になる。政府の救援を見込み、土砂災害対策を怠 っている場合、政府による救援費用分だけ事故費用が小さくなり、予防水準が私的総費用 を最小化する水準(X2→X1)となる。予防水準が社会的総費用を最小化する水準よりも低 くなり、結果として事故費用が増え、救援等の行政コストがかかってしまうと考えられる。 以上の考察をふまえ、5節では土砂災害リスクをコントロールし、レッドゾーンに課され る規制により、どれだけ地価が変化しているのか実証分析を行う。 公開前 取引面積 取引価格 公開前 公開後 取引面積 取引価格 公開前 取引面積 取引価格 公開後 公開前 取引面積 取引価格 公開前 公開後 取引面積 取引価格 公開前 取引面積 取引価格 公開後 公開前 取引面積 取引価格 公開後 公開前 取引面積 取引価格 公開後 公開前 取引面積 取引価格 公開後

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4 4 4 4 実証分析(実証分析(実証分析(イエロー・レッドゾーンの指定による情報公開実証分析(イエロー・レッドゾーンの指定による情報公開イエロー・レッドゾーンの指定による情報公開のイエロー・レッドゾーンの指定による情報公開の効果のの効果効果)効果))) イエロー・レッドゾーンの指定が情報の非対称性を軽減することを理論分析で示し、パ ネルデータを用いた固定効果モデルにより実証分析を行うことで、イエロー・レッドゾー ンの指定が地価に与える影響を明らかにする。 分析1ではイエロー・レッドゾーンの指定前後の地価の変化を分析し、分析2では土砂災 害リスクの事前の認識度の違いによる地価へ与える影響の比較を行う。 4.1 実証分析に使用するデータ(分析モデル1・2) 分析対象地域は福井県、静岡県、鳥取県、広島県、山口県、福岡県、長崎県の7県を分 析対象地域とした。選定理由として、レッドゾーンの指定箇所の多い県かつ地理情報シ ステム6)を用いてインターネットによりイエロー・レッドゾーンの情報公開を行っている 県を対象とした。分析対象とする土砂災害の種類はレッドゾーン内に地価ポイントの多 い急傾斜地の崩壊とし、表4-1に示すとおり、急傾斜地の崩壊以外の土石流・地すべりに よるイエロー・レッドゾーン内の地価ポイントについては対象外とした。また、土砂災 6) ESRI社ArcGISを使用し作成した。 図3-2 損害の最適な予防水準 リスク0 リスク中 リスク大 レッドゾーン 地価の対数値 リスク 土地利用規制効果 イエローゾーン 指定区域外 図3-1 地価と土砂災害リスクの関係概念図 X1 X2 Y1 予防費用 予防水準 事故費用 社会的総費用 費用 政府による介入を見込み、 社会的に最適な予防水準 を下回っている。 政府の負担による救援費用 私的総費用 私的事故費用

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害危険箇所図(以下「ハザードマップ」という)についてもイエロー・レッドゾーンと 同様に、土砂災害の種類に応じて土石流危険区域、急傾斜地危険区域、地すべり危険区 域に分類されている。情報公開前の土砂災害リスクの認識度を正確に分類するために、 急傾斜地崩壊危険区域及び急傾斜地崩壊危険区域から50m圏内の地価ポイントデータの みを使用し、土石流、地すべりは対象外とした。 表4-1 推計モデル1・2 使用する分析対象範囲 ハザードマップ (情報公開前) 土砂災害警戒等区域 (情報公開後) 箇所数 分析対象 地すべり 地すべり Y 対象外 土石流 Y 対象外 R 対象外 急傾斜地 Y 対象外 R 対象外 土石流 地すべり Y 対象外 土石流 Y 対象外 R 対象外 急傾斜地 Y 対象外 R 対象外 急傾斜地 地すべり Y 対象外 土石流 Y 対象外 R 対象外 急傾斜地 Y 56 ② R 8 ③ 指定無し(隣接するがけに急傾斜地警戒等区域の指定があった箇所) - 19 ① 指定無し (急傾斜地崩壊危 険箇所図から 50m の範囲内) 地すべり Y 対象外 土石流 Y 対象外 R 対象外 急傾斜地 Y 8 ⑤ R 0 ⑥ 指定無し(隣接するがけに急傾斜地警戒等区域の指定があった箇所) - 60 ④ ※Y・R はそれぞれイエローゾーン・レッドゾーンを表す 4.2 データ作成方法(分析モデル1・2) 地図情報システムを用いてイエローゾーンに含まれる地価ポイント、ハザードマップ 内の地価ポイント及びハザードマップの周囲から50m圏内の地価ポイントを収集した。そ れぞれの地価ポイントがイエロー・レッドゾーンに含まれているかどうか、全国地価マ ップHP7)より地価ポイントの建物位置を把握し、イエロー・レッドゾーンの指定の公示に 係る図書8)と整合させ確認した。また、ハザードマップに含まれているかどうかについて 7) 一般財団法人資産評価システム研究センターHP 全国地価マップ(http://www.chikamap.jp/) 8) イエロー・レッドゾーンに関する公示図書は各県のHPで公開されている。 福井県土砂災害警戒区域等管理システムHP(http://sabogis.pref.fukui.jp/MRFUKUIS_I/login.asp) 静岡県土砂災害情報マップHP(http://www.gis.pref.shizuoka.jp/) 鳥取県地理情報公開システムとっとりWebマップHP(http://www2.wagmap.jp/pref-tottori/top) 広島県土砂災害ポータルひろしまHP(http://www.sabo.pref.hiroshima.lg.jp/portal/top.aspx)

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は国土数値情報のデータ9) と公示図書の照合し、確認を行った。 4.3 実証分析1(パネルデータを用いた固定効果モデルによる推計) イエロー・レッドゾーンの指定の前後の地価の変動を分析し、情報の非対称が解消さ れているかパネルデータを用いて固定効果モデルによるDID分析を行う。 図4-1 推計モデル1概念図 4.3.1 推計モデル1(分析1) 変数の概要について表4-2示す。被説明変数は2003~2014年の都道府県地価調査(円/ ㎡)の対数値とした。各地価ポイントがイエロー・レッドゾーン内であれば1をとるダ ミー変数とイエロー・レッドゾーンの指定後半年以降であれば1をとるダミー変数の交 差項により情報公開による影響を分析する。なお、区域指定の半年後としたのは区域 指定が地価に反映するまでの期間を考慮したためである。 ௜௧=଴+ଵଵ௜௧+ଶଶ௜௧+ଷଷ௜௧+ସ~ଵହ௧+௜+௜௧ ௜௧:都道府県地価調査価格の対数値 ଵ௜௧:図4- 1の①+④ダミー × 隣接急傾斜地区域指定半年後ダミー ଶ௜௧:図4- 1の②+⑤ダミー × 区域指定半年後ダミー ଷ௜௧:図4- 1の③+⑥ダミー × 区域指定半年後ダミー ସ~ଵହ௧:2003年~2014年の年次ダミー :地価調査のポイント :年次 ௜:固定効果 ௜௧:誤差項 表4-2 変数の説明(分析1) 山口県土砂災害警戒区域等マップHP(http://kikenmap.pref.yamaguchi.lg.jp/kikenmap/) 福岡県土砂災害警戒区域等マップHP(http://www.sabomap.jp/fukuoka/) 長崎県電子国土総合防災GIS HP(http://www.pref.nagasaki.jp/sb/gis/agree.php) 9) 国土数値情報HP 都道府県地価調査データより作成(http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/) 変数 説明 出典 lnlp 都道府県地価調査価格(円/㎡)の対数値 A ①+④ダミー 隣接する急傾斜地のイエローゾーンが指定されたが、イエローゾーンに含 まれなかった地価ポイントであれば1をとるダミー変数 BCD ②+⑤ダミー イエローゾーンに含まれる地価ポイントであれば1をとるダミー変数 BCD ③+⑥ダミー レッドゾーンに含まれる地価ポイントであれば1をとるダミー変数 BCD 区域指定半年後 ダミー イエローゾーン指定から半年経過後の地価データであれば1をとるダミー 変数 C 隣接急傾斜地区域 指定半年後ダミー 隣接する急傾斜地のイエローゾーン指定から半年経過後の地価データであ れば1をとるダミー変数 C 年次ダミー 2003年~2014年までの年次ダミー変数。該当する年度であれば1をとるダミ ー変数 出典 A:国土数値情報HP 都道府県地価調査データより作成( http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/) レッド レッド レッド レッド ゾーン ゾーン ゾーン ゾーン 区域指定前(情報公開前) 区域指定前(情報公開前) 区域指定前(情報公開前) 区域指定前(情報公開前) ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ イエローゾーン イエローゾーンイエローゾーン イエローゾーン 区域指定前(情報公開前) 区域指定前(情報公開前) 区域指定前(情報公開前) 区域指定前(情報公開前) ①' ②' ③' ④' ⑤' ⑥'

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4.3.2 推計結果・考察(分析1) 分析1における推計結果を表4-3に示す。隣接する崖にイエローゾーンが指定されると 地価が約1.3%下がることが統計的に5%水準で有意に示された。また、イエローゾーン に指定されると約2.8%地価が下がり、レッドゾーンに指定されると地価が約9.1%下が ることが1%水準で有意に観察された。推計結果から区域指定により情報の非対称が軽 減されていることを確認することができた。 表4-3 推定結果(分析1) 被説明変数:都道府県地価調査価格(円/㎡)の対数値 説明変数 係数 標準誤差 ①+④ダミー×隣接急傾斜地指定半年後ダミー -0.0130 ** 0.0064 ②+⑤ダミー×指定半年後ダミー -0.0279 *** 0.0066 ③+⑥ダミー×指定半年後ダミー -0.0907 *** 0.0186 年次ダミー (省略) (省略) 定数項 10.3122 *** 観測数 1680 自由度調整済決定係数 0.8402 ※***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%で有意であることを示す 4.4 実証分析2(パネルデータを用いた固定効果モデルによる推計) 分析1の事前のリスク認識度の違いによる地価の下落率を計測する。イエロー・レッド ゾーン指定前のリスク認識度の指標としてハザードマップを用いる。ハザードマップと は1/25,000地形図を用いて土砂災害危険箇所の所在を把握し、過去の土砂災害の実績等か ら得られた知見を基に危険箇所を決めたもので、2002年に公表されている。 土砂災害リスクの認識度の高い土地をハザードマップ内の土地とし、土砂災害リスク の認識度の低い土地をハザードマップから周囲50mの圏内の土地とする。土砂災害リスク の低い土地(図4-2の④⑤⑥地点)がイエロー・レッドゾーンに指定される(図4-2の⑤' ⑥'地点)と、災害リスクの高い土地(図4-2の①②③地点)がイエロー・レッドゾーンに 指定された場合(図4-2の②'③'地点)と比べて地価の下落率が大きいと考えられる。ま た、土砂災害リスクの低い土地(図4-2の④⑤⑥地点)がイエロー・レッドゾーンに指定 されない場合(近くの崖がイエロー・レッドゾーンに指定されたが当該地は区域に含ま れなかった場合)(図4-2の④'地点)と災害リスクの高い土地(図4-2の①②③地点)が イエロー・レッドゾーンに指定されない場合(図4-2の①'地点)と比べて地価の変動率が 小さいと考えられる。 10) 静岡県交通基盤部河川砂防局砂防課、鳥取県県土整備部治山砂防課、広島県土木局砂防課、山口県土木建築部砂防課、 福岡県県土整備部砂防課、長崎県土木部砂防課作成のGISデータを使用 11) ESRIジャパンオープンデータポータルHPより福井県全市町村の土砂災害のデータを使用(http://data.esrij.com/) B:静岡県、鳥取県、広島県、山口県、福岡県、長崎県から提供して頂いたGISデータ10)及びESRI社のオー プンデータにより作成11) C:福井県、静岡県、鳥取県、広島県、山口県、福岡県、長崎県各県HPから、イエロー・レッドゾーンの指 定の公示に係る図書より作成 D:全国地価マップHPより作成(http://www.chikamap.jp/)

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図4-2 推計モデル2概念図 4.4.1 推計モデル2(分析2) 使用するデータは分析1と同様のものとし、変数の説明は表4-4に示す。ハザードマッ プの公表が2002年のため、被説明変数は2003~2014年の都道府県地価調査(円/㎡)の対 数値とし、説明変数は図4-2の①~⑤(⑥は地価データ無し)のいずれかの地点をとる ダミー変数とイエロー・レッドゾーン指定半年後以降であれば1をとるダミー変数を交 差させたものを作成して用いた。なお、分析1と同様、区域指定が地価に反映するまで の期間を考慮するために区域指定半年後ダミーを用いている。 ௜௧=଴+ଵ~ହ௜௧+଺~ଵ଻௧+௜+௜௧ ௜௧:都道府県地価調査価格の対数値 ௜௧:図4- 2の①~⑤各地点ダミー × 指定半年後ダミー :地価調査のポイント :年次 ௜:固定効果 ௜௧:誤差項 表4-4 変数の説明(分析2) 変数 説明 出典 lnlp 都道府県地価調査価格(円/㎡)の対数値 A ①ダミー ハザードマップ内の地価ポイントで、隣接する急傾斜地のイエローゾーン が指定されたが、イエローゾーンに含まれなかった地価ポイントであれば1 をとるダミー変数 BCD ②ダミー ハザードマップ内の地価ポイントで、イエローゾーン内の地価ポイントで あれば1をとるダミー変数 BCD ③ダミー ハザードマップ内の地価ポイントで、レッドゾーン内の地価ポイントであ れば1をとるダミー変数 BCD ④ダミー ハザードマップ周囲50m圏内の地価ポイントで、隣接する急傾斜地のイエロ ーゾーンが指定されたが、イエローゾーンに含まれなかった地価ポイント であれば1をとるダミー変数 BCD ⑤ダミー ハザードマップ周囲50m圏内の地価ポイントで、イエローゾーンに内の地価 ポイントであれば1をとるダミー変数 BCD 区域指定半年後 ダミー イエロー・レッドゾーン指定から半年経過後の地価データであれば1をとる ダミー変数 D 隣接急傾斜地区域 指定半年後ダミー 隣接する急傾斜地のイエローゾーン指定から半年経過後の地価データであ れば1をとるダミー変数 D 年次ダミー 2003年~2014年までの年次ダミー変数。該当する年度であれば1をとるダミ ー変数 出典A:国土数値情報HP 都道府県地価調査データより作成( http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/) B:国土数値情報HP 土砂災害危険箇所データより作成(http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/) C:静岡県、鳥取県、広島県、山口県、福岡県、長崎県から提供して頂いたGISデータ及びESRI社のオ ープンデータにより作成 D:福井県、静岡県、鳥取県、広島県、山口県、福岡県、長崎県各県HPから、イエロー・レッドゾー ンの指定の公示に係る図書より作成 ハザードマップ ハザードマップ ハザードマップ ハザードマップ レッド レッド レッド レッド ゾーン ゾーン ゾーン ゾーン ハザードマップ ハザードマップ ハザードマップ ハザードマップ 区域指定前(情報公開前) 区域指定前(情報公開前)区域指定前(情報公開前) 区域指定前(情報公開前) ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ イエローゾーン イエローゾーン イエローゾーン イエローゾーン 区域指定前(情報公開前) 区域指定前(情報公開前)区域指定前(情報公開前) 区域指定前(情報公開前) ①' ②' ③' ④' ⑤' ⑥'

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4.4.2 推計結果・考察(分析2) 推計モデル2の結果を表4-5に示す。ハザードマップ内の地価ポイントがイエローに指 定されると、地価が約2.8%下がり、レッドゾーンに指定されると地価が約9.1%下がる ことが1%水準で統計的に有意に示され、イエロー・レッドゾーンの指定による情報 の非対称性の軽減効果が確認された。また、ハザードマップ外の地価ポイントがイエ ローに指定されると地価が約3.1%下がることが5%水準で有意であり、ハザードマップ の有無による差は約0.3%であったことから、ハザードマップによる情報の非対称性の 軽減効果は確認されたが、情報を精緻化したイエロー・レッドゾーン指定によるリス クの認識効果の方が大きいことが分かった。また、ハザードマップ外の地価ポイント がイエローゾーンに指定されなかった場合、地価が約1.6%下がることが5%水準で有意 であることが示された。これは、今まで土砂災害リスクが低いと考えられていた土地 が、近くの崖に、イエローゾーンが指定されたことによって、危険度の認識が高まっ たためであると考えられる。 以上の結果から、土砂災害リスクの認識度が低い土地ほどイエローゾーンが指定さ れると地価の下落率が大きく、リスク認識度の高い土地では下落率が小さいことが示 された。土砂災害リスクの認識度に応じて地価の変化率が異なることが確認されたこ とから、区域指定前に土砂災害リスクを正確に把握していれば地価の下落はないと考 えられる。 表4-5 推定結果モデル2 5 5 5 5 実証分析(実証分析(実証分析(レッドゾーン実証分析(レッドゾーンレッドゾーンの指定による規制の効果の定量的分析レッドゾーンの指定による規制の効果の定量的分析の指定による規制の効果の定量的分析)の指定による規制の効果の定量的分析))) 4節の分析結果により、イエローゾーンに指定された場合では約3%地価が下落し、レッ ドゾーンに指定された場合では地価が約9%下落することが統計的に有意に示され、地価の 下落率に大きな違いがあることが確認された。 本節では、土砂災害リスクに応じた地価形成を評価し、レッドゾーンに課される構造規 制等により、どれだけ地価が変化しているのか分析を行う。 5.1 実証分析(クロスセクションデータを用いたOLSによる推計) 土砂災害リスクをコントロールし、クロスセクションデータを用いたOLSで分析を行い、 被説明変数:都道府県地価調査価格(㎡/円) 説明変数 係数 標準誤差 ①ダミー×隣接急傾斜地区域指定半年後ダミー -0.0033 0.0108 ②ダミー×区域指定半年後ダミー -0.0278 *** 0.0066 ③ダミー×区域指定半年後ダミー -0.0907 *** 0.0186 ④ダミー×隣接急傾斜地区域指定半年後ダミー -0.0159 ** 0.0069 ⑤ダミー×区域指定半年後ダミー -0.0314 ** 0.0153 年次ダミー (省略) (省略) 定数項 10.3561 *** 観測数 1680 自由度調整済決定係数 0.8404 ※***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%で有意であることを示す

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土地利用規制効果による地価への影響を分析する。 5.1.1 実証分析に使用するデータ 分析対象地域は4節と同様、福井県、静岡県、鳥取県、広島県、山口県、福岡県、長 崎県の7県を分析対象地域とした。 5.1.2 推計モデル(分析3) 被説明変数は平成26年の都道府県地価調査及び公示地価の対数値とし、説明変数は 表5-1に示す。 ௜ = ଴+ଵ ௜+ଶ௜+ଷ௜+ସ  ௜+ ଻ ௜+ ଼ ௜+ ଵ଴  ௜+ ଵଵ  ௜+ଵଵ  ℎ ௜+௜ 表5-1 変数の説明(分析3) 変数名 サン プル 数 説明 出典 lnlp 176 2014年の都道府県地価調査価格(円/㎡)及び公示地価(円/㎡)の対数値 A Rd 15 レッドゾーン内の地価ポイントであれば1をとるダミー変数 BC YRd 63 イエローゾーン・レッドゾーン内の地価ポイントであれば1をとるダミー変数 BC risk 距離に応じた各地価ポイントのリスクを設定した値 C mitudo 2010年の国勢調査を基にした市町村別の人口密度 D douro 地価ポイントの前面道路幅員 A youseki 地価ポイントの容積率 A suidou 地価ポイントに上水道が整備されていたら1をとるダミー変数 A gesui 地価ポイントに上水道が整備されていたら1をとるダミー変数 A koyoutoshikend 各都市雇用圏内であれば1をとるダミー変数 E 出典 A:国土数値情報HP 都道府県地価調査データより作成( http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/) B:福井県、静岡県、鳥取県、広島県、山口県、福岡県、長崎県から提供して頂いたGISデータにより作成 C:福井県、静岡県、鳥取県、広島県、山口県、福岡県、長崎県各県HPから、イエロー・レッドゾーンの指定の 公示に係る図書より作成 D:総務局統計局e-statHPより作成(http://www.e-stat.go.jp/) E:東京大学空間情報科学センターHP UEAデータより作成(http://www.csis.u-tokyo.ac.jp/UEA/) 5.1.3 実証分析手法の検討 リスクに応じた地価を計測するために、各地価ポイントのリスクを求める必要があ る。レッドゾーンは、土石等の移動による力の大きさもしくは土石等の堆積による力 の大きさが建物の耐力を上回る土地の区域である。イエローゾーン指定業務担当者へ の聞き取り調査により、急傾斜地のレッドゾーンの多くは移動による力の大きさによ り決まるとのことであったため、移動による力の大きさを指標に各地価ポイントのリ スクを設定する。 リスクの設定方法について、レッドゾーンは公示図書で土石等の移動による力と移 動の高さの最大値が示されている。イエローゾーンとレッドゾーンの境界は土石等の

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力の大きさ=建物の耐力であり、イエローゾーンは土石等の力の大きさ<建物の耐力 となる。土石等の力の大きさはリスクの高い地点から離れるほど小さくなることから、 リスクの高い地点から離れるほどリスクが減少するリスク関数を求める。リスク関数 は指数関数に近似すると想定し、レッドゾーンは図5-1の○a○bの点を通る関数で、イエ ローゾーンは図5-1の○b○cの点を通る関数で、それぞれのリスク関数を表す。この方法 に従い各ポイントごとにリスク関数を導出し、それを用いて各地価ポイントのリスク 度を導出した。リスクは移動の力×移動の高さとし、リスク関数はリスク(y)=a×exp(b ×リスク最大値からの距離(x))とする(abは定数)。 図5-1 リスク関数の設定 (1) レッドゾーン内に土石等の移動による力が100kN/㎡を超える区域がある場合 レッドゾーン内の100kN/㎡を超える区域と100kN/㎡以下の区域との境界(図5-2 の○aの地点)の力の大きさを100kN/㎡とし、レッドゾーンとイエローゾーンの境 界(図5-2の○b の地点)は建物にかかる力=建物の耐力と仮定する。建物の耐力は 国土交通省告示第332号(平成13年3月28日)第3に掲げる式とし、公示図書から土 石等の移動高さを確認し、告示式から境界地点のリスクを求める。以上により求 めた○a ○b 地点のリスクから、リスク関数の定数項を求め、地価ポイントの力の大 きさを求める。 図5-2 レッドゾーン内危険度設定概念図 (区域内に土石等の移動による力が100kN/㎡を超える区域がある場合) (2) レッドゾーン内の土石等の移動による力が100kN/㎡以下の場合 レッドゾーン内の土石等の移動による力の最大値がどの地点か特定できないが、 移動による力の大きさは、斜面の傾斜角を一定と仮定した場合、力の大きさ=質 レッドゾーン リスク 距離 イエローゾーン 指定区域外 ○ ○ ○ ○aa aa ○ ○ ○ ○bbbb ○ ○ ○ ○cccc 指定区域外 イエローゾーン レッドゾーン 土石等の力の大きさ:100kN/㎡(公示図書 より) 移動高:1.0m(公示図書より) 建物にかかる力の大きさ(力×高さ) =100×1.0=100 kN/㎡ 力の大きさ最大値からの距離:0m →100=a×exp(b×0)(式①) レッドゾーンとイエローゾーンの境界 建物にかかる力=建物の耐力と仮定 移動高:1.0m(公示図書より) 建物の耐力=35.3/1.0*(5.6-1.0)=7.67kN/㎡ 建物にかかる力=7.67 kN/㎡ ○a ~○b までの距離:10m(公示図書より) →7.67=a×exp(b×10)(式②) 境界から建築物 までの最短距離 当該建物のリスク レッド内境界○a から当該建物までの最短距離 x=5m(公示図書より確認) 式①②より、a=100,b-0.26 レッドゾーン内建物のリスク y=100×exp(-0.26×5)=27.25kN/㎡ ○ ○○ ○aaaa ○ ○ ○ ○bbbb

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量×加速度であり、崖下が最大値となると予測できることから、崖下を公示図書 に示す最大値が発現する箇所と仮定する。(1)と同様に、○a○b 地点のリスクを求め、 求めた○a ○b地点のリスクから、リスク関数の定数項を求め、地価ポイントの力の 大きさを求める。 図5-3 レッドゾーン内危険度設定概念図 (区域内に土石等の移動による力が100kN/㎡を超える区域がない場合) (3) イエローゾーン内の場合 レッドゾーンとイエローゾーンの境界地点(図5-4の○b地点)の力の大きさを建 物の耐力と仮定し、(1)と同様、告示式から境界地点のリスクを求める。イエロー ゾーンから区域外の境界に近づくほど力の大きさは限りなく0に近づくため、境界 での値を0.0001と仮定して図5-4の○c 地点のリスクを求める。以上により求めた○b ○c 地点のリスクから、リスク関数の定数項を求め、地価ポイントの力の大きさを 求める。 図5-4 イエローゾーン内危険度設定概念図 5.1.4 推計結果・考察(分析3) 分析3における推計結果を表5-2に示す。レッドダミーが10%の有意水準でマイナ スの値となり、イエローゾーンとレッドゾーンの間にマイナスの乖離があること が分かり、土地利用規制により地価が下落していることが明らかとなり、住民の ○ ○ ○ ○bbbb ○ ○ ○ ○cccc 指定区域外 イエローゾーンと指定区域外境界 土石等の力の大きさ =0.0001kN/㎡と仮定 ○b ~○c までの距離:20m(公示図書より) 0.0001=a×exp(b×20) (式②) イエローゾーン 当該建物のリスク レッドゾーン境界○b から当該建物までの最短距離:10m(公示 図書より確認) 式①②より、a=7.67,b=-0.56 イエローゾーン内建物のリスク y=7.67×exp(-0.56×10)=0.028kN/㎡ レッドゾーン レッドゾーンとイエローゾーンの境界 建物にかかる力=建物の耐力と仮定 移動高:1.0m(公示図書より) 建物の耐力=35.3/1.0*(5.6-1.0)=7.67kN/㎡ 建物にかかる力=7.67 kN/㎡ 7.67=a×exp(b×0) (式①) 指定区域外 イエローゾーン レッドゾーン 崖下を公示に示す最大値が発現する箇所と仮定 土石等の力の大きさ:98.2kN/㎡(公示図書より) 移動高:1.0m(公示図書より) 建物にかかる力の大きさ(力×高さ) =98.2×1.0=98.2 kN/㎡ 力の大きさ最大値からの距離:0m →98.2=a×exp(b×0) (式①) レッドゾーンとイエローゾーンの境界 建物にかかる力=建物の耐力と仮定 移動高:1.0m(公示図書より) 建物の耐力=35.3/1.0*(5.6-1.0)=7.67kN/㎡ 建物にかかる力=7.67 kN/㎡ ○a ~○b までの距離:8m(公示図書より) →7.67=a×exp(b×8)(式②) 当該建物のリスク 崖下○a から当該建物までの最短距離 x=3m(公示図書より確認) 式①②より、a=98.2,b=-0.32 レッドゾーン内建物のリスク y=98.2×exp(-0.32×3)=37.60kN/㎡ ○ ○ ○ ○aaaa ○ ○○ ○bbbb

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自発的な防災水準よりも政府の求める規制の方が強いこと分かった。 表5-2 推計結果(分析3) 5.1.5 ケーススタディ 分析3の結果から、リスクを除いたイエローゾーンとレッドゾーンの差が40.5% あることが分かった。レッドゾーン内の平均的な規制と規制に関連する土地下落 要因について考察する。 本稿で使用したデータのイエロー・レッドゾーン内の住宅地平均面積は約300㎡、 平均地価が約32,700円/㎡であるから、1敷地あたりの平均地価下落額は300㎡× 32,700円×40.5%≒400万円である。また、レッドゾーン内の移動の力の大きさの 平均は約100kN/㎡、堆積高さ平均は3mであったため、図5-5~5-7に示すような構造 体の設置が求められることになり、構造規制による追加費用は以下の①~④が考 えられる。 ①防護塀工事費(高さ 3m、長さ 20m):約 204 万円 ②防護塀設置による土地利用面積減:約 20 ㎡=約 65 万円 ③防護塀設置による圧迫感・日照阻害等心理的要因による減価分 ④防護塀メンテナンス費用 あくまでモデルケースでの追加費用の試算であるが、地価下落額と実際に要す る費用に差があることから、個人の選好によってはレッドゾーンの指定により、 レッドゾーン内に移住する人もいると考えられる。 被説明変数 :都道府県地価調査及び地価公示価格の対数値 説明変数 係数 標準誤差 レッドダミー -0.4055 * 0.2440 イエロー+レッドダミー -0.0690 0.0868 リスク 0.0030 0.0027 人口密度 0.0001 *** 0.0001 前面道路幅員 0.0463 ** 0.0180 容積率 -0.0001 0.0057 上水道ダミー 0.6095 *** 0.2152 下水道ダミー 0.4575 *** 0.0922 雇用都市圏ダミー (省略) (省略) 定数項 8.8885 *** 観測数 176 自由度調整済決定係数 0.5355 ※***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%で有意であることを示す

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6 6 6 6 政策提言政策提言政策提言政策提言 分析結果 クの認識度が低い土地ほどイエローゾーン された。区域指定前に土砂災害リスクを正確に把握していれば地価の下落はないこと 地価の下落を理由に住民から反対があっても区域指定すべきである。 り最適な水準で土地取引が行われること、住民の危機意識が高まり行政コスト削減につな がることから 報を開示しなかった場合、損害賠償義務が生ずる可能性も考えられることからも、情報開 示を積極的に行うべきである。 土砂法改正法が平成 定前に基礎調査結果の公表を都道府県に義務付けられること 公表することでリスク周知が図られるため、法改正により適正な価格に近 ーゾーンで義務付けられる、不動産取引時の重要事項説明や住民説明会を行うことでより リスクを周知されることが望ましい。 分析 とが明らかとなった。しかし政府の課す対策の水準 れる構造としており、社会的費用をどれだけ下げられるか試算 政府が定める対策を取らせることは 水準が正当化された上で、下の レッドゾーン内の 政策提言 政策提言政策提言 政策提言 分析結果1・2から、区域指定により情報の非対称が クの認識度が低い土地ほどイエローゾーン された。区域指定前に土砂災害リスクを正確に把握していれば地価の下落はないこと 地価の下落を理由に住民から反対があっても区域指定すべきである。 り最適な水準で土地取引が行われること、住民の危機意識が高まり行政コスト削減につな がることから区域指定を行うことが望ましい。 報を開示しなかった場合、損害賠償義務が生ずる可能性も考えられることからも、情報開 示を積極的に行うべきである。 土砂法改正法が平成 定前に基礎調査結果の公表を都道府県に義務付けられること 公表することでリスク周知が図られるため、法改正により適正な価格に近 ーゾーンで義務付けられる、不動産取引時の重要事項説明や住民説明会を行うことでより リスクを周知されることが望ましい。 分析3の推計結果により が明らかとなった。しかし政府の課す対策の水準 れる構造としており、社会的費用をどれだけ下げられるか試算 政府が定める対策を取らせることは 水準が正当化された上で、下の 図5 レッドゾーン内の 新規住民 から、区域指定により情報の非対称が クの認識度が低い土地ほどイエローゾーン された。区域指定前に土砂災害リスクを正確に把握していれば地価の下落はないこと 地価の下落を理由に住民から反対があっても区域指定すべきである。 り最適な水準で土地取引が行われること、住民の危機意識が高まり行政コスト削減につな 区域指定を行うことが望ましい。 報を開示しなかった場合、損害賠償義務が生ずる可能性も考えられることからも、情報開 示を積極的に行うべきである。 土砂法改正法が平成27年1 定前に基礎調査結果の公表を都道府県に義務付けられること 公表することでリスク周知が図られるため、法改正により適正な価格に近 ーゾーンで義務付けられる、不動産取引時の重要事項説明や住民説明会を行うことでより リスクを周知されることが望ましい。 の推計結果により住民の自発的な防災水準よりも政府の求める規制 が明らかとなった。しかし政府の課す対策の水準 れる構造としており、社会的費用をどれだけ下げられるか試算 政府が定める対策を取らせることは 水準が正当化された上で、下の 20m 15 300㎡ 5-5 平面図 レッドゾーン内の住民 から、区域指定により情報の非対称が クの認識度が低い土地ほどイエローゾーン された。区域指定前に土砂災害リスクを正確に把握していれば地価の下落はないこと 地価の下落を理由に住民から反対があっても区域指定すべきである。 り最適な水準で土地取引が行われること、住民の危機意識が高まり行政コスト削減につな 区域指定を行うことが望ましい。 報を開示しなかった場合、損害賠償義務が生ずる可能性も考えられることからも、情報開 示を積極的に行うべきである。 1月18日に施行された。改正法では、イエロー・レッドゾーン指 定前に基礎調査結果の公表を都道府県に義務付けられること 公表することでリスク周知が図られるため、法改正により適正な価格に近 ーゾーンで義務付けられる、不動産取引時の重要事項説明や住民説明会を行うことでより リスクを周知されることが望ましい。 住民の自発的な防災水準よりも政府の求める規制 が明らかとなった。しかし政府の課す対策の水準 れる構造としており、社会的費用をどれだけ下げられるか試算 政府が定める対策を取らせることは難しいと考えられる。その 水準が正当化された上で、下の図6-1に掲げる政策が考えられる。 図6-1 15m 区域内に残る 指定区域外へ 転入可能 (6) 転入禁止 から、区域指定により情報の非対称が クの認識度が低い土地ほどイエローゾーンに指定されると地価の下落率が大きいことが示 された。区域指定前に土砂災害リスクを正確に把握していれば地価の下落はないこと 地価の下落を理由に住民から反対があっても区域指定すべきである。 り最適な水準で土地取引が行われること、住民の危機意識が高まり行政コスト削減につな 区域指定を行うことが望ましい。また、行政がリスクを把握していながら情 報を開示しなかった場合、損害賠償義務が生ずる可能性も考えられることからも、情報開 日に施行された。改正法では、イエロー・レッドゾーン指 定前に基礎調査結果の公表を都道府県に義務付けられること 公表することでリスク周知が図られるため、法改正により適正な価格に近 ーゾーンで義務付けられる、不動産取引時の重要事項説明や住民説明会を行うことでより 住民の自発的な防災水準よりも政府の求める規制 が明らかとなった。しかし政府の課す対策の水準 れる構造としており、社会的費用をどれだけ下げられるか試算 難しいと考えられる。その に掲げる政策が考えられる。 1 各種政策の検討 図5-6 断面図 区域内に残る 指定区域外へ移転 転入可能 転入禁止 から、区域指定により情報の非対称が軽減されていること、土砂災害リス 指定されると地価の下落率が大きいことが示 された。区域指定前に土砂災害リスクを正確に把握していれば地価の下落はないこと 地価の下落を理由に住民から反対があっても区域指定すべきである。 り最適な水準で土地取引が行われること、住民の危機意識が高まり行政コスト削減につな また、行政がリスクを把握していながら情 報を開示しなかった場合、損害賠償義務が生ずる可能性も考えられることからも、情報開 日に施行された。改正法では、イエロー・レッドゾーン指 定前に基礎調査結果の公表を都道府県に義務付けられることに 公表することでリスク周知が図られるため、法改正により適正な価格に近 ーゾーンで義務付けられる、不動産取引時の重要事項説明や住民説明会を行うことでより 住民の自発的な防災水準よりも政府の求める規制 が明らかとなった。しかし政府の課す対策の水準は、想定する土石 れる構造としており、社会的費用をどれだけ下げられるか試算 難しいと考えられる。その に掲げる政策が考えられる。 各種政策の検討 断面図 3m 1m (1) 構造規制(対策費補助有) (2) 構造規制(対策費補助無) (3) 保険制度の創設 (4) 集団移転(任意) (5) 集団移転(強制) (2) 構造規制(対策費補助無) (3) 保険制度の創設 されていること、土砂災害リス 指定されると地価の下落率が大きいことが示 された。区域指定前に土砂災害リスクを正確に把握していれば地価の下落はないこと 地価の下落を理由に住民から反対があっても区域指定すべきである。また、 り最適な水準で土地取引が行われること、住民の危機意識が高まり行政コスト削減につな また、行政がリスクを把握していながら情 報を開示しなかった場合、損害賠償義務が生ずる可能性も考えられることからも、情報開 日に施行された。改正法では、イエロー・レッドゾーン指 になった。基礎調査の結果を 公表することでリスク周知が図られるため、法改正により適正な価格に近 ーゾーンで義務付けられる、不動産取引時の重要事項説明や住民説明会を行うことでより 住民の自発的な防災水準よりも政府の求める規制 は、想定する土石等の力に対し耐えら れる構造としており、社会的費用をどれだけ下げられるか試算されていないため、 難しいと考えられる。そのため、政府の示すリスクの に掲げる政策が考えられる。 D16@300 D13@300 図5-7 防護塀断面詳細図 構造規制(対策費補助有) 構造規制(対策費補助無) 保険制度の創設 集団移転(任意) 集団移転(強制) 構造規制(対策費補助無) 保険制度の創設 されていること、土砂災害リス 指定されると地価の下落率が大きいことが示 された。区域指定前に土砂災害リスクを正確に把握していれば地価の下落はないこと また、情報開示によ り最適な水準で土地取引が行われること、住民の危機意識が高まり行政コスト削減につな また、行政がリスクを把握していながら情 報を開示しなかった場合、損害賠償義務が生ずる可能性も考えられることからも、情報開 日に施行された。改正法では、イエロー・レッドゾーン指 なった。基礎調査の結果を 公表することでリスク周知が図られるため、法改正により適正な価格に近づくが、イエロ ーゾーンで義務付けられる、不動産取引時の重要事項説明や住民説明会を行うことでより 住民の自発的な防災水準よりも政府の求める規制の方が強い 等の力に対し耐えら されていないため、住民へ 政府の示すリスクの 150 600 D16@300 D16@200 D13 D13@300 D13@200 防護塀断面詳細図 構造規制(対策費補助有) 構造規制(対策費補助無) 構造規制(対策費補助無) されていること、土砂災害リス 指定されると地価の下落率が大きいことが示 された。区域指定前に土砂災害リスクを正確に把握していれば地価の下落はないことから、 情報開示によ り最適な水準で土地取引が行われること、住民の危機意識が高まり行政コスト削減につな また、行政がリスクを把握していながら情 報を開示しなかった場合、損害賠償義務が生ずる可能性も考えられることからも、情報開 日に施行された。改正法では、イエロー・レッドゾーン指 なった。基礎調査の結果を づくが、イエロ ーゾーンで義務付けられる、不動産取引時の重要事項説明や住民説明会を行うことでより が強いこ 等の力に対し耐えら 住民へ 政府の示すリスクの 3,000 600 D13@200 防護塀断面詳細図

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(1) 構造規制(対策費補助有) 災害発生後の救援費用を削減できることから、削減費用を試算し、社会的費用を 下げるのであれば、補助金を正当化することができる。補助金は原因者負担の観点 からレッドゾーン内に住む住民から徴収することが考えられる。 (2) 構造規制(対策費補助無) 現行制度がこれにあたる。新規住民に対しては、土砂災害リスクと対策費用を知 った上で移転するので問題はないが、レッドゾーン内の住民にとっては建物を建て 替えない限り対策をとる必要がなく、建て替え時には対策費用が余計にかかること から、構造規制がかえって対策を遅れさせる要因になりうると考えられる。 (3) 保険制度の創設 強制的にリスク比例型の保険に加入させることで自主的にリスク軽減対策を行う インセンティブを与え、かつ救援費用を自己負担させることで行政コストを削減す る。任意保険の場合、保険加入者にフリーライドすることが考えられ、また、所得 の低い人ほど危険な土地に住み保険に入らないことが考えられるため強制保険の方 が望ましい。強制力確保の点から保険料の徴収は固定資産税に含めることが考えら れるが住民の反対への対応が難航すると予測される。 また、巨大地震災害のような一度に多額の保険金の支払いが生じる場合、リスク 分担が難しくなるため、民間では保険制度が成立しない。土砂災害は、日本各地で 毎年平均して1000件程度発生し被害範囲も地震と比べて限定的であることから、リ スク分担は比較的容易であると考えられるが、未曽有の大規模災害が発生する可能 性も否定できないため、保険制度が成立するかどうかは検討が必要である。 (4) 集団移転(任意) 住民が住み続ける限り避難体制の整備や安全性確保のためのモニタリング費用等 の費用が支出され続けることになる。社会的費用を減少するために、区域指定前か らレッドゾーン内に居住する住民に対し、土地を買い上げ、1回限り区域外への移転 費用の補償を行うことも有効であると考えるが、取得した土地の利用方法がないた め政府が社会的費用削減を目的として土地取得が正当化できるかどうか、区域内住 民の合意形成が難しい、移転先地がない等の課題がある。 (5) 集団移転(強制) 社会的費用の削減を目的とした土地取得を公共の福祉のためだとして正当化でき るか、居住の自由や財産権の侵害にあたると考えられることから実現不可能である と考えられる。 (6) 転入禁止 新たにレッドゾーン内に移転を望む人に対し移転を禁止することは居住の自由や 財産権の侵害にあたると考えられることから実現不可能であると考えられる。

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7 7 7 7 おわりにおわりにおわりに おわりに 本稿では土砂法によるイエロー・レッドゾーンの指定が情報の非対称性を軽減させてい るか、レッドゾーンの規制による地価への影響はどの程度生じているのかという疑問から、 イエロー・レッドゾーンの指定が地価に与える影響を明らかにした。結果としてイエロー・ レッドゾーンの指定が地価を下落させていることが明らかとなり、レッドゾーンの構造規 制等により地価がさらに下落していることが分かった。 しかし、いくつかの課題も残されている。まずレッドゾーン内での政府の求める対策の 水準が最適かどうかは分からないため、レッドゾーンの指定にあたっては、社会的費用を 最小化する最適水準の規制が行われることが望まれる。また、データ制約上、イエロー・ レッドゾーン内の地価調査ポイントが限られていたことや、分析3のリスク評価では公示図 書から各ポイント間距離を手拾いで計測したため、個人作成データの正確性の問題や、評 価手法のさらなる検討が必要である。 さらに、他に存在する建築基準法に基づく災害危険区域や、各自治体が独自に行ってい る政策等は考慮していないことから、イエロー・レッドゾーンの指定による地価への影響 をより正確なものとするために、より精緻なデータと多くのサンプルを収集し他の規制に よる効果も勘案して検討を行う必要がある。

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謝辞 謝辞 謝辞 謝辞 本稿の執筆にあたっては、プログラムディレクターの福井秀夫教授、主査の小川博雅助 教授、副査の安藤尚一教授、清水千弘客員教授、安藤至大客員准教授から、丁寧なご指導 を頂くとともに、金本良嗣教授、池谷浩教授をはじめとする教員の皆様から貴重なご意見 を頂きました。この場を借りて心よりお礼申し上げます。 また、本研究に際し業務多忙な中、静岡県交通基盤部河川砂防局砂防課、長野県建設部 砂防課、鳥取県県土整備部治山砂防課、広島県土木局砂防課、山口県土木建築部砂防課、 福岡県県土整備部砂防課、長崎県土木部砂防課のご担当者の皆様から各種データを提供し て頂き、神奈川県県土整備部砂防海岸課のご担当者様からは有益なご意見を頂戴しました。 ここに感謝申し上げます。 加えまして本大学院にて1年間苦楽を共にした学生の皆様、貴重な学習・研究の機会を与 えて頂いた派遣元、研究生活を支えてくれた家族に感謝します。 なお、本稿における見解及び内容に関する誤りは全て筆者に帰します。また、本稿は筆 者の個人的な見解を示したものであり、筆者の所属機関の見解を示すものではないことを 申し添えます。 参考・引用文献 参考・引用文献 参考・引用文献 参考・引用文献 ・社団法人全国治水砂防協会(2003)「土砂災害防止法令の解説‐土砂災害警戒区域等におけ る土砂災害防止対策の推進に関する法律-」国土交通省河川局水政課・砂防部砂防計画 課監修 ・構造法令研究会(2006)「土砂災害防止法建築物の構造規制マニュアル」 ・瀬尾佳美(2005)「リスク理論入門 どれだけ安全なら充分なのか」 ・中川雅之(2008)「公共経済学と都市政策」 ・福井秀夫(2007)「ケースからはじめよう 法と経済学」 ・N・グレゴリー・マンキュー「マンキュー経済学Ⅰミクロ編(第2版)」 ・リチャード・A・ポズナー,ゲーリー・S・ベッカー(2006)「ベッカー教授、ポズナー判事 のブログで学ぶ経済学」(鞍谷雅敏,遠藤幸彦訳) ・経済調査会積算研究会編(2009)「建築工事の積算(改訂9版)」 ・建設物価調査会「建設物価(2014年9月号)」

・Chihiro Shimizu,Kiyohiko G. Nishimura (2006)「Biases in appraisal land price information: the

case of Japan」(Journal of Property Investment & Finance Vol. 24 No. 2, 2006 pp.150-175)

・西嶋淳(2009)「土砂災害等リスクの資産価値への影響と資産評価上の課題」(第4回防災 計画研究発表会)

参照

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